ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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告発(前編)

 ハリー視点

 

目覚めは……最悪だった。

クリスマスの朝は最高の目覚めだった。目覚めた途端目に映るプレゼントの山。豪華なクリスマスディナー。死ぬほど不味いポリジュース薬を飲まないといけないことを除けば、最高の一日になる()()だった。それなのに……。

一夜にして僕の気分はどん底まで落ちていた。昨日に対して、今は最低最悪の目覚めだ。そもそも目覚めたと言っても、本当に眠れていたかも疑わしい。あれからベッドに戻ったものの、僕はずっと今日訪れるだろうホグワーツ最後の日に震えていることしかできなかったのだから。

 

「……おはよう」

 

ベッドから気だるげに起き上がる僕に声がかかる。そちらに視線を向ければ、目の下に大きな隈を作った上に顔色もあまり良くないロンがこちらを見ていた。その表情を見るに、おそらく彼も僕同様一睡もできなかったのだろう。鏡を見れば僕にも同様の隈ができていると思う。

 

「……うん、おはよう」

 

挨拶を交わした僕らは、未だかつてない程鈍重に着替えを済ます。正直、朝食を食べる元気などあるはずもなかった。それに、大広間にはスネイプが僕達を手ぐすね引いて待っていることが想像できたため、あまり大広間に行きたくもなかった。でも、ホグワーツ最後の日だと考えると、ここの豪華な朝食を最後に食べずに追放されるのも惜しかった。僕にとっては、これが最後のまともな食事かもしれないのだ。ホグワーツを追放された僕を、ダーズリー家は今まで以上にゴミクズ扱いするだろうから。最も、今でもゴミクズ扱いではあるけど。ロンは僕と違ってゴミクズ扱いされることはないだろうけど、僕同様決して明るい未来が待っていることはないだろう。

 

何とか着替え終えると、ロンと共に重い足を引きずりながら談話室に降りる。グリフィンドールのイメージカラーである紅を基調とした談話室。

そこにはハーマイオニーがすでに待っていた。暖炉前のソファーに、几帳面な彼女らしくない程気だるげに座っている。

 

「……おはよう」

 

「……」

 

ハーマイオニーはいつも以上にボサボサの髪、そして僕らと同様の死人のような表情をしていた。彼女も多分眠れなかったのだろう。

ハーマイオニーも退学が恐ろしかったのか、僕に返事をする元気もなさそうだった。最も、僕らと違ってハーマイオニーは校則を破るのはこれが初めてだ。彼女だけは退学にはならないと信じているが、やはり恐ろしいことは恐ろしいのだろう。

 

「……行こうか」

 

「……ええ」

 

僕らはいつも以上にゆっくりとした足取りで大広間に向かう。この光景を目に焼き付けておくために。これが最後かもしれないのだから。

僕ら以外いない廊下には多くの絵がかかっており、中にはまだ寝息を立てている絵もあったが、朝だということで多くの絵はもう起きだしている。廊下の先に行けば動く階段があり、いつも決まった場所につながっているとは限らない。

入学当初、この絵や階段には非常に苦労させられた。

絵は基本的に親切だけど、中にはひどく偏屈なものもある。訳の分からない話をされる場合もあるし、中には嘘をついてくるものさえあった。階段はいつも気まぐれで、この階段のせいで授業に遅刻させられそうになったことは少なくない。去年などフィルチから逃げる際この階段を使ったら、その先に三頭犬がいて死にそうになったこともある。

苦労も多かった。でも、入学当初はこの全てが未知の世界であり、何気ないもの一つ一つに感動を覚えた。見たことも聞いたこともない経験が、楽しくて仕方がなかった。

その気持ちは今でも変わらない。ここは不思議なもので満ちており、それで苦労することも多かったけど、いつも僕を最後には楽しい気分にさせてくれた。ここにはダーズリー家にはない暖かさがあった。

 

ここは、僕の本当の帰るべき場所だった。

 

でも、それも今日が最後なのだ。

僕らは今日、退学になってしまう。スリザリンの告げ口によって。

この学校の最大の汚点である、スリザリンの手によって。

 

「着いちゃった……」

 

遅い足取りであったため、いつもの倍は時間がかかってしまったが、ついにここにたどり着いてしまった。

僕らは今、大広間の扉の前に立っていた。ただでさえ見上げる程大きな扉が、何だか更に大きく重い扉になっているような気すらした。

 

