モッ...モリアさんは最強なんやで(棒読み)   作:ニルドアーニ四世

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先日、前回の話でオリキャラの名前に関するミスの指摘を頂きました。詳しくは一話前の冒頭に記載していますのでご確認頂ければ幸いです。

本当に申し訳ありませんが、ご了承ください。



竜の烙印

 

 

〜取引から一年後〜

 

 

 

 

 

<シャボンディ諸島、ヒューマンショップ>

 

 

 

 

 

 

王下七武海の一人、ドンキホーテ・ドフラミンゴのシンボルによって合法となっている人身売買の施設にハリスはいた。

 

彼の首元にはセンサーを搭載された首輪が嵌められており、他の商品と共に牢屋の中に閉じ込められていた。小人や魚人族、ミンクもいたが彼らの目には恐怖と絶望以外に映っているモノはなにもなかった。奴隷として誰かに購入されペット以下の扱いを受けるだけだと理解していたからだ。

 

しかしハリスは無表情で天井だけを見つめていた。純粋に残りの人生に興味がなかったのかもしれない

 

 

 

 

“死の行商人”として名を馳せたハリスの父親は怨みを持つ者に毒を盛られ死亡。そしてその一味にハリスは捕まりヒューマンショップに売り飛ばされたのである。

 

彼は生まれた時から父親の側について生きていた。母親は彼を産むと同時に亡くなり父親一人に育てられたのである。自分の手を汚さずに破壊を楽しむ性格はよくわからなかったが、彼にとっては家族だった。

 

しかし亡くなってみても悲しいという感覚がなかった。正確には分からなかったのだ。ハリスの父親は武器商人としては一流だったが、親としては少し性格的な面で欠落していた。己の快楽の為に子供を利用する点において彼は教育や鍛錬の努力は惜しまなかった。

 

だが息子へ父親としての愛を与えるのが少し不十分だったのだ。さらに目の前で破壊されたモノを生まれた時から間近であったために“父親が破壊された”。それ以上にハリスの頭には何も浮かばなかった。

 

 

結果としてとある国の婚期を逃した貴族の醜女にオークションで競り落とされた。彼女にとっては初めてのヒューマンショップで見学のつもりだったが、ハリスをひと目見て気に入り競り落としたのである。

 

 

ハリスは食事や風呂、寝室は用意されているなど奴隷としては珍しいほどに恵まれた待遇だった。

 

暴力や重労働などは一切なかったが、彼女の部屋にほぼ一日中軟禁されていた。彼にとっては暇を持て余すぐらいしか嫌なことはなかったので今の立場に比較的満足していた。

 

貴族としての付き合いで多忙な彼女はたまに帰ってくると、ハリスの服を脱がしてベッドへ突き飛ばすと馬乗りになる。そしてそれら一通り終えると彼女は愚痴を聞いてやる日々を過ごしていた。彼は父親からそのような教育を受けていなかったため、彼女から愛を確かめ合う儀式と教えられていた。

 

その後に愛とは何か?と訪ねたハリスに彼女は何も答えられなかった。

 

 

 

 

ある日、珍しくハリスは主人の買い物に付き合わされていた。彼女は従順なハリスを大いに満足しており、暇を持て余している彼に友人を与えるためにヒューマンショップを回っていた。ミンクや小人を品定めするためにオークション会場へ訪れたのである。

 

「ハリス、向こうへ行きますわよ。」

「了解しました。」

 

ハリスは主人の容姿の醜さを誤魔化すように散布されたキツい香水の匂いを嗅がないように早口で返事をする。彼は奴隷にしては珍しく脱走を試みたことはなかった。

 

なぜなら彼女の部屋以外に自分の居場所がないと理解していたことと普通の人間としての生活を知らなかったからである。

 

 

 

空いた席へ向かっていると主人の顔が一瞬で表情が強張ると軽く震え始める。ハリスが目線を辿ると目の前には滑稽な髪型をした醜い家族がいる。皆は全身を外気から身を守るためかシャボンのマスクと防護スーツを身につけていた。

 

素早く目を逸らしてハリスの腕を掴んで急ぎ足で席へ向かおうとする。彼はふと目の前の一家の端にいた自分と同い年ぐらいの少女と目が合う。他の者達とは異なり身体の線は細く整った容姿をしていた。

 

 

 

そんな些細なことが気に障ったようだった

 

 

 

 

『そこのお前、儂の娘に色目を使ったぇ。奴隷に見られるなど穢れてしまったぇ。』

 

