月夜見から渡された兵達の資料に一通り目を通したところで、出されていた茶を飲み干す。
少し温くなっていたが喉を潤すには充分だった。
資料を見てわかったことは2つ。
兵達の体力は、訓練に取り組まないせいで例年より著しく低下しているということ。
そして犠牲者が例年の2倍近く出ているということ。
「今の訓練の隊長は?」
「兵達に求める基準値が高くて、さらに士気を落としてしまっているようです」
「はぁ…」
望むだけで対策ができていなんじゃ、本末転倒じゃないか。
訓練場の下見でもして、指導の内容について考えよう。だがその前に隊長の座を譲ってもらわねば。
「訓練場に行きたいんだが、どこにあるんだ?」
「ご案内致します」
「あぁ、頼む」
俺は月夜見に連れられ、訓練場へと向かう。
訓練場は月夜見の仕事場から歩いて行っても、それほど時間はかからないらしい。訓練の様子を見るのも月夜見の仕事だとか。
〜訓練場にて〜
「広いな〜」
訓練場の端に木が生えているようだが、緑と黒の点にしか見えない。
「ここでは兵器の試験運用も同時に行っているので、これぐらいの広さがないと被害が兵達にも及ぶ可能性があるのです」
「兵器の試験運用と一緒に訓練とか…怖くね?」
「確かに、始めた頃はいつ死ぬか分からないからやめてくれ、と言われましたね」
守るために死ぬ覚悟で来たんだろ?
「兵士になったのにそんなこと言ってられねぇだろ…」
「その通りですね」フフフフ
月夜見が俺の言葉に対して、軽く笑う。月夜見は確か…龍妃が作り出した神の娘だったか?
伊弉諾と伊弉冉が国産み・神産みの際、火傷で死んだ伊奘冉を黄泉の国に行ってまで連れ帰ろうとしたが、恐ろしくなって逃げ帰った。
伊奘諾は黄泉の国から逃げ帰った後、体を拭いた時に天照と共に生まれた…中学の頃気になって調べたが、古事記と日本書紀で違うからわからんな。
聞いてみるのが早いな。
「なぁ、月夜見」
「はい」
「伊弉諾と伊弉冉は元気か?」
「ええ、健在です。どうかなさいましたか?」
「いや、少し気になってな…軻遇突智が生まれただろう?」
俺が気になるのは、伊弉冉が黄泉の国へ行ったかどうかなんだが…
「はい。その時母上は性器に火傷を負ったのですが、龍神様が火傷を癒して救ってくださいました」
「龍妃が?」
龍妃が救ったことに驚きはしないがあの2人が健在ならそれでよかった。
一度龍妃に紹介してもらったが、とても仲のいい夫婦だった。
兄妹とは思えないほど…
そんなことを考えていると、数十人程の人間が、的に照準を合わせてレーザーガンを構えていた。
「あれかな?」
「はい。あちらが都市唯一の軍事組織です」
俺の問いかけに月夜見が答える。
都市唯一の軍事組織だと言うのに、その訓練の光景は余りにも軍事組織の訓練とは思えない。
トリガーを引く指は微かに震えており、重心を掛ける位置が悪くて姿勢も不安定だ。
訓練でこれか…
「こりゃ死傷者も増える訳だ…」
「どうなされますか?」
俺は聞こえないように独り言を呟くと、月夜見が俺に問いかけてきた。
まず、俺が指導することは確定の筈だから、兵達に俺のことを知ってもらわなければ。
「とりあえず、全員集めてくれ。あぁ、ついでに俺の身分は隠してくれよ?」
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「最高神の親が自分たちの訓練の指導してるって知ったらどう思う?」
「…それは…訓練どころではなくなりそうですね…」
そういう訳だ。
「では招集をかけますので、少々お待ちください」
「りよーかい」
俺の軽い返しに月夜見が少し微笑んでいた。
相変わらず月夜見の敬語は抜けないが、いつか普通に話せたらなと思う。
しばらくしてほぼ全ての兵が集まった。
整列をしているようだが、その表情は疲労で歪んでいる。
