やって来ましたクリスマス!作者はいつでも元気です!
今回は、久しぶりに吹雪視点で書きました。あらかじめご了承くださいませ
それと、長いです。しかも甘いです。砂糖のシロップ漬け(意味不明)並みに甘いです
たとえ壁をぶち抜いても、作者は一切の責任を負いかねます
それでは、どうぞよろしくお願いいたします
もうすぐ、一年が終わろうとしています。
上り切らない朝陽に、まだ寝起きの目を細めます。ふとした瞬間に海から吹く風は、十分に防寒対策をしたつもりでも、体を刺すように冷たい。身を震わせたわたしは、体を抱えていた手を温めるように、真っ白な息を吹きかけました。
温まるには、体を動かすのが一番ですね。そう考えたわたしは、鎮守府の玄関から歩を進めます。向かうのは庁舎の裏手。これが、最近の日課です。
どうしてかと、言うとですね。
コンッ
パカッ
冬の朝早くから、そんな音が響いています。リズミカルなその音色に、大切な人の気配が混じっているのを感じて、自然とわたしの歩調も弾みました。
鎮守府の裏手では、司令官が大きなモーションで斧を振るっていました。その刃の先には、切り出した木の幹。振り下ろされた斧が木に当たると、気持ちのいいぐらいの勢いで、綺麗に真っ二つになります。
「おはようございます、司令官」
呼びかけた私の声に、司令官が振り向きました。寒い季節だというのに、額にはうっすらと汗が浮かんでいます。風邪を引かないかと、ちょっと心配です。
「おはよう吹雪。起きたか」
「一緒に起こしてくれてもよかったんですよ」
普段は起こしてくれるのに。
「寝顔が可愛かったので、起こすに起こせなかった」
そんな風に言いながら、司令官が苦笑します。も、もう。そう言われたら、何も言えないじゃないですか。
司令官が、毎朝こうして薪を作っているのは、司令官と妖精さんの気まぐれで食堂に設置された、レンガ造りの暖炉にくべるためです。暖房効果重視というよりも、完全にインテリアというか、司令官の趣味全開なんですけど。
―――「機械式の暖房もいいけどさ。実際に火に当たれる方が、心も暖かくなれるし、落ち着いていろんな話もできるだろ」
というのが、司令官の主張です。
そんなわけで、冬季限定で設置されたレンガの暖炉。その一日分の燃料を確保するのが、最近の司令官の日課です。毎朝早く起きて、こうして斧を振るっています。
・・・本当に。変なところで、真面目な司令官なんですから、もう。
「進捗はどんな感じですか?」
「これを割ったら、もう終わりだ。一日使うには十分だろう」
「そうですか」
薪割りが終わったら。司令官は、体を冷やさないように、お風呂に浸かって。その間に、わたしが暖かいはちみつレモンを用意して。そうして、つけたばかりの暖炉の前で、ちょっとだけ二人でゆっくりするんです。
司令官が割り終わった薪を、台車の上に積み上げて。吐く息が白く漂う朝も、わたしの心は暖かです。
「ふう・・・落ち着くな」
暖炉に火をつけたわたしたちは、はちみつレモンを片手に、一息を入れています。ほのかな甘い香り。マグカップを両手で包み込むようにして、わたしもゆっくりと口づけました。
「朝はやっぱり、吹雪のはちみつレモンがないと」
そんなことを呟きながら、司令官もマグカップを傾けます。
チラリと窺った、その横顔。暖炉の火に照らされているからか、幸せに緩んでいるその横顔。
―――嬉しいなあ。
それだけで、わたしの頬も綻んでしまいます。その締まりのなさを、わたしは慌ててマグカップで隠しました。
ふと、わたしの目が、暖炉の上に飾られているものに向きます。青々とした葉が円形になっていて、リボンや星の飾りがあしらわれています。クリスマスリースです。
今日はクリスマス。鎮守府でも、空母の皆さんが主催した、クリスマスパーティーが開かれる予定です。
「クリスマス、ですね」
「ああ、もうそんな季節だ。あとちょっとで、今年も終わっちゃうな」