一家の中で父親らしき男が粘着質のような声でハリスへ不快そうに言い放つ。彼はなぜこの太った醜い男がこれほど怒っているのか理解できずにいた。

 

「申し訳ありません!私めの奴隷が無礼な行為を、どうかお許しをタルモント聖ッ!!!」

 

すると彼女は大量に汗をかきながら悲鳴に近い声で謝罪をした。この一家はただの家庭ではなかった。彼らは貴族なのではない、800年前に世界政府を創ったとされる20人の王の末裔とされている世界で最も崇高であるとされている一族、“天竜人”である。

 

どれほど不条理で傲慢なことをしでかそうとも罪に問われることはない。更に彼らに手を出せば海軍大将による報復が待っている。その為に彼らの横暴かつ下賤な行動の全ては許される。

 

『誰がこの儂に口を聞いてよいと許可したぇ?』

 

主人にタルモント聖と呼ばれた男は静かに冷たくそう言った。その言葉にオークション会場は静まり返る。彼らの機嫌を損ねた者は全てが同じ末路を辿っていたのを知っていたからである。

 

唖然としたハリスの主人は全身を強張らせて全身を痙攣させるように震え始めた。そしてへなへなと腰が抜けて地面に座り込んでしまう。やがて狂った猿の玩具がシンバルを無意味に鳴らし続けるように何度も何度も謝罪の言葉を呟き続けていた。

 

『そこの白髪、お前。なぜ頭を下げん?不敬だぇ。』

 

 

(頭をさげる?なぜこんな豚に...。)

 

 

タルモントはこめかみに筋を入れながらハリスへ頭を下げて許しを乞うよう言う。だがハリスは天竜人の事など知らなかった。彼にとってはただの醜い人間もどきのブタが騒いでいるだけのように感じていたからだ。

 

 

 

『ふん、今日は競売を楽しむつもりが興醒めじゃ。おい、女。その奴隷は幾らで買ったんだぇ?』

 

タルモントは突然立ち上がるとハリスの主人へ質問をする。

 

「ひっ...73万ベリーでした。」

 

彼女は震えながら質問に答えた。人間の男の最低価格は50万ベリーである。

 

だが子供は泣き喚いて奴隷として満足な働き手にならない事が多かったために欲しがる者は少なかった。純粋にハリスの容姿から将来、化けるであろうと判断した女達が競り合った結果、彼女の所有物となったのである。

 

 

 

『買い取るぇ。』

 

「えっ?」

 

タルモントはハリスの買い取った値段を聞くと側にいたサングラスをかけた黒いスーツの護衛らしき男に金を渡すよう合図を送った

 

『なにか問題でもあるのかぇ?』

 

「いいえ、差し上げますわ。」

 

反射的に否定的な態度をとってしまった女に対してジロリと睨んで黙らせる。そして黒服の男が金を押し付けるように渡してくる。

 

 

ハリスの主人は己のバックの中から首輪の鍵を黒服の男へ渡そうとすると、タルモントはそれを遮った。

 

 

 

『すぐに返してやるぇ。』

 

タルモントは己の懐から金や宝石で豪華に装飾されたピストルを取り出してハリスへ向けた。オークション会場にいた一部の女性達が悲鳴をあげると、ハリスと目があった少女が口を開いた。

 

『耳障りアマス。』

 

彼女の呟き一つでオークション会場は物音一つせず静まり返る。すると娘を溺愛しているタルモントの表情が強張り周囲の観客達を軽く一瞥すると、皆は下を俯いて目立たぬようにしてやり過ごそうとする。

 

 

『...父上。私はこの奴隷にするアマス。』

 

少女は父親であるタルモントにそう言った。軽く笑みを浮かべながらハリスを舐め回すように見る。

 

『こんな貧相な奴隷でいいのかぇ?』

 

タルモントは娘に確認をとる。彼女をここに何度か連れてきた事はあったが、今まで奴隷を欲しがったことなどなかったのだ。

 

「大人は嫌アマス、それに若い方が長く持つアマス。」

『わかったぇ。』

 

タルモントは娘の考えを聞くと尊重することにしたようだ。天竜人と言えども自分の肉親は可愛く見え、嫌われないように波風を立てないことにしているようだった。

 

『私はさっそく城に帰るアマス。奴隷はもうコイツだけで満足アマス。』

『そうかぇ、お前達、送ってやるぇ。』

 

