豊かなキャラ創作が出来るそれにはまった外道共は一つのギルドを立ち上げる。
その名は『ロリッター』。そしてある日彼女(かれら)は気付けば4人一緒にゲームキャラで林の中にいた。……もうやめたげなよ、から始まる蹂躙(笑)系異世界トリップファンタジー。今、幼女たちの異世界でアーリア人の優等性を見せつける壮大な物語が開幕する!※このあらすじには多分な誇大妄想が含まれておりますご注意ください。
きゅらきゅらと音を立てて林の中を進む重厚な物体。見るものが見ればよく分かる、第二次世界大戦でドイツ軍が開発した戦車、王虎。そして今彼の巨体の前には一匹の魔人の王が居た。人類に対して争いを続ける魔の一匹、ありきたりだが名をオーガキングという。
「さて、お前も王、こいつも王だ、身一つで一騎打ちと行こうじゃないか!」
前髪が一直線に整えられた金髪のロングを靡かせ、
幼女はそのくりくりとした碧眼でオーガキングを睨みながら『ぱぁんつぁーふぉー!』と何かずれた発音で車内へと命じる。それと同時に全身を開始する王虎。そのまま正対するオーガキングへと王虎をゆっくりと進ませ、そして異世界の民より鋼鉄と評されたオーガキングの腕と、本物の鋼鉄である王虎がぶつかり合う。
オーガキングは雄たけびを上げ、戦車を止めようとするが、やはり70t近い車体重量を持つ戦車の足を止めることは難しい。徐々にその足が大地を削り後退していく。もしこれが普通の人と呼ばれる種族であったのならば、既にゆっくりとひき殺されていることだろう。これだけで、オーガキングがどれほどの怪力か理解できる。
「ほぅ、流石というべきか。オーガ王の名は伊達ではないな、ならばこいつも本気を見せよう」
そうつぶやくと、車内へと姿を消す。未だ王虎はアクセルを踏み切っていない状態で、ミッション一速のまま少しずつ進む程度である。つまり、彼女は今からアクセルを踏み込み、目の前にいる彼を押し潰すつもりなのであろう。
言語が伝わらずとも、どことなく、そうと理解したオーガキングも負けてなるモノかとその腕に、より一層の力を籠め襲い来る暴力的進行を止めるべくその腕に血管が浮かび上がるほどの力を入れる。
そうすれば、王虎とオーガキングの力は拮抗する。オーガキングは勝利の雄たけびを上げた。自らの体よりも遙かに巨体な王虎を止めていることで、彼の中では既に
だがしかし、実はまだ、王虎はそのアクセルを踏み込んではいない。では車内へと姿を消した件の幼女は何をしているのだろうか?
「ぱらぱっぱっぱー、7.92㎜機関銃ぅ~」
そう言って、明らかに彼女が持つには大きすぎる重火器を取り出すと、いそいそとキューポラハッチの横へとそれを慣れた手つきで取り付ける。
「驚くべきですな、うちも君には驚かされたよ。さて、ならばうちもこいつの力の一端を見せてあげよう」
それに気づいたオーガキングは彼女の方を向くが、彼がもし手を放し力を抜けば自らが轢かれるのは自明の理。そのまま彼は何か仕出かそうとする幼女を見つめるしかない。嫌な予感しかしないが対応は出来ないのでだ。そして、幼女は取り付けた機関銃をオーガキングへと向け……発砲。
オーガキングはその頭を何発モノ機銃弾によって消し飛ばされ、力を失い前のめりに倒れる。そうして、ずるずると地面へと滑り落ちると、前進を続ける王虎に轢かれその体をぐしゃぐしゃの肉塊へと変貌させる。
この付近の魔獣、魔人を束ねる王の非常に無念極まりない最後であった。
これは身一つの一騎打ちと言いつつも機関銃を持ち出してくるそれに疑問を一切持たないナチュラル外道な
▽▲
とある一つのゲームがあった。MMOと呼ばれる部類のゲームで、その中でも一際中年と一部青年に流行っているゲームがある。第二次世界大戦中の戦闘車両とNPC歩兵を駆使して戦う『
自らのキャラを組み合わせ自由に行える部類のフィールドバトル系MMOであり、いくつかの戦闘車両とNPC兵を使用し、敵対国家に所属するプレイヤーを撃破していくゲームであり、キャラメイクは初期200種、男女合わせて課金追加3000種ものパーツを組み合わせることによって様々なスタイルの兵士が出来上がるのだ。
もちろん、パーティー的要素も導入されており、同じ国家に所属するプレイヤーと隊を組むこともできる。一人のプレイヤーで最大大小合わせて50車両と500名のNPCキャラを操作することができ、所謂隊内戦闘である訓練モード等も実装されている。
戦闘を続けることによって兵器を改良や生産できるようになっていき、パンター中戦車やシャーマン戦車だけではなく、バランスよく様々な車種、対戦車砲、トラックや対空車両を開発しなければ、歩兵負け等の事故も起きるし、所謂ゲーム内スキルと呼ばれるモノで行える空爆要請によって一方的に叩かれること起こりうる。
自らの搭乗する車両の操作もしなければならないが、戦場の配下NPCの操作もある程度決めてあげなければいけないという、非常に手間のかかるゲームなのである。
勿論、味方のフォローをしなければ自分の担当場所が優勢であっても、全体的には負けて入れば戦術的敗北もあるので、他の味方プレイヤーの援護も必要と、要求されるモノが多いのだ。それ故に、一部のコアな層には流行っているが、メジャーとは言い難いゲームなのであった。
そしてその中にも、一際目立ったチームがある。そのチーム名は『ロリッタ―』、幼女キャラのプレイヤー4名(中身おっさん)で構成されたチームである。他のプレイヤーは
『とりあえず、ドイツ語付けてればどんなものでも大体格好よく聞こえるのにドイツ語付けても救いようのない程残念なチーム名の奴ら』
いや、なげぇーよ。
▽▲
とある日、いつものごとくチーム参加した大戦を終えた時のことである。
幼女の一人、チーム内リーダの金髪碧眼姫カットロングの幼女、アインスがこう言った。
「うちらでチーム内訓練しよやー、うち
それに応じ銀髪金眼のでこ出しで、少し耳前の前髪が左右にはね気味ロング、ツヴァイはそれに答える。
「お前が
黒髪黒眼のおかっぱ幼女ドライも「私もハーフトラックで行きますね」と呟き、正統派白髪ロング赤眼の幸薄系幼女フィーアも「ならワイもハフトラでいくぅー」と続く。
「はっ?いいの?うちの
アインスは三人の車両選択の意味が分からないとばかりに、自らの幼女キャラをコマンド入力で驚きの表情に変化させる。ツヴァイ、ドライ、フィーアの三人はそれに対しても余裕ぶり問題ないと返して訓練の準備にかかる。
ハーフトラックにも種類があり、『ロリッタ―』の面々が使用するドイツ系の戦闘用ハーフトラックであれば、自走砲能力を持たせることのできる『Sd Kfz 251』等の型もあるのだ。これらの
そして、このゲームで軽自動車トラック、つまり軽トラと呼ばれる車両はドイツ軍兵器には存在しない。あるとしたらケッテンクラートと呼ばれるハーフトラックの一種でバイクと軌条が融合したものが、大きさ的にも能力的にも軽トラのそれに該当するだろう。
ケッテンクラートの大きさは大型バイクほどなので、乗せれる武器と言えば機関銃ぐらい、それ以上の重火器なぞ積めるはずもない。更に所詮バイクトラックなので装甲もほぼ全く存在しない。故に
そして、運命の時がやって来た。
▽▲
きゅらきゅらきゅらきゅら
「「「……」」」
重機関銃装備のハーフトラック三台の前にケッテンクラートの履帯音に比べて重厚なそれを響かせて現れたのは、一台の戦車であった。
その名は「
「てめぇ!そりゃ卑怯だろ!!」
「なめんじゃないです、くたばれ、
「それ流石にないですわー」
その叫びに対して、心外だとばかりにのけぞり、胸を張る金髪幼女《アインス》。しかし、彼女は別に騙そうとした訳ではない、実際に準備に取り掛かる前にハフトラじゃ絶対に勝てないと彼女たち三人に告げているのである。それでも、
だが、実際には軽トラ否、ケ-トラであり、ケーニヒスの『ケー』と王虎《おうこ》の『
だがしかし、確信犯じゃないけどそれでも王虎で来る幼女マヂ外道。
とはいえ、これでは勝負にならない。
「まぁいいや、うち一両とみんなの三両で戦おうか?それなら大丈夫でしょ?」
「やってやらぁ!」
「後方から装甲の薄い部分狙ってぶち抜いてやります」
「甘く見たね!ハフトラの機動力を!」
こうして仲間内による血みどろ(笑)の争いが始まるのであった。
▽▲
『こちらドライより各車両へ、手筈通りに行きます』
無線チャットを通じてメイン車両操作モードに移る。普段のプレイでは空撮的なNPCを動かすための指令操作モードと自ら搭乗するメイン車両モードが存在し、これら使い分けて戦うのだ。
どちらかだけでも戦えないこともないのだが、メイン車両操作モードだけでは配下NPCがデコイ以上の役目を果たさなくなってしまうことがある。逆に指令操作モードだけでは
しかし、チーム内訓練モードでは参加する車両や兵士の数を限定することが出来るので、今回のように一台だけ参戦であれば、メイン車両操作モードだけで事足りる。むしろ指令操作モードだと普通に撃破されるだろう。
メイン車両操作モードとは所謂FPS視点で移動するもので、更に詳しく説明すればターゲットをある程度狙うマーカ―モード、狙撃するスナイプモードが存在する。これらもうまく使い分けなければ、車両によっては容易く無力化されるだろう。基本、弾をばら撒くタイプの重機関銃などはマーカ―モードで撃ち、戦車砲や迫撃砲などはスナイプモードを使用する。戦車砲であっても弾種によっては対歩兵用の物も存在するので、マーカーモードを使った方が良いこともあるのだが。
今回の戦場は林と農村が混じった手狭な10km四方のものである。今回の作戦では三両が別々に行動しながら、王虎を包囲し、弱点である履帯部か薄装甲部をぶち抜くことが目的である。
本来兵器は集中運用が基本だが、機関銃しか積んでいないハーフトラックたった三両が同時に行動してしまえば、一瞬で撃破されてしまうのでばらけて一両ずつ林や民家の陰から奇襲を仕掛けるのだ。
王虎死すべし慈悲はないが合言葉である。
『私は12時方向の林に
『こちらツヴァイ
『こちらフィーア
グウォンとエンジンの始動する音が聞こえ、
『敵は北東の角より発進します、戦車が通れる道はこのフィールド上に二か所、中央を流れる川があるが、渡れる橋は存在しないので浅瀬で渡河するでしょう』
『そこが絶好の奇襲ポイントじゃね?』
『いやー無理ですよー浅瀬のポイントは障害物がないですから容易く砲撃されます』
次々に作戦の詳細を練っていく。王虎の速度は巡行15km/hほどだと思われるので、
それぞれの位置へとたどり着く。エンジンを止め、狙撃モードに変更、敵が無線モードを全周波にしていれば、無線チャットの内容は読み取れなくとも、無線という設定の仕様上近くにいることがばれてしまう。
『これより通信終わり、予想到達時間は2分後です』
『了解《やぼーる》』
『了解《やぼーる》』
狙撃モードに切り替えた三人は恐らく出現するであろう川の方角をじっと見つめる。王虎といえども、キューポラハッチ部と砲塔後部の整備ハッチを狙えば行動不能にできる可能性があるのだ。そうなれば
「問題ないです、アインス。貴方の王虎はここで潰えるのですよ」
▽▲
そのころアインスの乗車する王虎は悠々と橋を渡っていた。
「軽量化ぁ~なぁ~ケ~虎ぁ~は早いぞ、つおいぞ、かたぁいぞ~」
ゲームの要素の一つとして、よくある装甲素材の変更である。アインスは課金勢と呼ばれるゲームスタイルを取っているので、兵器の開発に無課金勢に比べると少々有利となる。ちなみにツヴァイ、ドライ、フィーアも課金勢だが、
