ACECOMBAT if ~全く違うzero~ 作:夕霧彼方
6/17
1300hrs
サピン王国危機管理センター
「納得がいきません!是非、是非にご再考を!!」
「ならんと言っているのが聞こえないのか?」
言い争うは二人の中年、しかし片方は服の上からも分かる引き締まった体、片方は寸胴というべき体形。
前者はサピン情報部、特別諜報課長、ガルタ・ネゼット大佐、後者はサピン情報部長、プロパス・ウェンディ少将である。
二人が言い争うは諜報によって見つけた国境なき世界の捕虜収容所にして拷問所。それに関してFCMBでの情報共有をせず、事実上の隠ぺいを行うと言ったのだ。
「では貴様は我々の失態が明るみになったときの対策をどう考えているのかね?」
「我々だけの事案ではないのです、事によっては他国の将兵も危機に晒されている現状で政治の話を置きましょう!」
比較的清廉な軍人たちの嫌な予感は当たった。政府の文民統制が強くなったあとサピンも例外なく政治派将校の台頭しはじめた。
元々女王陛下にお仕え命の将官が減ってきた昨今、バランスは崩れていたが、ここまで政治に媚びうる人間も少なかった。
三割陛下押し、六割で政治派閥、軍派閥で争う流れが素晴らしかったが、今じゃそれが危険な方向に向かっている。逆の軍派閥台頭も非常に危険だが・・・。
「何度だって進言させて頂きますが、これは国境なき世界を叩き潰すチャンスも含まれているのです。我々が見つけた証拠と、軍主導で向かえば多少の汚名も流れるものです」
ガルタの言葉にプロパスは鼻で笑う・
「笑止だな。国境なき世界なぞ組織すぐに一ひねりだわ。そんなのは成果にもならんし、万が一にも長期戦になったときの費用対効果、同時にこの前の戦争で我々は少ない被害で多大な活躍をした分を別で無駄遣いなど断じてならない。もう一つ、聞けば主犯格はここの情報部所属の人間だったそうじゃないか。それこそ重大な問題だ」
ガルタは顔がこわばりそうになるが、何とか抑える。情報部は奴に身内がその施設のリーダーとはあえて言っていない。そんなこと言えばこうなるからだ。だが既にばれている。
この少将は政治派閥にあり、軍情報部と違う、政府情報局外国諜報課と通じていると聞いていたが、本当だったか・・・。
確信に至り、失言したことに気付かず得意調子なプロパスは続ける。
「君がしつこいのに一喝しないのは、私の方が正しいからだ。それが現在の軍の、政府の意志なのだ。まあ心配するな、外交筋がひと段落したら特殊部隊を派遣して制圧、捕虜の救助はしとこう。君たちは引き続き監視と、これが外国政府に漏れないことに気を付けるのだな」
「・・・・・はっ」
「素直で結構」
高笑いしながら去っていくプロパス。政治圧力とはいえ、全軍上200番以内に入る男にこれ以上は追撃出来ない。
「・・・いかがいたしますか?」
後ろから息を潜めていた側近の大尉が近づく。プロパスは息を吐き。
「とりあえず正攻法はなしだ。一応政治派閥のお坊ちゃまだから真っ直ぐしてみたが・・・駄目だね」
「では、引いてみますか。いつもの自分たちらしく」
大尉が不気味に笑い、プロパスも凶悪な笑みを浮かべ
「素人少将殿に悪いが、うちらはうちらなりの方針があるんでね。さぁ、始めるか、我々が使える手段で・・・」
サピン王国を愛するならば、国益を考えるのは一番だ。しかし、これは国益うんぬんの事態で無い。そう確信できた。
そして彼らの狙う人間は実は絞り込めてした。次狙う相手は他国でもFCMBでも重要な人物であった。
異世界の鷲使い、結川であるということ・。
しかし結局は秘密裏で動いても間に合わず、表向きで動かなかったことから、政治上、大きな失態として大きな黒歴史になることをまだ知らない。
6/18
2200hrs
ディレクタス空軍基地
この基地は今は静けさに満ちている。
フェルナンデス元帥の退陣で空軍のお偉いさんも出払ったり、勲章授与で盛り上がったメンバーによる酒盛りが行われ、一部を除いて警戒が薄くなっていた。
