「悪かったな、出迎えを頼んで」
車を走らせて早々、秋雅は運転席のウルに向かってすまなそうに言った。しかし、それに対しウルは、いつものように柔らかい笑みを浮かべ首を振る。
「大丈夫よ。これぐらいなら何てことないから」
「そう言ってもらえると、助かる」
バックミラー越しのウルの微笑に、秋雅もまた同じような表情で返す。ありがたいものだ、と思いつつ、ふと視線をずらしてみると、同じくバックミラー越しに、秋雅の顔を見つめるヴェルナが見えた。じゃんけんの結果、スクラに秋雅の左隣を譲った彼女である。姉妹が羨ましいのだろうか、とやや他人事のように考える秋雅の隣で、常の様相を保ったままのスクラが口を開く。
「私達の家は郊外だから、バスで来るのは面倒。タクシーもまた外れを引いた場合が面倒と考えると、私達が迎えに来るのは自然なことだと思うわ」
「あんまりバスに乗っているイメージもないしね、秋雅は」
「日本では普通に乗っているけどな」
「イメージ湧かないけれどね、そんな秋雅の姿」
「そうか?」
和気藹々と、秋雅たちはそんな会話を続ける。そんな中、ふとヴェルナが、何かを思いついたようにして、後部座席の秋雅に振り向く。
「いっそ、秋雅が家まで運転する?」
突然のヴェルナの提案に片眉を上げた後、秋雅は軽く肩をすくめる。
「止めておくよ。こっちの運転免許はないからな」
こっちの、と言うように、秋雅は日本の運転免許に関してはきちんと所持している。ついでに言うと、二輪車の免許も持っている。もっとも、若干委員会の協力を受けた上での取得という、中々に胡乱な免許であった。まあ、技術と知識は問題ないので、その辺りは一応大丈夫と言えないこともないのだが。
「ばれなきゃ問題じゃないって」
「ばれたら問題になるんだよ」
「でも、そうなったところでどうとでもなるわよね」
「二重の意味でしないぞ。そんなつまらん理由で王の権威など使っていられるか、みっともない」
「そもそも私がハンドルを譲る気が無いから無意味よ、ヴェルナ、ついでにスクラも」
「はーい」
「分かっているわ」
所詮は冗談。姉であるウルの一言で、双子は大人しくこの話題を掘り下げるのを止める。相変わらず物分りがいいものだ、と間近の秋雅は僅かに笑みを浮かべる。
「ともかく、秋雅はこのまま家までゆっくりしていて頂戴。なんなら休んでくれていても構わないわよ」
「いいさ。数ヶ月ぶりの再会だというのに、一々休んでいたらもったいない。それに、休むほどの距離でもないだろう?」
「……本当に優しいわね、貴方は」
「そうでもないさ」
ウルの微笑み混じりの一言を軽い苦笑で返し、秋雅はふと窓の外を見やる。常人離れした視力を持つ秋雅の目には、景色の奥にある三姉妹の白く大きな家がぼんやりと映っていた。
ウル、ヴェルナ、スクラ。ノルニルという姓を持つ三姉妹と秋雅が出会ったのは、今から三年ほど前、賢人議会からの依頼を解決した直後のことであった。とある事情で追われていた彼女らを、偶々通りがかった秋雅が保護した、というのが全ての始まりである。
紆余曲折の末にアレクサンドル・ガスコインと敵対し、彼をカンピオーネで唯一の敵と定めるなどの波乱をはさみつつ、秋雅と三姉妹は急速に仲を深めていった。当初こそ――うっかり素を見せてしまったということから――ある程度気を張らずに話せる数少ない魔術関係者、あるいは研究を支援するパトロンという程度の立ち位置であったが、時間と共により親しい関係へと変化していった形である。
そして、そんな関係の始まりから、おおよそ一年ほどの時間が経っただろうか。ある日、ウルが秋雅に愛の告白をしたのである。これを秋雅が受けたことにより、秋雅にとって三人は恋人とその妹たちという関係に変わった。
それからは、所謂遠距離恋愛という形で、時々連絡を取り、時にはこうして秋雅が会いに来るという付き合いを続けていた。四六時中べたべたとするだけが能じゃないとい言えるような、不可思議さもある関係であった。
「……どうしたの?」
