我、転生というモノをあじあふ。
いや意味が分からない、前世はしがない自動車整備士であった。つまり負け組、4K(危険キツイ汚い給料安い)なのだ。まぁ、最後に見たのが新人がリフトで上げた自動車の落下する光景なので、お察し。おそらく頭からぺしゃんこであろう。二回目の生はエロフ、おっと違ったエルフだった。特に何事もなく森の中で過ごし18年、ふと思ったのだ。
『そうだ、戦艦を作ろう!』
意味が分からないと思う。うむ、それは仕方がない。だが、何となくそう思ったのだ、むしろ思い付きでしかない。機械どころか鉄砲一つ存在しない世界で、科学無双をやりたいと思うのは仕方がないだろう、出来るとは言ってない。とは言え、ご都合主義の開発チートの助っ人やwikiが見れたりする能力はない。少しばかりの魔法(着火、放水)が使えるだけである。いや、攻撃魔術とやらもあるには在るのだが魔力が味噌っかすなので開幕5年で諦めたのだ。つまり『のんちーと』誰か助けてください。
さらに言えば前世男だったが、今はエロフの幼女となっている。いやギリ少女かもしれない、とりあえず、身長を計る計器すらないが、周囲のエルフを見れば、自らが小さいことは普通に理解できる。白髪ロングぱっつん色白赤目のエロフとかマジ可愛い。奥さんなってください、おっとこれは私だった、ウフフ。いやまぁ冗談であるが。ちなみにここ三年程身長は変わっていない、15歳辺りで成長が止まるらしいので、もはやこれ以上の背丈の躍進は絶望的である。
さて、お昼寝と果物、時たま干し肉をかじるだけの生活に飽きた私は今回のことを思い立ったのである。平気で600年とか生きるエルフである、魔獣に捕まったら『ボコッぅ』展開死ぬまで苗床end多めのエルフである(偏見)。いや、そんなことはどうでもいい、良くないけど。要するに、何もやることなくてお外眺めて食っちゃ寝するのにも飽きたのである。
私は何かこう、異世界的なことがやりたいのだ、といっても貧弱路線で深窓の令嬢(笑)には剣を振るう能力も魔法でドンパチ殺る能力もない。だから、冒険という路線から変えて技術チートをやろうと思ったのである、ぱちぱち~。
まず最初にやるべきことを箇条書きにしよう、そうしよう。
・目的『戦艦的何かの建造』
・製鉄技術の向上
・加工技術の向上
・冶金技術の向上
取り合えずはこの辺りからか。
さて、思い立ったら吉日、私は鍛冶場へ突撃した。
千里の道も一歩からというように、私は鈍らな剣事情を改善しようと思ったのである。手始めにエルフの鍛冶師を原初の銃火縄とかマスケット銃が作れるところまで成長させるのである。ひとまずの目標は30年を目途にしたいと思う。
まず最初に大問題だが、鉄と鋼の違いが分からない。炭素量の違いという事は分かる。気が長いと思われるが、生憎と鉄と炭素の量がどれ程にすれば鋼の硬度、粘り強さ剪断力等が最高値、いわばどれかだけが高く他が軒並み低いなんてことがないバランスの良い鋼が出来るのかも手探りなのである。その他にも焼き入れ焼き戻しなどの工程も様々な用途に合わせて試行錯誤せねばならないだろう。
もしかしたら数百年かかっても可笑しくはない、日本刀等のの洗練された鋼刃物、歴史でも相当の歳月がかかっているのだろうから。まぁ、甘っちょろい考えがあることは否めないが目標地点が定まっているのだ、寿命の限り趣味という名の研究に没頭したいと思う。
鍛冶場について剣を作る工程を見せて貰えば、粘土らしきもので作った型にドロドロに溶けた『鉄』を流し込んでいるのである。さて、それよりも先に諸兄らも私のような若造が何故鍛冶場に容易く入れたのか理解できない方がいるかもしれない、それはエルフの里のヒエラルキーにある。私がとっぷ、以上。説明完了。
……おぅいうな、これは私の容姿が問題らしい。白亜の巫女だってさ、村長よりも偉くエルフの里の守護者的な存在らしい。つまりエルフ4000人を顎で使えるのだ。ちょっとそこで全裸になって踊れよという命令も、あんな事やこんな命令も容易いのである、……え、守護者ってなんですか?
話を戻すが、私はそこで剣の改良と、甲冑の改良を命じた。と、これで済めば話が早いが、彼らからしたら、「じゃあ何をしたらいいの?」という話になる。そこで私も開発に加わるのである。今現在の鉄製品は鋼という概念を取り入れていない。まずは鋼の開発からであろう。
といっても楽ではない、まず最初に炭素を手に入れるところから始まる。今現在の鉄と呼ばれる代物がどの程度の炭素量か分からないので、増やしたり減らしたりするためにも、高純度の炭素を手に入れるのだ。手っ取り早く炭素を収集するのは炭辺りが妥当だろうか?そう考えた私は、炭素濃度の高い、高品質の炭を作ることにした。少し嫌な予感がするのだが、もしかしたら余りにも技術の下地がなさ過ぎて色々と芋づる式にやること増えるのではないだろうか?いや、そうだとしてもやれねばならない、私はこの世界で科学の親になるのである!
と、まずは土窯の建造である。魔法を使えばあっという間であるが、それでは魔法を使えない者に継承させることが出来ない、此処はあえて人の力のみを使って炭を作るための土窯を作りたいと思う。まず手始めに、開けた場所に目についた場所にいた『えるふA』の膝の高さほどの円形の穴を掘るようにお願いする。広さは『えるふA』で換算して『3エルフ』である。
おぃ、ふと思ったが今現在長さの定義すらもないじゃないか。え?1mでいいじゃないかって?少し考えてほしい、定規もメジャー、スケールもない、つまり比較対象がないでどうやって1mを割り出せというのか。という事で急遽長さを定義することにした。
私は基準としてエルフAの足幅を大きく横に開いた長さを1mとした。そして、適当に生えている竹を使って1m物差しを作る。この辺は竹細工職人の手を使い竹の節もある程度取り除いたまっすぐな物を作る。その際ピンっと張った糸を基準に物差しの精度もできる限り直線になるように心がける。ちなみに竹は下処理らしき事を行ったものを使用した。水分や湿度で伸び縮みとか曲がったりするので下処理は非常に大切らしい。ついでに油を塗って水分を含み難くした。
ニスなどがあればそれが良いのだが、ニスがどうやって出来ているのか分からないのである。しかし、松の木らしき木はあるので松脂等は作り出せるかもしれない。そこで、並行して作業を行う為にさらにエルフを呼びつけ、松の木からの樹液採取をお願いする。松脂がどうやって出来るかも知らないのでこいつもいろいろと試さねばならないだろう。ついでに1m物差しの製造に合わせて、少し太めの紐に1mごとの赤線を入れ簡易的なメジャーも作る。
ここで土窯作りに戻り、出来あがった円形の穴を囲むように一抱えはあろうかという石を釜の口となる場所以外に積む。隙間には粘土を入れ、更に周りにはそこらの土を盛るのである。次に天井部分は木で土台を作り粘土を盛っていく。釜口の反対には穴をあけ、煙突の代わりを作っておく。といっても木を蒸し焼きにしたものが炭らしいことは知っているが、炭窯に煙突がいるかどうか知らないので、すぐに埋められるような考慮はしている。存在は知っているのだが、どうやって出来ているのか全く知らないのだ。
まずは一基めであるが、さらに追加で7基ほどの増産を考えている。その際にはもちろん改良が加えられるだろう。様々な木の種類で試行錯誤した炭を作ってみて、そこから鋼を生成するための炉用や鉄に加える炭素としての炭を類別するためである。
出来上がった炭窯に火を入れ木の土台を焼き落とす。この際火力は高めにして粘土も焼き固める。まぁ、あとは木の土台が燃え落ちた後に崩れないことを祈ろう。
ちなみに身長は1m半よりも少し、指横2本分ほど小さかった事を告げて置く。
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炭窯はどうやら崩れ落ちなかったらしい、良かった良かった。出来上がった窯の中にヤクの木とウルの木という広葉樹と針葉樹の木を中央で区切って所狭しとぎっしり押し込む。そして入口に油をまいて着火、燃え上がらない様に口を狭くして交代で番を行わせる。炭の煙は余計なモノが燃えると白煙が出るらしいという事はバーベキュー等から知っているので、とりあえずは白煙が出なくなるまで燃やす、蒸し焼きにするようにお願いして鍛冶場へと向かった。
