トリックスターの友たる雷   作:kokohm

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帰国

 

「……起きて、シュウ」

 

 肩を揺する手と自身の名を呼ぶ声に、秋雅はゆっくりと目を開ける。こちらを覗き込むように見ている恋人の顔に、まどろみから冷めた秋雅は口を開く。

 

「着いたのか、ウル?」

「そうよ、貴方の故郷、日本に到着したわ」

「調子はどう、お寝坊さん?」

「すこぶる好調だよ」

 

 からかうように言うヴェルナに対し、首を鳴らしながら秋雅は答える。アメリカ、イギリス、インドといった十時間以上の空の旅による疲労も、インドから日本への間に睡眠をとることで十分に取り除く事が出来ていた。カンピオーネということで中々に頑丈で徹夜を苦ともせぬ肉体ではあるが、流石に丸一日近くを飛行機の中で過ごすとなると、そのうちのいくらかは睡眠に当てないと精神的に調子が狂う。そうでなくとも、アメリカを早朝に出たというのに、今やその翌日の夕刻であるのだ。長めの午睡でもとらないとやっていられないというものである。

 

「秋雅の寝顔を見ていて思ったのだけれど、貴方の『我は留まらず』を使って転移すれば時間的な節約は容易だったのではないの?」

「なんです、それ?」

「ああ、秋雅の権能――って、説明したらまずいかしら?」

 

 聞き覚えのない言葉に首を傾げた紅葉に対し、思わず説明を始めようとしたスクラであったが、すぐさましまったという表情を浮かべて秋雅を見る。基本的に秋雅が自分の権能の詳細を他人に知られたがっていないということを失念していたことによる焦りであるようだが、秋雅は問題ないと軽く手を振ってみせる。

 

「他言無用を守れるなら多少話しても気にしない。立場的にはまだ見習いって所だが、もう紅葉は俺の配下だからな。それ相応に信用している、ってことで」

「他人の秘密を吹聴する趣味はありませんので、ご安心ください。それで?」

「ああ、簡単に言うと瞬間移動できる権能。正確には物体と物体の位置を入れ替えるんだけど」

「で、何故使わなかったのかしら?」

「呪力の節約とか? あれの長距離転移を複数人でやると面倒なのもあるのかな」

 

 確かに、『我は留まらず』は長距離転移も可能だが、流石に地球を一周する勢いで転移を繰り返すとなると呪力の消耗もあるし、何より転移先に入れ替える対象が用意されていないと出来ない。その準備を全くしていないわけではないが基本的には秋雅一人がやることを前提とした準備であり、ウル達も転移できるほどではない。何よりそういったことをやると余計な情報を他者に与えかねないという可能性も生じる。

 

 だから、ヴェルナの推測は当たっていると言っていいだろう。だが、今回はそれだけではないと秋雅は首を振る。

 

「半分はそれだが、もう半分は紅葉だ」

「私ですか?」

 

 きょとんとしながら自分を指出す紅葉に対し、秋雅は頷く。

 

「ああ。ほら、マンションで生活をしていたときに色々検査をしていただろう?」

「ええ、やりましたね」

「あの時、試しに『我は留まらず』を使おうとした時があったんだが、どうにも成功するという感じがなくてな」

「それはまた、どうしてかしら?」

 

 ふむ、と考え込むウルに、仮定だぞと前置きをして秋雅は口を開く。

 

「たぶん、実体化できるとはいえ結局紅葉は肉体、まあ実体が無いからじゃないかな。あれはあくまで物質同士の入れ替えだと、そういうことだと考えている」

「そういうものなんですか?」

「勘だけどな。案外権能というやつは、俺たち自身にすらよく分からん部分がある」

「成る程……」

「それで今回も飛行機で空の旅だった、と」

「呪力を高めれば出来そうな気もするんだがな、まあそこまでするほどじゃないだろう?」

「時は金なりって言うけどね」

「今は時間には余裕がある。それに、金も無駄にある」

「そりゃそうだ」

 

 秋雅の返答を聞いて、ヴェルナはからからと笑う。口にこそ出していないがスクラもひっそりと笑っていることからも、秋雅の返答は随分とこの双子のお気に召したらしい。まあ、言った当人はどうしてここまで二人が受けているのか、いまいちよく分からなかったが。

 