何となしに秋雅が外を見ていると、横に座っているスクラが怪訝そうな表情を浮かべているのに気がついた。ぼんやりとしていた秋雅の様子から、何か考え事でもしているのかと思ったらしい。
「ん? いや、なに……」
それに対し、特に何と思っているわけでもなかったのだが、何となくそうとも言わず、ふっと思い浮かんだことを口に出す。
「もう三年になるんだな、と思っただけだ」
「三年? ……ああ、私達が会ってからってことね」
「そっか、もうすぐ私達の誕生日だから、秋雅と会ってからもうすぐ三年になるのか」
「言われてみればそうなるのね。貴女達ももうすぐ十八になるってことだし、本当に、時が経つのは早いわね」
感慨深げにウルが言うと、秋雅がからかうような笑みを浮かべる。
「若いうちからそんな事を言っていると老けるぞ、ウル」
「貴方も人のことは言えないわよ、シュウ。年齢不相応な言動は貴方の十八番でしょうに」
「言ってくれるな、まったく」
言葉こそは文句のように聞こえるが、しかしそれを言う秋雅の顔は実に楽しげだ。この気の置けない会話が、秋雅にとっては非常に大切なものなのだろう。
「姉さんたちの年齢はともかくとして、本当に早い…………改めて考えると、皮肉なものね」
「何が?」
ヴェルナの問いかけにスクラは、秋雅の方をちらりと見た後、感慨深げな口調で言う。
「もしあの時、
しみじみとした彼女の言葉に、秋雅もまた過去の『if』に思いを馳せる。
もし当時、あの男が敵対した結社を完全に潰していたらどうなったか。その生き残りが英国に来ることはなく、姉妹を拾って育てていた女に、かつての仲間たちの死を伝えることもなく、結果として復讐も発生し得なかったかもしれない。
「あんなに中途半端な計画を彼女が実行しなければ、王立工廠と、ついでに賢人議会に余計な被害を出すことはなく、私達がその両方から狙われるようなことはなかった」
もし彼女が、その自暴自棄から破れかぶれな策を実行に移すことがなければどうなったか。最悪でも敵は王立工廠のみであり、賢人議会まで敵に回すことはなかったし、そのとばっちりが姉妹に来ることもなかったかもしれない。
「そんなもしもが重なれば、今もまだイギリスで、私達三人は暮らしていたのかもしれないし、今よりも他人というものを信じられたのかもしれない」
でも、とスクラは秋雅を見る。
「そうなれば、私達は秋雅に出会うこともなかった……平穏を捨て、最悪を体験したからこそ、私達は今ここにいる。これって、とびっきりの皮肉じゃない?」
「珍しいわね、貴女がそんな事を言うなんて」
「そう? でも姉さんも、同じようなことは思っているんでしょう」
「否定はしないわ。当時こそは、どうやって貴女達だけでも逃がそうか、とだけ考えていたのに、今はどうやったら皆で幸せになれるのか、と考えている――そう変えてくれたのは、間違いなくシュウのおかげ」
ちょうどそのタイミングで、赤信号が車の停止を命じてきた。それに然りと車を止めて、ウルが後部座席の秋雅に振り向く。
「ありがとう、シュウ」
「こばゆいな。こんなところでする話でもないだろうに」
少しだけ、おどけるように言った後に、
「……俺だって、お前たちには助けられているんだぞ」
口の中で完結する程度の小声で、秋雅が率直な感想を呟く。その際に彼の顔に浮かんでいたのは、彼があまりに見せることの無い、とても優しい笑顔であった。
それから、一時間弱程の時間が経っただろうか。ようやく目的地であるウル達の家が車の正面に現れた。久しぶりだと秋雅が僅かに懐かしさを覚えていると、再びミラー越しの視線を向けながらウルが口を開く。
「もうそろそろ着くわよ、シュウ」
「ああ、みたいだな」
それからさらに数分、秋雅達を乗せた車は一つの家の前に着いた。いや、家というよりは屋敷と言った方が正しいだろう。目の前の白い建物は、それを許すだけの気品と豪奢を備えている。ここに住んでいるのがたったの三人であるというが嘘だと思えるほどに、豪華で大きな屋敷だ。
