トリックスターの友たる雷   作:kokohm

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研究と試作品、そして模擬戦

「さあ、行くよ」

 

 そう言って、ヴェルナは常の快活さなどまるで見えぬ、獣が如き獰猛な笑みを浮かべる。

 

「来い、ヴェルナ」

 

 対して、彼女と相対する秋雅は特段気負った風でもなく、自然体で構えるのみだ。

 

 

「ハ――アッ!!」

 

 空を切り裂きそうなほどに気合のこもった声をあげ、ヴェルナは秋雅へと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まりは、今から三十分ほど前のことだ。朝を過ぎ昼はもうしばしという時間帯に、秋雅は屋敷の階段を降りている。と言っても、二階から一階にではなく、屋敷の奥にある、地下への階段を降りていた。

 

 コツコツと、靴音を響かせながら秋雅は降りて行くと、踊り場に辿り着く。ドアと、さらに下へと続いている階段のうち、秋雅はドアを開く事を選択する。

 

 秋雅が開けたドアの先は、随分と開けた空間であった。奥には小部屋らしきものが確認できるものの、それを除けばまるで何もない。屋敷の地下とは思えぬほどに広大なその部屋に、秋雅は一歩足を踏み入れる。

 

「ヴェルナ、居るな?」

 

 部屋の中央へと歩きながら秋雅は周囲、というよりは奥の小部屋に向かって言う。他に人が隠れる場所など無いぐらいに何もない部屋だからだ。

 

「ヴェルナ」

「――はいはい! ここにいるよ!」

 

 二度目の呼びかけ。そのすぐ後に小部屋のドアが開き、中からヴェルナが顔を出した。彼女は元気よく手を上げて自身の存在をアピールした後、再び部屋の中に戻る。気配から秋雅が察した所、どうやら何かしらを探しているらしい。

 

「整理ぐらいしておけ、まったく」

 

 呆れたように呟きながら、秋雅が部屋の中央あたりで待っていると、少ししてヴェルナが手に何かを持ちながら走ってくる。

 

「いやあ、ごめんね。一個何処にいったか分からなくて」

「やれやれ。まあいい、ともかく今回の成果発表を頼むぞ」

「了解」

 

 そう言って、ヴェルナは秋雅に対し、おどけるように敬礼をして見せた。

 

 

 

 

 

 

 ノルニル三姉妹はそれぞれが優秀な魔術師である。それは単純な戦闘力だけでなく、特に魔術に対する造詣の深さや、魔術という学問に対する研究や開発という意味でもある。

 

 その才能に目をつけた秋雅が、それぞれに対し研究テーマを出す――彼女らの技量と、何より彼女らの希望から決めた――代わりに、その研究や生活を支援する。それが秋雅と姉妹たちの間で交わされた約束事であり、ただ養われる事を由としなかった三人が示す対価でもあった。

 

 そして、その肝心な研究テーマであるが、それぞれに違うテーマではあるものの、根幹として二つ(・・)、共通のテーマがある。そのうちの一つが、魔術と他の何かを組み合わせる、というものであった。

 

 

 

 そして、今秋雅の前にいるヴェルナが研究しているテーマはというと、

 

「――魔術を組み込んだ近接武器。まあ、とりあえず一つの形になったってところかな」

 

 それが、ヴェルナの研究テーマだ。例えれば、ロールプレイングゲームなどで言う所の、特殊な効果がついた武器。そういったものを作り出すことがヴェルナの研究テーマである。

 

「で、これがその試作品ね」

 

 そう言って、ヴェルナは持っていたそれを秋雅に示す。

 

「……これが、か?」

 

 それは、長さ十センチ程度の、二本の銀色の棒だ。どちらかといえば、細いと表現するのが正しいであろうか。片手で二本一度に握られている事を見ると、太いとは言わないだろう。そして、その手の中を見た限りでは、精々が投擲ぐらいにしか使えないのではないかと思ってしまう。色を除けば、何処にでもありそうなただの金属の棒にしか見えない。

 

 だから、それを見た秋雅は僅かに困惑したような表情を浮かべる。とてもではないが武器には見えぬ、そう彼の顔には書いてある。

 

「そう。まあ、とりあえず持ってみてよ」

 

