侍女のアリィは死にたくない 作:シャングリラ
当初は翌日には消えるだろうと思っていましたが、なんかドンドン順位が上がっていって驚きました……
なので、感謝を込めて早めに投稿。
ボリュームマシマシ、オリジナル展開もマシマシです。
彼女が死んだ、次の日。彼女を埋葬してから疲労で眠りこけた、その後。
ちょうどよく森の中に小屋を見つけた彼は、帰ることもできずそこで一人生活していた。
本当は帰るべきなのだろう。
だが、どうしても帰れなかった。
愛する者を守れなかった自分の無力さが情けなくて。彼女が最後まで戦う選択肢を選んだことを嘆いて。
そして、そこまで彼女が追い込まれた原因である帝国が、本当にこのままでいいのかわからなくて。
ようするに、彼はずっと迷っていたのだ。
自分はあの場に戻るべきなのか。たとえ戻るとしても、何のために戦えばいいのか。
迷って、迷って、結局何もできずに彼は故郷に戻ることもなく、しばらく山小屋で生活していた。
ただ、その間も彼女の墓だけは欠かさずに通った。それだけが、唯一自分ができることだと感じていたから。
そんな生活を続けていたさなか……彼は見た。
革命が始まったのであろう帝都の方向で、あまりにも大きな爆炎と煙があがるのを。
たとえ激しい戦いが起こっているとしても、今のは何だ。
何を使えば、あのような大きな破壊が起こると言うのだ。
「どんな兵器を使ったんだ……生物全部、根絶やしにするつもりかよ……っ!」
何のために戦うのか。何のために戦ってきたのか。
爆炎を前に、何度も繰り返してきた問いを再度自分に投げかける。
そして、彼は……迷うのを、やめた。
帝都では、シコウテイザーを操る皇帝とインクルシオを纏ったタツミとの戦いが続いていた。
シコウテイザーの一撃をうけ、大きなダメージをおったタツミではあったが、さらにインクルシオを進化させて戦いに臨んでいる。
「しつこい奴め……至高の帝具に殴られてなお倒れぬか!」
「まだまだ、お前を倒すまでは倒れてなんかいられねぇ!」
どうやら先ほどとは違い、皇帝はシコウテイザーを暴走することなく使うことができているということがタツミにはわかった。
実のところ。粛清モード発動に伴う精神汚染の機能は、不完全だったのだ。ドロテアがこの機能の最終調整を終える前にアリィに殺されたため、十分な性能ではなかった。
さらに、イルサネリアによって精神汚染が押しとどめられた結果。皇帝は自らの意思を取り戻していた。
「ならばこれなら、どうだぁぁ!」
ガチャッ、と背部からの砲台が開き、数多の光弾がタツミへと襲い掛かる。
先ほどとは違いその軌道はシコウテイザーを貫くことなく、弧を描きながら標的へと向かう。
さらに、この攻撃はただの砲撃ではない。
「ぐ、着弾せずに爆発しただと!」
「空中で爆発すれば貴様の足止めにもなる、そして市外に攻撃が落ちることもない!」
光弾が避けられればその攻撃は落下し市外へと向かう。
ならば空中で先に爆発させてしまえばいい。しかも、その爆発が数多くあれば、避けるのは困難になる。
現にタツミはすべてをよけきれず、ダメージを負う。
(このままじゃダメだ……もっと、もっと力を……!)
