足したけど2で割らなかった   作:嘴広鴻

2 / 10


続きました。




CCG難易度ルナティックモード

 

 

 

━━━━━金木研━━━━━

 

 

 

「おーおー、アヤトくんもアオギリも頑張ってますねぇ。けどこの戦力差じゃもう持たないか」

「(あの子は……いないのか?)」

「(アヤト、頑張れ)」

「……あの、店長も四方くんも反応してくれません?

 ところでカネキくんは大丈夫かい? こんな殺し合いの現場に見るなんて初めてだろう」

「ええ、普段は地下での訓練だけですし、生死がかかった戦いの経験はアサキさんの一件ぐらいですね」

 

 そのアサキさんの一件もアサキさん引っ掴んで逃げただけだったし、殺し合いは実質これが初めてのようなものだった。

 人間(CCG)に駆逐される喰種。逆に喰種に殺される人間(CCG)。見ているだけで怖気が走る。

 だけどその怖気も現実感があまり感じられない。まるで小説の酷いシーンを読んでいるような、テレビで外国のテロ事件のニュースを見ているような他人事の感覚だった。

 僕はこんな薄情な人間だったんだ。

 

 けどそんな僕でも固唾を飲んで見ているところがある。アヤトくんだ。

 アヤトくんは20人以上の捜査官を相手取って戦っている。その捜査官の中の二人は特等捜査官という地位にある人たちで、入見さんから前に聞いた話だと人間側のバケモノのような人たちらしい。

 流石のアヤトくんもそんな人たちを複数相手するのは無理らしく、最初はかなりの勢いで暴れまわっていたけど次第に劣勢に陥っていた。

 

 それにしてもアオギリの戦力がいくら何でも少な過ぎる気がする。

 タタラさんやエトさんがいないのもそうだけど、以前にあの拠点を訪れたときはもっと喰種がたくさんいたような……。

 

「いや、あれはCCGの選択ミスだろう。

 遠距離で同時に複数人に攻撃出来る羽赫のアヤトくん相手なら、最初からあの特等2人だけで戦っていた方がよかった」

「ですね。あの鎧っぽいクインケを纏った特等2人以外は防御力が足りなかったから、最初は特等2人が周りの連中のガードをしてフォローに回らなきゃいけなかったみたいですし。

 現に余計なのを下がらせたら、あっという間にアヤトくんが不利になりましたしね」

「(……アラタ)」

 

 なるほど。勉強になります。赫子には相性があると聞いているけど、こうして実際に見るとわかりやすい。

 僕の場合だと遠距離攻撃が出来る羽赫以外はあまり関係ないからなぁ。

 動きが遅い甲赫が一番戦いやすいのはセオリー通りなんだけど、相性の悪い尾赫と相性の良い甲赫で攻撃されて傷ついたとしても、治るのにかかる時間は数秒程度しか変わらない。

 というか防御に意識を集中さえしてしまえば、そもそもよっぽどの攻撃じゃない限り僕の身体を傷付けること出来ないしなぁ。

 

 おお、アヤトくんが凄い勢いで吹っ飛ばされた。

 今までのダメージが重なったのか立ち上がることは出来なく、壊された赫子の回復も出来ないようだ。意識はまだあるようだけど完全に戦闘不能状態になっている。

 

「いかんな。そろそろ助けに入らなければ。

 カネキくんは先に行ってアヤトくんを確保してくれ。ここからでは私たちの足だと間に合わない」

「頼むぞ、研」

「はい。わかりました。3人も早めに来てくださいね」

 

 腰の辺りから4本の鱗赫を出し、2本は橋に突き刺しておく。

 ちなみに今いる場所はアオギリの拠点から2kmほど離れた橋の上。そこそこ見晴らしが良いからCCGが陣取っているんじゃないかと思っていたけど、空いていたので僕たちはここから双眼鏡を使ってCCGとアオギリの戦いを見ていた。

 

 あ、行く前にボイスチェンジャー起動させとかないと。

 

 

「行きます」

 

 足を踏み出すと同時に、橋に突き刺した鱗赫に力を入れて爆発させるかのように一気に飛び出す。

 流石に2kmを一足飛びでというわけにはいかないので、橋と拠点の間にある森の木に鱗赫を突き刺し、身体を引っ張るようにして更に加速。

 2本目、3本目、4本目と順に木で加そ……って、うわっ!? 突き刺した木がバッキリ折れた!? 慌てて別の太い木に突き刺し直すけど……ウン、力加減がやっぱりまだわからない。店の地下での訓練しかしていないからなぁ。赫子が4本あってよかった。

 捜査官たちは戦いでアヤトくんによって滅茶苦茶にされた状況を整理し終えたらしく、アヤトくんにトドメを差すつもりなのか特等の1人がクインケを持って動けないアヤトくんに近づいていくけど、ここまで近づいたら僕もあと5秒もしないうちに到着出来る。

 

「篠原! 左だ!」

 

 だけど流石はアオギリの拠点に踏み込むぐらいに訓練された捜査官。僕が木を折ったときに出た音に気が付いたのか、白髪の捜査官がアッサリと接近中の僕に気が付いた。

 でももう遅い。まだ100m近く離れているけど、牽制のためにアヤトくんと近づいている捜査官の間に鱗赫を伸ばす「待ちなさいっ!」……って、アレェ? いきなりアヤトくんたちを見下ろす位置に現れたあの人影は……。

 

「助けに来たわよぉ、ウサギちゃん♪」

 

 ゲェッ!? やっぱりニコさん!?

「ゲェッ!? カマ野郎ッ!?」

 僕の心の叫びと同じことをアヤトくんは叫ぶ。

 

 今も戦っているだろうヤモリさんを放っておいて助けに来るなんて、アヤトくんってば完璧にロックオンされているじゃないか!? ゴメンよ、アヤトくん。あの時に僕の力が足りなかったせいで……。

 でもニコさんが助けに来てくれたのなら僕はいいんじゃないかな? 牽制のためにアヤトくんと捜査官の間に叩きつけた鱗赫をそのまま床に挿して急ブレーキをかける。

 しかしその牽制の一撃のせいで、既にアヤトくんからもニコさんからも捜査官の人たちからも視線を集めてしまっていた。

 

 えーーーっと……、

 

「……じゃ、そういうことで」

「ちょっ!? テメッ!? 来ておいて何処行く気だコラ!」

 

 ニコさんが来るならもう少し待てばよかった。しかし流石に無視してこのまま帰るわけにはいかないか。チクショウ。

 仕方がないのでアヤトくんと捜査官たちの間に降り立つ。

 それにしてもアヤトくんはよく僕のことがわかったな。マスクでほとんど顔は隠れているし、更には白髪のウィッグをつけてボイスチェンジャーを使っているので、僕と判別出来る要素は少ないはずなのに。

 そういえば前にアヤトくんには赫子を見せていたか。ニコさんと二人きりにする際に。ならわかるか。

 

 ああ、そして20人以上の捜査官を相手にしても一歩も引かずに戦っていたアヤトくんが、ニコさん相手だと少しでも距離を取るためにみっともなく這いずってでも逃げようとしている。

 クソッ、アヤトくんにここまでのトラウマを植え付けてしまうなんて、あの時の僕は何て情けなかったんだ。

 

 でも大丈夫。今度はちゃんとCCGからは守ってあげるからね。

 

「アラ、君も来たの? お義兄さんは大変ねぇ。

 ウサギちゃんってばそんなに思われているなんて……アタシ、ちょっぴり嫉妬(ジェラす)しちゃぁう」

 

 でもニコさんの相手は勘弁ね!

