ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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追放(後編)

 

 ダンブルドア視点

 

ルシウスから突然届けられた手紙には、

 

『本日9時、先に行くであろうファッジと共に森番の小屋まで来るように。校長にお伝えせねばならないことがある』

 

そんな簡潔な伝言のみが書かれていた。一体どのような用事なのか一つも書かれておらん。

 

じゃが、ワシには何が伝えられるのか大凡の見当はついておった。

 

遂にルシウスはハグリッドをアズカバンに入れると共に……ワシの追放を他の理事に認めさせたのじゃ。

 

「……考えが甘かったようじゃのう」

 

ワシはこれ以上犠牲者を出さんようにするため、ダリアの監視を先生方に頼んだ。生徒達だけでは監視の目が足りんということに、ニックとフレッチリー君が襲われた時に悟ったからじゃ。その上その生徒の監視ですら、ハリーへの警戒で僅かながら緩んでしまっている。こんな時期の夜中にダリアが出歩いている以上、彼女がまだ何かしらの狙いを持っておるのは間違いない。このような緩んだ警戒態勢の中では、彼女が次の犯行を起こすのも時間の問題でしかないと思うた。

 

じゃからワシは夜の出歩きを厳しく制限し、さらに先生方にも注意深くダリアを見てもらうことにした。セブルスだけは渋っておったが、ミネルバをはじめ、多くの先生方はワシの言うことならばと頷いてくれた。

じゃが、ここで問題が発生した。教師の数が圧倒的に足らんかったのじゃ。選択科目の先生方を動員しようにも、ダリアの監視に回そうものなら、今度は先生方の本来の職務が立ち行かんくなる。現実的な方策として、ダリアの受ける授業の担当が監視を行うしかなかった。

じゃから不安ではあったが、あのギルデロイにも頼らざるを得んかった。いくら彼でも、ダリアを文字通り見守ることくらいなら出来るじゃろう。そう、安易に考えてしまっておった。

 

それが今回の失敗じゃった。まさかギルデロイが生徒にそれを打ち明けてしまうとは……。それはワシの想定外のことじゃった。まさかあそこまで考えなしの言動をとってしまうとは……。

 

ワシの敷いた監視体制が功を奏しておるのか、今ホグワーツの中は以前の平和を取り戻しておる。それが生徒達にも分かっておるのか、ハリーへの警戒が消し飛ぶくらいには、今全員の生徒がダリアを『継承者』じゃと再び疑っておる。

じゃが、それはあくまで生徒達の話じゃ。世間的に見れば、ワシは何の証拠もなく生徒を監視した愚か者でしかない。

そこをルシウスに突かれてしもうた。今までは、決してダリアを疑っているわけではないとなんとか誤魔化しておったが、今回のことでワシの疑いが遂に明るみに出てしもうた。ワシが何の根拠もなく一人の生徒を疑い、監視し、傷つけていると、ルシウスは主張したのじゃ。それを根拠に、遂にワシの追放まで漕ぎつけられてしもうた。

 

「まだ何一つ判明しておらんのじゃがのう……」

 

今回の事件について、ワシは未だに何一つ証拠を掴めておらん。50年前の事件も同様じゃ。犯人は分かっておるのに、彼女がどのように犯行を行っておるのか、どこに『秘密の部屋』があるのか、何一つ確たるものはなかった。今回は前回の失敗を踏まえて、さらに踏み込んだ対応をしておるというのに、やはり何一つ新たな情報を得れてはいなかった。

こんな状態で生徒達を……ハリーを残して学校を去るわけにはいかん。彼がいくら選ばれた少年とはいえ、まだ12歳の子供なのじゃ。闇と立ち向かうには、まだまだワシの助けが必要じゃと思った。

じゃが、そう思ってもワシにはどうすることも出来ん。ワシの指示した監視が明るみに出た以上、理事は渋りながらも、最終的にワシの追放に同意せざるを得ない。渋ったとしても、ルシウスが必ず脅してでもサインをもぎ取るじゃろう。

 

まさに万事休すじゃった。

 

「……はぁ。ままならんものじゃのう」

 

ワシは疲れ果てたため息を一つつくと、背後でワシを心配げな瞳で見つめておったフォークスに話しかける。

 

「フォークスよ……。残念じゃが、ワシは一時的にこのホグワーツを離れねばならん。じゃからのう、お主にはワシの代わりに、いざという時にハリーを助けてやってほしいのじゃよ」

 

フォークスの美しい瞳を見つめながら続ける。

 

「あの子はまだ何も知らぬ子供じゃ。大いなる闇に立ち向かうには、残念ながらまだ力不足じゃ。おそらく、ワシがここからいのうなれば、必ずダリ……『継承者』は行動を起こす。その時に、お主にはハリーの手助けをしてやってほしいのじゃ。お主なら、ハリーがどんな場所にいようとも、すぐにたどり着くことが出来るじゃろう? じゃから……」

