トリックスターの友たる雷   作:kokohm

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そして舞台は転ずる

「――えっと、誰かいますか?」

 

 ぬっと、唐突に壁の中から身体を出しながら、紅葉が声をかける。知らない人が見れば驚くか、ともすれば失神しそうな光景であるが、しかし彼女の視線の先にいたスクラは軽く首を傾げる程度の反応に留まった。

 

「紅葉? どうしたの、急に」

「あ、おはようございます、スクラさん。実は五月雨さんから報告書を持って行って欲しいと頼まれまして。部屋の外からノックしたんですが、どうにも反応がなかったものですから」

「あら、ノックされていたの? ごめんなさい、気付かなかったわ」

 

 遮音性が高いわね、とドアのほうを見ながらスクラは呟く。そんな彼女に苦笑をこぼしながら、じゃあと紅葉はそちらに目を向けて、

 

「今から渡された報告書を持ってくるので、ドアを開けておいてもらえると助かります。私一人はともかく、流石に紙は壁抜け出来ませんから」

「ん、分かったわ」

「お願いします」

 

 そういうわけで一旦その場を離れ、今度はドアから紅葉は室内に入る。流石はこの辺り一帯でも最上級の豪華ホテルといったところだろうか。とてもホテルの一室とは思えないほどに広く、そして豪奢だ。慣れてない人間からすれば二の足を踏みたくなる雰囲気であったが、紅葉にあてがわれた部屋も、これには若干劣るがほとんど同レベルの部屋であったので、一夜を過ごしたことで何となく慣れてしまっていた。先ほどのスクラの、遮音性発言に苦笑をもらしたのも、自分も同じような体験をしていたからだ。

 

 そんな室内には、先ほどまでと同じように、平然とした様子でスクラが椅子に腰掛け、入って来た紅葉の方を見ている。

 

「改めていらっしゃい。それが受け取った報告書?」

「はい、五月雨さんからです。三津橋さんの方の報告書も混じっているそうで、読んでもらった上で秋雅さんの指示を仰ぎたいと」

 

 と言ったところで紅葉は室内を見渡す。しかし見るからに室内に秋雅、そしてヴェルナの姿はなく、今いる部屋以外にも人の気配というものは感じられてない。元々この部屋は秋雅の部屋なのであるが、ヴェルナとスクラがどうしてもといった為に同室になった経緯があるのだが、それでスクラ一人しかいないというのはやや不思議な状況だ。

 

「秋雅さんとヴェルナさんはお出かけですか? 朝食はルームサービスで取るって聞きましたけど」

「その前の朝の鍛錬だそうよ。屋上を借りて組み手をしているらしいわ」

「スクラさんは参加しないんですか?」

「面倒くさいじゃない。細かい鍛錬とか気が乗らない性質なのよ」

「ああ……」

 

 そういえば、そのような事を聞いていたな、と紅葉はスクラの返答に頷く。スクラとヴェルナ。髪型以外はそっくりな容姿をした双子であるが、その言動はかなり対照的だ。仮に二人が完璧に見た目を合わせたとしても、案外すぐさま分かりそうだなと、何となくそんな感想を紅葉は抱く。

 

「ええっと、戻ってくるのはどれくらいになりますかね? 可能であれば秋雅さんに直接渡して欲しいって頼まれているんですが……」

「んー……もう少ししたら帰って来ると思うわ。とりあえずここで待機していたら?」

「じゃあ、そうさせて――」

 

 と、紅葉が言いかけた、その時だ。

 

「――うん? 紅葉か、どうした?」

 

 突如、紅葉の背後から声がかけられた。振り向くとそこには、やや不思議そうな表情を浮かべた秋雅とヴェルナが立っている。噂をすれば、でもないのだろうが、偶然にもこのタイミングで帰ってきたようであった。

 

「ああ、秋雅さん、ヴェルナさん、おはようございます。五月雨さんたちからの報告書を預かってきました」

「そういうことか。分かった、わざわざすまないな」

「いえいえ」

 

 紅葉が差し出した報告書を受け取り、秋雅は早速と読み始める。文字を追う目の動きは速いが、しかし報告書は中々に分厚い代物だ。流石に時間がかかりそうだなと、そう紅葉は判断する。

 

「じゃあ、何か飲み物でも持ってきますね」

 

 特に、運動してきたばかりであろう秋雅とヴェルナは喉も乾いているだろう。そう思った紅葉はコーヒーでも淹れて来ようと、一旦その場を離れる。さして探し回るまでもなく紅茶の茶葉を見つけ、数分とせずに彼女は人数分の紅茶をカップに注いで戻ってきた。

 

 

 

「お待たせしました」

「ああ、ありがとう」

 

 いつの間にか椅子に腰をかけていた秋雅、その前にあるテーブルに、紅葉は四つのカップを並べる。並べ終わったところで秋雅の顔をふと見ると、報告書に何か書かれていたのか、その額には大きなしわが刻まれている。

