スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第十七話 泣き虫の亡霊~前編~

 一日目は下準備に奔走していた。まずはカイに事情を話し、単独で向かう旨を告げた。

 当然止められたが、何とか押し切れた。

 次に輸送機の確保だった。これは前日に申請書を作成していたので決裁を回すだけの簡単な作業。

 最後はシュルフツェンの整備。これも整備班に頼み込み、完璧な状態に仕上げてくれた。

 考えられる限りのことは全てやり終えた。

 

「……戻ってきた、と言う表現が正しいのですかね」

 

 そして二日目。輸送機に乗り込み、伊豆基地を離れたライカ。輸送機に揺られること数時間。

 窓からライカは決戦の場を眼下に収める。

 そこはかつて冥王の島と呼ばれた。――今ではそこは地上の聖誕祭と呼ばれている。今の自分にとっては、ただの決戦地に過ぎない。

 地図データを見ると、“ハウンド”達は『グランド・クリスマス』に近い小さな孤島に潜伏していた。巧妙に隠されていたが、僅かに“ハウンド”の愛機――ヤクトフーンドの反応が感知出来る。

 シュルフツェンに乗り込み、センサーを走らせると、孤島から出撃したと思われる熱源が徐々にこちらに向かっていた。

 コンソールを叩き、ライカはシュルフツェンに積み込んだ武装のチェックをする。改造型コールドメタルナイフ、M90アサルトマシンガン、G・リボルヴァーに携行型大鋏、そして複合型バズーカだ。

 これ以上に無いぐらいのフル装備。手数は多い方が良いと、メイシールが考案した二つの武装も採用したのは恐らく間違いではないだろう。

 『CeAFoS』も後は起動を待つだけだし、強制起動条件と言える波長計も正常だ。全身のスラスターハッチも滞りなく開閉できる、肘裏の二連ブースターも異常は無い。

 整備班には感謝してもしきれない。これで負けたら笑いものだ。

 

「一機……この反応はアルシェン、ですか」

 

 もう少しで交戦空域だ。操縦桿を握りしめ、ペダルに足を掛けたライカは大きく深呼吸をした。

 この出撃が最期の出撃にならなければいいが、ライカはそこまで思った後、首を横に振った。

 

「いいえ……私はこの先も生き続ける。私は……!」

 

 ペダルを踏み込み、シュルフツェンは大空へ羽ばたいた。あの時と同じ、とてもいい天気だった。

 

「よう、来たな」

 

 シュルフツェンと向かい合うような位置で停止した艶の無い黒いガーリオンの右手には両刃のアサルトブレードが握られていた。その切っ先がゆっくりとシュルフツェンのコクピットへ向けられるのも気にせず、ライカはきっぱりと言い捨てる。

 

「貴方に用はありません。“ハウンド”はどこですか?」

「俺を殺さなきゃ出てくることはないな」

 

 人差し指を立て、左右に振るガーリオン。どこまでもふざけた奴だ、とライカは思う。そして確定した。

 恐らくアルシェンよりも“ハウンド”の方が力関係が上なのだろう。そうでなければ……()()なんてやらせない。

 それはライカにとっては即刻越えなければならない“ただの障害”と言うことで。

 

「……そうですか。なら、突破させて頂きます」

「とまあ、その前に……」

 

 通信モニターに見慣れない黒髪の男が映し出された。ヘルメットを着用しない主義なのか、アシンメトリーの前髪を掻き上げている。

 ニコニコとした愛嬌の良い笑顔だが、そのギラついた目が全てを台無しにする。こちらのそんな感想なぞお構いなしとばかりに、男はこちらをジッと見つめていた。

 そして、どこか納得したような溜息を漏らす。

 

「ほお。だよな、そういう顔だったよな」

「何を……?」

「いいや。ただの確認だ。……改めて自己紹介をさせてもらおう。アルシェン・フラッドリーだ」

「……ライカ・ミヤシロです」

「ああ、()()()()()()()()()()とも。よぅく知っている名前だ。ああ、オーケー。もう心残りは片付いた」

 

 ガーリオンがアサルトブレードを水平に構え、徐々に迫ってきた。その速度は勢いを増し――加速する。

 

