トリックスターの友たる雷   作:kokohm

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選択肢とは、狭められるものである

「――何で、アンタがここに居るんだ?」

 

 どうしてここに稲穂秋雅が。目の前の人物に、護堂がそんな疑問を持つのは至極真っ当な話だろう。これがまだ学校の外であれば、手紙のこともあって一応は納得もできただろう。だがまさか、祐理を待っている間、偶然に教師の一人から頼まれて、集められたノートを職員室まで運んでいたところで出会うなど、全くもって予想外にも程がある事態だ。しかもその向こうには祐理までいるのだから、驚きも倍増というものである。

 

「今、ここで出会うとはな。予想していなかったわけではないが、何とも面倒な……」

 

 やれやれ、と言いたげに秋雅が軽く頭を振る。当然といえば当然かもしれないが、どうやら護堂と違い、あちらは遭遇の可能性を考えていたらしい。もっとも、だからといってそれを歓迎しているわけではないようなのは、これまた当然と言うべきだろうか。

 

 まあいい、と秋雅は一つ息を吐き、護堂の正面に立つ。悠然した態度とポーカーフェイス。敵意こそ感じられてないが、何を考えているのかまでは読み取る事が出来ない。しかし無意識の警戒として、両の手で持っていたノートの束を片手で抱えなおし、護堂は秋雅と視線を交わらせる。

 

「草薙護堂、今回私が来たのは、とあることに対しての情報収集を行う為だ。結果、万里谷祐理と君の妹殿に接触することになったが、だからといって何をしたわけでもないと予め言っておく」

「万里谷に……静花の奴も? まさか、行方不明とかいう、静花の友達関係ですか?」

「聞いていたか。そうだ、私は草壁椿の所在を探る為、彼女達に話を聞きに来た」

「……失礼ながら、御身が自らなさるようなことなのですか? 誰か遣いを出せば済む話だと思うのですが……」

 

 確かに、リリアナの言葉に対し、護堂も心の中で頷く。これまでの経験上――自分はともかくとしても――カンピオーネと呼ばれる者達は、人を顎で使うことに慣れている人種だ。雰囲気や態度からして、目の前の青年もまた、同じく王としての振る舞いを知っているタイプなのだろう。それなのに、わざわざ自分から情報収集に来るというのは、言われてみれば確かに、妙と言えば妙な話だ。

 

「当然の疑問だろうな、リリアナ・クラニチャール。私とて、この学園に草薙護堂が通っておらず、対象の少女が草薙護堂の縁者に近しくなければ、今共に来ている従者に任せていただろう」

「どういう意味ですか?」

「君が興味を持った場合、同格の私でなければ拒絶が難しいということだ。カンピオーネ相手に、教えるものかと突っぱねるのは魔術師達には案外と難しいのだから」

 

 そういうものなのか、と一瞬納得し、しかしすぐさまに、新たな疑問が護堂の中に湧く。

 

「その言い方だと、その草壁椿って子に関して、俺に興味を持たれるのはまずいってことですか?」

「経験上、カンピオーネに首を突っ込まれるとろくなことにならないのでね。君も、経験がないわけじゃないと思うが?」

「それは……まあ」

「だったら、ここは引いてもらいたいな。伝言としては万里谷祐理に託したが、今回の件に関しては不干渉を要求する。君にとっても悪いことでは無いから、安心して了承してもらいたいが……」

 

 どうだ、と秋雅が問いかけてくる。しかし、それを了承するには、まだ護堂は肝心な事を聞いていない。

 

「結局の所、貴方は何故その、草壁って子を探しているんですか? それが分からないと、こっちとしてもどうとも言えないんですけど」

「先に話に出した私の従者が、その草壁椿の妹だからだ。私直轄の従者にして、良い働き振りを見せている彼女の身内の失踪。日頃の働きに応えてやるためにも、主として力を貸してやるのは当然だろう?」

「…………嘘ですね、そりゃ」

 