 

「……面倒な感じですか?」

「まあ…………はっきりと言ってしまうが、かなりまずい状況だ」

「聞いても大丈夫ですか?」

「ある意味ではあまり君には言いたくないことだが、隠しておくわけにもいかないようなんでな。悪いが、もう少し待ってくれ」

「分かりました」

 

 よほど、己の父と妹の件は、厄介な状況になっているらしい。秋雅に返答は、紅葉にそのことを察せさせるに余りあるものであった。

 

「…………いよいよ、覚悟を決めないと、なのかな」

 

 ティーカップを両手で抱えるように持ちながら、口の中で転がすようにそう紅葉は呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ざっとだが、一応読み終わった。今後の行動予定も含め、説明する」

 

 数分後、報告書をテーブルに投げるように置きながら、秋雅は口を開く。

 

「まず、例の魔法陣についてだ。五月雨室長たちの調査と実験により、予想以上に厄介な代物だという事が判明した」

「と言うと?」

「幸次郎氏の説明にもあったが、例の魔法陣の影響を受けた物品への対処は、やはり破壊以外の方法は見つからないらしい。幸次郎氏の話では物品の表面に、ということだったが、実際は物品の内部への干渉が大きいらしく、下手に取り除こうとすると物品に対し悪影響を与える可能性が高いとのことだ」

「秋雅の――って、あー、言っていいんだっけ?」

 

 何事かを言いかけたヴェルナが、それを途中で止め、秋雅に何かの確認を取った。何事か、と思った紅葉であったが、話を振られた秋雅は問題無いと言いたげに手を軽く振る。

 

「前も少し話したが、紅葉に関しては完全にその枷を解くことにする。例のレポートの閲覧権限も与えておいてほしい」

「いいの? 信用するにはまだ早いかもしれないわよ」

「今更裏切るような者でもないだろうよ。頼りになるみたいだし、すっぱりと信用することにした。何よりこのままだと、話が通じなくて面倒くさい」

「まあ、紅葉にもがっつり関係のある話をするわけだからねえ、それもそうかも」

「えーっと、つまりどういうことです?」

 

 何に関しての話だろうと首を傾げる紅葉に対し、答えたのはヴェルナであった。

 

「要は紅葉にも権能を含めた秋雅の情報を隠さないようにしようってこと。大体察していると思うけれど、基本的に秋雅は一部例外を除いて、自分に関する情報を軽々に教えないんだけど、その例外に紅葉も含めるってわけ」

「要するに、君に対し俺の権能関連で隠し事はしないと、解釈してくれればそれでいい。勿論、知った事を俺たち以外に話すことは禁止、という前提の下になるけどな」

「……いいんですか?」

 

 紅葉が秋雅の従者となってからまだ日は浅い。しっかりとした信頼関係が築けているのかと言われると、やや疑問に思うところがある。そんな状況で本当に自分を信頼していいのか、と問いかける紅葉であったが、

 

「人を信用するのに必ずしも時間が必要ってわけでもないだろうよ。それとも、その程度の秘密も守れないくらい、草壁紅葉の口は軽いのか?」

「それは……軽くはないつもりですけど」

「だったらそれでいいじゃないか。はぶられなくて良くなったと、まあ軽く考えておけよ」

「はあ……秋雅さんがそう言うならいいですけど……」

 

 ちなみに、秋雅は意図的に説明を省いたのだが、秋雅が言った例のレポートというのは、ヴェルナが個人的に纏めた『稲穂秋雅』というカンピオーネの調査書である。これには秋雅から聞き取った情報を元に、秋雅の戦闘スタイルやその権能について細かく纏められており、見れば秋雅というカンピオーネの戦闘能力を事細かに知れるというある意味で物騒な代物である。

 

 その性質上、このレポートは普段極めて厳重に保管されており、その閲覧が出来るのは秋雅とノルニル姉妹だけであった――秋雅が信頼している三津橋の名がないのは、実質上はどうあれ、現在の彼は秋雅の直轄ではなく、あくまで正史編纂委員会における協力者であるからだ――のだが、先の会話において秋雅はその閲覧権限を紅葉に与えるとヴェルナたちに述べた。つまり、その気になれば紅葉もまたこのレポートを隅から隅まで読む事が出来るということになる。

 

 このことについて秋雅があえて説明をしなかったのは、流石にこの権限貸与まで説明をすると、紅葉が恐縮して辞退するであろうと考えたからであり、受け入れた所でおそらくは彼女が能動的にそれを読みはしないと判断したからである。いずれ、適当なタイミングで明かせばいいだろうと、そういうことである。

 

 

「……で、まあ話を戻すんだが、さっきヴェルナが言おうとしたことは、俺の『義憤の炎』を使えばどうとでもなるんじゃないかってことでいいか?」

「うん、当たり。実際、あれって物体以外にも術とかも焼失させられるんでしょ? だったらそれを使えばいい話だと思うんだけど」

「それがそう単純な話でもないっぽいんだよ」

 

