あの人も脇役で出てるよ!
イギリスはロンドンの地下にある学園都市・王立ロンドン魔法学園、通称『風見鶏』
そこに転入した主人公は、クラスの委員長であるユメノや、他の仲間たちとともに、最初の探索へと出かける。そして……?
暗いトンネルの中を、列車はひたすら目的地に向けひた走っていた。
トンネルの照明灯を一つ通り過ぎるたび、期待と緊張が高まっていく。
時計では、ロンドン駅を出発してから十分ほどしか経っていないのに、俺にはこの時間が一時間にも二時間にも感じられた。
「まもなく、風見鶏に到着します。次は終点、風見鶏」
車掌の声。それと同時に、窓の外が白く染まる。どうやら、トンネルを抜けたようだ。
「うわあ……これが……」
俺は窓の外に広がる景色に、思わず感嘆の言葉をもらした。そこには、大きな湖に、三日月の形に島が並んで浮かんでいた。島のあちこちは、桜色で彩られている。
その様子は、まるで童話の世界か桃源郷。
そんな夢のような島に、俺を乗せた列車は走っていく。
「まもなく、終点、風見鶏に到着します」
風見鶏物語・序章
1.
「すごいな……」
風見鶏駅に降り立った俺は、改めて、そう感嘆の言葉をもらした。
駅からも見ることのできる、大きな桜の樹。そして、学舎のほうへと続く桜の並木道。
そして、現代的ながらも、どこか中世の面影を感じさせるような建物。
そう、それはまさに、まるで魔法の国にやってきたかのような、そんな錯覚を感じさせる街だった。
「……と、そう眺めてばかりもいられないな、と」
本当はずっとこの街並みを眺めていたいけど、俺には、先にしておかなければならないことがあったんだった。
職員室に行って、転入手続きをしておかないと。
俺は、ポケットから案内図を取り出して、桜並木を歩いて行った。
2.
イギリスにある、ロンドン魔法学園・通称『風見鶏』。
イギリスの片田舎の魔法使いの家の一人息子だった俺、オリヴァー=コーンウェルは、事情があってこの学校へと転校することになった。
同じ過ちを繰り返すまいと、心に深く誓いながら。
3.
さて、桜並木を抜けて二つの校舎が並ぶ校庭に着くと、そこでは一人の若い女性が、しゃがみこんで何かしているようだった。そっちのほうに行ってみると、女性は散らばってるプリントを必死に集めようとしているようだ。
俺は、さっそくプリントを拾い集めて、女性に渡してやった。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう~。助かったよ~」
女性の口から聞こえたのは、どこかたとたどしい英語だった。英国外から来た人なのかな?茶色の髪を左右にわけ、後ろのほうには、大きなピンク色のリボンをつけている。
「いや、困ってる人は見過ごせないし」
「そうなんだ、本当にありがとね。そういえば君って新入生?見ない顔だけど」
「あぁ、うん。今日からこの風見鶏に通うことになったんだ」
「そっか、よろしくね。あ、何組かわかる?マスターさんのところに案内するけど」
マスター……そういえば、転入案内に書いてあったな。優秀な本科生が、予科クラスの担任になる制度だとか。
ともあれ、女性にそう聞かれて、俺はかばんから、手続きの書類を取り出して広げた。女性もひょいとその書類を覗き込む。
……きれいな顔がすごい近くによってきて、なんかドキドキする……。
「3年C組……へぇ、奇遇だね!」
「え?」
俺がそう聞くと、女性はにっこり笑って言った。
「3年C組は、私がマスターをやっているクラスだよ」
「そ、そうなんですか、よ、よろしくお願いします」
「うん。私は本科2年C組の、朝倉音姫だよ。よろしくね!」
4.