タルモントは護衛の黒服の半数を娘の送り迎えに付き添わせる。そして彼女はハリスの首輪についているリードを強く引っ張り、軽く引きずるように彼を城まで連れて帰った

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜聖地マリージョア〜

 

 

 

 

 

シャボンディ諸島から天竜人の居城のある“赤土の大陸(レッドライン)”へ帰還した。ハリスは途中から諦めて素直に歩いて彼女の後ろを付いて行っていた。すぐ側にいる護衛達が厳重な警戒態勢で自分が少女を襲うのではないかと待ち構えている。

 

彼女は疲れたと言うと自分の部屋へ戻る。そして奴隷に焼印をするよう指示を出した。これは天竜人の奴隷であるという証明のために身体の何処かへ竜の鉤爪の紋章を刻みこむのである。一生消えぬことのない人間以下の証明を焼き付けられる少年に軽く同情をしながらも命令には逆らえず護衛達は地下へ連れて行く。

 

 

 

だが彼ら達は不思議に思っていた。大人でも全力で抵抗することも珍しくなく、気絶させて刻み込むハメになるのに目の前の少年は無言で自らの足で歩いて行くのだ。ここまで来たら嫌でも気がつくだろう。

 

石炭で真っ赤に燃やされている鉄の棒の先端には天竜人の紋章の形をしており、蒸気により空気が歪んでいるようだった。

 

黒服の一人が手袋をして焼印を手に取ると凄まじい高温から汗をタラタラと流し始める。そしてハリスの服を脱がせると背中に思い切り真っ赤に焼けた鉄を押し当てた。

 

ジュージューという肉が焼ける音が地下を覆い尽くすが、黒服達の耳に悲鳴が入ることはなかった。完全にハリスが無反応だったのだ。痛感がないわけではない、痛みに強いわけでもない。考えるだけ、反応するだけ無駄だと察していたからだ。

 

ハリスは自分のために生きるという発想がなかった。父親が自分の快楽の為に息子をそう教育したからである。彼の無関心さは父親譲りということも含まれるが、感情が常人に比べて欠落しているのだ

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

1日後

 

 

 

〜聖地マリージョア〜

 

 

 

 

 

ハリスは天竜人の焼印を背中へ刻まれると冷やして傷を悪化させない為に氷をつけていた。彼は背中が痛みと痒みによりズキズキとするが何もせず普段と同じ様に無表情である

 

1時間ほど冷やし続けて腫れが少しだけ治ると黒服の男に連れられて自分の新しい主人の部屋へ向かった。そしてダイヤやルビーの装飾がされたドアをノックする。

 

「入るアマス。」

 

黒服の男はドアノブに触れてゆっくりと押した。だが少女と目を合わせてマニュアル通りの言葉で期限を損ねぬようにする。

 

「アピマネラ宮、ご寛大な御心、恐悦至極にございます。本日入荷致しました奴隷を連れてまいりました。」

 

アピマネラと呼ばれた少女はシャボンのマスクを外しており、防具スーツのような服のみを身につけていた。彼女は青いショートヘアに黒い目、そして年齢相応な未発達で細身の身体をしている。

 

「奴隷を置いて下がるアマス。」

 

アピマネラは目障りだと言わんばかりに冷たい表情をして、黒服の男が出て行くように言い放った。安全を保障できないために奴隷と二人きりにする事は望ましくないと可能な限り丁寧な言葉で言い返したが、彼女はピストルを取り出して男へ向けた。

 

「わかりました、くれぐれもお気をつけくださいませ。」

 

男はアピマネラに護衛に付かずにハリスに暴れられて傷をつけられ、何らかの処分を受ける可能性を危惧したが今すぐ弾丸に撃ち抜かれるよりはマシだろうと考える。

 

 

護衛がアピマネラの部屋から離れて部屋には沈黙が流れる。そして彼女はキリッとした瞳でハリスをジッと見ると口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君ねぇ、ほんとに馬鹿なの?」

 

とても呆れた様子で彼女はハリスへ言い放った。そういうと軽く腕を上へ伸ばして声を漏らす。高貴さをひけらかすように付けられた語尾を取り払ったアピマネラは天竜人ではなく、何処にでもいるような少女であった。

 

「天竜人に逆らったらどうなるか知ってるわよね?私に感謝しな...ふわぁ〜。」

 

彼女はベット縁を背もたれにして寄りかかりながら、ハリスへ真剣な表情で追求し続けていたが飽きたのか途中で欠伸をして中止をする

 

「...。」

 

これがハリスとアピマネラの出会いだった

 

 


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