今回の作品について、
改めて言うことはもはやない!
暑かった夏が、静かに終わっていった。まだまだ日中は暑いが、それも和らぎつつある。そんな、秋の一日だ。
鎮守府では、恒例となった秋祭りが開催されていた。一日目の今日は、前夜祭とでも言おうか。艦娘たち向けの非公開日だ。
午前中から、屋台の設営やら、中央ステージの準備やらが続き、陽も傾きだそうかという頃にようやく全ての作業が終わった。作業終了のアナウンスを聞いた艦娘たちは、思い思いの衣装―――浴衣や甚平、法被に着替えて、中央ステージの前に集まる。明石がセットしたマイクを握るのは、青い法被を着た青葉だ。
『それでは!鎮守府秋祭り、開幕です!』
挨拶もそこそこに、そう告げる。その場の全員が沸いた。
前半屋台を担当する艦娘たちは、それぞれの屋台に入る。屋台の種類も豊富だ。焼きそばや焼き鳥、綿菓子といった定番どころはもちろん、艦娘たち自慢のカレーや秋刀魚の屋台もある。中には、イタリア艦娘たちの本格パスタとピッツァの屋台なんてのもあった。妖精さん謹製の移動式石焼き窯を設置しているらしい。
他には、金魚すくい、ヨーヨーすくい、射的、輪投げ等々、皆の工夫を凝らした屋台が並んでいた。
―――皆、楽しそうだな。
笑顔で屋台を回る彼女たちを見ているだけで、自然と頬が緩んでしまう。
浴衣を着た秋月型姉妹が、仲良く並んで焼きそばを食べている。
金魚すくいを始めた夕立と春雨を、由良が暖かく見守っていた。
相変わらずの射的の腕前を発揮する浦風の横では、浜風が秋祭りを満喫している。
皆が笑って。楽しげに歩いて。それが何よりだ。
滞りなく始まった秋祭りをしばらく眺めて、俺は執務室へ戻る。普段よりは少な目だが、明日の本番までに終わらせておかなくちゃいけない書類があった。
一時間ほどで書類を終えた時には、太陽が沈もうとしていた。時計を確認すると、後三十分もすれば前半と後半の交代時間だ。
吹雪含めた十一駆は、後半が自由だった。屋台に迎えにいくと約束している。
・・・なんだか、デート前の待ち合わせみたいで緊張するな。いや、そもそもデートか、これ。普段、待ち合わせというのをしないからか、妙に意識してしまう。
あれこれと考えながら浴衣に着替え、庁舎を出る。吹雪たちの屋台は、そこから少し歩いた、屋台通りの正門側だ。
「あ、司令官!」
目的地に辿り着いた俺を、天使の声が呼ぶ。ああ、ここが地上の楽園か。
青い法被。頭に絞めたねじり鉢巻が吹雪らしい。その瞳が、秋祭りの情景を映して輝く。
「いらっしゃいませ!」
ブンブンと手を振って俺を呼んだ吹雪は、笑顔を満開にして元気溌剌に言った。うん、可愛い。
吹雪たちの屋台では、煎餅を焼いていた。初雪の発案らしい。屋台自体は、綾波たちと一緒にやっている。
「一枚どうですか?焼きたてですよ」
吹雪が差し出してくれたのは、たった今深雪が焼き上げたばかりの醤油煎餅だった。綺麗に焼けている。うまそうだ。
「遠慮なく。いただきまーす」
受け取った煎餅にかぶりつく。バリッ。いい音がして、香ばしい薫りと醤油の味が口一杯に広がった。
「ん・・・うん!うまい!よく焼けてるな」
「当っ然!この深雪様が焼いたんだぜ」
深雪が得意気に笑った。つられるようにして吹雪も微笑む。
「深雪ちゃん、一杯練習したもんね」
「まあねえ」
深雪は照れたように鼻の下をこすった。
「もうすぐ交代しますから、それまで少し待っててくださいね」
そう言った吹雪が屋台の中に戻ろうとすると、売り子をしていた白雪がやんわりと押し留める。