「訓練中に招集をかけてしまい申し訳ない」
月夜見が謝罪をするが、あくまで建前なのは分かりきっている。
月夜見は以前の整列のスピード・態度であれば心から謝罪をしたのだろうが、今の兵達の態度に謝罪をするということがバカバカしく思えてくる。
実際俺もそう思うのだから。
整列のスピード・態度は小学生の方がマシなレベルだ、
まぁこの時代に小学校と呼べるものがあるかは分からんが。
兵達は月夜見に何を言われるか分からず、不安でどよめきが起こっている。
「君達を招集したのは、あるお方を紹介するためである。私の友人であり、文武共に優れた才能を持つお方だ」
訓練場が静まり返る。
月夜見本人が称賛するような人物がこの世にいるのだろうか、という表情だ。
まぁその話題に上がっているのは俺な訳だが。
「そのお方が、こちら魅剣 真様である。真様は永琳の窮地を救っていただいた恩恵があり、共にこの訓練の隊長を務めていただくことになっ「す、少しお待ちください」なにかしら?」
上機嫌で話し続けていた月夜見だったが、1人の兵によって変わったその表情は煩わしさを感じさせるものだった。
「わ、わたくしはどうすれば?」
「貴方は今日をもって解任です。日々の訓練の成果が出せていないのもありますし、何より貴方は任務にほとんど出向いていない」
「そ、そんな…クッ」
結構キツイこと言うなー…
対して隊長と思われる人物は、月夜見に反論する事が無意味だと悟ったと同時に、その行き場のない怒りを俺にぶつける事にしたようだ。
「こ、この人間より私が劣っているという事ですか…」
「劣っているか、いないかではありません。まず貴方では真様に擦り傷一つ付けられないのですから」
「おいおいそこまで言わなくてm「なんだと!?ふざけるな!今まで訓練してきた俺がこんな人間に劣るだと!?」…」
酷い言われようだ…
ここで何か言い返したいものだが、中々思いつかないな。
「こんな人間ですって?貴様誰に向かって口をk「落ち着け月夜見」は、はい」
とりあえず激昂しそうな月夜見を宥めはしたが、兵達は俺が月夜見を様付けで呼ばなかったせいで騒がしくなった。
ミスったな…
「お前も何者なのかは知らないが、この俺の地位を奪おうとするとは愚かな奴だ。俺は軍部だけでなく、政治でも上にいる人間だ。お前など俺が捻り潰してやる」
おお〜なんとテンプレな悪役台詞。
こいつ面白いな…少し遊んでやるか。
「貴様!成り上がるのもいい加減n「月夜見、もういいから」しかし…」
俺は月夜見を宥め、隊長に視線を移す。
「あんた…要するに隊長の座を俺に譲りたくないと」
「フンッ!あぁ!そうだ!お前のような脆弱な人間にこの地位がやれるかぁ!」
随分と気が立っているようで、目は血走り、ギリギリと聞こえそうなほどに歯軋りが起きている。
「お前もだ月夜見!この俺を差し置いてこの様な男を信用するとは!全くこれだから俺はお前が管轄する軍部になど入りたくはなかったのだ!」
「私は最初からお前が軍部に入る事など望んでいない!」
「なんだとこのクソ女ァァ「黙れ」ヒッ」
俺は今こいつが口走った言葉を聞いて、頭の中の何かがプツンッと切れた。
「そんなに隊長を辞めたくないなら、それだけの技量を見せろ」
「あぁいいぞ!お前など俺の足元にも及ばん!」
それはどうだか…
こいつぁぁぁ臭えぇぇぇ!ゲロ以下の臭いだ!
さっきの言動も態度も含めて!こいつぁぁ生まれ持ってのクズだ!
女性にクソ女などと言える様なそのきったねえ口を!2度と開けねえ様にしてやるぜ!
まぁしないけど。
「さっ、かかってこいよ。俺は早めに終わらせたい」
「貴様ぁ」
さてどうするかな…
あいつのプライドも全てズタボロにできる方法を考えなきゃな…
「月夜見の心を傷つけた代償はデカいぞ?」
読みにくい場合は改善策を考えますので、是非感想・アドバイスを頂ければと思います。