ACECOMBAT if ~全く違うzero~ 作:夕霧彼方
2010年
4月10日
慌ただしい日々が終わり世界は安定の道を少しずつ、しかし確実に歩んでいた。
あの数十の鉄の鳥たちも今は役目を終えて基地という巣の中で静かに眠る。
外交という薄暗い話は置いとけば大陸内での動乱、戦後の収束は急速に始まり、国民も統制された社会から自由を手に入れて活動的になってきた。
ユークトバニアでは未だ内戦が続いているが、それは別の世界とクールになっている。
そしてウスティオの首都、ディレクタスも例外でない。
直接の戦災はほぼ回避されたが、開戦直後からの厳しい統制と物価上昇、そして内陸で農業に適するとは言い難い地勢上、人に必要な塩を始めとした物が手に入らず、困窮が起きていた。
しかし物資輸送が本格的に回復すれば、小規模ながら活気溢れるいつもの風景に戻りつつある。
そして戦争から解放された人間はここにもいる。
「ああ・・・暇だ」
住民区画で最も活気ある市場を巡るのは、結川である。彼は戦争から解放されたあと所属の基地に戻るつもりだったが、溜まりに溜まった報告書や何やらで部隊ごとディレクタスに強制送還されたのだ。
本来ならネットで送ればいいのだが、もう一つある。それは結川が大統領から聖十字白鷲大勲章なる戦時最高勲章と、国防殊勲賞がもらえる事が決定したのだ。
聖はウスティオの正教から、白鷲はウスティオの国鳥に近い名誉で、ベルカ連邦一部の黒鷲をモチーフにした構成自治州と昔の馴染みの対比、そして十字はベルカの騎士鉄十字[空軍は双翼]勲章の名残。
他にも部下たちも各々勲章があり、ベルカに帰ったヴァルキューレ隊も、ジャスミンが剣ダイヤモンド付双翼騎士鉄十字勲章という、ベルカではおよそ50年以上ぶりの戦時の高位勲章が授けられることが決定し、トゥルブレンツは溺れトンビとケラーマンの落ちこぼれの汚名を返上し、二人仲よく空軍に対抗して特別に作られた、海軍航空騎士特別十字戦功勲章が決定した。
なおお酒大好きバッカス隊は勲章よりも酒を要求。困った上層部はとりあえず勲章受け取ったら歴史上最高傑作といわれるウィスキーを与えるとしてやっとこ決着が着いた。
この戦争が特殊すぎて、ウスティオ建国から今まで渡された勲章の数の約8倍の数が今回製作、受勲される。
さて、暇だが地理感覚なくてどこに行けばいいのかさっぱり分からん。
薄情な部下たちはいたいけな自分を残してどっか行くし、わけも分からず妙にニヤニヤしていた上司から「見学してこい!」と言われるし・・・しかも外泊だし・・・
とりあえずショッピングなどが出来る区画にきたものだが、ブランドが分からんし、どれが似合うか分からんし、そもそもここの国の人ら平均身長高くて自分が低すぎるし、黒髪が少ない環境とか・・・米軍との交流会でこれは元から慣れていたつもりだったが、シャバでは予想以上に寂しさが増す!
「あ~、とりあえず仲良かった奴を誘えば・・・あ」
「あ・・・」
「ああ・・・隊長さん」
目の前に現れたのは女性三人組、うちのシスコンエリーゼ、空挺女傑のハート、そして部下のアリチェ。三人は何かしらで接点が多く、仲よくなったみたいだ。仲良いことはいいことだ
「やあ、偶然だな」
結川は何の気なしに話かける、瞬間・・・
「あ・・・うぇ・・・ふぇ・・ええ?!」
・・・おい、アリチェそんなに俺に会うの嫌なのか?地味にショックだぞ。しかし私服姿の彼女を見るのはいいものだ。
「いや~、偶然ですね。偶然おめかししたばかりのアリチェに会えるなんて」
ハートはにやりとしながら口を開く。
「女たちだけでショッピングして、まあ良く似合ってたのでアリチェだけ先に着せたんですよ。偶然ね」
「二人とも?」
アリチェがひどく狼狽する。そんなに嫌か?!