 もし、何も前知識なく、ただ今の秋雅の話を聞いたのであれば、それも信じたかもしれない。それほどに、彼の語り口や雰囲気は、本当の事を言っているようにも聞こえる。

 

 だが、しかし、

 

「一応俺も、カンピオーネの影響力って奴はそれなりに理解してきました。それこそ、顎で人を使うなんて訳ないって分かるくらいに。だったら、多少俺にちょっかいをかけられる可能性を考えても、貴方なら人を使うと思います。そうしないのはたぶん、それ以外に、何か貴方自らが動く理由があるからだ。違いますか?」

 

 護堂の問いかけに、秋雅は何か答えることもなく、じっと護堂を見る。睨みつけるというほどでもなく、しかしとりあえず視線を向けているわけでもない。明確に、護堂に対し何かしらの感情を抱いた上で、秋雅は自分を見ているのだと、護堂は直感的に察する。

 

「そもそも、俺に興味を持たれたくないって時点で、何か俺に知られたくないことがあるんじゃないですか? それは、一体何なんです?」

 

 護堂の質問に対し、秋雅は何の反応も見せない。ただじっと、護堂を何の感情も読み取れぬ目で見やるだけだ。その状態が一分ほど続いたところで、じれったさを覚えた護堂がさらに言葉を連ねようとした、その時だ。

 

「秋雅さん、ちょっといいで…………何事で?」

 

 唐突に、秋雅の奥の、応接室の扉が開いた。中から顔を出したのは、二十歳前後ほどの若い女性だ。彼女は秋雅と、そしてその前に立つ護堂の姿を見て、やや眉をひそめながら首を傾げる。

 

「あれ? そちらの方って、もしかして…………」

 

 しかしすぐに、何かに気付いたように彼女は顔を軽く引きつらせる。その視線が護堂の方に向けられている事を考えると、この女性も魔術関係者――流れ的に、秋雅の従者ということか――であり、護堂の顔を知っていたということなのだろう。

 

 そんな反応を見せる彼女に、秋雅はまるで何も――それこそ、護堂の追求など――なかったかのように、平然とした素振りで言葉を投げる。

 

「特に何もないさ、紅葉。それよりもどうした?」

「……ないと言うならいいんですが……静花さんからの話は聞き終わったんですが、どうしましょうか?」

「そうか。こっちももう大きな用は済んだ。これで退散することとしよう」

「了解です」

「ちょっと待ってくれ! こっちの質問に――」

 

 淡々と、この場を去ろうとする秋雅に対し、護堂は当然のように食い下がろうとする。思わず大声を出すと、開きっぱなしだった扉の影から、見慣れた顔がひょこっと現れた。

 

「……あれ? 何でお兄ちゃんがいるの?」

「あ、ああ……静花か。いや、その……」

 

 思いの外、護堂の声は大きかったらしい。怪訝な表情を浮かべてこちらを見やる静花に、護堂はつい言葉に詰まる。どう説明したものかと悩んでいると、それよりも先に秋雅が口を開く。

 

「ああ、静花さん。実は私と貴女のお兄さんは少しばかり面識がありまして」

「え!? そうなんですか!?」

「ええ、まあ、一度二度という程度ではありますが、以前にも話をした事があります。不躾にも貴女のことを名前で呼ばせてもらったのも、私にとっては『草薙』という姓はお兄さんを指すものだからでして」

「ああ、そうだったんですか。お兄ちゃんにもこういう知り合いが居たんだねえ」

「……ああ、うん。そう、だな……」

 

 流れを取られた、と護堂は静花の言葉に頷きながら、秋雅に対し歯噛みする。静花の登場によって、これ以上彼に詰め寄る事が出来なくなってしまった。もしここまで想定して、あの対応を秋雅が取っていたのだとすれば、何と賢しいかとむしろ感心すらしそうになる。

 