 

ワシがおらんようになれば、いざという時にハリーの場所にたどり着けるのは、おそらくフォークスしかおらん。それに彼には人並み以上の知恵、癒しの力を持つ涙、そして重たい荷物ですら運べる強靭な翼を持っておる。きっとハリーが闇と立ち向かう時の役に立ってくれるはずじゃ。

そんな期待を寄せるワシの懇願に、フォークスはそっと、じゃが力強く頷いてくれた。

 

「すまんのう……」 

 

ワシはフォークスを一撫ですると、ああ、ついでにと棚からあるものを取り出す。

それは一見古ぼけた帽子に見える……『組み分け帽子』じゃった。

 

「いざという時、ハリーにこれを届けてほしい。ハリーは今迷うておる。自分が果たして本当にグリフィンドールでよかったのかと。自分の中にあるスリザリンへの可能性に、彼は自身を見失いかけておる。その迷いはいざという時に、彼の命取りになってしまいかねんものじゃ。じゃからいざという時、彼にこの帽子を届けてほしいのじゃ。これを受け取れば、彼はきっと取り出すはずじゃ。彼が真のグリフィンドール生、彼が持つ勇気は本物じゃという証明を」

 

そう言ってワシはフォークスに『組み分け帽子』を渡すと、一つフォークスに頷き部屋を後にした。

 

ワシの背中を、やはり心配げな瞳で、フォークスはジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

「ロン! ハーマイオニー! ハグリッドだったんだ! 50年前に『秘密の部屋』の扉を開いたのは、ハグリッドだったんだ!」

 

談話室に飛び込むと、相変わらずどこを見ているか分からないハーマイオニー、そしてその横でクィディッチの雑誌を読んでいるロンに、周りに聞こえないような声音で宣言した。

僕の言葉を聞いた途端、

 

こいつは何を言っているんだ?

 

とでも言いたそうな視線を受けながら、僕は二人に先程見た光景を話し始めた。

 

きっかけは些細な思い付きだった。

マルフォイから日記を取り返した時、僕はそれに気が付いた。こぼれたインクの中に沈んでいたというのに、日記のどこにもインクが付いていないことに。開いてみると、相変わらず中身は白紙のままだった。

そのことに違和感を持った僕は、寮に押し込められると同時に、ハーマイオニーとロンを談話室に残して寝室に籠り、日記の謎を調べてみようと思ったのだ。

ベッド横の机に日記を置き、僕はさっそくインクを一滴たらしてみた。するとやはりインクはまるで吸い込まれていくように消えてしまった。

その光景を見た僕はあることを思いつく。それはこの日記に、僕が文字を書き込むことだった。僕は興奮しながら、今度は羽ペンを走らせた。

 

『僕はハリー・ポッターです』

 

変化は一瞬だった。文字はあっという間に吸い込まれたかと思うと、今度は文字が浮かび上がってきたのだ。

僕の推察は当たった。この本は、僕に返事をしようとしている!

 

『こんにちは、ハリー・ポッター。僕はトム・リドルです。僕はトイレに捨てられていたのですが、()()()()拾われたのは幸いでした』

 

『それはどういう意味ですか?』

 

僕は自分の推理が当たったことに興奮しながら、書きなぐった。

 

『僕はこの日記に、ホグワーツに関する忌まわしい記憶を残しました。()()()()()人間ならいざ知らず、その辺の生徒に僕が渡るわけにはいかないのです』

 

『その恐ろしい記憶とは、もしかして秘密の部屋に関することですか?』

 

僕の脳裏にはハーマイオニーの言葉が浮かんでいた。

 

トム・リドルが50年前、スリザリンの継承者を捕まえたことで、賞を貰ったとしたら?

 

彼女の推理が正しければ、トムの言う恐ろしい記憶とは……。

 

『その通りです。僕が学生の頃、それは開かれました。数人の生徒が襲われ、ついには一人の女子生徒が殺されたのです。僕は犯人を捕まえ、その人物は追放されました。その褒美に僕はトロフィーを貰ったのですが……当時の校長は、それを僕に渡す代わりに事件のことを沈黙するように求めました。おそらく外聞を気にしたのでしょう。でも、僕は知っていました。犯人が捕まっても、怪物は生き残っていることを。だから僕はこの日記を残した。再び部屋が開かれた時に、ホグワーツの助けになるように。それに、犯人は追放はされましたが、まだ投獄はされていない』

 

ハーマイオニーの推測は正しかった。この日記は、この事件の真実を知っている!

