侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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第21話 死体に襲われて死にたくない

先手を仕掛けたのはセリュー。

 

「コロ、1番!」

 

巨大化したコロがセリューの右腕に噛み付き、その口から鉄球をセリューに装備させる。

コロは体内にセリューの武器を収納しており、彼女の要求に応じて装備させることができた。

 

「正義、秦広球!」

 

右腕に取り付けた鉄球を振り回し、鬼のような形相になったセリューがナイトレイドめがけ鉄球を投げつける。

しかしナイトレイドは全員が戦闘のプロ。先手を打たれたものの、全員が攻撃を回避する。

 

「全員散開しろ!」

「いい判断だね……固まってるならデスタグールの餌食だよ!」

 

ナジェンダめがけてクロメが操るデスタグールの拳が振り下ろされる。

しかし彼女の前に出てそれを受け止めるものがいた。

 

「無事か、ナジェンダ!」

「さすがだなスサノオ! 私には止めないといけない人がいる……そちらはお前に任せるぞ!」

 

彼女が走り出す先には一人の死体人形。

彼のことをナジェンダはよく知っていた。将軍時代に同僚であり、ともに酒を飲んだ仲間。

そして、志を同じくし革命軍に離反するはずが、帝国側にばれてしまい殺されてしまった。

彼の名はロクゴウ。元将軍でもある実力者だ。

 

「あなたは私が止める……それが、私にできる最後の恩返しだ!」

 

一方タツミは二体の死体人形にはさまれていた。

ゴリラのような危険種、そして赤い顔をした素早い死体人形だ。

ゴリラのほうはエイプマンという特級危険種、赤い顔をしているのはバン族の戦士であったヘンター。

 

「くっ……」

 

インクルシオをつけたタツミならば、片方相手は対処できる。

しかし、二人同時だと苦戦していた。力の強いエイプマンと素早さで翻弄してくるヘンター。早い話がまったく違うタイプの相手であり、その二体が連携するものだからはるかに強いのだ。

 

しかしこの二体を相手にしているタツミもまた、強いと言える。

並みの戦士ならすでに沈んでいるところだ。しかし、エイプマンの攻撃は流し、周囲に気を配ることでヘンターの奇襲にもどうにか対処する。

しかし、後一手攻めきれず、膠着状態に陥っていた。

 

レオーネはコロ、セリューと戦闘をしている。

コロの強力な攻撃、セリューの多種多様な火力に対しレオーネは獣化したことによるスピードとパワーでどうにかしのぐ。

しかしやはり、タツミ同様一手攻めきることができていなかった。

 

「悪は、ここで滅ぼす!」

「こっちだって、意地があるんだよ!」

 

傷を負っているのはレオーネのほうだ。しかし彼女は再生能力も強化されている。

奥の手を使わずとも、どうにか戦うことができていた。

 

(とはいえまずいぞ、ここから攻めきれない……!)

 

アカメに対してはボルス、そして死体人形のウォールが相手をしていた。

ウォールは生前凄腕のガードマンであり、現在も装備している武器は盾。

しかしそれは帝具・一斬必殺村雨を持つアカメにとっては相性が悪かった。

彼女からしてみれば一度斬れば相手を殺せるがそれはボルスに対してであり、死体であるウォールには効果がない。そのウォールがボルスの盾として防御に専念しているのでボルスを攻めることができないのだ。

 

「ひとつだけ、聞いていいかなアカメちゃん」

「なんだ?」

「どうして反乱軍に入ったのかな?」

「私の心が、そちらが正しいと決めたからだ。己の信じる道を歩んだまで!」

「そう……ありがとうアカメちゃん。でもね、私は」

 

しかし、今、ここに立つボルスは。

 

「…………」

「死ぬわけには、いかない」

 

この戦場において、アリィに次いで生きることへの情念を強く持っている。

理念を背負っているのはみな同じ。

そこにもう一つ。”生きる理由”を背負っている彼は――

「報いを受けても仕方ない」と受け入れていた、かつての彼よりはるかに強い。

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

ただ一人、空という安全圏から戦場を見下ろす者……アリィ。

彼女は戦場にこそエスデスのせいでいかざるを得なかったが、戦闘に参加する気はまったくもってない。

そのためにエスデスにエアマンタを用意させたほどなのだ。

自分で操ることはできないが、クロメなら可能であるし、この場でクロメを殺すのは一番難しい。アリィはそう考えていたがゆえに安心していた。

 

アリィから見て、ナイトレイドは人数差から圧倒的不利の状況。

やはりクロメの死体人形にくわえセリューをこちらに移したこと、そしてセリューが生物型帝具の使い手であり本体と帝具、別々に行動できるというのは大きいといえる。

 

「おっと。場が動きますかね」

 

一手を放ったナジェンダに対しアリィは心の中で賞賛を送る。

やはり彼女はエスデスとは違って冷静である上に合理的に考えることができている。

今のままでは負ける。なんとかなるという感情的な行動では動いていない。

 

 

 

 

 

 

三度使った所有者は死亡する。それが、電光石火スサノオの奥の手におけるデメリットである。

しかし、所有者でありマスターたるナジェンダはその切り札を切る決断をする。

今のままでは勝てない。このままじりじりと追い詰められた挙句全滅してしまうと彼女は悟っていた。

 