アインスはゲーム内で所謂、虎戦車ラブ勢と呼ばれる一人なのである。その為、課金装甲(全車重より-30%)に強化ミッション(故障率半減)、課金増加装甲(防御率+8%)、エンジン乗せ換え(700馬力ガソリン→900馬力ディーゼル)へと変更しているのだ。これにより実際には47.6tほどに抑えられている。
つまり、パンター中戦車的な使用方法が可能な王虎なのである。ケートラは軽虎でもあったのである。日本語って恐ろしい。
三両が川に注視している際に、王虎は北端の橋を悠々と渡りきり、そのまま南へ伸びる道を前進。
「あいつらどこ行ったんだろう?」
そのまま南の端まで到達してしまう。
結局、三両も待てども王虎が川を渡ってこないことに不信感を覚え、耐えられなくなったツヴァイが車両を稼働させる。そして、始動時に黒煙が吐き出され、隠密モードの解除。それに気づいたアインスは車体ごとその方角へ砲を向ける。
「あ、居た。あんなところに村あったんだ」
すぐさま狙撃モードに変更し、川を向いたままの
『はっ!?』
この時点ではまだ部位は回判定のみで、撃破判定まではされていない、無理やりに機銃台を回し、砲撃方向へ向けるが、明らかに王虎は
その後、アインスは村へと榴弾を打ち込む。本来ならあり得ぬ方角より現れた王虎、それに見つからぬようにドライ、フィーアもそっと身をひそめる。このまま痺れを切らしたアインスが村へと前進して来ることを待っているのだ。
そしてようやく、今回の戦闘で使用可能な事前設定した数の榴弾を撃ち尽くした王虎が動き出す。
『来ましたね、フィーア。私が体当たりするので、後は頼みます』
『
そして、王虎が村の内部のを走る道へと到達する。
警戒状態になり、速度を落とした王虎を待つ。そして、目の前に到達したときにエンジンをかけ、民家のガレージよりアクセルいっぱいに飛び出す。真っすぐにガレージの扉を突き破り登場した
王虎もその車体を若干斜めに動かされ、車体を民家へとぶつける。それと同時に、林よりフィーアの
「ふぁいえる!」
アインスの掛け声と同時に、王虎の砲にぶち抜かれ、一撃大破。作戦の失敗を見たドライが慌てて動けなくなったが、未だ戦闘継続可状態である
「……うちとけーとらの大勝利や!」
ズドンっ。
▽▲
「卑怯モンがぁぁぁぁ!!」
「いや普通に無理げーですから」
「パンターで来たらよかったなぁ~」
こうして、訓練が終わった。非常に予想通りの結末である。いや、普通の王虎ならばもしかしたら勝てる可能性も在ったのだが、王虎が課金戦車であったのは非常に痛い。
「外道め、覚えてろよ、オレも外道プレイしてやっから」
「私も、同じく次はヤクトティーガーで狩りつくしてあげます」
「ワイもパンターⅡでやるわぁ~」
「えー、うちもう訓練しないよー、一時」
「「「なめんなよ、てめぇ」」」
……こうして、彼女《かれ》らは外道へと落ちたのである。
え?なんか思ってたのと違う?知ってる。
▽▲
そして、四人は気づけば林の中で切り株を真ん中に置いて三角座りをしていた。
「「「「意味が分からない」」」」
前兆など何もない、いつものようにキーボードを打ち、マウスクリックしして画面操作をしていて、瞬きしている間に此処にいたのである。そしたらこうして、なぜか4人で見つめ合っていたのだ。
「ツヴァイとドライ、フィーアだよね?うち、アインス」
「知ってる、むしろ見てわかるわ」
「右に同じくです」
「左に同じく」
確かに今までの3Dキャラではなくなったが、何となく見覚えのある容姿である。すぐに互いが誰だか理解する。そして、チャットを打った時に発声されるゲーム内音声そのままなのも誰が誰なのか理解できる一因となっている。
「これってトリップてやつかな?」
「だろうなぁ」
「でしょうねぇ」
「だよなぁー」
流石はネット世代、ある程度の事情はお察しである。アインスはなんかぽやっとしているが、ツヴァイは地味に上機嫌、ドライ、フィーアは何処か遠い目をしている。それぞれ変に思うところがあるのである。
アインスは適当に異世界やぁ~こんにちわー異世界程度、脳内お花畑。ツヴァイは此処から俺無双!根拠は何一つない。ドライは、これはないですわーの諦め仕様。フィーアはお腹減ったなぁーの完全無欠思考放棄である。見事に三者三様の考えであった。
「ねぇ、どうする?」
「どうも何も、なぁ?」
「知りませんよ、身一つでどうするんですか」
「ゲームキャラだから兵器呼べたりなぁ、するかもや」
フィーアの一言でアインスが突如立ち上がり何かしら、うなり出す。「ふ~ん!ふぅんがっ!ひょい!のりゃ!でろでろでー!」……いやむしろ奇声を発する。
「あっ、呼べる」
「「「マジか」」」
そして、何かがヒットしたのか、そうボソリとつぶやくと突如切り株の反対方向へと体を向け「はっ!」と、どこぞで見たことのある気弾を発射しそうな体勢で腕を突き出す。それと同時に、ズドンっと目の前にあった木々をなぎ倒して、一台の戦車が現れる。
「やっはっ!うちのケートラやん!」
そう、重戦車推定68t改めドイツ的中戦車48t王虎が現れたのだ。
「どうやって出すんだ?」
ツヴァイがアインスへと尋ねる。勿論、目を輝かせながら。ツヴァイも自らの愛車を取り出したいのである。その名もⅣ号先生、課金戦車で装甲、貫通能力、砲身長を魔改造したⅣ号戦車の皮を被った何かだが。
「でゅりゅんでゅりゅんで出た気がする」
絶対に嘘である。そんな言葉をアインスは言っていない。というよりも、既にアインスもどうやって出したのか忘れているのだ。とりあえず、勢いで呼び出せたのである。しかし、ツヴァイは自らの考えた最強のⅣ号戦車を見てみたい。藁にも縋る思いで、大きな声で元気よく!
「でゅりゅんでゅりゅん!」
少し待ってみるが、何も起こらず、辺りはシンとする。
「「「……」」」
まぁ勿論出る訳がないのだが。顔を空に向け両手を上げたまま硬直するツヴァイ、見た目はキツメの銀髪ロングの幼女だが、中身は軽すぎるようである。
「でねぇぞ?」
ようやくここでゆっくりと三人の方へと、顔だけを向け、首をかしげる幼女。この時点でも疑問に思わないことで、ツヴァイの人間性が伺える。いうなれば天然さん。
「で、結局念じれば出るんですか?」
「さっきから試してるんやけど、出ないなぁ~」
「いや、だからさ、出ねぇんだけど?」
即座にその他は今の出来事を無かったことにした。やはりツヴァイは未だに間違った方法だと気づいていないようである。ここまで来れば普通に騙されたと思っても良い筈なのだが、アインスが最初に呼び出してしまったことのが原因で、アインスなんかが俺を騙すはずがないと思っているツヴァイは何度と同じ奇声を上げそれを繰り返す。少し前にアインスには騙すつもりが無かったとはいえ騙されたはずなのに、学習能力のないツヴァイであった。
「とりあえず、けーとらに乗ろうやー」
「仕方がねぇな」
「……確かにここが何処だか分からないですし」
「敵対生物がいるかもやし、もしくは敵戦車居たりするかもんねぇ……」
何をしても呼び出すことが出来ない現状。仕様がないので、いそいそとなぎ倒された木々の上に鎮座する王虎へと向かい、その低い身長の4人は何とかよじ登り、そのまま開の状態で固定されていたハッチの中へと入ると、思い思いの場所へと座る。
「うちの戦車だから、うち戦車長の場所なぁ~」
「オレは砲手だな」
「なら操縦席に……ってこれオートマじゃないですか、スゴイ」
「流石ゲーム仕様だねぇ……ワイは車体前部銃座に付くなぁ~」
ちなみに、アインスは知らないが戦車長が一番死にやすい。装甲が薄いキューポラの位置に常に乗車するからである。更に、基本前進時は戦車ハッチより上半身を乗り出して辺りを伺うので、狙撃兵等に良く狙われるのだ。
「では、とりあえず山の中進むよ~、ぱんつぁーふぉー!」
「「「了解《やぼーる》」」」
▽▲
そうして、オーガキングの死骸を二、三度入念に轢き潰し、地面の染みに変えた一行は再び林の木々を根こそぎ押し倒しながら適当に進む。方角すらも分かっていないので行き当りばったりなのだが。
「オーガっぽいのが居たので、少なくとも私たちがやっていたゲームの中ではないようですね」
「へぇーあれ、やっぱりオーガなんだ?」
「なんか海外の鬼っぽっかたし、オーガじゃね?」
「正式名称はよう分からんし、仮称オーガでいいんやないですかぁ?」
一つの生き物の命を惨たらしい方法で奪っておきながら非常に軽い奴らである。別に彼女《かれ》らが死に慣れているという訳ではない、性分なのか何かしらの副作用が働いている可能性も在るのだが。それとも単に現実だとあまり認識していないだけなのかもしれない。
「とりあえず、真っすぐ前進な!」
「まぁ、平地みたいですし、あ、アインスは外から機関銃構えたままで索敵してくださいね、突然崖とか現れたら、そのまま落ちてしまいますので」
周りは林だが20cmほどの木々ばかりなので、その程度の障害は王虎には在って無いようなモノである。エンジンも装甲も走行能力も強化された王虎は砲戦能力以外現代戦車に匹敵するモノを持っているのである。
「ワイも銃窓から前睨んどくねぇ」
と、その時小さな人影が現れた。即座にそれに気づいたアインスは滞りなく銃座を向けると、「見的必殺!!」と叫び、発砲、小さな人影を汚いザクロへと変える。それに対して一瞬唖然とするドライ。
「って!何してくれてんですか、お前は!?」
そして彼女は迷いもなく行われた虐殺行為に大声を上げる。もしかしたら付近に住む村の住人、子供だったかもしれないからである。
「……さーちあんどですとろい?」
「だな」
アインスはなんで怒ってるのと?言わんばかりの疑問顔。ついでに言えば憎たらしく首までかしげている。前髪が少し口にかかっているのも少しウザい。自分の行為に疑問を持たない行動だった。ツヴァイは適当に相槌を打ち砲手座席で指を弄っている。何が行われたのかは知らないし、興味もなさそうである。
「でもま、付近の現状が分からのやし今のは判断は正しいかもや~」
フィーアの言う通り、現状はとりあえず戦車に乗って進んでいるだけで、何がどうなって何処にいるのか全てが分かっていない。付近に住む住人が友好的なのか、先ほどの仮称オーガの様に非友好的なのかも分からぬのだから。
「で、飛び出してきた生き物はなんですか?」
確認の為に、アインスがハッチより飛び出て、地面へ降り立つ。見事に腕や胴体が幾つかのパーツ分けされた何かの死体を見れば、青色の血液のようなものが飛び散っている。少なくとも
「……きちゃない」
「やかましいです、貴方が仕出かしたことでしょう。で、どんな生き物ですか?」
「一瞬だけやったけど、ゴブリン的な、なまものかな?」
どうやら飛び出してきた瞬間をちゃっかりと目撃していたフィーアが付け足す。最初からそれを言っていれば、もう少し落ち着いて話が出来たのであるが、それを言ってしまえば自分が危うくなると知っているドライは、それをスルーする。
「まぁ人じゃなくて良かったです」
「いいのかなぁ……案外この世界では人間と仲の良い生き物だったかもなぁ?」
「あぁ、なんかあり得そうな展開ではあるな」
そこで、ドライの払拭されかけた心配を再びまき散らす二人。ドライは二人の、ツヴァイとフィーアの言葉を間違っているとは思わないので、こめかみに親指と人差し指中指の三本を当てて頭の痛みを抑えようとする。もちろん、頭痛は収まらない。
「やっちまったモノはしょうがない、誰にだってミスはあるからさ、前に進もう?」
「やったのがアインスでないのなら、それで納得していたんですけどね」
「少なくとも張本人が言う言葉じゃないよねぇ……」
「なんでっ!?」
良いことを言ったつもりのアインスは余りにも辛辣?な言葉に右腕をシュッと左方へ持って行き、精神的に無駄なダメージを受ける。ちなみに当然ながらドライとフィーアが正しく、少なくとも現状の惨劇(笑)を作り出した人物が慰める立場に回ろうとするのはおかしな話なのだ。
