侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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第20話 罠にはめられても死にたくない

岩だらけの道を、馬に乗って駆ける姿が3つ。

 

「隊長のほうは大丈夫かな……」

「けど、アリィさんが言うにはあっちはフェイクなんだろ? まぁ絶対なんてわかるわけないけどさ」

「とりあえず行きましょう! あとの二人もそのうち合流するはずです!」

 

 

 

 

 

エスデスが怒り任せに街路樹を殴り倒したその後。

どうしても戦力を二つに分けるのは決定だと言い張ってエスデスはアリィの言葉を認めようとはしなかった。

しかし、ここでアリィへと援護が入る。

 

「隊長……私、南のほうへ向かいたいです!」

 

手を上げたのはセリューだった。

本来はエスデスと共に東へナジェンダを追うメンバーの一人だったが、アリィの話を聞いて姑息な悪は待ち伏せや罠を仕掛けてもおかしくない! と考えたらしい。

結果、アリィの考えたナイトレイドの罠は考慮する価値があるというのが彼女の意見だった。

 

「私は正義を執行するために、より悪が出没する可能性の高い南へ向かいたいんです! 許可してください、隊長!」

 

エスデスとしてはこれを認めるとアリィの意見を間接的に認めることにもなるため受け入れたくない。

しかし、このままでは話が進まないと考えたのだろう。

アリィは二人の間に入ると折衷案を提案した。

 

「わかりました、エスデス将軍がどうしても、というのなら戦力を二つに分ける方向でかまいません。ただし、セリューさんを南へ向かうメンバーにいれてください。そちらは二人となりますがあなたがいますし少数が相手なら十分戦えるでしょう。万が一そちらに戦力が集中していても、ランさんは飛んで退却することができます。ましてあなたなら一人でも戦うか退却するかできるのでは?」

 

この意見にはエスデスも頷くことになった。

確かにエスデス個人の戦力は相当なものであるし、帝具使いといえど複数を相手取ることができるという自負もある。

また、退却することになった場合のことも考えてあるこの案は確かに現実的といえた。

 

「……よかろう。他に異論がなければそれでいく」

 

異議がでることはなく、結果アリィの折衷案が採用された。

ただその後、さらにアリィはこれからの行動について話を続けた。

 

「では南に向かうメンバーですが、ウェイブさん、ボルスさん、セリューさんはそのまま馬で向かってください。クロメさんは私と共についてきていただきたいのです。あとエスデス将軍、私が着いてくるにあたって頼んでおいたもの、しっかり連れてきてくれていますか?」

「臆病ものめ。まあお前を戦場に連れてこられるなら安いものだと思ったしな、ちゃんと用意してある。このあとそいつのところへ案内しておく。ただ、お前のように弱いやつの言うことは聞かんから動かすのはクロメに頼むんだな」

 

かくして用意は整い、二手……いや、三手に分かれて行動を再開したのである。

 

(……ウェイブからセリューの様子がおかしいと聞いていたから、できれば近くにおいておきたかったんだがな。まぁ、杞憂ならばいいんだが)

 

エスデスの心に、僅かばかりの不安を残して。

 

 

 

 

 

「でも、なんでアリィさんとクロメは俺たちと一緒に来ないんだ?」

「アリィさんは私たちより賢いからね……きっと何か考えがあると思うよウェイブくん」

 

しばらくの時間を馬で走ってすごした。

しかし、罠どころか襲撃もない。わずかに緊張した心がほどけた三人は、会話をしながら馬を走らせていた。

 

「アリィさん、戦えないけどその分頭がまわるってすごいですよね。俺そんなに頭がよくないからうらやましいですよ……」

「そう落ち込まないで。私たちは私たちにできることをやればいいんだよ」

「そのとおりです! 私たちは戦闘専門の帝具使いであり、悪を狩る正義の戦士! ウェイブさんも自信を持って悪と戦えばいいんです!! ね、コロ?」

「キュ!」

「お、おう……」

 

目をきらきらとさせるセリューにウェイブはなんとも言えない複雑な心境で苦笑をもらす。

目の前のセリューは、確かに年相応の正義に燃える少女だ。

だが、ウェイブは知っている。その正義はまっすぐでいるように見えて、確かに歪んだものなのだと。

あるいはまっすぐすぎるが故に鋭すぎるのか。捕まえた盗賊をその場で”断罪”してしまったセリューのことを、ウェイブは危ういと考えていた。

 

(帝都はここまでやばいんだ、ってあの時思ったけど……)

 