「スサノオ! 奥の手を使え!」

「わかった」

 

スサノオの奥の手……禍魂顕現。

発動と同時にナジェンダから生命力が抜き取られ、スサノオの胸の勾玉に流れ込んでいく。

彼女は力が抜けるのを感じその場にしゃがみこむが、すでに彼女の戦闘は終わっている。

ちらりと横に向けると、そこには首を失い、倒れたロクゴウ将軍の死体。

 

首がなくなっても動いたときには本気で彼女は怒りを抱いた。

「どこまで人を愚弄する帝具だ!」と。その怒りを滾らせ、右腕の義手とナジェンダ自身の力をこめた本気の一撃により、ロクゴウの死体は動かなくなった。

 

そして今、彼女の視線の先でスサノオの姿がわずかに変化していく。

髪は青から白に変わり、背中には巨大な円形のものが出現する。

 

「やれ、スサノオ!!」

「オオオオオオッッ!!」

「デスタグール!!」

 

危険を感じたクロメがデスタグールに指示を出す。骨である口に巨大なエネルギーが充填され、光線となってスサノオめがけて放たれる。

しかし、彼は冷静に右手を前に向けた。

 

「八咫の鏡!!」

 

瞬間、彼の背にあったものが消え、より巨大化してスサノオの前に現れた。

光線を受け止めたかと思うと、跳ね返されそのままデスタグールへと飛んでいく。

 

「なっ」

「グオオオオオオオオ!!」

 

自らの光線を受けデスタグールが吼える。

そしてその隙をスサノオは見逃さない。飛び上がると右腕を掲げる。

その右腕にはさらに強いエネルギーが集まり、放たれる。

 

「天叢雲剣ォォ!!」

 

巨大なエネルギーは剣となり、デスタグールの体を両断する。

まさか超級危険種が敗れるとは思わなかったのだろう、クロメも驚愕を顔に浮かべて地面へと落下していく。

彼女の体は死体人形の一人、ナタラが抱きかかえて地面へと降りていく。

クロメ自身を倒すことはできていないが、それでもナジェンダが奥の手を使った意味はあった。

これにより、ナジェンダとスサノオ、二人の戦力が自由に動けるようになったのだから。

もっとも、ナジェンダは奥の手を使ったこともあり戦力が落ちていることは否めないが。

 

 

 

 

 

「なんと……あれほどの力が」

 

あれを自分に向けられていたら危なかったかもしれない。

デスタグールに彼の奥の手が放たれたことに、アリィは焦りよりも安堵を覚えていた。

自分は空中にいるとはいえ、デスタグールを両断するほどの力だ、確実にアリィに届いていただろう。

 

しかし、ナジェンダとしてもそうそう使えるものではない。

アリィもスサノオの詳細については知らなかったが、見ていたところナジェンダの操る生物帝具であろうということ、そして奥の手はナジェンダにも影響があるらしい。つまり乱発できるものではないということだ。

 

「同じ強化型の奥の手とはいえ、コロとはまた別の方向のデメリットがある、ということですか。……む」

 

デスタグールが倒れていく光景を多くのものが見つめる中、駆ける人影が一つ。

空から見ていたアリィの表情は、彼女にしかわからない。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

マインは走る。

銃を持った女の死体人形は足をパンプキンで撃ちぬくことにより文字通り足止めした。

すでに追い込まれたこの状況で、ピンチになればなるほど強くなるパンプキンの攻撃は絶大だ。

 

マインが目指したのは仲間のところではない。

いや、厳密には仲間なのでこう言った方が正しい。

彼女が目指したのは、「戦っている仲間」のところではない。

 

「……チェルシー」

 

彼女の死体は戦場となっている場所から少しだけ離れていたところに落ちていたため、今までの戦闘やデスタグールが倒れる際に巻き込まれてはいなかった。

 

シェーレの時は、自分が逃げるしかない状態だった上に死体はコロに食べられたため、彼女を供養することはできなかった。

それが負い目になっていたのかもしれない。

チェルシーの死体を前に、マインは一度もっと離れたところにおいて、場合によっては警戒・待機しているラバックに引き渡そうとおもってここに来たのだ。

 

マインはしゃがみ、チェルシーの死体を持ち上げようとしたところで

 

 

 

 

 

 

 

「…………え」

 

 

 

 

 

 

 

腹に、熱くなるような痛みを感じた。

そこには、ナイフが刺さっていた。

アリィが、チェルシーにつきつけてみせたあのナイフが。

そして、それを彼女に刺したのは他の誰でもない。

 

「ふざ……けるなあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

八人目の死体人形が、マインに襲いかかる。




原作とは戦いの細部が違います。また、もっとこういうシーンあったろう……という戦闘シーンをあまりかけていなくてごめんなさい。

なぜチェルシーが死んだシーンを飛ばして、死んだ後の彼女を登場させたのか。
その理由が、この最後につなげるためです。

したがって、次の話ではチェルシー死亡シーンを出せると思います。
すぐバレるんじゃないかとびくびくしながら皆さんの感想を読んでいましたがこのことに触れている人はいなくてほっとしました。


いつも感想楽しく読ませてもらっています。
気づけば感想や評価者の数も3桁です、本当にありがとうございます。
これからもアリィをよろしくお願いします。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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