トリックスターの友たる雷   作:kokohm

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閑話 王の会合・其の二
雷の王と化身の王


 ナポリでのペルセウスとの死闘の後、草薙護堂は再びサルデーニャへと戻っていた。いい加減日本に戻っても良かったのだが、しかし何となしに未だに異国の地での休暇を楽しむ流れになっていた。もっとも、先日まで利用していた海の近くの貸し別荘ではなく、ルクレチア・ゾラの屋敷へと居を移していたのだが。いい加減ビーチでのバカンスも飽きた、というのが当の家主の主張である。まあ、彼女の所有する魔術書などに惹かれた者もいるので、それはそれでな提案だったのだが。

 

 

「実は今日、客人が訪れる予定なのだよ」

 

 そうルクレチアが切り出したのは、ちょうど昼食も食べ終わったというタイミングだ。

 

「お客様、ですか?」

「じゃあ、俺らは外にでも出ていた方がいいですかね?」

 

 その言葉にまず祐理が聞き返し、それに護堂も続く。

 

「いや、その必要は無い。と言うよりも、むしろ少年の場合は居てくれた方がいいだろうな」

「居てくれたほうがいい? ということは、そのお客人は草薙護堂の縁者ということか?」

 

 ルクレチアの言葉に、リリアナ・クラニチャールが問いを発する。元々ルクレチアが招待したわけではない彼女がここにいるのは、先日のナポリでの一件以来護堂の騎士を自認した彼女が、その任を果たそうとする為に時折ここを訪れているからである。まあ、やっていることは騎士と言うよりも、むしろメイドか何かのようにも見えるのだが。

 

 それはそれとして、リリアナの問いかけに対し、ルクレチアは何処か楽しげな様子で首を横に振る。

 

「いや、少年とはまだ面識の無い相手だろう。だが、全くの無関係と言うわけでもない」

「なんです、そりゃ?」

 

 さっぱり分からない、と護堂は首を傾げる。面識がないくせに関係はあると言われても、当然ながら誰のことやら分からない。見てみれば、祐理もまた護堂の隣で同じように首を傾げている。

 

「もしかして……」

 

 しかし、そんな二人とは対称的に、エリカは何かに気付いたようにルクレチアに視線を向ける。

 

「まさかとは思うけれど…………カンピオーネのどなたかがいらっしゃる、などだったりするのかしら?」

「えっ!?」

 

 エリカの探るような発言に、護堂は驚きの声を上げる。もっとも、実際に声を出したのが護堂というだけで、祐理もリリアナも同じように驚いた表情をしている。

 

 そんな護堂たちに対し、ルクレチアは意味深な笑みを浮かべていたが、ふと玄関の方に視線を向ける。

 

「おや、噂をすればと言うやつかな」

 

 言われ、護堂たちがそちらに意識を向けると、エリカのメイドであるアリアンナの声と、それ以外の誰かの、おそらくは男性である声が聞こえる。

 

 誰か、ルクレチアの言うお客さんがこの屋敷を訪れ、その対応をアリアンナが行っているといった所だろう。

 

 それを裏付けるように、数秒ほど後にリリアンナが部屋に入ってきて、ルクレチアに対し言う。

 

「ルクレチア様、お客様がいらしていますが、どうなさいますか?」

「ああ、ここに通してくれ」

「かしこまりました」

 

 そんな会話を、どのようなリアクションを取るべきかと見守っていた護堂達だったが、そんな彼らに対し、ルクレチアが口を開く。

 

「さて、では諸君に紹介しよう」

 

 同時、ガチャリと部屋のドアが開けられ、一人の青年が入って来る。その彼を指しながら、楽し気に紹介する。

 

「彼が少年と同じカンピオーネの一人、稲穂秋雅その人だ」

 

 それに対し、その青年――稲穂秋雅は顔をしかめた後、

 

「……どういう状況だ、これは」

 

 自分を見つめる四つの視線に対し、僅かに困惑したような調子で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 護堂が居間にあるソファに腰掛けたなおしたところで、先んじて秋雅が口を開いた。

 

「改めて名乗ろう。私が稲穂秋雅、君と同じカンピオーネだ」

「えっと、草薙護堂です」

「まさか、このような場所で君と会うことになるとは思ってもみなかった」

 

 嘆息してそう秋雅が告げる。しかし、それは護堂も同じことだ。まさかここで、新しいカンピオーネに会うことになるとは思ってもいなかった。

 