さて、ようやくだが炭が出来上がる間に一先ずの目標である鍛冶技術の向上に取り掛かろう。今現在の鍛冶は大量の薪を消費して行われている。言うなれば炉の中で大量の薪を燃やして出来上がった少量の炭で火力を上げて鉄を溶かすという効率が悪いというか、燃費が悪い方法なのだ。まぁ、この辺は炭素を手に入れるために炭を作ろうと思い立ったことで、計らずしも改善される。
少量の木炭は炉の中に転がっているのでそれを失敬してガンガンに焼けている鉄に混ぜ込む。そして出来上がった鉄を冷やして取り出す。
もろくも崩れ去った。
いや比喩ではない。二か月間ほどは炭を加えながら製剣していたのだが、くそ脆い。今まで以上の剣よりも遙かに脆いのである。打ち合った剣がぽっきり折れたのだ。そして、この頃になれば針葉樹が広葉樹よりも比較的火力が高いことが分かった。木の水分量の差によって出来上がる炭の密度に差が出るらしく、広葉樹の炭は少し火力が落ちるのだ。
という訳で、炭を加えることは止めて、如何にして次は炭が入らないようにできるか試してみようと思う。炭素量が多い?モノではないという事が分かっただけで良しとしようじゃないか。こういう時もう少し勉強していればよかったと後悔するものだ。
その間にも炭窯は増産し、結局14基もの炭窯が建造された、予想以上に製鉄に必要な炭が多かったのだが、出来上がった炭の中にはもちろん規格外なものも含まれる。そういったモノはかねてからの懸念であった水問題の浄水装置や普通に火種として回される。浄水装置とは、布、砂、砂利、石、炭で構成された原始的なものだ、ちなみに内容物の順序は若干前後する。炭は活性炭のほうが良いのだろうが、生憎と製法が分からない。今現在は竹林付近に存在する井戸水だけだが、これにて川からの水もある程度は使用できるようになった。しかしながら一部は川に垂れ流しな下水問題もあるためこれらの改革も必要であろう。
まずは鉄鉱石からいままでの要領で鉄を取り出し、更にそれを加熱し続ける。炭素だから燃えるんでしょ?との安直極まりない考えから加熱し続けるのだ。馬鹿なりの考えだと思ってほしい。結果、今までと大して変わらない剣が出来上がった。
……あれ?
と、ここまで来てふと酸化と還元という言葉を思い出した。炭素と結びつきが高いモノを鉄と合わせれば炭素を除去できるのではないだろうか?といことである。一酸化炭素は非常に結びつきが高かったことは記憶しているので、完全燃焼させない程度に燃やし、さらに高温にしなければいけない。今までは熱せられた大きな鍋?のような何かに鉄鉱石らしきものを入れて周囲を薪で加熱することで融点の差によって鉄をガラと分けていたのだが、これでは当然不純物が多いしとれる量も少なすぎたのだ。そこでふとテレビか何かで見た玉鋼の製造法では炭を直接入れて燃やしていた気がするのである。
そこで鉄鉱石と炭を炉の中に投入してみる。最初は1対1といくつかの比率を試してみるがあまり結果は芳しくない。そこで次に試してみたのは加熱した炉の中に徐々に鉄鉱石を増やしていく方法である、これは一部成功ともいえるが、やはり取れる鉄の品質にバラつきがあるというか、鋼と思わしきものが取れることには取れたのだが、剣一本にも満たないのだ。では、炭のみを追加し炉の温度を一定に保ってみる製法を試す。
結果から言えば、鋼(らしきもの)の製造に成功した。
以前までの製法で造られた剣と、新たに出来上がった暫定鋼とで製造された剣で幾度となく打ち合ってみれば性能は歴然であった。その他に石に切りつけてみて強度の確認などの実験もそれぞれ数本で行ってみた。結果で言えば、以前よりも全体的な強度の高い鋼が得られたのだろうと思う。結局炭を入れるという行為自体は間違っていなかったのだが、過程と量が間違っていたのだ。
その他にも炉心の加熱時間を変更し、明らかに鋼よりも柔らかく粘り強さがある物の製造にも成功した。おおよそ此処までにかかった時間は2年であった。まぁ手探りから始めたにしては非常に優秀な時間であろう。ついでに言えば、これまでにダメになった炉の数は三桁に昇る。三日に一つ出来上がっては一つ壊しであった。
今回のこの結果から、日本刀のようなものを造っても良いのだが、あれは使用者を選ぶらしいので今現在の撲殺するための剣の使い方しか知らないエルフに与えても使いこなせないだろう。まず作れるよな鍛冶師がいない。今のエルフの鍛冶師は全てにおいて流し込みと研ぎしかできないのである。鍛造という製法を知らないのだ。
鍛造を知っていて損をするどころか有利なことしかないので、次は鋳造流し込み法から鍛造法に切り替えていきたいと思う。刃物や農具の性能も鍛造と流し込みでは性能差はきっとでるだろう、多分。まぁ、鍛造法がどのようなものかさっぱりなので、これも手探りになるのだろうが仕方ない。とりあえず叩けばいいんでしょう?あ、違いますか、そうですか。
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「植林ですか?」
「はい、鋼鉄の生産には大量の木を使っております、如何にこの地が木樹の精霊によって治められた地であろうともこのままでは木々が失われていくことは歴然、ならばそれらは必要なことだとは思いませんか?一応一般的な火種として使うものは成長に早い竹を使った、竹炭に切り替えて生産を行っていますが、結局必要になりますので」
ある日、エルフの青年ローレンは白亜の巫女『ジ・ローゼン』に呼び出された。彼女の名に着く『ジ』とはそのまま『地』を指す言葉の名残である今まで沈黙を保っていた巫女が突如として動き出して一年。次の段階で突如として折れぬ剣を造ると言って1年である。開発の状況はよろしいとは言えないが、彼女は挫けた様子もなく何か納得していた様子だったので、今現在の失敗は予定調和なのであることはローレンにも伺えた。
『ジ・ローゼン』はローレンの幼馴染である。精霊の次にエルフにとっては必要不可欠な存在。おおよそ200年ぶりの白亜の巫女であるらしい。時代の継ぎ目に生まれるとされる巫女は彼らの導き手になると長々と伝承で語られている。信心深いエルフはこれらを大切にし彼女を蝶よ花よと育て上げた。
そして今、どこからか手に入れたであろう知識で様々な改革に取り組み始めている。
『失敗を知らねば、成功はない』
失敗せずに成功を手に入れれば、後の未来で更なる改善を行う際に結局試行錯誤せねばならなくなる、今ここで失敗して記録を取っておけば同じ轍は踏むまいと彼女は告げた。早いか遅いかの違いだが、彼女の失敗から次の挑戦までのサイクルは格段に速く、次の製法への取り組みまでの時間は短い。ローレンからしてみれば多くの時間をかけて行う失敗すらも端折っている感覚がある。
鍛冶場の外でそれらをぼうっと眺める幼い容姿の少女。以前何故中に入らないのかと尋ねれば、「邪魔になってはいけませんから」と返ってきた。彼女を邪魔に思うようなエルフなどいないだろうとは思ったが、彼女のその気遣いであろうモノを無下にする言葉を彼が申す訳にもいかない。その場はそっと離れたのであった。
ゆっくりといつも通り鍛冶場の近く、一歩引いた場所で作業風景を立ったまま眺める少女の元よりゆっくりと立ち去る。これから彼は彼女の
「身分違いか……」
ローレンは幼き頃からの知り合いである白の少女に淡い恋心を抱いていた。あまり話さず窓の外から眺めるばかりだった少女。この恋心は叶わぬことは知っている。彼は戦士の一族で、そしてこれから彼女が
「彼女が私に力をくれる、そう思っておこう」
何と、誰と戦うのかは分からない、純人族や獣人族は未だエルフの技術には及ばぬものしかない。青銅器が主な武器であるからだ。そして彼らとの交流は未だ良好なままである。それとなく他の人族との戦争が起こるのか尋ねてみたが、彼女は首を傾げるだけであった。今この地に住まう諸族ではなく、外来の者達なのだろう。
もう一度彼女を振り返り、彼女の横顔を眺めれば、幼い容姿の瞳の中には少しばかり鋭い光が宿っていた。
▽▲
