吹雪と、司令官と   作:瑞穂国

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明けましておめでとうございます

年明け初吹雪ちゃんです

年明け一発目ということで、砂糖は控えめです


年明けの一日

厳粛な雰囲気の上にも、冬の晴れ空が広がっている。ここのところ寒かったから、今日も心配していたのだが・・・どうやら、杞憂で終わりそうだ。日差しが出ていることもあって、思っていたほど寒くはない。

 

鎮守府からそれほど離れていない神社。海の神を祀っているここに、俺と吹雪、二人で初詣に来ている。

 

軍装の上から外套を羽織っただけの俺は、隣を歩く吹雪の歩調に合わせながら、綺麗に敷き詰められた石畳の上を歩いていく。

 

長袖になっている冬服の上から、コートとマフラーで防寒対策を施した吹雪。寒さで頬を赤くし、手袋に息を吐きつけながら歩く彼女の歩調は、楽し気で軽やか。隣から窺う横顔に、どうしても笑みが漏れてしまう。

 

そんな俺の視線に気づいたのか、吹雪がこちらを振り仰ぎ、首を傾げる。可愛い。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや・・・振袖じゃなくて、よかったのか?」

 

今日は、三が日の最終日。一昨日の元日には、鎮守府でも全員で集まって、新年会を催していた。その席上で、吹雪は赤の綺麗な振袖を着ていた。薄く化粧をした彼女は、普段よりも随分と大人びて見えた。

 

・・・正直に言えば。もう一度、吹雪の振袖が見たかった。完全に俺のわがままだ。

 

「はい。今日は、艦隊を代表して、一年の安全をお祈りしに来てるんですから。やっぱり、正服じゃないと」

 

ようするに、吹雪の意識の問題ということだろうか。確かに一理ある。現にこうして、俺も軍装を着ているわけだから。

 

残念でないと言えば嘘になるが、振袖吹雪の写真はたくさん撮ったことだし、贅沢を言ったらバチが当たるだろう。

 

古めかしい鳥居をくぐり、石灯籠の間を通って、境内を本殿へと向かう。申年の破魔矢は、すでにお焚き上げ済みだ。今年の分を、帰りに買っていかなければ。それと、海上安全のお守りも。

 

「・・・静かですね」

 

吹雪がしみじみと呟く。

 

元々、それほど人が多い神社ではない。だが、そうした人気のなさとは別の静謐が、この空間には溢れている。

 

それがどこか・・・まるで時間に取り残されたような、不思議な感覚。並んで歩く吹雪と二人、それだけの世界。

 

賽銭を投げ、鈴を鳴らす。二礼、二拍、一礼。心穏やかに、頭を垂れる。

 

たった、それだけのこと。それでも、年初めのこの数十秒が、俺にとっては大切だ。

 

顔を上げ、隣の吹雪を窺う。図らずも、目が合った。

 

吹雪が笑う。

 

「今年もよろしくお願いします、司令官」

 

何気ないその言葉だけで。今年もきっと、いい年になる。そう確信することができた。

 

 

 

「そいっ」

 

「はっ」

 

掛け声とともに、軽快な音が響く。硬いもの同士が当たる、乾いた音を追いかけながら、手首を動かす。

 

まさか、この歳になって、羽根つきをやるとは思わなかった。しかも、相手は吹雪だ。俄然やる気が出るというものである。

 

「・・・あっ」

 

数十回続いた打ち合いの後、吹雪が打ち損じて、羽根が地面に落ちる。俺の勝ちだ。

 

・・・さて。

 

「さあ、吹雪。・・・覚悟してもらおうか」

 

「ううっ・・・わかりました、約束ですから」

 

そう。羽根つきには罰ゲームがつきものである。墨がたっぷりとついた細筆を取り、観念したような吹雪の顔を見つめる。何を書いてやろうか、子どもっぽい悪戯心を一杯に働かせて、俺は考えた。

 

・・・それにしても。

 

運動をしたからだろうか。吹雪の息はほんのわずかに荒く、頬は艶やかな赤に染まっている。閉じられたまぶたと、女性らしく長いまつ毛が、小刻みに震えていた。何より、潤んだ薄桃色の唇が、何とも魅力的であった。

 

・・・。

 

・・・・・。

 

・・・・・・・。

 

やばい。やばいやばいやばい。年始早々、俺の理性が崩壊寸前である。

 

「あ、あの・・・司令官?」

 

俺の異常を悟ったのか、目を閉じたまま、吹雪が呼びかける。その声で辛うじて我を取り戻し、俺は再度、筆を構える。

 

「それでは・・・失礼して」

 

「お、お手柔らかにお願いします」

 

解せぬ。全くエロいことはしてないのに、何なのだこの妙な気分は。解せぬ。

 

汗のせいか、少しの湿り気を持った前髪を、左手で避ける。露わになったすべすべの額に狙いを定め、筆を下ろす。

 

「んっ・・・」

 

筆が冷たかったのか、吹雪が微かに声を漏らす。色っぽい声が、俺の心臓を跳ね上げる。俺は何とか、深呼吸で心を落ち着かせた。

 

・・・一筆一筆をゆっくり書いていくぐらいは許されるだろうか。

 

「終わったぞ」

 

「は、はい。・・・ちなみに、何を書いたんですか?」

 

「肉」

 

「定番過ぎません!?」

 

定番しか思いつかなかいくらい、極限の状態だったのである。とは、さすがに言えない。

 

「可愛いぞ」

 

「かわっ・・・!」

 

不意を突かれたらしい吹雪が、一瞬で頬を真っ赤に染める。湯気が出そうな勢いに、俺の頬が緩んだ。

 