 

『今、また部屋が開かれています! 教えてください! 事件の背後には、一体誰がいたのですか!?』

 

ダリア・マルフォイが今の『継承者』なら、前回の『継承者』はルシウス・マルフォイのはずだ。彼なら、今『継承者』が投獄されていないことにも説明が付く。その事実がようやく明るみに出ると、僕は興奮した。

今朝の授業でロックハートが暴露した事実。先生達がダリア・マルフォイを監視していたという事実。これで今誰も襲われていないことの理由が分かったと、皆納得した。でも、これだけでは駄目なのだ。これだけでは、ダリア・マルフォイを本当の意味で追い詰めることが出来ない。

 

だから期待した。

この日記によって、決定的な証拠が挙がることを。ここでルシウス・マルフォイの名前が上がれば、ようやく今度こそダリア・マルフォイを追い詰めることが出来る。

 

そう思った。

 

でも……。

真実は僕の思っていなかった方向へと転がり始めることになる。

 

『お望みならお見せしましょう。僕が犯人を捕まえた夜へと、僕がお連れしようではありませんか。信じる信じないは、あなた次第です』

 

リドルの文字が浮かび上がると同時に、本が突然光り始める。

目もくらむ閃光の中で、一瞬見たこともない青年が、()()()()()()()()()()()()残酷な笑顔を浮かべているような……そんな気がした。

 

そして僕は目の当たりにすることになる。その日の真実を。

当時の校長、ディペット校長に呼び出されたこと。その帰り道、ダンブルドアと大広間前の階段で出会ったこと。ダンブルドアに、このまま被害が続くようであれば、学校が閉鎖されるであろうと伝えられたこと。トムが孤児院に戻りたくないがために、『継承者』を捕まえようと決心したこと。そして地下牢教室の前で待ち伏せしている時、一人の生徒が通りかかったこと。その生徒が、何か毛むくじゃらの胴体、そして絡み合った黒い足を持った怪物を隠し持っていたこと。その怪物をトムが取り逃がしてしまったこと。

 

そして……その怪物を隠していた生徒が、僕らの友達であるハグリッドであったことを。

 

全てを話し終えた時、ロンもハーマイオニーもまるで苦虫を嚙み潰したような表情になっていた。思いがけない真実に戸惑いながら、ロンがポツリとつぶやいた。

 

「い、いや、でも、まだ決まったわけじゃないだろう? 確かに、ハグリッドのことだ。昔から怪物の一つや二つ、可哀想なんて理由で飼っててもおかしくはないさ。でも、それが『秘密の部屋の怪物』だっていう証拠はないんじゃないか? リドルはきっと勘違いしてたんだよ」

 

僕もロンの意見に本当は賛同したかった。でも、

 

「……ハグリッドがホグワーツを追放されたってことは間違いないんだ。追い出されたからには、誰も襲わなくなったんだよきっと。そうでなければ、リドルは表彰されないはずだよ」

 

ロンは咄嗟に反論しようとしていたが、すぐには言葉が出ない様子だった。それもそうだろう。ハグリッドを追放した途端、誰も襲われなくなった。それは奇しくも、ダリア・マルフォイが監視され始めた瞬間、誰も襲われなくなったことと同じ状況なのだから。

友達に突然浮かび上がった疑惑に僕らが困惑したように口を閉ざしていると、今まで黙り込んでいたハーマイオニーが突然話し始めた。

 

「ハリー。すぐに透明マントを取ってくるのよ」

 

いきなりのことに、僕はポカンとした表情で応える。

 

「え? なんで透明マント?」

 

去年のクリスマス、ダンブルドアから送られてきたお父さんの形見である『透明マント』。それの名前が、何故今突然あがるのか理解できなかったのだ。

しかしハーマイオニーはそんな僕の様子に苛立っているようで。

 

「今からハグリッドの所に行くためよ! 分からないのなら、本人に直接尋ねればいいのよ! 真実がどんなものにせよ、ハグリッドに真実を聞かない限り、これ以上私達が前に進むことは出来ないわ! だから一刻も早く、本人に聞きに行くのよ!」

 

「で、でも、それはハグリッドが、」

 

「ええ。ハグリッドには無神経な質問でしょうね……。50年前のことを蒸し返すことになるんだから……。でもね、もう一刻の猶予もないのよ! 今日の一件で、()()の疑いがまた深まってしまった! このまま放っておくなんてこと、やっぱり私には出来ない! 失敗を恐れてるだけじゃ、何も前に進めないの! 私はこのまま彼女が傷ついているのを、ただ見ていることなんて、やっぱり出来ない! だから、そのためには! 私達は今すぐハグリッドの元に行かないといけないの! 私達は、一刻も早く真実にたどり着かないといけないの! ほら! 分かったら早く『透明マント』をとってきて!」

 

「う、うん」

 

ハーマイオニーのあまりの剣幕に思わず頷いてしまった。でも確かに、ハーマイオニーの話にも一理ある。勿論、ハーマイオニーが匂わせている、ダリア・マルフォイが無実であるという話ではない。

ハーマイオニーが言うように、今一刻も猶予がないかもしれないのも確かだった。

 

クリスマスの夜、僕らがスリザリン寮に忍び込んだ時、ドラコは仄めかしていた。

 