「……扉を開ければスネイプが仁王立ちしているんだろうな」

 

「……うん、多分今までで一番の笑顔のおまけつきでね」

 

扉の向こうに広がっているであろう光景に憂鬱な気分になる。スネイプのことだ。僕達を退学に出来ることが嬉しくて仕方ないに違いない。

 

「とにかく入りましょう……。スネイプ先生に、とりあえず最後の朝食だけは食べさせてもらえるよにお願いするのよ……。それくらいなら、マルフォイさんとグリーングラスさんも許してくれるはずだわ……」

 

ハーマイオニーは最後に何かつぶやいた後、意を決したように大広間の扉を開ける。

扉の先にいるであろう育ちすぎた蝙蝠に、僕とロンは表情を土気色にしながら身構えた。

 

でも扉の向こうには……誰も立ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ視点

 

今私は、ドラコ、そして今朝まで大広間横の物置に閉じ込められていたクラッブとゴイルと朝食をとっている。

ダリアは……今朝の朝食にも現れなかった。

昨日女子トイレから帰った私は、突然出て行ったことを訝しがるドラコを適当にやり過ごすと、二人で夜遅くまでダリアの帰りを待っていた。別に授業があるわけではないのだ。最悪朝まで起きていることもできる。

 

でも……結局ダリアが帰ってくることはなかった。

私達のクリスマスに、ダリアが現れることは最後までなかった。

そして今も……。

 

私と同じく暗い顔で朝食をとるドラコに話しかける。

 

「……ダリア、今頃何してるのかな……」

 

「……」

 

返事はなかった。当たり前だ。そもそも応えることが出来たのなら、こんなにも不安な気持ちになるはずもない。ドラコだって知りたくないはずがないのだ。何と言ってもドラコはダリアの兄なのだから。

 

「……ごめん」

 

「ああ……」

 

馬鹿な質問をしたことを謝罪すると、心ここにあらずと言った様子でドラコが返事をする。

 

「こんな休暇……はやく終わってしまえばいいのに……」

 

普通の生徒であれば、この休暇を非常に楽しく、そしてずっと続いてほしいとすら思いながら過ごしていることだろう。休暇が終わり、ホグワーツの寮に戻ることを嫌がっている生徒もいるかもしれない。

皆大切な家族、あるいは友人とこのクリスマスを有意義に過ごしていることだろう。

 

でも、私とドラコは違う。

 

私達はこの休みが、一刻も早く終わることを願い続けていた。こんな無意味な休暇なんて、ただただ辛いだけだった。

ダリアがいない時間になんて、なんの価値もない。ダリアが傍にいないホグワーツは……とても惨めなものでしかなかった。

 

休暇でなければ、私達はダリアの姿を授業だけでも見ることができる。

ダリアは元気にしているだろうか。ダリアはちゃんと寝ているのだろうか。ダリアはちゃんと食事をとっているのだろうか。

いくらでも不安が脳裏をよぎるが、少なくとも授業にちゃんと出ていることは確認することが出来る。ダリアがちゃんとここにいることが確認できる。

それに僅かながら安心することが出来るのだ。

 

でも、この無意味な休暇の間は違う。私達がダリアの姿を確認することが出来ない。あの子は……決して私達の元に戻ってこない。

授業もなく、人目も気にすることなく、ダリアは今もどこか私達のいない場所にいつづけている。

この時間にも、ダリアに何かよからぬことが起こっていないかと不安で仕方がなかった。

 

ダリアの姿を一目だけでも見たくて仕方がなかった。ただ彼女の無事を確認したかった。

 

「本当に……どこにいるんだろうね、ダリアは」

 

私はそう呟きながら、大広間の扉を見やる。こうして願っていれば、ダリアがそこから入ってくる信じて。こうして見ていれば、ひょっこりダリアが現れると信じて。

 

あの子に会いたい。たとえ避けられたとしても、ただあの子の元気な姿が見たかった。ダリアがちゃんと元気にしていてくれると、それだけを知りたかった。

 

そう願いながら扉を見やった時、大広間の扉がゆっくりと開いた。

まさかと思い目を見開く。祈るような気持で扉を見た直後、その扉が開いたのだ。あり得ないと思いながらも、私の心は一瞬で期待感で満たされる。

もしかしたら、願いが通じたのかも。クリスマスは駄目だったけど、一日遅れて願いがかなったのかも。

 

「ダリ、」

 

でも、当然そんなことは起こりうるはずはなかった。思わず上げた声は、急速に小さなものになる。

 