さて、今現40人ほどの頭の周りが早いモノと鍛冶師を合わせて製鉄技術の改良を命じた。所謂鉄合金の為の非鉄金属の発見である。これは金属の性質を持ったモノを探すことから始まる。お決まりの叩くと伸びる磨けば光るの2性質を主に探索だ。鉄と銅、鉛に関しては既に発見されているので、此処から更に露天に晒された金属を探す旅が始まる。
とはいってもこれは流石に人足が必要である。金属がありそうな各所に人をやってそれらの性質を調べねばならないのだ。エルフだけではどう考えても足りないだろう。
そこで近くの他種族に鉄剣と食料の融通を引き換えに金属の探索お願いした。元々関係が良好であり、繋がりも浅くない。更に鉄剣を得られるならばと二つ返事で了承された。これも50カ年計画であり、今現在の狭い範囲から脱却した人類域の開拓も同時に行われるのである。エルフ以外の種族を含めた人口増と食料の生産安定はこれには必至となる。
数年前に命じた植林と果樹園の設置はおおむね良好である。その中でも果樹、穀物においては品質改良にも乗り出した。実が大きい、甘い、多く成るものを厳選し受粉させ植林させるのである。これを繰り返し行い優等種を生み出すのが目標だ。また似た果物であっても異なる領域に育つモノとの掛け合わせも進める。これに対しては受粉するかどうかは全く分からないので、様々なモノを試すようにお願いしている。計画的には桃栗三年柿八年さらに柚子やら梨やらは10年以上らしいので、これらに似た果樹の改良目途は30年を第一段階としたい。気の遠くなる話である。
これらに合わせて肥料の生産も始めたい、ついでに並行して火薬の開発mも行いたい。火薬の製造は材料さえそろえれば、肥料生産の傍らで行えると思う。黒色火薬であれば、何を混ぜるか知っているので比較的容易であるだろうとの考えもなきにしもあらずなのだ。硝石と硫黄、炭の三種の配合率を調べるだけで済むのし、火薬の中では比較的取り扱いが楽な部類、取り掛かるにはうってつけな火薬だろう。
硝石は雑草と糞尿、雨に濡れない場所があれば出来るらしい、どのような雑草が良いのかも調べねばならないが、まぁ、これはそう時間もかからず生産できるだろう。硫黄は結晶化した者が火山火口より産出されるらしいのでそれを手に入れようと思う。
この際に不燃性ガスと可燃性ガスもついでに発見しておきたい。安全性の確保もあるが、油田の発見にもつながると思うからである。石炭とそれから生産されるコークスも手に入れたい。木炭製鉄よりも私が居た時代ではコークス製鉄が主流だったのだ、他しか石炭を蒸し焼きにすればよかったはずだし、硫黄やタール?だったかそんなものも得られるらしい。以前、中国での石炭ストーブ問題で話題になったのを覚えていたのだ。
こうして考えてみれば同時進行出来るものも多いが、逆に人手が必要であるとのことに気付く。早急に金属探索隊、燃料及び硫黄探索隊の設立、更には各開発部署の設立も行わなければいけない。更に化学物質の発見も必要であろう。
今現在のこの地域では貨幣が流通していないので、主に物々交換が主流の取引だ。
食べ物だけを与えて置けば反乱の恐れはないが、食糧生産増と探索部隊への輸送技術の確立は絶対に必要だろう。つまり道整備も大々的に行わなければいけない。野生動物や魔獣対策、非友好的人種(オーク、オーガ、ゴブリン)に対する戦闘能力向上も進めねばならないと思われるが、これに関してはエルフの魔導士を投入する予定だ。魔法なんてモノに頼るのは癪だが、使えるものは使いたい。……別に私が魔法使えないから僻んでるわけではない、ホントだよ!
そして輸送能力向上には石炭の発見が一番早いが、それを探索する段階であるのが頭の痛い話となる。石炭さえあれば蒸気機関の開発やボイラー開発にも手を付けられる。とはいえ、露天掘りできるならまだしもそう簡単には行かないだろうからこいつは80年を目途にしている。
さらにやらなければいけないことは続々と増える。速度の定義、時間の定義、重さの定義、なども行わなければならない。速さは馬で日の出から日没までとか、時間も日の出からお昼日没までと曖昧表現しか存在しない。重さに関しても慌てて天秤を製造したが、それだけである。何グラムとかそこら辺から定義していく必要があるのだ。
数でさえ曖昧なので、貨幣流通は全ての下地が出来上がってからになるだろう、今現在のここら周辺の文化レベルは地球における古代辺りだろうと思われる。精霊に捧げる舞や祈願などからある程度の文化は発達して来ているが、娯楽というものが全くない。これは現状で言えば堕落する要素がないとも取れるので放っておく。今のうちに純人族と獣人族、小人族も含めて中央集権しておいた方がいいかもしれない。
私がトップだ!
まぁ、暴政を敷くわけでもないので問題なかろう。国軍の設立と技術関係全般(農具、武具の改良)の技術院、化学と科学の研究機関の錬金術院、探索調査魔獣討伐の専門の冒険者組合の設立を各村落の長を集めて告げる。それに伴い、農業ではなくそれらに従事する意欲のあるものを募集。これらは優先的に育てることとなるだろう。すべての人間に技術拡散することはしない、農業従事者が減るからである。
製鉄技術を進める上で余剰がでた鉄は鏃になったり、農具に回されているので生産性は向上している。少し人を引き抜いても、明らかな激減はしないだろうが、日照続きや飢饉が起こらないとも限らない。治水工事も行う必要が出てくる。簡易的な引き込み式の貯水池の設置と堤防の設置、水路の設置。何もないのでやることが多い。やりたいことが出来たら、そこから足りないモノが出てくる、思いつくという悪夢である。
芋づる式や……
▽▲
「弩の改良ですか?」
「はい、弩はオーガや魔獣など比較的脅威度が高い生物への有効武器ですが、集団戦においてはその装填速度は問題。そこで『てこの原理』を用いた簡易装填装置を備え付けた強弩の開発をお願いします」
各種院が設置されて幾日も経っていないある日、技術院の長であるエルフ族のベルアイゼンは巫女の面談室へと呼び出された。白亜の巫女が差し出した羊皮紙数枚には鍵爪が付いた弩が描かれている。確かに少々大型化するだろうが、威力の高い弩の弦を引くのは楽になるだろう。しかし取り回しが悪くなるだろうと彼には思えた。彼はそれを告げると、
「なるほど、取り回しのことまで気が回っていませんでした。どうしましょう?」
明らかに納得するのが早い、もしかして巫女はこの事に気付いていたのかもしれない。ならばこれはベルアイゼンに課せられた課題、彼が長としての座に着くにふさわしい人材か見極めているのだろう、と彼は考える。
「いえ、発想自体は流用させていただきます、たださらに速射できるように改善もしたいと思うのですが、かまいませんか?」
「ええ、もちろんです。期待していますよ」
数枚の設計図を受け取り、新たに建てられた1階建て石造りの建物に向かう。200平米《㎡》の建物の内部には最近様々な開発品が置かれ始めている。簡易的な鍛冶場が置かれ、農具や武具の試作が行われるのだ。隣には隣接して多目的試験場も設置されていた。
ほぼ手探りだが、農具の先端を鉄に変えるだけで大きく木鋤や鍬の性能も上昇した。最近では馬蹄や鐙の開発も行われている。更には手押し車と馬車の改良である。
馬車の改良では従来の物から改良され、板バネを用いたものも作られたが、木製の車軸や車輪では折れる、それらを金属製の物では造れば、重すぎて路面に食い込んで進まなくなることが多々あると乗り心地を求めるだけの装置は今現在は不必要な機構として耐久性の改良のみが思考されている。
改めてベルアイゼンは設計図を眺める。今までの弩の側面に無理やり鍵爪が付けられたものである。これでは構えにくいが、新機構を中央にまとめて置けば十分取り回しはましになるだろう。『ジ・ローゼン』は知らなかったが、ベルアイゼンがこの時考案したのは地球における諸葛弩(連弩)と似たものであった。
いくつか構造の変更を得て完成したモノを彼女が見た時、どこかで見たことがある弩の姿に大変驚いたと同時に、存在を知っていても形を覚えていなかった自らに落ち込んでいたそうな。
▽▲
中央集権はほどなくして成功し、付近一帯の人族の村落は遍く統一された。元々安定しない純人族獣人族へ食料支援をエルフの里側より行っていたらしく、主だった反対は起こらなかったようである。なんてご都合主義、私そんなこと知らなかったよ。