「では、私どもはこれで。静花さん、万里谷嬢。今回はご協力頂きありがとうございました」

「妹のことは任せてください。必ず見つけ出して、良い便りを渡せるようにします」

「はい、椿ちゃんのこと、よろしくお願いします!」

「勿論です。それでは、御機嫌よう」

 

 そう言って、秋雅は共の女性を連れて歩き始める。もはやどのような反応も出来ない、と護堂が眉をひそめている中、

 

「――邪魔だけはしないことだ」

 

 ボソリと去り際に、護堂にのみ聞こえる程度の小声で言って、秋雅は悠々と歩き去っていった。苦々しく思いつつも、しかしもはや護堂には、その背を睨みつける程度のことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、稲穂様が護堂にね」

 

 護堂達から放課後の話を聞いて、エリカはその美貌を曇らせながら呟く。場所はリリアナが日本での拠点としているマンションの一室、時刻はそろそろ日も落ちようかという頃合だ。

 

「そっちも、まあ色々あったみたいだな」

 

 秋雅が去った後、こちらの事情に興味を持った静花をあしらい、護堂がエリカに連絡を取ると、それぞれに情報があるという事が判明した。そこから、急ぎ合流し情報の共有を済ませようという話になったので、その場としてリリアナが自分の拠点を提供したという流れで、今に至っている。

 

「しかし……稲穂秋雅の目的は一体何なのだろうか。草壁椿の確保だけと考えるには少々不自然だが」

「でも、草壁さんを保護したいということ自体は嘘ではないと思います。あの方の目的と彼女の保護は何かしらの形で連動しているんじゃないでしょうか?」

「とはいえ、それがどう繋がっているのかという話です。確かに、草壁椿さんの父親がウチの魔術師であるとはいえ、イコールで稲穂様に関連があるかというと、そうでもないはずですしねえ」

 

 今ここにいるのは、護堂とエリカ、リリアナに祐理と、そしてエリカに着いてきた――連れてこられた、が正しいかもしれない――甘粕の五人だ。互いの話を共有し合い、しかしそれでも、秋雅の目的がようとして知れぬことに、五人はそれぞれに困惑の反応を見せる。

 

「……そもそもの話なんですが、今回って草薙さんが動く必要があるのでしょうか? 正直、一個人としては、このまま事の成り行きを見守るというのもありだと思うのですが」

「それはまあ、そうね」

「ある意味では、その方がいいという考えも出来るな」

 

 甘粕の意見に対し、エリカとリリアナも一理あるという表情を浮かべる。三人とも、それぞれのルートで、稲穂秋雅という王について一定以上の知識がある者たちだ。過去の経験上、もしこのまま放っておいたとしても、例えば都内で大規模な破壊活動があるだとか、そういうことが起きるとは思っていない。いやむしろ、護堂という要素が加わってしまうことで、予想外の被害が発生するのではないかとすら思っている。そう考えると、あまり首を突っ込むのもどうか、と思うのも無理はない話だ。

 

 そんな甘粕の意見にも理解を示しつつも、しかし、とリリアナは言う。

 

「それならば稲穂秋雅も目的を隠さないのではないか? あそこまで頑なに目的を告げられないというのも、それはそれで引っかかるものがある。万里谷祐理の話を聞く限り、あの方は草薙護堂に邪魔をさせないためとのことだったが、裏返せばそれは、あの方の目的を草薙護堂が知った場合、二人が敵対する可能性があるということでもある」

「だな。可能性が無いなら、隠す必要はないと俺も思う。つまり、多少なりとも、こっちが反発する可能性があることをしに来たってことだと思うんだけど……」

 

 結局、それがなんなのか、という所で話が止まってしまうのが今の問題だろう。ああだこうだと秋雅の行動理由を論じた所で、彼自身の目的が分からない以上、どうと動くわけにも行かない。

 

「まあ、もし稲穂様の目的を本気で知りたいっていうんでしたら、その草壁椿さんとやらを見つけ出すのが早いでしょうかね。確保してその少女自身を調査なりすれば、稲穂様が動いている理由にもつながるでしょう。例えばその子が神器を所持していて、安全のために保護したい、だとかね」