ダンブルドアの追放を。それはもうすぐ行われることだということを。

あの時はただのドラコの妄言だと思った。でも、もしそれが本当だとすれば……。

 

ルシウス氏がどのような手段でダンブルドアを追い出すかは分からない。でも、もし彼が今のダリア・マルフォイの状況を知ったら……。彼はすぐにでも、自分たちの計画を邪魔しているダンブルドアを排除しようとするだろう。

 

ダンブルドアは偉大な魔法使いだ。簡単にマルフォイ達なんかに追い出されることはないと思うが、奴らがどんな手段を使っているのか分からないことも確かなのだ。

もし、ダンブルドアが追放でもされれば……今の仮初の平和は終わる。今までは皆石になっていただけだけど、今度こそ誰かが殺されるかもしれない。

 

そしてその誰かは、未だにダリア・マルフォイを信じるハーマイオニーかもしれないのだ。

 

それに思い至った僕は、ハーマイオニーの気迫もあり、急いで『透明マント』をとりに寝室に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

はやる気持ちを抑え込みながら、一歩ずつ慎重に足を進めていく。『透明マント』は三人が入るには小さすぎたのだ。慎重に足を進めなければ体の一部がはみ出してしまう。それは今致命的なミスにつながってしまう。何故なら、

 

「……止まって」

 

私の小さい声で呟いた指示に従い、後ろにいるハリーとロンも止まる。

物音ひとつ立てないように立ちすくむ私達の前を、ゴースト二体がスーっと通り過ぎた。

彼らが完全に通り過ぎたのを確認した私達は、そっとため息をついた。

 

誰かとすれ違うのは、もう何度目のことか分からなかった。

去年夜出歩いていた時は、こんなに城の中は込み合っていなかった。

先生や監督生、そして今しがた見たゴースト達のように、皆二人一組になって行動しているようだった。皆常に二人で行動し、少しでも不審な動きはないかとそこら中に目を光らせている。

 

この全てがマルフォイさんを警戒してのことだと思うと、やるせない気持ちになる。

この警戒の全てが私達の行動に起因した結果なのだと思うと、心が罪悪感に満たされ足がすくんでしまう。

 

『もう二度と……ダリアに近づかないで』

 

グリーングラスさんの怒りに満ちた言葉が蘇る。あの時の彼女の怒りは尤もだ。私は……取り返しのつかないことをしてしまったのだ。私は『ポリジュース薬』を作ろうと思った瞬間から、ずっと無意識にマルフォイさんを傷つけ続けていたのだ。そして、私の行動の結果は今も彼女を……。

 

顔向けできるはずなどなかった。私みたいな勉強しかできない愚か者が、これ以上何かすることこそ罪だとさえ思った。

 

でも、今私は再び行動しようとしている。

 

真実が目の前にあるかもしれない。事件解決の望みが、今度こそ手の届く場所にあるかもしれない。その可能性を感じた時、私はやはり以前と同じように行動を起こしてしまった。

本当に馬鹿な人間だと思う。あんなにもマルフォイさんを傷つけてしまったというのに、私はまた性懲りもなく行動しようとしている。今度もまた、私は彼女を追い詰めてしまうかもしれない。

 

でも、私は行動した。

 

彼女を助けられる可能性があるのに、それを黙殺することなど出来なかった。失敗を恐れるあまり、ここで立ち止まることが許されるはずがない。

 

警戒と敵意の視線の中、ただ俯く彼女の姿を思い出す。彼女のあんな姿を見て、行動しないことなんて私には我慢できない。

 

それに、今学校中の全ての警戒心が彼女に注がれている。彼女は『継承者』なんかじゃない。それだけは絶対にないと、私は断言できる。

それならば、今のこの監視体制は確実に無駄なものでしかない。何故本物の『継承者』が大人しくなっているか分からないけど、今その本物の『継承者』が何の監視もされていないのは間違いないのだ。だから次の犠牲者はもう時間の問題でしかない。次の犠牲者を出さないためにも、そしてその時、マルフォイさんがこれ以上辛い思いをしないようにするためにも、私は一刻も早く真実にたどり着かないといけない。

 

「……行きましょう」

 

益々はやる気持ちを抑えながら足を再び進めた。

この後も何度か先生方をやり過ごし、何とか正面玄関を抜けた先、星の輝く夜にポツンと見える小屋の明かりを目指して私達は急いだ。

ようやくたどり着いた時、私達は無事にたどり着いた安堵からホッとため息を一つつき、戸を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

戸を叩くと、すぐにハグリッドが出てきた。

石弓を携えながら。

 

「誰だ!」

 

ひどく警戒した様子のハグリッドの前で、僕らは『透明マント』を脱いだ。

 

「僕達だよ!」

 

真正面にヌッと現れたのが僕達だと確認すると、ハグリッドは安堵した様子で尋ねる。

 