それに合わせて平野を開墾するための用水路の計画を行う。今はまだ小規模で点在する集落が多いが、少しずつ統合し規模を大きくした村落や街の建設を行う予定なのだ。増えた集落の防衛を行う為に騎兵隊を組織して訓練を始めたが、やはり小さな集落全てを覆うほどの力はない。纏めたほうが守るのも楽なのである。
此度つくられた騎兵隊は主に純人族の者達で構成されている部隊となるのだが、これは純人族がエルフよりも数が増えるのが早く、成長も早いので兵士にするにはうってつけであるという理由に起因する。しかし今はまだ、人口があまり増えられても困るのでそういった行為に関しては自重するようにお願いしている。まぁ自重止まりなのでどれほど効力があるのかは分からないが。
本格始動し始めた探索隊は、当初の予定通りに四方へ飛んだ。まず手始めに金属類、石炭類の捜索である。火薬の元は比較的容易く見つかるだろうが、ガス類の存在があるので一旦捜索の開始を止めている。あれは無臭のガスの存在もあり、気づいたら部隊が壊滅していましたなんてことが起こりうる。
そもそも今現状ではガスに対する対策が一切出来ないからだ。ガスマスクなんてものはないし、ガスだまりの早期発見が可能な手段を見つけなければならないだろう。カナリアのような鳥を探さねばいけないかもしれない。
鍛造法の練習の一環として最近では胸当ての生産を始めた。1枚鉄板のプレートアーマーではなく、軽量化を主にしてつくられた、金属棒を格子状にしてつなぎ合わせたものを鎧の胴部分に加工したモノである。現在の敵は飛び道具を使わないため、こん棒や銅剣、鉄剣、牙、爪等への対処のみなのだ。その為、飛び道具に対しても防御の高い1枚モノではなく、移動する際に重さでの馬や人への疲労を減じるためにこういった形を作り出したのだ。
勿論普通の胴部分のプレートアーマーも同時に作らせているが、全身甲冑には手を出す予定はない。急所以外は鎖帷子と革を加工したものを装備させる予定となる。1枚モノの鎧に関してもマクシミリアン式と呼ばれる溝が入った鎧を模したものを優先して作らせているのだが、やはりこれも軽量化が主だった理由だ。囲まれて重くて疲れて動けなくなって死にましたでは話にならない。
武器に関しても短槍と重さを重要視しない剣を造り始めた、防具を持っている敵は一部だけなので、取り回しを主眼に置いた訳となる。肉厚のオーガやオークの類は近寄らずに弩や弓による一斉射で対処するため、バスターソードのような両手剣はあまり作り出していない。これも敵対部族が現れたら変わっていくだろうが、増産は行わないしそのような余裕もないのだから仕方がない。勿論、いざとなって使えませんでしたという訳にはいかないので、両手剣の訓練自体は探索者、冒険者と騎兵隊を主に行う予定だ。
これらを合わせるに他種族からも鍛冶師の登用を行う必要があるだろう。現在矢の鏃等も鉄で作っているが、弩のボルト等は銅に変えてみてもいいかもしれない。生産性の向上は機械装置がない中では非常に重要なのだ。いや、あっても生産性の向上は重要だけれども。
さて、ここに来て重大なことに気付いた、以前炭窯建築の為に1mという単位を私が独自に決めたのだが、これが仇になった重大ミスだ。本来1mmから決めて1cm、10cm、1mとすればよかったのだが、まず1mから決めてしまったのでcmとmmの制定が非常に難しい。1mmならば1mになるまで延々と刻めばそれで終わりだが、逆に1mから10㎝、1cm、1mmとするのは非常に困難なのだ。少し考えてみればわかるのだが、正確な10等分なぞ計器がない状態では不可能である。
時間さえかければ出来るかもしれないが、そこまでするなら1mmを決めてしまって1000㎜刻んだほうが楽だし早い。どうすべきかと考えたが、元々足幅少し広めの1mという単位を使うのはごく一部の建築に携わる者達だけだ。折角定着しだしたのに勿体ないというか、申し訳ないが、こればかりは後々困るので仕方がない。以前の1mは破棄して、新たに作り直すことにする。
そのため再び竹職人に物差しの素材となる加工済みの長めの竹を容姿てもらう。細い竹ひごもこの時ついでに貰い、竹ひごをナイフで少しばかり裂き、前世でのおおよそ1mm程度の大きさにすると、それを物差し竹に垂直になるように置く。一番端からナイフで竹に先ほどの竹ひごの大きさ分だけ切り込みを入れていく。まず1cmで少し長めの切り込み、10cmのところではさらに長めに切り込みを入れ、1mになるまで地道に刻む。そこに墨を垂らして刻み線が見えやすい様にしていく。拭き取れば切り込みには墨は残るが、表面はツルツルなため綺麗に拭きとれるのだ。
この新たに出来上がった物差しで以前の物差しを計ってみると、92.5㎝という微妙な値であった。だから何という訳ではないのだが。
そして、再び物差しを使う人間を集め、以前の物差しを破棄して新たに精度の高い代物を作ったことを告げる。「今更?」と言われるかと思いもしたが、逆に感激されて申し訳なくなった。すみません、ホンと気づくの遅くて。気の利かない若者でマジごめんなさいです。
そのまま物差しは更新されて、新たに大量生産された。一応『器差』が大きくなりすぎない様に出来上がったものは確認している。
そしてそのままの応用で、測量具も作ってしまおうと思い立った。まずは板、紐と金槌、センターポンチ、筆を用意し、板の中央付近にセンターポンチでぶち抜く。それに紐を括り付け、更にその先端に筆を巻くのだ。そのまま一周させ板に円を描く。ふと、数学とか算数で使うデカいコンパスがあればもっと楽だろうと思う。
これを円弧より大きめに鋸で切り取り、やすりで少しづつ削って正確な円盤を作り上げる。そして、今度は50㎝に切り取った糸を用意し、円盤の外周にはわせる。そのまま円盤の外周が50cmになるように削ってゆき、最後に磨いて、センターポンチで少しだけ穴をあけた場所をキリで何回かに分けて広げる。そこに軸を通し、更に一輪車のような形状に整える。
これは陸上部等が使うロードカウンター(ロードメジャーとも)である。といってもカウンターは付いていないので、何周したのかで距離を求めるしかないのだが。勿論、分かりやすい異様に25cmごとに線が引かれており、ある程度は細かく測量できるようになっている。
まぁ、これが出来たから今すぐ使うかと言えば、使わないのだけれども。追々速度計算等にも使う予定だし街道整備にも大活躍するだろう、これは主に願望だが。計器というものは重要で、コンパス(計器?)は比較的早めに作れそうだし、分度器も作らなといけない。更に三角定規も作るべきだろうし、水平儀もあれば非常に便利だ。
……またやることが増えた。
▽▲
ある日、エルフと一部の純人族獣人族がエルフの里の集会所に集まっていた。皆一様に切羽詰まった顔ををしており、空気も思い。幾人かは顔を下に向け、唇を噛んでいた。
「確かにそうだとは思いますがなぁ……」
「最初が何事も肝心だ、統率され、秩序溢れる集団を造ろうというのだ、アウトローなんぞと無辜の民を比較するつもりか?」
エルフの男が純人族の老いた者にキリキリと告げる。この集会は、『ジ・ローゼン』が唱えた中央集権の為の最終会議ともいえるものだ。彼女は知らないが、エルフ以外の人族の中には勿論エルフに主導権を握られたくないと思うものは大勢存在する。彼女『ジ・ローゼン』からしてみれば、エルフが主導なだけであって、周辺に住まう人族全てを奴隷や下僕にするという訳ではないのだ。重要なポストにも獣人エルフ純人と全てを分けて配置する予定であるのだ。
「
狐耳を動かしながら、獣人の男は了承の旨を伝えるが、それを言えば森の民の援助を受けぬ人族はこの場に居ない。
「里を抜けるというのなら、抜けさせれば良いだろう?何を戸惑う不穏分子を消せるのだこれ以上のことはないだろうに」
「事はそう簡単には行かんのです、元より村々で各個のつながりが深いのですぞ?」
閉鎖的な集落に置いてほとんどの住人は家族のようなモノである。一人が里抜けを行いどこかに移住をすれば、情深くつながりの濃い者同士が全て抜け出すことも考えられるのだ、そうなれば人口激減は必至である。だからといって、反乱の芽を残しておくことも避けたい。こういった手前は生活苦から賊になり下がることも多い。そうなれば両者損をするばかりである。