関係ないメンバーも酒が飲めると聞いて集まり熱狂的になっているが、その主役といって過言でない結川はその場を離れて静かな滑走路近くを歩いていた。
本日に限りスクランブル要員も少なく、滑走路から飛び立つ飛行機もいない。首都の基地としては本当に静かなものだ。代わりにエウレノとかの前線や、レーダー基地は修羅場だが仕方ない。
結川は胸に付けてある勲章を持つ。
十字は鉄であるが、白鷲はプラチナをふんだんに使用した超高級な勲章。大統領閣下自らつけられたとき、今までこまごま貰った勲章が全て吹き飛ぶその重厚さと素晴らしい意匠に度肝が抜かれた。
また、酒の関席では居残りの将官殿や、ゲベート政府から来た人間から次は首都の守護神や、ベルカに派遣して恩を売ろうではないかと持ちかけられていた。まあそれが嫌で抜け出したのだ。
なぜゲベートの人間がウスティオに来ているか?それは二週間前に発表された案件がある。
ウスティオ・ゲベート連合化計画、事実上、ゲベートを州単位に再編成のちにウスティオの連邦にする。同時にB7R「円卓」の管理をウスティオ主導にするというのだ。
ゲベートは経済政策は人口にありと人口増加政策を推し進めたが失敗し、むしろ増えた人口はウスティオに流れてしまっていた。
ウスティオは資源が発見される前はその国土の半分をゲベートに割譲予定であったが、1988年から約20年ちょっと、立場が逆転したのだ。
ゲベート側はこの発表に賛成派が多く、反対派はテロの構えも見せたが、事前に掃討していたため治安悪化はそこまでひどくなく、ウスティオ側も既にゲベートには民族的に近いものとして有償の支援をしていたことも含めてこちら主導ならと平和的に併合の構えを見せている。
しかし、根強く反発する各国野党、自治州があり、これの為に与党は余裕の構えで各国裁判所及び国民投票の判断を仰ぐことにした。
なお、これが実現すれば首都ディレクタスの人口40万あまり[ゲーム世界と違い経済発展で人口流入が多い]に対して地方都市の人口多い、約4200万のサピンと互角の地域大国は間違いなしである。
まあそんな政治話も聞かされると嫌になってしまって抜け出して今に至るわけだ。
夏も近づき始めて、暑さは日に日に増すが、日本と違い空気が乾いてて不快指数は上がらず、むしろ夜はまだ少し寒さも感じる。
「なんでこんなことになったのだろうか」
一人呟く。
ゲームの世界に飛んできて、ウスティオ空軍の一員として歴史の変わったオーシアと戦争して生き残って、しかし自分の持ってる知識では何も出来なくて・・・。
せっかくお膳立てしてくれたアリチェにも手を出してはいない。視線が痛かったが、どうしてもそうなれない。
好意はある・・・うん、だが、国境なき世界を倒せば自分は元の世界にいきなり戻るかもしれないし、戻れないかもしれないし・・・とりあえず、ラーズグリーズなどの神々が作りし箱庭の並行世界をどう立ち振る舞えばいいのか良く分からなくなっていた。
背負うものが多くなりすぎた気がする。
仮初ながら平和になり、考えたくないことも考えるようになってしまった・・・どうしよう・・・
鬱のスパイラルにはまりつつあると。
「こんばんは」
結川は声のする方向を見る、格納庫の近くの暗闇から街灯の下に現れるのはウスティオ空軍の制服を着た、大尉の階級章を付ける男、しかし違和感を感じる。
「・・・所属と階級を答えろ」
結川は睨む。男は
「おお、怖い怖い、中佐殿といったっていきなり睨み付けることはないでしょうに」
「しらばっくれんな、戦術輸送隊のマークつけてるが、見たことない顔だな」
結川の言葉に男はくすくす笑い
「警衛の兵卒君にはばれなかったんだけどな、当たりですよ。初めまして、国境なき世界ウスティオスカウト担当のガルーダです。ああ、名前はコードネームで許して下さい」
一層警戒感が高まる。なぜ悠長に挨拶してくるんだ?