 幸いにも僕たちの前方にCCG捜査官たちがいて斜め後方にニコさんがいるので、僕がCCGからアヤトくんを庇うように、そしてアヤトくんがニコさんから僕を庇うように、僕の斜め後方にアヤトくんを逃げないように鱗赫でグルグル巻きにして持ち上げる。

 間違った。アヤトくんがCCGの羽赫クインケで攻撃されないようにだ。

 

「テメッ!? 何でこの位置取り!?

 だいたいオレはお前が義兄貴(アニキ)だなんて認めてねぇぞ!」

「いや、(まだ)そういう関係じゃないから。

 ホラ、大人しくしてよ。まだ目の前にCCGの人たちがいるんだよ……えーと、ウサギくん」

 

 名前を呼ぶのってマズいよな。ニコさんにならってウサギくんって呼ぼう。

 ニコさんはピエロのマスクを被っているからピエロでいいか。

 

「あらぁん、いいわねぇ。男の子たちが戯れる姿って。

 でも声を機械で変えているのは減点だわぁ。せっかくの君のイイ声が台無しぃ」

 

 ヒエッ!? そ、そんな熱の籠った眼で僕を見ないでください。

 そんなことよりニコさんはアヤトくん受け取ってください。CCGの目の前にいると危ないから。危ないからっ!

 

「オイ待てっ!? 何でオレをカマ野郎に近づけるんだよっ!?」

「い、いや……だからCCGの人たちがいるんだから、君をピエロさんに預けて僕がCCGの人たちの相手をしようかと」

「明らかに近づける意図が違うだろうがっ!! いいから離しやが「……何をしているのかね、君たちは…………あっ(察し)」助けろオッサン!!」

「(アヤト……遂にオレを叔父と呼んでくれるのか)」

 

 あ、店長たちが到着。しかもニコさんの姿を見て状況を察してくれたようだ。とりあえずアヤトくんは四方さんに預けよう。

 四方さんに渡されたアヤトくんは、ニコさんから自らの姿を見えなくするように四方さんの背中にしがみ付きながら隠れる。一方の四方さんは感無量といった感じだ。

 

 だからニコさんはそんな残念そうな顔しないでください。

 

 

 そんな緩い空気が流れていた僕たちと違って、CCGの捜査官たちは店長の姿を見たときから凄いざわめきが起こっていた。

 

「マル……ヤツだ」「うむ」「隻眼の、梟……っ!」「SSSレートの?」「何故ここに?」「しかも魔猿までいるぞ」「もしやヤツがアオギリの……」「あのカラスマスクも……」「先に現れたあの……歯茎?の喰種は……」「それにピエロマスクまで……」「アオギリとピエロは組んでいるのか?」「(それにしてもオカマの喰種っているんだな)」

 

 ちょっと待って。今誰か僕のこと“歯茎”って呼びませんでした? いや、確かにこのマスクは口の部分の歯茎が目立つかもしれないけどさ。

 ウィッグの“白髪”とか眼帯をしているところから“眼帯”や店長みたく“隻眼”って感じに、格好良いとまでは言わないけどせめて聞ける範囲での綽名で呼んでほしいんですけど。

 

「10年前、私の両腕を奪った青年はいないのか」

 

 赫子を仮面のように顔に纏わりつかせているためか、いつもの店長の声とは違う少しくぐもったような声。

 僕の内心の葛藤を余所に、店長がCCGの捜査官に向かって歩き、僕の隣に来る。それだけで捜査官たちに緊張が走るのが見てわかる。

 

「君もだいぶ出世したようだ。あのとき、利き腕を奪うべきだったかな? 君の上司のように。篠原特等」

 

 知り合い? あの変わった髪型をしている捜査官と10年前に会ったことあるんですか。

 でもその篠原さんより、コッチを凄い形相で睨んでいる白髪の中年の捜査官の方が因縁深いようなんですが?

 

「フム。カラスくんと魔猿くんはその子を連れて先に行きなさい。

 そして……そうだな。足止めを兼ねて、君が彼ら捜査官たちと戦ってみるかね? ……歯茎、くん?」

「えっ、僕ですか?」

 

 そして店長までその綽名で僕を呼ぶんですかっ!?

 

「梟さん。それは歯茎には……」

「そうですよ。いくら何でも歯茎くんにはハードル高すぎませんかね?」

「何。彼なら大丈夫だろう。もしものときのために私もついているし、いつかは経験しなければならないことだ」

「OK。わかりましたから歯茎は止めてください。歯茎は」

 

 四方さんに古間さんまで……。

 でもとっさに綽名なんて思いつかないし、それによく考えてみれば僕は普段から眼帯をしているから、眼帯に因んだような綽名は連想されてマズいから店長たちはそう呼んでくれているのかもしれない。

 だけど帰ったら何か良い綽名を考えよう。

 

 それでは、と言ってアヤトくんを連れて立ち去る四方さんと古間さん。そしてニコさんも…………ニコさんはどっかに行かないんですね。チクショウ。

 クッ、目があったら手を振られた。無視するわけにもいかないのでとりあえず頭を下げておいたけど、何だかニコさんに見られながら戦うのって嫌だなぁ。

 何だか腰の辺りにニコさんの視線を感じるんですけど、それはあくまで腰から出ている赫子を見ているだけですよね? 赫子を出すために曝け出している肌の部分なんか見てませんよね?

 助けてトーカちゃん。

 でもトーカちゃんはトーカちゃんで問題集を終わらせて僕が採点しているときとかに、何となしに最近になって6つに割れた僕の腹筋を弄ってきたりするんだよね。待っている間は暇なのか、僕の背中の方に回ってよりかかってきたりもする。

 どう反応したらいいんだ、アレ。見ているヒナミちゃんも真似するし。

 

 

 僕が葛藤している間も、一方のCCG側は慌ただしく動いている。

 店長が姿を現した直後は、漏れ聞こえた会話によると決死隊を殿にして残りはアオギリの殲滅に向かうような感じだったけど、店長が足止めという言葉を口にしたことと、僕が1人でCCGと戦うということでその状況が一変した。

 どうやら店長をこの場で倒すことは無理だとは思っているようだけど、足止めが目的というのならCCG視点初めて相対した僕の戦力評価、及び倒せるものならという条件で僕の討伐が目的に変わり、当初とは違って半分の10人がこの場所に残った。

 

 かといって僕が1人で戦うことについては甘く見ているわけではなく、むしろバリバリに警戒されている。これは僕が、というより店長に対しての警戒が大きいだろう。

 いくら店長が戦闘に参加しないような素振りを見せていても、それが本当かどうかはわからない。

 店長の気が変わって店長が戦いに参加したら、それだけで残った人員が全滅しかねないし、何よりも店長が僕1人で戦わさせるということで僕もそれなりの力を持った喰種として認識されているようだ。

 現に先ほど捜査官の人たちは“SS級配置”という言葉を口にしていた。いきなり上から2番目かぁ。

 

「……1人で、ですか?」

「まぁね」

 

 しかし、結局前に出てきたのは特等2人だけ。どうやらアヤトくんの戦いを踏まえて少数精鋭で挑んでくるようだった。しかも僕と戦おうとしているのは篠原さんだけで、鎧のクインケを纏ったもう1人の特等は店長を監視している。

 もちろん羽赫のクインケを持っている女性……女性、だよね? ガタイが凄くいいけど。まぁ、その人も含めて他の捜査官はいつでも援護に入れるように待機しているようだ。

 防御力の高い篠原さんで様子見をして、隙があれば店長を監視している特等を除いた全員で僕を仕留める、といった作戦だろうか?