「里抜けは重罪は昔から変わらん。が、血生臭いことは巫女殿は望んで居らんだろう」
赤子が成人を迎えるまで生き残ることが少ない時代、どこの里も血を残すことは重要なため、里抜けは斬首と決まっていた。これでは本末転倒だと思われがちだが、死が身近で死を恐れるからこそ、この沙汰は有効であり、里抜けの防止策として活用できたのだ。
「では、各里より何も持ち出さぬことを条件に許せばよい」
「武器も持たせぬとなれば、魔獣の餌食になるだけでしょう?」
無論、彼らがそれを理解してい無いはずがない、ならばこれは彼らを体良く葬り去る口実にしたいだけなのだろう。だが元より、反乱の芽を摘むだけなので、彼らがそこで考えを変えればそれでよい。別に必要がなければ殺す意味はないのだから。
「まぁ、それだけの決意無くして、この状況で里抜けしようなんざ、考えなしの行動さ」
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今まで鉄鉱石と言えば先祖から伝わる知恵として、酸化鉄が多く含まれる岩石が野晒にされている場所での露天掘りが主なものだった。これらは、天の日に流れ出す赤錆の発見が容易だったからこそ成しえたのだと伝わる。
ある日のこと私が発起して5年ほどの月日が流れたときだ、エルフの里より馬の歩く速度にして30日程離れた場所に草木、および水が少ない地域が発見された。地球での乾燥地帯、サバンナやアフリカなどに準ずる気候である。幸いにして驚異的な魔獣はおらず、現地人と思わしきものも今のところは発見されていない。
その地より捜索隊が数種類の異なる色を持つ金属石らしきものを持ち帰ったのだ。銀白色の鉱石と鉄鉱石にも見えるが、より赤みが強い鉱石らしきもの、そして石炭であった。
……うっしゃっ!
まず錬金術院に正体不明鉱石の研究をお願いする。適当に殴ったり叩いたり水につけたり、こすったりして下さい。思いつくこと色々と適当に。完璧な放置というか人任せな発言だ。でもこっちも分からないし仕方ない。まぁ、何か分かるでしょ、時間がかかるかもだけど。
更なる朗報は石灰石らしきものを発見したとの報だ。こいつもカルデラ大地だったかカルスト台地だったか、そん感じの名前の木々が少ない山の探索をお願いし、灰色の石が大量にある場所を見つけたら報告してほしいと告げていたのだ。だが、この発見は非常にあり難い、今現在の焼き煉瓦《れんが》の建築物とは異なるセメント工法が可能となるのだから。
セメントとは石灰石を鉄の融点程の温度まで焼いたものを砕き、砂利や砂をつなぎに水を足して作られたものだ。これは容易に堅牢な建造物が建てられるので是非ともモノにしたい。
さて、これらが発見されたことで炉の改良に乗り出したい。今までの製鉄炉は一度で破棄せねばならず、非常に手間暇がかかるのだ。長期使用のできる高炉と転炉の製造、これが成功すれば生産効率は非常に良くなることだろう。
これら原材料加工所も鉱山付近に建造した方が高効率だ。そこから更なる加工ができる場所も建てないといけないし、それらを分配するための経路もいる。
そこで、道の大幅整備と輸送路の大改造、人口増に農地改革を大々的に行うことにする。主に道の整備は一年のうちの冬、農作物があまり育たない時期に主に手が空いた人間すべてを導入して行い一気に進めたい。以前の
草木を切り開いて道幅を大きくし、少し地面の高さより大きく掘り進める。そこに大きめの砕石を敷いて行き、少しずつ敷いていく石の大きさを小さくしていく。更にそのうえより土をのせれば完成だ。最終的にこの上に石畳を置きたいが、これは少し置いておく。これによって雨の日の水はけがよく、
今現在エルフ純人獣人連合では200~300の小集落が集まって出来ているのだが、一つの集落で20~30人エルフの里は3000人規模の大規模集落三つが合流、その為2万5千人程となっている。そのうちおおよそ400名が鉄鋼鍛冶、6000人程が兵士、3000人ほどが探索者、冒険者、200名程が技術関係、同じく200名が錬金術(科学化学)、残り1万5千人が農業従事者や子供で構成されている。
私が元々所属していたエルフの里を中心に蜘蛛の巣状に各村落への道を伸ばし、更にそこを3人1組を5組、15人で構成される1小隊に巡回させ、道の安全を確保している。各道には駐屯所を設け、見張り櫓と狼煙台を設置し、いざというときの魔獣対策も行う。これにより今までと比べ遙かに魔獣被害による人的損耗が抑えられている。
短期間で我ながら良くやったものだと思うが、以前は食糧事情から冬はあまり動かず家に引きこもっていたところを、手が空いたものを全て動員し作業を行うようになったからだ。これがもし貨幣世界であれば既にご破算となっていたハズだ。
今は社会共産主義の当初の思想そのものだが、全てが上手くいったその日には貨幣と資本主義へと切り替えていきたい。それは国家主導の開発や改革から民主導の開発改革へと切り替わっていくことを意味する。そこには競争が生まれ、そこから革新も生まれる。誰かが創る世界から、皆が未来を造る世界へとの成長だ。……と言いつつも人口が増えすぎたり、平和しかなければそこに怠惰が生まれるのが世の常識だ。
新たな鉱山候補地や石灰石がある土地はそれより外周に位置するのだが、今まで勿論そこに道はなかった。確かに、小規模集落や他の里は少しずつ見つかっているが、まだ話し合いの段階だ。今までの集落や里は元々僅かながら繋がりがあったモノである。確かに外周に位置する集落がこちらと繋がりの少ない集落を見知っておりそこから取り込みに成功することも多々ある。
しかし、全くの隔絶した集落も少なくない。そこらは時々小競り合いに発展することもあるが、まぁ、動員数や装備の違いもあり、包囲でもすれば一瞬でケリがつく。流石に両者無傷のままであるという事は少ないが。里に関しても同じだが、白エルフ伝説(笑)は何処の里でも伝わっているらしく、何故か私が直接交渉する予定の里が2つある。ちなみにこれらをまで取り組めば人口は更に1万程増えることとになる。優秀な人材の引き抜きに磨きがかかるモノだ。
人が増えれば出来ることが増え、突出した才能持ちの人間も得やすい。我が手は既に東京23区を遙かに超す領域を治めているのだ、ふははははは。……うむ、面積どれくらいか分からいからすごく困ること多いです。以前造ったロードメジャーを使って道同士の測量を行わないと。
農業従事者から60名ほど引き抜いて、3人1組に1小隊の兵を護衛に付け行えばすぐ終わるだろうしすぐに言っておこう。これからの集落、鉱山、拠点の増加につれて、略地図の制作も必要となるな。全てを平等に統治するためには、街や村の名前を決めないといけないしそれらの位置も把握しなければならない。距離による測量と、現在は山や星による目立つモノの見え方による位置測量しかできない。つまり、磁石を手に入れて方位磁針の製造等も行わないといけない。
またもないない尽くしだ。
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『近衛設立』の決議。
白亜の巫女が外交に出るとの決議が集落長の代表と里長によって行われた。とは言うが、元々の発案は巫女自身となるので、議会がこれを承認した形である。そもそも、今のところ巫女の提案が否定されることはない、少々的外れなモノもあるが説明を聞けば非常に有意義であると思われるからだ。今すぐに形が出るものは少ないとも言われるが、行わなければ結局始まらないし、時間がかかることも聞いている。技術の進歩には何かしらと必要なのは当然だ。
と、今回はその外交に出る際に巫女が他の里に奪われないようにするための護衛を造ろうとの話である。まぁ当然ながら誰も否定しない。ここ2~3年で食糧事情も魔獣や非友好的人種(以後、魔人)に対する事情も大幅に改善されている。今はまだ少しの水害で壊れる程度の貯水池等しか出来ていないが、これらも石灰石の発見にて大いに発展するだろう。つまり、更なる秩序と平和が約束されているのだ、ここにきて巫女を失う訳にはいかない。なら、誰が巫女専門の護衛部隊の設立を否定するのだろうか?