 じっと、護堂は目の前に座る秋雅を観察する。中性的なつくりの、整った顔立ちをした日本人だ。おそらくは、それほど歳はいっていないだろう。二十代前半くらいかと護堂は結論付ける。

 

 先ほどの立ち姿を見た限り、それなりに長身で、何処と無く引き締まった身体をしているように見えた。その辺りは先日また再会したばかりのサルバトーレ・ドニと同じような風でもある。

 

 全体の雰囲気としては、何と言うのだろうか。所謂、王の風格とでも表現するような空気を、全身から出しているように護堂には感じられる。自分と違い、人の上に立つことを当然だと思っているような態度だ。その辺りはあのヴォバン侯爵と同じだが、彼とは違い、人を人とも思わぬような目をしているわけではない。非常に落ち着いた態度であり、ドニのように好戦的な空気も感じない。会った事のあるカンピオーネが二人ともあれ(・・)だったので単純に比較も出来ないが、何となく話の通じそうな人だと護堂の第一印象は告げていた。

 

 

 そんな護堂の不躾な視線など気に留めた様子も無く、秋雅は傍らに立っているルクレチアに視線を向ける。家主でありものぐさな彼女がそのような位置に立っているのは、仮にも王同士の会合ということで同じ席につくという無礼を嫌った為だ。同じように、エリカや祐理も護堂の傍らに控えている。リリアナがいないが、それは紅茶を入れるために席を立っているためだ。

 

「我が師よ、貴女に連絡をしたときに、我が同胞がここに居るなどとは聞いていなかったと思うのだが、違ったかな?」

「いいや、違わないな。ただ、この方が面白そうだと思ったのでね、我が弟子よ」

 

 イタズラに成功した子供のような笑顔で述べられたルクレチアの言葉に、秋雅が一つため息をつく。もっとも、それは護堂も同じだが。

 

 会うのはともかくとしても、その前にエリカなどからどういう人物なのか聞いておきたかったというのが本音だ。以前にも軽く説明されてはいたが、実際に会うのであればもう少し聞いておきたかったと今更どうしようもない事を護堂は思う。

 

「ルクレチアさんと、えっと……稲穂さんは師弟だったんですか?」

 

 取り合えずとして、護堂は今の会話で気になった言葉を拾ってルクレチアに問うてみる。それに対し、ルクレチアは、さて、と顎に手を当てながら言う。

 

「実のところ、それほどたいして魔術を教えたというわけでもないのだよ。少しばかりの基本と、多少なり魔術書を預けてみたというだけで」

「そういうことだ。師だ弟子だと呼び合っているが、ただ魔術書の貸し借りをしている程度の仲に過ぎん」

 

 それを果たしに来てみれば君がいたのだかね、と秋雅は再び嘆息しながら言う。そんな彼の態度に、他の王のように浮世離れしているというわけじゃないのだろうかと護堂は考える。むしろ、周りに迷惑を掛けまくっていたあの二人と違って、どちらかと言えば苦労人気質のようにも見えないことも無い。

 

「失礼します」

 

 そんな折、席を外していたリリアナが室内に入って来る。その手にはトレイがあり、その上には二つ紅茶のカップが置かれている。

 

「……どうぞ」

「ありがとう」

 

 カチャリと、リリアナが出した紅茶に対し、秋雅は礼を言う。それに対し、いえと軽く反応した後、その対面に座る護堂にも同じように紅茶を出して、リリアナは一歩下がる。そのままエリカ達と同じように護堂の、自分の主のすぐ傍に立ち、何かあった際には動けるように待機する。

 

 三人の、そのよそよそしいとも言える対応に、何処となく護堂が違和感を覚えている前で、秋雅は平然と出された紅茶を味わっている。

 

「……ふむ、良い味だ。リリアナ・クラニチャール、君は剣だけでなく茶にも精通しているのだな」

「気に入っていただけたなら幸いです、王よ」

 

 恭しくリリアナが頭を下げる。それを見ていた秋雅の視線が、ついと祐理のほうへと動く。

 

「それにしても、まさかここでまた君と会うことになろうとはな。息災で何よりだ」

「失礼ながら、御身を拝見するのはこれが始めてであったと思うのですが……?」

 

 僅かだが気安げな調子で放たれた秋雅の言葉に、祐理は困惑したように言う。そんな彼女の態度を見てリリアナが口を開く。

 

「万里谷祐理、貴女は覚えていないだろうが、あの時に私達を助けてくださったのが稲穂秋雅様だ」

「あの時というと、四年前の?」

「ああ、そうだ」

 