 

「待たせちゃったかな、歯茎くん」

 

 だから歯茎は止めて。

 

 篠原さんは纏っている鎧のクインケの他に、おそらく尾赫であろうクインケを手に持っている。僕の鱗赫に対して有効な尾赫のクインケを持っていることも篠原さんが前に出てきた理由の一つだろう。

 亜門と呼ばれていた若くて背の高い(ニコさんが好みそうな)捜査官がしきりに“自分が戦う”と言っていたけど、あいにくと彼が持っているのは甲赫のクインケ。僕の鱗赫とは相性が悪いことを理由に却下されていた。

 

 ……こうして見るとクインケってのは多種多様なんだなぁ。

 というか羽赫のクインケはどうやったらあんな特撮映画に出てきそうな大砲みたくなるんだろうか? 何故“羽”赫があんなゴツイものに? まったくもって不思議だ。

 

「っていうかむしろ君の方がいいのかな? いくら梟が後ろに控えているとはいえ、君1人でこの人数と戦わされようとしているのは?

 後ろでデジカメを準備しようと四苦八苦している梟とピエロに思うところはないのかい?」

「あ、はい。まぁ、捜査官の人と戦うのは初めてで不安なんですけど、梟さんが言い出したのなら大丈夫なんだろうと。

 あの人は結構スパルタですけど、人を見る目はしっかりして…………デジカメ?」

「だからこうするのよぉ」

「……成程。いや、大丈夫。ちゃんと起動出来た」

 

 何やってんですか、店長。

 それ僕の血を月山財閥に売ったお金で買った最新のデジカメじゃないですか。あんていくのメニュー写真撮影用の。

 

「来る前にあの子から君のことが心配だとお願いされていてねぇ。君の初陣だし、記念になるかと思って……。

 あとせっかく買ったこのカメラの動画機能も試してみたいし」

「……やめてくださいよ、恥ずかしい」

「頑張ってねぇん、歯茎くん♪」

 

 あの子って……当然トーカちゃんのことだろうな。トーカちゃんから電話でもあったのか。やっぱり僕の行動はバレバレだったみたいだ。

 でもトーカちゃんのお願いは撮影って意味じゃないと思います。

 

 ああ、白髪の中年の捜査官の人がますます凄い形相にっ……。

 それとニコさんは帰ってください、お願いします。

 

「(敵意も殺意も持っていない? わからん喰種だ。これが初陣ということだし、あの様子だと梟の秘蔵っ子とでも言うべき喰種なのか? それに彼らの会話では先ほどアオギリのウサギという喰種の兄……とは限らんか。ウサギが“認めない”と言っていた)

 ……ま、あとは実際に戦ってみて、かな?」

「篠原」

「ああ、いわっちょは梟を頼む」

「うむ」

「それじゃあ、行くよ」

「はい、よろしくお願いします。なるべく怪我をさせないように気を付けますので」

「はっはっは、そうかいそうかい…………特等ナメんな」

 

 篠原さんのさっきまでの温厚そうな顔が、一気に戦士めいた険しい顔に変わる。

 確かに今の僕のセリフは本職の人に対しては侮辱のようなものだったかな。

 

「すいません。貴方を侮辱するつもりじゃなかったんですが」

「ほざけーーーーっ!!」

 

 僕のフォローにますます激高して飛び掛かってきた篠原さん。鎧のクインケのおかげなのか、重さのある鎧を纏っている人間にしてはとても速い。

 だけど篠原さんは激高しているような声色と違い、目はいたって冷静だ。僕の鱗赫の動きを注視していて、どんな動きに対しても反応出来るように気を付けているのが僕からでもわかる。

 あっという間に距離を詰められるけど、襲い掛かってくる篠原さんに僕は何もしない。

 いや、むしろ篠原さんが握り締めている尾赫クインケに対して僕は自らの首筋を曝け出した。

 

「っ!? はあああーーーっ!!」

 

 そんな僕の様子を訝しがる篠原さんだったけど、ここまで接近しては止めることもできないので、そのまま僕の左の首筋にクインケを振り降ろした。

 特等の地位にある捜査官が使うクインケならば、元となった喰種のレートはおそらくS以上。

 そんな強力なクインケが無防備な首筋に振り下ろされたら、普通の喰種だったら首を刎ねられる。いや、SSSレートの店長だったとしても、いくら何でも無防備で首筋になら致命傷に至るかもしれない。

 

 だけどそんな強力なはずの一撃も、僕に対しては無意味だった。

 バギンッ! そんな音が、決して刃物が出してはいけないような音が辺りに響く。

 

「なあっ!?」

 

 篠原さんの驚きの声。

 それに釣られて首筋に振り下ろされたクインケを見てみると、見事なまでに刃毀れしてしまっている。ポロリ、とクインケの欠片が地面に落ちた。

 対する僕の首は無傷。必殺のはずだった篠原さんの一撃は、僕に対してまったくの無意味な結果に終わっ……あ。

 

「しまった。襟が切れてる」

 

 よくよく見てみると、僕の身体とクインケの間に挟まれた襟が切れてしまっている。

 ウタさんデザインのこの服、結構高いのに。

 

「ぬぅっ!」

 

 攻撃が無意味に終わった篠原さんは僕の側に居るのは危険と判断したんだろう。僕から距離を取ろうとしたけど、流石にそうはいかせない。

 目の前の引かれようとしているクインケを左手で掴む。

 

「くっ!」

 

 僕の手を振り払おうとクインケに力を籠める篠原さんだけど、僕が掴んでいる以上、クインケはそのまま1ミリたりとも動かさせない。

 そのまま両手でクインケを引こうとしている篠原さんと片手でクインケを掴んで離さない僕とで力比べが始まった。しかし直ぐに僕に振るわれて欠けてしまった部分からドンドンとクインケに罅が走っていく。

 罅が走り始めてから数秒もしないうちに、篠原さんのクインケはバキリ! という音を立てて真っ二つに折れてしまった。

 

「うおっ!?」「篠原!!」「特等!!」「馬鹿な!?」「オニヤマダがっ!?」「オニヤマダはSレートのクインケだぞ!」「赫子も使わずに!?」「下がってください、篠原特等!!」「五里っ、待て!!」

 

 ざわめく捜査官の人たち。羽赫クインケを持っている女性は、後退しようとしている篠原さんを援護しようというのかクインケを構えた。

 ……というか女性に“ゴリ”って酷くない? 確かにガタイは女性にしては凄いけどさ。

 セクハラというかパワハラ受けているのかな、あの人? CCGの捜査官は軍人や警察官と似たような業種だから、きっと体育会系の可愛がりとかもあるんだろう。そういうのは好きになれない。

 

「チィッ!」

 

 下がろうとする篠原さんだけど、殺す気で攻撃してきた人をそのまま帰すほど僕はお人好しじゃない。

 鱗赫の1本を伸ばして篠原さんの右足に巻き付けて逃がさないようにし、もう1本を篠原さんがまだ手に持っている折れたクインケに向けて突き刺す……というか勢い的には発射をする。