「もし仮にそういう目的なら、わざわざこっちに隠す理由はないと思うんですが……」

「いやほら、草薙さん自身はそう思っていても、稲穂様からしたら草薙さんの性格とかはあまり分からないわけですから。多少なりとも警戒するっていうのはありえる話かと」

「カンピオーネの方々の行動理由というのは、一般的な感性から離れていることが多いからな」

 

 甘粕とリリアナの言葉に、護堂以外の全員が深く頷く。唯一残った護堂はそんな皆に対し文句の一つでも言いたい気分になったものの、ぐっと堪えて飲み込む。自分が声高に訴えた所で、どうせ数の暴力に屈するというのが目に見えたからだ。

 

「まあ、それはともかくとして、よ。甘粕さんの案自体は有用だと思うわ。稲穂様の目的が知れぬ現状、確かにその子を確保する以外、あの方の目的を探るのは難しいでしょうね」

「一先ずそこに落ち着くか……草薙護堂、貴方はどう思います?」

「俺? 俺は…………」

 

 ううん、としばし考え込んだ後、うんと護堂は軽く頷いて言う。

 

「草壁って子、俺らでも探してみようか。静花や万里谷の友達って言うなら、俺にも探す理由はあるし、稲穂さんの目的が分からない以上、その子の安全を考えるなら俺らで保護したほうがいいと思う。万里谷もそれでいいか?」

「そう……ですね。私も、稲穂様を信用していないわけではありませんが、私達でも草壁さんを探すことには賛成します」

「とはいえ、それでも最低限の情報は必要ね。護堂、妹さんから彼女が稲穂様に渡したであろう情報を聞きだしておいてちょうだい。甘粕さん、貴方には出来る限り草壁椿関連の情報を集めてもらいたいところなのだけれど」

「やるだけやってみましょう。あまり戦果は期待しないでもらえると助かりますが」

 

 何はともあれ、まずは動く。とりあえずの方針が固まった。

 

「よし、出来れば何事もなく終われるようにしよう」

 

 その護堂の言葉でもって、この場における会議は終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……何でお兄ちゃんが、椿ちゃんを探そうと思うの?」

「いや、万里谷にちょっと相談されたんだよ。最終的に、どうにも気になるから一緒にちょっと調べてみようってことになったんだ」

「ふうん? でも、あの稲穂さんと椿ちゃんのお姉さんに任せれば、大丈夫そうに思えたけどなあ…………まさか、今日帰りが遅かったのも、万里谷さんと二人でそういう話をしていたからなわけ?」

「ん、まあ、そうなるなあ」

「へえ、そうなんだ……」

 

 かようなやり取りを挟みつつ、護堂は静花から、草壁椿の居所の心当たりなどを聞きだすことに成功していた。夜も更けてきた今などは、その情報の内容を甘粕に送って、残ったメモを自室で何となく眺めている所である。

 

「しっかし……多いなあ」

 

 メモを眺めながら、なんとなしに護堂は呟く。優に十、いや二十は行きそうなそれらの情報は、これまでに静花が草壁椿と一緒に遊びに行った所である。一箇所につき一回というわけでは勿論なく――でなければこれほど覚えてもいないだろう――二人きりで行ったところばかりではないとはいえ、やはり多いと言えば多いだろう。その名に反してと言うべきか、静花は完全に『動』よりの人種であるが、これを見る限り草壁椿もまた『動』の性質を持った少女だったのだろう。僅かばかり聞いた静花の話を踏まえても、おそらくそう間違った予想ではないはずだ。そんな二人が、茶道部という明らかに『静』よりの部活に揃って所属しているというのは、何となく面白いと思わないでもない。

 

「……って、そういう場合じゃないか」

 

