トリックスターの友たる雷   作:kokohm

67 / 77




南洋到着

 潮の香りと、波の音。足元から感じる揺れに、眩しい陽射し。豪華な大型クルーザーの船首にて、それらの海の証を五感で味わいながら、秋雅はしみじみと呟く。

 

「やれやれ、我ながら忙しない」

 

 果たして、ここ数日でどれ程乗り物を利用しているのか。空を飛行機、海を船と、一週間も経っていないにもかかわらず、陸に足をつけていない時間が随分と多い。単純な回数と、跨いだ国の数を考えると、思わず呆れや疲れの混じったため息をついてしまう。

 

 そんな彼のぼやきを聞きつけたのだろう。肩に乗せられた手と共に、秋雅は耳元で囁かれる。

 

「……だったら、さっさと片付けて帰らないとね」

「ああ、そうだな」

 

 そうだな、ともう一度口に出して、秋雅はゆっくりと振り返る。するとクルーザーの奥の方、何かを話し込んでいる五月雨とアリスの姿が見える。そんな二人に気付かれないようにしながら、秋雅は目の前に立つ女性――ウル・ノルニルに対し、柔らかく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 何故、秋雅が洋上にて船の旅を味わっているのか。その理由は、今から十数時間ほど前、三津橋からの一報に端を発していた。

 

『――敵の拠点が判明しました』

 

 秋雅が神獣を撃退したその日の夜のことだ。アリスとウル達の顔合わせも十分に済み、全体的に見れば気の合ったらしい彼女らが交わす何気ない会話。その最中に、先の連絡が届いた。

 

「ご苦労。悪いがこちら――私のマンションまで来てくれ。仔細はここで聞く」

 

 時刻としてはもう九時を越えた頃合であったが、そんなことを気にしていられる状況でもない。場所をセッティングするのも面倒だという意味も込めて、有無も言わせずに秋雅は命じる。

 

『畏まりました。急ぎ、お伺いさせていただきます。五月雨室長もお連れするつもりですが、構いませんか?』

「任せる」

『では、三十分以内に』

 

 そう言って電話が切れた。告げられた時間から察するに、既にこちらへ移動している最中らしい。五月雨の名を出したのも、おそらくは彼女が運転手を勤めていると言ったところなのだろう。秋雅の判断を読んだ上の、迅速で無駄のない対応だ。

 

「相変わらず、よく分かっている」

 

 小さく褒めつつ、秋雅も受け入れの準備を始める。マンションのワンフロアを丸々所有している彼は、応接用として一部屋を備えている。そちらに移動しつつ、他の面々にも声をかけるなどして、秋雅は三津橋を待つ体勢を整えていく。

 

 そして、秋雅が全ての準備を整えた頃。三津橋と五月雨は秋雅のマンションを訪れた。

 

「……何だか、肩身の狭い感じがしますね」

 

 到着して早々、客人用のソファに腰を降ろしながら、三津橋はそんなぼやきを漏らした。無理もない、とその言葉を拾った秋雅は心の中で頷く。それが納得出来る程度には、この部屋の男女比とその配置は圧倒的であった。

 

 まず男性側は、秋雅と三津橋が相対してソファに腰を降ろしているのみ。対して女性側は、三津橋の隣に五月雨、秋雅の両側にそれぞれウルとアリスが腰掛けており、その後ろにはヴェルナとスクラがソファの背もたれに軽く身体を預けながら立っている。更には紅葉と椿がその隣で、きっちりと背筋を伸ばして待機していた。男女比にして二対六、秋雅はともかくとしても、三津橋からすれば多少の圧迫感も覚える配置だろう。

 

 とはいえ、それで怯むほど三津橋も女性慣れしていないわけではないらしい。コホンと軽く咳払いをし、彼は表情を切り替えて口を開く。

 

「敵の――火の女神の拠点ですが、どうやら南シナ海にある無人島の一つのようです」

「南シナ海?」

「ええ。そこに大小様々な島が百以上集まる海域があるそうなのですが、そのうちの比較的大きな一つであると。数日ほど前に突如として二体の神獣が出現し、その後出立と帰還をしたことが確認されています。勿論、帰還してきたのは大蛇の神獣のみだそうですが」