 人間が反応出来ない音速を超えた一撃は、アッサリとクインケの残った刃の部分を見事に粉砕し、オニヤマダというクインケは柄だけのものなってしまった。

 

「捕まえた」

「ウオオッ!?」

 

 そして篠原さんを右足に巻き付けた鱗赫で逆さ吊りに持ち上げたけど、その光景を見て何だかリゼさんにされたことを思い出してしまった。

 今更ながらよく生きてたなぁ、僕。

 

「確かこうだったかな?」

 

 それはともかくとして、いつまでも篠原さんを持ち上げているわけにはいかないので、あのときのリゼさんみたく篠原さんを……そうだな。あの一番ガタイがよくて受け止められそうな亜門さんという捜査官(ニコさんへの生贄候補)に向けてブン投げた。

 

「篠原さん!」

 

 飛んできた篠原さんを受け止める亜門さん。そこそこの勢いに弱めて投げたとはいえ、亜門さんは篠原さんをガッシリと受け止める。

 店長を凄い形相で睨んでいた白髪の中年捜査官は、篠原さんを受け止めた亜門さんの前に出て僕から庇う。一方のゴリ……羽赫クインケ持ちは時間稼ぎのためか羽赫を発射してきた。

 

 何もしなかったら服に穴が開くか。

 

 鱗赫を平べったく広げて盾にして羽赫を防ぐ。平べったく広げたせいで薄くなったから、もしかしたら突破されるかもと思ったけど、幸いにも僕の鱗赫には傷一つ付くこともなく防ぐことが出来た。

 トーカちゃんの羽赫に比べてクインケはごついけど、威力的にはむしろ劣っているぐらいか。トーカちゃんの羽赫が凄いのか、それともクインケにされた赫子は本来の性能を発揮出来ないのか。そのどちらかな?

 

「おうおう、何てヤツだ。篠原、大丈夫か?」

「あ、ああ。何とか大丈夫だ。しかしオニヤマダが……亜門、ドウジマ借りるぞ」

「はい。俺には真戸さんから頂いたクラもあるので」

 

 よかった。篠原さんは特に怪我をしていないようだ。クインケを壊したときに手首を痛めるかと思ったけど、流石に普段から訓練している人たちは違う。

 そして店長を警戒していたもう1人の特等、いわっちょ?さんが捜査官全員を庇うように僕の前に出る。

 

 追撃をするつもりはないので体勢を立て直して貰おう。

 その間に僕は……この手に残った折れたオニヤマダの刃はどうしよう。返そうかとも思ったけど、強く握り締めているから僕の指紋がベッタリついているな。返すのはマズいか。

 仕方がない。壊そう。

 

 パァン、という音とともに残ったオニヤマダの刃を、先ほどと同じく音速を超えた鱗赫の一撃で粉砕する。

 ここまで粉砕すれば指紋を取ることなんて出来ないだろう。半分近くは風に乗って建物の外に流れていったし。

 

「……嘘だろ、オイ。アレは結構思い出深いモノだったんだけどねぇ」

「篠原さん、今度は俺も」

「馬鹿言うな、亜門。オニヤマダを粉砕した一撃はアラタでも防げそうにないぞ。ボディアーマーしか装備していないお前たちではアレを受けたら終わりだ」

「しかしアレは君だけじゃ無理だろう。余裕のためか梟は全然動きそうにないし、君を殺さないように歯茎も手加減しているようだ。今もこうして私たちの様子を窺うだけに留めている。

 あの強さでは余裕ぶるのはさもありなんといったところで癪だが、私たちを甘く見ているうちに全力で叩くべきだろう。それに先ほどの一撃なら複数の赫子で同時に出せるとは思えん。君一人で戦うよりも、手数で勝負してヤツを集中させずに戦った方がいいかもしれん。

 ま、ヤツらは時間稼ぎと言っていたから撤退しても追撃はないだろうが、私はここに残るぞ」

「わかっているよ、真戸。特等が引くわけにはいかんでしょ。

 頭痛いなぁ。彼の後ろにはまだ梟がいるってのに…………いわっちょ、プロトタイプってどこまでやっていいんだっけ?」

「……無茶する気か?」

「しましょう!」

「うむ、の「お待ちどうさまぁ~♪」……む?」

「什造!?」

 

 何だか僕を置いて捜査官の人たちが決死の覚悟を決めていたら、この場にもう一人乱入者が登場した。

 真戸さんと呼ばれた白髪中年の捜査官とは違ったボサボサの白い髪。縫い目がついている顔。男か女かわからない中性的な顔立ち。まるで捜査官とは思えないふざけた態度。でもどこかで見たような……あ。

 

「バイクで建物に突っ込んだ人?」

「はいぃ~~、そうですよぉ。

 で、君は誰ですかぁ? 他の人たちとは違うっぽいですけどぉ?」

「……いや、まぁ、僕たちはアオギリじゃないですけど。

 あの…………この人も捜査官なんですか?」

「い、一応は……」

 

 捜査官のイメージとは違い過ぎたので篠原さんに問いかけてみたけど、篠原さんも思わずという感じで僕の問いに答えてくれた。目を逸らしながらだけど。

 うーん、CCGはもっと真面目な組織かと思っていたんだけど、嘉納先生といいこの人といい、ちょっと変わった人が多いのかな?

 

「って、アラ? アナタ、ヤモリと戦っていたんじゃないの?」

「ヤモリ? ジェイソンさんですかぁ? 倒しちゃいましたよぉ」

「アラ、そうなの? それは……残念ねぇ」

「篠原さぁ~ん。僕が倒したんですから、約束通り新しいクインケ作ってくださいね?」

「あ、ああ。それよりちょうど良いタイミングで来たな。手伝え、什造」

「はぁ~~い♪」

 

 ……何というか、変わっているなぁ。

 しかし彼がヤモリさんを倒したというのなら甘くは見れない。ヤモリさんはそこそこ強かったはずだ。

 そんなジュウゾウくんとやらに篠原さんがボソボソと話しかけている。流石に小声で話されてしまったら、いくら喰種の聴力とはいえこの距離じゃ聞こえないか。いや、入見さんなら聞こえるかもしれないし、前にトーカちゃんとヒナミちゃんと一緒に見た映画みたいに口の動きを読める喰種もいるかもしれないけど。

 見えている範囲でわかるのは、ジュウゾウくんとやらが持っているのはクインケらしい数本のナイフのみだということぐらい。

 となると、あんな超近接でしか戦えないようなクインケでヤモリさんに勝つということは、身のこなしは下手したら並の喰種以上か?

 

 僕が観察をしている間に、CCGも陣形を変え始めた。

 こうなってしまった以上、思い切って店長のことは完全に無視することに決めたようで、いわっちょさんも篠原さんと一緒に僕に挑んでくるようだ。その少し後ろに亜門さん、白髪の真戸さんと呼ばれていた人、そして平子さんと呼ばれていた人がいて、5人全員が接近戦用のクインケを構えている。

 更にその後ろに羽赫クインケと銃を持っている人が5人。

 ジュウゾウくんは……前衛5人の陰に隠れるようにしている。彼が本命か?

