侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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まずはオネストVSタツミ戦を。
対エスデス戦がどうなっているかは次回です。


第61話 覚悟の違いで死にたくない

エスデスがイルサネリアによって己の奥の手を暴発させた頃。

宮殿では、戦いが決着を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「昔、部下が暗殺者の有用性を説いたことがありましたよ。なるほど、暗殺者とは確かに厄介です」

 

タツミと対峙したオネストは、面倒だとばかりにタツミを睨む。

そして警戒は怠らない。

相手はシコウテイザーを殴り飛ばすほどのパワーを有している。下手に受ければ一発でアウトだ。

 

「オォォォォォォ!」

 

一方でタツミはと言えば、冷静とは言い切れない。思考すらうまく回らないほどであった。

 

まず、シコウテイザーとの戦いで蓄積されたダメージと疲労。

最大の敵であるエスデスがまだ残っているという焦り。

友を失った帝国の腐敗の、全ての元凶を前にしているという怒り。

そして、インクルシオを急激に進化させたことによる……インクルシオ(竜の素材)が自らを乗っ取ろうとすることで意識が引っ張られそうな状態。

 

これらの状況から、短期決着で済ませようと強化されたインクルシオを纏うタツミが突貫する。

その姿を、その動きを、オネストは冷静に見極めようとしていた。

自分にその攻撃が届くよりも前に、相手が発動射程内に入るタイミングを見計らうために。

 

(やはりそう来ますよねぇ)

 

その顔にいやらしい笑みを浮かべながら。

 

タツミの失敗は二つ。

一つは、オネストを「非戦闘員の文官」だと思っていたこと。

確かに彼は大臣という文官だ。それは間違いない。戦闘員として前に出るような人物でもない。

だが、だからといって…‥戦闘力がないというわけでは、ない。

 

そして、もう一つは。

 

「帝具、発動」

 

オネストもまた、()()()()()であると気づけなかったこと。

タツミが伸ばした手がオネストへと届くよりもはるかに先に、オネストは自らの帝具を発動させた。

発動により、オネストの頭にあった王冠に似た飾りの一つが割れ、中から現れた宝石が強い光を放った。

彼の帝具は絶対制限イレイストーン。相手の帝具を破壊するアンチ帝具。

もっとも、使用後はしばらく再使用できるようになるまで時間がかかるのだが……温存しておくよりはさっさと使うべきだと彼は判断した。

 

「な、にっ……!?」

「これであなたを支えていた鎧は壊れました。もう先ほどのような力を出すのは無理でしょうねぇ?」

 

イレイストーンによってタツミの帝具……インクルシオが砕け散る。

尊敬する兄貴分から引き継ぎ、自分の力を大きく底上げしていた鎧が砕けたことで、鎧の下から現れたタツミの顔は驚愕を浮かべていた。

だが、一方でオネストもまた、鎧の下から現れたタツミの顔を見て驚愕する。

 

「その顔は……実に醜悪なっ」

 

インクルシオの急激な進化は、タツミの体に大きな負担を与えていた。

それは何も疲労などだけではなく……インクルシオの素材となっていた竜がその身を乗っ取ろうと、タツミの体と混じり合い同化していくという形で表れていた。

 

乗っ取ろうとする、というのは決して比喩表現ではない。

タツミの体は一部が竜の体へと変貌しているのだから。アリィ以上に、タツミは帝具の素材となった危険種と混じっていたのだ。

 

「ですが、これで帝具の力は使えない……ならばそのまま殺してあげましょうっ!」

「帝具がないからって、なめるなぁ!」

 

タツミはインクルシオを失い、それに伴い鍵となる剣も失われたが、だからどうしたと言わんばかりに拳を握り、オネストへと繰り出す。

だが、パワーもスピードも、竜と混じった体とはいえ先ほどよりははるかに遅い。ダメージは依然として残っているうえにインクルシオを失ったのだ、影響は大きい。

そして、その拳をオネストは難なく払ってみせる。その動きは素人にできるものではない、戦闘技術を持った者ができる流麗なものだった。

 

