昼下がりの下北沢、黄色いTシャツを着てランドセルを背負った遠野は、涙目になりながら家に向かって走っていた。
住宅街を駆け抜け、家のドアを開けて玄関のすぐそこにある階段から二階へ駆け上がり、廊下から自分の部屋のふすまを開けると、そこには全裸で全身青色の男が、どら焼きを食べながら座っていた。
身長170センチ体重74キロ、遠野の人生をよりよいものにするために810世紀からタインムマシンで送られてきた人型ホモ、ヤジュえもんだ。
ヤジュえもんは年上なので、人生の先輩として遠野は彼のことを先輩と呼んでいる。
「先輩!」
遠野がヤジュえもんに抱き着くと、ヤジュえもんはとまどった。
「お、どうしたどうした」
遠野はヤジュえもんから離れると、右手で涙をぬぐう。
「実は――」
10分ほど前、学校が終わり、アホの宇月、池沼の三浦、頭の弱いのりか、のろくでもない3人と共に帰っているときだった。宇月が自慢げに語りだした。
「実はぁ、デゥフフ。うちにおじさんが遊びに来てて、これから動物園に連れて行ってもらうんだよねぇ、一緒に行きたい?」
三浦はうなづいて答える。
「お、そうだな」
のりかは首をかしげた。
「ちゅらうみ水族館?」
「あーいっすね」
遠野が笑顔でそう言うと、宇月が頭を抱えて叫んだ。
「てゅわああああ、忘れてた。おじさんの車、三人までしか乗れなかったの、ごめん、忘れてた。と、いうわけで、遠野はたくましく生きていてくれ!」
「え、どうして僕だけ」
「だって三人までしか乗れないし、遠野、爬虫類みたいじゃん、動物が動物園いってどうするの、デュフフ」
三浦はまたうなずく。
「お、そうだな」
のりかも、また首をかしげた。
「海遊館?」
「そ、そんなぁ」
しょぼくれて立ちどまる遠野のことなど気にもとめず、三人は和気あいあいと歩いていった。
「てなことがあったんですよ」
「ひどいですね、これはひどい」
「先輩、未来の道具で動物園を作ってください」
「しょうがねぇな、動物園は作れないけど、どうにかしてやるか」
810世紀からやってきたヤジュえもんは、未来に作られた様々な秘密道具を、三次元アナルに入れて持ってきているのだ。
ヤジュえもんは背を丸くすると三次元アナルに手を突っ込んだ。まさぐりながらも、辛いのかあえぎ声を漏らす。
「ハァ、アッ、アッ、アッ、アッ」
「先輩、頑張ってください」
「アアッー!ハァハァ、イキスギィ!イク、イクイクゥ……アッ……ンアッー!!」ヤジュえもんは盛大にイキ過ぎたのか息を漏らしながら、力なく仰向けになった「アッー……アッーアッ……アッー」
手を三次元アナルに突っ込んだまま息を荒くしているヤジュえもんに、遠野は聞いた。
「あ、あのー、先輩、道具は」
「そうあせるなって……フン!」ヤジュえもんは勢いよく、三次元アナルから手を出した「おまたせ」
そこに握られていたのは、古いVHSのパッケージらしきものだった。
遠野は首をかしげた。
「えっと、それは何」
「これは、真夏の夜の淫夢っていうホモビデオで、犬から野獣まで様々な動物が――」
「ふざけんな!」遠野は叫んだ「なんですか!散々気持ちの悪いイキ顔さらして、出したのはホモビデオって、僕をバカにしてるんですか」
「がんばったのにその言い草はちょっとひどい……ひどくない?」
「俺は今までお前の臭さを我慢してきたんだ、お前みたいな気持ちの悪い居候はもうごめんだ、お母さんにお願いして出て行ってもらう」
「こ↑こ↓追い出されたら俺生きていけないよ、だから許してくよなーたのむよー」
「じゃあ死ね!」
「アォオン……オォン」
家を追い出されたヤジュえもんは、行く当てもなく下北沢を歩いていた。
日が落ち始め、街頭の光が見える中、ふと見つけた公園に入るとベンチに腰かけた。
「どーっすっかなー」
「ねぇ君」
突然声がして、顔を向けると金髪で色黒の男が立っていた。男は軽い調子で近づいてきて、ヤジュえもんの隣に座る。
「何やってんの、こんな時間にこんなところで」
「いやー実は、居候してたところから追い出されて」
「へー、ところでいい体してんね。なんかやってたの、スポーツ」
「とくにはやってないですけどトレーニングはやってます」
「どうりでねぇ。あのさ、人手、足りねえ仕事があんだよ。いい仕事なんだけどさ。君、やってみる?」
ヤジュえもんが黒いソファーに座り、目の前にある固定されたカメラを見ると、その隣にいるインタビュアーが質問する。
「じゃあ、まず年齢を教えてくれるかな」
「24歳です」
「24歳、もう働いてるの、じゃあ」
「人型ホモです」
「人型ホモ、あ……ふ~ん」