「一体何の用だ?」
「言ってるじゃないですか、スカウト担当だと。あなたをスカウトしに来たのです。まあ早い話こちらに付きませんか?」
「断る。貴様らなんかに魂売ってたまるか」
結川は半歩後ろに下げる。いつになっても逃げられるように・・・
「・・・そうですかぁ、ですが登場して一か月で撃墜スコア16稼いだ人間を簡単に逃がすわけないでしょ」
瞬間、結川は羽交い絞めにされる。いつの間に?!そう、結川はガルーダと自称する男にいつの間にか釘付けにされて、集中していたはずの警戒が散漫になっていたのだ
「本当なら腕の一本おって戦意喪失させたいですが、室長はおもちゃを先に壊されるのは嫌な人でしてね、とりあえず眠っててください」
羽交い絞めかける男はボンベを取り出して、そしてボンベの先端にあるマスクを結川につける。これは・・・
必死に吸わないようにするが、だんだんと意識が遠のき始める・・これじゃ・・・
「おい、何やってんだ!」
そこに現れたのは全く関係のない警備兵、しかし平和であるため小銃は肩に掛けたまま・・・
「おや、目障りですね」
直感で感じた、このガルーダって奴、対象以外には容赦ない。やばい!
だが遅かった。ガルーダはハンドガンを取り出し、容赦なく警備兵を撃つ。
「ガ・・・お?」
「~~~~~!」
胸に穴をあけられた兵士は何も言えずに膝から崩れ落ちていく・・・
「ちょっ、ガルーダさん」
羽交い絞めの男が少し緩んだ気がした。その瞬間、怒りと、自分の不甲斐なさと、殺意が混じり、結川は落ちかけた意識が覚醒する。
両腕を一気に広げる形を取りつつ体を一気に前に倒す。羽交い絞めいている男は体勢を崩す。ボンベを落とし宙を彷徨う右手を掴みそのまま体(たい)捻り、足を180度すり足で回転させる。
「しねやぁああああああ!!!!」
防衛大学校時代、友人に教わった武術
合気道、四方投げ、それがこの技の名前
普段なら相手の肩を考えて壊さないように投げるが、既に意識が覚醒状態でも力が抜け、肩の駆動できない部分に相手の手を動かし、一気に体重かけて下に落とす!
肩、肘の部分から聞こえてはならない破壊音と共に男の肩は脱臼して関節部分はあらぬ方向に曲がっていく、同時に受け身も取れない状態でそのまま地面に叩きつけておまけで手首も砕く!
「あぎゃあああああああ!」
大の大人がつんざくような悲鳴を上げてのたうち回るが、既に砕けている腕がぶらぶら動き、さらに無限の苦悶を与える。
そのままビクビクと跳ねた後、意識が現実を逃避して飛んでいく。
「いやー、やばいね。なに、今の格闘術?」
だが余裕をもっていたのは一瞬だった。倒れた警備兵は血を吐きながら最後の力で笛を吹く。その大音響の笛はやがて警備兵をたくさん集める。
「ちっ、しぶとい奴め・・・しょうがない、ユイカワ中佐殿、また今度お礼も込めてお会いしましょう」
ガルーダはそのまま仲間を見捨てて暗闇の道を走っていく。
「中佐殿!大丈夫ですか!」
「早く追いかけろ!国境なき世界だ!」
「!、了解!!」
酒を飲んでない警備兵はその暗闇の道を笛を吹きながら後を追っていく。結川は彼らに任せたのちに、倒れている兵の元に向かう
「おい!しっかりしろ!」
抱え上げるが、既に虫の息・・・どう見ても笛で最後の力を使ったようだ
「はぁ・・・中佐殿・・・ご無事ですか」
「何も言うな、今医官が来る」
結川は言うが、兵士は悟ったように笑みをむけ
「無様ながら最期に鷲使いを守れたことに・・・栄光を・・・」
はうっ、と一回大きく息を吐き、そのまま事切れる。蘇生も出来ないだろう。
「おい・・・おい・・・」
結川は震える。そっと床に置き、後から来たベテランの軍曹に問う
「この・・・警備兵の名前は分かるか?」
「ディレクタス警備隊第4小隊所属、タレス・マッキーニ上等兵です・・・伍長昇格間近でした」
「そうか・・・」
結川は何も言わず敬礼する。そして手をぶらりと下げ
「クソッタれめ・・・クソッタレめぇ!!」
暗闇の空に向けて咆哮する。しかし夜空は何も答えてはくれなかった・・・。
後にサピンはこの結川を狙っていたことを掴んでいながら報告をしなかったことで、大きく外交上不利になり、プロパスもまた、大きな代償を払わされることになる。
また、サピンは地域大国と、国土と国境から半包囲になるウスティオ連邦化計画に反対であったが、結川という重要人物拉致未遂、及び警備兵の殉職を楯に、サピン側に反対一辺倒では出来ないように圧力をかけていく政治材料にした。
FCMBはどんどんと歪んでいく・・・。
アイキドー!