ドラゴンクエストアベル伝説ものです。
原作で影の薄かったマギャン将軍をクローズアップしてみました。
人間キャラの名前はV以降の作品などから借りてます。
Pixivにも重複投稿しています。

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Lv?? 決戦アッテムト!マギャン将軍を倒せ!

 夜明け前。

 「様子はどうだ、テリー」

 「大丈夫だアラン。まだ気付いていない」

 静寂に包まれた異形の叢に、低いが若い声が二つ、響いた。

 テリーと呼ばれた声の主は、若者だった。腰にはミスリル製であろう業物の剣を帯び、マントの下には魔力のかかったと分かる鎧がのぞいている。だが、兜を外したその顔は、若い。後ろに束ねた金髪にも肌にも艶がある。声をかけたほうの黒髪の若者アランともども、まだ少年と言っていい年齢か、それを抜け出たばかりであろう。

 だが、ただの若者、と侮るのは愚かであるかも知れぬ。

 囁くようにかわされた、二人の会話。その声。はっきりとしているが無用に空気をかき乱すことはなく、話しかけられた相手以外の耳には届かない。愚かだが耳聡い怪物どものけだものの感覚にさえとらえられぬ声は、訓練された戦士のみが発しうるものだ。

 よくよく見れば、手甲に包まれた手は節くれだっていて大きく、筋肉は無駄なくよく鍛えられている。素肌の見えるところには爪や牙、鈍い剣によってついたのであろう、細かい傷跡がいくつも走っている。そしてその傷と同じように、視線は鋭い。獲物を狙う野獣のように。

 まさしく、戦士の容貌であった。

 二人だけではない。

 彼らの背後の茂みにも、彼らには及ばぬものの鋭い眼、鋭い気配の若者たちが数百人。

 いずれも、怒りと闘志を全身に燃え立たせ、眼下にそびえる巨城を睨んでいる。

 醜く歪んだ黒い城。彼らの故郷の地に同胞を使役して、血と屍の上に築かれた、魔物の城。エスターク七大将軍の一人マギャンが守る、エスタークの出城アッテムトを。

 魔王バラモスによって支配される北部地方。

 死せる水に覆われ、宝石モンスターたちが跋扈するここにも、抵抗を続ける人間たちのレジスタンスは存在した。

 アランとテリーの率いる集団はその中でも最大の勢力、最強の武力を誇る集団である。

 勇者を名乗る若者とその一行がドラン城を支配するシーザオライオンを倒したという一報が伝わって以降、彼らは活動を活発化させ、いまやその勢いはここ北部地方の中心、アッテムトの城に迫るほどとなっていた。

 「デールたちから連絡だ。いつでもいけるそうだ。…どうする、テリー」

 アランと呼ばれた若者が、テリーに耳打ちした。

 テリーは後ろに続く仲間たちを見た。戦士も、魔法使いや僧侶も、どの顔も、闘志にあふれている。決断を促すかのような数百の視線に、テリーは力強くうなずいた。これなら、いける。宝石モンスターどもがいかに数が多かろうと、後れを取ることは決してない。

 「よし、行こう…行くぞ!俺たちの国を取り返すんだ!」

 テリーは身を隠していた茂みから立ち上がると合図の花火を打ち上げ、愛用の剣を抜き放って城の裏手へと続く坂道を滑り降りていった。

 「おお!」

 その後をバスタードソードを構えたアランを先頭に、各々の武器を構えた仲間たちが続く。

 「敵だーーーーーー!!」「人間どもだーーーーーー!!」

 ガーゴイルやトロルといったマギャン配下の宝石モンスターたちも応戦に出てきたが、不意を突かれた衝撃は大きく、その分動きは鈍かった。頭上から雨あられと射掛けられる火矢を顔面や胸に、逃げ出した背中に食らい、次々と打ち倒され、追い散らされていった。

 「おのれ人間め!」

 仲間をまとめ、あるいは自慢の武器に物を言わせ、踏みとどまって戦おうとするモンスターもいたが、勢いに乗るレジスタンスを阻むことはできなかった。

 「バラモス様万歳!エスタークに栄光あれ!」

 魔法のかかったサーベルをふるって至近から射込まれた矢を斬り払い、躍りかかったシルバーデビルの刃をテリーの魔法の剣が受け止める。一撃、二撃と剣に込められた魔力がぶつかり合って火花を散らす。空中からの体重を乗せた一撃はさすがに強力だ。テリーの剣が押し込まれる。と、勝利を確信し獰猛な笑みを浮かべたシルバーデビルが不意に崩れた。

 「デール!」

 アランの背中を狙っていた人食いサーベルの亜種・黒い剣を隼の剣の一撃で倒した別働隊のリーダーが投げつけた剣が、空飛ぶ猿の魔物の心臓を正確に貫いていた。

 「テリー、ここは俺たちに任せて先に行け!マギャンの首をあげれば、モンスターどもは崩れる!」

 くすんだ金髪の戦士はそう言うと、殴りかかってきたギガンテスの鳩尾に強力な拳の一撃を叩きこんだ。大金槌の一撃にも勝るとも劣らぬ鉄拳にギガンテスはたちまち悶絶する。

 従兄弟分の危機に憤った一つ目巨人キクロペが数体、目から稲妻を迸らせながら襲いかかった。

 だがキクロペたちはデールに一撃も加えることはできなかった。己の下半身がデールに殴りかかろうとした上半身の遥か後方に置き去りにされていることに気付いた瞬間、彼らのかりそめの肉体は宝石となって消え失せていた。