さて設立に当たって、巫女は女性であることから、当然のごとく女性である方が気楽だろうと、更に外交という立場から、巫女と並んでも他者に蔑まれぬ容姿が必要だと、国軍の中で全てを満たす腕利きが選りすぐられた。
結果として20人程の小規模になったが、此度の外交の特性状、交渉地の付近で大規模部隊半数の兵士が導入されるので、少しばかりの増援の時間さえあれば良い。他里と異なり、日々訓練と魔獣魔人討伐戦闘を専門とする者達だ、簡単にやられるモノではない。時間稼ぎぐらいは十分にできるだろうから、これで十分である。
しかし今後も、更なる躍進と外征も考えると直轄軍として組織するべきかもしれないとの案も出てきて、以後は家族からの推薦と本人の希望者を募り、幼いころから専門の教育を施したモノを集める事となった。最終的には1000人規模のモノに、その際には近衛隊から近衛軍に名称を変更する予定までが決まる。
初代近衛隊長には巫女と歳近く、加護持ちと呼ばれる狐族《フォクシー》のフォ・レイリーンが就任した。
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「以後よろしくお願いします、閣下」
……気づいたら何か良く分からいけど、めっちゃ美人の狐耳の少女がオトモ?になった。前髪は自然に狐族特有の綺麗な金髪を腰までのばし、その先端を少し結んだだけの少女。フォが部落名なのでレイリーンが名前だろう。
「こちらこそよろしくお願いします」
なんでも、武具全ての扱いに通じ、精霊の加護も持っており、魔術の才能もある。並の兵士長では相手にならず、魔獣魔人の個人討伐数は群を抜いており、頭脳も明晰という『すーぱーえりーと』。おぃ。なんだこのチートキャラ。
「閣下、ワタシのようなものにそのような丁寧なお言葉遣いは不要。どうぞ砕けたお言葉でお話しくださいませ」
その才能を一部でも良いので分けて下さい。色彩的にも『もやし』、身体的にも『もやし』な私に対する当てつけですかー。いや、卑屈になり過ぎた。
「この口調しか知らないのです、申し訳ありません」
砕けろと言われても、こちらの言語は生まれたときから敬語?に当たるものしか聞いたことがないし、話したこともない。砕けた口調というものがどういったモノなのか知らぬのだ。どないせぇと。
「いえ!こちらこそ、閣下のお立場を考えず無用な発言、大変申し訳ありません!」
腰が外れそうなほどの勢いで頭を直角にさげるレイリーン。少し眉を下げて言っただけで、この反応。何ですか?この大袈裟な子は?と、少し話を聞けば、出るわ出るわ鳥肌立ちそうなほどの私を美化した美談。曰く救世主やら神やら、背筋がぞわぞわするほどのお世辞?の数々。……誰それ?ほんとにそれ私なのか?
ま、まぁ、絶対に裏切らないだろうし、可愛いし可愛いし問題ないのだが。大事なことは2回言いました。うむ、可愛いは正義だ。
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次々と金属や加工技術の試行錯誤を繰り返すことで、色々と記録を残すことが多くなってきた。更に食糧配給の記録と貯蔵数の把握、人口推移の記録など様々なモノを取らなかればならない。
今現在、食糧配給数に関係する家族数の虚偽報告を行ったモノは非常に重い罪が課せられる。流石にすぐさま死刑という事はないが、お仕事《くえき》マシマシ、食糧減は確実だ。
そもそも、一日2食もしくは3食を十分に取れる量は与えているのだ。自分たちだけ贅沢したいという気持ちがなければ、誤魔化す必要はない。子供が増えたらそれに応じたものを配給しているのだから。
と話を戻すが、それらを記録するための内容は常に増加傾向にあるのだが、若い羊の皮を加工して作る羊皮紙では大量生産は難しく、再び木簡も採用し始めたが、これの生産もあまり追いついていない。そこで、植物紙の生産を始めようと思い至ったのだ。
まず最初に木もしくは草の選定を行う。目標は白に程近い紙だが、最初はそこまで高望みはしない。そこで、手始めに木炭に使っている木々を使用してから試行してみることとなった。
これは炭の為に伐採した木の枝が大量に存在するからである。その中のうち少しは薪としても使われているが、細かい枝などはあまり使用しない。枝などは火の持続力がないので着火の際に使うことが多いのだが、種火は炭を灰に埋めて残しておく事が最近の家庭での常識なので、火を大きくする際以外に枝は使わないのだ。そもそも枝ぐらい家の庭先に落ちているので普通はそれを使う。原木加工所で山積みにされた産廃扱いの枝を態々取りに行かないのだ。
さて、加工する際に樹皮は明らかに必要ないので、煮沸したお湯に枝を入れて剥き易くする。ここまで私が一人でごそごそやっていると、レイリーンがやってきて大きく目を見開く。どうやら訓練が終わったらしく、こちらの様子を見に来たらしい。そして一括、
「何をしているのですか!?」
……え?何ってそれは製紙の実験ですが、それが何か?と怒られた理由が分からないので、首を少し傾げて告げれば。『馬鹿なの?死ぬの?』的な雰囲気でグチグチと説教が開始される。
レイリーン女史曰く、火を起こす時に火傷したらどうするのか、枝を取り出す際にお湯がかかって火傷したらどうするのか、表面が荒れた枝を触って手を切ったらどうするのか等であるが、すごく過保護です。
とりあえず、眉を下げ、本当に申し分けなさそうに「すみません」と顔を少し俯かせ告げれば逆に慌てだす、ちょろい「きつねっ娘」。おぅ、私可愛いからな!!でもレイリーンも可愛い、美人だけど可愛い。
気づけば、近衛隊20人が製紙実験に加わった。技術院の人間に予め作っておいてもらった紙すきのための装置、原材料を溶かし込んだ水をためる『紙すき何とか』と同じくそれを
その後樹皮を向いた枝を、裂いていき、さらにある程度の長さに切りそろえる。ここで回転刃と簡易的な歯車加速装置を組み込んで作った玉ねぎ刻むときに手で回してみじん切り器によく似たなんかにぶち込み、細かく裁断する。ちなみに近衛隊の皆様がやってくれました。私?おま、そりゃ隣でのんきにオレンジジュース飲んでますけど何か?
いや~偉いって良いわ~、……って、良くねぇし!!暇だから始めたのに仕事奪われてるから!?