 トントンと、苛立たしげにテーブルの上の報告書を指で叩きながら、秋雅は首を横に振る。

 

 

「物品内部への干渉がでかいってのはさっき言ったが、特に心臓への干渉度合いが高いみたいなんだ。呪力ってのはつまり生命力が変化した物だから、その発生源して供給源である心臓に集まるという理屈らしい。その所為で下手に魔術を引っぺがそうとすると対象の心臓にも負荷、というか大きく傷つけてしまう可能性が非常に高いそうだ」

「だからこその、特定対象の破壊可能な秋雅の炎の出番ということじゃないの?」

「俺が『義憤の炎』を完全に掌握しきっていたら、な」

 

 はあ、と苦々しそうに、秋雅はため息をつく。

 

「現状の権能の掌握度合いと、件の術の拘束力を踏まえると、どうにも術のみを焼いて心臓含め対象の重要器官を守るという自信が、正直あまりない。術を焼失させました、でも紅葉の妹の心臓も消してしまいました、じゃ結局意味が無い」

「となると……その魔法陣が発動されていた場合、椿は助からないってことですか?」

 

 そんな、とすがるような視線を、紅葉は秋雅に向ける。それに対し、秋雅はやはり苦々しげな表情のまま、何とも言えない、と答えた。

 

「術の進行度合いによっては、術のみを焼くことも可能だとは思う。ただ、あちらの初動からどの程度時間が経ったかも分からないし、そもそも草壁康太が魔法陣を弄っている可能性は十分にある以上、こちらの想定と実際の動きが一致しているとも限らない。結局の所、草壁椿を保護してからでないと、確定的な事が一切言えないというのが、正直な所だ。ずるい言い方で悪いとは思っているが……」

「いえ、それは……そもそも、秋雅さんたちに、椿の命を救う義理はないわけですし…………」

 

 とは言うものの、紅葉にとっては、大事な妹の命がかかった問題だ。口でこそ気丈なことは言えても、その表情は暗く、不安に満ちているのが見て取れる。

 

「――草壁紅葉」

 

 そんな彼女を見ていた秋雅の雰囲気が、突如として切り替わる。私人としてのそれではなく、王としての態度で秋雅は口を開く。

 

「手がないと判断した場合、私は王として草壁椿を殺すつもりだ。例え少数を見捨てでも多数を救う義務が私にはあり、そして現状君の妹は、私にとって多数を切り捨てるほどの価値を持った人間ではない」

 

 王としての立場を、秋雅はここではっきりと表明した。同情はあれども、いざとなれば切り捨てなければならないのが彼の立場だからだ。今間違いなく、草壁椿は切り捨てられる側なのだ。

 

「……はい。それは、分かっています」

 

 だから、紅葉もまた、苦悩しつつも頷くしかなかったのだろう。家族の情は確かにあれど、しかし軽々に助命を懇願できるほど、紅葉は現実が見えない性質をしていない。代案があるわけでもない現状、ここで声高に叫ぼうとも、まったく意味がないと分かってしまえる程度には知性があり、感情の制御が出来るというのは、紅葉にとってある意味での不幸なのかもしれない。

 

 

 

 そんな、どうしようもなく重苦しい雰囲気が部屋を覆う中、

 

「……ちょっといいかしら」

 

 ふと、スクラが口を開いた。何か、と思って秋雅達が見ると、彼女は顎に手を当てながら、何かを考え込む素振りを見せている。

 

「何だ?」

「一つ、思いついた事があるわ。件の術から、紅葉の妹を救う方法。子供だましというか、使い古された手だけれど」

「かまわん。話せ」

「じゃあ――」

 

 と、スクラは思いついたそれを、身振り手振りを交えながら語っていく。あまり自信はないようで、彼女にしては珍しくその口調の端々には躊躇いが混じっていた。

 

「――と、いう手なんだけど、どうかしら?」

 

 スクラの説明を聞き終えたところで、それ以外の三人の態度は、まさしく三者三様であった。紅葉は一筋の希望を見つけたといった表情で秋雅にすがるような視線を向け、ヴェルナはどうなのだろうかと悩ましげに頭をかき、秋雅は両の手で口元を挟むようにしながら、目を閉じて深く考え込む素振りを見せている。

 

 

「大博打……と言ったところだな」

 

 しばしの瞑目の後、秋雅は難しい表情で呟く。

 

「草壁康太による術の改ざん具合、術の進行度、草壁椿の生命力、そして私の権能の掌握度合い。その全てが噛み合い、良いように向かったとして、一割どころじゃないな。一分、一厘、ともすればそれ以下の確率だろう」

「まさしく奇跡、ってわけか」

「でも……可能性はあるんですね?」

 

 最後の希望を手にした。まさしくそんな表情で、紅葉は秋雅を見る。そんな彼女を無言でじっと見つめたあと、秋雅は大きく息を吐く。

 