ウェイブは知らない。

セリューと同様、あるいはそれ以上に歪んでいながら、その片鱗を見せなかった少女が彼のすぐ身近で侍女をしていたということを。

 

さらに進んだ先で、急に三人は停止することになる。

 

「ウェイブくん、セリューちゃん」

「ああ、見えてます」

「罠でしょうか……?」

 

目の前には、「池面」と胸に書かれ、まるで筋肉を誇示するかのような腕を上に曲げた体勢をしている大きな案山子。

どう考えても、この場に自然にできるものではない。誰かの手によるものであることは明白だった。

 

「ちょっと調べてみましょう」

「気をつけてねウェイブくん」

 

スン、スン、とコロが鼻を鳴らす。

セリューの帝具は魔獣変化ヘカトンケイル。普段はコロと呼ばれている生物型帝具であり、犬の姿をしている。本領はあくまで戦闘であり探知に長けているわけではないのだが……それでも人間より嗅覚は優れている。

 

「……グルルル」

「コロ?」

 

セリューがコロの様子に気づき、唸り声を上げたコロへ怪訝そうな声を漏らす。

それがウェイブの耳に入ったものだから、思わずウェイブはそちらの方へ振り返ってしまった。

怪しく見ていた案山子の、すぐそばまで迫っていたというのに。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

「ぬおお!?」

 

瞬間、案山子の中から青い髪に角がはえた男が飛び出してくる。

武器らしき棍棒をウェイブにたたきつけるが、咄嗟であったにもかかわらずウェイブはグランシャリオの剣で止めてみせた。

戦闘能力はすでに完成された強さだ、とエスデスから評された彼の実力は決して並ではない。

 

だが、今回は不幸が重なってしまった。

振り返って隙を作ってしまったこと。咄嗟でしか受け止めることができず踏ん張りが聞かなかったこと。そして、目の前の男がただの人間ではなくコロ同様「生物型帝具」の帝具人間、電光石火スサノオであったこと。

 

それらの積み重ねによって、ウェイブは勢いよく吹き飛ばされる。

 

「ウェイブくん!?」

「ウェイブさん!?」

 

空に投げ出されたウェイブの体はそのまま飛んでいき、いずこかへ消えた。

これにより、事実上ウェイブは戦線から外れてしまったことになる。

 

「標的外の人間を排除できたのは幸運だったな」

 

砂煙の中、声が響く。

そこから現れた影はナイトレイドのボス、ナジェンダ。

さらにその後ろからはインクルシオを着たタツミ、アカメ、レオーネ……

スサノオを含め、ナイトレイドの近接戦闘者全員がそこにそろっていた。

 

「ボルス、そしてセリュー。お前たちは革命軍の中でも標的だ。覚悟してもらおう」

「コロ、きょだ……っ!!」

 

コロに戦闘態勢をとらせようとしたが、僅かなところで銃撃に気づき回避するセリュー。

そう、この場にいたナイトレイドのメンバーはこれだけではないのだ。

 

「シェーレの仇……必ず撃ち抜いてやるわ、セリュー・ユビキタス!!」

 

目の前でシェーレを殺され、復讐に燃えるマイン。

 

今ここに、ナイトレイドの戦力がすべて集結していたのだ。

だが――

 

「くく……クックックック。やはり悪は卑劣で、そして単純だな?」

 

顔をあげたセリューの顔にあるのは、狂気のごとき暗い笑み。

そこに追い詰められた様子はまったくなく、むしろ余裕すら感じさせる雰囲気にナジェンダの胸の中に違和感が湧き出てきた。

彼らは……まったく驚いていない?

 

「どういう、ことだ?」

「お前たち悪が卑劣な策を企んでいることも、私たちの戦力を分けてそこを叩こうとしたことも……アリィさんはすべてお見通しだったぞ?」

 

ゆっくりと指を突きつける正義の狂信者。

セリューの余裕とは裏腹に、あせりに満ちた声が響く。

 

「ナジェンダさん! 空から何か来てる!! しかも、見えないように糸で作った障害を全部よけてやがる!!」

 

結界を貼り、他の戦力が来ないか警戒していたラバックの声。

それは、新たな乱入者の到着を告げる声。

 

「上か!」

 

セリューやボルスとはナイトレイドをはさんで反対側に、一人の人影が降り立つ。

 

「会いたかったよ……お姉ちゃん」

「……クロメっ」

 

イェーガーズのメンバーにして、アカメの妹であるクロメ。

彼女はゆっくりと刀を抜くと、上に掲げる。

 

「私ね、前と違って死体なら人間以外でも人形にできるようになったんだ……!」

 

