当初の展開から方向が大きく変化したと思われるかもしれない内容になってきましたがここまで読んでくださりありがとうございます。
もう少しお付き合いお願いします。
オレはバカだ。
ようやく日本から出ていけると思って心底安心していたのに、そこまで情を移したつもりもない後輩の言葉一つで発進直前の遠征挺から飛び出してしまった。
入れ違いになるように飛び込んできたミラ達の攻撃を避けるためなんて欠片も言い訳にならない。
そもそもアレクトールの攻撃によってキューブ化したって、わざわざ日本に捨てに行く事なんてほぼ無いだろうから避ける必要なんて無かった。
こんな世界から逃げ出せる唯一のチャンスを、自ら棒に振ってしまった。
オレはどうしようもないバカだ。
……でも、嬉しかったんだ。
もう二度と誰にも呼ばれないと思っていた名前を呼んでもらえたのが、自分でも訳がわからないくらい嬉しかったんだ。
「いくらなんでも単純すぎだろ……」
『……先輩?』
オレが飛び出してきた事に驚いたのか、沈黙したままだったレプリカはまだ通信を繋いでいたようだ。
まだ、オレがここに居るという事に気付いた修くんの呆然とした声が聞こえた。
あー本当にカッコ悪い。
二度と会わないつもりで結構ノリノリで別れの挨拶とかしちゃったのに……。
「あ、あはは……流石に恥ずかしくて会わせる顔無いわ」
『……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?』
あまりにも気まずいので、修くんが来るまえにボーダーに戻ろう。
レプリカ先生の向こう側から聞いたこともない修くんの罵倒のオンパレードが聞こえてくる。
いやしかし、オレの後輩は原作の“三雲修”のイメージからは本当に解離しているなぁ。
原作ではこう、もっと冷静でこんなに子供っぽく無かったような気がするんだけど。
初めて聞くような独創性に富んだ罵倒を無視してトリガーオフすると、一部始終を見ていたであろう菊地原さんと歌川さんにトリガーを投げて渡した上で両手を上げて分かりやすく武装解除をアピールする。
つい先ほどオレの取った行動は間違いなく問題行動で、実行しなかったとはいえ敵の遠征挺に潜り込んでいたのはボーダーとしても到底許すことは出来ないだろう。
事後処理やら何やら事が終わったら、きっとボーダーから放り出されるのだろうなとぼんやりと受け入れた。
うん、ほんと色々と今まで楽しかったよ。
何だかんだもう思い残すことはないかなぁ。
なんて思いつつも初めて生身で顔を会わせた二人の視線を強く感じながらも無言を貫いた。
全くこれだから生身は嫌なんだ。
銃で撃たれたらすぐに死ぬし、何より異物でしかない自分を強く認識させられる。
本部からの通信を聞いた迅はほっと一息ついた。
アフトクラトルからの捕虜となった青年は何事かと訝しげな目線でこちらをちらりと見たがあえて口に出すような事はなかった。
「どうやら三雲くんは間違えなかったみたいだな」
これから分岐するいくつかの未来に存在する、“先輩”の姿に後輩の言葉が届いたことを確信した。
もし、三雲くんがもう一つの名前を呼んでいたら彼はそのまま出発し、殆どの未来では二度と会うことはなかっただろう。
後輩の頑張りのお陰で事態の後始末は残すところ最後の一つだ。
一人、全てが終わった後死んでしまうなんてあまりに後味が悪い。
「いい加減、目を覚ましてもらわなくちゃな……」
彼にとって、どれだけそれが残酷なことなのか解った上で、やらねばならない事がある。
とりあえず、捕虜となった青年を送り届けると証拠の確保のために彼の部屋に行った。
隠していたものを吐き出してもらうためには物理的な証拠が必要になる。
人格というものが殆ど感じられないがらんどうな部屋のなか、本部が攻撃された時の衝撃で床に落ちたと思われるノートを拾った。
この部屋に人間が居たという痕跡は駄菓子の袋を除くとこのノートしかなかった。
あちこちで市販されている教育用の子供向けの日記帳は、あくまで糸で閉じたノートでしかなく持ち主のプライバシーを守るための鍵などついていない。
他人のプライバシーを覗き見ることをここにはいない本人に謝罪しながらつい最近書かれたであろうページを捲ると、やはりと言うべきか彼の“遺書”が出てきた。
前ページまでのスペースを埋めていた稚拙で幼い表現からうってかわって、最低でも中高生程度の教育を感じる几帳面な文字。
イラストの欄が空欄になったそのページは、低年齢向けに幅の広い行を二分割して書かれており、つい1年や2年勉強したからといって書けるものではないのは直ぐに解る。
その日記帳には、誰にも話さなかった彼の心情の一部が淡々と、しかし赤裸々に綴られていた。
「こんな世界に居たくなかった」
そんな言葉で始まる遺書は、ボーダーで多くの人に見せていた明るく気さくな彼の姿からは直ぐに結び付かないような、重苦しいものだった。