 不審そうな目を向けてくる秋雅に対し、ヴェルナは持っていたそれのうち片方を秋雅に対し放り投げる。実に軽い様子で投げられたそれを、秋雅は反射的に受け取るが、

 

「――うおっと?」

 

 秋雅の身体が、受け取った右手を中心にして前に傾く。思わず一歩二歩と前に足を踏み出してしまうが、秋雅はすぐに体勢を立て直す。その後、手に持っている金属の棒に対し、驚いたような目を向ける。

 

「どうなっているんだ? 見た目のわりにかなり重いぞ」

 

 体感で、十キロ近くはあるだろうか。普通であれば何ということのない重量だが、見た目がそれほど重そうに見えなかったのと、ヴェルナが何も言わずに放り投げたことからたいして重くないだろうと思ってしまった結果、先のように秋雅はたたらを踏んでしまったのである。

 

「そこはしょうがないんだよね。外部からの魔術無しじゃ、体積はともかく質量は変化させようがないもの」

「どういう意味だ?」

「答える前にさ、ちょっと長剣を握っているイメージでもしてくれない?」

「はあ?」

「お願い。あ、呪力をそれに込めながらイメージしてね。量はちょっとでいいから」

「……分かった」

 

 意味はいまいち分からないものの、ヴェルナの言うとおり、秋雅は手に長剣を握るイメージを頭の中に浮かべる。

 

 すると、

 

「――成る程、そういうことか」

 

 ようやく納得がいったと、秋雅は数度頷いた。その手の中には、先ほどまで握っていた金属の棒はなく、代わりに同色の長剣が一本握られている。入れ替わった、というわけではない。先ほどの金属の棒が、秋雅のその姿を長剣へと変化させたのであった。

 

「そういうこと。これが私作の魔剣、可変武器(Variable Weapon)の試作第一号。通称――まあ型番だね。名前はVW-01だよ」

「ほう……以前の内容とはまるで違う方向性だな。前は魔術を纏わせた武器と言っていた気がするが」

「やってみたんだけどね、炎を纏った魔剣とか。ただ、消費する呪力に対して威力が低すぎたから一旦止めたんだ。姉さんの手が空いたら相談してみるつもり」

「そういうことか」

「まあ、その代わりにいいアイデアが浮かんでね。そっちから色々やって、こうして形に出来たってわけ」

 

 自慢げなヴェルナの言葉を聞きながら、秋雅は頭の中のイメージを変え、手に持った長剣を変化させる。短剣、槍、盾、と思いつく武器の姿へと次々に変化させていくが、

 

「……む?」

 

 突如として、秋雅は不思議そうな表情を浮かべた。その視線は今手に持っている、先ほどから姿の変わらぬ盾へと注がれている。

 

 そのまま一秒ほど、小首を傾げていた秋雅であったが、すぐに得心がいったと言いたげな表情でまたも数度頷く。

 

「あ、気付いちゃった?」

「まだ試作段階、ということか。こいつ、どんな姿にでも変化するというわけじゃないんだな」

「そういうこと。別に所有者が思い浮かべた姿になるんじゃなくて、元々組み込まれている姿の一つになるってだけ。本当は思った通りに変化させたかったんだけどね、流石にそこまでは無理だった」

「どうりで、思った形と細部が違うわけだ……それで、いくつ組み込んだんだ?」

「短剣、長剣、槍にランス――って分かり難いか。見ての通り、普通の、先端が刃物になっている槍と、先端を尖らせた突撃用の馬上槍のことね。で、盾が大小二つ。それから、所謂バトルアックスにウォーハンマー。そしておまけみたいなもんだけど、篭手と鎖分銅の計十個」

 

 説明と同時に、ヴェルナは手に持ったVW-01を変化させて秋雅に示していく。その十の変化と説明を終えた所で、ヴェルナは自慢げな笑みを秋雅へと向ける。

 

「どうかな? 結構いい感じに仕上がったと思うんだけど」

「そのようだな」

 

 ふむふむ、と自分でも変化した姿を確認しながら、秋雅は手にした武器を振っていく。

 