「あれで二体とも健在では私の立つ瀬がないからな。しかし……南シナ海か」

 

 はて、と秋雅は心の中で首を傾げる。その理由は、南シナ海というワードにどうにも覚えがあったからだ。言うまでもないが、一般常識的な知識としての覚えではない。カンピオーネとしての活動の中で、何か聞いた事があった気がしたのだ。

 

「やはり、引っかかりましたか」

 

 そんな秋雅の疑問を察したように、三津橋は深く頷いた。

 

「以前にも南シナ海という単語を報告に載せた事がありました。今からもう、三年ほど前のことです」

「…………ああ、あの時か」

 

 三津橋の言葉に呟きつつ、秋雅は大きく顔を顰める。そんな彼に態度に、ひょっとしてとヴェルナが声を上げる。

 

「その反応、私達――いや、あのアレクサンドルが関わっていたりするの? 三年前って言うと、時期的にはピタリだけれど」

「そうだ」

 

 嫌な事を思い出した。そんな感想を抱きながら、秋雅はため息と共に頷く。同様に、当事者であるノルニル三姉妹、そしてアリスもまたそれぞれの度合いで顔を顰める。そんな嫌気の混じった雰囲気に興味が湧いたのだろう。背後の紅葉と椿から、それぞれに困惑や関心に満ちた視線を秋雅は感じ取る。当然だな、と思いつつも、今はその時ではないと軽く片手を上げることで示す。どうやらそれは彼女たちにも伝わったようで、すぐに二人からの視線は通常のそれに変わる。

 

「察しがいいのは良いことだ……」

 

 小声で呟きつつ、さてと秋雅は改めて気分を切り替える。

 

「当時の報告は確か、南シナ海に島が出現したとかいうものだったか? その後、あの愚者がらみの事件が起こった所為で、結局なあなあになっていたと記憶しているが」

「ええ、まあその通りです。ある日、確かに何もなかったはずの場所に突如として無人島が発生した、というような報告でした。まともに考えれば超常の存在の仕業だろうということで報告しましたが、稲穂さん自身の事情、そしてその島から何が出てくるわけでもなかったことから、詳細な調査は行われませんでした。元々、委員会は『外』への干渉能力も低いですからね。とりあえず現地の魔術師達に経過観察を依頼し、何かあれば報告して欲しい、ということで半ば放置されていました」

「ということは、特に何もなかったと?」

「そういうことです。いえ、正確に言えばあるにはあるのですが、それが外向きの事象でなかったため、積極的な脅威とは見られていません」

「外向き?」

「……思い出しました。確か、一度入ると中々出られない、というものでしたね? 以前、小耳に挟んだ覚えがあります」

 

 ここで、アリスが口を挟んだ。突然の口出しではあったが、三津橋はさして臆することもなく自然な素振りで同意する。

 

「はい、その通りです。一度入ってしまうとそれはもう迷ってしまい、何日かかけてようやく浜に辿り付けただとか、そういう話ですね。迷いの島、とでも呼ぶべきでしょうか。結局は中に入らなければ無害ということで、現地の魔術師などからは触らぬなんとやらという扱いを受けているんだとか」

「ふむ…………もしや、その島が?」

「ええ、その島が神獣の帰還先です」

 

 なるほど、と秋雅は思案顔を浮かべる。

 

「女神が島を造ったのか、あるいは誰かしらが造った島に女神が移り住んだのか」

「それは、今はどうでもいいことかと。ここで考えるべきはこの後の対応ではないでしょうか」

「……確かに、アリス殿の言が正しいな。三津橋」

「手配は済ませていますよ。プライベートジェットは何時でも出発可能な状態、ご希望なら今すぐにでも可能です。その場合、空でお休み願う必要がありますがね」

「よし、では使わせてもらおう」

 

 強行軍になるが、致し方ない。今すぐにでも出発しようと腰を上げかけた秋雅であったが、その手を隣に座るウルが引き止めた。

 

「どうした?」

「私も着いていくわ」

 

 簡潔なウルの宣言。それを聞いて、秋雅は思わず驚きから目を見開いた。義経戦のような突発的な遭遇戦を除き、ノルニル三姉妹は基本的に秋雅の戦い――まつろわぬ神の討伐のことだ――に着いていくことはない。三人ともが自分の実力を弁えており、神獣相手ならともかくとしても、まつろわぬ神との戦いでは役に立たないと分かっているからだ。足手まといになるくらいなら留守番をする、という選択を拘りなく選べるのが彼女たちである。