「まあ私たちはまだ決めかねてるので別の所行こうと思ってたのですが、隊長が寂しそうですし誰か観光案内させないとね、ねぇアリチェ」
「そうだな、男っぽいものが欲しい私なんか時間かかるしな。じゃあ案内やっておけよ。仮にも直属の上司だろ?」
「ハートさん?!エリーゼ?!!」
「「グッド・ラック」」
軽い敬礼をしてから足早に去る二人、去り際、ハートに肩叩かれ
「ちなみにアリチェも外泊だ。グッド・ラック」
「はいっ?!ちょっ!」
だがそんな結川の声空しくすぐに雑踏の中に溶け込んでいく。追いかけようにもアリチェ居るし
「あ・・・あ~、いや、どうしようか?」
もうどうしようもなく提案を求める男・・・最低である・・・が、彼女は違った、うつむいていたが、やがて吹っ切れて
「隊長!いえユイカワさん」
「はい」
突如の大声で背筋を正す結川
「デートしましょう!」
「はい・・・はい?」
思わず聞き返す、周りで口笛吹く人間もいる。そして真っ赤になったアリチェは
「お膳立てがされてるなら食べましょう!嫌ですか」
「んなわけない!喜んで」
即答する結川、それを聞いて一気に喜びをあらわにするアリチェ、可愛い
「では行きましょう!案内します」
そのまま腕を掴まれる結川、兎角混乱しているが、とりあえず付いていくしかない。死線を乗り越えた彼女に・・・
「で・・・偶然なの?」
「偶然はいくつか重なると必然になるって誰かがいってました」
「なるほど」
ハートとエリーゼが少し歩いた裏路地で話す。
「二人は相当気が合ってたのに奥ゆかしいというか周りが見てイラつくレベルだったので、もういっそのことくっつけようと。くっつく要素出来れば簡単に行くから」
上司を丸め込み、ハートの部下を使い偵察させ、偶然のために休暇日と遊ぶ日を結川の休暇日に合わせ、そして時間制限を作らせないために外泊取らせてアリチェが好みそうな服装とショップを選定してちゃちゃっと着させる。
上手く成功すればあとはあちらさん次第だ。
「随分うちの隊長にお熱ね」
「まぁな、あれ以上壊れたら本当に見てられないから・・・」
ハートが悲しそうな目で言う。彼は一応の立て直しを見せたが、核の直後から明らかにおかしくなっていた。しかし彼には壊れてほしくなかった・・・なぜなら彼が戦争のキーになると直感だが、そう思えるのだ。
異世界から来た鷲使い、その異名の如く戦場を駆け巡った男は、その余りある戦力と、能力、そして撃墜撃破スコアをもって君臨した。
平和となったと見せかけたこの現在、しかし彼が居る限り何かあると感じている。
エリーゼもハートから聞いた時は半信半疑であったが、やがて府が落ちた。
核使用直後、ハートの叱咤で何とか立て直したが、だからといって油断できない。だからこそ、更にアリチェには頑張ってもらわないといけない。
「残酷で最低ですね・・・人の恋で隊長を正常な歯車に戻そうなんて」
「ま、仕方ない。上手くいくことを願うさ・・・あ」
ハートがはっとする。エリーゼがいぶしげな顔でどうしたんですと聞くと
「グローブ渡すの忘れてた」
「ホンッと最低ですね」
引きつくエリーゼにハートは笑い
「まあ大丈夫だろ。さて、ショッピングを続けよう」
「はぁ・・はいはい。付き合いますよ」
もう何も言いませんという表情を浮かべながらエリーゼは先に行くハートを追う。
グローブ・・・ゴム