 

 さっきのオニヤマダの僕の首筋への一撃で、僕に生半可な攻撃……いや、強力な攻撃でも無意味ということはわかっているはず。

 となると向こうの狙いは後衛が援護しつつ前衛5人で隙を作るように動いて、最後にジュウゾウくんが喰種でも人間と変わらない弱点である眼球や耳の穴への攻撃……といったところか。最近のトーカちゃんと同じ戦法だな。

 

 ……考えてみればかなり酷くない、トーカちゃん?

 まぁ、そこまでしなきゃ僕にダメージは与えられなくなってるから仕方がないかもしれないけど。どうせ再生するからいいけど。

 

 それとニコさん! ヤモリさんがやられてしまったのなら、遺体を取り返しに行くなりされたらどうですか!?

 恋人の遺体をCCGの人たちに好き勝手にされるのはお嫌でしょう!?

 

「ん? ん~、そぉねぇ。確かにヤモリがやられたのは残念だけど、最近のアタシが一番興味深く思っているのは歯茎くん。君なのよねぇ。

(トーカちゃんに怒られるから手は出さないけど)」

 

 ヒエッ!? な、何かニコさんの気を引けるようなものは…………あ、CCGの人たちの準備が終わったみたいだ。

 なら戦いにかこつけて……って、よくよく見れば真戸さんと亜門さんはアサキさんを襲っていた捜査官じゃないか。そしてランジェリーショップで会ったこともある人でもあるな。

 確か真戸さんの娘さんが亜門さんの恋人だったか。

 流石にそんな相手がいる人をニコさんに差し出すのは心が痛む。他にニコさんが好みそうな人はいないし今回は諦めるか。仕方がない。

 

「行こうか、亜門くん。覚悟を決めたまえ。今まで駆逐してきた雑魚とは違うぞ」

「え、ええ。わかっています。

(おい、歯茎。ピエロを見た後に何故そんな意味深な眼で俺を見た?)」

「(……俺は地味で良かった)」

「さあ、アラタっ!」

「喰いなぁっ!」

 

 そうこうしているうちにCCGの人たちが動き始めた。特に篠原さんといわっちょさんが自らの首の裏に手をやった思ったら、鎧型のクインケがウネウネと動き始める。

 篠原さんたちから肉を喰い千切られているような鈍い音と、それに伴って血の匂いが漂ってくるのが、喰種になってから鋭くなった五感でわかる。

 クインケは喰種の赫子を利用して作られたもの。ということはアレは自らの身体を喰わせている?

 

 ……何というか、そこまでするのか、という気分だ。

 CCGの捜査官という人たちは、そこまで決死の覚悟で喰種を駆逐しているのか。

 

「行くぞぉっ!」

「ああっ!」

 

 だけど僕がそれに付き合う義理はない。

 後衛の人たちが僕に羽赫と銃弾を撃ち出す援護をし始めたら、篠原さんといわっちょさんが僕に向かって走ってくる。そしてその後ろに広がるようにして亜門さんと真戸さんと平子さんが篠原さんたちに追従している。

 前後に重ならないようにしているのは、僕の鱗赫の一撃を警戒しているのだろう。

 

 それに対して僕はまず先ほどと同じように鱗赫を薄く広げて盾にして、羽赫や銃弾を弾く。

 そしてもう1本を9の字型に、9の○の部分を直径10m程の大きさに広げ、それを篠原さんたち2人を○の中心に位置するように床に叩きつけた。

 

「「うおおっ!?」」

 

 鱗赫の一撃は床に大きな穴を開け、○の中心にいた篠原さんたちはそのまま床ごと下の階に落ちていく。

 ハイ、お疲れ様でしたー。篠原さん人形といわっちょさん人形、ボッシュートです。

 

 ……ヒナミちゃんに付き合って以前よりテレビを見るようになってから、随分と変なツッコミ入れるようになったな、僕。

 

 一瞬で最大戦力の特等2人が戦線離脱してしまい動揺が走る捜査官の人たち。

 そして更に僕から見て左手側から真戸さん、右手側から平子さん、そして正面から亜門さんが向かってきていたけど、その間に大きな穴が開いたせいで捜査官の人たちにとって不幸なことに分断される形となった。

 混乱の中でも動けたのは特等2人が戦線離脱しても動揺していなかった真戸さん、そして動揺は多少あるだろうけどそれでも身体を動かせていた平子さんだけだった。こういう人たちは厄介だな。

 しかし亜門さんは特等2人が穴に落ちるのを目の前で目撃した上に、急に目の前に開いた穴に落ちないために急ブレーキをかけざるをえなく、動きが止まってしまっている。

 

 なら次に篠原さんといわっちょさんの次に厄介そうな真戸さんを。

 開けた穴に沿ってまだ10m以上離れていた距離を一足で近づける。ただしさきほどの床への一撃で床が脆くなったらしく、踏み込んだ際に床に罅が走る。これはあまり力を入れると駄目だな。

 

「ぬぅっ!?」

 

 近づいた僕に対して振るわれるクインケ。剣の様な青がかった緑色のクインケに対し、僕は右の拳を真っ向からぶつける。オニヤマダのように真ん中からポッキリと折れたクインケに、さらに左手で手刀を振るって根元部分から折った。

 そしてその勢いに乗ったまま真戸さんの後ろに回り、無防備の背中に蹴りを入れて先程開けた穴に蹴り落とす。

 これで3人「パァンッ!」って、何だっ!?左肩に衝撃が走った。

 僕の後ろにいる後衛からの援護攻撃は全て鱗赫の盾で防いでいるのに何故、と左側に目をやると、平子さんが拳銃を僕に向けていた。穴を挟んで反対側にいた平子さんは近接用クインケによる援護が間に合わないと判断して、腰の裏にでも装備していたのであろう拳銃に持ち替えたのか。

 拳銃の弾ぐらいで防御に集中している僕の肌を突き破ることは出来ないけど、予想外の攻撃に意識を逸らしてしまったせいで、振り向くといつの間にか亜門さんに接近されてしまっていた。

 

 亜門さんが僕の近くに来たために後衛からの援護が止まる。

 亜門さんのクインケはいつの間にか巨大な1本の鉈のようなものが2本になっていた。亜門さんはそのクインケを二刀流にしており、少しの時間差をつけて左右のクインケが僕に向かって振るわれる。

 オニヤマダでも無理だったのにそんな細いクインケじゃ、と思いながらも亜門さんに対峙する。2本のクインケを壊すた「アハァッ♪」ッ!? ジュウゾウくん!?

 亜門さんの腕とクインケの隙間から、刺繍が施された細くて白い腕が見えた。その手はナイフのクインケを持っており、手首のスナップだけで僕の左目に向かって正確に投げつけてきた。

 この距離では回避は不可能。仕方がないので目を瞑って瞼でナイフを防ぐ。

 

 眼球に少しの衝撃。だけど潰れていないので大丈夫。

 

「オオオォォッ!!」

 

 しかし目を瞑ったせいで、亜門さんの攻撃を受け止めることも躱すことも出来ない。

 右肩から左脇腹に向けるはずの袈裟斬り。続けて左脇腹から右脇腹に抜けるはずの横一文字斬り。

 ただしその両撃とも僕の身体を斬ることは出来ず、クインケが折れただけに終わった。いや、服は斬られているか。

 

「これも駄目かッ! チィッ!」

 

 目を開けて反撃開始しようと思ったところ、亜門さんに腹へ回し蹴りを入れられた。ダメージ自体はないけど、蹴りの衝撃で穴から離される形で距離を取らされた。

 更にジュウゾウくんのナイフの投擲が続く。サーカスのナイフ投げのような早業で左右の手で連続で何本も投げつけてくる。両腕で顔は防いでいるけど……ちょっ!? 股間狙うのは止めてよ!