「な……」

「フゥー……皇拳寺百裂拳!」

 

攻撃を防がれて生まれた隙に、オネストは殴打の連続をタツミへと放つ。

インクルシオが失われたことにより下がったのは攻撃力だけではない。鎧の本懐は防御にある。肥満体のオネストから繰り出されたとは思えないほどの重い攻撃を次々に受け、タツミは後ろへと殴り飛ばされた。

 

「拳法……!? こい、つ……素で強いのかよ…‥!」

「長く生きるためには、健康な体が不可欠ですからね。若いころにはみっちり鍛えましたよ」

 

よくよく見れば、その腕は脂肪ではなく筋肉による太さが垣間見られる。

オネストは人前でこそ食におぼれた肥満男に見えるものの、鍛えた体と拳法を備えていた。

シュラを旅に出したのも、今の栄華は過去自分自身がそうして鍛えたからこそのものだと理解していたからである。

 

殴り飛ばしたことによりこれであとはとどめか、と思ったオネストだが、ゆっくりと立ち上がったタツミを見て顔をしかめる。

しつこい。まだ足掻くのか。

帝具も壊し、自分に力があることも身をもって叩き込んだ。なのになぜ立ち上がる。

なぜ、そのような挑戦的な目をなおも向けるのか!

 

「おおおおおおおお!」

「いい加減、目障りなんですよ反逆者がぁぁぁぁ!」

 

タツミのパンチを防ぐとこちらからお見舞いしようと腕を振るう。

しかし、その拳がタツミへと届く前に、タツミの蹴りがオネストの出っ張った腹へと叩き込まれた。

 

「ぐっふ…‥この」

「まだ、だぁぁ!」

 

僅かにのけぞりはしたが、まだ倒れるほどのダメージではない。

そう思ったにもかかわらず……タツミはさらにオネストの顔へとフックをかました。

これにはさすがにたまらず一瞬意識が飛ぶ。

 

そこからはただの殴り合い。

互いが互いの存在を許さず、そして怒りを目にともして殴り合う。

二人の顔や体にはあざが増え、顔を殴られた際には血を流す。

 

だが、この戦いの中、心の中でだんだんと焦燥を深めていくのは……オネストの方だった。

 

(なぜです……なぜ、倒れないっ!)

 

タツミはオネストと戦う前からダメージを負った体だった。

だからこそ、この戦いはオネスト有利のはずだった。それがなぜ押し切れないのか。なぜ足を踏ん張り、拳を握り、自分と殴り合い続けることができているのか。それがオネストには疑問でしかなかった。

体が危険種と混ざっているというだけでは説明できない。否、理解できない。

 

「なぜだ、なぜ―――っ!」

「オォォォォォアァァァァァ!」

 

咆哮をあげるかのように、タツミが叫びながらオネストの腹を殴りつける。

内臓に大きなダメージが入ったその攻撃により、オネストは口から血を吐いてうずくまる。

体は鍛えているものの、内臓ばかりは鍛えられない。

ここまで戦い続けていく中で勝負の分かれ目になったこと……オネストはタツミが持つあるものを持っていなかった。

 

それは、何かを背負っているという、熱い思い。

自分の欲だけに生きている男には、他人の思いも背負って戦う少年が持つ何かが足りなかったのだ。

 

そんなことをオネストが知ることはできず、殴り合いの果てにオネストが膝をつく。

宮殿から離れた都市部において冷気が空へ、地上へ、爆発するように放たれたその時、タツミは息を切らしているものの、ゆっくりと腕を振り上げる。

 

(ダメだ、力が、入らないっ……!)

