本日二話投稿。2/2
すっかり歳をとり、体も弱り自力で飛行が出来なくなってきた霊夢を抱き博麗神社の上空に佇む。
「ありがとう、太助さん」
「気にしないで。奥さんを支えるのは旦那として当たり前なんだから」
「素直にそう言えるのは、太助さんだからよ」
今日のお昼過ぎ、昼食を食べてから落ち着いた頃に霊夢が博麗神社の上空に行きたいと言い出した。
神社に、じゃなくて上空? と聞けば。ええ、神社に直接行けば大先輩の私に対する後輩の態度が面倒臭いわと返ってきた。
そして僕は腰も曲がってきた霊夢の体を気遣いながら、出来る限り負担を与えない様に抱きかかえて博麗神社の上空に来た訳である。
霊夢の様子を伺うと、とても穏やかな顔で眼下に広がる幻想郷を眺めていた。
……いったいどんな心境なのか。まぁたぶんきっと、あくまで想像だけど……つい先日、魔理沙に先立たれた事が理由なんだろう。
彼女は老いて尚、知識欲に旺盛で向上心が豊かだった。
霊夢ほど体力が衰えた印象は無かったが、老いを理由に閉業してから物置扱いだった霧雨魔法店跡地の、屋内だと言うのにど真ん中に植えた、最後の研究の成果だと言う木が一メートル程に伸びた頃老衰で逝った。
その木はどういった物なんだい? と聞けば。これか? 太助みたいな長生きの親友に残す霧雨魔理沙と言う親友が居た証だ。どんな花が咲くかはお楽しみだぜ! と返ってきた。
花が咲く様子はまだまだ無さそうで、能力で成長を促進なんて事はせずに彼女の言う通り僕は楽しみにしておこうと思う。
「……太助さん」
「何だい?」
「太助さんと私が始めって出会った頃の事……覚えてる?」
「そうだね……たしか僕が五歳で霊夢が三歳だったかな? 初対面の僕を警戒してか、
「そう言う太助さんは、自分で歩きたいのに紫に後ろから抱き上げられていて少しばかりの抵抗をしていたわ」
「よく、覚えているね? 三歳の頃の事」
正直に驚いた。霊夢の顔はとても自信満々のしたり顔で、人に褒められたりした時によくする表情だ。それは、幼い頃から老いた今になっても変わらない。いや、話し方にしろそうだ。確かに肉体は衰えたけど、その精神の在り方は全く変わらない。魔理沙もそうだったけど、普通の人間だったら精神も老いていくのに霊夢と魔理沙の精神は全盛期そのままで凄いと思う。
「だって、太助さんの事だもの。自分の事は忘れても……太助さんの事は決して、忘れないわ」
「……ありがとう。僕も……霊夢の事は出来るだけ長く覚えていきたいと思う」
「太助さんの生はこれからも長く続くわ。私が死んでも、死人に引きづられては駄目よ? ふとした拍子に、貴方を愛した女が昔居たなって思ってくれるだけで大丈夫」
「霊夢……」
そんな、死ぬなんて言わないでおくれ。
「まだ、大丈夫よ」
「……霊夢」
「話の続き、しましょう? 太助さんと初めて会ってから数回、私素っ気ない態度だったでしょう? ごめんなさいね」
「……ああ、いや。しょうがないよ。知らない相手に警戒心を持つ事は大事だから。僕も子供だったとは言え、妖怪の気配を漂わせていたからね」
博麗の巫女を退任した霊夢と人間の魔法使いとして生きた魔理沙。
少女時代から共に日常を過ごし、異変にも挑み、苦楽を共にしてきた親友は七十を超える年齢になってもその関係は続いた。
若干の邪魔があったものの
そんな魔理沙が天寿を全うした。
彼女は亡くなるその時まで快活な姿を見せながらも、ほんの少し親友を残していく事を心配していた。そんな晩年を人里で過ごした彼女はその分け隔ての無い性格もあって里の人気者だった事もあり葬式は盛大に行われた。
それから半年は過ぎ、状況が落ち着いてきた頃に僕は霊夢にちょっとしたお願い事をされた。
太助さんと初めて出会った場所。博麗神社に行きたい。
