幻想郷にルーミアという妖怪が居た。とある月夜の晩に、彼女はいつものように、能天気に空中散歩をしていた。すると、あるモノを見つけた。それは、赤ん坊だった――――。*これは余裕があれば書こうと思っている作品の予告的な物です。ですので短いですが、お付き合い頂ければ幸いです。

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ルーミアの子育て日記。の予告のような物

 幻想郷にルーミアという、宵闇の妖怪と呼ばれる存在が居た。彼女は人喰い妖怪で、主食は人間だ。故に人々からは恐れられているのだが、彼女の幼い容姿と、どこか抜けている性格のため、直ぐに退治される程危険視されていない。

 今日は満月が出る晩。普段は自身の能力で発生させる闇に身を隠しているが、月の出る夜は何故かそのままの姿で、気ままに空を飛んでいる。食料探しをしている場合もあるが、今日は腹が膨れているので違う。今回はある目的地を目指していた。空を飛んで、両手で出来るだけ優しく抱いている、あるモノを気づかいながら。

 目指す場所は博麗神社。博麗の巫女が住み、幻想郷で特別な役割を持つ神社である。博麗の巫女は異変解決や妖怪退治を生業にしているので、大半の妖怪は嫌っている。しかし中には奇妙な縁から、数少ない交流を持つ者が居るのだ。ルーミアもその一人であった。たまに食べ物を分けてもらっている、程度の交流なのだが。それでも今困っているルーミアが頼れる人物で、最初に浮かんだのが博麗の巫女だった。恐らく、一番食べ物を恵んでもらって居るからだろう。

 目的地にたどり着き、境内に音もなく着地すると、ずかずかと神社の中に入った。

「れーいーむーっ!」

 住人の名前を大声で呼びながら、神社の中を練り歩く。

「れーいーむー、どーこーにーいーるー!?」

「はいはーい、いるわよー。だから叫ぶなー」

 博麗神社周辺に民間はない。なので騒音による近所迷惑にはならないが、住人が迷惑なのだ。

 博麗の巫女こと、博麗霊夢は面倒くさそうに返事をしながら、ルーミアの前に姿を現した。時間が時間なので、寝間着姿をしている。

「いったいなんのよ、こんな時間…に…!?」

 後頭部をボリボリ掻きながら文句を言おうとした霊夢だったが、ルーミアを、詳しく言えばルーミアが抱えているモノを見て言葉を失った。ルーミアが持ってくるものに当りは少なく、ろくでもないものが多いが、今回は唖然とする程厄介なろくでもないモノだった。

 それは火が点いたように泣き叫ぶ赤ん坊であった。最初から妙に騒がしいと変に思ったが、赤ん坊とは見事に不意をつかれてしまった。流石の博麗の巫女も、目の前の妖怪がやらかした事を考えて腰を抜かす。

「あ、あんた! まさかお腹空き過ぎて赤ん坊サラってきたの!?」

 腰を抜かしたのは、なにも赤ん坊をサラってきたからではない。そのサラってきた赤ん坊を博麗神社に連れてきたからだ。そんな事をされては、博麗神社にあらぬ噂が流れてしまうではないか。噂はとんでもない速度で、しかもオヒレセビレが付いて流れてしまう。霊夢はそれを危惧したのだ。

 しかし、予想は外れたようだ。霊夢に疑われたルーミアは、頬を膨らませて首を横に振った。

「違うよ。拾ったの」

 ルーミアの話はこうだ。今日はお腹が膨れ、気分が良く、日課の夜の空中散歩をしていたら、ふと木の根に何かを見つけた。なんだろうと思い地上に降りて確認すると、今ルーミアに抱かれている赤ん坊だったそうだ。近くを探しても親は居なかった。ただなんとなく、興味を持ったルーミアは、赤ん坊を抱いてみると泣きだしてしまった。一応あやしてみたが泣き止まない。が、このままにしておく事はできない。泣かせたままにしていたら、強い妖怪が来てしまうではないか。なので、霊夢の所に来たのだと言う。

「いや、なんで私なのよ」

「霊夢ならなんでも出来ると思って」

「赤ん坊は専門外よ」

 事情を聞いて安心した霊夢は、ジト目でルーミアを見下していた。赤ん坊の泣き声に、顔を目一杯しかめながら。当然だろう、睡眠を邪魔されて、赤ん坊まで連れてきたのだから。

