ダンジョンに戦いを求めるのは間違えているだろうか?   作:蟹味噌汁

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ロキの喋り方はこんな感じでしたか?また原作を読み直す必要がありそうです。
後日修正します。


出会いから生まれるもの

 とある建物の室内に設けられた赤色の豪華なソファーの上で青年は静かな寝息を立てていた。

 

 ミノタウロスとの死闘により出来た傷は綺麗に無くなっており、見るも無惨な形になっていた右腕も元の形に戻っている。右肩の傷も同様だ。血で染まり防具としての機能を果たしていなかった鉄くずは脱がされており、代わりに綺麗な衣類を着用していた。

 

「っかあ〜!疲れたわ!」

 

 そう口にしたのは青年が眠るソファーに寄り掛かるように体を預けている赤髪の女性。その額にはうっすらと汗が滲んでおり、彼女が青年に治療を施した事が伺える。

 

「万能薬がなけりゃ死んどったでこの坊主。まっおかげで在庫は切らしてもうたけどな!」

 

 豪快に口を開き笑う女性の周りには幾つかの中身のない空き瓶が転がっていた。

 

 万能薬とは文字通り全てを治癒する事の出来る最上級ポーションだ。あの死にかけだった青年を完全に治癒したのだからその効果は絶大だと分かる。しかし、その効果の大きさから需要も高く、一つ五十万ヴァリスと非常に高価なポーションだ。

 

 だがここオラリオに置いて最大級の規模を誇るロキ・ファミリアと言えど万能薬は決して安いものではない。何よりもロキ・ファミリアは現在進行形でダンジョン攻略へと遠征を行っている。その為にここに置いてあった万能薬は元々少なかった。その少ない万能薬で青年は命を救われたのだから幸運と言えるだろう。

 

「ごめんなさい」

 

 青年の様態が安定し、赤髪の女性ーロキが喜びの感情を見せる一方で青年をここに連れてきた少女は悲痛な表情を浮かべる。既に血で濡れた防具は脱ぎ、髪に付いた血も綺麗に洗い流している。

 

 手を前で組み、下を俯く少女に視線を向けるロキは大きく息を吐き出すと胡座を組んでいた膝を叩き立ち上がった。そのまま未だに下を俯く少女の前に進み頭の上に手を置くと優しい手つきで頭を撫でた。

 

「なあアイズ。確かにこの坊主が死にかけたのはアイズらの油断が原因や。だけどな、冒険者ってのは常に危険が付き纏うもんや。自分より強い奴に出会う。そんなのはダンジョンに潜れば誰もが通る道やろ?」

 

「...うん」

 

「厳しいかもしいへんけど、この坊主がこうなったのは坊主自身が弱かったからや。だからあんまりアイズが気負う事はない」

 

 ダンジョンで出会う敵は理性のないモンスターだ。ダンジョン内での敗北は死を意味する。だからこそダンジョンに潜る冒険者は敵を安全に屠るだけの力と覚悟を持って挑まなければならない。そしてダンジョンは人工物ではない解明のされていない魔物の巣窟。何が起きても冷静に対処する事の出来る経験も必要になってくる。それらを持ち合わせない冒険者を待っているのは死だけだ。

 

 過酷で残酷な世界だが、それでも人々は富、名声、栄誉、それらの夢をダンジョンに抱き、儚く散ってゆく。

 

「でも」

 

 ロキはその事実を淡々と告げるが心優しき少女は納得出来なかった。当然第一級冒険者である彼女も理解している。ダンジョンとはそう言う所だと。だが、頭でら理解しても心は納得出来なかった。

 

「ならこの坊主が起きたら謝ればええ。アイズの事を許すか許さないかはこの坊主が決める事や」

 

「分かった」

 

ーアイズを泣かしたらうちが止めをさしたるわ。

 

 少女ーアイズの前では優しい雰囲気を出しているが内心ではアイズを傷心させた青年に小さな恨みを抱いている事はアイズには分からなかった。

 

 先程ロキが口にした事は紛れもない本心だ。そこに偽りの言葉は一切混じっていない。

 

「ありがとう」

 

 少女は俯いていた顔を上げ、小さく笑みを浮かべるとロキにそう告げた。アイズに感謝されたロキのテンションは瞬時に頂点へと至りアイズの頭を撫でていた手をどけるとわきわきと巧みに指を動かし始めた。

 

「ふへへ。なら万能薬のお代はアイズたんの体で払って貰うでえ~!!」

 

