東方春風駘蕩(完)   作:綾禰

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 本日二話分投稿。2/2になります。
 今更ながら外伝は今作品にとって都合が良い過去として書かれています。原作至上主義の方はご注意を。


外伝 紫と藍と幻想郷・完

 

 

 

 

 あー恥ずかしい……。今日初めて出会った身なりの良い女性に……まぁ妖怪仲間であるものの早とちりして自ら正体を暴露するは我を忘れて淡々と愚痴を並べるはと醜態を晒してしまった。確かに長旅の疲れもあった。度重なる緊張もあった。狙われ続けた鬱憤もあった。とは言えなぁ……。

 

 海を渡る以前、追っ手が居た。好きでも無い男の物になりたくなかった私を、夜逃げした私を王が手放したくなかったあまりに。

 

 私がある土地に生まれ落ちた事を村人が発見、報告し、数人の兵が現れ私が状況を理解出来ない内に連行し、身なりを整えさせ、王の(もと)へ案内された。

 

 私の性格を知ってか知らずか、拒否する機会を与えまいとあれよあれよと物事を進ませたかった様だったが、余りにも私の意志が無視されていた状況。自由へ向けて行動させてもらった。

 

 何より王とは……反りが合わなかった。彼の思考や感情を一方的に向けられるばかりで激しい不快感が禁じ得なかった。私への評判がどうなろうがとにかく逃げさせてもらったのが海を渡る前の事情。

 

 海を渡ってからは捕まえようとする追っ手は居なくなった。代わりに、妖怪を葬ろうとする退治屋に狙われる事になってしまった……。

 

 人間と争おうと言う意思は無かったので時には逃げて、時には隠れてやり過ごしながら人目に注意してこの日本と言われた国を旅していた。

 

 旅をしているとそれなりに出会いもあった。特に人間に紛れて過ごす妖怪の助言には私の旅路にて大部分助けられた。何で気付かなかったのだろうと知ってしまえば不思議な位の話で、言われなければ全く頭に無かった発想だった妖気を極限まで抑え隠す事。

 

 私が生まれた地の超常のモノはその力を大いに振るっていたものだった。それが当たり前だったからこそ、日本に来て知り、驚いたものの平穏に生きようと思えばこその技術に然もありなんと思った。

 

 無理矢理仕えさせられるかもしれないと、経験から心に恐怖が刻まれた私は同じ場所に長居せず転々と暮らす地を変えながら移動してきた。そして長らく使われていない様子の家屋を見つけ、暫くここで休もうと屋内を確認して掃除をしたものだった。

 

 定住するつもりは無かったものの、都が徒歩圏内だった事もあり必要な物は贅沢さえ言わなければ困らなかった。

 

 そこで、八雲殿と出会った。

 

 私の早とちりで追っ手と思い込んでしまい、先程も言った様に醜態を見せてしまったが……落ち着いた所で話を聞いてみた。

 

 彼女曰く、人間の暮らしを脅かすつもりでなく、他の妖怪と争うつもりでもなく、土地を管理して過ごしやすい環境を維持していきたい。しかし、一匹では管理する範囲に限界があったので同じ志を持ってして協力しあえる仲間を求めて訪ねてきた。との事だった。

 

 なるほど、特に悪い話には聞こえない。争いも無い理想的な話だな。と思いきや、争いたいなら争いたいで自己責任でどうぞ? ほほう、それは……八雲殿。貴女は、何がしたいのだ? 土地を管理し、争わない世界を作るのかと思ったのだが……。

 

 私の問いに対する彼女の答えは、争いを好まない妖怪とは変わったお方だと言う初めの印象とは違い、なるほど妖怪らしい答えだった。

 

 自分が消滅したくないから出来るだけ死なない環境を作ろうとしている。

 

 失笑してしまった。なるほどなるほど悪く無い。何、断る理由は無い。手伝おう、協力しよう、共に生きていこうじゃないか。土地の管理もやりがいのありそうな仕事でもあるし、貴女の言う幻想郷作りに向かおうじゃないか。

 

 私の答えに八雲殿は、女性の私から見ても可愛らしい笑顔を見せてくれたところで、一つ質問をしてみた。

 

 土地の管理に式神を使えば人材探しに時間を取られずに済んだのではないか?

 

 その答えも簡単だった。単純に零から式神を作れば疑う余地の無い絶対服従の配下が生まれる。が、式神の妖力が切れる度に長時間運用出来る程の妖力を注入していたら何かあった時に対応が出来なくなってしまうし、管理する為の水準まで能力面を強くする事が中々難しいとの事だった。

 

 そんな会話をしながら八雲殿の特殊な移動方法で思っていた以上に早く目的地に着いた。

 

 八雲殿が幻想郷と名付けたこの地は、自然豊かな土地だった。山に囲まれ、大きな湖があり、動物達は生きる為に草を食べ、肉を食べ……。都には到底敵わないながらも町があり、人々の顔には笑顔があった。

 

 人々の生活範囲外には妖怪達が暮らしていた。時には人を襲い、時には人に襲われ、ある種の理想的な姿がこの地にあった。

 

 この地は素晴らしい。この地を安住の地にする為の管理、中々にやりがいがありそうだと八雲殿に伝えると笑顔で感謝の言葉を返してくれ、そして人間の勢力拡大による妖怪の減衰と言う悩みに着手する。

 

 これだけ恵まれた土地だ、妖怪だって生きている。人間だけでなく妖怪にだって住む権利もあろうものだ。

 

 早速私は八雲殿と協力して管理すべき土地の範囲内を把握する作業をした。確かに彼女から聞いていた通りにこの広さを妖怪一匹で管理するには無理があっただろう。

 しかし、そこに私が加わり一匹の時では判断しきれなかった部分で取捨選択もでき、より効率の良い妖怪を引き寄せる一つの結界を張る術式を書いた札を作った。

 