「さあ、皆。そろそろ飛行機を降りるわよ。いつまでもここにいてもしょうがないわ」

 

 姉とはいえ妹たちとは笑いのつぼを共有していなかったのか、案外と長話をしてしまっていた皆に対し、ウルは軽く手を叩いて行動を促す。

 

 それに、そうだったと思わず手を止めていた四人も自分の荷物を手に取り、すぐに飛行機を降りる。

 

 そのまま通路を通り、諸々の手続きを済ませ、特に重要度の高い要人を対象とした空港の秘密スペースへと足を踏み入れる。秋雅と紅葉にとっては一週間ほどぶりの帰国であり、ウル達にとっては初めての日本入国であった。

 

「……さて、これからどうするの?」

「時間も時間ですし、そのまま秋雅さんのマンションに行くんですか?」

「ああ、そのつもりだ。迎えを頼んでいるしな」

 

 そう秋雅が答えたと同時、まるで計ったかのように向こうから二人の人物が歩いてくるのが全員の視界に入る。同時、一瞬前まで和気藹々としていたスクラとヴェルナは、無言で秋雅の後ろに回る。その相も変わらずの人間嫌いっぷりに思わず秋雅は苦笑を浮かべるが、しかしすぐさまその表情と雰囲気を王としてのそれに切り替え、その二人に対し声をかけた。

 

「出迎えご苦労、三津橋、それに五月雨室長」

「いえ、この程度」

「稲穂様の命ですから」

 

 秋雅のねぎらいの言葉に、正史編纂委員会からの迎えである三津橋と五月雨は恭しく頭を下げる。その後顔を上げた二人は、その視線を秋雅の周囲にいる女性陣へと向ける。

 

「ところで、そちらが?」

「ああ、私の部下のノルニル姉妹と草壁紅葉だ」

「初めまして、正史編纂委員会の方々。ウル・ノルニルです。こちらが私の妹のヴェルナ・ノルニルとスクラ・ノルニル」

「どうも」

「草壁紅葉です。よろしくお願いします」

 

 表面上はにこやかに名乗るウル、非常にぶっきらぼうなヴェルナに、無言のまま全く交流を持つ気のないスクラ。そして敵意のない笑みを浮かべる紅葉と、四者四様な反応が揃う。

 

「ご丁寧にありがとうございます。正史編纂委員会、福岡分室所属の三津橋と申します」

「同じく、福岡分室室長の五月雨です」

 

 そんな四人の挨拶に特段大きな反応を見せるでもなく、三津橋はいつものやや軽薄な雰囲気を、対称的に五月雨は硬い雰囲気を、それぞれに感じさせながら軽く頭を下げる。ここで二人が握手を求めるなどの行動を示さなかったのは、初対面でも分かるノルニル姉妹の拒絶の空気を感じ取った為であろうか。

 

 それはともかくとして、一応は挨拶も済んだということで、秋雅は五月雨達に視線を向け、口を開く。

 

「さて、三津橋に五月雨室長。早速で悪いが、車まで案内してもらえるかな? 報告等があれば車内で聞かせてもらいたい」

「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」

 

 三津橋の先導で、秋雅達は空港の裏手にある、これまた主に要人等を利用者としている駐車場へと案内される。そこに用意されていた一台の車に、運転席は三津橋、助手席には五月雨が乗り、後部座席の前列に秋雅と紅葉、後列に姉妹たちが、という形でそれぞれに乗車する。

 

「目的地は稲穂さんのご自宅、ということでよろしいんでしたよね?」

「ああ、頼む」

「承りました」

 

 頷いて、三津橋が車を走らせ始める。荒さも勢いもない、実に癖のない柔らかな運転だ。そんな落ち着いた車内でまず口を開いたのは、ある種当然と言うべきか、秋雅であった。

 

「さて、五月雨室長。先日の一件に関して、賢人議会からのメッセージの件については聞いていたが、それ以外に関しては後回しにしていたな。何か、報告することはあるかね?」

「はい、大きくわけて二つほどございます。まずはその賢人議会から、先ほど調査報告書らしき物が届きました。宛名として指名されていたのが稲穂様であったので、中身は確認していません」

「賢人議会からの報告書、か。成る程」

 

 十中八九、それは秋雅が捕縛した、例の魔術師に関するものであろう。秋雅としても捨て置けない事件だ。

 