さて、音先生……変な呼び方だけど、「朝倉先生」って言ったら、先生から「音先生」と呼んでって言われたのだ……に連れられて、俺が通う専門科の校舎に入ってびっくりした。
大きさは、もう片方の校舎と同じくらいなのに、使われている教室はほんの一部で、後は全部空き教室になっているからだ。
「どうしたの?」
「い、いえ……。教室がほとんど使われていないものだから……」
俺がそう応えると、音先生は苦笑いを浮かべた。どうやらこの状況が良いものではないことは、音先生もわかっているようだ。
「ははは……そうだよね。ここに来る人たちは、みんなそう驚くよ」
「あぁ……やっぱりそうなんですか」
「うん。100年ぐらい前までは、この学部もたくさん生徒いたんだけどね。色々あって」
「へぇ……」
そう会話をしながら歩いていく。
まぁ、確かに科学や技術が全盛を迎えているこの時代。魔法に興味を持つ人は少なくなってきているのかもしれない。
そんなことを思いながら、音先生と俺は3年C組の教室に入って行った。
5.
「それじゃ、オリヴァーくんは、そこの席に座ってね」
「はい」
そう応えて、俺は音先生に指定された席についた。いかにも清楚な礼儀正しそうな女子生徒の席の隣だ。
「よろしくお願いします、オリヴァー君」
「お、おう。えーと……」
「あ、私は、ユメノ=ウィングフィールドって言います」
「ユメノちゃんは、このC組の委員長なの。困ったことがあったら、なんでも彼女に相談してね」
「あ、はい。よろしくな、ユメノ」
「はい、よろしくお願いしますっ」
そう会話を交わしたところで、音先生が真面目な顔になった。
「それでは、1時間目は遺跡探索の実習の時間です。みんな、準備を終えたら、風見鶏駅に集まってね」
そう言って先生が退室すると同時に、みんながあわただしく授業を始めた。
「ユメノ、実習ってなんなんだ?」
そう聞く俺に、ユメノはにこりと微笑んで言った。
「行けばわかりますよ。ほら、オリヴァー君も、支給されたワンドと指輪を装備して行きましょう」
「お、おう」
そして俺は、ワンドを手に取り、指輪を指にはめて教室を出た。
6.
そして、俺たちが玄関に歩いていくと。
「ユ・メ・ノ・ちゃ~んっ♪」
「きゃっ!!」
誰か本科生らしい女子生徒が、ユメノに抱きついてきた。抱きつかれた彼女のほうは、先ほどのような優等生ぶりがどこかに行ったかのように、慌てふためいている。
「ね、ねねね、姉さんっ!?」
「ユメノ、こんなところで会うなんて奇遇だね。実習に行くの?」
「う、うん、そうだけど、どこででも抱きついてくるのはやめてよっ」
「えー……」
なんかピンクな結界が張られていて、俺の進入を防いでいるような。でも、やっぱり聞いておこうかな。
「なぁ、ユメノ。彼女、お前の姉妹か何かか?」
「あぁ、うん。レア=ウィングフィールドって言って、私の姉なの。ね、姉さんっ。集合に遅れちゃうから離れてってばっ」
「うー……ユメノのいけずぅ……」
レアとかいう、ユメノの姉は、目をうるうるさせてユメノを見つめている。ユメノは見つめられて困り果てて、硬直しているようだ。まぁ、はたから見ても、あの表情は破壊力ありそうだしなぁ。
「り、寮に戻ったら、いっぱいいちゃいちゃさせてあげるからっ。だから今は我慢してくださいっ」
「うー……わかった。絶対だよ?」
ユメノの説得に、レアさんはようやく彼女から離れてくれた。……まだ名残惜しそうな表情をしてたけど。
「えーと、キミ、ユメノのクラスメイトなのかな?」
大人っぽい表情で見つめてくるレアさんに、俺は思わず緊張してしまう。
「は、はい。オリヴァー=コーンウェルです」
「私はユメノの姉のレア=ウィングフィールド……って、さっきユメノが言ってたよね」
「あ、そ、そうですね」
「ユメノをよろしくね。でも、手を出したらダメだよ♪」
微笑んでそう言うレアさん。でもよく見ると目がマジだ。
一方のヒメノは、顔を真っ赤にすると、ぎゅっと俺の手を握ってきた。その強さが、彼女の恥ずかしさを物語っているようだ。
「い、行きますよ、オリヴァー君っ。早く行かないと怒られちゃうっ」
「う、うん」
「行ってらっしゃーい」
レアさん、お願いですから、ハンカチ振って送り出さないでください……。
7.
