トリックスターの友たる雷   作:kokohm

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第二章 母校と幽霊と英国と
友人との一幕、妹からの電話


 

 カリカリと、ペンを走らせる音が響く。場所は秋雅が通う大学の食堂、その至るところからその音は発生し、生徒達の話し声に混じり、その場の人々の耳を僅かに刺激することだろう。

 

 そんな中、秋雅はゆったりと本を読んでいた。時折ページをめくる音以外は特に物音を立てることなく、静かに読書を楽しんでいる。ゆったりとはしつつも、しかしだらしないわけではないその姿勢は、元々整った容姿が相まって中々に様になっていた。

 

「――っと」

 

 そんな秋雅だったが、突然に小さく声を漏らした。その声に、彼の近くでペンを走らせていた友人の一人が、怪訝そうな表情を浮かべつつ顔を上げる。

 

「どうした? 何かあったか?」

「いや、何でもない。ちょっと思い出した事があっただけだ」

 

 そう返したものの、実際のところそれが理由というわけではない。彼が口に出すわけには行かないその本当の理由は、彼の権能の一つが復活し、それを感じ取ったからであった。

 

 これまで秋雅は、カンピオーネの使命として、何柱もの神を倒してきた。そうなれば当然、彼の持つ権能もまた増えていくことになる。基本的には彼の持つ権能は、案外使い勝手の良いものが多いのだが、しかしその中には、どうしても使いにくい権能というのも存在している。そのうちの一つに、彼が時の神より簒奪した『過去か、未来か(タイム・ライク・ア・リバー)』という権能がある。これは、範囲内の生物の時を進める、あるいは戻すという権能だ。一見するとかなり強力な権能のように思えるが、しかし、実際にはそういうわけでもない。何せこの権能、この種の力の例に外れず、まつろわぬ神やカンピオーネにはほぼほぼ抵抗されてしまうのだ。他にも一定以上の力量がある魔術師たちにも、これが効く可能性は低い。つまるところ、基本的に一般人にしか効果を発揮できない権能なのである。

 

 しかも一度使うと、その効果範囲や時をずらした時間に比例して、一定期間使用が出来ないという仕様であり、今回の復活も、前回に使ったときからもう数年が経っていた。どうにも使い勝手の悪い権能、というのが素直な総評であろう。

 

 そんな事情で、基本的に意識に上ることもないような権能なので、その復活に秋雅も思わず声を上げてしまったのである。

 

「そうか? 何か変な風に聞こえたけどよ」

 

 秋雅の返答に納得がいかなかったようで、未だに怪訝な表情を浮かべている友人に、しまったな、と思った秋雅は、話をずらして誤魔化すという手段をとることにした。何せ、ずらす話題はすぐ目の目にあったからだ。

 

「俺の事を気にしないで、お前はさっさと書き終われよ。いい加減、俺はそいつを提出しに行きたいんだ」

「もうちょい待ってくれ。もう少しで写し終るからさ。なあ、お前ら?」

 

 そうだそうだ、と秋雅の友人たちが口々に同意してみせる。その中央には、何冊かの左上を止めた紙の束やノートなどが置かれている。

 

「まったく、何でこうやっていない奴が多いんだ」

 

 と秋雅は誤魔化しだけでなく、本心から呆れた声を発した。そもそも今回、秋雅とその友人たちが食堂に集まっているのは、要するに秋雅の書いたレポートや授業中に取ったノートを書き写す為であった。もうすぐ前期が終わり、夏休みが終わろうというこの時期に発生するのが、成績決定の為の期末テスト、あるいはレポートの提出だ。それに際して、テスト勉強やレポートの不明点を補う為に、彼らは成績の良い秋雅の力を頼ったのである。

 

「いやあ、やっぱり持つべき者は頭のいい友達だよな」

「ああ、そうだな。本当に稲穂は最高の友達だぜ!」

「お前らなあ……」

 

 露骨なよいしょに、秋雅は半目を彼らに向ける。勿論これは気心の知れた友人同士の冗談であって、彼らの本心は……などということではない。そんな相手であれば、秋雅はもうとっくに関係を切っているだろう。つまり、それをしないという時点で秋雅は彼らのこういうところを拒否していないということであり、それは秋雅自身も理解しているところであった。

 

「まあ真面目な話、マジで稲穂って頭いいよな。この問題とか、まるで意味が分かんなかったのに」

「だよなあ。結構授業をサボっているくせに、テストの点数はいいし」

「俺なんて授業に全部出ているのにまるで分かんないからな!」

「自慢げに言うんじゃねえ、このバカ!」

 