「なんだ、お前さんらか……。こんな所で何をしとる? 今は六時には寮におらんといけんはずだ」

 

「う、うん。でも、ちょっとハグリッドの話を聞きたくて……」

 

僕がモゴモゴと話すのを、ハグリッドは訝し気に見つめていたが、

 

「まあ、なんだ。ここに突っ立っていても仕方がねえ。とりあえず入ってくれ」

 

ハグリッドに急かされるように小屋に入った僕達は、思い思いの位置に腰掛けた。イソイソとお茶の準備をしている横で、僕らは奇妙な沈黙で満たされていた。

勢いでここまで来たものの、いざハグリッドになんて尋ねればいいのか分からなくなったのだ。あんなにやる気に満ちていたハーマイオニーも、いざここに到着すると少し気まずそうに眼を泳がせている。

しかしどうやら気まずい気持ちになっているのは、僕達だけではなかったらしい。

 

バリン!

 

という音に驚いて顔を向けると、ハグリッドがポットを取り落としてしまったようだった。

 

「ハグリッド、大丈夫?」

 

「い、いや、大丈夫だ。な、なんでもねえ。ちょっと手が滑っちまっただけだ……」

 

僕等を安心させるように言っているが、全く大丈夫そうに見えなかった。よく見れば不安そうにチラッチラッと窓の外を見ている。外に何かあるのだろうか?

 

「ハグリッドは座ってて。私がお茶をいれるわ」

 

どこか落ち着きがない様子のハグリッドの代わりに、少し気を紛らわしたいのであろうハーマイオニーがお茶をいれるため立ち上がる。

 

「す、すまねえ」

 

ハグリッドはそれに素直に従い椅子に座るが、やはり落ち着きなく外を見ていた。

ハーマイオニーがお茶を全員分配り終えても、奇妙な沈黙が続いた。僕達は僕達で会話のきっかけがつかめず、ハグリッドは相変わらず心ここにあらずの様子だった。

 

どれだけ時間がたっただろう。僕達がハグリッドに話を持ち掛ける役を、目で押し付けあっている時、ハグリッドがようやく声を出した。

 

「そういえば……。お前さんらは一体何しにここに来たんだ? さっきからお茶を飲むばかりだが。何か聞きたいことがあるっちゅう話だったが?」

 

「そ、そうなの。私達、ハグリッドに聞きたいことがあって……」

 

ハグリッドの言葉に、ハーマイオニーがようやく決心のついたように話し始めた。

 

「ハグリッド……。落ち着いて聞いてね。私達、決してあなたのことを責めようとか、疑ってるというわけではないの。それだけは分かってね……」

 

ハーマイオニーは前置きを話すと、静かにハグリッドに尋ねた。

 

「ねえ、ハグリッド。私達50年前の……前回『秘密の部屋』が開かれた時の話を聞きに来たの」

 

変化は劇的だった。ハグリッドは手に持つお茶を取り落とし、目を皿のように見開いていた。

 

「な、なんでそんなことを!?」

 

「私達……知ってしまったの。あなたが50年前、『継承者』として追放されたこと……。お願い、ハグリッド。あなたの知っていることを話して。私達、あなたを責めるつもりなんてないの……。ただ真実が知りたいだけ。そうしなければ、また次の犠牲者が出てしまうかもしれない。お願いよ、ハグリッド……」

 

「……」

 

ハグリッドはマジマジとハーマイオニーを見つめていた。僕とロンは固唾を飲んで見つめあう二人を見る。ハグリッドに非常に酷なことをしている自覚はある。出来ることなら、友達である彼の忌まわしい過去なんて放っておいてあげたかった。

でもそれは出来ない。これはいつか必ず知らないといけないことでもあるのだから。

ハグリッドはしばらくハーマイオニーを見つめていたが、ふと疲れ果てたようなため息を吐くと、

 

「……ハーマイオニー。それとハリーとロン。これだけは分かってほしいんだが、俺はあの時、人を殺そうと思ったこともねえし、殺してもいねえ。それだけは分かってくれ……」

 

「勿論よ! 別に私達、あなたを疑っているわけじゃないの!」

 

「そうか……。なら、ええ……」

 

ハーマイオニーの間髪入れぬ返事で、ようやくハグリッドが重い口を開いた。

 

「俺が何であの時追放されたかは、知っとるか?」

 

「ええ。怪物を飼っていたから、でしょう?」

 

日記の光景から、ハグリッドが怪物を飼育していたことは間違いない。彼のことだ。怪物が閉じ込められるなんて可哀想だなんて言って解放するくらいしそうだった。

 

「……そうだ。俺は当時、アラゴグっちゅう()()を飼っとった」

 

どうやら日記で見た怪物はアラゴグというらしい。巨大蜘蛛の名前なんて興味もないが、どうやらハグリッドはそうでもないらしい。当時の怪物のことを思い出したのか、先程の表情とは打って変わり、どこかうっとりとした表情でつづけた。