実際に大広間に入ってきたのは……ダリアではなく、昨日の夜スリザリン寮に入り込んだ三人組だった。私が告げ口をしていないことを知らない彼らは、昨夜一睡もできなかったのか三人とも酷い顔色をしている。仕切りに辺りをキョロキョロ見回しながら席に着く様子は、見るからに挙動不審だった。

 

入ってきたのが待ち人ではなく、()()()()()()連中だったことに膨らんだ期待感が勢いよくしぼんでゆく。

残ったのは、どこか虚ろな感情だけだった。

彼らがどんなに不安な夜を過ごしていようがどうでもいい。ダンブルドアに唆されたとはいえ、ダリアを疑っていた連中がどうなろうと興味がない。グレンジャーは疑っていなかったみたいだけど、それでも昨日の侵入計画を実行したのだ。ダリアを傷つけるきっかけを作ったことが、私は一晩たっても許すことが出来はしなかった。

 

「……どうかしたのか?」

 

突然声を上げたかと思いきや、再び暗い顔で席につく私を訝しんでドラコが声をかけてくる。私はかぶりを振りながら、

 

「……ううん。なんでもないよ。()()()()()()ことだから」

 

そう言って朝食に視線を戻す。ダリアがいない朝食は、やはりとても味気ないものだった。

 

 

 

 

しかし、一見いつも通り他の教員と話しているようにしか見えないが、()()()の視線だけは、ジッと彼らを見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

結局、スネイプが朝食の席に笑顔でやってくることはなかった。スネイプが扉の前にいなかったことに拍子抜けしたが、まだ安心できないと震えながら朝食をとっていたが、結局最後まで何も起こることはなかった。退学にされるかもと怯える僕らの様子を見てほくそ笑んでいるだけかもとも思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。休暇中のためほとんど生徒がいない大広間で、いつもの不機嫌顔で朝食を食べているのを見かけるだけだ。特別こちらに注意を払っている様子ではなかった。

 

「どういうことだい……? スネイプなら朝一で僕らに退学を告げに来ると思ったんだけど……」

 

大広間を出た途端、不安と安堵を混ぜたような表情でロンが訝し気に首をかしげる。僕もロンも、スネイプのことだから真っ先に僕らに引導を渡しに来るものだと思っていたのだ。よしんば朝食前に来なくても、この時間の間に何かしらの行動をとると思っていた。僕らを退学に出来る口実があるにも関わらず、何もないなんてあるはずがないのだ。

いつも通りの朝食の風景に不思議がっている僕らに、ハーマイオニーが暗い顔でこたえる。

 

「もう少し様子を見ましょう……。グリーングラスさんがまだスネイプ先生に伝えてないだけかもしれないわ……」

 

ハーマイオニーの声音は、どこかそうであることを、自分に罰が与えられることを望んでいる風な響きがあった。

 

そして昼食を終え、さらに夕食を終えた時間になっても、スネイプが僕らを訪ねてくることはなかった。

 

「スネイプは何で来ないんだ? いや、別に来てほしいわけじゃないけど。でもおかしいだろう? あいつなら嬉々として僕らに退学を言い渡しに来るはずなのに」

 

無事に夕食を終え一日が無事に終わろうとしていることに、大広間を出た途端ロンが首をかしげながら話し始める。

僕も望んではいないとはいえ、起こると思っていたことが起こらないことが不思議で仕方がなかった。

そんな僕らに、

 

「……きっと、グリーングラスさんが黙っててくれたのよ」

 

またハーマイオニーがあり得ないことを言い始めた。

 

「え? どういうことだい?」

 

ハーマイオニーの突拍子もない答えに、ロンは素っ頓狂な声を出す。

 

「……あの薬、『ポリジュース薬』は本当に危険な薬物なのよ。それこそ作ってたことが分かればそれだけで退学になってもおかしくない程のね。だからこそ、『最も強力な魔法薬』は禁書棚にあったのよ。それなのにこれまで先生が私達の所に来ない理由なんて一つしかないわ」

 

ハーマイオニーは疲れ切った声で言った。

 

「……昨日、グリーングラスさんは薬をスネイプ先生の元にもっていかなかったのよ。彼女は……私達を見逃してくれたのよ」

 

「でも、そんなのありえないだろう? あいつはスリザリンだぜ? こんな僕らを退学にするチャンスをみすみす見逃すはずがないよ」

 