彼女の帝具、死者行軍八房。切り殺した相手の死体を人形として操ることができる刀型の帝具。そして何人かの人間、あるいは危険種の死体人形と一緒に、ひときわ巨大なものが現れる。

骨でできた恐竜のような巨大な危険種。

 

「それがたとえ……超級危険種のデスタグールでもね!」

 

前には帝具使い二人。後ろには死体人形を従えたクロメ。

罠にかけたはずが……完全にナイトレイドが挟み撃ちにされた状態だった。

人数差も、死体人形とコロを含めれば覆された状況になる。

そしてさらに、空の上にはもう一人。

 

「ではナイトレイドの皆さん。よく聞いてください」

 

エスデス将軍が用意したエアマンタに乗り、声を張り上げたのはアリィ・エルアーデ・サンディス。

さらに彼女は、一緒に乗せていた人影を見えるように引っ張ると、腰からナイフを抜いた。

 

「き、さま……!」

「確か、チェルシーとか言ってましたっけ? 革命軍に入ったという情報があった暗殺者ですね。彼女もナイトレイドなのでしょう?」

 

動かないチェルシーの首元に、ナイフがつきつけられている。

彼女を人質にしたのか、とナジェンダは歯噛みする。

罠にかけたと思ったはずが……逆に罠にはめられた。

 

「降伏するなら、彼女は解放してあげますが?」

「何を言うんですかアリィさん! 悪は一人残らず」

「セリューさん」

 

思わず声を張り上げたセリューだったが、急に底冷えのするような声で名前を呼ばれ身がすくむ。

先ほどまでの凶悪な顔が素に戻ってしまうまでに。

 

「邪魔、しないでくださいね?」

「……はい」

 

コロも僅かに震えている。

さて、とアリィはナイトレイドに向き直ると話を戻す。

 

「先ほどの提案ですが、どうなさいます? 大事な仲間でしょう?」

 

迷うようなメンバーの視線が、ボスであるナジェンダに向けられる。

ナジェンダだって苦しい。助けられるものなら助けたい。だが、ここで全員捕まってしまえば革命の可能性は一気に潰えてしまう。

それだけは……それだけは、認められない。

 

「……断る。我々全員が命を賭けて、死を覚悟してこの場にいる! 民のために革命を成功させるのは、チェルシー含め全員の意思だ! お前のように死におびえるやつらではない!!」

 

タツミからもたらされた唯一の情報。

それは、アリィが何よりも死を恐れているということ。むしろアリィとしても知ってほしいが故にあえて伝えることができるようにした情報だ。

 

「そうですか」

 

一触即発の空気。

全員が、これからの戦いにむけて緊張感を感じ、そして、

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、よかった。だったら彼女がもう死んでいても(・・・・・・・・)問題ありませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイトレイド全員が、硬直した。

 

「なに、を」

「おめでとうナイトレイド。あなたたちは晴れて、理念のためなら仲間を見捨てる存在となった。これが、あなたたちの望んだ、結末です」

 

首に巻いていた腕をほどくと、そのままアリィはどん、と彼女の体をエアマンタから突き落とした。

 

落ちていく。

 

落ちていく。

 

目を見開いたままのチェルシーの体が落ちていく姿が、タツミにはまるでスローモーションのようにうつっていた。

 

「悪にふさわしい末路だな……」

 

セリューが腕を組みながら、暗い目で見つめる。

 

「私は……死ぬわけにはいかない」

 

ボルスが、決意をこめた声と共に自らの帝具を握る。

 

「言ってなかったねお姉ちゃん」

 

クロメはデスタグールの腕の中で笑う。

 

 

 

 

 

「殺し合いはもう……始まってるんだよね……♪」

 

 

 

 

ナジェンダは怒りで歯を食いしばる

 

(チェルシー……お前の死に、今見せられた光景に怒りを覚えるのは、アリィを殺さなくてはならないと思うのは)

 

『みんな甘いんじゃない? 死んだ人のことをひきずるなんて』

『アリィを標的? いやいや、やめておいた方がいいって。どう考えても放置しておいた方が安全だって』

 

(間違って……ないよな……?)

 

 

 

 

 

チェルシーの体が、地面に叩きつけられる。

その瞳は、もう、何も映してはいない。

 

 

 

 

 

 

チェルシー、死亡。

ナイトレイド 残り7人。




開始と同時に死者一人目

今回の最後はお気づきの人がいるかもしれませんがダンガンロンパ未来編のシーンからです
あれを見てからずっとこのシーンを書きたかった……

チェルシーの死の詳細は後ほど書くことになると思います

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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