水の中に裁断して細かくなったモノを溶いていく。此処からは私の手を使い漉くのだが、うむ、今の時点で失敗じゃないかなぁ~と思い始めた。木目が荒いし細かい繊維が少ない。ダメだなこれはと、判断。すぐさま違う木を先ほどと同じ工程で作業するように告げる。
先ほどは針葉樹の枝だったが、これは繊維が固いのか紙状になりにくい。次は広葉樹3種の枝を同時に加工していく。しかし出来上がり結果は、どれもが大きく残り過ぎる繊維が邪魔となって何かを書き込むための紙に適しているようには見えない。もう少し細かく繊維を裁断することが出来たら十分加工できるのだと思うのだが、生憎とそこまでの機器は今はない、作れるけど。
結局、ケナフ紙と呼ばれる木材ではない紙を思い出し、適当にそこらにある雑草を集めてきてもらう。しかし、やはり何かと欠点が出てくる、製法に問題があるのかもしれないが、生憎とそこまでと詳しくはない。紙なんぞ、皆が皆使うばかりで、どのような工程でどのようにして作られるかを細部まで覚えている現代人なんていないだろう。
最終的に木目が細かくできる安定した紙が作れたのは藁や木綿であった。時間にして一月。ずっと枝を鍋で煮て樹皮をはがす作業、といっても訓練が終わった近衛隊が全て行ってくれたのだけれども。
私か?私は適当に指弄って遊んでました、仕事ぇ。人任せのくせに偉そうだが、出来上がった紙は少しばかり長期保存するには弱いと言うか脆い。保存にはあまり適さないが比較的簡単に作れるので、しかしながらメモ用紙としての利用価値は大いにある、人を呼んで農業従事者より引き抜いて製造をお願いする。
だがこのままでは何か負けた気がするので、みじん切り器改め裁断機をさらに大型化し、歯車機構も大型化したものを製造。更に繊維を細かくするために回転刃の枚数を6倍に増やしたモノも作り出してもらった。これも全て発案私だが、技術院が頑張ってくれました、おぃ。
機構的にはそこまで難しいモノではないので、設計図も簡単な歯車機構だけだ。私じゃなければ分からないという事はない。
そして再びこれらの機器を使い木材を最初の試作物より細かくする。刃の枚数が多ければ裁断効率もいいが、力もいるため人が動かすには適さない。そこで河川に簡易的な水車を設置し、手回し機構部分に歯車装置を取り付け二段階、長時間の回転出力も得られるようにする。水車に関しては前世の観光地で見た小麦やそば挽き?に使われていたうろ覚えの機構を模索して作り上げたものである。まぁ、これもそこまで難しくはない。
最後に上澄みに浮いてきた細かくなりきれなかった木片を取り除けば、なんかこう、紙が出来そうな白濁色の水が出来る。こいつを時間をかけて漉けばあら不思議すごく丈夫な紙が出来ましたわー、ドヤァ。
え?片手間で初めて半年かかったって?……き、木のしぇいじゃないでしゅか?
噛んでないし、誤字じゃないし!!
▽▲
「騎兵連隊!すすめぇ!!」
そして、期日の日。慎ましい出征式を終え、第一陣の騎兵隊が進み始める。一番目的の位置に近い里を拠点にして、ここからゆっくりと進行し目的の里2つを巡るのである。いや違う、出征ではない、出発式な。ついでに言えば目的は降伏勧告でもない。とりあえず共同宣言勧告という事にしておこう、軍事力チラつかせてるけど。チラリズムどころではない丸見えな軍事力ですけど。建前的には『お話』(意味深)だから、誰が何を言っても『お話』だから。
「ジ・ローゼン様」
1エルフが私に話しかけてくる、ってよく見れば幼馴染君のローレンだった。忘れるはずがない、幼少時奴は私と遊ぶとき、かくれんぼで必ず私だけを狙った憎き相手であるのだ。鬼ごっこ?馬鹿め、自慢じゃないが白もやし(普通)の私が、即堕ち2コマ「鬼には勝てなかったよ」になる遊びをやる訳がないだろう。
「どうなされたのですか、ローレン?」
と、私が名を告げれば、少し震えて俯くいけめんエルフ。絶対モテそうだなぁ、エルフの中でも群抜いてる美しさだし。まぁ、ふぁっきんイケメンであることには違いない。
「あ、いえ、大したことではないのですが、その大丈夫でしょうか?」
公私を分けているのだろうか、あの生意気小僧は私がある程度の年頃になってからは常に丁寧な言葉を使っているらしい。しかし、まぁ何が大丈夫だというのか。外交は砲艦外交だし、力量差は歴然、私の身さえ守れば勝ち確なのだ。私は偉そうに『従えよ、な?従うよな?』と言い方はオブラートに包むが告げるだけで終わるのだ。
「クスクス」
馬鹿な質問をされたので思わず、気持ち悪い笑みがこぼれてしまった。正直に言えば、彼が気にするだけ無駄である。こう言ってしまえばあれだが、彼が何を言おうと成そうと、ここまで来れば結果は成るようにしかならない。
「大丈夫ですよ、貴方だっていますし、見て下さい。近衛隊も兵士の皆様もいるのです、何を気に病む必要がありましょうか?一人で行く訳でもないのだから、私は大丈夫です」
見ろよ、此の屈強な肉壁どもを!(近衛除く)
「……ローゼン、いや、ジ・ローゼン様。何かもし合ったのならば何を置いてでも生き延びて下さい。オレ、いや私の一つだけの願いです、どうか」
「ローゼンで構いませんよ、私と貴方の仲でしょう?今更取り繕うよなモノでもないハズです。最近はみんな、ローゼン様ローゼン様って堅苦しいだけですもの、少しは息を抜きたいです」
そもそも、このままではただでさえ少ない今世の友達が皆無になってしまう。いや、前世でも片手で足りる友人しかいなかったけれども。余りの事実に俺氏絶望。うむ、あまり深く考えまい。友達なんてものはいないと寂しいけど、いないとすごく寂しいけど、いなくても問題ないのだ!
「そうか、そうだな。ローゼン、オレはお前が望むのならなんだってしてやる。オレとお前の仲だから。だから安心してくれ、お前の背中は俺が守る」
いや、背中よりも前に出て守ってくださいな。私表に出るような人間じゃないですから。前に出てもワンツースリーでやられちゃいますから。
「それは逆じゃないですか?できれば私は貴方の後ろで守られたいです……ダメですか?」
少しだけ顔を伏せて上目遣いで彼を見つめながら言ってみる。正面をあえて見せていない顔のこの角度この体勢なら、『即座に冗談でしたー』で済む角度だから。まぁ、肉壁になれって堂々と言ってるし、流石に渋るかな?もう、『命張って俺を守れよ』って友人とかいうレベルではない。親友だ!!
「っ!そ、そうだな!任せろ!お前のところまで敵は絶対に通さない!」
そもそも近衛隊居るから彼が出る場面が来るかどうか分からないが。まぁ、いざというとき守ってくれると言うのならば歓迎しておこう。まだ戦艦までいってないどころか海まで見つけてないし。死にたくないし。
「頼もしく思いますよ、その時はお願いしますね?」
だが、こいつは親友と言っても過言ではないな!親友ゲットの嬉しさのあまり思わず笑いながら首を肩のほうへと倒しながら告げた私は悪くない。
▽▲
「……燃えている?」
野営地の設営を行っていた時、此度訪問予定の里から黒煙が揚がっている。それも1つや2つではない。至る所からだ。その光景を明らかに可笑しいと『ジ・ローゼン』は思うが、周囲の兵たちはまるでその光景を見えていないモノとして扱っている。
「レイリーン、あれは?」
「魔人の襲撃でしょう、それも数十年に一度の大規模襲撃です」
それだけ告げると、彼女は陣地作成の柵と櫓設置を周囲の兵たちを一括し急かす。さも、見捨てるのが当たり前との反応。こちらに飛び火しても対応できるようにと急いでいるのだろうが、それよりもやるべきことがあるのではないだろうか?