嫌な例で行くのならば、野良猫が引かれて死んでいる場面を可哀想だと言っている奥様方が居て、その中に野良猫を引いた運転手がやってきて「可哀想に、でも死んでしまったモノは仕方がない」と言っているようなものである。人が人ならブチ切れても可笑しくはない。
「まぁ、いいです。やってしまったモノは確かに仕方がない、ばれぬように見つけた生き物は皆殺しにしなさい」
「「お、おぅ」」
「すごいのぅ、ドライはん。両極端」
「ただし、明らかな私たちと同じ人型は少し考えなさい」
見敵必殺、疑わしきは罰せ!何もわからない現状でこの決断を下した主人公がさて、どれほど世界に存在するだろう。少なくとも王道ではないのは確かであるが。
「考えて殺せばいいという事?」
「なるほど、あれは人だな!……よし考えた、そら死ね!か、流石はドライ、オレにはできない発想だ」
「なんでそうなるんですか!?殺すなって意味に決まっているでしょう!?」
まともなハズのドライの発言が裏目に出る。アインスもツヴァイも馬鹿だから仕方がない。ゲームの中では見ていて楽しい部類だったが、これが現実になると非常に危ない部類なのである。近づいたらというか、一緒に居たら嫌に精神の何かがゴリゴリと削られるのだ。
「まぁ、緑のゴブリン的何かと灰色のオーガ的何かが居たら殺すてことでしょ?アインスもツヴァイも分かった?」
「うぃ」
「やー」
「出来れば言語は統一しなさい」
「うぃ」はともかく、「やー」は否定なのか肯定なのか分からない。「いや」の「やー」なのか、ドイツ的「
「「了解《やぼーる》」」
最終的な返事も結局本当に理解しているのかどうか、非常に納得のできない雰囲気で放たれた。再び何となく頭痛がする気がしたドライであった。
そうしてまた動き出す王虎。そして、それと同時に飛び出してくる大量の仮称ゴブリン。もちろん、自ら鋼鉄にぶつかりに来るので、そのまま轢かれる。それを目撃したフィーアが一言「あっ」と呟き、それに何事かと「ん?」という疑問符の反応を返すドライだが、彼女の「何でもないよ」との返事で再びアクセル踏み込む。
もちろんその間にも次々と仮称ゴブリンは踏みつぶされたり、体を強打して死んでいく。ちなみに外にいるはずのアインスは、早速索敵そっちのけで「青空青いなあいうえお」と呟きながら両手を後頭部で組んで雲を眺めている。ツヴァイは再び指を弄っている。
「フィーア?」
フィーアからはその様子は見えないが、何も言ってこないことからアインスは今起きている惨状を何も見ていないのだろうと辺りを付けて苦笑いをする。
「あ~大丈夫や、何か一杯おっきな虫みたいなモン踏んでるだけやから」
今まで、ここまで御座なりな扱いをされるゴブリンズがいたであろうか?いやおそらく居ないだろう。基本ファンタジーで序盤に出てくるゴブリンというモノは何かしらの意味を持っているものである。ヒロインとの出会いのための布石であるとか、村を見つけるためのフラグであるとかだ。
さて、そうこうしてい間にも短い「ぴぎゃっ」「ぐぎょぉ」「びがっ」という断末魔を上げひき肉や地面の染みにされていく大量の仮称ゴブリンたちであった。
▽▲
ゴブリン達の献身的な自害を見届けたフィーア。知能が低いのだろうか、誘蛾灯に群がる虫のような最後である。次々と死んでいく仲間を見ても、武器を持って走ってきてそのまま更に死んでいくゴブリン達は恐ろしさを通り越して、逆に笑いが込みあがてくるものもあった。
そして思い出し笑いをしているフィーアだが、場所が突如開けたことに気付く。どうやら、何かしらの広場に出たようである。粗方轢き殺しつくしたのかゴブリンはもういない。
「おぉぅ、見てよドライ、うちのケートラが作った道ってさ、まるで飛べないドラゴンが地を這ったみたいだね!」
「これ、立ち入り禁止区域とかだったらヤバいですよね……」
「スゲーな、流石は戦車。家でもぶっ壊し進むだけあるな」
いつものごとくあっけなく無視されるアインスの言葉。本人としては何か優雅なことを言ったつもりなので、少し心外な結果である。
「とりあえず、ドライは運転で疲れたでしょう?休もっか?」
珍しく
同意を他の二人にも促し、再び三人は王虎より地面へ降り立つ。そしてアインスは王虎車内に置いてあった野戦セットAという、ゲーム内では使用することでNPC兵士の体力が回復するアイテムを取り出す。この中にはサバイバルセット、例を挙げるならナイフや飯盒、着火剤、ロープ、小型のアウトドアチェアが人数分おさめられていた。
「じゃあ、ナイフとチェア配るから並んでー」
「おぅ」
「は~い」
ツヴァイ、フィーアは行儀よくなぜかアインスと正対して並ぶ、別に受け取るモノの数が多い訳でもないのだから整列して並ぶ必要性は皆無である。
「ドライはいらないの?」
「配り終えてからでいいです」
「えぇ~ここはチームワーク見せるところだよ?」
「うむ、そうだな!オレもそう思うぜ!なんせ緊急事態だ、訓練されたオレたちはいかなん時も整列してみせ、その優等性を魅せつけるのが正解だと思う!ドイツ兵でアーリア人だからな!」
ちなみに、もう一度言うがツヴァイは銀髪金眼、ドライは黒髪黒眼、フィーアは白髪赤眼である。ちなみにどこかの誰かさんが呟いた優等民族アーリア人は金髪碧眼であり、四人いるうちの三人は該当しない。その点から言えばツヴァイの発言はどう考えても間違っている。
「その整列って緊急時でもしっかりと並ぶ日本人の性質じゃないですかね?」
「「な、なにおいう。我々はあーりあじんだぞ?」」
眼をそらしながらワザとらしく顔をも背けるアインス、ツヴァイ。そしてそれを楽しそうに眺めるフィーア。そう、彼女たちは誰が何と言おうともドイツ兵であーりあじんなのである。
「じゃあ~ほい、ドライの分のナイフと椅子ねぇ~」
フィーアがいつの間にかアインスの近くに置かれていた野戦セットA(これで君もキャンプが楽勝!)からドライの分の装備を渡す。
「それよりも、アインス。銃は呼び出せますか?」
先ほどの仮称オーガや仮称ゴブリンを警戒しての要求だろう。全力とはいかないが、それでも戦車を肉体だけで受け止める化け物である。この体の性能がどういったモノかは知らないが、確実にアレと生身でケンカして勝てるとは思わない。何せ幼女だから。
「ほい、シュトゥアムゲヴェーア・フィーアウントフィアツィヒ」
「はえーよ、なげーよ、そしてよく覚えたな」
そして
「頼みますから普通のを下さい」
それに応じて唇を尖らせながら不満そうに、普通の照準器付StG44を取り出し、弾倉と別々にドライへと手渡す。もしあれを使うのなら、敵を撃つとき態々変な体勢を作って狙わななければならない。しかも、集弾率は非常に悪い銃身である、普通に死ねる。
「遊び心の分からん奴め……」
ツヴァイがそう呟くが、遊び心で死んではたまったものではない。
「貴方が使っていいですよ、私はこれを使うので」
「マジ勘弁です」
結局、他人が持っているのを指差すのは面白いが、100ちょっとで銃身ダメになる突撃銃など誰も使いたくはない。アインスも使うつもりはないのか、すぐさま普通のStG44を残りの三人分取り出しそれぞれに手渡す。
「じゃぁ、うち戦車の上でこれ持って話聞くね」
「見張りはしっかりとお願いしますわ~」
「見敵必殺だね!」
「やかましいわ!殺すなつってんでしょう!」
アインスは笑いながら王虎の砲塔後部にチェアを置いて他の三人を見下ろす。方針とは何だったのか。
「まぁ、何かが野営した形跡もありますし、人に準じた生物がいるのは間違いないでしょうね」
先ほど降り立った際に見つけた火の使用された形跡を見る。その後ろでフィーアはせっせと近くの大きな石を集めて簡易的なかまどを作る。
「何してるんですか?」
「珈琲入れようかと思うてぇなぁ」
「メットコーヒーですな!」
「クソ不味い奴か!」
戦場珈琲と呼ばれるモノである、何故それでテンションが上がるか分からないが、単に知っていそうな言葉が出てきて過分に反応しただけだろう。ちなみに
「不味いの飲みたいなら自分でなぁ淹れりぃ?」
「うちカフェオレが良いな」
「オレも砂糖いれたカフォオレで」
「……ブラックを」
驚異の掌返しの速さ、ついでに言えば戦場珈琲発言はなかったことにしている。なんだかんだ言ってドライもしっかりと自分の分のブラックを頼む当たり、ちゃっかりしているなと思いながら、フィーアは野戦セットAにさり気なく入っていたコーヒーセットの袋を分解し、中より既に豆が挽き終えて入っているドリップパックと粉ミルク、砂糖を取り出す。アインスの持ち物なのに本人じゃない彼女のが余分に把握し過ぎである。
「外で飲むカフェオレおいしーわー、うち幸せ」
「あぁ、よくわかるぜ。空気もうまいしな」
こいつら話をする気皆無である。しかも、危機感も皆無なのだ。といって他の二人が警戒ビンビンなのかといえば、表面上の形だけで大して重大にことを受け止めていなかったりする。
「で、どうします?」
「マジで、ハードボイルドじゃね?戦車の前でコーヒーとか」
「それ、うちもそれ思った。なんかこう、黄昏る感じで今日は酸味が強く感じるぜ!みたいな?」
「コーヒーやのうて、カフェオレやけどなぁ~」
「聞けよ、お前ら」
▽▲
「気を取り直していきます、道探す人探す待ち探すOK?」
その後、一人ずつ後頭部を叩かれ、話を聞く体制を取り戻したドライ。彼女は有無を言わさぬと既に決めた、今決めた。返答はyesかOKのみである。
「「「
「イエスと取っておきます」
一息ついた彼女らはまたも王虎の中に入ってゆく。元々が第二次大戦時の戦車モデルなのに一発エンジン始動の快適オートマチックミッション、エアコン完備である。惜しむべきはネット環境がないことだろう。ついでに言えば寝場所もない。
今いる場所は広場のようだが、近くに昇りの斜面が緩やかに存在する。広場から斜面に向けて昇り道らしきものがあるので、これ昇って行けばすぐに何かしらの通りに出るだろう。
その場で右履帯のみを後進状態に動かし右旋回、坂道へ正面を向ける。それと同時に地面には抉られた土で履帯の跡が放射線状に伸びる。
「前進《フォー》」
「了解《やぼーる》、前進《ふぉー》」
アクセルと、右履帯操作レバーに左履帯操作レバーを手前に引き、前進を開始する。前進の操作方法はショベルカーなどと同じ形式で、それにアクセルが加わっただけのお手軽である。流石はゲーム仕様。
「こいつが本物だったらお手上げだったです」
もし、本物仕様であるならば坂道の変則とアクセル操作を間違えると、容易く王虎のミッションがブチ壊れる。本物はなんだって20t以上異なる戦車と同じミッションを載せようと思ったのか。まぁ新たな変速装置を開発する時間がなかったからだが。
「うちのケートラはすごいでしょう?」
「まぁ、そうですね。もしこの兵器呼び出しが個人の深層意識によって操作系統も変わるのならば、私の想像したケーニクスティーガ―であれば無駄に操作機構の多いモノが呼び出されていたでしょう。もし私が自らの兵器を呼び出せるようになったのならば、意図して簡易的な操作機構をもった戦闘車を呼ばねばなりませんね」
「じゃぁオレがもし魔改造Ⅳ号呼び出したら思考操作だな!」
「出来るのならやってみぃ?ロボットとちゃって、手足ないし履帯二本しかないのにそれはそれで逆に操作難しそうやけどなぁ」
フィーアの脳中では、頭の上にヘッドマウントみたいなものを取り付けて、Ⅳ号戦車を動かしながら同時に手足身体をバタバタと動かすツヴァイが容易く想像できた。確実に周囲の搭乗員の邪魔になるし、ゴツゴツと色々な場所をぶつけそうである。