「成る程、中々に悪くない。質問だが、具体的にはどういう風にして作ったんだ?」

「結構単純なんだけどね。同じ素材を使って十個武器を作って、それを一つに纏めたってだけ」

「ああ、それで重いのか」

「うん。これでも相当抑えたんだけど、強度なんかを考えるとこれが精一杯だった。まあ、密度がある分頑丈だから、そこは目を瞑って欲しいかな」

「ふむ……」

 

 頷いた後、秋雅が槍に変化させたVW-01を振り回す。演舞のようにぐるぐると身体を回しながら、それに追従するかのように一分ほど槍を振るう。

 

 そしてピタリと、槍を虚空に突き刺すように固定した後、秋雅は槍を長剣に変え、今度は剣と共に舞う。何処か、期待の篭ったような視線を向けてくるヴェルナを余所にくるりくるりと舞って、秋雅はようやく動きを止める。

 

「……細かいところでは言いたいところもあるが、全体としては間違いなく及第点ってところだな。良くやったぞ、ヴェルナ」

「ありがとう……で、お願いがあるんだけど?」

 

 そう言って、ヴェルナは先ほどから向けていた期待の混じった視線で、秋雅の顔をじっと見つめる。その視線としばし向き合った後、やれやれと秋雅は肩をすくめる。

 

「相変わらず、戦いたがりだな」

「楽しいからね。特に、秋雅との戦いは」

 

 ニヤリ、とヴェルナはその顔に笑みを浮かべる。近接戦闘を得意とし、それを行う事を好むヴェルナが良く浮かべる笑みだ。こうなると、一度やりあうまで止まらないという事を、秋雅は良く知っている。

 

「……まあ、お前が好きならしょうがないよな」

 

 呆れたような、しかし何処かヴェルナのそれにも似た笑みを浮かべて、秋雅は手に持った長剣を大きく振るう。

 

「――胸を貸してやる」

 

 その秋雅の返答に、ヴェルナは口角を大きく上げる。

 

「壮大に、借りさせてもらうよ」

 

 喜色に満ちた笑みを浮かべ、ヴェルナは秋雅と同じ長剣を構える。その数秒後、僅かな会話を挟んで、ヴェルナは大きく地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

「――ハアッ!!」

 

 まるで風の如く、ヴェルナは速く駆ける。前傾姿勢、右半身を前に傾けるようにして、ヴェルナは低い体勢で地を蹴る。右手に持った剣を左半身に隠すようにして構えていることから、横薙ぎに秋雅の胴を切り裂こうという考えなのだろう。

 

 対し、秋雅は持った剣を構えもしていない。右手の剣をだらりと下げたまま、グッと足に力を入れる。

 

 回避が目的だ、とヴェルナは高速化した思考の中で判断した。一秒にも満たない時間であるが、戦闘による緊張と集中が、彼女の感じる世界を極めて遅くしている。

 

 そんな世界の中、彼女は秋雅がとろうとしている選択について思考する。まず、前提として、この時点で秋雅が取るであろう選択肢は三つだった。すなわち、防御か、回避か、あるいは反撃か、だ。その内で、どうやら秋雅は回避を選択したらしい。少なくとも、彼女の突撃に対し向かってくるような風ではない。

 

 次に考えなければならないのは、秋雅がどう回避するつもりなのかということだ。左右か、あるいは後方か。一体どの向きに向かって跳ぶつもりであるのか。

 

 まず後方はない。そうヴェルナは考える。何故なら、この状況で少しばかり後退した所で、同じだけヴェルナが距離を詰めてしまえば何の意味も無いからだ。結局、問題の先延ばしでしかない。タイミングを見誤ってヴェルナが剣を振ってしまった場合は別だが、ヴェルナにその気はない。そのことは秋雅も熟知しているはずなので後退はないと踏めた。

 

 では、右と左、どちらに向かって跳ぶのか。右であればヴェルナの剣の振り始めに、左であれば振り終わりにと、どちらかで攻撃を受ける可能性がある。とはいえ、やはり避けるとすれば左、つまりはヴェルナから見て右であろう。ヴェルナの体勢的にそちらの方が攻撃を受ける可能性は低いからだ。

 

 そこまでヴェルナが考えたところで、秋雅が何処へ向かおうとしているのか、その体勢から察せる段階まで時間が進んでいた。そこで、ヴェルナが見た秋雅の意図はと言うと、

 

