トリックスターの友たる雷   作:kokohm

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彼女のこと、自身のこと

『夏休みでよかったよ、本当に。そうじゃなきゃ今以上に絡まれるところだった』

「幽霊のことか? 別に、お前が直接的に会ったわけじゃないだろ」

 

 秋雅がそう聞くと、電話の向こうにいる冬音がため息をついた。

 

『秋雅兄さんの所為だよ。兄さんが格好良い事するから、一緒にいた娘たちから色々聞かれるんだもん』

「大したことはしていないだろ。格好良いは言いすぎだって」

『あの娘たちはそう思っていないってことだよ、兄さんの認識はともかくね……ところで、兄さんは見てないの? 例の幽霊』

「いや、俺がついたときにはもう、皆が気絶しているだけだったからなあ」

 

 電話越しの妹に対し、秋雅は嘯く。その後、うっとうしそうに顔をしかめ、携帯電話を持ち替えて逆の耳に当てつつ、開いた側の側頭部にかいた汗を手で拭う。

 

「……暑いな、本当に」

『夏の昼だし、そりゃ暑いって』

 

 秋雅としては独り言で呟いたつもりであったが、しかしそれに冬音が苦笑するように答える。

 

「ああ、まったくだな」

 

 今度は額に浮かんできた汗を拭いつつ、秋雅は天上に鎮座する太陽に目を細める。あの夜から既に一週間ほどが経った、とある夏の日の昼だった。

 

 

 

 結局、あの夜のことは委員会によって記憶操作されることもなく、そのまま放置されることになっていた。幽霊の仕業ということになっても特に問題がなかったから、というのが大きな理由だ。さらに加えて言うならば、自分の妹にまで記憶処理を行われるということに秋雅が難色を示したというのもある。秋雅としては如何程も――己が正体も含めて――家族に世界の裏側を知らせる気などなかったからだ。

 

 必要性も薄いし、放置する消極的理由もある。ともなれば、委員会は隠蔽工作をやらないのも、まったくもって当然の話だと言えよう。こうして、冬音も、そしてあの場にいた誰も、ついにこの世の神秘に触れることなく、あの夜を終えることとなったのであった。

 

 

 

 そして現在。大学からの帰り道に秋雅は冬音からの電話を受け取り、自宅までの帰り道に会話を交わすこととなっていた。話題は、まあ当然というべきか、あの日の夜の事が中心だった。あれからどうした、そしてこうした、という話を冬音がするのを聞きながら秋雅は歩いていたのだが、ふと気付くともう既に彼がその一室を住居としているマンションのすぐ前にまで来ていた。

 

 

「……ん、悪い。そろそろ切るぞ」

「あ、ごめんね。長話につき合わせちゃって」

「いいさ。じゃあな、冬音」

「うん、またね」

 

 別れの挨拶を交換し合い、秋雅は電話を切る。妹が元気そうであったことに少し顔をほころばせつつ、秋雅はマンションの中に入る。大学生が一人で住むには少々豪華が過ぎる、高級マンションに分類されるものだ。その中、彼が住む一室はこのマンションの最上階であるので、秋雅は階段には目もくれずエレベーターに乗り込む。時間帯の所為か、乗るのは秋雅一人だ。いつものように、秋雅は最上階のボタンを押して、ドアが閉まるのを待つ。

 

 エレベーター特有である、あの何とも言えない浮遊感を数秒。到着を知らせる快音と機械音声を発しつつ、エレベーターがそのドアを開く。そのまま、秋雅はエレベーターを降り、廊下を歩き出す。

 

 秋雅が住む部屋は、このフロアのちょうど中央の一室だ。正確に言うと、このマンションの最上階フロアにある部屋は全て秋雅のものであり、そのうちの一つを生活の場にしているに過ぎない。それ以外の部屋は、秋雅が所持する魔術品の倉庫となっていたり、あるいは何らかの理由で他人を――呪術側の人間のことだ――招く際に用いたりと、幾つかの用途で使用されている。用途を聞けばかなりの無駄に聞こえてしまうであろうが、そもそもこのマンションのフロア自体、以前に秋雅が依頼の報酬として受け取った物であるので、むしろ秋雅はそれを有効活用しているほうであろう。