しみじみとして呟くほどのことでもないんですけど。
ただ何気ない日々を積み重ねて。司令官と二人で過ごした時間が。こうして隣にいられる時間が。
「・・・どうした、吹雪?」
自分でも気づかないうちに、笑いが漏れてしまうくらい。
「何でもないです。クリスマスパーティー、楽しみですね」
鈍感な司令官に、この気持ちを、ただで教えてはあげません。
時間が時間だけに、鎮守府にも、人の気配がし始めました。そろそろ、皆が起きてくる頃です。すでに厨房では、間宮さんたちによって朝食の準備が進められています。
最後に残ったはちみつレモンを、飲み干します。丁度その時。
「ありがとうな、吹雪。吹雪のおかげで、今年も幸せな一年だった」
微笑む司令官。嬉しくて、ちょっと恥ずかしい。司令官は、不意打ちでこういうことを言ってきます。こうして、わたしに想いを、伝えてくれます。
それはきっと、とっても幸せなこと。
「司令官」
幸せだから。わたしは司令官に、一番笑顔にしてもらってるから。
だから、一番の笑顔で応えたい。
「メリークリスマス、司令官」
◇
大賑わいだった、クリスマスパーティー。空母の皆さんが主催している時点である程度予想はできてましたけど、非常に料理の豪華なパーティーとなりました。
鳳翔さんが取り仕切って、皆さんが色々な料理を用意していました。和洋折衷、国籍が多様になっている鎮守府で、どれか一つのジャンルに偏らないように、と。鳳翔さんの腕には、最近着任したばかりのサラトガさんやコマンダン・テストさんも、満足そうでした。
そういえば、今年も七面鳥を巡って大騒ぎでしたねえ。瑞鶴さんが、彗星で爆撃しようとしてましたし。それでも、おいしくて楽しい、クリスマスパーティーになりました。
一年の無事を祝い、お酒を酌み交わす戦艦の皆さん。
料理のお皿を片手に、談笑する空母の皆さん。
重巡の皆さんは、コマンダン・テストさんの母国から取り寄せたワインを嗜んでいます。
軽巡の皆さんは、なぜか全力で阿武隈さんを労っていました。
駆逐艦の皆は、大きなクリスマスケーキに目を輝かせます。
明石さんや速吸さん、潜水艦の皆さん、鎮守府を裏から支えた方たちも、その輪の中に加わって。
ワイワイガヤガヤ、一年の終わりも、賑やかな鎮守府です。
パーティーも一段落して、少し静かになった鎮守府。食堂では、まだ一部の艦娘が、食後の一時を楽しんでいたりしますけど、ほとんどがもう寝る支度を始めています。
わたしもその一人です。お風呂から上がったわたしは、湯冷めしないように少し厚着をして、わたしと司令官の部屋へ歩いていきます。
廊下から、窓の外を見遣りました。港湾施設があることを示す灯標識の明かり以外、何も見えません。漆黒が塗り潰す外の景色に、窓に反射したわたしの姿が重なっていました。
今年は、一度雪が降っていたので。今日も降ってくれないかなあ、って思ってたんですけど。ホワイトクリスマスとはいきませんでしたね。
ちょっと、残念かなあ。なんて、天気はどうしようもありませんよね。
「お、吹雪」
外を眺めていたわたしの背後から、声がかかりました。振り返って確認しなくてもわかります。司令官です。
「そっちも、風呂上がったとこか」
「はい。今日もいいお湯でした」
そっか。そっけないように感じるその返事にも、司令官は柔らかい表情をしています。自然とわたしの頬が綻んでしまう、そんな微笑み。
わたしの隣に並んだ司令官が、同じように窓の外を覗き込みました。
「外に何かあったか?」
「いえ・・・雪、降らなかったなあ、って思っただけです。ホワイトクリスマスって、そううまくいきませんね」
「そうだなあ。俺も一度も経験したことないな」
そう言いながらも、司令官はまだ、窓の外を見続けていました。
「どうしました?ほんとに何もありませんよ」
つい気になって、わたしも外に目を凝らしてしまいます。何かあるんでしょうか?