「じゃあさ、やり合おうか!!」

 

 すぐさまアルシェンを避けるように高度と移動軸をズラし、アサルトマシンガンのトリガーを引き絞った。放たれる弾丸が掠りもしない。

 そのまま放ち続け、シュルフツェンのメインスラスターを最大出力まで上げた。直進するシュルフツェンを迂回したアルシェン機が急停止し、ほぼ直角に方向転換をしてくる。

 アサルトブレードの刃がチェーンソーのように回転し、切断力を向上させてきた。背中を晒しているにも関わらず、ライカの表情に曇りは無い。

 踵側のペダルを踏み込み、メインスラスターの出力を一気に下げ、操縦桿を一息に引き上げた。慣性により、横に移動しながらシュルフツェンの脚が一気に振り上げられ、機体が上下反対の体勢になった。

 シュルフツェンはアルシェン機の脚を、アルシェン機はこちらの脚部を見るような逆さまの体勢。

 銃口はアルシェン機のコクピットに向け、引き金を引いた。この姿勢制御は想定していなかったようで、回避行動があまりにも遅かった。

 直撃コース。そう確信し、弾丸の行く末を見ていると、あろうことにアルシェン機は左掌を翳したのだ。

 瞬間、掌大のエネルギーフィールドが発生し、コクピットへ吸い込まれるはずだった弾丸を全て弾いたのだ。

 

「『T・ドットアレイ』のエネルギー力場……!」

 

「――(ティードットアレイ)・ハンドだ。コイツは()けんぞ」

 

 でしょうね、と取得したデータを見て、戦慄するライカ。本来なら機体前面を覆える程のエネルギーを全て掌という一点に凝縮して形成されたフィールドだ。これを真正面から貫くと言ったら、恐らくは『特機』による質量攻撃ぐらいしかない。そんな考察はさて置き、すぐにメインスラスターを再起動したライカは距離を取ろうとしたが、その前にアルシェン機の接近を許してしまった。

 

「刻んでやるよ!!」

 

 コールドメタルナイフに持ち替えたシュルフツェンは真っ向からその回転刃を受け止めた。素材が素材だ、そう簡単に刃こぼれはしない。

 

「はっはぁ! 近接戦闘(インファイト)は流石だなオイ!!」

「誰と……比べているのですか……!」

 

 アサルトブレードの腹を叩き、少しだけ逸らしたライカは操縦桿を一気に倒した。自らが作り出したその隙を逃さないよう、彼女の動きに合わせるが如く、ナイフを持つシュルフツェンの腕部が閃いた。

 左胸を僅かに傷つけただけの小破以下。すぐさまアルシェン機が全身のスラスターを使い、こちらを蹴りつけた。

 質量同士のぶつかり合いは頭が揺さぶられるような衝撃だった。一旦離れようとすると、アルシェン機は武器を持っていない方の左腕部を向ける。途端、そこからばら撒かれる弾丸。

 胸部から発射されるマシンキャノンと合わせて、それは直撃するわけにいかない弾幕と化した。操縦桿を横に倒し、大きく円を描くように回避するが、脚部に少し当たってしまっていた。

 ダメージコントロールをすることで戦闘行動には支障が無いが、これが積み重なったらそれこそアウトだ。ある程度撃ったらそのまま加速してきたアルシェン機を振り払うように、機体を後退させる。

 そのまま、空いている手に複合型バズーカを持たせ、照準を合わせる。『スパイダー弾』は放たれるとすぐに、弾頭が割れ、中から網ネットが展開された。

 高度を下げてやりすごした所へアサルトマシンガン下部のAPTGMを撃ちこんだ。

 

「二段構えか……!」

 

 当たりこそしなかったものの、アルシェン機の体勢を崩すことに成功した。――ここしかなかった。

 肘裏の二連ブースターを起動させ、より機体を加速させたシュルフツェンはそのまま一気にアルシェンが得意とする距離へ飛び込んだ。

 いつもなら丁寧に距離を取り、ジワジワと敵を追い詰めていくのだが、後に控えている者を考えるとなるべく損傷を抑えたかった。アサルトブレードの突きを避けたその先に胸部マシンキャノンが待っていたが、この機体の強みである瞬発力で側面を取り、プラズマバックラーを起動させた。