「使い古された手法に、ありえるかも分からない希望。全てを賭けはしないにしても、確実に一人の少女の命を弄ぶことになる。全くもって度し難い博打とも言えるが――――やってみるか」

 

 最後には素の口調になって、秋雅は決意したように言う。

 

「分の悪い賭けだが、これでも勝負運には多少の自信がある。一発逆転の大番狂わせを、どうにかこうにか引き寄せてみよう」

「秋雅さん……」

「可能性は低いとはいえ、手法は示されたんだ。俺以外にそれを成し遂げられない以上、やってやるのが男ってもんだろうさ」

 

 確約は出来ないがな、とわざとおどけるようにして、秋雅は紅葉に笑みを向ける。絶対にやると、秋雅は言えない。それは紅葉にとって、あるいは無情なことなのかもしれない。しかし、そんな彼に対して、紅葉は深々と、願うように頭を下げる。

 

「――お願いします」

 

 その一言から感じられるのは、秋雅に託すという覚悟の決まった意思。それを受けて、秋雅もまた強く、はっきりと頷く。

 

「任せろ」

 

 絶対に救えると、そんなことは言えない。絶対に救えると、そんな確信があるわけではない。

 

 だけど、

 

「やってみせるさ。稲穂秋雅の名に賭けて」

 

 そう言ってのけ、そして実行して見せるのが、自分のやるべきことであるということだけは、強く理解出来たからこその返答であった。

 

 

 

 

 

 

「……で、これからの行動についてだけれど」

 

 紅葉が頭を上げたところで、スクラが口を開く。先ほどの秋雅の宣言を聞いて上がっていた口角を下ろし、表情を常の無表情に変えながら、スクラは秋雅のほうを見る。

 

「秋雅、報告だとその草壁椿と草壁康太の所在はどうなっているの?」

「まず、現在の状況だが、草壁康太の捕縛と草壁椿の保護、そのどちらもまだ成し遂げられてはいないらしい。草壁康太の方は一度接触できたそうだが、ギリギリのところで逃がしたそうだ」

「そっち方面の実力はあるってわけね」

「面倒なことにな。ただ、その接触の際に()はつけられたそうだから、今日明日にでも再接触と、最終的な捕縛を試みるそうだ。草壁椿の方に回している人員も一時的に使い、なんとしても捕縛して見せると書いてあった」

「信用は出来るの?」

「大言壮語は吐かんよ、三津橋に限ってはな。それ相応に勝算はあるってことだろうから、そっちはこのまま任せてしまっていいと思う」

「父はそれでいいとして、椿の方はどうなっているですか?」

「見つかっていないのは草壁康太のほうと同じで、調査の方も進めているそうなんだが、ちょっと問題があるようでな」

「問題ですか?」

「ああ。紅葉、君の妹さんが通う学校についてなんだが、東京の私立城楠学院の中等部で間違いないな?」

「え? あ、はい。そのはずですけど」

「……ん? 城楠学院って、なんか聞き覚えがあるような?」

 

 と、ヴェルナが首を傾げる。そんな彼女に対し、だろうな、と秋雅は頷く。

 

「その学校、正確にはその高等部の方に、あの草薙護堂が通っているんだよ」

「げ……マジで?」

「マジだ。おかげで下手に聞き込みにも行きにくいらしい」

「草薙護堂って、確か秋雅さんと同じカンピオーネの人ですよね?」

「そうだ。経歴はどうあれ、一応彼と俺は同格ってことになるから、もし向こうがこの一件に興味を持ち、こっちの人間に協力を要請した場合、どうしても断るのが難しくなってくる」

 

 他所からは秋雅の私兵扱いをされる事がしばしばある福岡分室の人間であるが、その所属自体は当然正史編纂委員会である。委員会内であれば、秋雅が後ろにいることもあって多少の干渉が防ぐ事が出来るが、草薙護堂が手を伸ばしてくるとなれば話は別だ。万一にもそうなれば、正史編纂委員会という組織の恭順を示すために福岡分室のメンバーに情報の提供を求められることになるだろう。

 

「草薙護堂がこの一件に干渉してくる。それはつまり、私達にとって致命的なまでの不確定要素となりえる。ともすればこっちの作戦の邪魔をされ、紅葉の妹の命を助けることすら難しくなるかもしれない」

「そんなことになったら奇跡を起こすどころの話じゃなくなる。秋雅、その草薙護堂ってのはどんな感じ? 戯れに他人の人生を引っ掻き回すようなタイプだったりする?」

「いや、おそらく意識的にそういう事をする男ではない、と俺は見ている。倫理観や正義感に関しては一般的なそれを、一応は(・・・)有しているようではあった」

「なら、大丈夫じゃないんですか?」

 

 当然の紅葉の疑問に、しかし秋雅は厄介そうに首を横に振る。

 