インクルシオに体が蝕まれるのを感じながらも、タツミは鎧を強化させる。
進化し続ける鎧はタツミの意思に応え、装甲を厚く、さらに背中からは翼が生えた姿に変化していく。
だが、変化するために動きが止まったその瞬間を、皇帝は見逃さない。
「ここで仕留める……くらえ近接最強の武装、至高拳!!」
巨大な質量をもった拳での攻撃。
先ほどタツミを殴ったのとはわけが違う。上に殴るのではなく、下に向かって殴りつける。つまり、この質量でもって敵を殴るだけでなく押しつぶす攻撃。
振り下ろされればひとたまりもないその一撃を、タツミに向かって放とうとして―――
「グランフォール……フリューゲル!!」
突然の空からの攻撃を受け、顔が逸らされたために阻止された。
顔の部分は自傷がないうえに装甲が固くなってるためダメージ自体はないが、それでもタツミに集中していた皇帝が動揺するには十分だった。
「お、お前……ウェイブか!? どうして……」
そう、空からの攻撃を仕掛けたのはウェイブ。
クロメが死んでから迷い続け戦場から離れていた男が、ついに戦場に戻ったのだ。
突然の援軍に驚くタツミ。そもそも、ウェイブはイェーガーズに所属していたはず。だからこそ、皇帝ではなくタツミの味方をしたことに驚いていた。
「あの帝具は危険すぎる。生物を滅ぼしかねない火力に、余波で民を巻き込むかもしれない攻撃……。たとえ帝国側の帝具だとしても、俺はあれを認められねぇ……あんなもの、帝都での戦いに持ち込んでいいわけがねぇ!!」
それに……とウェイブは少し照れくさそうに付け加える。
「お前には、借りがあったからな」
「それって……あの時の?」
タツミには一つ心当たりがあった。
それはタツミがエスデスに闘技大会で捕まった時のこと。ウェイブと二人でフェイクマウンテンに行った際に、彼は後ろから襲い掛かろうとした危険種からウェイブを守ったことがあったのだ。
「ふざけるな…‥」
ゆっくりと、シコウテイザーが動き出す。
最初の暴走の折に破損した部分を狙ってタツミとウェイブが攻撃を仕掛けるが、皇帝は叫びながら攻撃を防いでいく。
ふざけるな、ふざけるなと。
「なぜ邪魔をする! なぜそちらを味方するんだ!」
「言ったはずだ! その力はここで使っていいもんじゃねぇ!」
マスティマの翼から羽を飛ばすことで、シコウテイザーの光弾が防がれる。
その隙にタツミが攻撃を仕掛け、シコウテイザーはさらに傷を増やしていく。ウェイブが守りに徹しているのでその分攻撃に集中することができる。タツミはかつてスサノオが教えてくれた通り、自傷によるダメージで脆くなっている部分を重点的に狙うことで強化されたシコウテイザーの傷を増やしているのだ。
「納得できるか……納得できるものか……っ!」
攻撃を受けながら、皇帝は歯噛みする。
ウェイブの言葉に皇帝は納得できなかった。彼の言葉に一定の正しさは認めながらも、それを受け入れることができなかった。
「これしか、ないのだ……」
わかっている。
シコウテイザーを発動したとき、確かに一度自分は恐怖した。
これは人をも滅ぼしかねないと。だが、今はもうそんなことを言ってはいられない。
これしか、自分にはないのだ。
「皇帝たる余には、今の余には……これしか、戦う術がないのだっ!」
幼い自分には、何の力もない。反乱軍と戦う力なんて持っていない。そんなことは、誰よりも皇帝自身が一番よくわかっていた。
しかし、彼には守らなければいけないものがある。
受け継いだ帝国を。そして、愛する彼女を、彼女が安心して暮らせる場所を。
彼は、守らなければならないのだ。
タツミかウェイブ、どちらでもいいからまずは落とそうと、至高砲を放つため胸の発射口にエネルギーを充填する。
しかし、その攻撃すらウェイブによって防がれてしまう。彼はあらかじめマスティマの羽を至高砲の発射口周りに展開していたのだ。
シコウテイザーの体が揺らぐ。
「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
その隙を見計らって、タツミとウェイブが空中から同時に空中からの蹴りをシコウテイザーへとたたきつけた。
「ぐあああああああああ!!」
大きな衝撃音と共に、皇帝自身にもその衝撃が伝わる。
グランフォール・フリューゲルの倍、いやそれ以上の威力となった二人の合わせ技に、装甲は大きくへこみ、またシコウテイザーの体も大きく後ろへと吹き飛ばされた。
シコウテイザーが大きく後退したのを見て、タツミはウェイブへと礼を返す。
「サンキューな、ウェイブ」
「ここから先はお前の仕事だ。あとは、俺は避難する民を守らせてもらう。勝手で悪いがな」
そう言い残すと、ウェイブは遥か後方、民がいるであろう方へと飛んで行った。