 この時護堂は知らなかったのだが、後に聞いたところ、何でも四年前のヴォバン侯爵の一件において、リリアナや祐理といった儀式に参加させられていた者達を助けたのが秋雅であったのだそうだ。その儀式で呼び出された神とヴォバン侯爵と実際に戦ったのはドニであったが、その余波に巻き込まれないように彼女らを守っていたのが秋雅だったらしい。その件で非常に秋雅に感謝をしているというのが、その際にリリアナが護堂に語った感想であった。

 

 

「その口ぶりでは、もしやあの一件のことは忘れていたのか?」

 

 リリアナの言葉と祐理の態度で察したのか、秋雅は少しだけ驚いたような表情を見せる。

 

「だとしたらすまなかったな。言われてみればあのような事件のことなど、忘れるのも無理からぬ話だ。記憶の蓋をひっくり返すような真似をするべきではなかったか。無礼を詫びよう」

「お、御気になさらないでください。私が御身より受けし恩を忘れていたのがいけなかったのですから」

 

 何か調子が狂うなあと、秋雅の言葉を聞いた護堂は思う。どうにも、目の前の彼が、ヴォバン侯爵やサルバトーレ・ドニと言った、傍若無人な王と同じ存在であるようには見えない。少なくとも、あの二人ならこのような謝罪を行うことはしないだろう。自分と同じように、一般的な感性を持った人物なのだろうかと、何となく親近感を覚えなくもない。

 

「そして君が『紅き悪魔』(ディアヴォロ・ロッソ)か……君の顔も何処か覚えがあるな。いや、以前に写真を見たことはあるが、しかし……?」

 

 ふと、この場にいる最後の人物であるエリカに対し、秋雅が視線を向け、そして首を捻る。

 

「以前、《赤銅黒十字》が御身に依頼をした際に、僅かですが言葉を交わしていただいた経験がありますので、それではないかと」

「……ああ、あの時の。成る程、写真ではピンと来なかったが、こうして直接顔を見ると確かにあのときの少女だな。いや、失敬した」

「いえ、あの時は本当に一言、二言程度でしたから、覚えていらっしゃらないのも無理からぬ話と思います」

「ふむ、そう言ってもらえると助かる。まだ私も、この若さで頭の呆けた愚か者と謗られたくはないからな」

「…………想像以上ね」

 

 ポツリと、おそらくは護堂達にしか聞こえないであろう声量でエリカが呟く。それに対し、護堂も心の中で同意する。確かに、これは想像以上にまとも(・・・)な相手なのかもしれない。

 

「なに、想像以上だったのは私の方だよ」

「えっ?」

 

 今のエリカの声が聞こえていたのか。少し驚く護堂に対し、秋雅は何を考えているのか分からぬ目を向けて、

 

「まさか、新しき王がかように色を好む王であったとは、想像もしていなかった」

「なっ!?」

 

 どんな事を言うのかと思っていたが、まさかの言葉に護堂は言葉を失う。当人から反論がなかったからか、さらに秋雅は続ける。

 

「確かに、かのエリカ・ブランデッリを愛人にしていると聞いていたが、まさか日本の媛巫女と『剣の妖精』までも虜にしていたとは、いやはや凄いものだな」

「王よ! 失礼ながら、私と草薙護堂はそのような関係ではありません! あくまで騎士として、彼に仕えているだけです!」

「わ、私もあくまで護堂さんのその、虜と言うわけでは……」

「そうだ! 変な勘違いはしないでくれ!!」

 

 思わず大声で、護堂はリリアナと祐理の言葉に続く。護堂からしてみれば、三人とも仲の良い友人であって、断じて人様に後ろ指を刺されるような関係ではないのである。常ならばここでエリカが、愛人だのなんだのと言ってきそうなものだが、場所が場所な所為か特に何を言うそぶりもない。

 

「……そうか」

 

 そんな護堂の否定を理解してくれたのか、秋雅はそれだけを呟いた。特にこれ以上、この話題に触れる気は無いようではある。

 

 そんな彼の態度に護堂は、何となくではあるが、目の前の青年が少し気分を害しているようにも見えた。しかしその事に対し護堂が質問をするよりも早く、秋雅は足を組みなおして口を開く。

 

「いい加減、前置き代わりの会話は十分だろう。そろそろ、本題に入らせてもらう」

「本題?」

「今回のこれは偶然ではあるが、しかし君と一度会ってみようと思っていたのは確かなのでね。その際に訊こうと思っていた事を、今尋ねようということだ」

 