 

「あいつが赤ちゃんの頃から飼っとった。目が八つあるんだが、キラキラしたつぶらな瞳で可愛かった。俺の手の中で長い足をせわしなく動かしてて、」

 

「ハグリッド……」

 

いつまでも続きそうな怪物談話を、ハーマイオニーの冷たい声が遮った。

 

「お、おお、そうだった。で、そのアラゴグだが、ある時()()()()()に見つかった。それで皆信じ込んでしまったんだ……。あいつが『秘密の部屋』の怪物だってな」

 

「え? じゃ、じゃあ、そのア、アラゴグは怪物ではないの?」

 

「違う。あいつは決して人間を傷つけたりなんかせん。あいつの牙は確かに()()を持っとったが、あいつが誰かを殺すようなことをするわけねえ」

 

……信憑性は限りなくゼロだった。牙に猛毒を持っているのに、どうして誰も殺さないと断言できるのか理解できなかった。

ハーマイオニーもそう思っているのか、

 

「……ハグリッド。何でアラゴグが誰も殺してないって断言できるの?」

 

今は完全に犯人を見つめる目をしていた。ハグリッドもそれを感じ取ったのか、慌てた様子で続ける。

 

「ア、アラゴグは誰も殺してねぇ! アラゴグは『秘密の部屋の怪物』じゃねぇ! それに、あいつを物置から出したことすらねぇんだ! 殺された生徒はトイレで見つかったんだ! だから『怪物』は他にいる! そうアラゴグも言っとった!」

 

「え? アラゴグって蜘蛛は喋るの?」

 

どうやら蜘蛛が苦手らしく、蜘蛛という単語が出る度に肩を跳ねさせているロンが、心底嫌そうな顔で尋ねる。

 

「そうだ。あいつは賢い奴でな。人間の言葉だって喋ることができる。この前だって話して来たばかりだ。今度紹介してやる」

 

「……その蜘蛛、今どこにいるの?」

 

聞き出した場所には絶対に近寄らないという決意が見え隠れするロンに、ハグリッドが機嫌よく話す。

 

「禁断の森だ。今はあそこに家族ですんじょる」

 

家族という不穏な言葉が聞こえたが、僕らは敢えて無視した。森の中に猛毒を持った蜘蛛が山ほどいるなんて、想像もしたくない。それにそろそろ本題に話を戻さないと、いつまでも怪物自慢が続いてしまう。

 

「で、ハグリッド。アラゴグが『怪物』は他にいるって言ったのよね? それってどういう意味なの?」

 

ハーマイオニーの質問に、僕達が何しにここに来たのか思い出した様子でハグリッドが話す。

 

「そうだ。アラゴグがつい最近言っとった。いやこの前だけじゃねぇ。()()()()見つかる前も、同じことを言っとった。あの城には『怪物』が住んどる。その怪物は、蜘蛛が何よりも恐れる太古の生き物らしい。そいつがあの時、そして今城の中を動き回っている気配がする。だから気をつけろと、俺に言った……。あいつは『怪物』なんかじゃねえ。あいつの言う、今城を動き回っている奴こそが『怪物』だ」

 

「そ、その生き物って、」

 

僕がハグリッドに質問しようとしたその瞬間、

 

ドンドン!

 

突然、戸を叩く音が鳴り響いた。

ハグリッドは再びお茶を取り落とし、僕とロン、そしてハーマイオニーもパニックに陥りそうになりながら、慌てて『透明マント』を被って部屋の隅に移動した。

ハグリッドは僕らがちゃんと透明になっているかを確認した後、扉をゆっくりと開けた。

 

「こんばんは、ハグリッド」

 

外にいたのはダンブルドア先生だった。僕達は思わず安堵しそうになったが、来たのはダンブルドアだけではなかった。深刻そうな表情をしたダンブルドア先生の後ろに、もう一人見慣れない人物がいたのだ。

ダンブルドア先生に続いて入ってきた人物は、背の低い恰幅のいい体に、くしゃくしゃの白髪頭の人物だった。

その人物を認識した瞬間、隣のロンがささやいた。

 

「魔法省大臣だ! パパのボスのコーネリウス・ファッジだよ!」

 

透明マントの中で僕がロンを黙らせているのをしり目に、ファッジは青ざめた表情をするハグリッドに言った。

 

「状況はよくない。ハグリッド。だから来ざるをえなかった。マグル出身者が二人襲われたというのに、ダンブルドアが何もしておらんどころか、無意味に()()()()()()を傷つけていると、魔法省内で強硬に主張する人間がおる。もうこれ以上、()の声を抑えることは出来んのだ。本省が何かしなくては、収まるものも収まらんくなる」

 

「だ、だが、俺は決して。決して何も……。ダンブルドア先生様も知っておられるでしょう?」

 