「誰も助けに行こうとは提案しないのですね……」
「ご存知の通り、力を失った者を取り込むのは楽です。彼らはまだ助けるべき家族ではない、ならば兵らの損耗を抑えるのが良いと思いますが」
確かにレイリーンの言葉にも一理あるが、あちら側の心証はまず最悪なものとなるだろう。元々より、交渉が成功すればいわば家族ともいえる存在になる者たちだ。それをここで見捨てても良いのだろうか?何のために取り込もうとしたのか?服従させるため?いや違う、より良き未来の為だ。
「見捨てるのは……違いますよね」
俯いて『ジ・ローゼン』が呟けば、レイリーンはそれを黙って見つめる。命令があれば兵を動かすが、まだその言葉は彼女からは発せられていない。確かに、未だ定まらぬ関係に対して命を懸けるのは割に合わないと思うが、彼女が行うことに間違いはないとレイリーンは思っている。
レイリーンは少しだけ彼女が楽になるようにとふと思い浮かべたことを口に出した。
「閣下、自分は御心のままに兵を動かすのがよろしいかと愚考します。一度しかない命を守ろうと思われるその想いが間違っているとは思いません。それが例え敵であっても、命とは尊きものです。力があるのなら、
真っすぐと『ジ・ローゼン』を見つめる瞳、そこに一切の濁りはない。偽りではなく、本当にそう思っているのだろう。彼女は例え敵であっても命は大切だと嘘偽りなくそう思っている。それを更に乗り越えて殺すことが出来る、生きるために、生かすために。
「一度しかない命ですか……そうか、そうですよね。それが当然です、
「……我々は精鋭です、半数ほど投入すればあっと言う間に方が付くでしょう」
もう、この後は決まっているとばかりにレイリーンは告げる。『ジ・ローゼン』が兵を投入する理由はあっても、他者と自らのカテゴリーに属する兵士とを天秤にかけて決めあぐねているのを、然も決定事項として告げることによって後押ししたのだ、彼女はそう思っている。
「陣地防衛の500を残し、兵2500を投入しなさい。敵殲滅よりも非戦闘員保護と里の彼らの資産の保護に努めよ、死ぬことは許しません。殺すよりも救いなさい」
「承知、……8連隊を残し騎兵陣を組めぇ!第1から第5までの騎兵隊を各連隊準備が整い次第に先駆けさせろ!歩兵連隊は軽装備で後に続け!」
▽▲
「誰も助けに行こうとは提案しないのですね」
こうは呟くモノの、かくいう私もその一人である。いや普通に考えてほしい、私は戦闘力皆無だ。まず単騎駆けとかは無理だろう、常識にいって。私も責任を取りたくないので提案しない。見てないところで死ぬのはいいけど、目の前で人が死ぬ、殺害されるのを未だ見たことないし、覚悟もへったくれもない、するつもりもない。だからこれは、
「見捨てるのは、違いますよね」
だって無理だし?軍権を預かっているものの、そこらの主人公サンの「ほら、火計だ!」とか「堰を落とす、そう水責めだよ」みたいな、なんかこう司馬懿諸葛亮のような神策神算鬼謀を繰り出せる頭脳は持っていないのだ。
「一度しかない命ですか……そうか、そうですよね。それが当然です、命は一度しかない」
ごめんね!?二度目の生を記憶持ったまま授かって!!いや、別に私が悪い訳じゃないけど!まぁ普通に考えて死ねば終わりだ、続きなんてこうして生まれてみるまで考えたこともなかったし。死ねば無が当然、仏教徒でもなかったから、輪廻転生クソくらえ、天国何それ夢見過ぎ!並のリアリスト(笑)だったからね。そりゃ天国があれば嬉しいし、生まれ変わってやり直せるならと何度思ったことか。
……おぅ、すまんな、諸君。私だけやり直しできて。だが許して欲しい、チート無いから!むしろ弱ハードモードだから!!
ていうかなに?レイリーンさん、もしかして戦えって言ってるの?良いの?私責任取りたくないよ?そりゃ、今までやらかしてきた方だとは思いますけど?それらは全て間接的だ、私は直接手を汚していない。そう、今まで起こった尊い犠牲は私が確かに命令したようなものだが、指示に従ったものが少し警戒を密にしていれば避けれたモノばかりである。そういう言い訳ができた。
だがこれは違う、戦って死ねと命じると同義となる。そして、私の目に直接その行為その物が焼き付くことになる。ふむ、
「陣地防衛の500を残し、兵2500を投入しなさい。敵殲滅よりも非戦闘員保護と里の彼らの資産の保護に努めよ、死ぬことは許しません。殺すよりも救いなさい」
作戦名『命を大事に!!』
……知ってる!ヘタレですまんな!
▽▲
号令の後騎兵陣を一瞬で組み上げ、一斉に加速した連弩を構えた騎兵隊は弩の必中射程にまで近づくと、オーガの群れへ斉射を開始する。彼らはある程度距離を詰めると馬に4本括り付けられた騎乗用の短槍を構え、弩によって怯んだ敵へ肉薄。騎馬の勢いそのままにオーガの胴へと突き刺す。
次々と敵を貫き、槍がなくなれば抜剣、すれ違いざまに斬り付ける戦法へと切り替える。
「第8、第9は防衛拠点の構築、他はまず民家の安全を確保しろ!」
小隊長の一人が叫べばその配下達は短く返答し、民家を攻撃中のオーガの後ろを奇襲。扉の安全を確保するとその他の兵が周囲を薙ぎ払い、退路を確保する。すぐさま民家の中へと呼びかけ、扉を開けるように促し連れ出す。
「第4小隊、第5小隊は民家の警戒!火事場泥棒を許すなよ、第1から第3までは非戦闘員の防衛拠点までの護衛。残りは周囲の安全確保と周囲の警戒!」
騎兵たちは途中現れたゴブリンの群れも轢き殺し、逃げ遅れたであろう里の住人たちの周りの敵をも危なげもなく殲滅して行く。途中でこの里の戦士たちが居たが、それと対峙する敵もあっという間にハリネズミにして絶命させる。この時も流れ矢で
騎兵隊が緊急を要する案件を片づけると、残りの歩兵連隊が到着し物陰に隠れたオークや、民家を物色しているゴブリンたちを、その背後から、また横手からその首を胴を切り払う。
気づけば辺りは魔人の死骸ばかりで、エルフ種の遺体はほぼ見かけないと言っていい状況となっていた。ここまで来れば殲滅戦に移るのかと言えばそうではなく、当初の予定通り安全確保を第一に警戒に移る。粗方の片づけを終えれば、死骸を山の様にひとまとめにし、遺体も並べて置かれる。
「兵の被害は重軽症者複数名、死者はおりませぬ」
「……そうですか、魔導士の方に治療は可能か聞いて、可能ならば処置を」
「了解」
『ジ・ローゼン』は火がつけられた死骸と、遺体に向かって泣き崩れるエルフをぼぉっと眺める。レイリーンはその彼女の横顔を見つめ、咄嗟に彼女の頭を抱きかかえた。
「気にしないで下さい。我々が居なければ、あるいはこの里が消えていたのですから……」
▽▲
『気にしないで下さい。我々が居なければ、あるいはこの里が消えていたのですから……』
いや、言うほど気にしていない。そもそも、オークの焼ける臭いが香ばしすぎて食欲がそそられてしまっただけなのだ、流石は
だがやはり、この数の時を相手にほぼ被害なしとは恐れ入った。弩の狙撃攻撃なんか命中率が凄すぎて、どれほどの訓練を実戦に対して行っているのか?と思わず尋ねたくなるような素晴らしいモノなのだから。
その後のことだが、とんとん拍子に話は進んでいった。私としては、この襲撃との関連性を疑われたりするのかと思っていたのだが、深く考え過ぎだったようで、逆に深く感謝されてしまったのだ。深く感謝しすぎて、色々とこちらに献上しそうになったのを止めて、余剰分の物資を開放することした。話が着いたそのままに歓待されたので、防護柵や陣地設営に使った木材は既に無用なものとなりかけている。
結局陣払いを行い、国軍総出で壊れた民家の修復や治安維持に努めた。残念ながら修復不可能な家は他の無事な家に入れてもらうか、こちらが持参した簡易的な天幕で我慢してもらう事となる。
里の機能が半分以上停止してしまったので、この後復興に取り掛からなければいけないのだが、次の里との交渉もある。しかし、このような事があれば流石に見送りにせざる負えないので、今回の出来事を事細かく記述させ、早馬をもう一つの里に送り出して撤退する決定を下す。
だが、全軍撤退という訳にはいかず、やはりこの里の者達も次の襲撃への恐怖心があるだろうので、それに対する対策として、1000人をそのまま治安維持と周辺の残党への山狩り要員として置いておく。代わりに民家が壊され住む場所がなくなった者たちの中から希望者を募り、我が連合と言っても今後は彼らも含まれるのだが、とにかく我が里の中央で人材として有効活用することとなったのだった。