「何もない、なんてことはないさ」
司令官が呟きます。
「俺には見えるぞ、雪が」
「えっ、どこですか?」
尋ねたわたしに、司令官が応えます。
わたしを、抱き締めるという形で。
ど、どどど、どういう状況ですか!?
「綺麗で、頼もしくて、俺の大切な大切な雪が、見える」
司令官の大きな手が、わたしの頭を撫でました。
お風呂上がりの、暖かさ。石鹸と司令官の匂い。わたしを抱きとめる太い腕。鍛えられた胸。
ガラスに映るわたしは茹でだこのように真っ赤で。そんなわたしの表情を、司令官が見つめています。
「・・・か、からかわないでくださいっ」
「からかっているつもりはないんだがなあ」
そう苦笑しながら、司令官がやっと解放してくれました。あまりの不意打ちに、心臓がバクバク言ってます。
「戻るか」
「・・・はい」
差し出された手を取って。司令官にエスコートされながら、わたしたちの部屋へと歩いていきます。
ゆっくりとした歩調に合わせて、繋いだ手が揺れます。肌寒い冬の夜でも、握った手の内は暖かい。
冬の季節。クリスマスの夜。ちょっと日常的で、ちょっと特別な日。いつも通りの司令官と、いつも通りのわたしと。そんな夜が、とっても嬉しいんです。
手の温もりを確かめて。
互いの想いに触れあって。
愛する人と歩いていきます。
喉の奥、この暖かな胸から、想いが溢れ出ようとします。それは、クリスマスのせい?
・・・ううん、それだけじゃない。今日この日を、一緒に過ごせる人が、隣にいるから。
部屋に辿り着くと、お互いに寝る支度を始めます。
年末のこの時期は、書類も多いです。今日の分も、残りの数日でやり切らないといけませんし、また明日から、早起きしないといけません。だから、わたしも司令官も、遅くまで起きていることは、ほとんどありません。
歯を磨き終わって、髪を梳かし、洗面所から部屋に戻ると、先に戻った司令官が布団を敷いてくれていました。冬用に厚くなった二人分の布団は、寒さを和らげるための温もりを求めるように、ピタリと寄り添っています。
「あー、吹雪。寝る直前で、悪いんだが」
布団に入ろうとしたわたしを、咳払いをしながら司令官が引き止めます。何でしょうか?
布団の上にあぐらをかいた司令官に倣って、わたしも正座で向き合います。それを待っていたかのように、司令官が口を開きました。
「今日は、クリスマスだろう?」
「はい。皆で過ごせて、楽しいクリスマスでした」
「そっか。・・・うん、なら、よかった」
そう言いながら、司令官が照れたように笑います。どこか少年のようなその表情に、わたしも微笑みで答えました。
「えっと、それでだな。クリスマスってことで、吹雪にプレゼントを用意したんだが」
「・・・えっ」
ええっ!?
く、クリスマスプレゼント・・・ですか!?
