古明地の妹は無意識に日常を送る。
そんな一日。

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無意識の小説

幻想郷の地下。

旧地獄、地霊殿。そこにはさとり妖怪の姉妹が住んでいた。

 

「お姉ちゃん、何書いてるの?」

「本よ」

「何の本?」

「恋愛物よ」

「ふーん」

 

姉はカリカリと何かの(本人曰く恋愛物の)小説を書いている。

妹は自由奔放に、無意識に、

 

「じゃあ、私も書く!」

「え?」

 

姉のペンと紙を奪う。

 

「ちょ」

 

姉の制止の声も聴かず、一気に書き上げる。

 

「出来た!」

「速い!?」

「皆に見せてくる!」

 

妹はバンッ!とばかりに部屋を飛び出る。

 

「え、ちょ、私のペン……」

 

~○~○~○~○~○~

 

妹は書いた小説をペットに見せようと探すが、ふと思う。

 

いや、動物(ペット)が文字を読める訳ないじゃん、と。

 

さて、となると誰に見せようか。残念な事に、妹には知り合いが少ない。妹の世界はお姉ちゃんと、大量のペットと……

 

「あ、姐さん」

「ん?おお、古明地の妹じゃないか」

 

いつの間にやら町に出て居酒屋に来ていたみたいだ。

これが無意識。何時もは迷子になったりしてほとほと困っているのだが、今回はグッジョブ!とばかりに喋る。

 

「ちょうど良いや!ねえ、姐さん!これ読んで!」

「ん?何だ?作文?」

「違うの!えっと、『恋愛物』の本なの!」

「ほほう?このあたしに恋愛物を読ませるのかい?」

「駄目なの?」

 

それだと残念だと項垂(うなだ)れる。

 

「いやいや、そういう訳じゃない。あたしはそういう事にはとんと疎いからな」

「一生独身?」

「おふっ、言うねぇ?」

「え?私何か言った?」

「は?…あぁ、無意識か。何でも無いよ。ほら、貸してみな。読んでやるよ」

「うん!」

 

~○~○~○~○~○~

 

「……。成る程」

 

一枚分の内容しか無かったので、姐さんはすぐに読み終えたみたいだ。

 

「どうだった、どうだった?」

 

期待の眼差しはキラキラと輝く。

 

「あーえーとその…ま、まあ独創的だったな!」

「やったぁ!」

 

妹は跳んで喜ぶ。それを見て姐さんの心は少し痛む。

 

「た、ただな?少しあたしが手直ししてやるよ!」

「え?何で?」

「いや、そのだな…」

 

姐さんは言葉に詰まる。

こんな子供に……年齢は知らないが少なくとも見た目は子供だ……本当の事を言える訳がない。

 

『これは恋愛物ではない。グロかホラーかスプラッタだ』などと言える訳がない。

 

「あー、あれだ。文字が少し汚ないから、あたしが直してやるよ」

「そう?じゃあ、お願いします!」

 

紙を渡され、姐さんは考える。

自分には文才は無い。自慢なのは力と酒飲みだけ。

居酒屋の親父に消しゴムを借り、取り合えずはと全体的にマイルドな表現に改める。

…あれ?あたしにも文才あるんじゃ?

 

「んな訳無いか。ほれ」

「わーい!ありがとう!」

 

妹は見直す。

うん、文字が綺麗になってる!内容も書き換えられたりは…あれ?少し違う?と気付く。

まあ、大雑把な意味は変わってないから良いか。と思う。

そして、

 

「もっと皆に見せてくる!」

 

居酒屋を飛び出す。

 

~○~○~○~○~○~

 

そして妹は橋に着く。

 

「あら?貴女は無意識の」

「あーパルパルだ!パルパル、これ読んで!」

 

妹は橋に立っていた女性をパルパルと呼び、自分の書いた小説を見せようとする。

 

「パルパルって…まあ良いわ。どれどれ?」

 

これを読んで後で思いっきり嫉妬してやろうと暗い執念を燃やしつつ女性は紙を受け取り、読み始める。

 

読み終わる。

 

「どうだった?私の『恋愛物』!」

「あーうんステキダッタワ」

 

少しカタコトにそう返す女性。

その心情はただ一つ。

『いやこれ、恋愛物じゃ無いでしょ』

 

「そうなの!?やったぁ!」

 

ぴょんぴょん跳び跳ねる妹を眺めつつ、女性は考える。

恋愛物とグロの違いを教えた方が良いのかと。

 

「ね、ね!」

「何?」

「嫉妬した?」

「え」

 

嫉妬出来るか!などと言ったら自分のアイデンティティに関わる。妖怪にとってアイデンティティの崩壊は死を意味する。

 

「そ、そうね、そんな素敵な文章を書けるだなんて、嫉妬しちゃうわ」

「きゃあー!パルパルに嫉妬されちゃったあ!」

 