 正直言って私は結界の術に強くない。だが、それでも八雲殿の作った結界の凄さは彼女の説明を聞いただけでも凄い物だと判る。しかし、術が凄いからこそ術の使用者の力量が求められる物だった。

 八雲殿としてはこれが最低限の妖力で最大限の効果を出せる予定の物らしい。

 

 結界の札とは別に八雲殿から随時連絡が取れる札を預かり、結界を張る為の所定の位置に移動する。

 私にとって初の大仕事。これから始まる出来事に内心期待と不安を募らせながら準備が出来たと札を通して連絡をする。

 

 連絡用の札から聞こえてくる合図に合わせて結界の札へ妖力を注ぎ込む……と凄い勢いで体から力が抜けていく感覚に襲われた!

 視線が激しく揺れ動き、必要かどうかは別として綺麗な姿勢が維持出来ない。全身から嫌な汗が吹き出て、自分の中から妖力が搾り取られるのを感じる……。

 

 ……こ、これが最低限の妖力ですか……や、八雲殿……。

 

 八雲殿の方では判らないが、九尾の狐である私が放出する巨大な妖力に近くの隠れながらも認識出来る範囲の妖怪や動物達が何事かと様子を伺っているのが判る。そうであろう、彼らにとって脅威以外何者でもない力が空気を震わせ私を中心にして吹き荒れる風で草木が大きく震えているのだから。

 

 まだ、結界は完成しないのか……!? 心の中で叫ぶ。もう少しかも知れない、まだかも知れない、堪えねば。しかし、ふっと力が抜けた。

 

 結界が起動したかどうかが判らない。力が抜け、地面に座り込んでしまった私の許へ八雲殿が姿を見せた。

 

 八雲殿は焦った様子で私の具合を聞いてきたが、それ以上に気になる結界の成否。それよりも結界はどうなったのか質問をした。

 彼女は、浮かない顔をした。そうか……言葉にせずとも理解した。私の力が及ばなかったのだろう。気落ちはしていても私程の疲労を感じさせない八雲殿の様子から判る。

 

 ごめんなさいと、彼女は言った。貴女への負担を減らせる様に術式を組み直さなきゃねと、八雲殿は言った。

 

 しかし、あれは私の力量を測り、結界を張る範囲を測り、より効率的に、より少ない妖力で出来る様に、考えに考え抜いて作られた術だと……貴女は言わないが私には判っている。

 

 家に戻りましょうと八雲殿が言い振り向いた所で私は待ったをかけた。一つ、案があると。

 

 彼女との会話の中で私はちゃんと聞いていた。知っていた。私に仲間になってほしいと、私に友になってほしいと。それが、八雲殿の願いだと。しかし、敢えて、彼女に伝えた。

 

 私を、貴女の式神にしてほしい。

 

 命の無い物から作られる式神と違い、生物の式神化は主の力量にもよるが力を増す。これは、話し合いをしていた時にも触れた話であったが、私が私でなくなる可能性があった事から八雲殿から嫌だと却下されていた話。

 

 私は、八雲殿の気持ちを無下にする以上に彼女の理想を叶えたいと思った。

 

 こちらを見た八雲殿の瞳から、寂しさと共に、本当にそれで良いのかと言う感情が伝わってきた。

 

 どうせ目的や夢があった今までじゃなかった。行く宛の無い私に声をかけてくれたのは貴女だ。貴女の式神になるのなら、後悔は無い。強く、頷いた。

 

 頷いた私を見た八雲殿は目を閉じ、熟考していた。今まで私に式神化の話をしてこなかった彼女だ。友を求めていた彼女だ。葛藤していると判り、静かに答えが出るまで待つ。

 

 少しして、判った、今から札を作るわと彼女は空間に開いた穴に手を入れ一枚の札を取り出し術を書き込みだした。これだけで、式神化の計画をしていなかったんだろうなと判り、本当に友を求めて声をかけてきたんだなと嬉しくなった。

 

 最悪は私の人格が消える。本当に良いのねと、最後に聞いてきた彼女に二言は無いと、また力強く頷き返した。

 

 そして、八雲殿は私の額に札を当て、妖力を込める。私の中に染み入る何かは彼女の妖気。そこから私と彼女の力の差を改めて感じる。(はな)から抵抗するつもりは無かったが、これは全く抗えない力の差だった。

 

 自分の中の何かが入れ替わった感覚。しかし、頭がすっきりしていた。今なら、紫様が作られた術が理解出来る。確かに、以前の私では追いつけなかった。それでも、出来るだけ以前の私にも出来る様に作られた術に優しさを感じ嬉しさがこみ上げてくる。

 

 気分はどうかと聞かれ、頭がすっきりしていますと答える。そして紫様の不安に感じている事を伝えてあげよう。

 

 

「以前も、これからも。貴女が失敗したならば馬鹿だなと笑ってさしあげますよ、紫様。それよりも、主なら主らしく名を持たない私に名を授けて下さい」

 

 

 紫様が一番不安にしていた式神化による絶対的な服従。しかし、そんなものは無かったと皮肉を込めた私の言葉に我が主は……。

 

 

「あら、私の式神なのに反抗的だ事……。けれど、名前ね……名前は、そうね。虹色の、紫の次の色。藍にしましょうか」

 

 

 笑顔で答えてくれた。

 

 

 

 

 




 藍の名前の由来は捏造ですね。作中通りに虹の色の順番で紫色の次の色は藍色です。隣にある存在って意味も込めて紫(色)の隣には藍(色)ってか。
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