 しかもそれに加えて後衛から更に羽赫クインケと銃弾の嵐。

 

 イタッ! いや、痛くないけど鬱陶しい!!

 ああ、もう! 多人数相手に戦うのがこんなに難しいだなんて!

 

「歯茎ィィーーッッ!!」

「真戸、スマンッ!」

「うむっ!!」

「こ、腰がっ!?」

 

 って、今度は篠原さんといわっちょさんが穴から飛び出してきたぁーーっ!?

 真戸さんを踏み台にでもしたのか!? 穴の中から真戸さんの悲鳴が聞こえたけど!?

 

 クソッ、どうするか!?

 そのままの勢いで真っ正面から僕に襲い掛かってくる亜門さんと篠原さんといわっちょさん。左手側からは赫子の盾で防いでいるけど変わらずに後衛からの援護攻撃。ジュウゾウくんはもうナイフがなくなったのかナイフ投げは止まっている。

 真戸さんは穴の中だし、平子さんは穴を迂回してこちらに来ている真っ最中。

 

 ……一旦退避しよう。

 

 赫子で身体を持ち上げるようにして跳び上がり、穴を挟んで反対側まで一気に跳ぶ。これなら直ぐには追ってこれないだろう。

 

 

「クッ! ……特等、ご無事ですか!?」

「ああ、何とかな。

 しかし何てヤツだ。普通の喰種だったら2回は殺しているよ……」

「うむ!」

 

 予想通り追撃はなかった。僕を警戒しつつ、再び体勢を立て直すことと武器の確認を優先している。

 近接用のクインケは篠原さんといわっちょさん、それと平子さんの持っているのは完全だけど、亜門さんが持っているのは僕に当てた衝撃で半壊している。そのためか亜門さんは悔しそうにしながら銃を受け取って後ろに下がった。

 後衛はもう無視していいな。僕に散々撃ちまくったせいか、弾切れという言葉が飛び交っている。羽赫クインケもエネルギーがもうないらしい。そもそも当たっても痛くすらないけど。

 

 いやしかし、こんな多人数を相手に戦うのは初めてだけど、今まで店の地下でトーカちゃんや四方さんと訓練していたのとはかなり違うというのが分かった。

 僕が普通の喰種だったら、もうとっくに膾斬りにされた上、蜂の巣にされたハリネズミみたいな状態になっていただろう。

 これは店長も実戦の経験を積むように仕向けるわけだ。身体能力で劣る人間が、身体能力の優れた喰種相手にどう戦ってきたのかがよくわかる訓練になった。

 

「苦戦しているようだね、歯茎くん」

 

 そう、僕にとってはあくまでこれは訓練だ。

 その訓練も終わりと判断したのか、店長が僕に声をかけてきた。捜査官の人たちに緊張が走る。

 

「しかし気に病むことはない。初めてにしてはよくやった方だろう」

「……こんなのでよかったんでしょうか?」

「こんなものさ。むしろ初めてなのに完璧を求めるのは贅沢というものだ。

 今日のところは対喰種戦闘のプロであるCCG捜査官に善戦したという結果に満足しなさい。君はまだ若い。強くなるのはゆっくりでいいんだ。

 焦って一足飛びに強くなろうとしたら、いつか足を掬われて失敗してしまうだろう。そうなっては大切な人も守れなくなるよ」

「それも……そうですね」

 

 焦っても仕方がない……か。

 そして大切な人。トーカちゃんやヒナミちゃん、ヒデやあんていくの皆を守る……。

 

「さて、そろそろ彼らも安全な場所に辿り着けたことだろう。私たちもお暇しようか」

「そうですね。それじゃあCCGの皆さん。お疲れ様でした」

 

 ペコリと頭を下げて踵を返すけど、追撃をかけられるような気配はない。

 まぁ、僕が本気を出しておらず、殺さないように配慮していたことは捜査官の人たちもわかっているだろう。そもそも赫子をクインケだけに使っておいて、人に向けて使っていないことからバレバレのはずだ。

 僕としても今回の戦いはいい勉強になった。これからは多人数相手の戦いを想定した訓練もし「ふざけるなぁっ!!」……亜門さんか。

 

「情けをかけたつもりかぁっ!! 何故殺さない!?

 貴様らは……っ、貴様らは喰種だろうっ!! 人を喰らうバケモノなんだろう!!」

 

 店長は沈黙を保っている。

 僕に答えろということだろうか。

 

「……逆に聞きますけど、殺されたいんですか?」

「そうじゃないっ! そうじゃないが…………何で、何でヤツと同じように……っ!」

「“ヤツ”というのが誰かは知りませんけど、勝手に他人と重ねないでください。

 殺す理由がないから殺さないんです」

 

 まぁ、半人間である僕の心情的に“殺さない”じゃなくて“殺したくない”という気持ちの方が強いんだけど、わざわざ言う必要はない。

 僕はただアヤトくんを助けに来ただけなんだから。

 

「正直な話、薄情と思われるかもしれませんけど、僕は僕の身近な人たちが幸せならそれでいいんです。

 もちろん人に殺される喰種も喰種に殺される人も、どちらも悲しいことだとは思います。もしも人も喰種がお互いに殺さず殺されない世界があったら幸せなんだとも思います」

 

 ああ、それは幸せな世界だ。

 今でもよくヒデがあんていくに来て談笑している。最初のうちはヒデのことを警戒していたトーカちゃんもすっかり慣れてしまって、ヒデから僕のことを色々と聞いたりしていることもあるぐらいだ

 だけどそれが出来ているのは、ヒデがあんていくが喰種の店だと知らないから。

 いくら神経が図太いヒデだといっても、流石に相手が喰種だと知ったら今まで通りに振る舞うなんてことは出来ないだろう。

 

 医学の発達した現代なら、もしかしたら人間と喰種の共存は可能かもしれない。

 例えば人間が献血のような形で喰種に血を、Rc細胞を提供するような仕組みを作り出すなんてどうだろう。喰種が提供するのは……優れた身体能力による労働力?

 これだと人間側ばかりに負担があるかもしれないけど、喰種に殺される人間がいなくなり、対喰種に割かれている予算も別なことで使うことが出来る。どうせ献血された血液は消費期限があるのだから、無駄に捨てられている血液の有効利用なんかにもなるだろう。

 

 けど現実には家族を喰種に殺された人間がいる。

 けど現実には家族を人間に殺された喰種がいる。

 

 この長年続いた両者の対立で出来た敵愾心の溝は、綺麗な言葉や理想なんかで埋まるような簡単なものじゃない。

 

「そんな世界になったらいいとは思うけど、どうやったらそんな世界になるのかすら今の僕ではわからない。

 だからせめて身近な人だけでも守りたい。そう思っているだけです」

 

 耳を澄ませばこの場以外の戦闘は終わったらしく、先ほどまであった喧騒はなくなっていた。聞こえるのはCCGの人たちらしき声ばかり。200人程いたはずのアオギリの喰種は全滅したようだ。

 無事だったのは僕たちが助けたアヤトくんだけ。

 