縋るようにダンブルドア先生を見つめるハグリッドの言葉を受け先生は、

 

「コーネリウス。ワシはハグリッドに全幅の信頼を置いておる。このようなことをしても無駄じゃと、ワシは君に何度も言ったはずじゃが?」

 

眉をひそめながら話した。

 

「しかし、アルバス……。彼には前科がある。魔法省としても、何もしないわけにはいかんのだ。どうか私の身にもなってほしい。彼を連行せねば、」

 

「れ、連行!? まさか、アズカバンじゃ!?」

 

ダンブルドア先生に気まずそうに話すファッジの言葉に、ハグリッドがかすれた声で噛みついた。

それにファッジはさらに気まずい表情に応えようとしたところで、

 

ドンドン!

 

再び激しく戸を叩く音がした。

ダンブルドアが戸を開けると、そこには……

 

「ああ、こんばんは。……ふむ、全員そろっているようですな。結構結構」

 

満足げな表情をしたルシウス・マルフォイ氏が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルシウス視点

 

小屋に入り、ここにいる全員を見渡す。間抜け面のファッジ。神妙な顔をしているが、瞳だけはメラメラ燃えている老害、そして、

 

「俺の家から出ていけ、マルフォイ! お前なんぞが俺の家に入るんじゃねぇ!」

 

蛮人が激しい口調で怒鳴ってきた。

 

「……威勢がいいことだ。言われなくとも、私もはやくこんな……まあ、そうだね、()()()()()()()に長居はしたくないのでね。さて、私もファッジも暇ではないからね。さっさと用事を済ませるとしよう」

 

ああ、ようやくだ……。ようやくこの時が来た。

私はもったいぶったように、2枚の羊皮紙を取り出した。

 

「ここに皆さんに集まって貰ったのは、これを皆さんに見てもらうためなのだよ。校長室に集まって貰おうと最初は思ったのだが、そちらではおそらく、ダンブルドアがハグリッドを呼んでくれないと思ったのでね……」

 

老害の薄っぺらい考えなど分かり切っていると、私は皮肉を込めて言った。

 

「……一体どういうことかな、ルシウス」

 

ダンブルドアの言葉は丁寧だったが、相変わらず瞳には怒りの炎が燃えている。私のこれからなすことが許せないのだろう。

まったく……実に愚かな老人だ。こやつに怒りを覚える権利などないというのに。本当に怒っていいのは……ダリアだけだと言うのに。

私は内心の怒りを抑えながら続ける。

 

「何、簡単な話だよ、ダンブルドア。君はどうやらホグワーツがこんな事態だと言うのに、必要な措置すらまともに取れない様子なのでね。私が代わりに措置を講じたまでだよ」

 

私はまず一枚目の羊皮紙を差し出した。

そこには、ルビウス・ハグリッドのアズカバンへの拘留を指示する旨が書いてあった。

 

「まったくダンブルドア……。理解に苦しむよ。何故前回の犯人を野放しにしているのかね? これでは何の措置も講じていないのと同じことだ。これは一番初めに行わなければならぬことだろう? だが彼を庇っているあなたのことだ、校長室に呼び出しても君はまた何だかんだ理由をつけてハグリッドを庇うと思ったのでね。それでここに呼び出させてもらったのだよ。おっと、この命令書を無視しても無駄であると、あらかじめお教え差し上げよう。これにはここにいるファッジも同意済みだ」

 

即座に抗議しようとする老害と蛮人に、私はせせら笑いながら宣告した。

そして相変わらず所在なさそうに立っているファッジを睨みつける両者に、本命の二枚目を見せつける。

 

それは12人の理事が署名した、ダンブルドアの『()()()停職命令』だった。

 

「さて、私の話はこれで終わりではないぞ、ダンブルドア」

 

私はなるべく()()()()見えるように演技しながら続けた。

 

「非常に残念なことだがね、ダンブルドア。君が必要な措置を講じず、あまつさえ私の娘を監視するよう命じていたと報告があってね……。無関係な一生徒を監視するように指示するとは……一体どういうおつもりですかな、ダンブルドア?」

 

しかし私の演技は、ダンブルドアの一言で消し飛ぶことになる。

 

「……なんの話か分からんのう、ルシウス。以前にも言うたが、それはまったくの誤解じゃよ。ワシはただ、」

 

「誤魔化すのはいい加減にしろ、ダンブルドア! 私も以前言ったぞ! ダリアをこれ以上疑うのなら、私はしかるべき措置を取るとな! お前はそれにも関わらず、我が娘を苦しめたのだ! その罪を今贖うがいい!」

 

そう大声で叫ぶと、私は老害の鼻先に羊皮紙を突き出した。

 