その姿を見送ったあと、タツミは再度シコウテイザーと向き直る。
インクルシオを急激に強化した代償で体中に痛みを感じるが、それすらも耐える。後は自分の力で、この戦いに決着をつけるために。
「……まだ、立ち上がるのか」
「諦めて……たまるか……」
最初の暴走による自傷、そしてこれまでのダメージでシコウテイザーの一部は軋みを上げている。
しかし、それは皇帝が止まる理由にはならない。
アリィが笑って生きられる国を作るには……自分が倒れるわけには、いかないのだから。
「諦めて、たまるかぁぁぁぁ!!」
口から真・近衛兵と呼ばれる大量の人型生物を放出する。
錬金術によって作られたそれらは醜悪な姿をしているが、数による猛攻でタツミへと群がっていく。
だが、強化された今のタツミにとっては烏合の衆でしかない。
「そんなもの、今更効くかよ!」
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!」
手のひらから刃を生やしてタツミへと伸ばす。
かわされてしまうものの、そのまま剣のようにしてタツミへと振るう。時に戻し、再度放出して突きを繰り返すように攻撃する傍ら、背部の砲台からも攻撃を放つ。
「反乱軍め……お前たちのせいで、この国の、帝都の平和が奪われる!」
「違う! ずっとこの国は圧政に苦しんでいた…‥民はずっと、苦しんでいたんだ!!」
タツミが育った村は税のせいで貧しく、だからこそ彼は友人と共に出稼ぎに帝都へ来たのだ。
しかし、その友人も腐敗していた帝都の闇に飲まれ、死んでしまった。
そんな帝国を変えるために、今日この日があるのだ。そのために、ここまで戦ってきたのだ。
「変えなきゃいけないだろ、こんな国! 大臣の言いなりになっていたお前には、わからねぇのかよ!!」
「……とも」
武器を振りかぶったタツミに、シコウテイザーの口から放たれた砲撃が直撃する。
「言われなくとも、わかっている!!」
驚いた様子のタツミに、再び拳を振り下ろす。
激昂したかのように叫んだ皇帝は息を切らしながらも、反乱軍を倒すため神経を集中させる。
ずっと心の中に封じ込めていた、己の想いを吐き出しながら。
「余が本当に何も感じていないとでも思っていたのか! 反乱軍の活動が活発化する中で、”余の治世は間違っていたのか”、そう思い悩まなかったとでも、思うのか……」
胸だけでなく、全砲門の一斉射撃の標準をタツミへとむける。
すでに真・近衛兵などで時間を稼いでいる間に充填は終えた。
「アリィがどんどん笑顔を失っていく様子を見て、余が何も気にしなかったと、思うのかぁぁぁ!!」
一方で、タツミもまた己のインクルシオの力を引き上げようとする。
体が食いちぎられそうな痛み、そして自分の意識が持っていかれそうになりながらも……
(タツミ)
どこからか、声が聞こえた気がした。
シコウテイザーがいるはずのその先に見えたのは、兄貴と慕った男、ブラートの姿が。
腕を組んだ彼の姿が、タツミを励ますようにそこに立って見えた。
「兄……貴……」
(そういう時は叫ぶんだよタツミ……。 さぁ、あと一歩だ。終わらせようぜ……)
「あぁ……」
次の瞬間、ものすごいスピードでタツミがノインテーターを構え、シコウテイザーへと突撃する。さらに大型になったノインテーターは、まっすぐシコウテイザーの、ウェイブとの同時攻撃でへこんだ箇所へと向けられている。
(叫べタツミ! 熱い魂で!)
「インクルシオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!」
「墜ちろおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
皇帝も、シコウテイザーの全砲門一斉射撃をタツミへと放つ。
数多の光線をかいくぐり、砲撃を受け止め……
そして、彼は到達する。
「オオオオオオオォォォォォ!!」
「ぐ、あぁぁぁぁ!」
今のシコウテイザーに、インクルシオの全力をかけたこの攻撃を耐えるほどの力は、もうない。
「何なんだ……何なのだお前はあぁ!」
「ナイトレイドだよ……!」
大きな破壊音とともに、完全にタツミの攻撃がシコウテイザーを貫通し、大穴を開けた。
だが、今までの強化の代償……急激な負荷をあまりにもかけすぎたがために、インクルシオにもまたひびが入り、翼がちぎれる。
タツミは革命軍の医師に注意された後、アカメとクロメの決闘の時に一度、今回の決戦で一度の計2回インクルシオを使っている。
回数こそ抑えたものの、インクルシオを急激に進化させすぎたのだ。
制御を失い、タツミは宮殿の方へと落下していく。
「ばか、な……」