それも当然の話で、元々この屋敷はとあるお金持ちが建てたものを、色々とあって秋雅が所持することになり、そこに姉妹が住むことになったものだ。元は使用人が多数いる事を前提とした屋敷なのだから、大きく豪華なのは当たり前なのである。
「……ここも久しぶりだな」
車を降り、目の前の屋敷を見上げながら、秋雅は先にも思った事を呟く。久しぶりといっても半年と経っていないのだが、不思議と毎度そう言ってしまう。おかしなものだ、と思いながら屋敷を見上げていると、ふと背後から視線を感じた。
何だ、と思いながら振り向く。軽い敵意のようなものはあれど、たいして危険な感じもしなかったので、特に警戒するでもなく振り向く。すると、そこには何人か、現地人らしき男たちが秋雅を不審げな目で見ており、秋雅が振り向いたことで慌てて視線をそらした。しかし、秋雅の視線に気づいていないものも数名おり、その視線がウル達三姉妹のいずれかへと向いている。
「成る程、そういうことか」
そんな男たちの態度に、納得がいったという風に秋雅は頷き、ついで苦笑する。彼らの目的が、今秋雅の周りにいる姉妹たちだと気付いたからだ。
確かに、ノルニル三姉妹はそれぞれに魅力的な女性だ。ウルは柔らかい雰囲気と微笑みが包容力を感じさせる、大人の女性だ。ヴェルナとスクラは同じ顔でありながら快活さと冷静さという二極的な態度のおかげで、タイプの違った美少女として互いの魅力を引き立てあっている。姉妹故か、三人が三人とも非常にメリハリのある体つきをしているというのも、彼女らの魅力というものを高めているのであろう。
そういったこともあるので、彼女らに惚れてしまうという男性がいるのは何らおかしいことはないだろう。実際、これまでにも秋雅はそういった光景を見た事があるし、彼女らを侍られていてやっかみの視線を受けたことも一度や二度ではない。もっとも、その程度の視線を気にする秋雅ではないし、むしろそこで腰を引き寄せるなどして見せ付けてやるぐらいなのだが。
「相変わらずもてるらしいな、お前達は」
「んー? ……ああ、あれね」
からかうようにして放たれた秋雅の言葉に対し、背を伸ばしていたヴェルナが怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐさま男たちの存在に気付いて面倒くさそうに息を吐く。
「まったく、こっちとしてはいい迷惑なんだけどね。信用できない相手に一々話しかけられると殴り倒したくなるから」
「そっちも相変わらずのようだな。まあ、早々治るものだとは思っていないし、頑張って治す必要性があるわけでもないからいいが」
「今更治るとも思えないけどね、私達の人嫌いって奴は」
そう言って、ヴェルナはスクラに問うような視線を向ける。それに対し、スクラは無表情に頷く。ウルは車をガレージに止めに行ったのでこの場にはいないが、もしいればおそらくは微笑を浮かべつつも、しかしまるで笑っていない目で同じように頷いたであろう。
「……本当に、相変わらずのようだ」
つまりはそういうことであった。この、ノルニルの家名を持つ三人は、それぞれと秋雅を除いた全人類を、全くと言っていいほどに信用していないのである。有体に言えば、人間嫌いだとか、人間不信だとか、そういう単語が浮かんでくるだろう。
三人がこうなった理由は大きく分けて二つだ、と秋雅は考えている。一つは彼女らの生まれだ。生母ではなく、家名も違う養母の下で育った中で起こってしまった他者との諍い。その内容を秋雅は知らない――彼女らが積極的に話したくない事を掘り下げる趣味は彼にない――が、しかしそれが全てのきっかけだとは推測している。
そしてもう一つは、秋雅と会うきっかけになった一件だ。誰が敵で誰がそうじゃないのか、今目の前にいる他人は敵が化けたものではないか。経験則から来る疑心暗鬼が、彼女らの人間不信を加速させたのだろう。
そうして、三人はついに自分の姉妹以外を一切信用しなくなった。唯一の例外である秋雅を除いて、だが。