「よっし、もう一戦やるか」

 

「はい!次は負けませんっ」

 

意気込んだ吹雪が、羽子板を持つ右手を唸らせる。もう一度勝って、悪戯―――もとい、落書きをしたいものである。

 

「行きますよ、司令官!」

 

「来いっ」

 

カンッ

 

吹雪が羽根を打つ。飛んできた羽根を、俺が打ち返す。

 

「うりゃああああっ!」

 

気合十分に、吹雪が羽根を打った。豪速で飛んでくる羽根は、弾丸さながらだ。辛うじて反応し、これを打ち返す。

 

「まだまだっ」

 

身を翻すと、バックハンドで羽根が打ち返される。最早テニスだ。

 

「うおっ!?」

 

同じくバックハンドで返したはいいが、準備が整っていなかったばかりに体勢を崩される。しまったと思った時にはもう遅い。反射神経のいい吹雪が俺の動きを見逃すはずがなく、体勢を立て直す前に、裂帛の声が響いた。

 

「必殺!エアF!」

 

まさかのパクリ技!?

 

強烈なスマッシュが飛んでくる。羽根つきでスマッシュという表現はどうなんだと思わなくもないが、必殺技の名に違わぬ勢いで、羽が地面に叩きつけられた。

 

「やった!やりました!」

 

「え、えげつない・・・」

 

ひとしきり飛び跳ねた吹雪は、さっきとは打って変わって、余裕のある勝者の表情を見せる。敗者であるところの俺は、何も言えずにそのドヤ顔を見つめていた。

 

というか、ドヤ顔も可愛い。

 

「さあ、司令官!罰ゲームですよ」

 

満面の笑みで言った吹雪が、いそいそと筆を構える。一体何を書かれるのか。俺は覚悟を決めるしかないようだ。

 

「それじゃあ、目を瞑ってくださいね」

 

「・・・おう」

 

吹雪に言われた通り、目を閉じる。しばらくは何も起こらない。吹雪も、書くことを悩んでいるのだろうか。

 

その時、クイクイっと俺の袖が引っ張られた。

 

「あの、司令官。すみません、このままだと書きにくいので、屈んでもらっていいですか?」

 

ああ、なるほど。確かに、吹雪の背では、俺の顔に落書きするのは難しいだろう。腰と足を折り、吹雪でも届く高さに顔を落とす。数秒ほどすると、冷たい筆が俺の額に触れた。筆で何かを書かれるのは、くすぐったくて、何だか妙な心地だ。

 

書き終わったのか、筆が離れる。

 

「もういいか?」

 

「ま、まだです」

 

薄目を開きかけていた俺は、もう一度目を閉じる。まだ、何か書くつもりなのだろうか?

 

腰を屈めたまま、またしばらく待つ。だが今度は、一向に筆が触れる気配がない。どれぐらいそうしていただろうか、そろそろ吹雪を呼ぼうと思った時だ。

 

チュッ

 

唇に柔らかいものが触れる感覚。すぐに伝わってくる暖かさ。微かな吐息。

 

数秒間の口づけが終わり、静かに吹雪が離れていく。そこで初めて、目を開ける。両頬を真っ赤に染めた吹雪が、照れたように笑っていた。

 

「えへへ、今年初めてを頂きました」

 

「・・・頂かれました」

 

まったく・・・可愛い嫁さんである。

 

今年初めての笑顔。一年の始まりを告げる「おはよう」。二人で見た初日の出。お節、御雑煮。初詣も一緒だった。

 

たった三日間。それでもそこには、たくさんの、今年の始まりがあった。すでにたくさんの幸せを、吹雪は俺にくれていた。

 

この一年を。また、多くのことがあるのだろうが。楽しい事だけではないのだろうが。それでも、吹雪と一緒にいることが、何よりも嬉しいことだから。

 

二人分の愛が、きっとこの世界を幸せにするから。

 

「・・・ちなみに、何て書いたんだ?」

 

「それは秘密です」

 

「ええっ・・・」

 

吹雪は悪戯を楽しんでいる様子で、片目を瞑って見せる。そう言われると、不安になるというものなのだが。

 

「新年早々、仲睦まじいですねえ」

 

のんびりした声が背後からかかる。振り向けば、眉尻を緩く下げた明石が、こちらを見ていた。

 

次の瞬間、明石が思いっきり吹き出して、腹を抱えて笑い始めた。

 

「ちょっ、提督なんですか、そのおでこ」

 

・・・なんだ、この反応は。

 

「なあ吹雪。本当に何て書いたんだ?」

 

「へ、変なことは書いてないですよ。ね、明石さん」

 

「そうだねえ。まあ、吹雪ちゃんにとっては、変でもなんでもないよねえ」

 

そう言いながらも、声の端々が笑いで震えてしまっている。益々気になる。

 

俺の怪訝な表情に気づいたのか、明石は咳払いを一回挟んで、再度口を開いた。

 

「さ、お二人とも。そろそろ夕ご飯ですから。顔洗って、戻ってきてくださいね」

 

 

 

その後、俺が洗面所の鏡を覗こうとしたところを、吹雪が必死に止めてきたのだが。結局、吹雪が何て書いたのかは、わからず仕舞いである。




吹雪ちゃんと羽根つきしたいだけの正月だった・・・

司令官のおでこに何と書かれていたのかは・・・ご想像にお任せしましょう

羽子板吹雪ちゃん可愛かったですね。あのグラは一体何のグラだったのか・・・

節分吹雪ちゃんも可愛いので、また何か書くかもです。それかバレンタイン
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