 アランのバスタードソードの一撃が、キクロペたちと彼らの救おうとしたギガンテスの胴体をまとめて両断していた。

 「行け!」

 「すまん!後は頼む!」

 たちまち群がる敵に囲まれたデールとアランに再会を期する言葉を投げかけると、テリーは城の中枢へと続く通路に駆け込んだ。

 

  「よくぞここまでたどり着いたな。私の名はマギャン!北部大陸の支配者だ!そしてお前たちを地獄へ送る者だ」

 人間と侮っていたのか、それとも自分の力量に自信があるのか、マギャンは逃げ隠れはせず、魔物ながら立派と言いたくなるほど堂々と玉座の間に座していた。

 「なるほど、お前がマギャンか。せめてもの情けだ。墓にはそう名乗っていたと刻んでやる」

 「言いおったな。ならば私も、お前の墓にはお前の言葉を刻んでやろう」

 挑発の言葉を投げつけた次の瞬間、襲いかかってきた剣勢に、テリーはマギャンが並々ならぬ敵であることを悟った。

 そして十合、二十合と剣を交えるうち、マギャンの狡猾さにも気づいた。

 片刃の太刀を縦横に操り、時折ベギラマやメラミといった速射性に長けた魔法を織り交ぜてくる攻撃は確かに強力だが、一度戦ったことのある親衛隊のジキドのように絶対的な強さは感じず、ギラギラした殺気を放ってはこない。剣速も速いと言えば速いが、まだ上の剣士はいくらでもいる。剣勢に圧倒的な迫力があるわけでもない。一見すると典型的な一流止まりの魔法戦士であった。

 だがそこが、彼を将軍たらしめる所以であるとテリーの戦士の勘は見抜いた。

 マギャンの戦いは戦士というよりは狩人のようだった。神速の剣で浅手を負わせ出血を強い、受け止められる程度の一撃を手数を放ち、速射性に優れた魔法を連射してかわさせることで体力を消耗させる。マギャンを二流と侮った者は動きが鈍って初めて窮地に立たされていることに気づくのだ。

 加えて、部下との連携も巧みであった。

 「クァッガよ、ゼブロイドよ!ペルシュロンよ!人面蟻よ!」

 マギャンの呼ばわる声に応えて、馬とも縞馬ともつかぬ姿をしたクァッガとゼブロイドが甲高い叫び声をあげた。

 ケンタラウスの一族であるクァッガは叫び声をあげて魔法使いの集中を乱し、ゼブロイドの叫びは人間をすくませる。人面蟻の唱えるマヌーサやラリホーは戦士を確実に無力化する。

 そこへボストロールやギガンテス、そしてケンタラウス族最強のペルシュロン、鎧をまとった半人半蠍のスコーピオンナイト、キラーマシーンの司令官である重武装の機械戦士キングコマンダーといった攻撃力自慢の宝石モンスターが襲いかかるのだ。

 「小賢しい!下手な芝居はやめろ!」

 「ははははははは、聡いな!ならば、小細工はやめだ。ベギラゴン!」

 「うおっ!」

 マギャンの策を見抜き、モンスターを斬り伏せて向き直った瞬間、轟と吹きつけた熱風にテリーは吹き飛ばされた。見抜いた程度では崩されない戦術も、通じぬとあればあっさりと切り替える。狡猾さだけではない決断力も、そして正体を現してからの怒涛の攻めも、並みの戦士のよく相手をするところではない。

 「そらそらそらそら!この神速の突きをかわせるかな?」

 「さすがに将軍だけのことはあるな」

 一撃一撃が確実に急所を狙ってくるマギャンの鋭い突きを捌きながら、テリーは敵手を称賛した。だが、若いながらに優秀な戦士であるテリーはマギャンの戦術を逆手に取った戦い方で、すでに勝機を見出していた。

 「だが、俺には勝てん!」

 テリーが不敵に笑い、マギャンが突きを受け止めるテリーの動きが少しずつ小さくなっていることに気付いた時、半回転したテリーの剣に必殺の突きを繰り出そうとしたマギャンの太刀は刀身の半ばから折り砕かれていた。

 「!」

 「狩りは根競べだ。俺に根競べで勝てると思ったのがお前の敗因だ!」

 「おのれ!」

 失敗を悟ったマギャンは飛びすさって距離を取ろうとした。だが、両者の距離は開かなかった。予想以上のテリーの跳躍が瞬時にしてマギャンとの間合いを詰めていたのである。

 「うおおおおおお!!」

 防ごうとしたマギャンの太刀もろとも、閃光となったテリーの刃はマギャンの胴体を苦もなく両断した。

 「ま、まさか最初から私の疲れを待って…」

 「後悔の続きは地獄でしろ。俺は貴様とは違う」

 半身と腕すなわち戦う手段を失ったマギャンの言葉は最後まで続かなかった。

 テリーの剣に頭蓋を死せる水を満たしたガラスの兜もろとも断ち割られ、マギャンは絶命した。

 「テリー!」

 「やったな、テリー!」

 「いや、まだこれからさ」

 魔物の死で呪いが晴れたのか、陽光が差し込み光に満たされた大広間でテリーたちは天を仰ぐと、これからも続くであろう戦いの勝利を誓い合った。

 七大将軍の一角を欠いたエスターク、大魔王バラモスがエスターク人の将軍たちにも勝る力を与えられた宝石モンスターを生み出し世界制覇の戦略を大きく変更するのはそれから間もなくのことであった。

 だが、勝利に力を得た勇敢なテリーと仲間たちは押し寄せる新手のモンスターにも屈することなく、取り戻した故国を守り続けたのであった。



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