悪堕ち女神と悪堕ち勇者   作:髪様

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少しのみ誤字、表現の改稿しました。


悪堕ち女神と悪堕ち勇者1

<アウガレスト歴654年>

 

 一人の男が絞首台にかけられていた。見た目はそこいらの罪人とさほど変わらぬほどに薄汚れた男。一見して彼を誰が元勇者だと気付こうか?それほどまでに髭は荒れ放題に伸び、髪は乱雑に、そして垢をそのままにしている。

 

「罪人!アヴェリスト・ユーネライネンの絞首刑をこれより執り行う!」

 

 今死にゆく彼は彼は勇者だった。帝国内部で起こった内乱、周辺諸国、大陸全土をを巻き込んだ大戦争を終結させた英雄。数百の兵で城に籠り万の軍勢を押し返し、多数の悪逆貴族を打倒し、王族の窮地や多くの民衆を救った世紀の英雄。アヴェリストは民に優しく、正義感溢れる男だった。

 

「言い残すことはあるか!!」

 

 絞首刑にかけられる直前に行われる形式通りの問答。しかし、彼の口は塞がれており、実際には彼が何か言葉を発することは叶わない。大陸をまたにかける英雄の言葉は重すぎる。未だに彼を信じる者は当然一定数存在する。民衆を扇動されでもすれば堪ったものではないからだ。

 

 そもそも、この死刑自体が不正なモノだった。彼は何一つ天に背くことなどしていない。ただ綺麗な言葉だけを紡ぐ彼は、数多の利権を貪る輩にとって非常に邪魔な惨事ア出逢った。故に彼は騙され、在りもしない罪を擦り付けられ、今ここに処刑されようとしている。

 

「……では、刑の執行を行う!やれ!!」

 

 その声と同時に絞首台の床が抜け、勢いよく足場が消え去る。同時に巻き上げられた縄がアヴェリストの首の骨をぼろぼろに砕き、彼の命を奪い去る。若き英雄のあまりにも無残な最期であった。

 

 その後、アヴェリストの首が落され、獄門へと並べられる。民衆は帝国が発した嘘で塗り固められた罪状を信じ、台の上におかれたアヴェリストの首へと石を投げつける。

 

『裏切者!』『恥知らず!!』『外道め!』

 

 当初、群衆に紛れ込んだ偽物(サクラ)によって投げられた一つの石を呼び水に、同調した者たちによって大小様々な石が彼の顔面の原型がなくなるまで投合され続けられた。それと同時に聞くに堪えない罵声が浴びせられた。余りの悲惨さに誰もが見向きもしなくなった頃には彼の頭は(カラス)につままれ、眼球頬肉さえも零れ落ちた。

 

 そんある日、一人の美しい修道女が彼の首へと近づいた。

 

「哀れな、アヴェリスト。あぁ、貴方が何故このような辱めを受けねばならないのでしょうか?」

 

 辛かったでしょう。痛かったでしょう。悔しかったでしょう。人の為に生き、人の為に命を燃やしたのに、民草は貴方を見捨てたあまりか、こうして、鞭打った。国を世界を想った貴方を恥知らずどもは鞭打った。さぞ、無念でしょう。

 

 髪の毛も抜け去り、肉片の中から見える頭蓋骨によって辛うじで人の顔だと分かるそれを、座り込み抱きかかえ話しかける女を見て、狂気を感じ通報した民衆。そしてやって来た衛兵が彼女を取り囲む。モノがモノ、ことがことであったので、彼女の周囲を取り囲む者は更に増え、ついには多くの騎士も現れた。

 

「女、それが天下の大逆人と知ってのことか」

 

 騎士の長と思われるモノが修道女に問いかける。その問いかけに彼女は答えず、ゆっくりと立ち上がると、その頭を抱えたままに騎士たち、衛兵たちの方へと向き直る。

 

「大逆人?彼が大逆人ですか?……ふんっ笑わせるな、下等生物ども」

 