驚いたわたしは、目をパチパチと瞬いて、司令官を見つめます。
「ああ。去年は、その辺りうやむやにしちゃったからな。だから今年は、ちゃんとしたものを、と思った」
そう言って、何かを取り出しました。綺麗に包装された、板状のもの。それから・・・既視感のある、濃紺の箱。
「メリークリスマス、吹雪」
そう言って司令官は、二つともわたしに差し出しました。ちょっと緊張気味に、それを受け取ります。何だか、改めてこういうものを受け取るのって、くすぐったいですよね。
「ありがとうございます、司令官。えっと・・・開けてみても、いいですか?」
「もちろんだ。喜んでもらえると、嬉しいんだが」
頷いた司令官も、どこか緊張している様子で。わたしはまず、板状の方から、開けることにしました。
綺麗に包装された・・・箱、でしょうか。こういう時って、なんだか丁寧に、包装用紙をはがしてしまいます。包装用紙は、記念にとっておくことにしました。
中から出てきたのは、白い箱です。会社のロゴと、銀色の英語が小さく書かれていました。それを、恐る恐る開きます。
「これは・・・写真立て、ですか?」
中から出てきたのは、白いフレームの写真立て。司令官のセレクトらしい、シンプルなデザインのものです。白い枠の周りに、ほんのアクセント程度の花柄が添えられています。
「何か一つ、いつも近くにあるようなものが、いいかと思ってな。写真立ても、そのぐらいのサイズなら、飾りやすいだろう」
それとな。司令官はそう言いながら、フレームの横を指さします。そこには、小さなつまみのようなものが。
「オルゴールがついてるんだ。吹雪はこういうの、好きだと思った」
優しげにわたしに語る、その表情が。きっと、わたしのために、一生懸命探してくれたんだろうなあ、って。それがわかるから、ちょっと恥ずかしくて・・・それよりもっとずっと、嬉しい。
「ありがとうございます、司令官」
と、そこでちょっとしたイタズラ心が。
「ところで司令官。フレームにあしらわれている花の花言葉、知ってますか」
わたしの質問に、司令官が思いっきり言葉を詰まらせました。一瞬わたしから外れた視線と、熟れたように赤くなる頬が、答えを如実に示しています。
やがて、観念したように、司令官が口を開きました。
「赤いバラは・・・言わずもがな、『愛』だ。それと、白いブバルディアは、『幸福な愛』って意味がある」
「へえー、よく知ってますね」
「調べて選んだんだ!」
やけくそ気味にそう言って、司令官がそっぽを向きます。ふふん、いつぞやの朝のお返しです。
「大切にしますね」
写真立てを。そして、司令官がわたしにくれる、かけがえのないものを。わたしの言葉に、司令官も満足そうに笑っていました。
中に入れるのは、司令官と撮った写真にするとして。写真立て、どこに飾ろうかな?やっぱり、執務室?そんなことを考えるのも、楽しいものです。
「それで・・・もう一つの方も、開けてみてくれないか?」
あ、そうですね。司令官に促されて、わたしはもう一つの、濃紺の箱を開きます。
それにしても。色合いといい・・・ものすごく、既視感のある箱です。
やっぱり、この箱を受け取るときは、緊張しますね。胸がドキドキして・・・不思議な感覚です。
心なしか、わたしの手元を見ている司令官も、緊張気味の表情で。
開いた箱の中。光っているのは・・・小さなリングと、チェーン。銀色がきれいな、ささやかな装飾品。
あ、あのっ。
「し、司令官・・・これ、って」
要領を得ないわたしの質問にも、司令官は律儀に答えてくれました。
「婚約指輪だ」
わたしを見つめる目は。いつも私のそばにいて、優しく見守ってくれている目は。わたしを真っ直ぐに愛してくれる目は。
いつかの夕焼けの執務室で見た、真剣で、飾らない、透き通る色で。
「この戦いが終わったら、今俺たちがつけているケッコン指輪は、返すことになる。けどな。許されるなら俺は、この戦いが終わった先も、吹雪と一緒にいたいんだ。吹雪の隣で、吹雪と一緒に、色んなものを見たい、聞きたい、感じたい。二人で生きていきたい」