 

 ともかくとして、自室の玄関前まで辿り着いた秋雅は、懐から部屋の鍵を取り出そうとした。

 

 しかし、それを途中で止め、胸元に手を突っ込んだまま、何とも形容しがたい表情で自室のドアをじっと見る。数秒ほど後、小さく息を吐いた後、懐に入れていた手を出して、インターフォンを鳴らす。

 

「――私だ」

 

 短い言葉に返答はない。だが、すぐにどたばたと、こちらへ向かってくる足音が聞こえる。その人物が玄関のすぐ前に来たと分かったと同時、カチャリとドアの鍵を開ける音がして、中から女性が現れた。

 

「お帰りなさい」

 

 そう秋雅に言ったのは、白いワンピースに黒髪が映える、秋雅と同い年ぐらいの女性――あの、幽霊の彼女であった。その彼女は、何処となく嬉しそうな顔を浮かべて、目の前に立つ秋雅をじっと見ている。

 

「ああ」

 

 彼女の歓迎に対し、秋雅は短く声をかけた後、開かれているドアに手をかける。それを見て彼女は一歩下がり、秋雅は中へと入るために道を空ける。

 

「嬉しそうだな」

 

 彼女が浮かべている表情と雰囲気に、秋雅は思わずそう呟く。それに対し、彼女はええと嬉しそうに頷いてみせる。

 

「何と言うか、やっと貴方に受け入れてもらったような気がしたので。鍵を自分で開けずに、私を呼んでもらったのは今日が初めてですから」

「……そうか」

 

 やはり短く、秋雅はそう彼女に返す。素っ気無いと思われるであろう彼の態度であるが、しかし彼女はそんなことは気にしていないかのように、ニコニコと笑みを浮かべている。

 

「何か作っているようだが、いいのか?」

 

 そんな彼女の笑みを見て、秋雅はつい話を切り替えるかのように、台所の方に目をやって言う。その彼の言葉に対し彼女は、いけない、と手をパンと叩いた後、トタトタと小走りで台所へと向かう。

 

 そして数秒、彼女が去った後を見つめた後、秋雅は軽く頭を振って私室へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 あの夜、秋雅が出会った幽霊は、今現在秋雅の家の厄介となっていた。最初は事情を知った正史編纂委員会が引き取る事を提案したのだが、当人が秋雅と離れることに積極的でなかったことと、秋雅自身も提案をしたのは自分だからと言ったため、秋雅の家で生活をするようになったのである。

 

 ちなみに、生活を始めるにあたって、その幽霊に仮名でもつけるべきかと秋雅は思い、提案をしてみたのだが、

 

「自分の名前を思い出したときに混乱しそうですから、すみません」

 

 と、こういった理由で彼女が――流石にと言うべきなのか、非常に申し訳なさそうに――断ったので、未だに秋雅は彼女の事を、君などと呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 一息。私室のベッドに身体を横たわらせながら、秋雅は疲れたように息を漏らす。

 

「……どうにも、慣れん」

 

 ぼうっと天井を見上げながら、何となしに秋雅は呟く。その呟きこそが彼の、ここ一週間の生活の感想であった。

 

「薄情なのかな、俺は」

 

 感情の無い声で、秋雅はボソリとそれを口に出す。そしてそのまま、秋雅はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「……つまり、呪力を溜め込み、それを無意識に変換している。そう、私は考えている」

 

 そう、秋雅は彼女に告げる。今までの研究の結果から、そうであるのだと結論付けた内容であった。

 

「呪力を溜め込む、ですか?」

 

 対し、それを聞いた彼女の方は、いまいちピンと来ていないように首を傾げる。元々、そういった事情を知らぬ表の世界の住人だ。これだけでは伝わらないかと、秋雅は説明を続ける。

 