 修道服から覗く顔は、息をのむほどに美しい女だった。切れ長の整った蒼い瞳に、凍えるような白銀の髪。そして、その場にいる者すべてが彼女に既視感を覚えた。

 

「我が友を謀り殺した挙句、その名すらも辱めた唾棄すべき羽虫どもが……息をするのも烏滸がましい」

 

 鈴の音のような耳障りの良い声から、凍えるような言葉が紡がれる。その場に居る誰もが言い返すこともできず、彼女の罵声を受け入れる。

 

「許さんぞ、人間。我が勇者を無残にも殺したこと我は許さぬ。王族、貴族、民にも等しく呪いを落してくれる。これより、飢え、そして満たされぬ世を送るといい!!」

 

 そして、女は抱えた首をそのままに、風と共に消えてゆく。そして、一人が呟いた。

 

「女神エーデライト……」

 

 その呪いは、大陸すべてを暗黒の時代へと誘った。女神が導いた勇者が居なかったのならば、すぐさま訪れた暗黒の時代を。彼らは手に入れた平和と安穏を捨て去り、こうして世界は再びの終わりへと向かうのであった。

 

 

▽▲

 

 

「アヴィ?これも美味しいですよ?」

 

(……なんだこれは?)

 

 何か、気づいたら勇者になって、気づいたら処刑されたと思ったら、エロゲーにでも出てきそうな女性に膝枕されて、メロンを口元に運ばれている件について、誰か説明を求む。

 

「あの、すみません。アヴィって誰ですか?」

 

 生憎と彼の名前はそんな巻き舌を使いそうな名前でない。阿武 衣里人(アブ イリト)というコテコテの日本人である。

 

「えっ??アヴィリストだからアヴィ、いけなかったですか?」

 

 少し寂しそうに眉を落す彼女に対して、反射的に「いえいえ、問題ないです」と返す。きっと日本名前だから彼女みたいな異世界人?には発音しにくいのだろう。英語圏の人間が日本語を発音するときに少し困るときみたいに。

 

「しかし、許せないです。我が勇者をこうもいじめるなんて!大丈夫?私、頑張って治しましたけど、何か不都合はありませんか?」

「……我が勇者?」

 

 それに治したって、いやいやいや、だって自分の首の骨が砕ける音を聞いたのに?ありゃ即死モノでしょう。と思いつつ、そういえばと意識があることに驚く。死んだはずなのに、こうして彼女と会話をし、そして直に温もりを感じている。死人にはどちらもできやしないのだ。

 

「それにしても許せないです、慈悲深く世界を救おうとした貴方と女神たる私を裏切るなんて」

 

 ぷんすかと可愛らしく怒る彼女。頭には蒼い宝石が散りばめられた金色のサークレットと両耳の上に白い羽飾りつけ、法衣をまとった美しい女性。彼女は彼の現状について少しずつ語り始める。

 

 

 そして彼は今、異世界へ彼を飛ばした真犯人をここに見つけた。異世界に行ってしてきた苦労の全ての元凶。どうやら目の前に居る女性が根本的な原因らしい。とは言っても過ぎたことなので、彼にとってはどうでもいい。

 

「アヴィ。私、彼らに少しだけの呪いをかけて来たんですけど、それだけじゃ許せないですよね?貴方の恨みも一緒に晴らしましょうね」

 

 彼女が少しだけと評した呪いで、今現在亜大陸は貧困と飢餓に襲われ、内乱と略奪に満ち溢れている。作物は枯れ、僅かな水を争って地方が分裂し、少しばかりの利権を奪い合って家族でさえ殺し合う。女神によって現実に再現された地獄。

 

「……いや別にオレ、恨んでないんだけど」

「別に我慢しなくてもいいんですよ?私と一緒にあの愚かな愚民どもを面白おかしく滅ぼしましょう?」

 

 ……気付いたら、悪堕ち女神と一緒に悪堕ち勇者扱いされていた件について。

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