トリックスターの友たる雷   作:kokohm

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序章 そのカンピオーネの名は
草薙護堂は同胞を知る


「――他のカンピオーネってどんなのがいるんだ?」

 

 そんなことを草薙護堂が口に出したのは、かのヴォバン侯爵を撃退した日から、大体一週間程が経ったある日のことであった。

 

「急にどうしたの、護堂?」

 

 そう彼の言葉に聞き返したのは、草薙護堂の愛人を名乗る――護堂自身はそれを認めていないのだが――エリカ・ブランデッリという少女だ。彼女は護堂の問いに、どうしたのかと首を傾げている。

 

「いや、あのヴォバン侯爵にしろ、ドニの奴にしろ、カンピオーネにはいい思い出がないだろ?」

「貴方も、そのカンピオーネの一人だけどね」

「俺はまだ、あの二人よりはマシだろ」

「どうかしら。少なくとも、周囲に与える被害という意味では、あのお二人と大差ないと思うのだけど。そうよね、祐里?」

「えっ?! ……え、えーっと、ですね……」

 

 話を振られた少女は、困惑したように護堂を見る。どう答えたらいいか、というよりは、本音を言ってもいいのだろうか、と悩んでいるようである。そんな彼女が、日本の媛巫女にして、後に草薙護堂の正妻だのと称されるようになる、万理谷祐里だ。そんな彼女に、事実上エリカの言う事を肯定されたことに、護堂はがっくりと肩を落とす。

 

「……違うと思うんだけどなあ」

「まあ、そんなことはどうでもいいじゃない。それで、結局のところどうして、他のカンピオーネのことを知りたいの?」

「……まあ、単に相手を知っていれば、多少は争いから逃げることも出来るんじゃないかって思ったんだよ」

 

 俺は平和主義だからな、と護堂はさらに続けようかと思ったが、すんでのところでその言葉を飲み込む。今しがたの会話を考えると、また否定されるのがオチだったからだ。

 

「カンピオーネなんて、基本的には戦いを好む人ばかりなんだから、あんまり意味はないと思うけれどね。まあ、知りたいというのなら私の知っている範囲で教えてあげるわ」

「助かる。確か、俺が八人目(・・・)って話だから、あの二人を抜いても後五人いるんだよな」

「そうなるわね。と言っても、中には情報が秘匿されている王もいるから、私が説明できるのは三人だけ。イギリスの『黒王子(ブラックプリンス)』アレクサンドル・ガスコイン、アメリカの『ロサンゼルスの守護聖人』ジョン・プルートー・スミス、そして日本の『雷鎚(らいつい)稲穂(いなほ)秋雅(しゅうが)

「――日本だって!?」

 

 ふんふんと、エリカの話を聞いていた護堂だったが、今しがた彼女が発した言葉に思わず叫ぶ。

 

「そう。貴方と同じ、日本出身のカンピオーネよ。普通はカンピオーネの出身が被ることなんてまずないのだけど、ある意味では彼は、護堂の直接の先達と言えるのかもしれないわね」

「マジか…………俺以外に日本人のカンピオーネがいたんだな」

「過去、日本人がカンピオーネとなった例はお二人以外に存在しません。それが同じ時代に集うなど、いっそ奇跡と言ってもいいかもしれません」

「どんな人なんだ? その稲穂って人は」

 

 護堂の質問に、エリカは少しだけ悩んだ後に言う。

 

「一言で表すと、『例外』ね」

「例外?」

「およそカンピオーネらしくない行動を取るってことよ。そう言われている理由は幾つかあるのだけれど、一番有名なのは周囲への被害の大きさね。カンピオーネの中で唯一、戦いの余波による破壊をもたらさないと言われているわ」

「もたらさない?」

 

 その言葉に、護堂は違和感を覚える。これが破壊をもたらさないようにしている、ならば納得ができる。それは護堂も――実践できているかどうかは別にして――同じように考えているからだ。だが、実際のところ、被害を抑えるなどそうそうできるものではない。カンピオーネの権能というものは往々にして周囲に破壊をもたらすものであるし、そもそもまつろわぬ神自体が破壊を行っていると言ってもいい。だというのに、どうやったら被害を出さないことができるのか。それが護堂にはまったく見当がつかなかった。

 

「カンピオーネが破壊をもたらさないとは、にわかには信じがたいことですね」

「そうね。私も彼を知らなければ同じように思ったでしょうね」

「ってことは、エリカはその稲穂って人を知っているのか?」

「ええ、前に《赤銅黒十字》が稲穂秋雅にまつろわぬ神の討伐を依頼したことがあってのだけど、その時に少しだけ。前評判通り、彼が到着する以前で既にもたらされていた被害はともかくとして、以降は一切の被害を出さずに戦いを終わらせたの」

「どうやったんだ?」

「権能よ。私も詳細を知らないのだけれど、自身と対象を別の空間に閉じ込めるというものらしいわ」

「別の空間?」

「ええ。その中でなら、いくら物を破壊しようとこちら側には一切の影響が出ないらしいわ。あの時も、私の目の前で彼とまつろわぬ神が消えたから、まず間違いないと思うわ」

「すごいな、それ」

 

 エリカの説明に、護堂は本心からそう呟く。成る程、そんな権能があるのなら周囲への被害を出さないというのも納得が出来る。

 

「権能を所持していることと使用することは別ですから、わざわざそのような権能を使っている以上、その方は民の事を考えられているということでしょうか」

「かもしれないわね。少なくとも、人的被害を出すことを看過するようではなかったし」

「ちょっと親近感を持てるな」

 

 その護堂の言葉に、再びエリカは彼に対し意味深な視線を向ける。

 

「親近感、ねえ……」

「な、何だよ……」

「いいえ、別に。貴方は確かに被害を出さないようにすると口では言うけれど、実際はまったくの逆、なんて言わないわ」

「言っているじゃないか」

 

 不貞腐れたように護堂は言う。あまり強く反論をして来ないのは、やはり己が所業について言い返せないところがあるからか。

 

「……しかし、俺もいつかはその秋雅って人に会うことになるかな」

「どうでしょうか。かの方は九州に住んでおられるそうで、あまりこちらにいらっしゃるということはないと聞いていますから」

「しかも、彼はうちの《赤銅黒十字》を始めとして、基本的にはまつろわぬ神や神獣がらみの事件限定だけれど、結構他国の魔術結社に協力するということが多いわ。その所為で、結構国を空けるということが多いそうだから、案外中々会わないかもしれないわね」

「そうなのか……」

 

 だが、この時の護堂は何故か、近いうちにそのカンピオーネと会うことになると、そんな予感を覚えたのであった。

 

 

 







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