 先程までの雰囲気を見事粉砕し、イヤらしい笑と共に口端に涎を付けたロキはアイズに抱きつこうと両手を広げ目の前のアイズに近寄る。

 

 だがアイズは慣れていると言わんばかりにロキの頭を抑えつけ、彼女の接近を拒む。見た目は華奢な麗しい少女でも中身はレベル5の第一級冒険者。一般人と何ら変わらないロキの力ではびくともしない。

 

「ひどいでアイズたん!少しぐらい触らしてくれてもええやんか!」

 

「いや」

 

 その短くもアイズの心情全てが籠った言葉にロキは力無くその場に崩れ落ちた。手に掛かる力がなくなったアイズはロキを抑えていた腕を下ろすと視線をソファーの上で眠る青年の方に向ける。

 

 今でこそ万能薬の力により安定しているが、あと一歩遅ければ間違いなく死んでいた程だったと言う。青年を助けたダンジョン内ではあまり見えなかったが、ここに連れてきて改めて青年の姿を見てアイズは息を飲んだ。

 

 元の形が何なのか分からなくなる程に潰れた右腕。肺にまで達しているであろう肩の傷口。他にも大小問わない傷が大量に出来ていた。その傷を受けてしまった大元の原因が彼女逹にあるだけに今もアイズの心情は晴れやかなものではなかった。

 

「ぅ...」

 

 そんな時だった。ソファーの上で安静にしていた青年が小さく呻き声を上げる。続いて指先がぴくりと動くと閉じていた瞼がゆっくりと開いた。

 

「!!」

 

 青年が目覚めた事に気付いたアイズは青年の元まで近付くと腰を下ろした。それと同時にロキも青年が目覚めた事を理解し、未だにぶつぶつと文句を口にしながら青年の元へと歩いて行く。

 

「...ぁ...ここは?」

 

 視界に映る天井がダンジョンの岩肌ではない事に気付き思わずそう口にする。一瞬ここが地獄かとも考えたが、すぐ様その馬鹿馬鹿しい考えを否定する。

 

「...大丈夫?」

 

 隣で青年の事を眺めていたアイズに話し掛けられ青年はそこでアイズとロキの存在を察した。傷の治っている体に見た事のない女性と少女が一人。

 

ー助けられたのか。

 

 あの時助かり用のない傷を負っていた青年は死ぬものだと思っていた。だからこそ助けられたと言う事実は驚愕に値した。一方で命を繋いでくれた目の前の二人に感謝する。

 

「あんたらが俺を助けてくれたのか...ありがとう」

 

 感謝の言葉を口にするが、寝たきりでは相手に失礼か。そう感じた青年は腕に力を込め、上半身を起こそうとするが上手く腕に力が入らずバランスを崩してしまう。咄嗟に横に居たアイズが青年を支えるがそれを見たロキが目を大きく見開いた。

 

「なにうちのアイズたんに触れとるんじゃぼけえ!はよ、手え離さんかい!」

 

 触れたのはアイズの方からなのだが、そんな些細な事は関係ないとばかりにアイズの隣でそう喚く。が、アイズはロキの喚きを完全に無視し、口を開いた。

 

「万能薬は血まで補ってくれない。安静にしてないと駄目」

 

 万能薬が一体何なのか分からない青年だが自身が極度の貧血状態だと言うのは今ので理解出来た。後ろで殺気を放っているロキの事もあり、青年はアイズから離れ再びソファーに体を預けた。

 

 アイズから一先ず離れた青年を確認したロキは額に血管を浮かべながらも二人から離れ、反対側に設置されていたソファーに深く腰を下ろした。

 

 未だに青年の方を睨んでいるが何も言う気配はない。所かチラチラとアイズにアイコンタクトを送っている。そんなロキの意図を察したアイズは青年の瞳を真っ直ぐに直視し、頭を下げた。

 

「ごめんなさい」

 

 唐突に見知らぬ少女に頭を下げられ謝罪の言葉を口にされた青年は困惑する。それも当然の話だろう。

 

「何の話なのか分からない。俺は謝られる事をされたのか?」

 

「うん。あなたが戦ったミノタウロスは私達が逃がした」

 

 酷く言葉足らずな物言いではあったが、アイズの悲痛な表情を見て何となくは理解する事が出来た。

 

「あのミノタウロスはあんたらが逃がしたせいで俺の元に来た。つまりあんたらが逃がさなければ俺の元には来ることがなかったって事か?」

 

「そう...だから、ごめんなさい」

 

