真様に軍を指揮していただけると分かって、つい昂ぶってしまい根回しを忘れていた。
あの男をまず外さなければならないのに、私はその事をすっかり忘れて、真様に迷惑を掛けるような状況を作ってしまった。
「月夜見の心を傷付けた代償はデカいぞ?」
真様///は、恥ずかしいです///
「ほざけっ!」
本っ当にコイツは…これが終わったら徹底的に潰してやる…真様にあんな口の聞き方…
「コイツで吹き飛ばしてやらぁ!」カチャッ
「んな!?」
あれは試作型のレーザーライフル!?なんであいつが持っている!?
「なんだそれ?」
「これは試作型のレーザーライフルだ!支給されているレーザーガンの倍の威力!永琳様が極秘に作っていたようだが、軍部の全ての情報を握っている俺が見逃す訳がないだろう!」
しまった…しっかり情報操作を行っていなかったせいでこうなるとは…
自分のミスのせいで真様に銃口が向けられていると思うと、どう償えばいいのか分からなくなってくる。
「ふ〜ん…そうか、じゃあ楽しませてくれるんだよな?そんな玩具まで用意してたんだし」
「お、玩具だと?貴様ぁ…どこまでも舐め腐りやがって…俺の地位を奪うだけでなく侮辱するだと?」
「だからどうした?成果も出せず、対策も講じようとはしなかった。所詮お前はその程度だったと言う事だ」
真様が満面の笑みで正論をぶつける。やべぇかっけぇ…
こんな状況なのに笑顔が輝いている!
「野郎ぶっ殺してやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!顔面吹き飛ばす前にど玉ぶち抜いてやる!」カチャッ
まずい!照準を合わせ始めた!
「真様!」
私は、真様を射線上から少しでもそらす為に走り寄ろうとした。
しかし、それを真様は手で制した。
「死ねぇぇ!」
奴がトリガーを引く。
その刹那、私は悔しくも目を閉じてしまった。
真様が撃ち抜かれる所など見たくない。
そんな自分が情けなくなって私は涙を流した。滝のように流れる雫は止まることはない。
真様を救えなかった自分が憎くて憎くて堪らない。
「クッアッハッハッハッハッ…は?」
「どうした?笑えよ…」
「え?」
真様の声が聞こえて、私は重い瞼を上げる。
そこには、変わらずあの笑みを浮かべた真様が立っていた。
「な、な、な、な!何故だ!何故当たらん!」
「そりゃ避けたからに決まってんだろ」
「光速を避けるだと!?」
私は現状が理解できず、真様と奴の会話を聞き流していた。
「別にお前が撃った後に避けた訳じゃない。お前がトリガーを引く前に射線を予測して、指を掛けた時点ですでに避けていただけだ」
「だ、だが、お前は撃つ時にはそこに」
「答えを教えてやろうか?」
訓練場にいる全てのものが息を殺した。
真様の次の言葉を一字一句聞き逃さぬように。
「残像だよ」
『……は?』
今なんと?残像?レーザーの光速に対して残像?
「お前は俺の残像を見て、まるで俺がまだそこにいるかのように錯覚しちまったのさ」
「う、嘘だ!嘘に決まっている!」
真様から発せられた言葉に混乱し、奴は必死に否定する。奴には否定する事しかできないのだ。
絶対的な力を持つ真様を相手に、少しずつ絶望の淵に近づいて行く奴の顔は、青白くなっていた。
「はぁ…分かったよ」
真様は溜息をつくと、片方の足を軸に回転し、もう片方の足で地面に円を描いていった。
「ほいっと。じゃ、次は接近戦だ。俺はこの円の中で動かねえから、お前はひたすら攻撃してこい。一撃でも俺に当てられたら、俺は引き下がろう」
「なんだと!?貴様はさっきから俺を舐めているのか!?」
「言わずもがな」
さらに真様は煽っていく。
もう既に勝敗は決したようだ。
あの真様の表情。満面の笑みの筈なのに、嘲笑いという言葉の方が似合っている。
口の端は耳まで吊りあがり、目は閉じているものの、瞼の間から見える黒目は玩具を前にした子供のような目だった。
「さぁ…こいよ」クイックイッ
「ッ!フンッ!その気味の悪い顔面!叩き潰してやる!」ダッ
嘲笑うような笑みのまま、真様は手を伸ばし、指を曲げて奴を挑発する。
奴は挑発に乗せられ、拳を握り、駆け出した。