 そこまで言って秋雅は一口紅茶を味わう。カチャリとカップをソーサーに置いた後、さて、と秋雅は護堂を見据えて言う。

 

「草薙護堂、君はカンピオーネがもたらす被害についてどう思っている?」

「どうって……」

「言い方を変えよう。君は、自分がもたらした破壊についてどう思っている?」

「確かに俺はまつろわぬ神との戦いで色々壊してしまったけど、でもあれは仕方が――」

「そうか、分かった」

 

 結果的に、自分が壊してしまった物に対しての言い訳などをしようとした護堂であったが、しかしそれを秋雅はぴしゃりと遮る。

 

「つまり君はこう言いたいのだな。建造物を壊さないように注意していたが、しかし戦闘の結果、仕方なく壊すことになってしまった、と」

「……そういうことになりますね」

 

 秋雅の纏めに、護堂は自分のしでかした事を恥じて身を縮こまらせる。言葉を遮られたことはあまり良く思わないが、しかし事実ではあるので言い返しようがない。

 

「成る程……成る程な」

 

 そう、秋雅は呟く。それが何を意味しての呟きなのか、護堂には全く分からないのだが、そんな彼の内心など知らず、秋雅は人差し指を立てて示す。

 

「草薙護堂、一つ、忠告をしておこう」

「忠告?」

「ああ、忠告だ。草薙護堂、下らぬことを考えるのは止めておけ」

「え?」

「被害を増やさないようにする、など土台無理な話だということだ。そんな事を考えたところで、何の意味などありもしない。カンピオーネなど、所詮は破壊をもたらしてしまう存在なのだからな」

「いや、でも無駄に街を壊すわけにも行かないでしょう?」

「――では、君にそれを防ぐ手立てがあるのか? いや、君は最後まで周囲の被害を考えながら戦った事があったのか?」

 

 痛い所をつかれたと、護堂は思わず黙り込む。確かに、最初こそは考えていたりもするものの、最終的には完全に頭からすっぽ抜けているばかりだ。

 

「であれば、考えるだけ無駄だから止めておきたまえ。君にそのようなことは決してできないということだ」

「そんなことは……」

「では、君はこれまでの闘いにおいて、事前に被害を減らすように動いた事があるか? 戦うであろう場所から民間人を避難させるように指示したり、あるいは戦う場所を変えたりと、そういうことを一度でもした事があったかね?」

 

 全くもって、護堂は言い返す事が出来ない。

 

「極めつけは、だ」

 

 一息挟んで、秋雅は言う。

 

「かのまつろわぬアテナとの一戦。そのきっかけとなったゴルゴネイオンは、君が日本に持ち込んだと聞いている」

「あれは……」

「本当に被害を抑えたいのであれば、東京ではなく何処か人気の無い、暴れても問題ないような場所に持ち込めばよかったはず。それなのに君は何も考えずに東京にそれを持ち込んだ。配慮が足りない、と言われても仕方がないと思うがな」

 

 そう言う秋雅の護堂を見る目は、非常に冷ややかに感じれられる。

 

「それに加えて、君はその際にまつろわぬアテナに止めを刺さなかった。まったくもって、愚かしいとしか言えない。まつろわぬ神を見逃した所為で、また別の場所で被害が起こるような事があればどうするつもりだ? 我らが暴虐に振るおうとも許される、その最大の存在意義を自ら捨てるなど、実に愚かしいと言える」

「しかし、そのおかげでナポリは救われました」

「そうだな、リリアナ・クラニチャール。その件に関しては私も報告を請けている。かの神のおかげで、ナポリという土地が死ぬ事を免れたと……が、しかし」

 

 それは結果論に過ぎない、と秋雅は言う。

 

「結果論を完全に否定する気もないが、しかし最初からそれありきで考えることなど出来るはずもない。依然、まつろわぬアテナが何処かの土地で猛威を振るう可能性は残っている。その結果多数の人民が被害を受けようとも、君はそれこそ結果論に過ぎないとでも言うつもりかね?」

 

 ようやくはっきりと、秋雅の表情に感情が見えた。それは、護堂に対する呆れの色だ。

 

「口先だけの平和主義、最悪を考えぬ見通しのなさ。それもいいだろう。しかし、それならばそれありきで行動するべきだろう。自分は何も考えず、行き当たりばったりで破壊をもたらす存在なのだ、とな……比較的理性的で言葉の通じるタイプではあるようだが、根源は他の王と同じだな、草薙護堂。結局は、そういうことだ」

 

 ついと、秋雅は自分を指差し、ついで護堂にその指を向ける。

 

 