「この場合は、だからこそ面倒なんだ。どう転んだ所で、こっちの目的は紛れもなく草壁椿を殺すことなんだから、(・・・・・・・・・・・・・ )殺す必要はないだとか、他に手はあるだとか、そういうことを言ってくる可能性が出てきてしまうんだよ」

「なるほどね。知識も何もない相手から、無責任な正義感を振りかざされたらたまらないわね。しかも、それが超常の力を持った者ならばなおさら、と」

「こっちが綿密に調査して、他に手はないって断言しても、聞かずに他の手段がどうだって叫びかねないもんね。でもさ、同じ学校に通っているってだけなら、大丈夫なものじゃないの?」

「…………その草薙護堂の妹と、草薙護堂に付き従う媛巫女が、草壁椿と同じ部活に所属していてもそう言えるか?」

「……あー…………」

 

 ぴしゃり、とヴェルナが天を仰ぎながら額を叩き、スクラも面倒なことになったと目元を揉み始める。そんな二人の態度に、秋雅もため息を吐きながら首を横に振る。

 

「妹と友達が悲しむから、草壁椿は殺させない。そんなことを言う草薙護堂の姿が目に浮かぶ。まったく、本当に面倒くさい」

「さっきの手も含め、こっちから全部を話して協力してもらう、ってのは出来ないですか?」

「無理だと断言は出来ないが、おおよそ失敗すると俺は見るぞ。彼がこちらの話を信用するとは限らない以上、やはり他の手段どうこうという話になりかねない。こっちが草壁椿を殺そう(・・・)としたところで、やっぱり信用出来ないとかで邪魔でもされたら、本当に失敗しかねん。ただでさえ博打が多い作戦なんだ、これ以上それを増やしてたまるか」

 

 身が持たん、と秋雅が言うと、分かりました、と紅葉は難しい顔で頷いた。結局の所、草薙護堂の人格その他を把握出来ていない、というのが、彼との接触に乗り気でなくなる大きな要因であった。どう行動するとも断言できない以上、悪い方向を想定して動かないといけないのが難しい。

 

「最悪、草薙護堂と一戦交える可能性も出てくるだろう。遅れを取るつもりもないが、そうするためにも、もう少しここを動けないな」

「義経戦のダメージを回復するため、ですか?」

「間違ってないがちょっと違う。身体的にはほぼほぼ万全の状態だからな。回復する必要があるのは呪力の方だ。『冥府』を再構築しないといけないからな」

「『冥府』の再構築?」

 

 首を傾げる紅葉に、苦笑しながら秋雅は説明を続ける。

 

「ほら、あの戦いで紅葉たちが『冥府』の外に弾き飛ばされた時、紅葉は俺が死んだと思っただろう?」

「え、ええ。てっきりそうなのかと思っていました」

「実際のところ、その認識は間違っていなくてな。あの時俺は一回死んで、その上で復活しているんだよ。『冥府』を犠牲にすることによってな。ざっくりといえば、あの空間は俺にとっての残機みたいなものなんだ」

「残機……なるほど、つまりあの時の流れとしては、秋雅さんが一回死んでしまって、それを無かったことにするために『冥府』が消えて、そのおかげで秋雅さんが復活できたと、そういうことになるんですね?」

「頭の回転が速くて助かるよ。そういうわけで、『冥府』を二つ以上作れない関係上、俺は再び冥府を作り出さないといけないわけだ。あれは俺にとっての残機であり、戦闘において欠かせない、周辺被害を抑えられる戦場となる空間だからな」

 

 ただまあ、と秋雅の説明を引き継ぐように、ヴェルナが口を開く。

 

「あの空間だけど、作るには通常時に秋雅が持つ呪力の大半を要する必要があるんだ。本来なら護衛なんていらない秋雅に私達がくっついてきたのも、『冥府』の再構築を使った後はさしもの秋雅も弱体化するからなの」

「ははあ、そういうわけなんですね」

「そういうわけだから、秋雅は最終的に最低限の戦闘が行える程度に呪力が回復するまで、迂闊に動き回る事が出来ないってことになるんだよね」

「秋雅、今回は動けるまでどの程度かかる?」

「草薙護堂との戦闘も考えるのであれば、今日明日は確実に動けないな。早くても二日後の早朝までは動きたくない」

 

 つまり、と秋雅は続ける。

 

「二日後の午前にここを発ち、東京に向かう。それ以上は時間を浪費したくないので、向こうに到着し次第行動、基本的には草壁椿の捜索を開始するつもりだ。俺が学院に向かえば、草薙護堂が出てきてもその詰問を無視できるからな。紅葉、その際は姉として同行してくれ。あまり期待しているわけではないが、君の妹の友人などに心当たりがないかあたってみたい」

「分かりました。全てを秋雅さん任せにするわけにもいきませんし、出来ることは頑張らせてもらいます」

「頼む。学院以外ではヴェルナとスクラも同行しておいてくれ。場合によっては二人にも戦ってもらうかもしれないからな」

「りょーかい」

「現状、それぐらいしか出来ないものね」

 