「――後ろ!?」

 

 思わず、ヴェルナが叫ぶ。秋雅の選択があまりにもありえないものであったからだ。まさか、一番ありえないはずであった後退を選ぶとは。そんな馬鹿なと、ヴェルナは不可思議を覚える。

 

「シッ――!」

 

 だとしても、それならばそれに合わせた対応を取るのみ。降り始めようと思っていた右手に停止を命じ、ヴェルナはさらに前に駆ける。

 

 ヴェルナにとっては幸運なことに、ヴェルナの速度と秋雅の落下、二つを加味して計算すると、秋雅が着地するよりも、ヴェルナがその予定地点に剣を届かせる方が早い。このままいけば、秋雅が次の行動に移るよりも早く、秋雅の胴を薙ぐ事が出来るであろう。

 

 これが秋雅の選択だったのか? そう不思議に思いつつも、ヴェルナが剣を振るい始めた。

 

 

 

 

 

 その瞬間だった。

 

「――なあっ?!」

 

 思わず、素っ頓狂な声をヴェルナは上げる。何故ならば、今まさに着地しようとしていた秋雅の身体が、むしろヴェルナを飛び越さんというほどに、今度は前方へと身を躍らせていたからだ。

 

 それを成したのは、一本の槍だ。長剣から槍に姿を変えたVW-01の、先端近くを手に持って、反対の石突で地面を強く押すことによって、秋雅は落ちかかっていたその身を前へと躍らせたのだ。

 

 槍を地面で滑らせることなく、身体を腕一本の力で何メートルも飛ばす。とんでもない膂力とバランス感覚を必要とするが、前者は身体強化の魔術があれば出来なくはないし、後者にしても秋雅であれば十分に可能な芸当であろう。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に、振り出していた剣の当て先を槍の柄へと向かわせる。どうせ当たった所でたいした意味などないだろうが、どちらにせよこの状況では、この剣はヴェルナにとって隙を見せるものでしかない。途中で振りを止める負担がある以上、いっそ振りぬく必要があるのだ。だったら、せめてもの抵抗として秋雅のバランスを崩す可能性にかける。

 

 そう判断し、ヴェルナは剣の刃で秋雅の持つ槍の柄を叩く。力強く叩きつけられたそれは甲高い金属音を響かせ、槍はバランスを崩す。

 

「――っと」

 

 しかし、ヴェルナは背後で秋雅が難無くと着地をした気配を感じた。予想通りではあったが、やはり悪あがき程度の行動でしかなかったらしい。

 

 

 背後で、秋雅が振り向いた気配を感じる。直接見ているわけではないが、何となくヴェルナには 秋雅が彼女の次の行動に対処する為に今度は油断なく構えていると察せた。

 

 

 そのまましばし、どちらとも動かなかった。ヴェルナは秋雅に背を向けたまま、秋雅はヴェルナの背を見つめながら、どちらも次の行動に出ることはない。

 

 

 

 数秒、あるいは数分の沈黙の後、動いたのはヴェルナであった。

 

「……ふっ」

 

 ヴェルナの口角が上がる。

 

「ふふっ……」

 

 肩が振るえ、身体が小刻みに動き出す。

 

「――あっはははは!!」

 

 顔を上げ、ヴェルナは笑い出した。何処までも快活に、楽しくてたまらないという風にヴェルナは笑う。

 

 

 そうだ、これこそが! 

 

 そんな思いがヴェルナの胸を満たす。今しがた手にしたばかりの武器であるにもかかわらず、しかし製作者であるヴェルナが咄嗟には思い至れない方法でそれを用い、状況から逃れる。

 

 他に確実な方法もあった。少なくとも、今秋雅が打った手はリスクの大きな策だった。それにもかかわらず秋雅はそれを思いつき、そして完璧に行ってみせた。こんなこと、自分の技量に自信が無ければ出来ない。度胸がなければ出来ない。

 

 

 

 これが、稲穂秋雅なのだ。平凡な一手を打つかと思えば奇策を取り、奇策を打つかと思えばまるで陳腐な手で状況を打破する。

 

 読めきれるようで読めきれない。読んだつもりでもさらに上回ってくる。

 