「ふむ。では明日、ウル達がそちらを訪れた時に渡しておいてくれ。頼んで良いな、ウル?」

「ええ、構わないわ。ついでに、こっちでも調べられそうだったら調べておけばいいのよね?」

「ああ、頼む」

 

 実の所、プログラミングだけがウルの特技というわけではない。コンピュータに関すること全般、特にハッキングやクラッキングもまた彼女の得意分野であり、同時にそれらを併用した電子の海を用いた情報収集も彼女が十八番とする点である。魔術師の情報などがインターネットで分かるかと思うかもしれないが、これで案外意外な情報を得られる事があるので、他の知り合いの情報屋と並行して、秋雅は彼女に情報収集を頼む事が多かった。

 

「では、そのように致します。そしてもう一つ、清秋院が動きを見せています」

「というと?」

「ご老公に取り入り、草薙護堂様に娘を差し出そうとしているようです」

「清秋院の娘というと、清秋院恵那か」

 

 清秋院恵那といえば、日本の媛巫女の中でもかなり有名な部類に入る名前だ。かの正史編纂委員会のトップである古老――それが幽世に住まう、元はまつろわぬ神と呼ばれていた者達であると秋雅は知っている――より神刀を授けられたという、現在日本に存在する媛巫女の中では最強と呼ばれている戦闘能力を持っている少女だ。秋雅も面識こそないが、そうであるという情報程度は知っている。

 

「しかし、かの古老らが人界の権力争いに口を挟むとは、な」

「不可解である、と思われますか?」

「ああ」

 

 一体どのような魂胆であるのだろうか、と秋雅は疑問に思う。最初に浮かぶ疑問の答えとしては、やはり最強の《鋼》関連のことだろうか。そういったことを話すなり、あるいはその人柄を見極めるなりをするために渡りをつけたいと思い清秋院恵那を遣わした、と考えるのが一番説得力のある推測だろうか。まあ、ここでいくら考えてもどうにもならぬことではあるし、現時点ではさして秋雅と関係のあることでもない。とりあえずは放置しておいていいだろう、と最終的にそのような結論を出し、頷く。

 

「まあいい。何か続報があれば、その時は報告を」

「畏まりました」

「他には、何かあるかね?」

「…………いえ、特に御身のお耳に入れるようなことは、何も」

「そうか」

 

 僅かな沈黙の後にあった、五月雨の含みある返答。明らかに何かある、と分かる返答であったものの、秋雅は特段それを指摘するようなことはしない。大方、以前に三津橋が言っていた、彼女に秋雅を篭絡せよとでもいった指示があったのだろう。

 

 だが、それを暴露した所でどうなるというわけでもないし、本人が言いたがらない事を無理やりに聞きだすというのも気が乗らない。そういう場面でもない以上、これもまた放置でいいという秋雅の判断であった。ついでに言えば、やはり恋人たちの前で出す話題でもないという考えもあったのだが、まあそれはどうでもいいことだろう。

 

「それはそうと稲穂さん、ちょっとよろしいでしょうか?」

「何だ?」

 

 話が一段落し、ちょうど車が赤信号で止まったタイミングで、ふと三津橋が口を開いた。稲穂に断りを入れた彼であったが、バックミラー越しの彼の視線は、秋雅ではなくその隣に座る紅葉へと向いている。

 

「そちらの、草壁紅葉さんに少々お聞きしたい事がありまして」

「はい? 何でしょうか?」

「いえ、私の勘違いかもしれないのですが――貴女のお父上は、もしや草壁康太さんではありませんか?」

 

 そう三津橋が問いかけると、びくりと紅葉が肩を上げた。見れば彼女の表情には確かな驚きの色がある。

 

「父を、ご存知なのですか?」

「ああ、やはりそうなのですね。ええ、元同僚でしたから」

「元同僚って……」

「魔術師、ということか?」

「はい。その様子だとご存じなかったようですね」

「……初めて知りました」

 

 思ってもみなかった、というような表情で紅葉は呆然と呟く。当然といえば当然だろう。自分の身内か魔術師であったなど、いきなり聞かされれば驚かないわけがない。しかし、そんな彼女の様子から、秋雅はまた別の感情の色を感じ取った。それが何か、というのは具体的には分からない。しかし、確かに彼女は何かの感情を抱いている。そしてそれはおそらく、決して肯定的なそれではない。