司令官の言葉は、ズルいくらいに真っ直ぐで。どこか必死なその様子が、たまらなく愛おしくて。
「この、婚約指輪は・・・すべてが終わった時、カッコカリの指輪を外した吹雪の指に、はめたいと思ってる。だから・・・吹雪さえよければ、それまで預かっていてくれないか?」
それは、紛れもない、プロポーズの言葉。普段適当なことしか言わないのに。こんな時は、饒舌で、ひたすらに語りかける。
それはきっと、司令官が一生懸命に気持ちを伝えようとしてくれているから。口下手な彼が、きっと全身全霊で、わたしに何かを伝えようとしてくれているから。
なんて・・・。
わたしは、なんて幸せなんだろう。
「二回目・・・いえ、三回目のプロポーズですね、司令官」
「ああ、そういえばそうだな。吹雪が望むなら、俺は何度だってプロポーズするぞ」
「あはは。なんですか、それ」
二人で笑い合って。
わたしたちの間には、電灯の白い光に照らされる、誓いの指輪があって。
わたしの・・・わたしの心は、こんなにも満たされている。
答えなんて、最初から決まっていました。
「司令官」
あなたのことを想うだけで、わたしはこんなにも幸せです。
「何度目のプロポーズでも、わたしの答えは同じです。わたしも、ずっとずっと、あなたのそばにいたい。あなたと一緒に、生きていきたい」
あなたのことを、愛しているから。
冬の一日。クリスマスの夜。二度目の、誓いの日。
「・・・ありがとう」
微笑んだ司令官の呟きには、きっといろんな想いが込められていて。それがわかるから、愛おしくて、暖かい。
「この指輪は・・・ネックレスに、なるんですか?」
「ああ。それなら、普段でもつけてもらえるかと思ってな。・・・ていうか、普段から身につけてもらえると、嬉しい」
「えっと・・・それじゃあ、早速つけてもらっても、いいですか?」
「もちろんだ」
そう言った司令官は、箱から指輪とチェーンを取り出します。わたしの首に、かけてくれるつもりのようです。
でも。
「えっと、そういうことでは、なくてですね」
「?どういうことだ?」
戸惑っているような司令官。
わたしは、彼の前で、左の薬指にはまったケッコンカッコカリの指輪を、ゆっくりと外します。
そのリングは、わたしと司令官の、誓いの証。もっと言えば、艦娘「吹雪」としてのわたしと、艦隊の指揮官としての司令官との、誓いの証。
・・・今夜は。奇跡が起こる、なんていう今夜だけは。
艦娘としてではなく。たった一人、あなたのことが大好きなわたしとして。
その指輪を、受け取らせてください。
「わたしは・・・あなたとの、永遠の愛を誓います」
わたしが差し出した左手の意味を、司令官もわかってくれたみたいです。指輪だけを取り出した司令官は、そっとわたしの左手を取って。優しくいたわるようなその触れ方に、わたしの胸が高鳴ります。
薬指に、ゆっくりと、指輪がはまっていきます。カッコカリの指輪は、シンプルで飾りっ気のない、シルバーでしたけど。司令官の選んだ指輪には、幾何学的にカットされたダイヤモンドが一つ、輝いています。リングの部分にも、細かな装飾がされていました。
指輪をはめた司令官が、わたしを真っ直ぐに見つめて。
その瞳を―――いつも、わたしを暖かく見守ってくれる、愛しい人の瞳を、見つめ返して。
「この指輪と・・・今日という日に誓って、私は貴女を、永遠に愛します」
言い切った司令官が、強く、優しい微笑みを浮かべて。それにつられるように、わたしも笑います。
どうしようもなく、笑みが漏れてしまうくらい。司令官といるこの時間が、どんなことよりも幸せだから。
わたしの一番近くにいる人。
わたしを一番笑顔にしてくれる人。
わたしを一番見ていてくれる人。
どんな時も暖かく、わたしに安らぎをくれる人。
一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に戦って・・・そんな、かけがえのない人。