と、そうこうしているうちに坂を上り終えたのか、ガタンとシーソーの様に前に傾き一気に水平になる王虎。
「アインス、外確認をお願いします」
「ほ~いほーい」
キューポラを覗き、内側よりハッチを開ける。そして周囲に何もないことを確認して再び砲塔上部のハッチより上半身を乗り出す。肩には突撃銃、手には双眼鏡だ。右手を銃にかけ、左手で覗き込む。
「砲塔右旋回よろ~」
「了解《やぼーる》」
少しだけ体をひねりながら、砲塔の旋回に合わせてゆっくりと周囲を見渡す。一応砲塔の旋回には意味があり、『見敵必殺』のためである。こいつら学習能力ないらしい。下では既にせっせとツヴァイが自動化された旋回装置を稼働させながら、榴弾を半自動装填装置の中にセットしている。
「只の道だよ……敵居ない」
「そうか、残念だったな」
「いや、道が見つかったんなら残念じゃないでしょう?何殺すこと目的にしてるんですか」
「ゴブリンかオーガかなぁ、まぁ玩具与えられた子供が使いたがるそれやなぁ」
確かに感覚はそれと相違あまりないかもしれないが、やることは殺傷である。物騒すぎるとしか言えない。
「しかし、まぁ石畳の道や、案外町ちかいんかもな」
「どうしますか?少し戻って、坂道で何かが通るの待ちますか?」
ドライ的には馬車か何かがとったら、その馬車が向かってきた方向を目指して進めばいいと考えていた。今昇った坂道もそこまで長い訳ではないので、人を坂道と街道らしき場所の境目に置いて、王虎は先ほどの広場で待機させた方が良いと思っている。
「つまりあれか、通りがかりの馬車を検閲するんだな?」
「そのままこの世界の金銭徴収して奪うんだね!活動資金だ!」
「賊かてめぇらは!まともに行動しようと思わないのですか!?」
「見つからなければ問題ないやな、馬車は入念に燃やせばいいんや」
実はツヴァイもアインスも半ば冗談で言ったのだが、前科があり過ぎるので信用はされていない。ちなみに肯定されていたら実行していた。
「ワイとしてはそのまま道進んだほうが早いと思うんやけど」
「はぁ、それでは人か何かと鉢合わせした時の対処が必要ですよ?」
此処がどんな世界だとしても、王虎は異様な存在である。これがどんなものなのか説明できるのは必須だ。もし馬引き馬車が主体の世界であれば、馬が居ない鉄の塊は魔獣や何かと思われても仕方がない。
もしこれが兵器だと周囲に分かればどういったことになるのか。この集団、特にアインスとツヴァイにかかれば奪われる前に殺せとなること確実だ。ドライもそうなればそれに従って行動するだろう。
「結局必要になるからなぁ、ケーニやんは。後々考えるか今考えるかの違いやろ?」
「それもそうですね」
「「で、何の話?」」
ここまで聞いて話を全く理解していないアホの子二人、基本ノリと勢いだけで生きている連中である。先は大して考えていない。考えていたとしても5分後何しよう程度だろう。もしくは晩御飯何食べようかな?とかだけだ。
「ケーニやんは魔獣じゃなくて、魔道具かゴーレム的な機械や説明せんといかんなという話や、アインスはんとツヴァイはんは覚えんでもええよ、説明はワイとドライがするさかい」
▽▲
結局あの後話し合い、アインスとフィーアが坂道の上で待機する事となった。当初は、アインスとツヴァイの二名が行くと言いだして話を聞こうとしなかったのだが、彼女たち二人に任せれば大暴走しそう、いや、むしろすること確実なので、なんとかツヴァイをフィーアが説得したのであった。その際、ドライではアインスを止められないので、何かと相性のいいフィーアが彼女と相方を組むこととなった。
その間、ドライは王虎の中でいつでも動き出せるように待機。ツヴァイはどうにかしてドイツ兵の力強い味方、無敵のⅣ号先生を呼び出そうと奇声を上げ続けている。
「人影一つ、こんなぁ……」
「……」
しかし相方より返事はない。今二人は坂道の終わりの道の端でシートをひき、体の上にギリスーツを被せ、その上に木の枝を置いて更に銃をすぐさま撃てる状態で構えうつ伏せに寝そべっている。
「……アインスはん?どないしたんや?」
返事がないことに不思議に思ったフィーアが首だけを少し向ければ、爆睡するアインス。ご機嫌そうに静かに涎を垂らしながら寝る姿は、ほんとにこいつは中身19歳の大学生なのか疑わしくなる。中の人は友達が居ないらしいが、これだけぶっ飛んだ天然であるならば納得である。男で容姿フツメンで天然な彼に友達が出来ることは今後もなかったであろう。
「……まぁいいわ、アインスはんやし、期待はしとらんかったんや」
と言いつつもフィーアは自分だけで見張ると分かり、少し寂しそうだ。まぁ、今のアインスの姿はすさまじく整った幼女なので、ある程度天然でも許されるのかもしれない。フィーアの中の人が39歳ほどの大阪京都出身
▽▲
「何してんだ?」
ひとしきり叫んだツヴァイの目線の先にはいつの間に降りたのか、先ほどのかまどを使ってお湯を再び沸かすドライがいる。
「いえ、久しぶりのドリップコーヒーが美味しかったので、水筒に移して車内で飲もうかと思いまして」
「ふ~ん、そっか……なぁ、突撃銃の試射してもいいか?」
ドライはそれに「話の脈絡がありませんね」と呟きながら目線はお湯から離さない。ちなみに火はそこらに落ちている乾燥した木々を適当に集めて着火剤をぶちまけて起こしている。炭等と違ってこの火力ではそこまで持続しないだろうから、さっさとお湯を沸かしコーヒーを淹れ終えてしまいたいのだ。
「アインスを見る限り問題はなさそうですが、扱い方を知っておくことは必要だと思います、構いませんよ。ただ、少し離れた場所に向かって撃ってください、目標への命中率も忘れずに確認を」
この際音が響くことは仕方がない、武器の扱いの熟知は必須事項なのだ。まぁ、弾倉の交換と引き金の引き方、ロックの外し方が分かっていれば突撃銃は扱えるだろうが。
これはキャラが持つ常時発動型のスキルが使えるのかの確認でもある。彼女たちは例外なく集弾性を上昇させるスキルや反動を無効化するスキルを持っているのだが、兵器を呼び出せない今スキル発動確認は心の安定を保つためにも必要だ。
「あいあい、じゃ行ってくるな」
と、散歩に行く気軽さでツヴァイは、先ほど王虎が木々をなぎ倒して出来上がった道へと向かう。正直に言えば危機感があまりないのだが、普通の重機関銃が非常に強そうなオーガキングにも大層効いたことを鑑みれば、ほとんどの敵は突撃銃の弾一発当たるだけで、人間同様痛みで行動不能となるだろう。
そしてツヴァイが少し、おおよそ200m程離れた場所で銃を構える。ツヴァイの持つ銃スキルは9mm以下の銃無反動、9mm以下の弾倉補充、集弾率40%上昇である。突撃銃の為でなく、戦車戦闘車の機関銃様に取ったスキルであるが、突撃銃も弾の長さや形状は異なるが同じ7.92mm弾なのでスキル範囲内となる。
ゲーム内スキルでそこまで差別化する必要がなかったから、直径9mm以下となったのだが、もしこのスキルが使えるなら、近接でも二人そろえば弾幕を張り続けられる。
「ロック外して、弾倉確認、問題ねぇな……うし、やっぱかっけぇなMP44!」
と、ストックを方に当て、サイトを覗く。といっても凹の部分を目標と合わせるだけである。そして発砲。カッカッカと撃ちだされるそれは、狙った場所にほぼ狂いなく飛んでゆく。的の代わりとした大きな木の枝はすぐさまへし折れその身を地面へと落とす。
「思ったよりうるさくないんだな、こいつはスキル関係か?まぁいいや……ん?」
ふと、銃口を下ろして顔も下にして銃を眺めて悦に入っていると、視界の片隅に何か動くものが見える。
「なんじゃあれ?……て、ゴブリンじゃねぇか」
明らかに何か武器を以てこちらを見つめる小人サイズ、幼女であるツヴァイヨリモさらに頭一個分低い体の緑色の腰巻だけを巻いた
「さて、近づいたら撃つぞー、オレはアインスと違って、まだあんま気乗りしないけどさ、かかってくるならぶち殺す。その覚悟ぐらいはできるぞーくるなよー」
明らかに及び腰である。更に付け足せば、すり足で少しずつ後退をしている。だが、此処はなぎ倒された木々の上、つまり足場が悪い。ちょっと下がるだけで、アインスは足場になっていた倒木から滑り落ち、尻もちをつきながら転ぶ。それを好機と見たゴブリンは一斉に距離を詰めツヴァイへ。それぞれ石斧、石剣のようなものを振りかぶり走ってくる。しかし奴らの足は遅い。
「クッソ!」
だがそれでも軽くパニクってしまったツヴァイには関係なく、大きな脅威に見える。すぐさま突撃銃を構え、ゴブリンに銃口を向け発砲。速射といは行かなくとも連続して撃ちだされるそれにより一匹のゴブリンは絶命。しかし、先ほど撃って弾倉を変えていなかったので、弾切れを起こす。
「こんなときにっ!!」
ゴブリンも何が起こって近くの仲間が死んだのか理解できなかったのか、足を止めて威嚇を始める。その隙にツヴァイは立ち上がるとすぐさま彼らに背中を向けて反転。王虎の方向へと走り出す。
「ギッィギィ!」
それを見てゴブリン達も奇声を上げ、すぐさま走り出す。すると森影からも大量のゴブリンが何処からともなく出現し、そのあとを追い始める。ロリッターの面々は知らなかったが、ゴブリンはその数のみが脅威な生き物である。一匹いたら数百匹は近くにいるのだ。食料は雑食で、異世界側の人間からは畑や木の実果物を食い荒らすイナゴのような扱いを受ける魔獣である。
「ちょっうぅぅ!?なんか増えてるし!?」
ツヴァイは頭だけを少し振り返って後悔する。なんかウジャウジャ湧いてきたゴブリンは気持ちが悪いモノがあるのだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁマジ勘弁!!」
ゴブリン相手にここまで体裁関係なく逃げる奴というのも実は珍しい。実はゴブリンは勢いよく声を上げて向かってくる人間には恐れをなしてすぐに逃げ出す程に臆病なのだ。
王虎の場合人型ではなかった為にゴブリンの習性に引っかからず。自動駆除されていたが、ツヴァイがもし大声を上げてゴブリンたちに向かっていったなら、ゴブリンは奇声を上げて蜘蛛の子を散らすように森の中へ消えていっただろう。
つまりツヴァイは、ゴブリンたちに自分たちよりも弱いと見られてしまった、そのため仲間を読んで捕獲しようとされているのだ。捕まればお察しである。
何とか走りきり王虎をよじ登る。意図せずスキルが作動、手には弾倉が現れる。無意識のうちに突撃銃から空になったモノを取り外すと装着。ゆっくりとこちらへと向かってくるゴブリンの集団へ半泣きになりながら乱射する。
「死ねぇぇぇぇ!?いやマジで死んでくださいぃぃぃぃ」
すでに懇願、ゴブリンの返事はだが断る一択だろう。これだけ叫んで、近くで乱射すればドライも気づく。ハッチを開け上半身を出す。
「えぇい!騒々しい!今度は何ですか!」
「ヘルプ!ヘルプ!なんかいっぱい出て来た!!」
そこには既にマジビビりして泣きながら、銃を乱射するツヴァイである。流石にドライもただ事ではないとそちらを見れば、地面を
「どっから連れて来たぁぁぁ!返してきなさい!!」
どだい無理な話である。やはりそれでも、流石にこの数はありえないとドライも焦る。
「どうしろってんだよ!」
ここで、ようやく正気を取り戻し、ドライはツヴァイの銃撃をやめさせると車内へと引き摺りこむ。即座にエンジンをかけ、アインスへと無線。
『ふぁつ!?』『どないしたん?アインスはん、……あぁ無線かぁ』
「寝起きか、アインスてめぇ!?って今はそんなことはどうでもいいです、今すぐ擬態解除!乗車準備、大量のゴブが湧きました!」
『『はい?』』
「イイから逃げる準備!」
『『はぃぃ!』』