 そのツッコミに笑い声が湧く。もしかしたらこういうノリこそが、自分がこいつらと付き合っている理由なのかもしれないと、笑みを浮かべながら思う秋雅であった。

 

 

 

 そうこうしていると、全体的に書き写しも終わってきて、今もペンを持っているのは複数の方面に苦行を抱えている数名だけだ。その様子に、ようやく終わるかと秋雅が軽く伸びをしながら思っていると、ふと彼の胸ポケットに入れた携帯が震えた。ディスプレイを見たところ、どうやら誰かからメールが来たらしい。誰からだ、と思いつつメールを見て、そこに書かれた発信者の名前に秋雅は意外そうな表情を浮かべる。

 

「冬音からとは、また珍しいな」

 

 秋雅が口に出したのは、彼の三人いる弟妹のうち、上の妹の名前だった。しかし、彼女は基本的にメールよりも電話での連絡を好む方だ。なのに何故メールなのだろうかと秋雅は不思議に思う。

 

 しかし、内容を見れば分かるだろうと思い、メールを開いて確認する。そして文面を読み終わったところで、ははあ、と納得の行った表情を浮かべる。

 

「成る程、気遣いの良い奴だ」

 

 そのメールには、話したい事があるから時間のあるときに電話で連絡をしてくれという文面が書かれていた。今秋雅の手が空いているか、それが分からなかった故の彼女の気遣いであろう。

 

 普段であれば逆に、高校生である冬音よりも大学生の秋雅のほうが時間的余裕は多いのだが、一足先に高校が夏休みに入って時間がある――冬音の通う高校と比べ、秋雅の大学というのは夏休みの期間が長い代わり、入りが少し遅いようになっている――ので、こういったメールを打ったのだろう。

 

「さて、どうするかな」

 

 メールの確認も終わったところで、秋雅はふむと考え込む。その内容は、今すぐこの場で電話をかけるか、あるいは場所を変えて電話をするかというものであった。普通であればその場を離れてかけるのであるが、しかし今回の秋雅への感謝の印ということで手の空いた友人たちが弁当やお菓子(秋雅への貢物)を買いに行っている。それを待っている身としては、あまりこの場を離れるというのは気が進まない。

 

 後で電話をかけるという選択もないわけではないが、しかしこういうのは早い方がいざという時に安心できるというのがある。そんなわけで、どうしたものかと悩む秋雅であったが、まあいいかとこの場で電話をかけることにした。

 

「ちょっと電話をするけど、あんまり気にするなよ」

 

 うーい、と気のない返事が返ってきたことを確認してから、秋雅は冬音の携帯に電話をかける。

 

「もしもし」

『――秋雅兄さん?』

 

 待機をしていたのか、二コールを待たずに向こうから馴染み深い声が聞こえる。その声に軽く満足そうな笑みを浮かべながら、ああと秋雅は返答する。

 

 

「元気か、冬音?」

『うん、元気。そっちは?』

「俺もすこぶる元気だ。で、メールの件なんだが、何があったんだ?」

『何があった、というよりは、これからあるんだよね』

「うん?」

『ああ、ごめん。ちょっと順を追って話すね』

 

 と言って、冬音が秋雅に事情を説明していく。その説明を秋雅は、最初は真剣に聞いていたが、しかしすぐに胡乱げな表情を浮かべ、最終的には少しばかり面倒そうにため息をついた。

 

「で、俺に電話をした、と」

『うん。幹春兄さんに頼ろうかとも思ったんだけど、やっぱり秋雅兄さんの方が頼りになるから』

「それ、幹春には言ってやるなよ」

『勿論……それで、どうかな?』

「そうだなあ…………」

 

 宙を見て、少しばかり考え込んだ後、秋雅は小さく頷く。

 

「分かった。可愛い妹の頼みだ、聞いてやるよ」

『やった! 秋雅兄さん大好き!』

「はいはい。そりゃ良かったよ。とりあえず、冬音は父さんたちに俺が一度帰ってくる事を言っておいてくれ。たぶん、夏休みの間は帰省出来ないから、今回でそれを補わないとな」

『……もしかして、彼女とデートとか?』

「ははは、ないない。ま、ちょっと用事があるんだよ」

『ふうん。まあ、いいけど。お父さんたちには秋雅兄さんが帰ってくるって言っておくね』

「ああ、頼む。じゃ、またな」

『うん、またね』

 

 そう締めて、秋雅は電話を切った。その後ポツリと呟いた。

 

「……肝試し、ねえ」

 

 

 




 当分投稿するつもりは無かったのですが、頭の中をこれがうろついてあれだったので投稿することにしました。他との兼ね合いものあるので、投稿スピードは前ほど早くならないと思います。ではまた。



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