 別に笑っていられる状況でもない、と護堂は僅かに浮かべた笑みを引っ込める。静花も、いつものように振舞っていたものの、兄である護堂からすれば、少しばかり無理をしているということは見て取れた。元々心配していた状況で、改めて失踪していると聞けば不安になるのは無理もない。たとえ、その探しているらしい人物が、どれほど頼りになりそうであろうともだ。

 

「まあ、そっちもよく分かんないんだけどさ」

 

 結局の所、今護堂がどうにも色々な事をしている理由というのは、稲穂秋雅という人物を信用出来ていないからという、その一点に尽きるだろう。確かに他のカンピオーネと比べれば、はるかに理知的で人格的な風に見えたものの、どうにも信用しきれないところがある。おそらくだがこれは、あちらが護堂の方を信用する気が無いからではないだろうか、と護堂の中にはそんな考えが浮かんでいる。互いに信用、とまではいかないにしても、どちらか一方が猜疑の目で見ていて、信頼関係を築くというのも無理な話だ。まあ別に、だからといって、秋雅がこちらを信用していないのが悪いともいえないのだが。何せ――半ば不本意とはいえ――護堂自身、己の行動に対し後ろめたいものがないわけではないのだから。

 

 

 そんな事をグダグダと考えながら、護堂がメモを弄んでいると、ふと机の上に置いていた携帯電話が震動した。誰か、と思いながら電話に出てみると、電話先から聞こえてきたのはいい加減聞きなれてきた、くたびれが感じられる男性の声だ。

 

「夜分遅く申し訳ありません、草薙さん」

「ああ、甘粕さん。どうしたんです?」

「ちょっとあの後で軽く調べてみたので、とりあえずの現状報告って奴です。まあ、報告というか、諦め混じりなんですけど」

「どういう意味ですか?」

 

 いえね、と甘粕はため息をつきながら続ける。

 

「草壁椿、及びその父親の草壁康太について調べてみたんですが、委員会の資料には何も怪しいものはありませんでした。そもそも草壁椿さんの方は魔術師でも何でもないですから、資料も何もあったもんじゃないんですが。でまあ、ならばと自宅の方を調べてみようと思ったんですが……稲穂様の先手を打たれてしまったようでして」

「先手?」

「実はその自宅、今稲穂様が滞在されているんですよね」

「……はい?」

 

 どういう意味だ、と思わず護堂は素っ頓狂な声を上げる。そんな護堂の反応を予測していたのか、何やら同意するように頷いた気配が、電話の向こうから感じられた。

 

「そうなりますよね、私も驚きましたよ。まさか都内の高級ホテルやらなんやらを完全に無視して、そんな重要現場に泊まっているっていうんだから。あちらにはその草壁さんの身内がいるそうですから、おそらくはその人の手引きでしょうね」

「えっと……でも何で?」

「そりゃあ、私達に情報を与えない為だと思いますよ。まさか、カンピオーネが滞在されている場所を調査させてください、と言いには行けませんから」

「…………悉くこっちの手を潰しに来た、ってことですか」

 

 ようやく意味が分かった、と護堂は頷く。続いて思うのは、やはりあの稲穂秋雅という王は他の王――サルバトーレ・ドニやヴォバン侯爵――とは違うんだなという感想だ。あの二人が他人の事など気にせず己が目的を通すタイプなら、稲穂秋雅は自分の目的の為に他人の選択肢を潰すタイプということになるだろうか。

 

 なるほど、確かこれは『例外』と呼ばれるのも納得だ。中々に言語化しにくいところだが、どうやら彼は他の王と比べて、何か根本的な思考や行動原理が異なるようである。

 

「まあ、先ほど草薙さんから受け取った情報がありますから、多少調べることはできるでしょうが、結局向こうにも同じ情報がありますからねえ。後手に回ってしまうのは火を見るより明らかという奴です」

「いっそ、向こうの調査を担当している人を追うとか出来ないんですか?」

「ああ……その手もありましたね。とはいえ、恥ずかしながら東京分室の人材よりあちらの人材の方が洗練されているようですから、迂闊に接触しようとすると最悪返り討ちになるやもしれません。立場上、内部対立の可能性が生まれる選択は極力取りたくないですねえ」