 これがもし、もし攻められたのがアオギリの拠点ではなくあんていくだったら。全滅したのがあんていくの皆だったら。

 そうなったら僕は耐えられないと思う。もしかしたらアヤトくんみたいに人間を憎むかもしれない。

 

 リゼさんの臓器移植を受けて半喰種となってからは、大学などの周りに人間ばかりいる空間にいると疎外感のようなものを感じる時がある。

 この疎外感は僕が勝手に感じているだけのものなんだろうけど、疎外感を感じている時というのは、僕が半喰種なのがバレやしないか、少し力を入れて人にぶつかったら壊れてしまうんじゃないか、そんな色々な考えが頭の中でぐるぐると回る。

 だから最近は落ち着ける場所は自宅かあんていく、それとトーカちゃんの家ぐらいだ。どうも他の場所だと身構えてしまう。

 

 半喰種になってからもう半年以上。

 身体だけではなく、心も変わるのにはじゅうぶんな時間なのかもしれない。

 

 

 僕は、喰種だ。

 

 

 といってもヤモリさんの様な危険な喰種の味方をしようとは思わない。

 散々CCG相手に暴れまわったアヤトくんを助けるのは思いっきり喰種側に味方しているようだけど、アヤトくんには貸し(負い目)があるからだ。ホントごめん。

 これがアヤトくんが一般人を殺そうとしているときに立ち合わせたのなら、流石にアヤトくんと敵対して一般人を守ろうとは思うけど、覚悟を持って喰種を駆逐するCCG捜査官相手なら…………アヤトくんよりの中立、といったところだろうか。

 加勢はしないけどアヤトくんが死にそうになったら助ける、という感じで。

 というか僕を喰種にしたのが元CCGの嘉納先生だし。

 

 まぁ、アヤトくんはトーカちゃんのたった1人の弟だし、そして何よりもニコさんへの防波堤になってくれるかもだしっ!

 ……って、そういえばニコさんがいつの間にかいなくなってるな。

 

「そのガッツポーズは何だぁっ!?」

 

 はっ!? ……しまった。身体が勝手に動いていた。貴方たちを馬鹿にする気はないんです、ホント。

 

「すいません。腰辺りに感じていた視線がなくなってつい……」

「こ、腰?」

「いえ、何でもないです。貞操の危機なんか感じていないです。

 オホンッ! ……あー、ウン。まぁ、アレです。人間にも良い人間がいて悪い人間もいる。喰種にも良い喰種がいて悪い喰種もいる。結局のところ、それに尽きるでしょう。

 もちろん喰種が人間を食べる。だから人間は喰種を駆逐する、ということは誤魔化すことは出来ませんけどね」

 

 具体的な悪い人間は、勝手に人のことを半喰種にする嘉納先生とか嘉納先生とか嘉納先生とか。

 僕はトーカちゃんやヒナミちゃんやあんていくの皆と、嘉納先生のどちらかを選ばないといけなかったとしたら、迷うことなくトーカちゃんたちを選ぶ。

 

 ……覚悟決めて言うことでもないな、コレ。

 うん。それは今は置いておこう。

 

「わかっているんですよ。

 貴方たちをここで見逃したとしても、貴方たちは喰種を駆逐することは止めたりしないでしょう。そうしなければ人間が喰種に喰い殺されていくだけですからね。

 それと同じようにアオギリに手を貸して貴方たちを倒したとしても、アオギリの喰種は人を喰うのをやめたりしないでしょう。喰わなければ死んでしまうし、そもそもアオギリの目的はそういうことですしね。

 人間が牛や豚を食べるように喰種は人を食べる。お互いに正しくてお互いに悪い。お互いに間違っていなくてお互いに良くない。だって命を奪うのは須らくそういうことなんですから」

「…………」

「だから僕は貴方たちを殺したりしません。他の喰種だって生きるために食べる目的以外で人間を殺……失礼、訂正します。他のほとんどの喰種だって生きるために食べる目的以外で人間を殺したりしないでしょう。

 たまに快楽目的で人を殺す喰種もいますし、そもそも人間を食べる時点で共存は不可能っぽいですけど」

「俺たちのことは……どうでもいいというのかっ!?」

「身近な人たちが害されたりしなければ、ですけどね。

 ……亜門さんと仰いましたっけ? あまり喰種は悪くて人間は正しい、という考え方に凝り固まるのは気を付けた方がいいですよ。悪い人間と出会って裏切られでもしたら、それまでの価値観がコロッと反転してしまいますから。

 経験者として忠告しておきます」

「歯茎……お前は、いったい……?」

 

 ……余計なことを言い過ぎたかな?

 でも僕も人間だったころなら、亜門さんみたいな正義感の強い捜査官は頼りになって応援していただろうしな。この人はいわゆる良い人なんだろう。

 そんな人がもし嘉納先生みたいな人と出会ったら……。

 

「オカマさんにオカマでも掘られたりしましたかぁ~?」

 

 ホアッ!?!? 何て恐ろしい発想をっ!?!?

 

「ちょっ!? 什造(ジューゾォー)ッ!?」

「篠原さんと同じ髪型にするよっ!」

「それはヤです」

 

 ジュウゾウくんは絶対に応援しません。

 チクショウ。ニコさんに脅えていたのを見破られたのか。

 もうやだ。あんていく帰る。

 

「(あの鈴屋が真顔で……)」

「(え、何で私の髪型が嫌がらせに?)」

「違いますからねっ! 本当に違いますからねっ!

 そんな不名誉なことを言い触らすようでしたら……」

 

 しかし帰る前に、そんなトーカちゃんの耳に入ったら誤解されるような世迷いごとを言い触らしたりしないように釘を刺さなければ。

 赫子に力を籠めて、捜査官の人たちに凄む。

 

「何という巨大な赫子……」

「わ、わかった。わかったから落ち着け。歯茎」

「コラッ! 挑発するな、什造!」

「歯茎も止めてください」

 

 腰の後ろから生えている4本の鱗赫を四つ編みにして1本に纏め、僕の身体の中を巡っているRc細胞をその1本に注ぎ込むイメージ。

 並の喰種20人分の量を軽く越えるRc細胞を注ぎ込まれて形成された赫子は、優に100mを越える剣となった。

 

 今この場にいる捜査官の人たち以外では、必死に階段を駆け登っている真戸さんの足音が聞こえるだけで、他の人は全員別の建物だ。

 この状況なら遠慮なく、店の地下では試せなかった全力の一撃を初めて振るうことが出来る。

 

 

「こうなります」

 

 

 一息で赫子の剣を振るう。もちろん捜査官の人たちに向けてではなく、目標は彼らが足をつけている建物の屋上の床。

 この大きさともなると流石に音速を越えるような一撃とはいかない。しかしそれでも捜査官の人たちが見てから避けるようなことの出来ない速度で振るわれた剣は、まるで包丁が野菜を斬るかのように僕たちが立っているこの建物を易々と斜めに断ち切る。

 ズン、という何かが斬れた音がして数瞬の後、捜査官の人たちがいる側の建物が30cm程ズルリとズレ落ちた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 脅え。息を飲む。絶句。理解出来ない。怯え。信じられない。驚嘆。何が起こったかわからない。

 捜査官の人たちの表情は、そんな彼らの心情を現していた。

 

 ……あ、真戸さんが建物がズレた衝撃で、バランスを崩して転んだ音がした。

 

「それではこれで失礼します。

 ……別に同性愛が駄目だとか異常だとか言うつもりはありませんが、僕は異性愛者です。忘れないでくださいね」

「お、おう……」

 