俺とヒメノが駅に着くと、音先生は苦笑して許してくれた。
どうやら、このC組の中では、ユメノがレアさんにつかまって遅れてしまうのは、周知の事実らしい。
そして、俺たちは音先生に連れられて、高速鉄道に乗り込み、地上のロンドン駅に出た。
ロンドン駅の99番ホームに列車が到着すると、俺たちはロンドンの郊外の森に連れていかれ、さらにその森の中の廃館に連れて行かれたのだった。
「ここが今回の実習の舞台だよ。それじゃ、昨日のホームルームで決めた班分けで……」
「あのー……音先生」
「なにかな?」
「俺、どの班に入るか決められてないんですけど」
数瞬の沈黙。
「あ」
『あ』じゃないですよ、先生……。
班分けを決めたホームルームの翌日に来て、どの班に入るか決まっていない俺に気付いた音先生は、目を白黒させてあわてていた。
軽く目を閉じると、先生の心の中がすごく混乱したのが感じ取れる。
そこに。
「先生、私の班、三人しかいないので入れられますよ」
どうするべきか困っている音先生に、ユメノが助け舟を出してくれた。
「あ、ありがとう、ユメノちゃん。それじゃ、お願いね」
ほっとした表情の音先生。俺も、内心、入る班が決まったことと、その班が、さっき知り合ったユメノの班だったことに安堵しつつ、彼女のところへ向かった。
「ありがとう、おかげで助かったよ。ありがとな」
「うぅん、どういたしまして。それじゃ、班のメンバーを紹介しますね」
「マジックスカウトのミツル・カノグチだ。よろしくな!」
と、怪しいかっこうした猿顔の男子生徒が、そう言いながらカラカラと笑う。
そして、腕組みをしたままの、不穏な笑みを浮かべた男子生徒が前に出てくる。
「重魔弾士のスギナミだ。ようこそ我が班へ。我々のところに来たからには、貴様に楽しすぎる毎日を約束しよう」
そう怪しい笑みを浮かべて言うスギナミに、ユメノが眉をひそめて言った。
「スギナミ君。くれぐれも先生を困らせるようなことはしないでくださいね」
「何を言うハネバ妹。朝倉女史の困った顔の美しさは100カラットのダイヤにも勝るでは」
「それでも問題行動はダメですっ!」
スギナミの頭に、ユメノのハリセンが炸裂した。
「なぁ、ハネバって?」
「あぁ。あいつの姓、ウィングフィールドって長いだろ? 日本語でウィングは羽、フィールドは場ということで、姓で呼ぶときは、みんなそう呼ぶんだよ」
「へぇ」
そう、カノグチと話してるところに、ユメノがやってきた。
「改めて自己紹介させてもらいますね。私は軽魔弾士のユメノ=ウィングフィールドです。よろしくね。オリヴァー君はクラスは?」
「あぁ、俺は魔道士だ。よろしくな。そんなに魔法は使えないけどな。《切り裂く風の刃》はなんとか使えるけど」
「十分じゃないですか、頼りにしてますよ」
そう言ってユメノはにこりと笑う。
その可憐な微笑みに、思わず胸が高鳴り、言葉を失ってしまう。
「なーに、硬直してるんだよ」
「こ、こんなかわいい微笑み見たら、誰だって硬直するに決まってるだろ」
「え……」
俺の言葉に、今度はユメノが硬直した。その顔は真っ赤になっている。
「や、お、オリヴァー君、突然変なこと言わないでください……」
「い、いや、別に変なことじゃないよ。本当に、今のユメノの微笑みかわいかったし……」
「あ、あぅ、そ、その……ありがと……」
お互い、真っ赤になって固まってしまう、そこに。
「ほぉほぉ」
スギナミが、ユメノのほうを見て、興味深そうにうなずいている。
「な……なんですか?」
「ハネバ妹のそんな一面を見れるとは興味深い、うむうむ」
「ば、バカなこと言わないでくださいっ!」
顔をこれ以上ないほど赤くしたユメノは、ハリセンでスギナミの頭を思いっきりひっぱたいた。というか、あのハリセン、どこから出してるんだ……?