「そうですか…………ん?」

 

 そんな時、ふと護堂の耳にノックの音が届いた。電話越しではなく、明らかにこちら側で発せられたものだ。今護堂の家に居る人間を考えれば、祖父か妹のどちらかなのだろう。そんな護堂の推測通り、続けて聞こえてきたのは静花の声だ。

 

「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「ああ……ちょっと待ってくれ。すみません、一旦切りますね」

「いえいえ、報告すべきことも済みましたし、今日はこれで、ということで。では、失礼します」

「はい、ではまた」

 

 電話を切り、護堂は椅子から立ち上がってドアを開ける。そこに立っていたのは、やはり妹の静花だ。

 

「電話中だった? ……もしかしてエリカさんとか?」

「何で第一候補がエリカなんだよ。アイツじゃなくて、別の知り合いだ。で、どうしたんだ?」

「さっきのことで、ちょっと思い出した事があって」

「さっきのことって、椿って子がいる場所の心当たりの話か?」

「うん。別に遊んだ場所ってわけじゃないけど、前に椿ちゃんが言っていた事を思い出したの。お兄ちゃんはあっちの方にあるアパートの事は知っている?」

「アパート……?」

 

 静花が指差した方向に視線をやりながら、護堂ははてと考える。指した方向自体は家の壁だが、その壁の先にある町中の光景を道に沿うようにしながら思い出していくと、少しして、ややくたびれた外見の木造アパートの姿を見つけることが出来た。

 

「ああ、そう言えばちょっと年季の入った感じのアパートがあった気がする」

「そのアパートなんだけど、前にその辺りを通ったときに、椿ちゃんが確かあのアパートはお父さんの知り合いが所有しているとかどうとか言っていたんだよね」

「それ、本当か?」

「たぶん。すっかり忘れていたんだけど、稲穂さんにお兄ちゃんにと聞かれて、さっきようやく思い出したの。その時、お父さんが個人的に部屋を借りているとかいないとか、そういうことも言っていた気がする」

 

 ここに来ての新しい手がかり。しかも、ひょっとしたら秋雅も知らないかもしれない情報だ。もしかすると、現状の打開となりえる情報かもしれないなと、護堂は思い出してくれた静花に対し頷いてみせる。

 

「そっか。分かった、じゃあそれも含めて調べてみる」

「うん。あとお兄ちゃんから稲穂さんたちにも教えておいてくれる? 私は連絡先聞き損なっちゃったけど、お兄ちゃんは知り合いなんでしょ?」

「え……あ、ああ。そう、だな。そっちもやっておくよ。じゃあおやすみ」

 

 おやすみと、思ってもみなかった提案にややしどろもどろになりつつ言った護堂に首を傾げつつも、静花もおやすみと返して部屋を出ていく。

 

「……俺だってあの人の連絡先なんて知らないっての」

 

 ドアを閉め、護堂は大きく息を吐き出す。そもそも知っていたところで、素直に教える状況でもないだろう。とはいえ、そんな事を静花に言えるわけでもない。想定済みならともかく、突発的な嘘にはまだまだ弱いなと、護堂はそんな風に思う。

 

「まあ、それはいいとして、だ」

 

 ちらり、と部屋にかけられているカレンダーに目を向ける。それで確認するまでもなく今日は金曜日であり、そして明日は土曜日だ。

 

「明日、エリカたちを誘って直接行ってみるか」

 

 まあ行った所で、表面上は一介の高校生である護堂達に直接的な調査など出来るわけでもないのだが、それでも行ってみればまた何か分かることもあるかもしれない。どうせさした指針もないのだ。とりあえずそれでいいだろうと、護堂はそれぞれに連絡を取る為に、再び携帯電話を手に取るのであった。

 