 

オネストへと、とどめの拳が振り下ろされようとして――

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、そこまで」

 

 

 

 

 

 

 

タツミの足元に陣が出現する。

異変に気付いたタツミがオネストにとどめをさすその前に、彼の姿はどこかへと消えていった。

 

何が起こったのかわからず呆然とするオネストに対し、後ろから気楽そうな声がかけられる。

 

「いやー、危ないところでしたね大臣」

「あなた、達は…‥」

 

そこにいたのは二人の人物。

一人はタツミをどこかへと転送した帝具・シャンバラを持つ女、スズカ。

もう一人はオネストにとってあまり見覚えがなかったが……彼女の名はメイリー。アリィが設立した隠密部隊に所属する一人であり、帝具・ガイアファンデーションをアリィから託されている人物。現在はカイリの死により暗殺部隊も含めた非選抜組のまとめ役でもあるアリィの崇拝者。

 

自分が助かったこと、そして自分が動けない中やってきたのが敵ではなく味方だったことに大きく安堵したオネストは笑い声をあげる。

 

「ふ、ははははははは! 私は実に運がいい! よくぞ来てくれました!」

「アリィさんは大臣が生き残ることを望んでいました。他の任務のため駆けつけるのがここまで遅くなったのは大変申し訳ございません。ですが、あなたが生きておられて何よりです」

「そうですかそうですか。アリィ殿がねぇ……。やはりアリィ殿はわかっておられますなぁ。私はこんなところで死んでいい人間ではないのですよ」

 

メイリーからアリィが自分の生存を望んでいたと聞かされ、オネストは大変満足げな顔をする。

大きなダメージをおい、体をうまく動かせない状態でもし敵が来たら危険ではあったが……少なくとも皇拳寺羅刹四鬼の一人であるスズカがいれば安全だろう。そう考えたオネストは体の力を抜く。

 

「はい。オネスト大臣はこの帝国において大きく影響をもたらす方であるとアリィさんは考えています。この戦いを終わらせるにあたり、大臣の存在は絶対に必要になるでしょう」

「えぇ、えぇ、そうでしょうとも。この帝国という国に私は必要なのです」

 

大きくうなずいたオネストは立ち上がろうとするが……立てない。

いかに体を鍛えているとはいえ、前線に立ち続けているわけでもなく、どうしても持久力があるとまではいえない。まして、オネストは内臓も損傷しており、自由に動けるような体でもなかった。

力が入らないため、仕方ないとオネストはスズカたちに頼む。

 

「すみませんが肩を貸してくれませんか。反乱軍のクズに受けたダメージのせいで体に力が入らないのですよ」

「かしこまりました。んじゃ、失礼しまーす」

 

肩を貸そうと手を伸ばすのはスズカだ。

さすがにメイリーの細腕ではオネストの巨体を支えることは不可能だ。訓練を受けているとはいえ、力がないからこそ彼女は隠密部隊に異動したのだから。

しかしオネスト同様皇拳寺で鍛え続けてきたスズカは特に顔を歪めることもなく軽々とオネストを持ち上げる。

 

「くっくっく……では逃げるとしましょう。スズカさん、シャンバラの起動をお願いします」

 

せっかく移動に適した帝具があるのだ。

すぐにでも逃げたいオネストはシャンバラの使用を所有者であるスズカに求めるが、対するスズカは困った顔を浮かべる。

 

「あ、いや、シャンバラはさっきタツミを飛ばすのに使っちゃったんで時間おかないと使えないんですよ……。いくら体力あるとはいえ、私は前の所有者みたく薬物とかは使ってないんで」

「ふむ……それならば仕方がないですねぇ……案内しますから、隠し通路へと向かいましょう」

 

そうしてオネストら三人は移動していく。

オネストとスズカを前にして、メイリーは後ろから静かに着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイリーは、オネストに対し一切嘘をついていない。

たとえオネストの背後で笑みを浮かべ、後ろ手に注射器を握っていたとしても。




嘘はついていないんです。
ただ、どう受け取るかはその人次第なだけで。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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