「全くもう……準備ができたら行きますよ?」
「素直ではないな、ハネバ妹は。ともかく、了解だ」
「へいへい」
ユメノの言葉に、みんなはちょっと真剣な表情になって、バックパックの中をチェックしたり、指輪をはめなおしたりしている。
俺も、バックパックの中の装備のチェックをはじめる。と、そこにユメノがやってきた。
「あ、あの……オリヴァー君……」
「ん、なに?」
なんかほほが染まってるけど。
「ね、姉さんに会ったときのこと……内緒にしてくださいね」
「あ、あぁ、いいけど……なんで?」
「私、ここでは優等生で通してるんで……」
そう言うユメノのほほは、まだ真っ赤だ。
「でも、素のままでもいいと思うけどな。さっきの微笑んだところとか、赤くなってるところとか、とてもかわいかったし」
「へ、変なこと言わないでくださいっ……怒りますよっ」
「ほめたのに、なんで怒られるんだよ。あ、そういえば」
「はい?」
俺が目を留めたのは、ユメノの手に握られている拳銃……? 拳銃だよ、な?
「その銃は?」
「あぁ、これですか?これはガンワンドっていうんですよ。これでもワンドの一種なんです」
「ワンド?」
「はい」
ワンドとは、俺たち魔法使いが魔法を使うために使う短めの杖のことだ。魔法弾で敵を攻撃するときにも使えるし、何よりこれがないと魔法は使えない。
だが、銃型のワンドなんて、今まで一度も見たことがないわけだが。
「ガンワンドは、他のワンドと違って、ワンドの扱いに長けていれば、魔力があまりなくても使えるから便利なんですよ」
「へぇ、そうなんだ……」
「オリヴァー君は、ガンワンドって見たことないんですか?」
「あぁ。俺の故郷は、イギリスの片田舎だったからな。あそこで魔法使いの家系は、俺の一族だけだったし。そのせいで、色々なことがあったけど」
「色々なこと?」
『あのこと』を言いかけ、ユメノに『あのこと』を聞かれかけたからか、不意に胸の奥がずきんと痛んだ。
「悪い、そのことについては今は言いたくないんだ」
「あ……ご、ごめんなさい……」
「い、いや、俺のほうこそ……」
俺の古傷に触れてしまったことを察して申し訳なく思ったのか、ユメノが目を潤ませた。
それを見て、俺のほうも申し訳なくなってしまう。女の子を泣かせるのってよくないことだよな。
と、そこに。
「それがわかってるならいい。だが、罰はくださんとな」
背後にスギナミが立っていた。
「なんで、俺の心の中知ってるんだよ」
「問答無用だ」
俺は、スギナミのワンドからの魔法弾で吹き飛ばされた。
8.
そして、俺たちは、廃館に入って行った。
カノグチとスギナミが前に立ち、その後ろに俺、そしてその後ろにユメノ、という隊列。
廃館の通路を進んでいく中、俺は後ろのユメノに小声で聞いてみた。
「な、なぁ、実習ってなんなんだ?」
「一人前の魔法使いになるための実地訓練のようなものですよ。私たち魔法使いは、どこかの遺跡の調査を頼まれたり、暴れまわるゴーレムの対処を依頼されることもありますから」
「なるほどな……」
そういえば、俺の親父も、「怪しい気配がする屋敷を調べてくれ」とか、「狼が多数群れて暴れまわっているから、原因を調べてくれ」とか、そんな依頼受けて、良く出かけたりしてたっけな。
と、そんなことを思い返していると……。
「楽しく話してるところ済まないが、同志コーンウェル、ハネバ妹、敵が現れたようだ」
スギナミの声。我に返って前を見ると、骸骨が三匹、こちらに向けて歩いてくるのが見えた。
確か図鑑で見たことがある。悪い魔法使いが、魔法で骸骨にかりそめの命を吹き込んで作り出した魔物、確か……。
「スケルトン、だ」
「あぁ、それそれ。というかスギナミ、俺の心の中を読むなっての」
俺の苦情(?)にスギナミは、不敵な笑みで応じる。
「細かいことは気にするな。それではみんな、いつも通りに。俺とユメノが前に出て迎え撃つ。同志コーンウェルと同志カノグチは、後方から臨機応変に支援してくれ」
そういうと、スギナミと、いつの間にか前に出ていたユメノは、スケルトンに向けて突進していった。
そして戦闘が始まった。
ユメノは、ひらりひらりとスケルトンの攻撃をかわしながら、ガンワンドで応戦し、一方のスギナミは体を覆い守るオーラで、スケルトンの攻撃を涼しい顔して弾きながら、ワンドで攻撃している。
一方の俺は、精神を集中して、戦況を見極めていた。《切り裂く風の刃》は二回しか使えないから、使いどころを考えないとな。
と、ユメノがスケルトンの足払いを受けて転んでしまった。そこにスケルトンが追い討ちをかけようとする。
「いけない!」
俺はとっさに、《切り裂く風の刃》の魔法を発動した。ユメノを攻撃しようとしていたスケルトンの周囲につむじ風が巻き起こり、真空の刃がスケルトンを粉々にする。
一方、スギナミのほうも、戦っていたスケルトンを粉砕していた。最後の一撃が、ワンドでの打撃だというのはいかがなものかと思ったが。
ともあれ、俺とカノグチは、二人の元に駆け付けた。
「大丈夫だったか?ユメノ」
「は、はい……ありがとうございます」
俺が手を差し出すと、ユメノはちょっとためらってからその手を握ってきた。
その手から、やわらかさとぬくもりが伝わって……いやいやいや。そんな感触にうつつを抜かしている場合ではない。
9.