 これで、おおまかな行動方針は決まった。よし、と秋雅は頷き、立ち上がる。

 

「五月雨室長たちに、今後の行動予定を伝えに行くぞ。紅葉、彼女が何処にいるかは聞いているか?」

「はい、調査の為に北海道分室の方に向かうと言っていました。場所は知りませんけど、ご存知ですよね?」

「ああ、前に訪れた事があるからな。適当に足を調達して行くぞ」

 

 その言葉に、三人が同意を示すように頷く。それを確認した所で、秋雅は背を向け、部屋の外へと向かう。

 

 そして、扉のドアノブに手をかけたところで、

 

「……後は時間と、草薙護堂次第、か」

 

 どうなるかな、と険しい表情を浮かべながら、秋雅は小さく呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、無駄骨だったわ」

 

 ため息をつきながら、エリカ・ブランデッリは今宵何度目かになる愚痴をこぼす。正史編纂委員会の目を逃れ開かれる、在野の魔術師達による会合。希少な呪物の購入や、それらの参加者との顔繋ぎ。そういった目的に為にエリカは今回開かれた会合に出席をしていたのだが、その会合こそが彼女の愚痴の理由であった。単に空振りであったというのも大きいのだが、今回出席していた魔術師達が誰も彼も内向的で、陰気臭い人間ばかりであったのがそれに輪をかけてしまった。確かに魔術師というものは、基本的に表舞台に出ないこともあって『陰』よりな者が一定数いるのだが、エリカ・ブランデッリは自他共にも認める『陽』の人間だ。両者の雰囲気があまりに違いすぎて、いくらかも真っ当な人脈を作る事が出来なかったのだ。日本に来てまだ日が浅く、早いこと人脈を作っておきたいと思っているにもかかわらず、である。

 

 そんな苛立ちを鎮めるためか、エリカはタクシーを使うことなく、夜の街を歩いていた。しかし、顔を顰め、不機嫌そうに鼻を鳴らしながらも、月に照らされたその姿は美しく見えてしまう。有体に言えば、美人は特という奴なのであろう。とうに日付が変わり、深夜も深夜という時間でさえなければ、街中を歩く彼女に目を引かれる男は大層いたことだろう。もっとも、そこから声をかけるものがいるかどうかまでは定かではないだろうが。

 

「……あら?」

 

 そんな中、ふとエリカは空を見上げ、立ち止まる。何か今、魔術の気配を感じ取ったような気がしたからだ。気の所為か、とも思ったものの、しかしどうにも引っかかるものがある。ほんの僅かの思考の後、エリカはこの気配について探ってみることに決める。

 

 『軽業』を使い、軽やかにエリカはビルの側面を駆け上がる。魔術の気配を感じたのは上からであったので、自分もそこに立ってみれば、何か分かるかと思ったからだ。

 

 壁を登りきり、音もなく屋上に着地したエリカは、感覚を研ぎ澄ませながら辺りを見渡す。すると、

 

「あれね」

 

 暗闇の中、『視力強化』の術を使ってようやく見えるほど薄くだが、エリカは確かに人の姿を視界に収めた。単に暗いだけではなく、何かしらの術を使ってその姿を隠しているらしい。先ほど感じた呪力は、おそらくはその術を使うために漏れたものだろう。それは相手が未熟なのではなく、むしろその程度に露出を抑えていると見るべきだと、エリカの魔術師としての勘が囁いている。紛れもなく、一角の実力者による逃走、あるいは追走と見ていいだろう。

 

「となると……」

 

 呟き、さらに注意深くエリカは周囲を見渡す。いる、と思ってみてみれば、やはり夜の帳の中に数名、何者かを追う影を見つける事が出来た。直接的な戦闘能力は不明だが、こと闇に潜むことに関しては、どうやらエリカよりも腕があるように思われる。

 

 そのまま観察を続けてみると、どうやら最初に見つけた影を含め、この魔術師達は誰かを追っているようであった。生憎追っている相手はエリカにも見つけられないが、彼らの動きから追跡者なのであろうということは察する事が出来る。

 

「面白そうね」

 

 良い気分転換になりそうだと、好奇心も手伝って、エリカは彼らの追跡を行うことにした。勿論、迂闊に距離をつめるようなことはせず、最低でも建物一つ分の猶予は取って追う。彼らの隠密の術の見事さを踏まえれば、看破の術もまた極めていると考えるのが自然。そういった心得はさしてないエリカが、十分に距離を取るのは道理であった。

 

 そうして警戒しつつも追跡者の後を追うということをエリカがしていると、ふとその追跡者たちがとある建物の屋上で足を止めた。どうやら目的の人物を捕まえたようで、追跡者たちに囲まれるようにして、誰かがその中央に立っているのが見える。

 

「何をするつもりなのかしら……」

 