そのまま坂道へとアクセルとレバーを倒し込み走り出す。そこまでするうちに流石にゴブリンも彼女たちの元へと辿りつく。そしてすぐに周囲を取り囲むが、そのまま以前の様に履帯に踏まれるか、車体に轢かれるモノが多数出る。
「何やらかしたんですか?」
「知らねぇよ、普通に木の枝撃ってたら湧いたんだからな、オレだってビビッ、いや、驚いたぜ?」
「ビビったんですね」「ビビってない」「驚いたでもあんまり変わりありませんから」
巡航速度より早めの25km/h程で走り出した王虎はゴブリンたちを引き離す。その間に轢き殺したゴブリン30匹以上。こうして無意味に尊くは
「乗ってください」
「急げよマジで、ちょめちょめ的展開になるぞ、主にR18Gの方向で」
「ドライ聞いて!うち寝てないよ!ほんとだから、ねっフィーア!?」
「う~ん、そやな~寝てない寝てない」
「いいから乗れっつてんでしょ!」
またもや下で今はどうでもよい言い訳を行うアインスを引きずり込むように乗せる。フィーアはその間に砲塔前部のハッチより車内へと滑り込む。すぐ後ろには全力で、なおかつそこまで早く無いスピードで向かってくるゴブリンの大群であった。
「あぁ、これワイらのあと着けてきとったんやなぁ~」
「「その話、後で詳しく」」
「う、うむ、堪忍してな?まさかこうなるとは思うとらんかったんや」
▽▲
王虎はアクセルを全く踏み込まない自足3km/h程で石畳の道を行く。速度を上げれば確実に石畳を砕きながら進んでしまう故だ。アインスはすぐにハッチの機関銃に付くと後ろを向き必死に走ってくるゴブリンたちを蜂の巣にしていく。ドライもあいつらを放置するのは流石にいけないと思っているので、大量の銃撃音と弾が石を砕く破砕音には目を瞑っている。
時折交代してツヴァイもゴブリンへ銃撃を行うのは先ほど恐怖させられたことへの復讐だろうか、「ふははははは!ゴブリン如きがオレ様に逆らおうとするからだ!」と叫ぶのが、ツヴァイが如何にビビっていたのか理解できよう。
「良し終わった!」
「おぅ!殲滅完了だぜ!」
最後の一匹が体をはねさせながら絶命する。
後ろにはゴブリンたちの死骸が点々と転がり、もしこの後、人が通った時には非常に驚くこと間違いない。これほど内蔵や糞尿が漏れ出して死んだものを放置すれば、むしろ何かしらの病気が蔓延したり、他の肉食獣を呼び寄せても可笑しくないほどなのだが、彼女たちは異世界モノの一部お約束、死骸は片づけるをガン無視であった。
「いい仕事したぜ」
「それ!異世界人も喜ぶよ、きっと!ギルドランクとかあったら一気にDぐらい行ってるよね?」
「ランクはGスタートだろ、もちろん?」
正直どうでもいい。実際には彼女たちは有害認定されても可笑しくない。人間にとってはゴブリンを率いる親玉が存在しないとき時は大して脅威でない生き物だから、ほぼ無視するものである。何せ、時折畑を荒らされる程度なのだから、いくら殺してもキリがない生き物を狩ってどうするというのだろうか。
しかし例外もある。ゴブリンを統率する魔人系の王が居た場合だ。ゴブリンは知能は低く、足こそ遅いが、腕力は子供より少し強い程度はある。彼女たちは未だ知らぬことだが、魔人と人と呼ばれる人型種族の集合体は、永きの間ずっと敵対状態にある。
ゴブリンが人を殺せる程度に武器を振るえるという事は、武装装備を整え突撃させる等の作戦では、死を恐れるほどの知能がないので非常に有能な捨て駒となるのだ。そのため人類は魔人の軍勢にいる装備が整ったゴブリンだけは即座に殲滅を命じている。逆に言えばそれの対処の為以外の野良ゴブリンをかまっている暇はないという事なのである。
「でもさ、ギルドとかあるなら、うち等なめられないかな?見た目可愛いし」
「戦車で突っ込んだらいいだろう?誰もなめないぜ、そしたら」
「流石ツヴァイ!冴えてる!」
そんなことしたらどう考えても事案事件ものである。
「馬鹿ですか、お前らは」
「そもそも中世みたいな世界観なんかなぁ……」
彼女《かれ》らにとっては、未だ何一つも分からない異世界であった。
▽▲
人が歩く程度の速さで進み続ける王虎。ようやく死屍累々のそれは見えなくなった。しかし、何か良く分からない鳥たちがゴブリンたちの死骸が転がる方角へ向かうのが見える。カラスみたいだが、大きさが明らかに可笑しい。王虎のすぐ上近くを飛んだそれは彼女たちの誰が両手を広げても、変わらぬそれと同じ幅があるのだから。
「速度上げよぉ、今のままじゃ全く進まないよ?」
「石畳壊れますよ」
壊すわけにはいかない。街に向かっているのに、石畳を破壊しながら進んでいれば現行犯である。街の目の前でなんと言い訳すればいいのか。まぁ、何とかなるかもしれないが、こちらの通貨を一切持っていない状況で、仕出かすわけにはいかないのだ。
「ツヴァーイ、一緒に砲塔乗ってしりとりしよー」
「ちょ、おま、やる気かよ。オレがしりとりマジヤバなの知って喧嘩うってんだな?」「マジで弱いの?」「マジで強いに決まってんだろ?二秒で終了させられる自信あるし?」「じゃぁ、ドイツ兵器縛りね。じゃあ、うちから、ティーガ。ガね」
「パス」「ガとか思いつかないし!?」「じゃあオレの勝ちだな」
二人は砲塔の上に昇ると腰かけて、左右に宙ぶらりんに足を垂らし、しりとりを始める。が、初っ端からパスなんぞ使う奴がしりとり強い訳がない。なんかほんとに二秒で終わったが、ドライは内容が陳腐すぎて白けた感じで馬鹿な二人のやり取りを聞いていた。
「どうでもいいけど見張りはして下さいね」
勿論こんな呟きなぞ二人は聞いていない。
「「やー」」
「もう何も言うまい」
「いうたら疲れるだけやでぇ?」
▽▲
そしてゆっくり和やかに進むが、結局人っ子一人見当たらない。これほど整備された石畳の道で人が通らないというのも可笑しい。フィーアは一瞬この道路が放棄道路なのではないかと考えたが、それにしてはやはり綺麗すぎる。どう考えても廃道の類ではないと分かるほどに雑草が少ない。人が通らぬ道は荒れるのが普通だ。
「ドライはんはどう思いなはる?これ少し逆におかしいんとちゃうかな?」
「そうですね……私はあまり外が見えないので何とも言い難いですが、あの二人が爆睡するほどに何もない、代わり映えのない景色が続く道なのは分かります」
「ワイも見えとる景色大差ないで?まぁ、今んところ前から危険なモノはないんやけどなぁ、それでもやっぱり、アインスはんとツヴァイはんに中で寝るようにゆぅてぇな。お約束の盗賊でもおったらかなわん、二人になんかあったら困るし、悲しいしなぁ。前進止めてもええさかい」
その言葉通り、砲塔の上で足を垂らしたまま危機感もなく仲良く爆睡する二人を叩き起こす。
「てきしゅーう!?」「なにぃ!?何処だ!空襲か?爆撃か!?」
起きたはいいが騒がしい。一発ずつ頭をはたき正気に戻すと二人へ内部に戻って寝るように告げる。とはいってもスペース的には幼女であっても王虎の中では非常に寝辛い。砲弾が隙間に一杯一杯置かれており、人が座るスペースしか存在しないからだ。王虎の本来の操縦系統はどちらかといえばマニュアルトランスミッションの車に近いが、この王虎はショベルカーに近い。そんな違いはあっても、内部全体が変わる訳ではないのだ。
「死にたくないなら油くさい車内で寝なさい。本来よりも相当静かですよ?この戦車」
色々と乗せ換えているからだろうか?駆動系もエンジン負荷も大きくなく普通の重機の駆動音程度に抑えられている。ゲーム内では被発見性の低下の為に駆動音減少や静音エンジン、故障性低下の改造は普通であった、もちろん課金であるが。内容が内容なゲームなのである程度自由に課金できる人間が多い。ついでに言えばそう言った改良はそこまで高くないので行う人間が多かったのである。
「あー、なんか前が騒がしいなぁ……」
再び動き出した王虎の前には何か動くモノ、人と比べれば少し大きめな物体が見える。
「見てみるね」
やはり中に入ったことで、結局眠気が覚めたのかアインスは普通に起床?していた。そのままカタカタと振動と共に揺られて座っていたのだが、気になる話に反応してすぐさま双眼鏡を手にハッチの外へと体を露出させる。本来ならばここでキューポラを覗いて周囲を確認し、更にゆっくり開けるのが正式なのだが、一応一般人(中身アホ)にそんな警戒心を持てというのは酷な話なのだろう。
「おぉー馬車だね」
アイテム名、倍率の変更ができる高価な双眼鏡(ドイツ版)の中を覗いて見えたのは、御者二人馬六頭引きの馬車である。
「馬車ですか」
「馬車か普通だな」
「馬車なぁ……ん?ちゃんと馬がひいとるん?」
「え?馬車って馬が引かなくても馬車なの?」
アインスの疑問は尤もであるが、アインス《こいつ》が言うと納得できないフィーア。そもそもここがどんな世界かも分かっていないのだから、へんてこな生き物が馬車、まぁ、車を引いているかもしれないのだ。竜車とかあるかもしれない。
「まぁ、馬居るんやし、人は見えるん?」
「人いない馬車ってどうやって操るんだ?」
「忙しいので馬鹿は黙っていて下さい」
ツヴァイもアインスも扱いが御座なりである。
「居るよ、なんか必死だし、上のクロスボウで後ろ向いてる騎士みたいな奴もいるー、後ろにオーガ?だっけあいつの色違いもいるね」
さらっと重要なことを普通に話すアインス。どう考えても現状はフラグがビンビンである。これは異世界モノのお約束展開。救って助けて正義の味方!お礼は金貨でいいですよコースである。
「馬車が来たときぶつからない様に、林に突っ込みます」
「砲撃準備やー、車体は10度ほど傾けて砲塔を標的に合わせるでー」
「「
即座に林に突っ込んで、その場で履帯を左右逆回転させ、旋回。少し目標から車体を斜めにして跳弾を図る防御射撃の体勢をとる。
「榴弾装填!」
アインスが叫び、半自動装填装置に砲弾を送り込む。撃ち方は幸いにもスキル砲撃補助で
「装填よし!最初は砲角合わせで目標から離れて撃つぞ!」
「待って、うちが機関銃で予備射撃するね」
すぐさま主砲塔同軸機関銃を数発目標付近へとばら撒く。機関銃弾は馬車の横をする抜け、後ろの地面を少し削るが、オーガに当たる様子はない。
「少し上だな、左に向けるぞ」
着弾を確認し、幾つかの三角が見えるドイツ
「
掛け声と同時に88砲弾が撃ちだされる。砲塔内部に発射ガスが漏れ出すが、すぐさまご都合主義に自動制御される
「……外れた!次弾装填」
一発目は確認、大きくそれた砲弾は林の中に消え、木々をなぎ倒す。それに驚いた馬が速度を更に上げ、暴走するのもツヴァイからは見える。更に砲を少しだけ旋回させる。
「待って!うち聞いたことあるんだけど、撃ったと砲身って熱垂れするらしい」
「だから何だ!」
「少し上に調整せんとまた外れるんや、2mmほどあげてみ?」
再び低速右旋回のペダルを少しだけ踏み、砲身を道沿いにずらし、ハンドルを回し上に向ける。すると根元は2mm動き、砲身の先端では数センチ程上昇する。先ほど確認した距離は三角の大きさより0.7シュトリヒ程、馬車の人間の大きさから予測できる幅は1.5mなので、計算式に当てはめると距離2140mもある、このまま撃てば放物線距離的にも少々目標を飛び越えてしまう。
「無理だ、目標が小さすぎる!」
オーガは大きくても2mほど。幅は更に狭い。対人榴弾だとしても、ある程度近くでないと意味はない。外れすぎると馬車に当たる可能性も大いにあるから下手には出来ない。
「少し冷やそ!砲身を色々と動かしたら早く冷えるかも!!」
「それだ!」
「ちょ、馬鹿!またずれるだけですよ!そんなことしても!」
「大丈夫復唱して大きくずらさない様にするから!!ツヴァイ復唱!うちに続いて」
「オレ達にかかれば百発百中だぜ!