ロンの言葉に僕も頷く。

相手はあの嫌な連中しかいないスリザリンだ。それに、昨日グリーングラスは()()()非常に怒り狂っていた。そんな奴が僕らの弱みを黙ってるとは到底思えない。

そんな疑問を呈する僕らに、ハーマイオニーが相変わらず青い顔をしながら話す。

 

「だったらどうこの状況を説明するの?」

 

ハーマイオニーは一瞬、今しがた出てきた大広間の方を見やった後、

 

「今日一日先生たちはいたっていつも通りだったわ。特に私達を注視している様子もなかった。もし私たちのことがばれているのなら、今までに何かしらの反応があるはずよ」

 

そう言われて、僕も今日一日の先生達の様子を思い出す。

そうなのだ。ハーマイオニーの言う通り、確かにスネイプ、そしてそれ以外の先生も皆いつも通りに夕食をとっているのは間違いなかった。もし僕らのことがばれているなら、いくらか僕らに注意を向けていないとおかしい。

 

でも、だからと言ってハーマイオニーの推察には賛成出来なかった。

スリザリン、その上ダリア・マルフォイの取り巻きであるグリーングラスが、僕らのことを見逃すなんてことはあり得ない。ハーマイオニーの言う通りなら、確かにまだスネイプは僕らのしたことを知らない可能性は高い。でも、それが僕らを見逃したことを意味しているとは考えられなかった。スリザリンのことだ、何か企んでいると考える方が自然だ。きっとドラコにも知らせて、あいつと何かしらの悪知恵を働かせているに違いない。ドラコのことだ。スネイプと同様、僕らが苦しむことにかけては天才的な頭脳を働かせていることだろう。

ロンも僕と同じ考えだったらしく、

 

「……あいつが()()スネイプに言っていないだけなんじゃないか? 昨日の夜言わずに、今日一通り僕らの怯える様を見てから告げ口するつもりだとか」

 

僕もそうとしか思えない。教員席ばかり気になっていたためスリザリンの方を見ていなかったが、あいつらなら僕達の様子を楽しく見ていたことだろう。僕らが恐怖に震えている様子は、ドラコ達スリザリンにはさぞいい見世物に思えた。

でも、ハーマイオニーはどうやら僕らの見解には反対らしく、

 

「……時間が経てばそれだけ薬を私達が作った証拠にはならなくなるわ。あの薬、一日放置すれば『ポリジュース薬』でもなんでもなくなってしまうの。ただのよく分からないもののごった煮よ。だからこそ私達は誰も来ないトイレであれを温め続けていたのよ? それこそ私達がいない時も火だけは消さなかった。グリーングラスさんが今もあれに火をかけているとは思えないわ。彼女がスネイプ先生に間をおいて薬を届けるメリットなんて何もないのよ……」

 

そう自分の意見を固持した。僕とロンはこのハーマイオニーの突拍子のない意見に反論しようかと思ったが、意味がないと止めておいた。あのグリーングラスが何を企んでいるにしろ、ハーマイオニーの発言が正しければ、もう僕達が『ポリジュース薬』を作った証拠は意義を失っているはずだ。あいつ等に僕らの震える姿を見られたのには腹が立つけど、結果的には、

 

「僕らもしかして……退学せずにすんだ?」

 

ロンが恐る恐る尋ねると、ハーマイオニーは苦虫を噛み潰したような表情をしながら頷いた。

 

「やった!」

 

僕とロンは喜びを爆発させた。一日震えているしかなかった分、退学せずにすんだことが嬉しくて仕方がなかった。朝から最低な気分だったのが嘘みたいだ。退学になったとしても、せめてハーマイオニーだけは守れると自分を慰めてはいたが、退学になりたくないのは間違いなかったのだ。僕とロンは思わずその場で小躍りするように喜びを露にする。

しかし、

 

「そうね……確かにグリーングラスさんは見逃してくれたわね。だからこそ私たち自身で……自首するのよ」

 

ハーマイオニーの発言に、僕らは凍り付いた。

 

「な、なに言ってるんだ、ハーマイオニー! 正気かい!? せっかく退学にならずにすんだのに!」

 

思わず噛みつくように叫ぶロンに、ハーマイオニーも大声を上げた。

 

「だって、私は耐えられないわ! 私はマルフォイさんをとっくの昔に傷つけていたのよ! こんなこと許されていいはずがないのよ!」

 

