モッ...モリアさんは最強なんやで(棒読み)   作:ニルドアーニ四世

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*6月8日、ハリス・アーノルドの父親の名前をマヘス・アーノルドとしていましたが、ワンピースの世界では“姓”→“名前”の順であるという指摘から修正させて頂きます。私の凡ミスでキャラの名前を変更するという事から混乱を招き申し訳ありません。

修正前 マヘス・アーノルド ✖️
修正後 ハリス・ヴァルジャーク ○


死の行商人

 

 

 

 

〜18年前、ハリス・アーノルド(10歳)〜

 

 

 

 

 

<グランドライン>

 

 

 

 

 

 

とある国は隣国との戦争の真っ只中であった。きっかけは些細な事に過ぎなかった。

 

たまたま王族の一人が船に乗って旅行をしているとハリケーンに遭遇していまい。そして不運にも仲の悪かった隣国の海岸へ打ち上げられたのだった。

 

政府はすぐさま交渉を行ったが、その渦中に持病の発作で死んでしまったのだ。薬を与えてやればすぐに治るのだが、持ち物は常備している薬を含めて全て没収され当人の訴えは仮病と判断され無視された。

 

元々隣国の鉄資源を狙っていたため、これを理由に宣戦布告をし戦争と発展したのである。

 

 

 

 

 

それから3年後、この戦争とはまったく関係のない男が経済面で国の大臣と商談を行なっていた。彼は白く長い髪をポニーテールにしてゴムで結んでいる。歳は30代半ばと思われ鍛え抜かれた肉体と不遜な態度からカリスマ性の様なものを持ち合わせていた。

 

「商品は如何かね?」

 

部屋へゆっくりと響き渡るような低い声で丸眼鏡に黒い顎髭を携えた大臣へ問いかける。彼の名は“ハリス・ヴァルジャーク”、グランドラインでは名の知れた武器商人であった。

 

この国の兵士が使用する銃を必要としていると判断したのか、アポを取らずにいきなり現れ商談を持ちかけたのだ。実に無礼な振る舞いだが大臣は許さざるを得なかった。

 

男の通り名は“死の行商人”、新世界でそこそこ名を馳せた傭兵でありながら数年前に戦場から退き武器を仕入れ売り捌くようになったのである。

 

彼には良からぬ噂が流れていた。あるマフィア同士の抗争中の真っ只中に現れ、資産に余裕のある方へ商談を持ちかけたのである。

 

今回と同じくアポを取らずにふらりと現れたことから無礼だと追い返したところ、そのマフィアは3日後に滅んだ。

 

敵対していたマフィアがそれまでにない程に戦力を増備したのが原因だった。強力な武器と屈強な傭兵を配備したが、どう考えてもそれらを調達する資金が割に合わなかったのである。

 

そしてある憶測が広まった。マフィアへ武器や傭兵を用意したのはヴァルジャークであり、それらは無償で行われたのだとーーー。

 

 

無償提供など商人であるならば考えられない行動であり、当時の人々はその理由を考えたが一向に謎が解けることはなかった。

 

そして後に彼と何度も商談を行っている者がその答えを記者へ漏らした。

 

ヴァルジャークにとって儲けなどに興味がない。ただ武器を捌き、その武器で何かを滅ぼす事に意味があるのだ。さしずめ商談とは彼の楽しみの第一歩であり、ルーティーンと言える。

 

君は楽しみで行った場所が期待はずれであればどう思うかね?私は落胆するだけだ。

 

しかし、ヤツは違う。初めから何かを滅ぼすことにしか興味がない。楽しみな場所などどうでもいいのだよ。つまり彼にとって金を稼ぐ事とは趣味への投資なのだ。

 

 

 

 

それから彼の異名がついたのである。だがそれと同時に彼は商談においての約束は絶対に守る男であると有名だった。

 

以前、反乱軍(レジスタンス)と取引を行い、ある武器を仕入れる約束をした。だが不運にもそれを生産していた企業が倒産し、社員の多くは全て他の企業へ買収されてしまった。

 

そこで彼はその買収した会社の社長へ会いに行き、買収した倍の金額を支払い、会社を独立させると共に社員達の大多数を金の力で奪い返した。

 

そしてその武器を再生産させて取引を完了させたのである。むろん追加報酬など受け取らず約束通りの金しか受け取らなかった。

 

 