一方、皇帝は己の敗北に呆然とした様子で、シコウテイザーが倒れていくのを感じていた。
オネストはもう自分を見限っているだろう。自分の意思を無視して自分の精神を乗っ取るかのような奥の手を発動したのだ、もう信じられるわけもない。
(すまない。すまない、アリィ……)
守ると約束したのに、その約束はもう果たせそうもない。
せめてアリィは無事であってほしいと思いながら、衝撃により皇帝は意識を失った。
「倒れる……倒れるぞ!!」
帝都の民は、シコウテイザーが戦っている間どこにいたか……
実は、彼らは避難に動いてはいたものの、ほとんどが内部寄りにいた。
というのも、最初にシコウテイザーが放った弩級の砲撃は帝都の外、外壁側にいる革命軍へ向けて撃ったもの。外の方へ逃げてはかえって巻き込まれると恐れたのだ。
これが、内部の民を平気で巻き込むような攻撃を続けていれば、いかに危険があるといえど外へと向けて動いていただろう。
だが、皇帝は意識をのまれはしなかったために、民へは最低限注意を払いながら攻撃していた。
その結果――民の一部が今、倒れ行くシコウテイザーの下敷きになろうとしていた。
さすがに避難していたため倒れるすぐ下にはいないが、勢いでシコウテイザーが滑れば間違いなく巻き込まれる。
「おおおおお!」
倒れていくシコウテイザーの前に、一つの黒い影が飛び上がる。
そのまま影……ウェイブは、シコウテイザーを押しとどめようと己の力を費やす。
「マスティマ奥の手……神の羽!!」
マスティマの奥の手は、翼の部分が光でつくられた翼へと変化し、敵の攻撃を跳ね返すもの。
かつてランに教えてもらっていたその奥の手を使って、ウェイブはシコウテイザーを受け止めようとしたのだ。
しかし、シコウテイザーの巨大な質量をいかに帝具の奥の手と言えど支えられはしない。
神の羽が散った後も、ウェイブはグランシャリオとかろうじて残ったマスティマの飛行能力で押さえ続けようとした。
鎧にはひびが入り、翼の帝具にもまただんだんと破損が増えていく。
「う、おおおおおおおおおおおお!!」
地面に落下した後も、滑るのをたった一人自分の体でもって防ぐ。
大きな摩擦を続けた末……人々のところに到達する前に、シコウテイザーの巨体は停止した。
ウェイブの鎧はすでに砕け散り、彼の体もまた血まみれになるほどボロボロになったが、彼は止めてみせたのだ。
全身がぼろぼろになり、すでに止めたシコウテイザーによりかかる状態でしか体勢を保てない彼の元に、一人の少女がゆっくりと歩み寄る。
ボロボロになった彼はすでに体が動かないことを自覚しながらも、震えるまぶたをゆっくりと開いた。
「……クロ…‥メ…‥」
目の前の少女は何も言わない。
バランスを崩したウェイブの体は前に倒れ伏し、少女が慌ててそれを受け止めた。
しかし、ウェイブはそれを気にすることもなく、か細い、小さな声で言葉を紡ぐ。
「俺は……民を、守る、ために……軍人に、なったん、だ……」
目の前の少女は、クロメではない。彼女はすでに死んだのだから。
しかし確かに少女はそこにいて、ウェイブの最期の言葉を聞き続ける。
ウェイブはもう少女が誰なのか知覚することができていない。彼の目には、少女がクロメに見えていた。
「おれ、は……お前を、まもれな、かった、けど……民を、まも、ることは、でき、たよ……」
彼の言葉が止む。
少女にはすでに、彼の命が消えたことがわかっていた。
受け止めた体を優しく横にすると、その瞼を閉じる。
「おやすみなさい、ウェイブさん。最後の最後になってあなたがいなくなったことに思うことはありましたが……あなたは、あなたが志したものを守れたのだと、そう信じます」
どうぞ安らかに、とアリィはウェイブの遺体へ囁くと、静かに立ち上がって周りにいる民衆を遠ざけ始めた。
ここが間もなく戦場になると、わかっていたから。
ウェイブ、死亡。
イェーガーズ、残り一人。
というわけで、ウェイブがここで死亡です。驚いた方も多いでしょう。
アニメ版におけるタツミと同じ形ですね。
彼の死亡には賛否両論あると思います。
ですが、皇帝の精神汚染なしによる攻撃の変化、民衆の動き、そしてウェイブの考え……これらを加味した結果、この物語において、彼はこういう運命をたどるだろうと結論付けました。
シコウテイザーの敗北によって、物語は最終局面へと近づいていきます。
どうぞ皆さま、最後までお楽しみに。
予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください
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アリィとチェルシー、喫茶店にて