 

「どうにも、だな……」

 

 この少女もまだ、何かを隠し持っているようだ。そんな事を思いながら、秋雅は口の中で言葉を転がす。ただし、それは彼女を否定する言葉ではない。むしろ、そうであるならば力になる必要がある、という手助けを決意したものであった。過去、そして現在に至るまでノルニルという姓を持つ女たちの力となってきたように、それが主としての自分の役目である、と。

 

 だから、

 

「紅葉」

「……はい?」

「俺は、君の味方だ。それだけは、信じておいてくれ」

 

 口を彼女の顔に近づけ、囁くように秋雅は言った。王がどうとかは関係なく、今だけは、こればかりは、ウル達にも聞かせようとは思わない。だから、ただ紅葉にだけ秋雅はその言葉を囁く。そうすべきであると、理屈ではなくそう判断した。

 

「え……?」

 

 突然のその言葉に、紅葉は目を丸くし、すぐ目の前にある秋雅の顔を見つめる。そこにある真剣な面持ちの彼の表情をしばし呆然と見つめた後、ふっと彼女の身体から力が抜け、彼女の表情に安堵したような笑みが浮かぶ。

 

「――じゃあ、信じます」

 

 秋雅に返すように、紅葉もまた彼の耳元で囁いた。からかうように、しかし真剣な声音で、彼女は確かに、秋雅の言葉に応える。そのことに、秋雅の頬も僅かに緩む。

 

「では、そういうことで」

「ええ、そういうことで」

 

 言い合い、共に微笑を浮かべあう。これで良い、そんな根拠のない安堵と自信が、秋雅の中には生まれる。

 

 

「…………突然どうしたんですか、稲穂さん?」

 

 そんなところで、怪訝そうな表情をした三津橋に声をかけられた。自分が話していたと思えば、突如二人が耳元で囁きあっているのだから、その反応は正常な反応であろう。見れば、五月雨もまた三津橋を同じような反応を示している。もっとも、背後にいるウル達だけは、何故か楽しげな雰囲気を感じ取る事が出来たが、それもまたある意味では合っているのだろう。

 

「何でもない。ただ、私の大事な部下と重要なことを話していただけだ。そうだな、紅葉?」

「はい、そういうことです!」

 

 元気よく、笑顔を浮かべて紅葉は応える。その笑顔に、秋雅もまた満足と共に、その口の端に微笑を浮かべる。背後より感じられる、くすくすという忍び笑いに関しては努めて気にしないようにしながら。

 

 

 

 それからは結局、それ以上三津橋の口から紅葉の父の事が語られることもないままに時間は過ぎ、とうとう秋雅の住むマンションへと辿り着いた。

 

「では、明日は私が皆様をお迎えに上がります」

 

 五人が降りた後、ふと五月雨がそう告げる。

 

「五月雨室長が?」

「はい。現在福岡分室で手隙の女性室員は私のみですので。皆様も、男性よりは私が参ったほうが精神的負担は減るのではないかと思いますが」

「そうだな……」

 

 ちらりと秋雅はウル達を見る。その視線にウルが頷きを返したのを確認して、秋雅は五月雨に向き直り、肯定の言葉を投げる。

 

「よろしく頼む」

「はい、では今日は失礼致します」

「何かありましたらお電話を」

 

 最後にそう言って、正史編纂委員会の二人はその場を離れた。離れていく車の姿を何となしに見送った後、さてと秋雅は四人に向き直る。

 

「じゃあ、とりあえず俺の部屋に行くぞ。部屋割りに関しても決めないといけないしな」

 

 うん、と秋雅の言葉に頷いて、四人はそれぞれ荷物を持って秋雅の後に続く。

 

「そう言えばさ、全員秋雅の部屋に集まって、てのは駄目なの?」

「ソファと床で寝たいのか?」

「いや、秋雅のベッドとか」

「入ってもう一人程度だし、俺はあまり睡眠を他者と共有したいと思うタイプじゃない」

「同感ね」

「淡白な恋人同士だこと」

「と言うか、それで紅葉はどうしていたの?」

「隣の応接用の部屋のベッドで寝ていました。まあ、食事と一緒で別に寝なくても良いんですけど」

「あら、そうなの?」

「ええ。だから時々、一晩中本を読んでいたりもしました」

「へえ、そうなんだ」

 