 左手を翳したアルシェン機の掌から『T・ハンド』が発生し、シュルフツェンのプラズマステークを受け止められた。一発目が爆ぜ、二発目が爆ぜたあたりで、もう片方のプラズマバックラーを起動させる。

 

「ここ……!」

 

 ――三発目が爆ぜたと同時に、アルシェン機の左腕部側面へもう片方のステークを叩き込んだ。片方を囮にし、もう片方で腕部を持っていく。

 即興の戦法は見事に嵌り、アルシェン機から左腕部を奪い取った。

 

「思った以上だ……! そうか、ここでもそうなのか……! ここでも俺を超えるか……!」

「……浸っていてください」

 

 機体を上昇させながら武器を持っている腕部の内蔵式マシンガンを乱射していたアルシェンは酷く戸惑っている様子がモニター越しに見受けられた。だが、その程度で慈悲を掛けるほど優しくは無かった。

 雷のような鋭角な軌跡で近づいたシュルフツェンは速度をそのままに、機体をぶつけた。相変わらずこのタックル癖は抜けないが、胸部のマシンキャノンを殺すという意味では有効なので良しとする。

 ――ゼロ距離。

 シュルフツェンの左腕部はアルシェン機の残った右腕部をしっかり拘束していた。一瞬の迷いもなく、ためらいも慈悲もなく、空いているほうのプラズマバックラーをアルシェン機の胴体へ突き入れる――。

 

「畜生、呆気ねえ……」

 

 深々と突き入れたステークを引き抜いた時には既に、ガーリオンに戦闘をする力は無くなっていた。あるとすれば……機体から飛び散る火花。

 当たり所が悪かったようで、早く脱出しなければ爆発する状態だ。

 

「……貴方は」

「……何だよ?」

「貴方達は……何者なんですか?」

 

 アルシェンは言いかけ、すぐに口を閉じて笑った。お楽しみは最後まで取っておいた方が良い、そんなことを言いたげな笑みだった。

 

「さあね。あいつ……“ハウンド”が教えてくれるだろ。もうここまで来たら、どうでも良いと思うしな……」

 

 機体が小爆発を起こし始めていた。これ以上は本当に危険だ。

 

「脱出をしてください。……まだ、間に合います」

「優しいねえ。だけど……、良いわ。とりあえず、『ライカ・ミヤシロ』には勝てないってことが分かったんだ。それで……納得しちまったわ……ゲフッ!!」

 

 突然アルシェンが血を吐いた。コクピット内が破損したのだろうか、良く見るとアルシェンの腹部に破片が突き刺さっていた。

 機体も、命も、既に間に合わない段階だったのだ。

 

「アルシェン!」

「はっ……良いねえ。心配そうな声って、そう言う感じなんだな。ついでに……愛の告白の一つでもしてくれると…………嬉しいんだがね」

「死ぬのを受け入れるな……! 脱出を……!」

「……どけ。これが……俺の最期の誇りだ」

 

 これが最期と言わんばかりに、ガーリオンはシュルフツェンを軽く蹴り、その反動で僅かに離れていく。徐々に大きくなる爆発は、既に機体を包むほどになっていき――。

 

「あぁ……もう一回戦いてえな」

 

 ――その瞬間、一際大きな爆発が起こり、止んだ頃にはガーリオンは原型を留めてはいなかった。

 

 最後まで闘争心を失わないまま、アルシェン・フラッドリーは紅蓮に散った。散り際に思う所はあった。

 最期の最期まで、彼は自分を誰に見立てていたのだろうか。それだけが……分からなかった。

 

「……それも含めて、教えてもらいましょうか」

 

 先ほどから高速で接近してきている熱源反応へ向け、そう呟くライカ。

 

「……アルシェンがやられたようですね」

 

 “一つ眼”ことヤクトフーンドがこちらを見下ろしていた。その風貌は依然変わらず奇々怪々だが、見慣れてくると実はかなり合理的なデザインに思えてくる。余計な贅肉を削ぎ落とした、そんなシンプルな感じだ。