わたしを一番に愛してくれて・・・わたしが一番に愛したい人。
お互いに、不思議な引力が働いているかのように。わたしたちの顔が、近づきます。お互いの吐息がかかるくらい。心臓の鼓動が聞こえるくらい。わたしはゆっくりと、目を閉じました。
それは、誓いのキス。司令官の唇が、わたしの唇に重なって。司令官の温もりと、それ以上に暖かい想いが、はっきりと伝わってきます。繋いだ手と、頬に添えられた手は、こんな時でも、とっても優しくて。
時間にして、十秒もないほどの、短いキス。それだけでも、十分すぎるほどのものを、わたしは受け取りました。
「・・・さて、寝るか」
立ち上がった司令官が、電気を消そうとします。写真立てと指輪の箱を、自分の机に置きに行ったわたしは、そこでふと、左手の薬指を眺めます。
そこにある指輪を外すのが、どうしても名残惜しくて。
「吹雪?」
司令官が呼んでいます。
わたしは・・・。
「あの・・・司令官」
今宵だけは、少しだけわたしのわがままを、言ってもいいでしょうか。
「まだ・・・せめて今日が終わるまで、普通の女の子でいてもいいですか?」
勢い込んで言ったわたしに、司令官が目を見開きました。でも、その驚いた表情も、すぐにいつもの柔和なものに変わって。
「ああ、もちろんだ」
微笑むその声が、きっとわたしの、暖炉だから。
電気が消えた部屋。並んだ布団。
カーテンからわずかに差し込む月明かりの中、わたしたちはただ黙って、見つめ合います。しゃべりたいこと、伝えたい想い、それはいくらでもあるはずなのに。部屋の中には、ただただ青い静寂だけが満ちていて。
司令官。・・・いえ、あなた。
あなたの温もりが嬉しくて。あなたの笑顔が嬉しくて。あなたの隣が嬉しくて。
この気持ちを、少しでも伝えたくて。形にしたい想い、届けたい心、言葉にできないほどの愛。時には、それが伝わっているのか、不安になることもあるけど。
暖炉の暖かさ。はちみつレモンの甘さ。クリスマスの賑やかさ。今宵の静けさ。
わたしが嬉しいのは、皆みんな、あなたのおかげだから。
二人を繋ぐ手。二人を結ぶ唇。この誓いを、指輪に込めて。
わたしたちは、二人で一人。その温もりを抱きしめて。その喜びを噛みしめて。笑顔も涙も、全部全部、あなたと一緒だから。
それが、たまらなく嬉しいから。
だから、これからも。わたしたちは、共に歩んでいきます。隣にある温もりに手を伸ばし、伸ばされ。多くの想いを、共有して。ひとつひとつ、歩んでいきます。
あなたを、愛しているから。
「あなた」
「どうした?」
「好きです。大好きです。あなたのことを、愛しています」
わたしの言葉は、あなたに想いを伝えるために、あるのかもしれません。
司令官の腕が伸びて、わたしを抱き締めます。今度は、さっきよりも少し強め。はっきりと抱き締められているのがわかる、力加減で。
「・・・あんまり可愛いこと言ってると、俺の理性がもたないんだが」
「・・・言ったじゃないですか。今日の間は、艦娘じゃなくて、普通の女の子です」
「いや、艦娘だから抑えてるわけじゃないぞ?」
「だったら、尚更です」
敵わないなあ。そんな呟きが、聞こえた気がしました。
今日二度目のキスは、さっきよりも激しくて。奪われるように重なった唇は、十秒を越えても塞がれたまま。息が詰まるほどに苦しくて、熱い。
「吹雪が好きだ。誰よりも、吹雪のことを愛している」
荒い呼吸を整えることなく。少しの恐怖と、高揚感。早鐘のように打つ心臓は、司令官も同じです。
二人分の幸せ。二人分の想い。二人分の温もり。
あなたに出会うことができたから。わたしという、たった一人の少女として、あなたを愛したい。
それは、時計が零時を回るまで。今日という日限定の、愛の奇跡。
はい、後半は完全に作者の暴走でした。プロットの段階では影も形もなかった話です
だが後悔はしていない
吹雪ちゃん可愛い!と思っていただければ幸いです
それでは、どうぞよいお年を
メリークリスマス
(さーて、ぶち抜いた壁を修繕しないと・・・)