おそらく普通に一番初めに外したことはカウントしてはいけないのだろう。仕方がない、初弾は様子見って決まっているから。カウントしないのだ、しないといったらしないのだ。
「上上下下!」「上上下下!」「上下上下!」「上下上下!」
「右左右左!」「右左左右!」「上下上下!」「上下上下!」
旋回ペダルと府仰角調整ハンドルを決められた角度、踏み込みで動かす。多分風に多く当てることで、早く冷やして熱垂れなんてなかった事にしようとしているのだ。出来るかどうかで言えばおそらくで出来ない。無意味な努力である。
「上!」
「下!」
「よし冷えた、撃て《ふぁいえる》!」「了解!《やぼーる》」
ぶっちゃけ色々とツッコミ所はある、むしろツッコミ所しかない。何を思ったのか、明らかに最後は復唱していない。まず第一に何を根拠に冷えたと判断したのだろうか。
「ダメだ!外した!!」
当然のごとく大きく違うところに飛翔していった砲弾は見当違いの所に着弾する。しかし、ツヴァイは一つ重要なことを言っていない。アインスもツヴァイも全身に冷や汗をかいている。百発百中とは何だったのか。
「当たりまえじゃボケ!貴様らは馬鹿ですか!!」
ドライは王虎を動かしていないので、少し余裕があったので今のやり取りをそのまま聞いていた。勿論外れた理由も普通に分かる。
「何で上の次が下を叫ぶんじゃ!外れるに決まってるでしょ!」
「流石は『ロリッター』随一の切れ者ドライ、うちは気づかなかった」
「盲点だったぜ、流石だなドライ、ロリッタ―の軍師を名乗るだけはある」
彼女たち《かれら》なりに褒めることによって持ち上げて、ヨイショしようとするが、そんなことでは流石に今のミスの話は流れないし、ドライは騙されやしない。
「しばくぞ、てめぇら……」
「どうでもいいんやけどなぁ、一応当たっとるでぇ……」
「何がですか」
少し元気のない声でここにきてフィーアが横槍を入れる。当然、二人のアホの子救うためではない。二人が伝えていない一番重要なことを告げるためである。
「……言いにくいんやけどなぁ」
「何ですか、もったいぶらずに現状把握も必要ですので、早く言ってください」
「……当たっとるで、馬車に」
ドライの世界が止まった。
今彼女は何を言ったのだ?当たった?オーガモドキにではなく何に当たったと言った?馬車?そんな馬鹿な、この状況で馬車に当てるなんてありえない。むしろありえてはいけない。まさか、この状況で冗談?でも、なんでこんな時に、いやフィーアはそんな性格じゃ無いはず。いやフィーアの性格なんで詳しくは知らないけど、流石にこの状況で冗談なんて言わないはず。そうだと良いなぁ……
この間約3秒、驚異の高速思考である。
すぐさま、ドライは運転席上のハッチを開け双眼鏡をのぞき込んで目標を視野に入れる。そこには横転して砲弾が貫通しバラバラになった馬車。これでは中の人物の生命は絶望的である。しかしながら馬は大丈夫だったのか、六匹が連なって連結されたままその場で思い思いに暴走している。貫通した砲弾がこちらからは馬車の陰で見えていなかったオーガの数匹を撃破しているのも丸わかりな程にバラバラになった馬車。
「……私はこういう時どういった顔をしていいのか分かりません」
「「笑えばいいと思うよ?」」
「むしろ笑うしかないんとちゃうかなぁ……」
誤射とはいえ、キーパーソンが乗っていそうな馬車に開幕砲撃である。異世界モノで今まで奴隷商云々や盗賊馬車云々の確認もなく、ただ発見されただけで撃破された馬車はいただろうか?とドライは考え込む。もちろん該当するものはない。
「燃やそっか?」
「燃やしましょう、金品は奪った後で」
「火葬するんだね、死んでしまえば敵もノーサイドってやつだね」
「あぁ、戦士の掟だ、何時だって死者への敬意は忘れちゃならねぇぜ」
少しでもいい話に持って行こうとするが、どう考えても
「始末し終えたら話をしましょう、じっくりと」
底冷えする声でマジ切れするドライの声が足元から聞こえ、思わず両足を上げる二人。
「うちらアーリア人だから!」
「そ、そうだ、優等民族を見せつけるために劣等民族ぉ……」
最後まで言うことなく、明らかな怒気を感じ取り二人は下を覗きこむ。そこには運転席に座り、腕を組み右手で左手を軽くぱんぱんと叩くドライの姿。これ以上何かを言えば、と身の危険を感じる二人。
「「大変申し訳ございませんでした」」
流石に心の底から謝る。二人も悪いことをしたと理解しているのだ。なんか適当に殺された方はたまったものではないが、これが彼らの運命だったのだろう。むしろ、どうせあのまま行けばオーガに殺されたいたのである。楽に死ねてよかった、介錯してやったのだと思うことにする。
「とりあえず、前に進みます。話はそのあとで」
▽▲
前進しながら車体機関銃と砲塔機関銃、ハッチ横の機関銃の全てから弾をばら撒き、生き残りのオーガを掃討する。馬は六匹を繋いであった連結部を狙撃し、そのまま放置。馬はこれで逃げだすだろうが、ここで回収したとしても操れるものが居ないのだから勿体なくとも仕方がない。
ちなみに、ドライはこの時点で生き残りが居れば、状況聞き取り後にこちらに不利なことを覚えていれば即射殺も考慮している。
「オレ達はどうなっちまうんだろうな」
ふと、場所のすぐ手前で立ち止まったツヴァイが少し下を俯きながら眺め呟く。
「人を殺してしまったてぇのに、オレ達は危機感?いや、忌避感?だっけそれ一つ抱いちゃいねぇ…………やべ、オレかっけっ」
「うちもだよ、この世界の神様がうちらの心を壊してしまったんじゃないかと思うよ……フッ」
アインスもそれに追従して同じ位置で立ち止まり、俯きながら自らの軍帽のつばを親指と人差し指でつまむ。
「「……」」「さて、馬鹿はほっといて作業に取り掛かりましょう」「よく切れそうな斧あってよかったわ~」
そして、何事もなかったかのように始まるドライとフィーアの作業。二人はすぐさま横転した場所の武装、穴が開いた天井《ルーフ》の弩取り付け場所へと向かう。既に御者は投げ出されて、林の側でこと切れているのが見えたので、次に内部がすぐ確認できる場所が此処だったからだ。その他の場所は崩れて木の板が複雑に絡み合い、ばらすのが面倒そうなので、選択肢にはない。
「「……なんでっ!?」」「今、うちらめっちゃシリアスしてたじゃん!」「おま、これ無視するとか、人間かよ」
「寝言は寝て言えや」
歩きながら立ち止まりも振り向きもせぬままに、一刀両断であった。
「……やはりというべきか、何らかの精神安定操作が働いているように思えますね」
横転した馬車より下半身のもげた騎士の遺体を眺め呟く。その通りである。今現在、安直だがスキルの冷静指揮官という、一定以下のパニックを無効化するスキルが四人全員に働いている。ゲーム内では損害数が一定以上になると、確率で指揮官の混乱による指揮系統の混乱という配下NPCの能力が低下するバッドステータスが存在するのだが、それの確立を下げるスキルである。
「とりあえず、生き残り探そっかぁ……」
騎士の胴を持ち上げ、馬車の中より引きずり出す。下半身より下のこぼれ出た中身が色々と丸見えだが、すでに出血は止まっている。馬車の中は血糊でいっぱいであった。
「うへぇー」
「……海外ドラマでグロに慣れた私に死角はありません」
「多分、スキルのおかげやろうなぁ、ちょっとドライはん、これ貸すから中身覗いてみ?」
げんなりした様子のアインス。そしてなぜか誇らしそうなドライに、フィーアは大きめの軍用懐中電灯(これで殴れば撲殺も可)を渡す。明らかにスプラッタな光景が繰り広げられていそうな、車内を見たくはないのである。そこで、ドライは自らの発言に後悔した。
「でもさ、これ危なくねぇか?中で生きてるやついたら武器持って向かってくるかも」
「突撃銃でとりま、撃っとく?」
「生き残り探すのに止めさすよなことして、どないするん」
隣ではまた馬鹿が馬鹿を言っている。このまま放置しても時間がたつばかりであると理解したドライは、「えぇい、ままよ!」と引っ手繰るように懐中電灯を受け取り、勢いよく顔と腕を突っ込む。
「あー、うん、予想通りですかね?」
結果覗き込んだ先には、ぐちゃぐちゃになった色々なモノが馬車の中ではばら撒かれていた。これでは生き残りはいないだろう、だろうではない、むしろいない断言。すぐさまドライは顔を出すと、腰に吊るしておいた斧を手に取る。
「まずはある程度ばらして、その後、金銭などをメインに荷物を漁りましょう」
会話の内容だけであっても賊、現状をどこからどう見ても賊である。命が惜しければとの警告すらなかったのは、ある意味慈悲であろうか?今のところ、安定の『こんにちわデストロイ』であった。
各々が手に持った斧で、天井《ルーフ》部の破壊を始める。幼女の身体には手斧ですら大きく見えるが、なぜか彼女《かれ》らは何の苦もなくそれを振るうことが出来ている。
こういった防御戦闘を可能とする馬車は、側面は硬く作られているが、上面は普通の馬車と変わりない。基本は襲撃は二次元戦闘を基本としているので、上空からの攻撃はあまり考慮する必要性がないからだ。
そうして30分ほど無言で斧を振るい続け、中身を完全に見えるようにする。気付けば当たりの日は少し落ちほの暗くなってくる。壊すのにも少々時間がかかり過ぎたことを理解したドライ、フィーアは両名は手を止める。
「……
「言語もなんも分からんやったけどなぁ……、今日はケーニやんの中で就寝やな。脇にずらして、夕飯の支度しよか?」
斧を再び腰に下げ、少し手前に止めたままの王虎へと向かう。それに気づいたアホの子二人も作業を止める。
「あー、アインス、飯だってよ。何が出せんだ?」
「ちょっと待って、……豪華戦闘食料A~Dまでならあるよ?1セット200人前」
「お、課金食料じゃん。って量多いわ」
元々の課金食料は配下NPC兵士の士気を向上させるアイテムである。士気が高ければ、時折発生する兵士の独断行動(敵前逃亡など)が抑制され、混乱も起きにくい。NPC兵士用のアイテムなためそれに伴って必然的に量が多くなるのだ。
「Aの中から4人分取り出せますか?」
「う~ん……あっできた」
少しばかり腕を組んで仁王立ちしていたアインスが、ピコンっと手を差し出す。そこに現れる戦闘食料A。内容は牛豚鳥肉ソーセージ野菜各種詰め合わせの焼き肉セットである。しかし、焼くためのバーベキューコンロがない。仕方なくフライパンを王虎車内より取り出す。
「……フィーアはまた火を起こす準備を。私はツヴァイと一緒に多めの枯れ木を集めてきます」
「あいー分かったでー」
「うちはー?」
「箸持って待ってなさい」
ようやく火を起こし、食事をとる準備ができた頃には既に辺りは暗闇に包まれていた。ドライはアインスに告げ、小型探照灯を取り出させる。それに布を被せ光量を絞り、出来上がった簡易的な調理場で料理を開始。
「焼けたものから渡すので、先に食べなさい」
ドライは次々と肉と野菜を焼き、皿に移していく。フィーアがそれを受け取り欠食児童なアインスとツヴァイの目の前に持っていく。二人は勢い良く掻き込み、そして動かなくなる。元の男だった時の勢いで食べようとして、すぐに腹が膨れたのだ。
「これ和牛だ、絶対和牛だ。霜降りすごかったもん」
「まさか和牛ってこんなにすぐ腹に来るもんだったとは」
脂っこいモノは得てして多く食べられないものだ。結局二人は早々にダウン、二人で1.3人前ほどしか食べることなく食を止めることとなった。ちなみに、和牛じゃない。霜降り豪州牛肉である、口が痩せている二人にはその判断はつかなかったが。
「これワイら二人で食べるん?多くない?」
「焼いてしまいました、食べないと勿体ないでしょう」
結果としてドライとフィーアの前には成人男性で3人前近い量の大量の肉の山が築かれていた。
▽▲
結局あの後ドライとフィーアでは片づけることが出来なく、少しおいて復活した二人も再び肉の片づけに参加した。しかし、まぁ、人の生ソーセージと生肉を見た後に焼き肉とは、なかなかにファンシーな感性の持ち主たちである。決して生ソーセージ見て、食べたくなった訳ではないことを願おう。
「見張りはどうしますか?」
発電機もコードもなく点灯する謎探照灯の電源を落とし、王虎の上にとりあえず乗せるドライ。
またオーガや大量のゴブ共が湧かないとも言えない。しかも一瞬だったが、空を飛ぶ化け物ガラスの例もある。気を抜ける場所ではないと改めて実感したドライである。
「ワイが最初はするわ、その後6時間ほどして交代しよっか?」
「それでは私が少なくありませんか?」
「ドライはんは明日も運転あるしな?ワイはその時少し居眠りさせてもらえたらいいねん」
既にアインス、ツヴァイが夜寝ず番をするとの発想はこの二人にはない。あの二人に任せれば、確実に寝落ちするか、何かしらの騒動を巻き起こすに違いないからだ。
「分かりました、では少し早めに失礼しますね。アインス、枕大量に出してください。足元背中に敷き詰めて寝るので」
「はーい」
既になぜ呼び出せるアイテムに枕があるのか、疑問に思ってはいけないのだろう。一応、快眠野営セットに含まれている装備らしい。もはや何でもありである。六つ程の枕を受け取ると、両手で圧縮して抱きしめるように運ぶ。ハッチを開けると枕を押し込み、自らの指定席となった運転席に枕を設置していく。
「ではおやすみ」「はーいおやすみー」
「おう、お疲れ」「良い夜をなぁ~」
王虎の側面の前で適当に広げたシートの上で胡坐をかいて銃を抱えるフィーア。その隣では、アインス、ツヴァイのコンビが同じように座ったままである。
「二人は寝ぇへんの?」
フィーアが尋ねるが、二人は昼間に砲塔の上で寝たり、アインスは見張りの時にも寝ている。そのため少し眼が冴えていた。そもそも、四人はネトゲーマーなので、本来夜が活動時間である。その点ではドライは切り替えができる珍しいタイプらしいが。
「うちな、少し興奮してるみたい?だからなんか寝れないかなー」
「オレも夜の散歩気分な程に冴えてるな」
「行ったらあかんで?ワイはツヴァイはんがオーガにある意味串刺しされとるとこ見たくないわ」
「意味深だね」「意味深だ、オレもひぎぃ展開は御免だぜ」
その前にあの巨体に貫かれたら普通に死ぬ。苦笑いしながら、フィーアは空を見つめる。空気が澄んでる。星が見える。満点の夜空だ。少しの間じっと一言も漏らさず空だけをじっと見つめる。