 いや、本当に同性愛者だから差別するとかはないですよ。

 ただそういう話題を出されても、ヒデがたまに振ってくる「お前って乳派? それとも尻派?」みたいな猥談ですらどう返していいかわからない僕なので、ろくに親しくもない人から性に関する話題を振られても困るだけなんです。

 

 そもそもそういう踏み込んだ話題は、親しい関係で初めてして良い話題なんです。親しくない人にそういう話題を振っても勘違いが起こるだけなんです。

 考えてもみてください。

 女性に「私のことどう思う?」なんて聞かれたら、それが親しくない女性だったとしても「自分に気があるんじゃないか?」と思ってしまうでしょう。

 それと同じで同性に「俺、実は同性愛者なんだ」って言われたら、例え相手がそういう意図がなかったとしても「自分に気があるからこういう話題を振ってくるのか?」と思ってしまうのは、心理学的にも仕方がないことなんですよ。

 

 だからトーカちゃんに「髪、長いのと短いのどっちがいいと思う?」って聞かれたときに、思わず「僕は今のトーカちゃんの髪型が好きかな」って言ってしまったのも仕方がないことなんです……。

 せめて……せめて「似合っていると思うよ」にしておけば、あんな空気にならなかったのに……。

 

「はいはい。わかったから帰るよ、歯茎くん」

 

 ア、ハイ。何だかこの場所にいるとますます墓穴を掘りそうなので、そうしましょうか。

 CCGの人たちもお疲れ様でしたー。

 

 屋上から跳ぶ店長の後に続く。

 跳ぶ瞬間にチラリと捜査官の人たちを見ても、追ってこようとする気配はない。やはり最後の脅しが聞いたのだろう。

 いや、そもそも人間は屋上からノーロープで跳ぶことなんてしないか。僕もいよいよ喰種の感覚になってきたなぁ。

 それに最後はジュウゾウくんのせいで変な空気になっていたし。

 

 

 屋上から降りると森へ入り、僕たちの行方がわからないように隠れながら進む。

 10分ほど走ってアオギリの拠点が見えなくなり、予め決めておいた合流場所に辿り着いた。

 古間さん……まだ猿のマスクをしているから、あんていくに帰るまでは魔猿さんか。確かに街中だと何処にでも監視カメラがありそうだし、完全に身を隠すまではこのままの格好が安全なんだろう。

 

 それで魔猿さんが合流場所にいたけど、カラスさんとウサギくんはどこにもいなかった。

 おそらくウサギくんが怪我をしていたから、先にカラスさんが連れ帰ったのだろう。

 

「や、お疲れ。歯茎くん。

 どうでした、梟さん? 歯茎くんの初陣は?」

「何、初陣にしては立派だったよ。

 捜査官に手玉に取られてしまった部分はあるが、そういう状況に陥った時に若い喰種にありがちな、自棄になって力押しに頼ったり我を忘れるようなことはなかったからね」

「ホホゥ。それは何より」

「あの、歯茎は止めてほしいんですけど……」

「だったらこの魔猿みたく、カッコイイ通り名でも考えてみたら?

 ちなみに梟さんはCCGがつけたみたいだけど、もう1人の彼女は黒犬、つまりはブラックドーベルが通り名だね。

 何だったらボクが何かカッコイイのを考えてあげようか?」

「結構です」

「それは残念。

 ……で、歯茎くん。CCGと初めてやり合ってみた感想はどうだい?」

 

 やり合った感想。闘り合った感想。殺り合った感想。

 僕が人と……ヒトと敵対した感想。半分人間で半分喰種の僕がヒトと敵対した感想。

 

「……特に、何も。

 予想していた通り……いや、むしろ予想よりも感じませんでした」

「…………大丈夫なのかい?」

「ええ。よく物語の心情で使われる“何も感じなかったことにこそ驚いた”という感じでしょうか。

 もちろん、もし捜査官の人を殺したりしていたら、もっと違った心情だったんでしょうけどね」

「違う。君はそんなことしなくていいんだよ、カネキくん。

 確かに君はもう人の肉を食べたこともある、人間とは違う存在になったかもしれない。だけど今までの人生で培ってきた人間性をわざわざ捨てる必要なんかまったくないのさ」

「……ありがとうございます、魔猿……いえ、古間さん」

「いいっていいって。

 さ、いつまでもここにいても仕方がないですし、さっさと早く帰りましょうか」

 

 ウン。古間さんの恥ずかしげもなく浮いたセリフを言えるところって、こういうときはありがたいと思うな。

 入見さんはこういうセリフ聞くとコメカミ抑えたりしてるけど。

 

「はい、帰りましょう」

「そうだね。早く帰って開店の準備をしなければ」

「……明日、っていうか今日は臨時休業にしません? もう深夜3時ですよ?」

 

 あ、今日は○曜日だから僕も朝からのシフトだ。しかもバイトが終わったら午後から大学、かぁ。

 別に疲れたりはしていないけど、今から寝ても中途半端になるだけだから徹夜かな、今日は。

 

 あんていくに帰ったらコーヒーを淹れさせて貰おうかな。普段飲んでいる深煎りじゃなくて、カフェインが多く取れる浅煎りのアメリカンなんかを。

 ああ、でも僕たちの行動はバレバレだったみたいだから、もしかしたらトーカちゃんが起きていて、僕たちをコーヒーで出迎えてくれるかもしれない。

 

 でもそうだな……トーカちゃん。ウン、トーカちゃんか。

 

 

 

「今はコーヒーを飲むよりも、トーカちゃんの顔が見たいかな」

「ウン?」

 

 

 

 いえ、今日一日の締めの感想ですよ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ……後日談として、店長が胸ポケットに入れたデジカメの録画をストップさせるのを忘れていたせいで、映像がなかったとはいえトーカちゃんに締めの感想を聞かれてしまった。

 しかも一緒に見ていたヒナミちゃんと入見さんにもっ。

 

 

「……べ、別に私の顔ならいくら見ても構わない、けど……」

「お兄ちゃん、ヒナミの顔は~?」

「お互いにわかり合ってるみたいだし、若いっていいわね~♪」

 

 

 ……うわぁ、滅茶苦茶恥ずかしい……。

 思った通りにコーヒーを淹れる準備をして待っててくれたのは嬉しいんだけどね。

 

 

 

 







 悲報。カネキくんの呼称は〝歯茎”となりました。
 続・悲報。ニコさんにロックオンされました。
(ただしカネキくんは知りませんが、トーカちゃんからのブロックがあります。
 え、アヤトくん? ……アヤトくんは1人で頑張れ)

 というわけで続きました。日記形式は1話のみで、この話からは通常の一人称形式で書きます。
 ただし次話がいつ、誰視点になるのかは未定です。気長にお待ちください。

 それとカネキくんが半喰種になって半年以上経過しているので覚悟完了済み。
 けど足したけど2で割らなかったような存在になったせいで、どう人間と喰種に関わっていけばいいかわからなくなったようです。
 ぶっちゃけもうあんていくに頼らなくても生きていけますからね。
 なので身近な人をとりあえず優先することにしました。


 そして原作がいよいよ佳境に突入ですね。
 何だか原作と自分が考えていたネタが思いっきり被ったりしてどうしようかと迷っていますが、とりあえず苦労するのはエトさんなので問題なしということで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。