何時から女性の嫉妬に叫ぶほどの価値が着いたのか。

女性自身にも分からない。

 

「じゃあね!」

 

と言い、妹は橋を渡りきる。走っていく。

色々気になるが、女性は取り合えず自らのアイデンティティを更に固めるため、小説の内容に嫉妬する。

 

「豚の癖に主人公になって、妬ましい」

 

言うほど妬ましく思ってないことは顔を見れば分かるだろう。

近くに誰もいないが。

 

~○~○~○~○~○~

 

「それじゃ♪誰に♪見せよかな♪」

 

妹は地上に出ていた。

 

「それじゃ♪誰に♪見せよかな♪」

 

無意識に口ずさむ。

 

「それはー♪あなた!」

 

無意識にビシィッと指差す。

その先には、一匹…じゃなくて一羽の天狗が。

二人して驚く。

 

「ふぁ!?」

「な、なぁ!?」

「いや、なんで貴女が驚いてるんです?」

「だって本当に居るとは思わなかったんだもん」

 

これぞ無意識。

 

「じゃあ驚きついでにこれ、読んでよ!」

「はい?」

 

なかば強引に紙を押し付けられる天狗。はぁやれやれと読み始め

 

「うわ、何ですかこれ」

「どう?上手でしょ!私の『恋愛物』!」

「えぇ……」

 

どうする?と天狗は思考を高速回転させる。確かこの妖怪は旧地獄のさとり妖怪の妹。何時もなら思いっきり貶して鼻で笑うのだが、地下にはあの馬鹿で頭が悪く酒飲みで鬱陶しい鬼共が居る。しかもこいつの姉はたちが悪い事で有名だ。この『恋愛物(笑)』を貶した事で鬼とこいつの姉が敵に回る可能性があるとなると迂闊に評価出来ない。しかもよくよく考えたらこれ、新聞のネタにさえ出来ない。いや、私の実力ならギリギリセウトのでっちあげを造れるが何分難しい。となると適当に誉めて誤魔化して逃げ出すのが正解か。

 

「まあ上手じゃないですか?私には敵わないですが」

 

と言った時には妹は既に何処かに行った後だった。

流石無意識。

 

~○~○~○~○~○~

 

無意識は無意識なりに理由があるのだ。

例えばさっき逃げ出したのは姉から知らない人と話すのは控えなさいと言われたのを思い出したからだからだ。まあ、それをしっかりと理解して移動した訳では無いが。

 

「…あれ?ここどこ?」

 

気付くと暗い森の中。妹は左右を見回し、後ろを見て、上を見上げ、地面を眺め、穴を掘ったら帰れるかなぁ?と思考する。

まあ、この『恋愛物』をもっと皆に見せた後考えようかと歩き出す。

 

「お?なかなか珍しいキノコだぜ。ラッキー」

 

歩き始めて何十秒。妹はいつぞや出会った魔法使いと遭遇。ただちに後ろに周りこみ、目を隠す。

 

「だ~れだ!」

「うお!?目の前が真っ暗に!くそっこのキノコ、こんな能力を隠し持ってたのか!」

「だ、だ~れだ!」

「あーもうっ、どーすればこれ治るんだぜ?最悪竹林のやぶ医者ん所に行けば…いや、目の前が見えないんじゃこの森から出ることさえ難しいか。どうする、私?」

「詰まんない!」

 

プンスカプンスカと怒りながら妹は何処かに行く。

 

「お、お?何だったんだ?まさか、あのTNTN雀のあれか!よーし、次会ったら只じゃ済まさないぜ!……ん?」

 

魔法使いは地面に落ちている紙を見付ける。何となく拾って読み始める。

 

「うげ、何だぜこれ。主人公の豚の名前が何で『ビーフ三世』?しかも次の行ですぐさま『包丁でぶった切られ』てるし。そのまま『首だけ』で『笑い』ながらコックの『テリー』を『食べ』ようとしてるとか、これ書いた奴、正気か?」

 

正直今すぐ棄てたい。とはいえ、魔法使いは拾っても只では棄てないものだ。

では、どうする?

 

「コーリンに渡すか?いや、あいつは『こんな不気味な作文は扱ってないよ、そんなのも分からないのかい?』とか言うに決まってるぜ。……そういや、人里に妖魔本も取り扱ってる店があったな。妖魔本だって事にして売り付けるか。元手ロハだし、安くても儲けものだぜ」

 

魔法使いは箒に乗り、人里に向かって飛び立つ。

さてその頃妹は何していたかと言うと。

 

「ねえ、私の書いた『恋愛物』知らない?」

「知らないわね」

 

神社で無愛想な巫女と喋っていた。

 

~○~○~○~○~○~

 

その後、妹の書いた小説は「とある豚の一生」という題名となり人里に一大ブームを巻き起こす事になるがそれは別の話だし、妹はその頃には『恋愛物』の事なんか忘れて別の事をしているんだろう。

 


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