「普通、幽霊というものは呪力をさして溜め込む事が出来ない。これは基本的に、生者と比べて呪力を受け入れている器が小さい所為だと考えられている。肉体が無い分、容量が少ないからだな」

「成る程」

「だが」

 

 唐突に、秋雅はその右手に呪力を集める。おおよそ、一般的な魔術師の三人分はあるであろうか。それを彼は、何の前触れも無く目の前の幽霊の彼女へと投げる。それを彼女は避けることなく――あるいは、単純に反応が間に合わなかったのかもしれない――そのままそれを受け止める。本来であれば幽霊など簡単に散ってしまうような呪力の塊であったが、しかし彼女は平然としていた。

 

「……このように、君はこれだけの呪力を得ても一切影響がない。それどころか、それを用いて実体化すらしている」

 

 ちらりと秋雅が見たのをどう取ったのか、彼女は近くにあった小物を手に取る。霊体であるということなど分からぬほどに、彼女は普通にそれを手の中で転がせる。

 

「私の知り合いに幽体離脱を得意とする魔女がいるが、その彼女も霊体のまま物に触れることは出来ない。念力を併用してようやく、という具合だ」

 

 だが、今秋雅の目の前にいる彼女はそのような事をしていない。何を意識するわけでもなく、平然と物を掴んでいる。

 

「実体化のメカニズムはよく分からんが、まあ取り込んだ呪力を使っているんだろう」

 

 ある種、まつろわぬ神が現世で肉体を持つのと同じメカニズムなのかもしれないと、ふとそのような推測が浮かぶ。まあ、そうだったとしても、規模としては桁違いとなるのだろうが。

 

「元々そういう体質だったのか。あるいは死んだことで開花したのか……はたまた、そんな影響を受けるような死だったのか」

 

 どうだろうな、と秋雅は彼女を見ながら言う。その視線に彼女が困ったような表情を浮かべたのに気付いて、秋雅は話を少し逸らして続ける。

 

「……今のところ、溜め込んだ呪力を実体化維持にしか使っていないようだが、理解が深まれば魔術の一つぐらいは使えるようになるかもしれないな」

 

 そうなんですか、と彼女は秋雅の発言に対し頷く。何処か、その声に嬉しそうな色が見えるのは、自分が魔術――魔法という、夢物語の力を扱えるようになるかもしれないという期待によるものだろうか。もっとも、それで言えば既に、彼女は幽霊という非科学的な存在になっているのであるが。

 

「まあ、それを考えるのはまだ先だ。それよりもまずは、君の正体を探る方を優先するべきだろう」

「そうですね……分かります?」

 

 私の正体は、と彼女は若干首を傾げて言う。相変わらず何処か他人事のように聞こえる。前向きというか、後ろ向きな雰囲気がまるでないというか。極端に記憶がなくなるとそうなるのであろうかと、そんなことを秋雅は思う。

 

「君が生きている人間と見間違うレベルで実体化できたのは幸運だった。おかげで、こうして写真を撮ることが出来たからな」

 

 ちらりと、秋雅は手元にある写真に目をやる。そこには、本当に幽霊なのかと聞きたくなるほどに、彼女の姿がくっきりと映っている。一応は心霊写真であるのだが、しかしこれを見て幽霊だと思う人はまずいないだろう。

 

「現在、この写真を元に正史編纂委員会に調査を命じている。写真一枚からというのが何とも難しいところだが、少しぐらいは情報も上がってくるだろう」

 

 とはいえ、秋雅も触れているとおり、写真一枚だけで人物を特定するのは難しい。名前が分かっていない、というのがこれに拍車をかけている。一応、彼女がいたあの高校の卒業生を中心に調査をさせているのだが、クリーンヒットするかどうかは怪しい、という風に秋雅は思っている。まあ、そこまで口に出す気は無かったが。

 

「何にせよ、今は待ちの姿勢だな」

 

 そう呟いた時、秋雅の意識は暗転した。

 

 

 

 

 気付けば、毎晩と毎朝に見慣れた天井を、秋雅はぼんやりと見つめていた。数秒経ち、回り始めた頭が結論を導き出す。

 