ヴァルジャークを信頼できる商人として招き入れようとした国、組織、テロリストは多くいたが彼がそれに応じたのは一度たりともなかった。彼は金儲けよりも己が楽しむ事を選ぶような男だった、自分の眼で見て商品を売り、武器で全てを破壊され尽くしたモノを見るのが何よりも好きだったからである。

 

「ふむ、かなり質がいい。だが我らの戦争もじきに終わる。果たして武器が必要があるのかと疑問になるのだよ。」

 

大臣はヴァルジャークという男がわからない。この国に武器を売る理由がないと考えていたからだ。彼にとって何か思い入れがあるわけもなく戦争は終結寸前である。

 

戦局はこちらの圧倒的優位である。己の手を汚さずに破壊を望む彼が既に破壊されかけているモノに果たして興味があるのかと考える。そもそも噂通りの男ならば自分達でなく相手側に加担するのが自然だと思われる。

 

しかし例のマフィアのように無下にあしらって敵国に加担されるよりは無理に取引をすべきだと理解はしているが、戦時中であるために国の金庫は少々寂しかった。

 

こちらに武器が必要ないと思わせて最低限度の武器のみを仕入れようと結論づけ、彼に資金源が心許ない事だけでなく、密かに購入の意思が無いことを悟らせようとした。

 

「例えばこのモデルは従来より小型で扱い易いのが特徴でな、極論を言えば子供でも兵士になれる。」

 

ヴァルジャークは机の上に開かれたカタログの中の1つに指を指して、特徴を説明し始めた。

 

その言葉に大臣は少しギョッとした。どう追い返すかを決めたタイミングに彼は商談を勧めにきたのである。まさか自分の魂胆を見抜かれていたのかと少し焦りながらも返事をする。

 

「...確かにそれは便利そうだ。サンプルを用意してくれないか?」

 

「感謝するよ、大臣殿。」

 

ヴァルジャークは貴様は私の掌の上だと言わんばかりに顔を歪めてニヤリと笑った。そして彼はポケットの中から“でんでん虫”を取り出すとある番号へかける。

 

「例の小型モデルを持ってきてくれ。」

 

彼が電話をかけた先に一言指示をする。返事を待たずに“でんでん虫”の通信を切断すると、大臣へ向けて右手の指で全て立てて5分だけ待ってくれないかと言った。

 

4分と30秒ほど経つとヴァルジャークは軽く微笑みながら大臣へ言い放った。

 

「私の見立て(・・・)より早かったようだ。」

 

大臣は怪訝な顔をして彼の意味深な言葉の真意を考える。すると人の気配がして素早く目線を向けると、部屋の窓の縁にアタッシュケースを背中に括り付けている白い髪の少年が立っていた。

 

「おぉ、子供がどうしてこんな所に?」

 

大臣は冷や汗をかきながら呟く。外にはヴァルジャークが訪れてから警備の者を増員させたはずだった。アタッシュケースを背中に括り付けいる少年を見れば敵国のテロだと判断して騒ぎになるだろう。しかし周囲はとても静かであった

 

「あぁお構いなく、私の息子だ。」

 

ヴァルジャークは薄気味悪く笑いながら目の前の少年が怪しい者でないと伝えた。

 

彼の息子は一言も発することなく、アタッシュケースの中から幾つかに分解された部品のようなモノを慣れた手つきで組み立て始める。

 

10秒ほどすると先ほど前向きに検討していた小型の銃が完成する。この瞬間に大臣は彼の息子の潜入スキルと警備の甘さを痛感させられた。既に部下から彼が息子を連れてきており、大量のアタッシュケースと共に城の一室に待機させているという報告を受けていた。

 

待機部屋からここまでは歩いて5分はかかる。更にヴァルジャークが訪れたことを皆へ知らせておらず知らない者が見れば息子を捕らえにかかるだろう。しかし商談をしている者の関係者を制圧して進む訳にもいかない。だからこそ壁を伝ったり、部屋と部屋の窓から移動して警備の穴を掻い潜ったのだ。

 

「戦争が終わればこんな事も出来ましょう。」

 

ヴァルジャークは心が乱れている大臣へ更に問い掛ける。彼は窓の外から鳥の群れを指差す

 

すると息子は銃を構えて狙いを定めると銃の引き金をひいた。銃弾は群れの中の一羽の鳥の胴体を貫くとそのまま地面へ落ちていった

 

 

 

ヴァルジャークは一瞬だけ不愉快そうな表情をしたが、すぐに笑顔になり正常な判断すらできない大臣へ語りかける。

 

