ひとまず完結済みから連載中に戻しました。
いつも感想評価ありがとうございます。
千佳ちゃんと先輩
今日も完全防備の仮想戦闘室(エネドラの反省からか、オレの行いの悪さからか内側から開けられない)にて様々なテストをしていた。
一通り注文通り操作をした後解析を待つだけだと暇だから、トリガーを使う以外にも細々とした作業を手伝っているのでもう名実ともにオレは無職ではないと言えるのではないだろうか。
今も雑用だが使用した機材の片付けをしている。
両手に段ボールを抱えたまま食堂の前を通過しようとしたら、ふと気がついた。
「やぁやぁ元気かな修くんと空閑くん!」
「ロウ先輩」
「先輩先輩」
「先輩先輩とは新しい……って何か取り込み中だった?」
入り口前から見慣れた後ろ姿が見えたものでつい声をかけてしまったが、こちらを振り向いた二人の間から見えた驚いた様子の千佳ちゃんにタイミングが悪かっただろうかと思わずその場で足踏みする。
何やら真剣な顔をして話していた所に行ってしまったようで、申し訳ないことをした。
ピークタイムから時間が空いて人がまばらな食堂は奥の方で雑談しているC級以外には人影はない。
真剣な話ならオレがいない方が良いだろう。
元気そうな顔も見れたし、空気を読んで立ち去ろうとしたが修くんに引き留められた。
「先輩って今無職だからランク戦出てませんし、永遠のボッチなので突然チーム組んだりしませんよね」
「息を吸うようにディスられた!てか無職じゃなくて研究員(仮)だから!……けどまぁ確かに今ランク戦の参加資格無いしやってないよ」
「じゃあ、丁度良かった」
一体何なんだ?
あとそろそろ手が痺れてきたので荷物を置いても良いでしょうか。
足元に段ボールを置いた上で三人が座っていたテーブルにお邪魔する。
修くんの用件はというと、仲間(千佳ちゃん)が人を撃てないことについてだった。
これからの戦法について相談していた中、偶然修くんの師匠であるオレが通りかかったから意見を聞こうということらしい。
頼りになる先輩だからね!仕方ないな!
「なーんだ、そういうことね。先輩に任せてくれたら一時間でどんな人間でも撃ち殺せるようにしてあげるよ~」
なんて、絶対に拒否されるのが解っているので言えるジョークである。
「「ダメだ!!」」
「あはは~だよね~~」
案の定ダブルサウンドで速攻で拒否された。
空閑くんまで本気で止めてる辺り人望を感じるね。
ここでハッピーアイスクリーム、って言って通じる人居るだろうか。
なーんて呑気にしていたら、思いもよらないところから声が上がった。
「お、お願いしますっ!」
「えっ!?」
「千佳っ!?」
声を上げたのはもちろん千佳ちゃんである。
顔色は真っ青で拳を強く握りこんでいるけど手の震えが隠しきれていない。
そんなに怖いのに、そんなに恐れているのにぽっと出の見ず知らずの他人に頼りたくなるほどに思い詰めていたのか。
修くんと空閑くんも驚いた様子で千佳ちゃんを見つめている。
「い、いや、自分で言い出しておいて何だけどさ、やめた方がいいよ」
「が、頑張りますから……!」
「君は、向いてないよ」
「っ…………!」
……発端はオレなのできっちり責任は取ろう。
オレの軽はずみな発言が本気で悩んでいる子のことをそんなつもりではなかったとはいえ茶化してより追い込んでしまった。
「あのさ、頑張るとか頑張らないとか、そんな話じゃなくてさ……。確かにオレは君をすぐに人間が撃てる子にすることができるけど、はっきり言ってトラウマになるだろうし性格に悪影響出るよ。で、オレが変えた君は一体どうなるんだ?」
「どう……なるって、」
「修くんや空閑くんが人間を撃ち殺せる君のことを見て人間が撃てるようになって良かった!これでランク戦での戦力がアップしたぞやったね!なんて言う人間だと思う?」
そんなはずないことはとっくに解っているはずだ。
オレが本来呼ばれたのは撃てない千佳ちゃんを撃てないまま活躍させる作戦を考えるためなのだから。
「二人はそんなこと言わないのは解ってます……!でもっ、足手まといにはなりたくないんです!!」
「足手まとい、ね。それって具体的にどういうところ?」
「私が人を撃てれば、スナイパーとして相手チームの人の行動を制限できることが増えます。今はまだ良いけど、撃てないスナイパーだってバレたら誰も気を付けなくなっちゃいます……」
「うん、そうだね。だったら逆に人が撃てないスナイパーだってこと利用すればいいじゃん」
原作だってそうだった。
王子との戦いのとき千佳ちゃんは人を撃てないからと油断したところを足元に地形を変えるほどのハウンドを打ち込んだ事が結果的に点に繋がった。
もし、この悩みを持っているのが千佳ちゃんじゃなかったらもっと大きな問題になっていたかもしれない。
でも、千佳ちゃんはその莫大なトリオンから放たれる当たらない攻撃だけで十分な戦力的存在価値がある。
「人を撃てないということはそれだけ油断を誘うことだ。その油断につけ込んで戦うのは立派な作戦だし、もし油断をされなくなったらそれはもう人を撃てるただのスナイパーと比べても劣っていない」
と、とつとつと語ってブレス。
今はごく少数の人数の限られたチーム戦だから意識してないだろうけど大人数での戦いになったら地形への攻撃の方が圧倒的に恐ろしい。
「君はその莫大なトリオンでだって普通のスナイパーには到底できない仕事が出来るのに、ただのスナイパーになろうとするなんて勿体無いよ」
原作で千佳ちゃんがただのスナイパーだったらダメだったシーンなんていくらでもある。
「君の良さは普通の兵士(スナイパー)なんかの枠には収まらない。確かに撃てた方が役に立つシーンはあるかもしれないけど無理に変わろうとしないでいい、君は君のままで良いんだ。100点取ろうと無理しないでいい。変わるのは今のまま出来ることを全部やってからにしようよ」
ここまで言えば流石にもう人間の殺しかたを教えて欲しいなんて言わないだろう。
と、返事がないことに気付いてオレより大分低いところにある顔を覗き込むと……な、泣いていた。
日本に来て初めて女の子を(しかも後輩の大切な子)を泣かせてしまった。
「あっ、ごめっ、そっその偉そうなこと言ってすみませんでした!」
「……いえ、ありがとう、ございます」
オレがテンパってることに気付いたのか、こぼれ落ちる涙をハンカチで拭いながら無理やり笑顔を作る千佳ちゃん。
恐らく自分が泣かせた年下に気を使われました……。
「ちょっと、焦っていたみたいです」
「そっ、そうかなっ!?」
「はい。これからはまず今出来ることをやってからにします」
そう言って笑った千佳ちゃんは何やら吹っ切れたような様子だった。