 疑問には思うものの、近づくのは少々危険。エリカの主義からすればやや好ましくない手ではあるが、この場は仕方がないと納得し、離れたまま聴力を魔術で強化することで、会話を聞き取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お久しぶりですね。まさかこのような形でお会いするとは思っていませんでした」

 

 包囲した追跡者たちのうち、一人が口を開いた。一歩前に出たその男は、その立ち姿を見るだけでも、中々の実力者であることを察する事が出来る。そんな男の言葉に、追跡されていた側の男が口を開く。

 

「君がいるということは、私の望みは稲穂様に見破られていたということか」

「そういうことです。稲穂様を討つためだけにこのような事をしでかすなど、随分と狂ってしまったようですね」

「稲穂様を討つ? ……なるほど、そう誤解をしているのか」

 

 追跡者の言葉に対し、逃亡者の男はあざ笑うように鼻で笑う。愚か者を馬鹿にしているというよりは、無知な者を哀れんでいるような、そういう笑いだ。そのことに、追跡者は眉をひそめる。

 

「誤解? 稲穂様を討つ気はない、と?」

「確かに、当初はあの方に殺意を抱いた。だが、調べていくうちに知った。あの一件が、老人共に仕組まれていたことに」

「では、なおのこと何故このようなことを? あの一件で既に当事者は全員亡くなっているはずです。貴方が復讐する相手はもういないのでは?」

 

 追跡者の疑問に対し、逃亡者は大きく首を横に振る。

 

「いいや、違う。まだ数名、稲穂様の目を逃れた者たちがいる。あの当時、あの愚か者達を教唆し、そして妻の一件を改ざんした奴らが、まだのうのうと生き残っている」

 

 だから、と逃亡者は拳を握り締め、叫ぶ。

 

「私は、そいつらを殺す! いや、そいつらだけではない。そいつらが大事に思う者達も、そいつらを大事に思う者達も、そいつらを育てたこの国も、その全てを壊す! そうしなければ、とても彼女の死につりあわない……!」

「それは、自分の娘達を犠牲にしてまでですか!」

「それがどうした!? 私にとって大事であったのは彼女だけだ。その復讐に使ってやれるのだ、娘達も本望だろう!!」

「貴方はそこまで……! 畜生道に堕ちたようですね」

 

 逃亡者の狂った主張に、追跡者は不愉快そうに吐き捨てる。しかし、それを聞いてもなお、逃亡者は狂気的な笑みを浮かべ、短剣をその手に呼び出した。

 

「違うな。堕ちるのは――今この時だ!」

「っ! 確保しなさい!」

 

 追跡者の命令に、他の者たちが動こうとする。しかし、その一瞬前に、逃亡者は短剣を深々と、自身の胸に突き刺した。

 

「この身を、血を、魂をもって、我が魔術を絶対なるものとせん――!」

 

 逃亡者の身体から、呪力が立ち上る。その呪力は、しかし何かの術になるのでもなく、何処かへと飛び去ってしまう。残ったのは胸に短剣を突き刺し、その口の端から血を漏らして倒れる、男の身体だけ。紛れもなく死亡している、と遠目からでも見て取れた。

 

「ぬかった! 最期の最期で術を強化されてしまったとは……! 今の呪力の補足は出来ていますか!?」

「辛うじて! このまま私達は追跡に移ります!」

「お願いします。私達はこの場で隠蔽処理を行います」

「はっ」

 

 そう言って、追跡者たちの半数がその場を去る。それを見送った後、

 

「……さて、貴女は何者ですか?」

 

 間違いなくエリカの方を見て、男はそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気付かれた!?」

 

 男の言葉を聞いて、エリカは思わず立ち上がる。確かに隠密は不得手ではあり、途中からは男たちの会話に気を取られていたとはいえ、この距離でまさか気付かれるとは思っていなかった。諸所に出てきた単語からかなり危険度の高い会話とは悟っていたため、元より適当なタイミングで撤退するつもりだったのだが、見事に機先を制されてしまった形だ。

 

 だが、今からでも遅くはない。エリカがすぐさまにこの場を去ろうとする。

 

「――動くな」

「っ!」

 

 動きかけていたエリカの身体が、ピタリと硬直する。女の声による警告と共に、エリカの首元に、何か冷たいもの――おそらくはナイフの類が当たっていたからだ。こうも容易く背後を取られたことに、エリカの顔に薄く冷や汗が浮かぶ。殺される、とまでは思っていないものの、これほどの隠密の技術を持つ相手に勝つのは、エリカの実力を持ってしても難しいだろう。

 

 故に、エリカは一先ず、動かないという選択をした。先の会話からすれば、この者達は稲穂秋雅の部下、あるいは協力者である可能性が高い。であれば、このまますぐさまに殺される可能性はそれほど高くないだろうという判断だ。

 

 

「……おや、誰かがいるとは思っていましたが、まさか貴女だったとは」

 

