電波を受信した作者が、いつも通りの勢いで書いてます
「司令官、花火ですよ!花火!」
今にも飛び上がりそうなほど嬉しそうな声に袖を引かれ、俺の頬も自然と緩んでしまった。昼間の熱気が冷めやらぬ中、深い蒼の瞳に大輪の花を映す少女の、きらきらとした横顔を、俺はチラリと見遣る。
「わあああ・・・っ!」
再び開いた緑の花火に、吹雪が感嘆の声を上げた。大きく見開かれた目が印象的だ。
・・・って、吹雪ばっかり見つめてたら、せっかく花火を見に来たのにもったいないな。せっかくの、貴重な機会だ。吹雪と話せることは、たくさんあった方が嬉しい。
「綺麗だなあ」
すすき状の花火が、二、三発連続して上がった。数秒遅れて、弾けるような音も届く。
鎮守府近くの河川敷。花火大会の今日は、俺たち以外にも多くの人が集まっていた。それなのに、辺りはまるで静かだ。万に迫ろうかという人間が集まっているとは思えないほど、静謐と、ゆるるかな時が流れていた。
「・・・あっ」
吹雪が驚いたような声を上げる。丁度上がっているのは、真っ赤な花火。ただ、その形は、綺麗なハートの形をしていた。
なんとも凝った芸当ができるものだ。ハートを形作る赤い火花が、漆黒の闇に広がって、やがて溶け込んでいく。それからは、さっきまでと同じ、牡丹やすすきを思わせる、色とりどりの花火が打ち上がる。何発もの花火が、その可憐さを競わせ、あるいは引き立たせ。工夫を凝らした演出で、真夏の夜空に花園を映しだす。
と、その時。俺の左腕に、何かが取り付いた。衣擦れの音と、温い体温。軽やかな体重が、しなだれかかる。微かなシャンプーの薫り。花火の音に混じる、柔らかな吐息。左手に絡められた細い指。小さくも頼もしいその手を、そっと包み込むように。
何も見なくても。何も言わなくてもわかる。
今の吹雪は、いつもの優しい笑みを浮かべている。それが何よりも嬉しいから。この時を、彼女と過ごせることが、何よりの喜びだから。
俺は微笑のまま花火を見つめる。最後の一時まで美しいそのきらめきを、瞳に焼き付けながら。
一番のイベントが終わり、並んだ屋台の合間を縫っていく人波も帰り支度だ。行き交う親子連れ。若いカップル。威勢のいい小学生たちのグループ。手を取り合って歩く老夫婦。そんな人たちを、屋台のおじさんたちも微笑ましげに見守っていた。
人波の中に、俺と吹雪もいる。花火の余韻に浸りながら、手を繋いで、鎮守府への帰路をゆっくりと歩いていた。
鳳翔が仕立ててくれたという吹雪の浴衣は、薄い青の下地に朝顔の模様がある。なんでも、朝顔の花言葉は「愛情の絆」なのだとか。
―――「司令官とのデートには、ピッタリですね」
なんとも可愛らしい。危うく理性が吹き飛ぶところだった。
俺の方は、何年か前に仕立ててもらった男物の浴衣がまだあったので、それを着ている。濃紺の色合いは地味だが、個人的に気に入っているデザインなのだ。
「司令官、司令官」
隣の吹雪が、いくらか落ち着いてきた声で俺を呼んだ。
「どうした?」
「えっと・・・ですね」
屋台の明かりが照らす中、吹雪は満面に笑みを浮かべていた。その頬が、ほんのりと上気して染まっている。
「司令官と浴衣デートできて、嬉しかったです」
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・。
はい、可愛い。とにかく可愛い。浴衣を着た俺の嫁が、こんなにも可愛い。
「俺も、吹雪と一緒に花火が見れて、嬉しかった」
お互いに、お互いの想っていることを言い合って。若干の照れを含んだ笑いを浮かべてから、俺たちはまた歩き出す。
一歩を踏み出す度に、繋いだ手が揺れる。二人分の思い出を包み込んだ手が揺れる。二人分の想いを、幸せを詰め込んだ手が揺れる。それが、たまらなく嬉しいから。
どんな時でも、君が愛おしいから。
過去最も短い作品となりました
逆に、これぐらいの方が本当に書きたいことをギュッと詰め込めている気がします
また、何かの機会にお会いできればと思います