さて、さらに進んでいくと、ある部屋で箱を見つけた。スギナミがにやり笑む。
「ほほう、宝箱か。ここは俺が……」
「鍵開けの技術がないスギナミさんが開けてどうするんですかっ!?」
またスギナミの頭に、ユメノのハリセンが炸裂した。その間に、カノグチが宝箱に歩み寄る。
「へへへ、ここは俺に任せなって」
「お前、魔法使いなのに、どうして鍵開けの技術なんか持ってるんだ?」
「魔法使いだからって、鍵開けができない奴らばかりじゃないんだぜ? マジックスカウトってクラス、知らないのか?」
「あぁ……聞いたことがあるような」
これも、親父から聞いたことがある。魔法の力と、指先の器用さを活かして、罠や鍵を解除しながら、遺跡や屋敷を探索する、マジックスカウトというクラスがあるって。
「俺、実家が忍者の家系だって父さんが言ってたからさ。それで、忍者目指してマジックスカウトのクラスについたんだよ」
「へぇ……」
そう会話をしながらも、カノグチは宝箱を観察したりさわりながら調べている。忍者の家系うんぬんはまゆつばだけど、その手つきは確かにマジックスカウトとして板についたものだった。
「よし、罠はない……な、と」
続いてカノグチは、胸のポケットから針金を取り出して、宝箱の錠前に差し込んだ。そしてそのまま針金を動かしていると……。
かちゃ。
「よし、開いたぜ」
「ほほう、相変わらず流石だな、同志カノグチよ」
「へへ、任せといてくれって……。さて中は……」
ぎぃぃぃ……かちっ。
「あれ?」
「かちっ?」
俺とユメノが同時につぶやく。そしてそれと同時に……。
ごごごごご……。
「な、なんだ!?」
「悪い、うっかりしてて、隠された罠の存在を見逃してたみたいだ。てへ」
「てへじゃねーーーーーー!!」
床が開いて、中から何かがせり出してくる。それは……。
「あ、あ、あれは!?」
「すすす……」
「「ストーンゴーレム!?」」
声を揃えて、そう驚くユメノとカノグチ。
「ふむ……この屋敷にこんなものが隠されていたとはな。興味深い」
一方、スギナミは涼しい顔のままだ。こいつ、ただものじゃないな。
そして、石の巨人が一歩を踏み出した。あたりが大きく揺れる。
「そ、そんなこと言ってる場合かよ!?」
「ふむ、そうだな。俺たちでも手に余る相手だ。ここは……。
石の巨人が二歩目を踏み出した。
「逃げるとしよう」
そのスギナミの言葉と同時に俺たちは、部屋の出口に向けて走り出した。しかし!
ずしーん!
石の巨人が三歩目を踏み出した。その衝撃で、部屋がまた大きく揺れる。
「きゃっ!?」
いけない!ユメノが、その振動に足を取られて倒れてしまった。
俺は反射的に、ユメノに向けて駆け出した。
決めたんだ。俺はもう、仲間を見捨てたりしないって。逃げたりしないって――!