「これはお前に対する『無期限停職命令』だ! お前の行いを話したら、他の理事全員が()()署名したぞ! 他の理事もお前が退く時が来たと感じたのだ! お前がどんなに取り繕おうとも、もうこれは決定事項だ! よしんばお前がダリアの監視を指示していないと主張しようとも、生徒の全員がお前の指示したものだと考えている以上、お前の責任逃れは出来ない! お前は必要な措置を講じることも出来ず、それどころか見当違いの対策をとってしまう程に耄碌したのだ!」

 

私が言い終わると、小屋は静けさに満ちた。()()は私の怒りに飲まれて声も出ない様子であった。今聞こえるのは、声を突然荒げたために未だに整っていない私の息遣いだけだった。

しかし沈黙は長くは続かなかった。いち早く沈黙を破ったのは、ようやく現状を理解した様子のファッジだった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、ルシウス! ダンブルドアを『停職』だと? しかも無期限? ……ダメだダメだ……今という時期に、それは絶対困る!」

 

「ほう? では魔法省大臣は、我が娘がこの老害に苦しめられるのをよしとする……そういうことですかな?」

 

驚愕した様子のファッジを睨みつけると、彼は慌てて目を逸らした。

そんな彼を鼻で笑うと、私はダンブルドアに向き直った。

 

「校長の任命、そして『停職』は、理事会の権利であり義務だ。この決定事項は校長、そして魔法省大臣にも覆すことは出来ない。……今回このようなことになって、非常に残念だよ。だが残念ではあるが、仕方がないことなのだよ、ダンブルドア。君は今回の事件を食い止められる力はなかった。それを理事12人全員が認めたからこそ、」

 

「一体何人脅した?」

 

私の言葉を遮った蛮人の方を見ると、丁度彼が立ち上がっているところだった。

 

「マルフォイ。お前は一体何人脅したんだ!? そうでなけりゃ、ダンブルドア先生様の停職なぞ誰が認める! お前のやったことなんざお見通しだ! ダンブルドア先生様をやめさせてみろ、今度こそ『殺し』が起きるぞ!」

 

まったく……。何故こんな老害がここまで慕われるのか理解に苦しむ。それにこの蛮人は己の心配だけしておけばいいのだ。

 

「……今からアズカバンに行くというのに、随分威勢がいいな、ハグリッド。君が()()()気に障らぬことを祈るよ」

 

私は吐き捨てるように告げ、今度こそダンブルドアに宣告した。

 

「退陣。飲んでくださいますな、ダンブルドア?」

 

奴の明るいブルーの目と、私の灰色の目がかち合う。奴は黙って私の目をのぞき込んでいたが、ややあって静かに告げた。

 

「理事たちがワシの退陣を求めるなら、ルシウス。ワシはそれに従おう」

 

勝った……。私は内心で喜びを爆発させた。

これで……これでダリアを守ることが出来る。ダリアの安寧を、ようやく取り戻すことが出来る。私は……ようやく父親としての責務を果たすことが出来た。

 

しかし、ダンブルドアの言葉は終わりではなかった。

 

「しかしのう、ルシウス……。これも以前言うたが、わしに忠実なものが一人でもいる限り、わしはここに留まり続ける。ワシがここを離れるのは一時的なことじゃ。救いを求めるものがいる限り、ワシが本当にこの学校を離れることはない」

 

ダンブルドアの視線は一瞬私から外れ、小屋の片隅に向けられた。そちらに目を向けても何もないというのに。

老害が何をしたかったのか少しだけ気になったが、どうでもいいことだ。こやつにはもう、何もすることは出来ない。

私は依然残る喜びのまま告げる。

 

「あっぱれなご心境ですな。あなたのことを、あー、そうですな、いずれあなたの個性的なやり方を懐かしく思う日が来るでしょうな。ご心配なく、後任はすぐ決めますので。あなたは()()になった後のことを考えればよろしい」

 

そう云い捨てた後、私は大股で小屋を後にした。こんな汚らしい場所に、そしてこんな下らない連中とこれ以上いることは我慢できない。

 

勝利を祝福するように輝く星空の元、私は懐かしい校庭を歩きながらそっと呟いた。

 

「ダリア……。これでお前は自由だ。私は、お前を守ることが出来たぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

「大変だ……」

 

先程までここで話していた人間達全員がいなくなり、僕達が『透明マント』を脱ぎ捨てた瞬間、ロンがかすれた声で言った。

 

「ダンブルドアがいなくなれば……一日一人は殺されちゃうよ……。これからどうすればいいんだろう……」

 

僕はそれに答えることが出来なかった。最悪の予想は当たってしまった。僕達は間に合わなかったんだ。こうなる前に、ダリア・マルフォイを何とかしたかった。でも、あいつを捕まえる前に、ダンブルドアはいなくなってしまった。

絶望感に打ちひしがれる僕とロン。

そんな中、ハーマイオニーがポツリと、

 

「結局、また振りだしね……」

 

そう呟いた彼女の視線の先には、まだ湯気を出しているマグカップが()()置いてあった。

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