「まったく! 使えない嫁だねっ!」

「誰が嫁だ、誰が。というか私は所じゃなくて、里の慧音の所とかに行きなさいよ。彼女の方が適任でしょ」

「泣いている赤ちゃん連れて、里には行けないよ」

 確かに泣き叫ぶ赤ん坊を連れて里に行けば、直ぐに見つかる。あまり危険視されてないルーミアだが、夜に赤ん坊を連れて里に現れれば少なからずパニックは起きるだろう。

 ルーミアごときに納得させられた霊夢は沈黙で返す。霊夢だって赤ん坊を泣き止ませる方法はしらない。先程言った通り専門外なのだ。

 どうしようか悩んでも考えがまとまらない。赤ん坊が五月蝿い為、集中できないし、苛々してきた。霊夢がそのことについて言おうとしたら、ルーミアに先をこされた。

「とりあえず霊夢、清潔な布とかお湯貸して」

「え? なんでよ」

「さっき気付いたけど、この子漏らしてるんだよ。だから気持ち悪くて、泣いてるんだと思う」

 訝しげにルーミアの話を聞いた霊夢は、渋々と言われた物を用意した。お湯はちょうどいい温度にするのが大変だった。

 ルーミアが言った事は的中していた。それよりも霊夢が驚いたのは、ルーミアの手際の良さだ。大きい方ではない事もあるのだろうが、かぶれないように尿を拭き取り、おしめを取り替える。おしめの代用にしたのは霊夢…言わないでおこう。

 完全に完了すると、赤ん坊は笑顔になっていた。その赤ん坊をルーミアは抱っこして、あやすように霊夢の周りを歩いた。

「なんていうか…アンタ凄いわね。やった事あるの?」

「無いはずなんだけど……なんだか懐かしい感じ」

 ふーん、と聞き流しながら霊夢は、ルーミアに抱っこされている赤ん坊を見つめた。騒いでいると苛つきの根源だが、静かに、しかも笑っていると可愛いらしいものだ。そう思いながら、赤ん坊の柔らかい頬っぺたを優しくつっつく。

「うりゃうりゃ♪ こうやって見ると、アンタらキョーダイみたいね」

「そーなのかー」

 ルーミアもお姉さん気分なのか、得意気に応えた。

 ふと霊夢は、赤ん坊を見ていると、頭の隅に何か引っ掛かる物を感じた。数時間前、赤ん坊関係で話をしたような気が…。だがどうも思い出せない。最近忘れっぽいのは決して歳をとったからではない。まだまだ自分は肌にハリや艶に自信があるうら若き乙女なのだ。

 思い出そうと頭を使っていると、脇腹をルーミアに突かれた。

「なによ」

「霊夢も抱っこ! してみる?」

 ルーミアの提案に、霊夢は渋りながら乗った。赤ん坊を抱っこなんてしたことないから、緊張しているのだ。

「い…意外に重いのね」

「気を付けてよ?」

 ルーミアに言われた通り最大限に気を付けながら、赤ん坊を抱き寄せる。

 地味に重たい赤ん坊を毎日抱っこする母親は偉大だな、と思いながら何気なく見ていると、ある事に気付いた。赤ん坊が着せられている服に名前が書いてあったのだ。なんだ、これに気付いていれば解決していたではないか。なんで気付かなかったんだろうと、自分を叱ってから、名前を確認した。

 すると、思い出した。今日の昼間の出来事を。今日の昼、赤ん坊を三匹の妖精に攫われたと相談しにきた夫婦が来たではないか。なんで忘れていたのだろう。記憶が蘇った霊夢は、赤ん坊をルーミアに押しつけるように渡すと、正装に着替えると、人里に急いで飛んだ。

「?」

 霊夢の行動に困惑していたが、直ぐに赤ん坊をあやし始めた。いつも人に馬鹿にされる彼女は、こうやってお姉さん気分になれるのが嬉しいのだ。

 霊夢はその後、数十分後に帰ってきた。知らない夫婦を連れて。ルーミアは何も聞かされず、霊夢から赤ん坊を取り上げられた。霊夢はその赤ん坊を連れていき、夫婦に渡した。流石に人前に簡単に出られないので、物陰に隠れて様子を伺っていると、二人が赤ん坊の両親だと知った。なんでも三妖精が悪戯で赤ん坊を誘拐したらしい。

 両親は霊夢に礼を言いながら帰って行った。

「悪いわね。何も言わず取り上げちゃって。あの二人、血相変えて探してたから。まあ当然よね。我が子が無事見つかったんだから」

「ううん、大丈夫。お父さんとお母さん、見つかって良かった」

 といっても、少し寂しい。たった数十分とは言え、情は簡単にうつってしまう。

「どーよ。数十分のお姉さんは」

「うーん…懐かしい…?」

「懐かしいって、そういえばアンタ、さっきも言ってたわよね。昔やってた事あるの、ってそんなわけないか。子供が子育てって」

 その日、ルーミアは博麗神社に泊まって行くことになった。ルーミアが言う、懐かしいという感覚は、翌日にはすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 数十年前。ルーミアという妖怪が居た。人食い妖怪だが、ある日から人を食べる事を止め、人前に姿を現わさなくなった。

 

 その頃、ルーミアはまだ大人で、

 

「よーしよし、泣くなー。かーちゃんここにいるから、泣き止んでなぁー」

 

 母親だった。



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