 はたして、いつの間に来たのか。先ほどの追跡者の代表らしき男が、エリカの前にいた。三十代、もしかしたら四十代だろうか。そのぐらいの歳の男性だ。エリカの顔を見た男は、やや驚いたような表情を浮かべた後、手でエリカの後ろで立っているのであろう女に対し、何やら手で合図をする。すると、エリカの背後にあった気配がフッと消える。そのことに内心で安堵しつつ、とりあえず自由に話せというメッセージでもあるのだろうということを察して、エリカは口を開く。

 

「あら、私の事を知っているの?」

「ええ、存じていますよ。エリカ・ブランデッリさん。《赤銅黒十字》に所属する、『紅き悪魔』の名を持つ大騎士。まあ今は、草薙護堂の騎士と言った方が正しいでしょうか」

「そこは、第一の愛人、と言ってほしいところだけれど……それで、貴方は?」

「失礼。正史編纂委員会福岡分室、三津橋正和という者です」

「三津橋って……まさか、『稲穂秋雅の窓口』の?」

 

 男が名乗った名前に、エリカは驚きの表情を浮かべる。正史編纂委員会の三津橋と言えば、この界隈ではそれなりに有名な名前だ。基本的に、直通の連絡を許可しない稲穂秋雅に対し依頼を出すとき、まずは正史編纂委員会の三津橋に連絡を取るべし、というのが、魔術結社の間での不文律であるからである。まあ、この不文律の所為で、実際の所属はともかく、国外の魔術結社から三津橋は実質的な稲穂秋雅の私兵であると思われているのだが。

 

 ともかく、そういうわけであるので、彼の名前を知っている魔術関係者は多いし、国内外問わず、その人脈は広いとエリカは聞いている。ある種有名人の登場に驚くエリカに、三津橋は苦笑を漏らす。

 

「いやまったく、その呼ばれ方自体に異論はありませんが、そういう風に驚かれるのは些か、思うところがありますね…………さて」

 

 突如、三津橋の雰囲気ががらりと変わる。やや和やかでもあった空気は一瞬で消え去り、エリカですらゾクリと来るほどの剣呑な気配が三津橋から発せられる。

 

「エリカ・ブランデッリさん、何故、このような場所に? 私達の会話も盗み聞きしていたようですが」

「ただの好奇心、かしらね。夜道を歩いていたら何か不穏な気配を感じたから、試しに調べてみたってだけよ。確かに話は聞いたけれど、それほど理解も出来ていないわ」

「ほう…………」

 

 探るような視線を、三津橋がエリカに向ける。もっとも、エリカは特に嘘をついていない。真実を言わずに煙に巻く、ということもしていないので、態度から勘繰られることはないだろうと、状況に関わらず自然体で立っている。まあ、戦闘が起きればすぐに動けるようにはしているのだが。

 

「……なるほど、特に嘘をついているようではないようですね。では、すぐに立ち去ってもらえますか? これからしばしやらなければならない事があるので」

「嫌だ、と言ったら?」

「さて、どうなるでしょうね」

 

 ここは引くべきか、とエリカは判断した。口調こそ柔らかだが、三津橋の気配は未だ剣呑なままであるし、何よりその目が全く笑っていない。実力は未知数で、数の不利もある。本当に稲穂秋雅が後ろについているのであれば、護堂の存在を恐れてエリカを討つ事を躊躇う、ということはないだろう。総合的に考えて、ここで戦うのは止めたほうがいいのは明らかであった。

 

 そんなエリカの判断を察したのか。ふと、三津橋は懐から封筒を取り出し、エリカへと差し出した。

 

「失礼。ついでで恐縮なのですが、これを草薙護堂様に届けてもらえますか?」

「どなたからかしら?」

「聞かずとも、勘付いているのでしょう?」

 

 稲穂秋雅からの手紙か、とその返答からエリカは察する。あまり隠す気もないようであったが、やはり彼らはかのカンピオーネの命で動いているようである。

 

「分かったわ」

「ありがとうございます。では、また縁があれば」

「ええ、さようなら」

 

 三津橋たちの視線を感じながら、エリカはその場から立ち去る。すぐさまに屋上から飛び降り、夜の道をある程度歩いた所で、ふう、とエリカは安堵の息を吐く。

 

「少し、調子に乗りすぎてしまったみたいね。普通の魔術師相手に身の危険を感じるなんて、いったいいつぶりかしら」

 

 さて、と受け取ったばかりの封筒をくるくると回しながら、エリカは呟く。

 

「……中々、面白い事が起きそうね」

 

 危機感は確かにある。しかし、それ以上に好奇心と冒険心がくすぐられてしまったらしい。自分の内に浮かぶ感情のままに、エリカは小さく笑みを浮かべるのであった。

 

 




 ここから、章の最後の方までは護堂達の視点で話を進めるつもりです。次話ぐらいまではエリカと護堂は別行動になるかも。それと前にも言ったかもしれませんが、時系列としてはこの話は恵那と会う前、始業式が始まって間もなくぐらいになりますと補足しておきます。


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