 これ以上は場面転換が多くなりすぎると思うので、今回はここまでで。流石に、次回からは終わりに向かって動き出すはずなので、どうかご容赦を。

 それと、今回から章の終わりまでに分けて、この章及びここまでの当作品全体に関する後書きのようなものもこのスペースで書いていくつもりです。本当はこの章が終わった後活動報告なりで投稿するつもりだったのですが、どうにも無駄に長くなりそうな気がするので分けて書くことにしました。まあ興味ない人はここから章の終わりまでは後書きを読み飛ばすようにしてください。



 で、今回は後書きではありませんが、私が考える、現時点における護堂の各化身と稲穂秋雅との相性を、化身ごとに書いていこうと思います。多少は本編でも書くでしょうが、さすがに細かくは難しいので、ここで書くことにします。とりあえず、今回はそのうちの五つについて書きますが、まああくまで私の解釈なので、流石におかしいと思ったら突っ込んでくださって結構です。特にどうしても、秋雅びいきな解釈が多いと思いますので。


 第一の化身 強風  評価 良い

 秋雅の持つ『冥府』への干渉可能な化身。本来『冥府』は許可のないものの干渉を防ぐ事が出来るが、ヘルメスに代表するような旅人の神の類の権能などであれば突破は可能。ただし、仮にも周囲への被害を抑えることのできるこの空間から、護堂が自発的に出るかと言えば微妙な所。なお、『冥府』内からエリカなどに呼ばれた場合でも、外から転移することは可能となっている。


 第二の化身 雄牛 評価 悪くはない

 ドニの大剣と同じく、この作品においては秋雅の持つ『雷鎚』によって使用可能となる。個人的に原作のドニの大剣による使用はやや首を傾げる事があるが、まあそういうものだとここでは解釈する。ただし、使用可能とはいえ有効活用できるかというと難しい所がある。怪力で何かしらを振り回そうが、投げ飛ばそうが、高速戦闘を主とする秋雅に当たるかどうかは、また別の話だろう。


 第三の化身 白馬 評価 良くない

 前提として、原作における発動条件の最低ラインが不明な点がある。民衆を苦しめるとはどの程度のものか、そもそも民衆とは無辜な民だけなのか、それとも力ない者全てを指すのかも分からない。秋雅もまったく他人を傷つけていないわけではなく、それなりに人殺しなどもやっているが、被害規模などで言うと他の王よりは劣るので、発動するのか判断が難しい。とりあえず、この作品では発動するかどうか怪しい、程度に留めておくつもり。個人的に条件の下限は一都市の無辜の民を害する程度ではないか、と設定している。


 第四の化身 駱駝 評価 悪くはない

 雄牛と同じく、使っても有効活用できるかが不明。秋雅に遠距離攻撃手段が複数存在し、易々と距離をつめることも難しい以上、積極的な攻撃には使用し難い可能性が高い。



 第五の化身 猪 評価 良い

 『冥府』を主戦場とする可能性が高い関係上、化身の中でも特に使用しやすい化身であると考えられる。ただ、秋雅のこれまでの戦闘履歴において、もっとも多いのが対神獣戦であるため、そうそう都合よくは行かないだろう。空からの雷は猪の肉体にも通じるし、彼の振るう雷鎚はその巨躯を浮かせることすら出来るからだ。打たれ弱いという猪の性分もあり、一度受身に回ってしまうとそのまま敗北する可能性が高いかもしれない。まあそもそも、等身大の秋雅を猪で討つのは難しいだろうが。なお、おそらくこの章では出ないだろうが、義経戦で得た新しい権能を使えば巨体同士の取っ組み合いも可能。



 以上、とりあえず五つについて纏めました。まあ結構適当に書いているので、おかしいところは相応にあるとは思います。改めて護堂の権能を見ていくと、どうしてコイツこれまで死んでいないんだろうという気分にもなりました。原作者の方が超必殺技しか持っていないと評していましたが、まさしくその通りだと思います。使い勝手の良い秋雅とは対照的と言えますね。


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