 そんな事を話しながら、四人はエレベータに乗り、秋雅の所有フロアに着き、そして秋雅の部屋の前へと辿り着く。秋雅が鍵を開けて中に入り、それに四人も続く。リビングに入ってすぐ口を開いたのは、やはりというべきか、ヴェルナであった。

 

「おー、これが秋雅の部屋かあ。結構いい部屋だね」

「元はあっちの家と同じく献上品だがな。ま、中々に悪くない住処だよ」

「とはいえ流石に五人が共同生活をするにはちょっと手狭ね。他の部屋は?」

 

 ぐるりと部屋を見渡してのウルの質問に、そうだなと秋雅は腕を組む。

 

「この部屋の両脇は空いている。一応客を泊める事も想定して作っているから、それぞれ寝室が二つ。とりあえず今はその二つに二人ずつ泊まっておいてくれ」

「じゃあ、紅葉は私と一緒ね。ついでにその体質のこととか色々聞かせてよ」

「はい、分かりました」

 

 秋雅の指示を聞いて、すぐさまヴェルナが紅葉を誘い、紅葉の方も快諾する。それを見たスクラはやや残念そうに肩をすくめ、やれやれとウルに視線を向ける。

 

「あら、取られちゃったわね。じゃあ姉さんは私と一緒で」

「そうしましょうか。それじゃあ、食事は共通してここで取るということにしておきましょう。ただ、毎食そうするというのも面倒でしょうし、夕飯だけ基本的にここということで」

「そうするか。とはいえ、今日はこれから夕飯を作るのは、流石に面倒だな」

「食材もあんまりないはずですしねえ。あ、そうか。よく海外に行くからあんまり買い溜めしていなかったんですね」

「そういうことだ」

 

 今気付いた、と手を叩いた紅葉に、秋雅は首を縦に振る。何かと日を跨ぐ外出の多い生活を送っているせいで、あまり足の早い食材は置けない。小さいが、秋雅にとっては地味に悩みの種となっていることである。

 

「じゃあ、出前でも取る?」

「外に食べにいくって選択肢もありますよ。あ、でもウルさんたち的に外食は厳しいですかね?」

「個室があればいいかな、って感じだよ」

「ああ、ちょっと待て、お前達」

 

 紅葉たちの検討を遮って、秋雅はリビングにある本棚からバインダーを取り出し、それをウルに手渡す。

 

「ここに俺の個人的な知り合いがやっている店のリストを纏めている。どれも個室ありの店だからお前達も大丈夫だろう」

「マメね、貴方。じゃあお言葉に甘えて」

「んー、日本って言ったらやっぱりスシじゃない?」

「テンプラ、も有名よね」

「たこ焼き、はないのかしら。前から興味があったのだけれど」

「基本的にたこ焼きは夕食用じゃないですよ、ウルさん。そっち系統ならお好み焼きじゃないですかねー」

 

 和気藹々と、女性陣がリストを見ながら楽しげに話しているのを横目に見つつ、秋雅は携帯電話を取り出す。そのままど電話をかけようとしたところで、ふと四人に目を向け、口を開く。

 

「確認しておくが、それぞれの明日の予定は?」

「私は予定通り委員会の設備を借りてVW-01の最終調整をするつもり。結局インドじゃ最後まで出来なかったから、明日で仕上げるよ」

「私も、秋雅用の銃の仕上げをすることにしているわ。同じく明日には渡せる、と思う」

「私はその二人の付き添い、と秋雅から依頼された情報収集ね」

「えーっと、私はどうしましょう?」

「何もないなら紅葉は俺と一緒に行動だ。お前の死の真相をいい加減探らんとな。家、高校の近くだったよな?」

「ええ、そうです」

「じゃあ明日はとりあえずそこに向かうぞ。俺はその為の足の手配をしておくから、その間にお前達は店を決めておいてくれ。そっちにも電話をしないといけないから」

 

 はーい、と四人が返事をしたのにくすりと笑いながら、秋雅は改めて知り合いに電話をかけるのであった。

 




 とりあえず今回はワンクッション。次回から紅葉の話を本格的にやっていくつもりです。


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