 通信用モニターに映し出されたのは口元だけ開いたヘルメットを被った人間だった。声色を変えているようだが、それでも女というのは何となく分かる。彼女の表情はその開いた口の動きから推測するしかなかった。

 

「ええ。私が落としました」

「……そうですか。見事な腕です」

「……仲間だったのでしょう? 随分と冷静でいられるのですね」

「ええ、まあ。……しかし、貴方に理解してもらえない思考ではないはずですが?」

 

 ……図星だった。きっと、私も同じような割り切り方をしているだろう。少しの感情の揺れが、戦場では命取りだからだ。敵を葬ってから後の事を考える。

 腹立たしいことに、敵と自分は似た思考のようだ。そこまで思ったところで、突然サブモニターの表示が切り替わった。そこに表示されていた文字を見て、ライカは自身の予想が当たってしまったことに小さく舌打ちをした。

 

「……その機体……」

 

 先ほどから何度も何度も『CeAFoS起動』の表示が明滅されていたのだ。機体は既にハッチが全開放されている。以前の《バレリオン》でも同じような現象が起きていた。互いが互いの最適の動作をリンクしている状況。……この“互いの最適の動作”が引っかかっていた。

 最適の動作を提示し続けるなんて事、ライカの知識ではたった一つしか思い当たる節が無かった。

 そこから辿りついた仮説、それは……。

 

「……『CeAFoS』ですか?」

 

 敵にも『CeAFoS』が搭載されている、ということ。“ハウンド”はそれをあっさり認めた。

 

「ええ。そちらの『CeAFoS』より完成度は低いですが、間違いなく『CeAFoS』です。メイシール少佐が搭載してくださいました」

「……それがどれほど危険なシステムか気づいていない、とは言わせませんよ」

「分かっていますとも。恐らく、今の貴方よりは知っています」

「謎かけですか? それとも……」

「……メイシール少佐から伝言を預かっています。『私は逃げない』、だそうです」

 

 なるほど、とライカは操縦桿を握りなおした。どうやらもう逃げることはしないようだ。ならば、早く彼女の元へ行かなければならない。

 

「……上等。そうですか。了解です。なら、決着を着けましょう“ハウンド”……! 三度目の正直、果たさせて頂きます……!」

 

 “ハウンド”の口元が引きしめられた。恐らく、“切り替えた”のだろう。

 

「上等です。互いのコンディションはこれ以上ないくらい整っているのですから、あとの勝敗を決めるのは――腕です」

 

 ――最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 互いが離れ、牽制合戦をすべく、それぞれ射撃兵装を構える。『CeAFoS』のリンク現象によって、互いの手の内が見えた中での射撃戦は壮絶を極めた物だった。

 “無駄”と“最適”をいかに取捨選択していくか、それが問題だった。ここまで戦っていて分かったことは一つ。

 自分と“ハウンド”の技術にそう差が無いことだ。

 旋回しながらアサルトマシンガンで弾幕を形成し、逆のバズーカでその隙間を埋めていくも、ヤクトフーンドの運動性能の前では大して効果は為さなかった。

 むしろその更に隙間を縫うようなヤクトフーンドのレールガンの弾がシュルフツェンへ徐々にダメージを与えていく。こちらは関節部をさっきから弾丸が掠っているだけで致命傷までは与えられていなかった。

 慣性を無視した機動を繰り出しながら、ヤクトフーンドのクローアームの三本爪が展開する。またあのドリルか、そう思っていたライカの背筋に冷たい感触が。

 その感触に従い、機体を後進させると、次の瞬間自身の勘に感謝した。クローアームが伸びてきたのだ。ワイヤーで繋がれたクローは接合部の姿勢制御用スラスターで巧みに機動を変えながら、こちらを喰わんと追ってきている。

 

「有線兵器にもなるのですか……!」

 