「……ああ、寝ていたのか」

 

 小さく呟いて、秋雅はベッドから身を起こす。どうやら、寝転がった際にそのまま眠ってしまったようだった。夢の内容は三日ほど前の回想で、見た原因は寝る前の事がそうなるのだろうか。そんな事を考えつつ、僅かに残る眠気を軽く頭を振ることで取り除く。そして、帰ってから付けっ放しの腕時計に目をやると、大体一時間ほどが経っている事が分かった。

 

「疲れているのかな、俺は」

 

 何気なくそんな言葉を口に出した後、そうだなとその言葉に自分で納得する。もう一週間、幽霊の彼女と生活を共にしているのだ。その間、正確には彼女が近くにいる間はずっと秋雅は王としての言動を心がけるようにしていた。それが存外、秋雅にとっての負担となっていた。

 

 例えば、『ロサンゼルスの守護聖人』であるジョン・プルートー・スミスの名を持つ秋雅の盟友たる彼女(・・)のように、普段と王としてのそれがほぼ別人格となっているというのならばともかく、秋雅の場合はただ自分で意図的に振る舞いを変えているだけだ。そしてその王としての人格は、秋雅の素のそれと大きく異なっている。だというのに、自分の素直な言動を封じて、人の上に立つにふさわしい振る舞いを続けるというのが、思いの外秋雅の精神を消耗させていた。

 

 

「まあ、結局は自業自得か」

 

 いい加減付けっ放しだった腕時計を外しつつ、秋雅は何となしに呟く。そう、結局のところ、秋雅は幽霊の彼女の前でも素を見せれば良いだけの話だとも言えよう。

 

 だが、そうもいかないというのが秋雅の少々面倒なところであった。どうやっても、自分が王として振舞う相手――基本的には魔術師たち、及びその関係者のことだ――に対しては、秋雅は自分の素を見せるという事が出来ないのだ。これはもう理屈ではなく、ほぼほぼ本能的にそうしてしまう。数少ない例外を除いて、魔術関係の人間相手には、どれほど親しくなろうとも秋雅が素を見せることは無い。

 

 だから、最初にそう振る舞い、その後も魔術と縁を切る事がまずないであろう彼女に対しても、秋雅は王としての稲穂秋雅を保ち続けないといけなかった。ここまで秋雅が強く自分を見せないのも理由はあるが、ここでは割愛する。重要なのは、秋雅は魔術側の者に対しては絶対に素を見せない、見せられないという点だけだ。

 

 

「……それにしても、こんなに気疲れするものだったか?」

 

 少しばかり不思議そうに、秋雅は首を捻る。確かに長期間王として振舞ったことで疲労するというのには納得がいったが、しかしそれだけでこうも疲れるものだろうか。これまでにもこれ以上の期間、例えば半月ほどとある魔術結社の客人としてそこに滞在していたことがあったが、その間ずっと王としての言動をとり続けていたというのに、これほど疲れてはいなかったように秋雅には感じられた。

 

「となると……」

 

 少々どうでもいいことかもしれないが、秋雅は何となくそのまま思考を続けてみる。一体どういう理由があるのかと幾つかの可能性を浮かべていって、

 

「……ああ、そうか」

 

 自分の家だからか、と秋雅は納得がいったように呟いた。彼女との生活にあたって自分が苦痛に感じていたのは常に演技をしていたことではなく、自分のプライベートにそれを持ち込まなければならなかったことなのかと、今更ながらに秋雅は理解したのである。

 

 

 考えてみれば秋雅は、向こうに行って王として生活をするということはあっても、こちらに相手がいる状態で王として振舞うのは始めてだった。そもそも、彼はこれまで極力自分のプライベートな場所にカンピオーネとしての秋雅を知っている者を招かないようにしていた。理由は言うまでもなく、王ではない稲穂秋雅という男のことを知られたくなかったからだ。だから、今こうして、自分が生活している場というものを見せ、あまつさえそこで生活をさせているということが、思いがけない負担となっていたのであろう。