その上で二人っきりで居たいとも言われたので神社の上空で霊夢は僕に抱き上げられた形で穏やかに少しの時を過ごす。
霊夢との会話は初めての出会いから始まり、僕が幻想郷の外で暮らす時まで進んでから少し休んで。二人の思い出でも無いのに霊夢にねだられて結界の外での生活を話して、いつまで経っても嫉妬する早苗ちゃんとの話は伏せて。
幻想郷に戻ってから再会した時には泣いてしまった事を霊夢は恥ずかしがりながらも、それだけ嬉しかったのよと言い聞かせる様に何度も呟いて。
「そう言えば、霊夢が現役時代が一番異変が多かったって紫姉さんが言っていたよ」
「そうなの? そうよね? 私から霊歌に代が替わった頃には皆落ち着きだしてたし、異変を起こしそうな新人なんかはもう太助さんのお友達が率先して黙らせていたもの。私が現役の時からそうしろってのよ」
そうすれば太助さんとの時間が増えたのに……と拗ねた様に言う霊夢は、どれだけ老いたとしても僕にとってはとても可愛らしい女性の姿だ。
それからは関わっていなかった僕に霊夢が体験した異変の話をしてくれる。レミリアは無駄に偉そうですばしっこかったとか、少しでもこっちに相談を持ちかけていれば偽物の月とか夜を止めずに済んだのよとか。巫女の仕事とは言えずっと不満だったであろう事をぼやく。
そんな、今となってはどれもかけがえのない思い出になった日々が過ぎてお互いに肉体も年齢も、精神的にも大人へと成長していって。
「太助さんが私の告白を受けてくれて、本当に嬉しかったなぁ……」
「霊夢、暫くの間夢だったんじゃないかって何度も僕に確認してきたのは今でも面白い思い出だよ」
「だって、私が太助さんを好きだって気持ちに絶対の自信はあったけど。太助さんの事が好きだった女は私だけじゃなったんだもの。正直、期待し過ぎない様に振られる前提の気持ちだったわ」
それは初めて知った。当時は気づいていなかったけれど、内心そう思っていたんだね……。
けわいを感じ取る程度の能力を持っていた僕にも気付かせなかった霊夢の感情の抑制が凄かったのだろうと思う。恋愛感情に興味が無かったあまりに判らなかったとも言えるけど。
「当時の僕は師匠に気づかされるまで恋愛感情が薄かった。ひょっとしたら、ただの消去法で付き合っていた可能性もあったけど、自信を持って言えるよ。霊夢が不安に思った気持ちは無駄だよって言える位に、あの時僕は凄く嬉しかったよ」
「本当? 今更だけど、後悔していない?」
「ああ、後悔なんてしていないよ。まぁ、師匠の言葉が後押しになった部分もあるけどね」
「あら、あの門番さすが太助さんの師匠ね。美鈴のおかげで太助さんと一緒になれたのね。何て言われたの?」
「そうだね……、確か妖怪は長生きだから、人間の後で良いよって」
「そう……だったら、安心ね」
そう言って、言葉通りに緩んだ笑顔になる霊夢。どこか、力が抜けた様な気がして。
「何が安心なんだい?」
「私が居なくなった後に、太助さんを支えてくれるって公言した人が居て」
「……霊夢」
「太助さん」
「何かな……?」
「眠くなってきたわ」
「布団に入らないと、風邪引いちゃうよ」
「太助さん」
「ん?」
「今まで、ありがとうね」
「僕もありがとう。僕を好きになってくれて」
「太助さん」
「何?」
「私は、幸せだったわ」
「僕も、幸せだよ。思い出が、そうさせてくれる」
「太助さん」
「ああ……」
「おやすみなさい……愛してるわ」
「おやすみ……霊夢……愛してるよ」
満足そうに、霊夢は目を閉じて。
勝手に、抱きしめる腕に力が入って。
ついさっきまで、二人で思い出を語り合って。
それなのに、霊夢との思い出が何度も何度も繰り返し頭を巡って。
「うっ……くぅっ……!!」
お疲れ様でした、霊夢。
ただ、ただ……。涙が、止まらない。
次回、最終回。