「小型であるが故に反動も小さく、親子で狩りなども楽しめますな。」

 

「.......買おう。」

 

「感謝するよ。」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

1時間後

 

 

 

 

〜馬車〜

 

 

 

 

 

取引を終えたヴァルジャークとその息子であるハリス・アーノルドは2人で馬車に乗って移動していた。この親子の会話などあるわけもない、彼は息子に次の商談相手の拠点の間取りや警備の情報の書かれたファイルを暗記させていた。

 

「今日の潜入は良かった、私の見立てより早かったのは構わん。遅くさえなければな。」

 

商談の秘訣とは相手を追い込みつつ正常な判断をさせないことであるとマヘスは語る。その為に息子の危険を冒してでも無理な潜入をさせるのである。

 

悪名高い自分(商人)の相手をするとなると優秀なヤツである。無論、頭はよく思考力も想像力も優れているはずだ。今日のように現れたハリスが商品を持ってくるのではなく、もし爆薬を持っていたらどうなっていただろう。一人前でもプロでもない年端のいかぬ子供に痕跡なく潜入を許せば誰であろうとも怯む。ましてや優秀なヤツほど自体を重く受け止めて失態を大袈裟に考える。

 

「...だが銃の腕は未熟のようだ。アレは頭を撃ち抜けと言ったはずだ。」

 

「すみません、父上。」

 

アーノルドはファイルの中から拠点の間取りからどの部屋で商談が行われても構わない侵入経路を探しながら謝罪をする。

 

「まぁ結果として商談は想像以上に上手くいった。だからこれ以上の追求は必要ない。」

 

ヴァルジャークはそう言うとアーノルドにこの国で名産の菓子を渡した。礼を言われても表情1つ変えない父親に息子は軽く笑みをこぼす。

 

「ところで今日の商談は必要なんてありましたか?武器なんて必要なさそうでしたよ。」

 

アーノルドはこの国の情報のまとめられたファイルに記載してあったように戦争は終わりかけていることから、城下町や城内の様子を観察して商談が成立する可能性が低いだろうという算段をつけていた。

 

「じきにわかる。楽しみにするといい。」

 

 

 

ヴァルジャークはとても愉快そうな顔を浮かべてアーノルドへ言い放つ。息子は父親のように破壊には興味がなかったが、何か理由があるのだろうと考えてこれ以上何も質問しなかった。

 

 

 

 

 

この出来事の半年後に戦争は終結した。むろんヴァルジャークと取引をした国が勝利し、兵士に支給していた武器は城の倉庫へ保管するはずだった。しかし財政は最悪で借金すら抱えていたために彼との取引で手に入れた大量の小型の銃を狩猟、護身用として国民へ売り捌いた。

 

そして兵士として男性の数が激減したことや経済政策がうまく行かずに借金はどんどん増えていった。やがて負債を負債で返す日々が続くとその国は経済破綻に陥ったのである。

 

やがて国民達が立ち上がり内乱が各地で起きてしまった。政府軍と市民軍に分かれて激しい戦火を撒き散らし始めた。ちなみに市民軍の多くは子供(・・)だった。

 

だが政府軍には資金と武器が圧倒的に不足していたのである。借金の返済と国民らへ売り捌いたためである。そのせいでヴァルジャークの手配した銃を手に取った反乱軍が取引を行なった者達へ向けられ(破壊)されていく。

 

 

取引から10ヶ月後には国が崩壊しており、見るも無残な光景のみが首都を埋めていた。反乱軍によって統治されることとなったが経済に詳しい者などいるわけもなく国の経済状況は更に悪化。統治者が変わったからといって借金を踏み倒すことなどできるわけもない。

 

やがて力を盛り返した敵国から侵攻を受けて国そのものが世界の地図から消え去った

 

新聞でヴァルジャークがこの話を知った時は身体を後ろへよじらせながら愉快そうに笑い続け、大人しくなると掲載されていた首都の崩壊を写した写真を満足そうにずっと眺めていた。

 

 

 

 

国をも滅ぼす“死の行商人”がハリス・アーノルドの父親だった。

 

 





ハリス・アーノルドの父親の名前は私のミスです。完全に姓と名前の順番を失念していました。今まではハリスを名前であるかのように使っていましたが、混乱を広げないために今回だけアーノルドとさせて頂きました。

念の為に次の話の冒頭にもほぼ同じ内容の文を載せておきます。本当に申し訳ありませんでした。

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