輸送機タウゼントフェスラーの中は物々しい雰囲気に包まれていた。
謎の可変機を収納し、その中から出てこようとするパイロットに対し、銃が向けられていた。当然である。既に世の中に対するPTやAMのパイロットに対する認識は完全に固まっている。
人間か、それ以外か。
そんな兵士の中で一人だけ腕を組み、事態を静観する者がいた。
彼の名はギリアム・イェーガー。
数奇な運命を彷徨う旅人にして、地球連邦軍情報部の一員である。
彼はジッと機体を見つめていた。見たことがない機体。ならば、まずは下手な憶測を立てず、見るがままの情報を整理することが礼儀とすら言える。
「間近で見るのは初めてだな。『プロジェクトTD』の技術が一部盗用され、建造されたというAM、ヴァリオン。星の夢を見る者達の情熱を掠め取った機体の完成度なぞ……と偏見を抱いてはいたが、これは中々と言わざるを得ない」
ギリアムの目は旧特殊戦技教導隊のものとなっていた。
その機体を一言で言うのならば、質実剛健。人型と非人型を両立させるべく練り上げられたフォルムであった。
ビルトラプター、アステリオン、アルテリオン、R-1、そしてART-1。サイバスターなどの特機を除外すれば、可変が可能な機体と聞かれてすぐに挙げられるのはこれぐらい。
どれも高いレベルではあるが、あくまで長距離移動がメインの機体が多い。
だが、この機体は違う。どちらか“を”、ではない。どちら“も”使うことが大前提とされる機体と見えた。
これほどの完成度を叩き出せるメーカーに、ギリアムは些かの興味を覚えた。
「ほぉ~……これが噂のヴァリオンですか。良い機体じゃないですか。こういう機体が“向こう側”にもあればだいぶ早く制空権をがっちりと握れたんですがね」
「君の思考はつくづくテロ屋のそれだなフウカ」
「テロ屋みたいなもんですからね。そりゃそうですよ」
フウカ・ミヤシロはヴァリオンのコクピットへと目を向ける。
「で、今から出てこようとする人間が例の自警団『タースティア』の人間ですか?」
「ああ、そうだ。そしてあの者こそが我々連邦軍情報部に接触してきた人間でもある」
「唐突に情報があったんでしたっけ? あの空域を通り抜けた先のエリアで合流し、『タースティア』について告発したいことがあるっていうことで」
「ざっくりと言ってしまえば、『タースティア』というのは我々連邦軍がアテにならないから、自分たちの手で世界を守るという大義を掲げて設立された自警団だ。そんな組織の一員がよりにもよって目の敵にしている我々に対して話がある。……これは聞く価値があると思う」
「同感ですね」
ヴァリオンからおりてきたパイロットを見て、フウカとギリアムは驚愕した。
幼い女性、と。控え目に言って、そういう感想だった。
茶髪のショートカット、整った顔立ち、均整の取れた筋肉。だが、瞳だけはギラついていた。
「アラド達以上キョウスケ・ナンブ中尉以下ってところですかね?」
「見込み通りだろうな」
おりてきたパイロットはすぐに拘束されようとした。それをフウカが止める。
「フウカ」
「安心してくださいギリアム。多分だけど、私が口を挟むべきなんだ」
言いながら、フウカは女性の元へ近づく。
「やぁやぁやぁ。我こそは地球連邦軍情報部フウカ・ミヤシロです。早速ですが貴方のお名前を伺いましょ――」
次の瞬間、女性はフウカ目掛け、突撃した。その手には小型のナイフが握られていた。
だが、鍛え抜かれた情報部のメンバーは冷静だった。静かに銃を向け、凶暴な存在を排除しようとする――。
「余計なことをするな!」
一喝。
そのまま、フウカは女性に対応する。
「そうでしょうね。油断している敵の首目掛けて刃を振るう。正しい判断だ。だけど――」
突き出される腕を取り、足を払い、そのままフウカは対象を地面に引き倒す。
「相手が悪かったですね。私を殺したいならまずは人間を捨てて、化け物にならなくては。はっはっはっ」
「はっ! 流石は地球連邦軍情報部。小手先の技術は身についているみたいだね!」
「当たり前ですよ。貴方程度、無限に制圧できるってことを忘れられては困りますよ」
「アァ!? これはたまたまでしょうが! 貴方程度、無量大数回殺せるんだけど」
「ほぉ? 皆、ちょっとマジで手出さないでくれますか?」
ギリアム含め情報部メンバーが呆れた表情を浮かべる。
大人げない、という感想が一つ。負けず嫌いめ、という感想が二つ。要は生暖かい目で見るしかないのだ。
「来なさいヌーブ。私が少しだけ大人の世界を教えてあげましょう。ナイフは使ってもいいですよ?」
「やれるものならね」
ナイフを投げ捨てた女性とフウカのそこからは拳と蹴りの応酬だった。怒りに任せて振るわれる攻撃をフウカが冷静に捌き、転がしていく。
すぐに立ち上がる根性は
女性の攻撃、カウンター。これを繰り返していくと、やがてフウカは言った。
「これで少しは血の気抜けましたか?」
「……ええ、抜けたわ。悔しいことにね」
「それなら良かった。そういえば自己紹介が遅れましたね。私はフウカ・ミヤシロ。貴方のお名前は?」
床に大の字で転がされている女性はそのままの姿勢で、フウカを睨みながら、こう答えた。
「シラユキ。シラユキ・カタハナ。自警団『タースティア』の元メンバーよ」
「よろしくお願いしますシラユキ。そしてこのまま聞きます。貴方がここに来た目的は?」
一瞬だけ深く呼吸をした後、シラユキは言った。
「『タースティア』を壊滅させて欲しいんだ。……今の『タースティア』はおかしい。ビリィは――『タースティア』のリーダーは世界に対して、宣戦布告をしようとまで考えている」
シラユキはそう言った後、腕で顔を覆った。
めちゃくちゃお久しぶりです!!
2017/01/16の更新以来となります!!
まず言いたいこととしては、この作品忘れてはおりません。
むしろ、ずっと心に残っていた作品です。
今の私の状況としてはとあるサイトで、他人様からお金をもらって作品を読んでもらっているという仕事に就いております。(もし詳細を知りたい方がおりましたらお手数ですがDMお願いします)
ようやく書くことが出来ました。
これからの予定ですが、不定期ながらこの作品の更新を再開し、完結まで持っていきたいと思います。
それに伴い、一話あたりの文字数減少と今の執筆スタイルに沿った文章レイアウトになりますのでご理解願います。
もう待っている人はいないと思いますが、あえて言います。
お待たせしました、今更ですがこれからもよろしくお願いします。