「私も――そして、君も。どちらもが、理不尽にして破壊の権化たる王なのだ。権能の種類などは関係なく、根源的なところで破壊と混乱を招くのが、私達カンピオーネなのだ。その自覚と覚悟を、不足なく持つべきだと私は思うがね。もっとも、それをすんなりと受け入れるほど、君は自分を客観視できないようだがな」

 

 ふん、と秋雅は鼻を鳴らす。

 

「最後に言っておく。今の君では、私が非戦の盟約を結ぶには不足している。もし君が私の道の前に立ち塞がるのであれば、容赦なく討つ。少なくとも、君が未熟であるうちは、私は君を認めないだろう、覚えておけ」

 

 さて、と秋雅は居住まいを正し、

 

「――では、これで失礼させてもらう」

 

 

 そう秋雅が言った、次の瞬間だ。

 

「えっ!?」

 

 稲穂秋雅の姿が一瞬のうちに消え去った。驚きと共に護堂は秋雅が座っていた場所を見るが、そこにあるのは一冊の魔導書だけだ。傍らにいた三人にも確認を取ってみるが、三人とも秋雅が消えた方法は分からないらしく、一様に首を横に振っている。

 

「……言われっぱなしだったな」

 

 秋雅が消えた。その事実を理解した後、護堂の口から出たのは、そんな感想であった。最後の方など、完全に口を挟む事が出来ていなかった。完全に痛い所をつかれ続けてしまい、感情的に言い返すことすら出来ないほどに彼のペースに飲まれてしまっていた。

 

「別に間違ったことは言っていなかったもの、仕方がないわ。もっとも、護堂がそれに合わせる必要性は全く無いけれどね」

 

 フォローなのかどうなのか、そうエリカが言う。

 

「しかし……何か妙だったな」

「妙って、どういうことですか?」

「いや、あの稲穂秋雅にしては、随分と辛辣だったなと思ったのだ。以前から私は多少彼と縁があったのだが、それにしてもあんなに苛烈に言い立てる人ではないはずなのだが……」

「確かに、リリィの言う通りね。あの方は基本的に、敵を作らないような言動と聞いていたのだけれど」

 

 不思議そうに、リリアナとエリカが首を傾げる。そんな二人に対し、秋雅が置いていったのであろう魔導書を手に取って、ルクレチアが口を開いた。

 

「ああ、まあ我が弟子は機嫌が悪いようだったからな。おそらくはその所為だろう」

「機嫌が悪かったのですか?」

「もっとも、それも少年が原因であるのだが」

「え? 俺ですか?」

「ほら、少年が愛人云々の話題を否定しただろう?」

「当たり前でしょう!」

 

 それが気に触ったのだよ、とルクレチアは言う。

 

「我が弟子はどうも、義理の通らぬことを嫌う性質の様でな。女性の心を弄んでいるような少年に、あまり良い感情を持たなかったのだろう。私の見る限り、彼は釣った魚には餌をたっぷりと与えて、しっかりと愛でるタイプだからな」

「だから、誰も弄んでなんかないですってば」

「鈍すぎるのは罪って事よ、護堂」

 

 エリカがそう締めると、何となく全体に納得したような雰囲気が出てしまい、護堂としてはどうにも居心地が悪くなってしまう。

 

「……まあ、それはそれとしてさ。俺とあの稲穂って人が戦うことになったりするのか?」

「どうかしら。基本的にあの方は無益な戦いはしない方だけど」

「私もそう思うが、どうにも草薙護堂には良い感情を抱いていないようだったからな……」

「見た限り理性的な方のようでしたから、大丈夫なのではないでしょうか?」

「あまり心配する必要はないと私は思うがね。何だかんだと言って、我が弟子は人と争う事を避けるタイプだからな」

「だったら大丈夫か……?」

 

 そう、不安そうに護堂は呟く。何となく、そのうちに彼と戦うようなことが起こるのではないかという、漠然とした予感を胸のうちに感じていたからであった。

 

 

 




 色々書く事を削ったのに長くなってしまった。削った所為で結構おかしいところもあるかもしれないけれど、それはそれということで。基本的に秋雅と護堂は同じ言葉が通じる方の王様で、同タイプのアレクサンドルと比べるとと格段に相性がいいけれど、現状は秋雅が護堂をそこまで良く思っていないといったところでしょうか。この二人が再会するのは多分四章あたり、恵那と会う前になるか後になるかはまだ考え中。次章は秋雅の女たちがでたり、アメリカに行ったりする予定。日本に帰る日は遠い。


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