よく晴れた青い空。所々白い雲が風に流れていく風景はのどかさを感じさせてくれます。
朝食の際に
「あ、おはようございます! 太助君は今日も大事無い様ですね」
いつもの様に門のすぐ横で朝のお茶を味わっている美鈴さんが居た。どう言った手段を使ったのか判らないけれど、近くの木を伐採して素手で作ったらしい丸テーブルが一つと肘置きが付いた椅子が三つあってその一つに座っていた。
どうぞどうぞと手招きをする美鈴さんに応えて、美鈴さんの向かえに座ると僕の分のお茶を淹れてくれる。
「いつもその机と椅子を見ると思うんですけど、よく素手でそこまで綺麗に作れましたね」
机は一つだけど椅子は美鈴さんと、僕と、
「いやいやー私が作った物を何度も褒めてくれるのは太助君だけですよー。咲夜さんなんかこの机と椅子を見た時の第一声なんて「あら、手作りでそれが出来るのだったら大工関係の用事は貴女に任せるわ」でしたからねー。お嬢様と妹様、パチュリーさんなんか私が修理したり作り替えた家具を見ても興味無いって感じですからね。もう太助君の感想を楽しみにして腕を磨いている様なもんですよ」
「家具作りの腕を磨いているって……それじゃ武術家じゃなくて家具職人じゃないですか」
「あぁ!? いやいや本職は武術です! 園芸に家具作りはあくまでも趣味の範囲ですよー……」
美鈴さんが若干落ち込んでしまった。まぁ、確かに本職よりも趣味でやってる事の方を褒められても複雑なんだろうな。僕はまだ本職と言える事は何も無いからまだ理解出来ない事だけど。
しかし、職業かぁ……。外の世界の人間ならちょうど僕の歳は大学に向かうのか何かしら仕事につくのかで人生の分岐点だし、幻想郷の人里なら寺子屋はあっても学校と言える施設なんて無いから、ある程度体ができて物事を考えられる程度に成長したら何かしら働き始める。そして、幻想郷の住民として見れば僕は……仕事もしないであっちこっちにフラフラ動いてる穀潰し……なんだな……。
「あ、あれ? どうしました太助君、急に気落ちして」
「いえ……僕って穀潰しだなって……」
「ええ!? 急に何を言っちゃいますか!!?」
とりあえず、武術の師匠である美鈴さんに僕が今考えていた事を伝えると、ハァーと安心した様なため息をつかれてしまった。あれ、安心出来る要素あったかな?
「あ、すみません。けど、大丈夫ですよ太助君。外の世界で人間として生活してきたからこそ感覚が違ってしまっているのだと思いますが」
そう言って美鈴さんはカラになった僕の分のお茶を淹れなおしてくれる。お茶を飲み干していた事に気づかない程僕は考え込んでしまっていたらしい。……まだまだ子供だなぁ。いや、妖怪としてみたらまだまだ赤子扱いな歳だけど。妖怪と言っても僕の場合は全盛期の肉体への成長は早いらしいけど。
そこでふと思い出した事。紫姉さんが言ってたけど簡単に言えば確か、人間は短命だからこそ成長力が強い。妖怪は長命だからこそ成長力が弱い。大概の半人半妖は人間よりも長命で強く、妖怪よりも短命で弱い。半人半妖は寿命も、成長力も人間と妖怪を足して半分にした位になるらしい。
ああいや閑話休題だなこれ。美鈴さんの言葉に耳を傾ける。
「そもそも太助君は人間の括りではありませんからね。自分の年齢が人間として考えたらとっくに働き始めていたとしても、太助君は半分人間じゃないんですから人間の常識で考えた所で合う筈が無いじゃないですか」
「……それは……まぁ、そうですね」
「昔と違って今の幻想郷の人間は六十年以上は生きられる環境に居ます。ですが、六十年以上生きた所で妖怪の何分の一なのか。そして太助君。十七歳の太助君が良い歳なのに仕事をしていないって言ったら、お嬢様と妹様はどうしたら良いんでしょうね。お嬢様は五百、妹様は四百九十五歳で無職ですよ?」
フランはともかくレミリアさん無職だったの? ……えっと、あー確かに仕事は何してるって聞かないな。
「私なんか途中で年齢を数えるのが面倒になりましたけどね。三千……? 四千年……過ぎてたかな? そんだけ生きた所で門番ですよ? 門の前に立ってお客様をお出迎えする位です。そして趣味が花壇のお手入れと簡単な家具作り」
美鈴さんってそんな長生きしてたんだ……。確かにそんなに生きてたら歳を数えるのもどうでもよくなりそうだなぁ。
「要はですね。生きた年齢は関係無いんですよ。長く生きたから凄い仕事をする訳じゃないです。妖怪にとって仕事は趣味が仕事になっているだけみたいなもんですよ。で、人間が働くのは食べる為ですよね? 太助君は今働かないと食べれませんか? ここが、とりあえず判ってほしい所です」
そう言って微笑む美鈴さん。そこまで聞いて美鈴さんの話を僕なりに噛み砕き、要約して理解出来る言葉にまとめる。
「まず一つ目。半人半妖の僕は人間とは違う存在だから、人間の尺度で考えて焦る必要は無い」
「はい」
「二つ目。中には必要だからなのがあるものの、妖怪は趣味でやってる事が結果的に仕事になっている事がある」
「ええ」
「三つ目。焦る事無くやりたい事を見つければ、やがてそれが仕事と言える物になっているかもしれない」
「そうですね」
確かに、僕は人間の尺度とは外れた存在だった。なのに人間の年齢で見ればとか……見当違いな事を考えてしまっていたのかもしれない。
「太助君は体も、心も成長が人間並に早く人間と一緒に育ったからこそややこしい感じになっていたんだと思いますよ。その考えを捨てろとは言いませんが、妖怪としての部分を忘れてしまっては太助君が崩壊してしまいます。半分は人間だけれど、半分は妖怪だって事を忘れないでくださいね」
そう言ってから、自分の分のお茶を口に運ぶ美鈴さん。やっぱ、この人は僕にとって師匠なんだなって思う。
「ありがとうございます。僕の本質を見失う所でした」
「いえいえー。あくまで私の考えですからね。それでも太助君にとって参考になる内容でしたら良かったです」
「やりたい事。思えば、今僕が色々と身につけようとしているのは誰かの助けになれる様になりたくて始めたんだと思います。だから、いつも傍で見てきた紫姉さんに能力の使い方を教わって、美鈴さんに力の扱い方を教わり始めた……」
「(誰かの助けになりたい……名は体を表すってやつですねぇ)そう言えばよく賢者の能力を真似る事が出来ましたよね。あ、太助君は人間と妖怪の境目に居る感じですからね。境界を操る程度の能力と相性が良かったのかも。いっその事賢者を目標に己を鍛えるのも良いかもしれませんね!」
……それだ! 帰ったら早速紫姉さんを目標にする事を伝えよう。言霊って訳じゃないけど、やっぱ言葉にすると違うからね。
後日、美鈴さんに会った時に聞いた事だけれど。紫姉さんがふらりと現れて、とっても良い事があったから賢者なんて他人行儀じゃなくて名前で呼んで良いって言われたらしい。名前で呼ばせたい程の良い事って何があったんだろう。と言うか何で美鈴さんにそれを言いに行ったんだろう?
過去に妖怪は匹で数えるって言ってましたが、なんだかしっくりとこないので人型妖怪は今後一人二人と数えようかと。