「こっちは大丈夫だから、司令官と楽しんでおいで」
「えっ・・・でも、まだ交代」
「問題ない」
屋台の奥からした声は、初雪だ。煎餅を焼く七輪に、木炭をくべようとしていた。
「どうせすぐに交代だから。後は任せて、二人で楽しんできて」
初雪が親指を立てる。
「ね、大丈夫だから。吹雪ちゃんは司令官とデートに行ってきて」
最後には、白雪に半ば強引に押し出されるようにして、吹雪が屋台から出る。その頬がリンゴ飴のように赤い。
「あ、ありがとう」
「ありがとう。行ってくる」
行ってらっしゃい。祭に繰り出す俺たちを、白雪たちが笑顔で送り出してくれた。
屋台が並ぶ通りを、二人で歩いていく。二年以上も一緒にいるんだ。吹雪の歩くペースは覚えている。お祭に弾むその足取りに合わせて、法被の袖が揺れた。
さて、と。
「よし、吹雪。どこから行こうか。なんか食べたいもんはあるか?」
「そうですねえ・・・」
こうしてみると、本当にたくさんの屋台が並んでいる。焼きそばを捌くコテの音。漂う秋刀魚の匂い。焼き鳥の炭火が上げるパチパチという音。綿菓子の甘い香り。それらに混じる、艦娘たちの声。
ああ、祭だ。この、ごちゃ混ぜの感じ。はちゃめちゃで、とにかく楽しい雰囲気。
その中に、俺と吹雪がいる。
「・・・迷いますね」
吹雪が困ったように言った。八の字に下がった眉に、俺も苦笑してしまう。
「よし、それじゃあ、ゆっくりのんびり、ブラブラしてこうか」
「はい!」
そんなやり取りの後。ふと、気づく。ごくごく自然に、俺たちの手が繋がれていることに。吹雪の温い手が、俺の手と重なっていることに。
「?どうかしましたか、司令官?」
吹雪が首を傾げる。秋色に染まるその表情に、俺は柔らかく笑いかけた。
「今、吹雪のことが、たまらなく好きになってた」
「っ!?」
あ、俺今とんでもなく恥ずかしい台詞を口走ったのでは。
まあ、いいだろう。だってそれは、隠す必要もない事実なんだから。
それに。こういう不意打ちをすると、吹雪が真っ赤になって可愛いのだ。
「も、もうっ!皆もいるのに、そんな・・・は、恥ずかしい台詞をっ!」
目をバッテンにして反論してくるが、その仕種すらも可愛い。真っ赤な頬を膨らました吹雪は、きょろきょろと辺りを見回した後、俺の袖を軽く引っ張った。俺が少し身を屈めると、吹雪が背伸びして、俺の耳に小さな唇を寄せる。
「あ、あの・・・。わたしは、その・・・いつでも、どんな時でも、司令官のことが大好きです」
「っ!?」
な、なんという破壊力であろうか・・・!一瞬意識が飛びかけた。
果たして、どちらがより恥ずかしいことを言っていることやら・・・。
頬が熱くなるのを自覚しながら、俺は姿勢を元に戻す。夕焼けに負けないくらい朱に染まった吹雪は、悪戯っぽく笑っていた。
「おかえしです」
・・・。
やっぱり、嫁さんには敵わないな。
「あ、司令官!わたし、綿菓子食べたいです」
「おう、わかった」
二人分の暖かさと一緒に、俺たちは祭の中を行く。周囲の喧騒を、心地良く聞き届けながら。
夕陽に照らされる「好き」の気持ちが、ほんのりとくすぐったかった。
もうね、どこから話せばいいかわかりません
とにかくもう、法被の吹雪が可愛くて可愛くて、電車の中で飛び上がりそうでした
我が鎮守府の吹雪は改二なので、もちろん赤い法被なのですが、個人的に青い法被に思い入れがあるので、そちらにさせていただきました
まだまだ語り尽せてない感がすごいのですが、その辺については本文の中で感じていただければと思います
それでは、またいつか