 まだダンジョンの仕組みを何も知らない青年だったが、あのミノタウロスは本来あの階層に現れない魔物だと理解した。同時にアイズに深い感謝の念を感じる。あの戦闘における幸福感こそ青年が長年求めていたもの。そんな相手を自分の元に届けてくれたのだから。更には死に体だった体を治療してくれたのもアイズ逹だ。青年は頭が上がらないとはまさにこの事だと思った。

 

「...なら謝罪はいらない。あの魔物と出会わせてくれた事に俺は感謝してる」

 

「え?」

 

「ほぉ」

 

 青年の言葉に嘘はないと見抜く事の出来るロキは素直に驚きの声を上げた。あれだけの傷を負わせたミノタウロスと出会わせてくれて感謝する、などと言っているのだ。驚かない訳がなかった。それと同時に面白いとも思う。あのような経験をすれば心が折れても可笑しくはない。だと言うのにこの青年にそんな様子は見受けられない。

 

ーこいつ...なかなか面白い奴かもしれんな。

 

 ロキは知っていた。青年の背中に刻まれている筈の神の恩恵がない事に。それはつまり青年はレベルがない状態でミノタウロスを単独撃破したと言うことになる。レベルゼロでのミノタウロス撃破と言う偉業を達成する実力。そして心折れない胆力。青年は正しくダイヤモンドの原石と言える存在だろう。

 

「俺がここに来たのは強者を探すためだ。そんな相手に出会わせてくれた事を謝って欲しくはない」

 

「え、うん。分かった?」

 

「...本当に分かっているのか?まぁいい。...取り敢えず笑え」

 

「え?」

 

 突然青年にそう言われたアイズは意図を理解する事が出来ず小さく首を傾げる。

 

「目の前でそんな悲しげな顔をされたらこちらまで悲しくなる。だから笑え。それで今回の事は許す」

 

 青年自身一体どの口がそんな事を言うのか理解に苦しむが、目の前のアイズが青年の言った言葉の意味を理解していないのだから、そう言う他なかった。

 

 アイズも笑えと突然言われてどうすればいいか分からなくなるが、それで許してくれると言うのならと思い、ぎこちない笑みを浮かべた。

 

 それは一目で作り笑いと分かる程度のものだったが青年はそのぎこちない笑顔に一瞬だが見惚れてしまう。そう言った経験がまったくない青年だが、少なくともアイズの笑は錆びつき、血でまみれた青年の心を溶かす程のものだった。

 

「なぁにが笑えだこの坊主!うちのアイズたんに色目使いおって!やっぱりうちのファミリアに入れるべきやない!」

 

 青年とアイズの間に出来た穏やかな空気をぶち壊すかのように血相を変えたロキが青年に飛び掛かる。

 

「ッが!」

 

 青年が幾ら地力の強い男性と言っても腹に膝から乗られては痛みが生じる。それも青年は完全に油断しており、ロキが放った不意の一撃は文字通り青年の鳩尾に直撃した。

 

「この人もファミリアに入るの?」

 

 青年の頬を抓り左右上下に引っ張りまわすロキに対しアイズは止める事なく疑問を投げ掛ける。

 

「その予定やけど...その前にうちのアイズたんに色目使ったことは許せへん!今後の上下関係言うやつを今の内に教えといたるわあ!」

 

「や、やへろ!こひふをほめへくれ!」

 

 青年は頬を引っ張り回されながらアイズに助けを求めるがアイズは楽しげに心からの笑みを浮かべながら止める事はなかった。

 

 ロキの中で青年がファミリアに入る事は決定事項となっている。それは青年が英雄に足る器を持っているとそう判断したから。体に残る癒えない傷口の多さに心の闇を感じ取りはしたが、ロキはそれを含め青年の成長を共に見守ることにした。その判断がロキ・ファミリアにどのような影響を与えるのかは誰にも分からない。

 

 ただ、一つだけ言える事がある。ロキは青年の事を英雄足り得る器を持つ子供と捉えたが青年が持つ本質は真逆のものだ。英雄とは人々を救い、人々に愛される、そんな護る力を持った人の事を言う。だが、この青年が持つものはそれらとはどうしよもなく真逆のもの。人々から恐怖され畏怖の感情を抱かれる破壊の狂気。彼の本質を知ったファミリアの人間はどう動くのか。この出会いは何をもたらすのか。既に運命の歯車は回り始めてしまった。その歯車は神々にも、もう止める事は出来ない。

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