「オリヴァー君!?」
ユメノの声。俺が彼女のところに駆け付けたときには、石の巨人も彼女のところまで接近していた。
石の巨人が彼女の一撃を加えようと拳を振り上げる。
俺はとっさにユメノを突き飛ばした。そしてそれと同時に――!
「オリヴァー君っ!」
すさまじい衝撃とともに、俺は意識を失った。
10.
「ん……」
「あっ……」
「ふむ、どうやら意識を取り戻したようだな」
「オリヴァー君……よかった……」
開いた俺の目に映ったのは、目に涙をたたえたユメノと、心配そうな音先生の顔だった。
その後ろには、スギナミとカノグチの姿も見える。
「大丈夫?オリヴァーくん。痛いところはない?」
「は、はい……」
「危ないところだったな、同志コーンウェル。ハネバ妹が、《ヒーリング》の魔法を何度もかけて回復してくれなかったら、今頃お前の命はなかったぞ」
「ストーンゴーレムも、音先生が破壊してくれたぜ。本当に本科生だけあってすごいよな」
「そ、そうか……。ありがとうな、ユメノ」
「うぅん……それより、ごめんなさい。私のせいで……」
ユメノの瞳から流れる一筋の涙。俺は、それを美しいなと思いながら、その頭をなでた。
「いいんだよ。前に決めたんだ。決して仲間や友達を見捨てたりしない、仲間や友達がピンチなのに逃げたりしないって――」
「いけないよ」
「え?」
音先生が、真面目な顔で俺をにらんでいた。
「オリヴァーくんの、仲間を見捨てたりしないって気持ちは大切で素敵なことだと思うよ。だけど、そのために誰かを……ましてや自分を犠牲にするのはいけないこと、間違ってることだと思うの」
「先生……」
「それは、その人は助かるよ。だけど、助けられた人の気持ちはどうなるの?もし、あなたが、その人の大切な人だったら?」
そう厳しく言う先生の瞳から一筋の涙がこぼれた。彼女の古傷に触れたのだろうか。
「私も、大切な人を犠牲にしてしまったからわかるんだ。そのつらさが」
「……」
「その人は、ある悪い事態を解決するために、犠牲になってくれた。だけど、それからは私は悲しい気持ち、辛い気持ち、そして後悔の念に襲われることになったの」
「音先生……」
そのあとにその人は帰ってきてくれたけどね、とも先生は言った。でも、先生の涙を見ると、それが音先生にとってどれだけ辛いことだったかが、痛いほどよくわかる。
「私はもう、誰にも私と同じ想いはしてほしくないし、させたくない。だから……ね?仲間を見捨てないことは結構だけど、誰かを……自分を犠牲にすることはダメ、わかった?」
「……はい」
俺がそう応えると、そこで音先生は笑顔になってくれた。
「わかればよろしい。それじゃ、帰りましょうか」
音先生の言葉で、みんなが立ち上がって帰り支度を始める。もちろん俺も、立ち上がり、バックパックを背負う。そこに。
ぎゅっ。
「……?」
手が握られる感触。ふと横を見ると、ユメノが俺の手を握っていた。
「兄さん……もう、無茶はしないでくださいね?」
「あ、あぁ、もちろんだよ。もう、俺は誰も悲しませるようなことはしないから。……って、兄さん?」
俺とユメノって同い年だよ、な?
一方のユメノのほうも、自分が口走ってしまったことに気付いて、顔を真っ赤にした。
「い、いいじゃないですかっ。私よりオリヴァー君のほうが年上のような感じがしますしっ、い、嫌なんですかっ?」
そんなに逆切れしなくても。というか、どうして逆切れしてるんだ?
「い、いや。嫌じゃないけど……」
「なら、いいですよね?」
「う、うん」
俺も思わずほほが赤くなってしまう。
「おーい、何してるんだ、行くぞーっ」
「あ、あぁ。ほら、行こう、ユメノ」
「はい、兄さんっ」
そう言葉をかわし、俺たちは声をかけてきたカノグチたちのほうに駆けて行った……。
11.
一方その頃、校舎にて。
「ユメノ、特に親しいと感じた人を、『兄さん』って呼ぶ習慣があるから……。オリヴァーくんのこと、『兄さん』と呼んでいたりしないかしら……?」