すみません・・・ちょっと色々あって、投稿が遅れました
というわけで、結構時期がずれていますが、七夕編をば
よろしくお願いします
「吹雪?」
「ふぁいっ!?」
呼びかけた俺の声に、吹雪はビクリと肩を震わせて、手元の何かを隠した。
梅雨が終わりを迎え、季節は夏真っ盛りへと変わり始めている。今日の天気も、太陽が輝く快晴で、少し暑いくらいだ。鎮守府でも、いよいよ冷房が本格稼働しようとしていた。
執務室にも、冷房を入れている。紫陽花から涼しげな金魚鉢へと装飾も変え、こちらも夏の準備は万端だ。もちろん、こうした小物類を選んだのは、吹雪だ。
そんな執務室で、今日も俺たちは書類と戦っていた。俺の分はいつも通りだったが、吹雪の分は普段よりも少なく、彼女の方が早く終わっていた。
そのはずだったのだが。書類が終わったはずの吹雪は、その後も彼女専用の秘書艦机とにらめっこを続けていた。何かを考えて、やっとペンを取ったかと思えば、再び悩みだす。チラリと窺った百面相は、それはそれで可愛い。ただ、三十分ほどそのままなので、さすがに声をかけることにした。
素っ頓狂な声を上げた吹雪は、若干頬を染めながら俺の方を向く。
「な、なんですか、司令官?」
「いや、真剣な表情で何か悩んでるみたいだから、気になってな」
あっ、と声を漏らした吹雪は、手元に隠した物の方をチラリと見た。俺もそっちを何となしに見てみる。吹雪の小さな手では隠しきれずに、それの端っこの方が見えていた。
薄い水色の、細い紙のようだ。今日という日付から、それの正体に俺は思い至った。
短冊だ。
「そっか・・・今日は七夕だったな」
得心した俺の言葉に、吹雪は恥ずかしそうにコクリと、その横顔を傾ける。
「えへへ・・・何をお願いしようかなって、悩んでました」
何とも可愛らしいお悩みではないか。あまりの可愛らしさに、自然と俺の表情も緩んでしまう。
「決まったのか?」
「はい。もう決まりました」
決まって、書いていたところだったのだろう。悪いタイミングで声をかけてしまったかもしれない。
「俺も書くかなあ。短冊はどこでもらえる?」
「食堂で配ってましたよ。笹もそこにあります」
執務が終わったら、吹雪と同じように、俺も悩んでみようか。まあ、目の前の吹雪を見ていると、俺の願い事なんてすぐに決まってしまいそうな気がする。
七夕くらい、私情全開のお願いをしても、許されるだろう。俺が“一番”に幸せでいてほしいのは、吹雪なのだから。
「・・・ちなみに、吹雪はなんてお願いしたんだ?」
何気なく尋ねた俺に、吹雪はコテンと首を傾けて悩む仕種をした後、
「・・・内緒です♪」
辺りを照らすような笑顔で、人差し指を唇に当てた。
「あの・・・吹雪さん?」
夕食と風呂を終えて部屋に戻った俺は、現在自分が置かれている状況に対する答えを、吹雪に求めた。口調がおかしいことについては、現在絶賛混乱中なので勘弁してほしい。
「なんですか、司令官?」
吹雪の声は、俺の左耳の方から聞こえてくる。そして。
反対側―――俺の顔の右側は、柔らかな感触とほのかな甘さ、この上ない暖かさに包まれていた。
「なんで・・・膝枕?」
少し目線をずらした俺は、蛍光灯の光の下で俺を見下ろしている織姫の笑顔を見た。風呂上がりで頬がピンクに染まる吹雪は、その右手に細い耳かきを持っている。
「耳かきするからですよ?」
俺の質問の意図がわからなかったように、吹雪は首を傾げる。可愛い。
「・・・えっと、それじゃあ、よろしく」
「はい!」
何だか犬っぽいなあ、と思ったことは、内緒にすることにした。
吹雪が耳かきを始める。細い耳かきの先端がゆっくり丁寧に入ってきて、くすぐる。痛みはない。だが、しっかりと耳かきをしていることがわかる、程よい力加減だ。
「・・・うまいな」
「白雪ちゃんたちと、よくやってましたから」
慣れた手つきなのは、そういうことらしかった。
耳かきをしてもらうなんて、随分久しぶりだ。子どもの時以来だろうか。
耳なんて、一人でもかけると思うかもしれない。だが、それとこれとは別なのだ。誰かにしてもらう耳かきには、自分でやるのとは違った、安心感と心地良さがある。子どもの頃は、よくそのまま寝てしまったものだ。
今も同じだ。吹雪の柔らかな太ももを枕にして。彼女の温もりを感じながら、耳をかいてもらう。至福以外の何ものでもなかった。
「あの、司令官?」
「どうした?」
耳かきしながら、話す余裕もあるらしい。目を閉じて吹雪にされるがままだった俺は、降ってきた囁くような声に、言葉だけで反応する。
「七夕って、どういう日か知ってますか?」
「そりゃあ、もちろん。一年に一度、織姫と牽牛が出会える日だろ?」
満天の星空とはいかなかったが、鎮守府の上にも、織姫星のベガと、牽牛星のアルタイルが見えていた。今日の七夕は、愛し合う二人が、一年に一度、天の川にかかるカササギの橋を渡って出会える日だったはずだ。
「二人にとっては、どんな一日よりも大切で、かけがえのない日なんでしょうね」
何て可愛いことを言うのだろうか。呟く吹雪の言葉に、自然と頬に締まりがなくなってしまう。
ふと、吹雪が耳をかく手を止める。
ちょっとして、甘やかな薫りが、俺の鼻孔をくすぐった。
先ほどよりも随分とクリアになった耳に、吹雪の吐息が近づく。
「司令官」
耳にかかる声が、くすぐったい。
「わたし、幸せです。一日一日、かけがえがなくて、大切で。司令官が一緒にいてくれて、嬉しいです」
どうやら、吹雪は俺を萌え死なせたいらしい。
思わず目を見開いて、吹雪の方を見遣る。頬を真っ赤に染めながらも、ほんわかと緩んだ吹雪の、その瞳には、幾千の星を集めたかのようなきらめきが宿っていた。吸い込まれそうなほどに美しく、愛おしい。
「わたしにとっては、毎日が七夕みたいなものです」
そんな彼女の頬に、俺は手を伸ばす。触れて柔らかく、温もりのあるほっぺ。
「吹雪」
「はい、司令官」
吹雪と同じように、俺も勇気を出して。だって吹雪は、天の川の向こうにいるわけではないのだから。
この手を伸ばせば、届くところにいるのだから。
「かけがえのない一日を、ありがとうな」
「・・・はい!」
七夕の夜が、ゆっくりと更けていった。
今回は甘さ控えめです
・・・控えめでしたよね?
しばらくは投稿ありません。また、気まぐれに書いていこうと思います