だから、三人は外にこそ出るが、そこで他者との積極的なコミュニケーションをとろうとはしない。誰かに話しかけられたにしても――特にナンパ等の類であれば――ヴェルナはぞんざいな対応しかしないし、スクラは徹頭徹尾無視するだろう。ウルにしたって、表面上こそはにこやかに対応するだろうが、実際の所はどうしようもないほどの拒絶感を見せ付けるだろう。
「……となると」
だから、今遠くから見ている男たちは、未だに三人の誰にも話しかけた事がないのであろうと秋雅は推測する。一度でも話しかければ、よほどの鈍感でもない限り、その拒絶の意思を十分に感じ取って、諦めるという選択をするだろうからだ。
単純に勇気がないのか、あるいは高嶺の花だとでも思っているか。どちらにせよ、秋雅からすれば何が楽しいのかと思ってしまう。まあこれも、秋雅がある意味での勝者であるが故の思考なのかもしれないが。少なくとも、自分が普通の人間ではないということは、自明の理であるのは間違いないことである。
「どうしたの、シュウ?」
物陰にいる男たちについてどうでもいいことを、秋雅がつらつらと考えていると、ウルの声がすぐ横から聞こえてきた。いつの間にか、車の収納を終わらせていたらしい。些か気を抜き好いているだろうか、と秋雅は軽く笑う。どうにも、彼女らといると一般人としての稲穂秋雅が出てしまう、と。
「どうしたの?」
「いや、何でもないさ」
怪訝な表情を浮かべたウルに軽く手を振った後、屋敷の庭と道を隔てる門に目を向ける。その視線に気付いたウルがポケットからリモコンを取り出してスイッチを押すと、門がゆっくりと開いていく。
「さあ、どうぞ」
「ああ」
促され、家主である三人よりも先に秋雅が門をくぐる。そして、ウル達も続いて門をくぐった後で、門がゆっくりと閉ざされていった。
ギイ、と軽く音を立てながら秋雅は屋敷の玄関を開ける。外見に違わぬ広く取られたエントランスを、秋雅はぐるりと見渡す。そんな秋雅の行動を見て、ウルはくすりと笑う。
「帰ってきた、って思ってくれていたりするかしら?」
「どうかな」
ウルの問いかけに対し、秋雅ははぐらかすようにして答えない。ただ、その顔に軽く笑みを浮かべるのみだ。
「そう。まあ、立ち話もなんだし、こっちに来て頂戴。せっかくだし飲みながら話しましょう」
しかし、その答えで満足がいったのか。ウルは頬を緩めた後に秋雅を誘う。それと同時、ヴェルナとスクラもウルが示した方に先んじて向かっている。
「そうだな、久々にゆっくりとしようか」
今度は明確にウルの言葉に頷いて、秋雅もまた三人の後を追う。
ドアを二つ三つと通っていき、秋雅は一室に案内される。その部屋の中央にはテーブルクロスのかけられた横長のテーブルが設置されており、そこがダイニングであるとすぐに分かる。
「じゃあ、秋雅は座っていて。今から料理を持ってくるから」
「くれぐれも手伝おうとしないでね? 秋雅はお客さんなんだから」
「分かった、分かった。大人しくしているさ」
座っていろと双子に釘を刺されたことに、秋雅は苦笑しながら言うとおりに席につく。その様子に満足そうに頷いた後、ヴェルナたちはキッチンへと向かう。
「シュウ、何かお酒についてリクエストはある?」
「いや、お前の好きにしてくれ」
基本的に、秋雅は酒に関しては特に注文をつけない。味に関しては多少口を挟むことはあるが、種類や度数などにはまったく気にしない。カンピオーネの体質の所為で、どんなに強い酒を飲んだところで全く酔う事が無いからだ。秋雅からすればどのような酒であれ味のついた水程度――まあ、香りなどもあるが――でしかない。そのため、こうして勧められた時や偶然に美味しい酒を見つけたときなどでもない限り、秋雅のほうから酒を飲むことはそうなかったりする。
「分かったわ。適当に味の良いものを見繕ってくるわね」