 当然、内蔵されていた機銃は健在で。片方は機銃でこちらの死角を潰さんと動いてきていて、もう片方は回転させた爪で風穴を開けようとしている。

 複合型バズーカの『チャフ弾』を考えたが、ミサイルでもないので効果はないだろう。こうしている間にもレールガンで嫌らしい牽制を続けている。

 シュルフツェンの機動性のお陰でまだ被弾らしい被弾はしていないが、このままではジリ貧だ。なんとしてでもあのクローアームをどうにかしないといけなかった。

 アサルトマシンガンを放ったら、機体の前まで傘のように回転させたクローを移動させ、弾丸を全て逸らされてしまった。

 その万能さはそのままアドバンテージとなっている。

 

(ああ、そういえば……)

 

 こちらを貫かんとしているクローへ複合型バズーカを向けたライカは、そのままメイントリガー下のトリガーを引いた。バズーカ下部から高圧電流を纏ったアンカーウインチが射出される。

 すると、こちらのワイヤーが回転しているクローへ絡まった。電流と絡まってしまったせいで、クローの一つは爆発を起こす。こちらのバズーカもダメになったが、ようやく片方は潰せた。

 

「……面白い武装ですね」

「……少佐に聞かせてやりたいです」

 

 片方が無くなったというのはかなりやりやすくなった。携行型大鋏を取り出したライカは操縦桿を細かく動かし、ペダルの踏む力も微妙に変える。

 上手いことにクローを避けたライカは伸びきったワイヤーへ向け、大鋏を開いた。ワイヤーを挟み込み、両端のスラスターが起動して力を倍加させた刃は一息にワイヤーを切断することに成功した。

 これで……ようやく両手を奪えた。

 横っ飛びにスラスターを噴射させ、メインスラスターを解放し、大鋏を閉じて推力の方向を一直線にしたシュルフツェンは文字通り“矢”となる。

 

「これで……ぇ!!」

 

 回避行動を取る暇さえ与えない畳み掛け。その努力報われ、閉じた鋏の刃はヤクトフーンドの胸部へ突き立っていた。両腕がダラリと下がったのを確認したライカは一旦離れ、様子を窺うことにした。

 

「……お見事、です」

 

 “ハウンド”のヘルメットがヒビ割れていた。だがその口元にはまだ余裕が見えて。

 

「……余裕ですね。負けを認めましたか……?」

「いいえ、まさか。……ヤクトフーンドの鎧を剥がしたことに賞賛を贈っただけですよ」

 

 ヤクトフーンドの頭部から胴体、胴体から腕部、そして脚部へ小さな爆発が連続して発生していく。“ハウンド”のヘルメットのヒビが徐々に大きくなっていく。

 

「これは……!」

「……そういえば、自己紹介をしていなかったですね」

 

 まず脚部の部品がバラバラになっていった。――その内部からは灰色の脚部。

 胴体がバラバラになった。

 

「嘘……だ……!」

 

 ――その内部からは灰色の胴体。

 腕部がバラバラになった。――その内部からは灰色の腕部。

 そして頭部がバラバラとなり、ヤクトフーンドはライカが一番見慣れている――愛している機体へとその姿を変えた。いいや、本来の姿を晒した。

 それに合わせたかのように、“ハウンド”のヘルメットが……割れた。

 

「私は……」

 

 仮面の下の顔は良く知っている顔だった。いいやそれには語弊があった。

 ――世界中の誰よりも、知っていなければならなかった。

 

「私は地球連邦軍特殊任務実行部隊……」

 

 晒された“ハウンド”の黒に限りなく近い赤髪。そして見慣れた無表情な顔。

 間違いない。ああ、間違えて堪るものか。全てに納得がいった。

 どうして自分を知っているのか、どうして自分とほぼ操縦技術が近いのか、どうしてアルシェンがあんなにこだわっていたか。

 どうして――考えがこんなに似ていたのか。

 “ハウンド”は素顔のまま、言葉を続けた。

 トドメを刺すように、目を背けることなど許さないように、逃げられないように。

 

 

「“シャドウミラー”隊員、『ライカ・ミヤシロ』です」

 

 

 自分と同じ声で、自分と同じ顔で、彼女は――。

 

 

 ――『ライカ・ミヤシロ』はそう事実を告げた。




次回は7/13 12:00に更新予定です!
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