確かに今の真様の表情は、他の人間からしてみれば気味の悪いものに感じられるだろう。だが私は、それよりも真様が笑っていることに歓喜さえ覚える。
「オォォラァァァ!」
「…」スッ
奴は、駆け出した時の勢いを殺すことなく拳を振るう。
しかし、その拳は真様に当たることなく空を切る。
「どうした?遅いぞ?」
「ッ!フンッ!!!」ブンッ
「よっと」グイッ
拳を避けられ、煽られた奴は回転蹴りで頭に致命傷を与えようとするが、それもまた真様は背を反らす動作だけで避け切った。
「おっそいぞぉ〜、つまんないんだけど…」
「だッ!まッ!れッ!」
真様は余裕、いや退屈なようだ。
奴が繰り出す攻撃は一撃一撃が強力なものだが、当たらなければ意味がない。
他の兵達も戦闘、いや遊びだな…
この遊びに感嘆の声を漏らしている者もいる。
「ハァ…ハァ……ッハァ…」
「おいおい、どうした?俺の顔面を叩き潰すんじゃぁなかったのか?」
「だッ…まれ…ハァ…ハァ…」
どうやら奴はまともに訓練をしてきていなかったのもあって、体力の限界を迎えたようだ。
まぁ訓練をしているからといって勝てるわけではないのだが。
「次お前の一撃を避けたら、俺がお前の顔面に拳を叩き込むぞ?」
「やッ…てみや…がれ…ハァ…」
「よっしゃ!かかってきな!」ピョンッピョンッ
ピョンピョンと跳ねながら奴を挑発していくスタイル。
外野の私達でも鬱陶しく感じる。
「おらぁぁ!」バサッ
「ッ!?」
!?小癪な!
砂を投げて目潰しを仕掛けた!
このままでは真様が!
「貰った!死ねぇぇぇぇぇ!真ぉぉぉぉ!」 ブンッ
奴は最後の一撃というように、全身全霊を込めたような拳を放つ。
どこまでも汚い奴だ!
何とかして真様を…真様?
「…」
何故動かないのだろう。
奴の拳はあのままだと、確実に真様の顔面に直撃してしまう。
だというのに、真様は何故避けない?
「死ぃぃぃぃにやがれぇぇぇ!」
「…」スッ
奴の拳が眼前に迫った辺りで、真様は拳を構え、避けた。
そして次の瞬間…
「オォォラァァァァァァァァァァァ!」ブォンッ
「ぶべらッ!?」メキャツ
ズザザザザ--
真様は空気そのものを殴る勢いで、奴の顔面に拳を叩き入れた。
奴は顔面の骨が砕ける音と共に、後方に数メートル吹き飛んだ。
「ふぅ…顔面に叩き込まれるのは…テメェの方だったな…」
「…」
もちろん奴の返答はない。
顔面を砕かれ、意識が飛んでいるのだ。
その証拠に、奴の目は白眼を向いて、口からは血と混ざった泡が吹き出ている。
「月夜見を傷付けた代償が、この程度で済んで良かったな…できる事ならテメェを破滅まで追いやりたいところだが、その顔の傷を背負って苦しんで生きて貰った方が償いになる」
かっ、かっ、カッケェェェ///
そ、そんなに私の事を思っていただけるなんて///
あぁ…今なら死ねる。この幸福感に包まれながら死にたい。
他の兵達に奴を運ぶよう指示した真様は、私に目線を移し、歩み寄ってきた。
「月夜見…大丈夫か?」
「ハッ!?ま、真様!お、お怪我は!?」
「とりあえず落ち着け」
〜数分後〜
「落ち着いたか?」
「は、はい」
涙を流していたせいで、目は赤く腫れ上がり、頰には線が残っていた。
真様は、そんな私の情けない顔を見て心配してくださったのだろう。
「ありがとうございます…そして申し訳ありません…私が先に解決していればよかったものを…」
「大丈夫大丈夫、気にするな」
「し、しかし」
真様は私の謝罪は軽く受け流し、責めることはしなかった。
「それよりもだ」ズイッ
「ひゃい!」
真様が急に顔を近づけてくるから、噛んでしまった…
息のかかる距離まで近づかれて、私は多分、顔が沸騰しそうなぐらい赤くなっているだろう。というか熱くなっている。
「大丈夫だったか?」
「へ?」
「あんなこと言われてよ」
「あ、あ、大丈夫です」
まさかここまで心配していただけるとは…
真様を見ていると湧き出るこの胸の熱い感情…答えがやっとわかった気がする…
まだ出会ったばかりだが、これは…
「真様」
「どうした?」
「私…」
恋慕
「真様が好きです」
「……ふぁ?」
月夜見「真様真様真様真様…」
さて…次回、月夜見の恋は実るのか!
戦闘について感想・アドバイスなど頂ければ、修正・改善に取り組んでいきたいと思います。