そう言って、ウルも部屋の外に出ていく。インドでは州によって飲酒可能年齢が異なり、この地域だと実は秋雅もウルも飲酒は出来ないのだが、そこはそれということだ……まだ十七であるヴェルナとスクラも飲むつもりであることに関しても、また同様ということだろう。
そうこうして、秋雅が座るテーブルの上に、様々な料理が並べられていく。四人中三人が女性であるのに食事の量が多いのは、大食漢である秋雅のためであろう。作るときに失敗でもしたのか、時折見た目がよろしくないものもあるがそれもまた味だろう。少なくとも、自分のために彼女らが作った料理にけちをつけるほど、秋雅はつまらない男ではない。
「……こんなものかな」
「そうね。姉さんも大丈夫?」
「ええ。これ以上はお酒も大丈夫でしょうし」
「まあ、この中で一番飲む人がいいならいいんじゃない? 秋雅って案外飲まないし」
「かもね」
どうやら必要なものは並べきったようで、三人も秋雅と同じように席につく。隣に座るウルが秋雅のグラスに酒を注ぎ、それに秋雅も返した所で三人の視線が秋雅に集まる。
「音頭をとれと?」
「そういうこと」
「ささ、どうぞってね」
「はいはい、だ」
肩をすくめた後、秋雅がグラスを掲げて言う。
「では、久方ぶりの再会を祝して――乾杯」
『乾杯』
グラスを合わせる様なことはせず、四人は静かにグラスを掲げた後、口につける。一口、味わうように飲む。
「……さあ、では頂かせてもらおうか。これほどの料理を前にして、これ以上お預けをくらうのは酷なんでな」
グラスを置き、秋雅はそう言って笑う。それを皮切りとして、四人の食事会が始まった。
「ねえ、秋雅は最近どうだったのかしら?」
食事が始まれば会話も始まるのが常だ。そしてそう言う場合において、まずは互いの近況報告から始まるのもまた珍しいことではない。とはいえ、基本的に三人はこの家にいるし、その際に行っている
「ん? そうだな……」
秋雅のほうもそれは慣れたものであるので、少しばかり考えた後に、ここ最近のことについて話を始める。梅雨空での戦い、幽霊との出会い、ロンドンでのあれそれと、ざっと振り返るようにして最近起こった事を秋雅は話していく。
「……まあ、こんなところだろうな」
一通り、ここ最近のことについて話を終えた所で、秋雅はグラスを煽る。空になったグラスにお代わりを注ぎながら、ウルは口を開く。
「相変わらず、動乱な日常を送っているようね、シュウは」
「ああ、これが王の運命なんだろうな。まったく、疲れるものだよ」
「お疲れ様。短い間かもしれないけれど、ここにいる間はのびのびとして構わないわよ」
「既にそうしているさ……まあ、明日は忙しくなりそうだが」
そう言って、秋雅はヴェルナに意味深な視線を向ける。すると、ヴェルナはにんまりと笑みを浮かべて返してくる。楽しげなその笑顔に、秋雅は一つ息を吐いた後、仕方がないという風に口角を上げる。
「成果は見せろよ?」
「当然。上々の結果を見せてあげる」
期待している、と秋雅はそれに頷きを返した後、スクラとウルにも視線を向ける。
「スクラとウルはどうだ?」
「まあ、それなりかしらね、私は」
「私はあんまりね。まあ、別件で話すことはあるけれど」
「別件?」
「それは明日、ね?」
そうだったな、とウルの言葉に秋雅は頷く。秋雅がこの屋敷を訪れた日だけは、魔術関係のことや裏の事情は気にせずゆっくりとする。それが秋雅と姉妹たちの間の取り決めであった。
「……ところで、さっき話に出た幽霊さんってどんな人だったの? 同棲までしていたんだから分かるでしょ?」
「そうそう。それは私も聞きたかったのよ。姉さんや私達がいるのに他の女性と生活を共にするなんて、ねえ?」
「言うなよ。そういう流れだっただから仕方があるまい」
「でも、その後でこっちに来ているんだから、姉さんに悪いとかそんな風に思ったんじゃないの?」
「……浮気後の旦那さんかしら?」
「ウル、笑いながらそういう事を言うな。反応に困るじゃないか」
かくして、しばしの間。秋雅は存分に、三姉妹達との食事を楽しむのであった。