 

「まあ、そう分かっても、このまま放り出すわけにも行かないからなあ」

 

 

 疲れている所為か、独り言を続けながら秋雅はため息をつく。流石に、自分で来るように誘っておきながら、自分が疲れるからと途中で放り出すなどという不義理な真似はできない。となればこの場合は、彼女の記憶を早く取り戻し、彼女に今度の身の振り方を問うというのが真っ当な選択であろうか。

 

 しかし、まだ手がかりは掴めていないというのが現状だ。あの高校の卒業生、働いていた者を過去五年に遡って正史編纂委員会の者達に調べさせたが、まったく情報はなかった。他のルートでも多少なり調べているようだが、どうにも旗色は良くないようであった。

 

 だけれども、それで委員会に発破をかけさせるというのも気が引ける。ただでさえこれは秋雅が気まぐれで始めたようなものであるのだ、それで他者に負担を強いるというのも道理がない。

 

「ふむ……」

 

 どうしたものかと、秋雅は腕を組んで考え込む。改めて考えてみれば、いかに幽霊とはいえ女性と一つ屋根の下というのは、どうにも彼女達(・・・)に悪いように思える。おそらくは気にしないであろうが、しかし彼女たちよりも先に自分の家に女性を泊めているのは事実。あまり良くないかと、今更だがその事について秋雅は考える。

 

「大学も休みになったことだし、一度ウル(・・)達の元に行くべきか……何とも、後ろめたいことのある旦那のみたいだな」

 

 自分の思考に対し苦笑しつつ、しかし向かうこと自体は確定させて秋雅は手帳を開く。さて、一体何時がいいだろうかと、夏休みの間に行うつもりだった予定に目を通していく。

 

「…………うん?」

 

 大学関係、家族関係、魔術関係と、色々と確定もしていない予定に関しても考慮しながら秋雅は予定の確認をしていく。そんな中、そのうちの一文に目が行った。

 

「賢人議会との会合……」

 

 賢人議会――英国に本拠地を置く、世界でも特にカンピオーネについての情報を収集、発表している、魔術・オカルトの研究機関だ――と秋雅の関係は、実に驚嘆すべきことであるのだが、かなり良好と言っていい。カンピオーネという存在の危険性を世界中に発信し、有事の際には率先して対応せんとしている彼らは当然のようにカンピオーネ本人たちとの交流はそうない。個人レベルでの交流はともかくとして、組織としてカンピオーネを歓待するということはまず無い。

 

 しかし、稲穂秋雅という王は例外であった。歴代、そして現存するカンピオーネの中で数少ない、極めて理性的で、他者を犠牲にしてでも己が欲望、欲求を通すということがない王として、賢人議会は秋雅の事を肯定的に見ている。世界各国の魔術結社からの要望を少ない報酬――起こる可能性のあった被害に対する復興費と比べて、という意味だ――で引き受けていること。そして何よりも、これまでイギリスで発生した魔術的な問題を、何度も軽微な被害で収束させてきたというのが大きいのだろう。

 

 

 そんな賢人議会からの会合の誘い。一月ほど前から誘われていたが、時間が取れないからと後回しにしていたそれから、秋雅はあの組織の実質的トップとも呼んでいいあの女性を思い出し、口の端で弧を描く。

 

「――その手があったか」

 

 一つ頷いて、秋雅は自室のドアを開ける。すると夕食の準備をしてようで、手に皿を持った彼女が秋雅に声をかけてくる。

 

「ああ、秋雅さん。お夕飯の準備を始めているんですけど、早いですかね?」

「いや、別にいい。それよりも、何か足の早いものを大量に作っているか?」

「え? あ、いえ、特には」

「なら明日明後日にでもここを発つので、そのつもりでな。上手くやれば君の記憶が戻るかもしれない」

「発つ? 出かけるってことですか? 一体何処に?」

「英国……イギリスが目的地だ」

「……へ?」

 

 秋雅の言葉に対し、彼女は気の抜けた声を漏らした。

 

 

 

 

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