「ワイも寝れんのかもな~、それに久しぶりに空とか眺めたわ……二人はどうなん?」
ふと星空を眺めるのをやめ、隣に並んでいた二人を振り向く。そこには仲良く肩を預け合い爆睡するアホ二人の姿であった。
「……って寝とる!?」
▽▲
眠くない発言の意味を問いたくなったフィーアだが、その後早朝付近まで時折体をほぐしながら見張りを務めた。彼女が見張っている間は何事もなく過ぎ、ドライと交代する時間がやってくる。
そのままドライの寝ていた場所を借り受け、眠りにつく。思っていた以上に彼女も疲れていたのだろう、五分と経たずに深い眠りに落ちていた。
そして、気付けば朝である。ドライはそのまま首に突撃銃をぶら下げ、朝食の為の枯れ木集めを始める。その際にアインスとツヴァイを蹴り起こすことは忘れない。
「起きろボケ」
「ぴぎゃあつ!?」「ぷげっ!?」
あのまま外で毛布を被り爆睡し続けた二人。少しばかり顔に落書きでもしてやろうかと思ったドライだったが、大人げないなと寸でのところで立ち止まる。
「アインスは朝食の準備を、ツヴァイは私に着いてきなさい。アインス、フィーアはまだ寝かせてあげてくださいね。そこまでまだ時間が経っていないはずですから」
ツヴァイの顔に冷たい濡れタオルを押し付け、強引に拭き意識を覚醒させるとそのまま歩き出す。慌ててツヴァイもそれに続く。流石のこの二人も寝ず番を押し付けておいて、ちょっとのお願いを蔑ろにするという選択肢はない。
「食パンとハム、目玉焼きあればいいかな~」
アインスは適当に戦闘食料、既に戦闘という
幾時かして、二人が戻ってくる。乾燥した枯れ木に火をつけると、ドライはフライパンにバターを落とし四人分のハムエッグを作り、大きめの皿に一度とりわけ、余分な脂を拭きとる。トーストを二枚押し付けながら焼き、ハムエッグをそれにはさみ、気付けば置いてあったマヨネーズを少しかけまた軽く焼く。
「出来ましたよ、フィーアの分を渡すので、先に持って行ってください」
出来上がったホットサンドを、手際よくアルミホイルに開きやすい様に二重に包み、アインスへと手渡す。
「熱いので気を付けて」
すぐさま同じ手際でもう一つを作り上げると、ツヴァイへとそれを手渡す。ツヴァイはそのまま皿に乗って中央で三角に切られたホットサンドを目をキラキラさせてかぶりつく。
「熱っ!うまっ!でもうっま!ドライお前天才だな!半熟卵マジ最高ぅ」
「……それほどでもないです」
満更でもない顔でアインスの分も仕上げる。気づけばアインスはフライパンの横で待機していた。
「おぉぉう、ザ朝食って感じだね!おいしそっ」
▽▲
金目の物をすべて回収し終えた一行。ばらした馬車は燃やして、壊れていない部分は、少し爆薬を仕掛け爆破する。そしてまた石畳が割れる。すでに開き直って、壊すことに違和感を感じなくなってきた四人であった。
「金貨50枚銀貨200枚銅貨400枚、恐らく大金でしょうね」
「宝石の類もあったなぁ……、換金方法みつけんとな」
王虎を運転しながら、手に入れた戦果?の確認だ。袋に手を入れてじゃらじゃらとするその行為は正に悪。彼女たちの辞書に死者を弔うという言葉は既にないのだ。むしろ、堕ちるところまで堕ちてやろうと開き直っているといってもいい。
それでも、遺体は馬車より引きずり出して道の端に順に並べる。遺体検分という名の死体漁りの為に並べたとは言わない。ポケットの中まで調べて、「しけてんな」と呟いたドライなんて居ないのだ。
「見てみなよ、ツヴァイ。まるで死んでるみたいでしょ?」
「……そりゃ死んでるからな」
アインスが下半身が異次元へと旅立った遺体の近くでツヴァイに話しかける。下半身がないだけで、人は普通は生きられない。当然ながら即死コースである。
「「……ん?」」「あれ?何かこんな感動のセリフ無かったけ?」
「知らねぇよ、死んでんだから死んでんだろう?」「いや、なんか死んでるのがウソみたいだとかいうやつ」「あぁ、何となく分かった。でもなんか違くね?」「そう?合ってるよたぶん」
態々体が半分存在しない騎士風の男で感動のセリフを言おうと何故思ったのか。非常に疑問しか湧かないその他のまともな二人。
「さて、遺体はドラム缶いれ入念に燃やしましょう。軽油ぶっかけて何回も燃やせばある程度灰になるでしょうし」
やってることが殺人犯の死体遺棄での証拠隠滅方法の最も確実な一つのそれである。
某猫型なロボット的扱いのアインスがドラム缶(軽油)を取り出し、ドラム缶(空)を六つを一つずつ並べて四人がかりで何とか設置する。発見した遺体は、十二名、一つに二人突っ込んでキャンプファイヤーである。
「燃え上がれ~燃え上がれ~燃え上がれ~ガ」
「やめい!」
人を燃やしているとは思い難い気楽さ。強制収容所のドイツ兵ですらもう少しマシだろう。人を大量に燃やせば唇に油がねちっこく付くらしい。
「ん?どうしました?」
ふと、フィーアが林の中を見つめるのが目に入るドライ。同じくその場所を向けば、少しばかり辺りより茂みが深く、尚且つ風によって揺れているにしては不自然すぎる動き。
「誰かいるのか!出てこい!」
「……もし生き残りでも言葉通じるんかなぁ~」
「だいじょぶだよ!言語パッチ効いてるから!」
言語パッチとは、ゲーム内自動翻訳パッチで、ゲームを展開している諸外国プレイヤーとのやり取りを円滑にするために導入されているモノだ。謳い文句は「これで貴方もマルチリンガル!」という、正式にゲームを公開している国の言葉を自動で登録したプレイヤー国の言語に翻訳してくれるのである。
「すごいなぁ、言語パッチ。何時の間に異世界語にも対応したんや……」
少なくともゲーム内で実装はされていない。当然ながら今後も実装される予定すら立たぬだろう。
「まぁ、今更何があっても私は驚きません」
嘘である。結構ずっと驚きっぱなしなのがドライだ。むしろ、ドライが驚き担当といっても良いほどだ。
と、そこまで言ってようやく観念したのか、茂みの中より何かが這い出てくる。どうやら人型であるが、四つん這いで明らかに怯えているのが分かる。
「こ、殺さないで下さい。お、お金はワタクシ持っていません」
金色の髪と狐耳の少女、ついでに尻尾もついている。どちらかといえば可愛らしいといった風貌の少女で、
「金髪碧眼……アーリア人だ!」
「あぁ、アーリア人は殺さない。なんせ高等民族だからな、友よ。怯えることはないぞ」
「ふむ、これは良い情報源です。従え、さもなくば生きたまま燃やしてやる」
すべて見られていたと確信したドライが、明らかに脅す。隣ではフィーアとそのほか二名がドン引きした目でドライを見つめる。
「ひぃっ!」
頭を抱えうずくまり、「殺さないで殺さないで」と命乞いを始める。当然だ、あの惨状を巻き起こし、更には目の前で彼女の知人が燃やされたのだから。
「ないわードライ。流石にうちもでも分かるぐらいないわー」
「外道め、血も涙もない」
「何やろうな、ワイもないとは思うけど、アインスはんとツヴァイはんには納得できへんわ」
▽▲
「さて落ち着きましたか?」
「……はい」
その後、数分待ち命乞いが終わるのを待つ。包囲されたまま、無言のままで見つめられ続ければ流石に意味はないと理解して、それ以上慈悲にすがることはしない。
「まず、此処は公平にいきましょう、私たちが一つ質問するので、それに応じて私達も貴方の質問に答えます。一度に一回ずつ、どうですか?公平でしょう?」
銃を構えた人間が取り囲む状況なぞ、明らかに公平ではない。これは相手の心に付け入るスキを与える、尋問方法の一つである。緊迫しすぎた現場で、少しだけのゆとりを与えることで、重大な情報を引き出し易くするのが目的の尋問法なのだ。
「……は、はい」
「では、一つ貴方方はどういった集団だったのですか?」
「ヴェルーサの
「……ふむ、では貴方も一つどうぞ」
ちなみに、アインスとツヴァイはくだらない質問をすることが目に見えているので、手で口を押え話すこと禁じられている。もし質問の間に話せば、手足を縛ってくすぐり20分の刑という恐ろしい罰が待っている。
「な、何故、ワタクシ達は襲われたのですか?」
「何故と言われても意味なぞ在りません、ただ目障りな存在を撃ったら貴方たちにも被害が出ただけです。その分貴方は幸運だ、何せあの攻撃を受けてなお、腕一つ失っていないのだから!……失礼、では次の質問です。貴方方はどうしてあの独活の大木共に追われていたのですか?」
時折、あたかも感情的に聞こえる答え方をし威圧する。すぐさまトーンを戻し、冷静に問答を再開する。この緩急も大事であり、緊張と弛緩を繰り返すことこそがコツなのだ。
「ヴェ、ヴェルーサより、増援要請を他都市へ行うためでした。その道中で奴らが襲ってきたのです」
「ほぅ……増援要請ですか、にしては大金を持っているとは、不思議なモノです。まるで逃げることが主で、増援要請は建前のようだとは思いませんか、これは質問ではありませんので、では次をどうぞ?」
そして、こちらにとって都合のよい余分な情報を相手に与え、自らが悪であると思い込むような発言を少しずつ混ぜてゆく。この時に身振り手振りを加え、劇調に大きな動作を与えることも忘れてはならない。
「ワ、ワタクシはどうなるのでしょうか」
「……それは大変難しい話だ、それは貴方の好きにしたらよい。それは何故か、我々に貴方への決定権はないのだから!貴方の選択肢によって貴方が此処で捨て置かれごみ切れの様になるのか、あるいは野垂れ死ぬのか、あの人外共の餌になるのか!それら全て貴方の選択肢だ」
そして、相手にとって最低な状況を提示し、こちらに従うことがまるで唯一の生存の道だと思わせる。そうすることで、忠実な下僕は出来上がる。
「し、死にたくありません。お願いいたします。どうかワタクシを貴方方へ……」
「いえいえ、何も我々に絶対に従う必要なぞない、自由にしなさい?我々はそれで一向に構わない、貴方が我々の行いを密告するのも自由だ、何故か?それは貴方一人がなせることで我々が被害を被ることはありえない、何故か?我々には力がある。
相手が唯一の選択肢だと思ったモノ、思い込んだモノすらをも断り、こちらにお前は必要ないと告げ、相手の価値を最低に貶めることで反乱の芽をも摘む。
「い、嫌です、逆らいません、逆らいませんので、どうか、どうか……」
「ふむ、仕方がありませんね。そこまで気持ちが固いのなら、こちらもやぶさかでもありません。励みなさい?」
立ち上がることが出来ぬまま、質問という名の尋問を受け続け、更には緊張の連続を強いられた後に、そっと近づき、子供をあやすように頬を撫でる。すると、一度に体の力が抜け、何か救われた気がする、これで完成。
「酷いよ!ドライ!流石に可哀想だよ!」
「そうだ、そうだ!君名前はなんていうんだ?オレはツヴァイ」
「うちはアインス、ドライは最低だけど、うちらは君のこといじめないからね!」
終わった瞬間に大声でドライを非難するアホ二人。ちなみにここまでドライの見込み通りである。締めに締め上げて緩めれば、人は容易く堕ちるらしいのでその通りにしただけだ。
ドライは彼女に確実に嫌われた、もしくは苦手以上の意識を持たれただろうが、アインスとツヴァイはそうではない。『この人たちは私の唯一の味方だ』、だと彼女が思えば、狐耳の少女が寝返る可能性が非常に減るのである。元々よりこの二人が彼女に対して友好的態度を見せていたのもこれに付随効果を与える。
「ワ、ワタクシはメリッサ、狐属人族のメリッサと申します」
▽▲
メリッサはその後身ぐるみをはがされ、ドイツ兵のM36野戦服と
「うむ、似合っているよ!」
「あぁ、流石はドイツ兵。狐耳にもベストマッチだ」
「あ、ありがとうございます!」
軍服とは統一感を出すための物でもあり、戦車兵服であるPz服、黒服とは造りも異なるが、雰囲気そのものはドイツ系の独特な軍服である。さらにドイツ十字もアインスたちの黒服同様、左胸のポケット付近にぶら下がっている。
「どうする?階級は?」
「そもそもオレたちの階級も決めてないからな……ゲーム内の階級はカンストだし」
「じゃあ、うち総統」「オレ大佐な?」
はて、何時から総統は階級になったのか。
「じゃぁ私は親衛隊少将にしましょう」「ワイは陸軍参謀長官中将な」
戦車の運転と銃座に付く高級将校とはいったい。
「じゃぁ、メリッサは軍曹ね!」
ようやくまともな階級が出てきたが、既に王虎の中はベルリン総本部である。もしこれが本来の歴史で再現されていたなら失笑モノな状況だ。戦車に乗って脱出を計るドイツ首脳陣。戦車が撃破された後は確実に大騒ぎになるだろう。パットン、スターリンの度肝を抜くこと確実だ。最後まで戦おうとしたドイツ兵(笑)を称賛するに違いない。
その後、彼女も参加し馬車の爆破しても形の残る部分を王虎の体当たりで完全粉砕。残りの軽油をぶっかけてドラム缶で燃やす。その後ドラム缶は蹴り倒し、林の中へ転がしていく。証拠隠滅の完了である。
「メリッサ、今より街へ向かいますが、貴方は砲塔の後ろに立ちなさい。アインスも上半身出していつでも銃撃できる状況を」
メリッサの話を詳しく聞けば、ヴェルーサは今現在、魔人の群れに包囲されており目立った戦力もない街なので窮地に立たされているらしい。ここで救援に向かえば、領主的存在も昇天した後なので、立場的優位に立てる。
何となくそう考えた一行は、王虎をヴェルーサへ、といっても進路も進む方向も変わらないのだが、向けるのだった。
しかし、実際にはどのような敵なのか、敵がどれほどいるのかも、街がどういった構造なのかも聞かぬままそこへ向かうと決めたのだから、相当馬鹿な判断である。
「メリッサ、これあげるね」
アインスがメリッサへと突撃銃1つと弾倉6つ手渡す。一応の使い方を教え、林へと撃ってみせ、どういったモノなのかを説明する。
敵になりえた存在に高威力の武器を手渡すのは非常に愚かな行為であるが、威力を見せられ、それを手渡され、その威力故に信頼の証であると勝手に考えたメリッサは自らの有用さを見せつけることが出来ると、叛逆を考えることもせず、やる気を出した。完全に堕ちている。
「いい?メリッサ返事は
「了解《ヤボール》!」
アインスやツヴァイの気の抜けた返事よりはるかに本来の発音に近い了承の返答である。こうして一行はなし崩し的?に忠犬ならぬ忠狐を手に入れたのであった。ただし、幼女に片足突っ込んだままのけもみみ少女な?