「ダリア・マルフォイは『継承者』だぞ! あいつがどうなろうと知ったことか! ざまあみろだ!」

 

ロンの言い分に、ハーマイオニーはさらに気色ばむ。

 

「ロン! 何を言ってるの!? 昨日マルフォイさんが『継承者』でないと分かったじゃない!?」

 

ハーマイオニーの反論に、僕とロンは気まずい表情になる。マルフォイを頑なに信じるハーマイオニーの手前、僕らはまだあいつが『継承者』である可能性について話していない。僕らと違い退学にならないだろう彼女は知る必要がないと思ったのだ。知れば彼女の心労を増やすだけだ。でも、退学がなくなった今は……。ハーマイオニーの安全のためにも、話した方がいいのかもしれない。

僕とロンは少しの間逡巡した後、

 

「……ハーマイオニー。そのことなんだけど……」

 

意を決したように、昨日僕らが出した可能性について話始めた。

 

「多分ダリア・マルフォイは……単独で生徒を襲ってるんだ」

 

「……どういう意味?」

 

あからさまに怒りを滲ませるハーマイオニーに、僕はゆっくりと言い聞かせるように話す。

 

「確かにドラコ達はダリア・マルフォイを『継承者』だって思ってはいなかったよ。でも、それはあいつ等が知らないだけじゃないのかな。あいつ等には隠れて、ダリア・マルフォイが単独で『継承者』を名乗ってるんだと思う。それなら全部納得がいくんだ。ダンブルドアはダリア・マルフォイを、マルフォイ家とかスリザリンだからという理由で疑ってるわけじゃない。それならドラコも疑わないとおかしいよ。でも、ダンブルドアはダリア・マルフォイだけを名指しで疑ってる。多分、ダンブルドアにはダンブルドアであいつだけを疑う理由があるんだよ」

 

「……」

 

僕の言葉に、ハーマイオニーは段々と項垂れてゆく。表情の見えない彼女に僕は続ける。

 

「それに、あいつは昨日談話室にいなかった。それも多分昨日だけじゃない。ドラコ達の口ぶりだと、多分ここ最近ずっとじゃないかな。こんな時期にそんなことするなんて……。僕はあいつが『継承者』だと思うよ」

 

僕はそう言い切った。

信じていたものに裏切られたハーマイオニー。項垂れる彼女から、すすり泣きの音が聞こえ始める。僕とロンはどんな声をかければいいか分からず、ただそっとハーマイオニーのそばにいることしかできなかった。ただ何も言わず涙を流すハーマイオニーに本格的にどうすべきか考えだしたころ、

 

「……だったら」

 

「え? 何?」

 

ハーマイオニーがポツリと話し始めた。

 

「……だったら、私がやったことは何なの? ハリー達の話は分かったわ……。今回のことで、マルフォイさんが無実だと()()()()()()()()()()()。でも、証明できないからって、彼女がやったという証拠にはならないわ。私、あなた達の話に少しも納得できない……。でも、だからこそ……。私がやったことって何なの?」

 

「ハーマイオニー?」

 

ハーマイオニーの声は震えていた。

 

「彼女から受けたものを、少しでも返そうとして……。だから少しでも彼女の役に立とうと思って。彼女のことを守りたくて……。でも、私がやったことは、ただ彼女が()()()()()証明しただけで……。しかもその過程で、ただ彼女を傷つけて! それなのに私は……退学になることすら出来ない!」

 

そう最後に叫んだかと思うと、ハーマイオニーは走って行ってしまった。走り去る時、一瞬見えた彼女の横顔は……やはり泣き顔だった。

 

取り残された僕とロンは、突然の出来事についていけてなかった。

 

「あいつ、どうしたんだ?」

 

それは僕の方こそ聞きたかった。

僕は肩をすくめてロンに応える。所在なく立ち尽くしていたが、そろそろ夜も遅いと思い、

 

「寮に戻ろうか……」

 

「うん……」

 

そう言って、僕らも寮に向かって足を進め始めた。

 

 

 

 

 

その時、

 

「こんばんは、ポッター君、ウィーズリー君」

 

突然、背後から声がかかった。それはいつも僕に勇気を与えてくれる声だった。

慌てて振り返ると……

 

ダンブルドア校長がいつもと同じ優し気な表情をして、僕らの後ろに立っていた。

 

「二人とも、まだクリスマス休暇じゃというのに随分と暗い表情をしておるのう? 何か悩み事でもあるのかね?」

 


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