 

「――だからこそ」

 

 だから、ヴェルナは秋雅との戦いを望んだ……いや、望み続けてきた。秋雅が前に訪れてから、今再び訪れたこの時まで。

 

「スクラでもなく」

 

 自身と同等の実力を持つ片割れでもなく、

 

「姉さんでもない」

 

 自分よりも圧倒的に強い姉でもない。

 

「――私は、秋雅と戦いたかった!」

 

 ただ、彼との戦いを待ち望んでいた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り向きざまに叫んだヴェルナに対し、秋雅は軽い笑みを浮かべ、そして手にした槍を構える。その笑みはまるで、仕方の無い奴だと言っているように、ヴェルナには感じられる。

 

 その笑みだ、とヴェルナは思った。その、自分を受け入れ、自分がしてほしいことをやってくれる、その笑み。それが一番好きなのだと、ヴェルナは本心から感じる。

 

 楽しい、と心の底からヴェルナは思う。まだ始まったばかりではあるが、やはり、秋雅との戦いは楽しい、と。

 

 

 

 

 その思いを感じながら、ヴェルナは手にしている長剣の姿を変える。次なる姿は、大盾。全身を隠すほどに大きな両手盾だ。

 

 あからさまなまでの防御の姿勢。同時、明らかに攻撃を誘っていると、対峙すれば誰しもがそのことに気付くだろう。

 

 だが、それでいいのだ。既に一手、ヴェルナは攻撃をした。であれば、次に攻撃をするべきなのは秋雅の方だろう、と。

 

 勿論、そんな決まりきった試合をやっているわけではないし、何よりヴェルナとの戦いにおいて秋雅の方から積極的に攻めるということ自体あまりない。が、これほどまでに示して見せれば、秋雅もヴェルナの思惑を感じ取るだろう。

 

 

 もっと、より濃い戦いをしたい。そんな、ヴェルナの思惑を。

 

 

 興奮からか、自身の頬が赤く、熱を帯びているのをヴェルナは感じ取る。同時、そう感じた瞬間、彼女はこうも思った。

 

 

 本当にこれは、戦闘の熱だけなのか、と?

 

 

 違う、とすぐにヴェルナは判断した。確かに、戦闘による熱もあるが、それとは別に、頬が熱を持っている理由があった。

 

 

 それは、先の攻防での、彼の行動だ。あの時、秋雅の回避において、彼は初見であるVW-01を、その要とした。それは、ヴェルナの製作物(VW-01)を、完全に信用していなければできないことだ。

 

 秋雅にその気はないかもしれない。だが、少なくともヴェルナにはそう感じられた。そこが、彼女にとっては重要なのだ。

 

 そう感じさせてくれる(・・・・・・・・・・)ということ。それが、秋雅の魅力なのだ。無意識に、あるいは意識的に、彼はヴェルナに示したのだ――お前の事を信じている、と。

 

 全てはヴェルナの勘違いなのかもしれない。何もかも、ヴェルナの考えすぎであり、思い違いなのかもしれない。だけれども、だからこそ、ヴェルナは思う。秋雅は、ヴェルナのことを信用し、その製作物に命を預けてくれた。そんな風に思う。

 

 そう思ったからこそ、そう思えたからこそ、ヴェルナには分かる。

 

 

 

 ――だからこそ、ヴェルナ・ノルニルは秋雅の事を好きなのだ、と。

 

 

 

「……はは」

 

 先ほどまでと似て、しかし僅かに異なる笑みがヴェルナの口角を上げる。内に感じてしまった熱さと、気恥ずかしさから、このまま暴れまわりたいという感情が強くなる。

 

「だけど、それじゃ駄目だ」

 

 しかし、その感情を押さえ込み、ヴェルナはその欲求を秋雅との一戦に向ける。この熱の全てを、秋雅に叩き込む。そのぐらいしなければ、秋雅には勝てない。そう、ヴェルナは感じた。

 

 

「…………さあ」

 

 

 ――来い、とは口には出さず、ヴェルナはただ目の前の秋雅を睨みつける。次の秋雅の一手、その全てを見落とさぬ。そんな想いを、その視線は雄弁に物語っていた。

 

 







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