▽▲
再びゆっくりと進む王虎。気付けばアインス、ツヴァイは砲塔の後ろのメンテナンスハッチの上でメリッサと共に
戦車と航空機を定められた自陣に置き、少しずつ相手側に進ませてゆき、見えない敵をサイコロを振り索敵、もしくは攻撃して敵を倒して最初に定められた目標を達成するゲームである。地形によっては攻撃の当たる確率が減ったり、索敵の成功率が変動したりするので終わらないときは終わらない。
索敵済みでない敵も攻撃できるのだが、もし目標の砲撃地点に本当に敵がいたとしても、当たり確率は下がりやはり撃破に至らないことが多かったりする。それでも当たるときは当たるし、航空機爆撃なんかの攻撃は命中率が高くなったりしている。逆に爆撃機への戦闘機攻撃成功率は非常に高かったりと、対空車両の戦闘機への攻撃成功率は高かったり、ある程度は
それでも、結局はプレイヤーの直感とサイコロによって全てが決まるモノである。
「なんだと……」
「はい、ツヴァイの負け―、これでツヴァイは降格大佐から中佐に下がりまーす」
メリッサとツヴァイの机上演習ではメリッサが盲目撃ちを行い続け、それでもツヴァイの軍団に対してクリティカルを出しまくるという奇跡がおきた。逆に索敵済みであってもサイコロの目が悪かったツヴァイは一切攻撃が当たらず、次々と撃破されてゆく。
「メリッサは軍曹から中尉に昇進ね?」
これは佐官を倒した故の跳び昇級だ。しかし、ボードゲームで階級が変わってしまうとは、恐ろしい集団である。そもそも階級が自己申告な時点で終わっているのだが。
「待ってくれ!これはオレのジツリキじゃぁない!もう一度、もう一度チャンスをくれ総統閣下!」
「ふっふっふっ、ツヴァイ君、よく聞き給え。戦争に、いや戦場に、二度目はないのだよ……メリッサ中尉奴を連れて行け!」
「え?ワタクシはツヴァイ様をどこに連れて行けばいいのでしょう?」
結局あの後、4戦ほどリベンジを行ったが、ツヴァイの全敗であった。最初程のビギナーズラックは流石になかったようだが、それでも僅差でツヴァイは負け続けたのである。
「……メリッサ大佐ね?ツヴァイは少尉~」
「そんなぁ馬鹿な……」「は、はぁ……よろしいので?」
気づけば面々の中で一番下っ端階級へと下がったことになっているツヴァイであった。
▽▲
「これ何時頃着くのでしょうか?」
出発して7時間、持っていた中の透けて見える懐中時計は出発時朝9時を指していた。しかしそれがすでに夕方であった。メリッサたちの乗っていた馬車が居たものだから、街が近いと思っていたのだが、そうでもないようである。
「……ワタクシ達が街を出て馬の歩く速度で三日ですので、この速さなら同じ三日ほどかかるかと」
やはりというべきか、少しばかり及び腰なのは仕方がないのだろう。今現在は人の歩く速さよりほんの少し早い程度、加速すれば10倍ほどまでんら余裕で速度を上昇させられる。だがしかし、やはり石畳は砕ける。
「今更じゃない?ぶち壊していこうぜー、なぁ~メリッサお前もそう思うだろう?」
「え?え?あ、はい」「ツヴァイ少尉、大佐に対して頭が高いと思わないかね?」
「あぁ、それかオレ、さっき機甲師団指揮官少将まで昇進したから」「なら良し」
もはや、階級とは何だったのか、良く分からないことになっている集団である。
「あ、またオーガ」
そして先ほどから大量に現れるオーガとゴブリン。今のところ見つけ次第射殺し死骸は放置している。当初はオーガの出現に大騒ぎしていたメリッサであったが、二匹目からは銃撃に加わり、今まで撃破すること、むしろ逃げることすらできなかった強敵が容易く絶命する武器を手に入れて、これさえあればと歓喜していた。
「一つ二つ三つ、それでっど!」
見つけては射殺、むしろ探して射殺。動くものがあれば射殺。いや、これ誤射の可能性あるかもだし、いかんでしょ?レベルまで研ぎ澄まされた見敵必殺。むしろ見的必殺。どう考えてもいけない人たちである。
「でもさー、なんで増援が必要だったの?」
「そりゃ、攻撃されてるからだろ?」
「「「……ん?」」」
「なぁ~ドライはん、めっちゃ石畳気にしとる場合とちゃうんやない?」
フィーアが呟いた瞬間、アクセルがぐいっと踏み込まれる。明らかに気づいていなかったのであろう、誰一人。メリッサですらスクロールゲーと化したオーガハンティングに気を取られて本来の目的なんてものは忘却の彼方であった。
「……何を言ってるんですか?ほら、元から25km/hは出てましたよ?」
「どう考えても無理あるんとちゃうかな……流石に」
エンジン騒音が大きくなり、ガリガリと履帯が石を削る。突然の加速でアホ二名ほど振り落とされそうになるが、メリッサに間一髪のところで首根っこを掴まれ難を逃れる。
「「死ぬかと思った……」」
そのまま二人は慌てて砲塔内に戻り、ハッチ銃座と砲に着く。メリッサは砲塔に腰かけ銃を構え、アインスと背中合わせに銃を構える。
「さて、先ほどの速度で日中移動12時間、時速4kmとして距離145kmほど、この速度なら約6時間後には目的地周辺です」
その時間では既に到着時刻は夜10時ぐらいである。もし大軍による攻撃、包囲を受けている中で爆音を上げて走行すれば、王虎はどう考えても注目の的となる。恐らくその辺は何も考えていない。
結局、二時間ほど爆走したのちに再び暗くなってそのことに気付くドライ。そのまま、またもや夕飯の支度である。ちなみにまた焼肉であった。メリッサも知人の焼き肉を見学した後なので、何かしらの抵抗があるかと思われたが、流石は肉食系の狐の獣人的存在。焼き肉美味しく頂きました。
▽▲
「……ねぇ、すっごいね、この数」
次の日の正午、アイテムのチョコレートを頬張りながら、5人は攻城戦が繰り広げられるヴェルーサを遠巻きに眺めていた。コーヒー美味いわー、カフェオレ美味しいわーと呟き、それぞれが現実逃避を繰り返している。
「ねぇ、メリッサぁ……流石にこれは多いよ?」
明日ぐらいには落城しそうなほどの数の差である。ヴェルーサの城壁は3mほどしかなく、敵はオーガの軍勢1万程。その配下には統率された武装ゴブリン4万程である。これはこの世界での魔人の軍勢の主だった構成の一つであった。
「メリッサ、街の軍勢はどれほどでしょうか?」
「……確か、騎士兵士合わせても1000ほどしか居なかったかと」
「まぁ、どうやらそれだけやのうて、街の住人も投石に加わっとるみたいやけどなぁ~」
鎖帷子も鎧も着用していない貫頭衣の者達も、城壁付近に建っており投石の為にあえて崩されたレンガ造りの家から、レンガを幾度となく運んで城壁の下にいるオーガやゴブリンに投げつけている。ゴブリンはよく死んでいるが、オーガに関しては一切投石が効いている様子はない。
さらに普通の弓による攻撃も行われているが、あまりオーガへとダメージを与えることが出来ないようで、数少ない弩で少しばかり負傷させるのが限度のようだ。現状ゴブリンへの対処は出来るが、オーガに関しては完全にお手上げ状態であると言えよう。
「どうするん?」
「突破は可能ですが、それでも攻勢が弱まるであろう、夜のうちに突撃したほうが良いでしょうね。流石に夜通しは彼らも戦わないでしょうし」
「いや、これに突っ込むのか?」
「墳進弾で面制圧した後に突っ込めばいいと思うけどなー」
そんなことしたら城壁もないこの街道へとオーガが殺到するだろう。数的にどう考えても殺すよりも早くこの地点へと到達し、彼女たちが率い区にされる可能性のほうが高い。
「まぁ、夜やろうな、やっぱり……道沿いの奴だけ片づけて城門の中に入るべきやろう」
しかし問題がある、城門は固く閉ざされているという事である。とりあえず、高速移動できるバイクで突っ込んで城内に入って、夜のうちに王虎を再び突っ込ませる作戦となった。
「ふふふふ、此処に最強の偵察車両べんべーR75~ヨーロッパ戦線仕様ぅ~」「なんでツェンダップKS750じゃねえんだよ?もしくはR71コピーの長江」「べんべーは未だ人気だけど、ツェン潰れてんじゃん。R71系統のウラルもドニエプルも長江もべんべー劣化バイクだからダメ。長江に関してはアルミ缶バイクだから、しかも段差跳ねるだけでドライブシャフト曲がるんだよ?それにイワンと赤の手先の生産じゃん」「ツェンダップは良いバイクやで?プッシュロッド曲がることに目つぶればやなぁ」
「それはロイヤルエンフィールド生産の時代でしょう、まぁBMWバイクは壊れないのは確かです。私も2年ほど前にKS750を購入を検討しましたが、売り切れてしまいました。価格は400万程でしたかね。諦めてR75を購入検討していましたが……」
「「「……ん?それ実車?」」」
だがしかし、彼女たちの足の長さでバイクに乗れるのだろうか?
▽▲
結果、乗れませんでした。
足は届く、しかしシフトチェンジが出来ない。足ではなく手でのシフトチェンジも試みたがやはり無理。そして4人は両手両膝頭を垂れて落ち込んだ。
「ワタクシが運転しましょうか?やり方さえ教えてくれれば……」
「モトラッドはなぁ!?そんな簡単なモノじゃないんだよ!?」
「そうだそうだ!」「甘くみとるんなら後悔するでぇ~」「むしろその身長寄こしなさい」
暴虐である。とは言え現状手段はない。諦めてメリッサにバイクの講義を行うことになったのである。しかし、問題は只の二輪と側車付二輪では乗り方が全く違うのである。二輪は加重移動とハンドル操作の組み合わせだが、側車付は基本ハンドル操作のみで曲がるので、急カーブなどはまず曲がれない。よって徐行付近まで速度を落とすか、身体全体を使い側車を浮かせて曲がるかである。結局、側車の取り付け位置によってその手段も片側だけに限られるのだが。
ちなみに一昔前の軍用バイクに側車を取り付けてられている理由だが、WW2 時点では現在の職業軍人よりも兵士の訓練期間は短い。射撃が必要な場面で道が舗装されていない状況では立ち射などが困難で二輪の操作は慣れこそ重要であり、完熟は容易くない。その点側車付だと乗車する人数こそ増えるが、泥沼などの不整地に近い道が多くとも、ある程度の悪路でも容易に乗れ、立ち射などせずとも側車に搭乗している乗員より一人の場合より命中率の高い射撃もできるからだ。
結果、乗れた。
「うちらは有能だからメリッサもすぐに乗れるようになったんだよね」
「間違いないな」「私に教師の才能あったんですね」「次生まれてくる時は、先生やな」
明らかな妬みの裏返しである。少しの自尊心を砕かれぬように自らを持ち上げることで、バイクに乗れないことを慰めているのだ。
「じゃあ、三人乗るやろ?側車にはワイ乗るとして、あと一人誰乗るん?」
「フィーア、なんかずっこい」「オレはいいや」「アインスとツヴァイだけを残すことはまず考えられないので、これ私は行けませんよね……」「じゃあ、メリッサの後ろに乗るんはアインスはんやな」
しかし、この時点でも既に嫌な予感しかしないドライとフィーアである。とはいえ、何がいけないのか、何が起こるのかまでは思いつかないので、対処の施しようがない。
「ワイは前方の敵のみ蹴散らすさかい、アインスはんは左右から寄って来た奴たおしてぇな」「ほーい」「メリッサはんは運転に集中しぃ、擲弾筒何個か持って前の障害物は吹き飛ばしながら進むで」
今現在やろうとしていることは、完璧にどこぞの大脱走に毒されている。擲弾筒は確かに爆発するが、実際には障害物を破壊は出来ても吹き飛ばすことは出来ない。この時点で作戦ミスである。ボ○ドカーのフロントから発射されるランチャ―のような使い方をフィーアは考えていたのだが、正直無理である。だが、それを指摘するだけの知識のある人間はこの場にいない。
「さて、最後に一つ言っておくねん、……ワイ、死にとうない」
一瞬にして空気が凍った。よく見ればフィーアの目は光を失っている。彼女的には何でこんなことになったのか、三日ほど遡って考え込みたいほどであるのだが。そもそも、オーガの大軍に突っ込むことになったのか意味が分からない。普通に引き返して、安全な街行けばよかったんじゃないのかとの疑問でいっぱいである。
今思えば、アインスとツヴァイのノリに付き合って色々決めてたけど、少し我に返ってしまったのだ。それも、一番嫌なタイミングで。
「……いや、それマジで洒落になってないです」
好きそうな人が多くいたら続きを書きますが、なろうの状況から見れば居ないだろうし絶望的?