 

 そうであるにも関わらず、今回は着いてくると言う。どういう意図だろうか、と一瞬考えた秋雅であったが、すぐにその思考を止めて微笑む。こういう時のウルには、彼女なりの行動の根拠がある。それを知っている秋雅としては、ここで取るべき選択は一つしかない。

 

「分かった。着いて来い」

「ありがとう。足は引っ張らないようにするわ」

 

 掴まれていた手を一度解き、今度は自分からウルの手を掴んでその身体を引き上げる。断られるとは微塵も思っていなかった、という風にウルの動きには一切の淀みがない。秋雅がウルならばいいか、と自然と思ったと同じく、ウルのほうもまた、秋雅なら連れていくと信じていたのだろう。

 

 それに、ウル自身は謙遜した事を言ったが、実際の所、ウルの実力と言う奴は確かなものがあった。普段はあまり戦う素振りも見せないから分かり難いが、武術においては秋雅より上、どころかヴェルナとスクラの三人がかりでようやく同格か、という所なのである。柔らかく、温和な気質然とした女性であるが、確かな腕を持った武人でもあるのだ。やはりまつろわぬ神と直接相対するのは難しいだろうが、その配下の神獣くらいならどうにか出来ないこともないだろう。少なくとも、身を守る程度のことは出来るはずだと秋雅は思っている。

 

「とはいえ、これ以上は無理だ。ヴェルナ、スクラ、分かっていると思うがお前達は草壁姉妹と共に留守番を」

「分かっているって」

「身の程は弁えているわ」

 

 ヴェルナたちが理解を示すと共に、紅葉たちもまた頭を下げることで了承を示す。それを確認し、秋雅が今度はアリスに目を向けると、彼女もまた小さく頷いた。

 

「稲穂様、私は一度別行動をしたいと思います。合流は直接現地で」

 

 このまま霊体のまま同行するのも不便であるので、一度肉体に戻ってから改めて移動する。アリスの言葉の意味を秋雅はそのように受け取る。それをそのまま口に出さなかったのは、三津橋や五月雨といった事情を知らない者がいる――ちなみにウル達は既に把握している――からだろう。

 

「了解した。では一つお頼みしたい事がある」

「何でしょうか?」

「賢人議会から現地の魔術師達に渡りをつけておいて貰いたい。向こうに着いた後、話がスムーズに進むようにな」

「承りました。現地の協力者に話を通しておきましょう」

「感謝する……では、三津橋」

「いえ、私は残ります。今回も五月雨室長をご同行ください。プリンセスもご同行される以上、僅かでもこちらも『格』を上げておくべきでしょう」

「正史編纂委員会の一室長では不足にも程はあるでしょうが、どうかご了承いただければと思います」

「ふむ…………分かった。ならば五月雨室長に頼むとしよう」

 

 少しばかり考えた後、秋雅は小さく頷いた。いずれこの国を出るということは、三津橋に伝えてある。おそらくその時が来たときに、彼女に秋雅の部下としての経験をさせておきたいという思惑があるのだろう。秋雅としても、彼女の手腕や戦闘能力は北海道の件で把握している。秋雅としても、彼女を引き込むというのは悪い考えではない。そう考えれば、当面彼女を起用するというのは十分にありな選択であった。

 

「ありがとうございます。道中の手配はお任せください」

 

 秋雅の了承を受け、五月雨は恭しく頭を下げる。こうして流れを見てみると、三津橋とどちらの方が上の立場であるのか怪しくなってくるが、それも後々経験を積んでいけばまた変わっていくことだろう。そう思いつつ、さてと秋雅は改めて告げる。

 

「では行こうか、諸君。我らの新たな敵を討ち、後顧の憂いを絶つ為に、な」

 

 その言葉を最後に残し、秋雅はすぐさまに日本を発った。その道中についてはさして語ることもないだろう。精々五月雨が、宣言の如く勤勉に諸々を処理していたことくらいだ。彼女の能力を再確認しつつ、秋雅自身はウルと共に悠然と空の旅を過ごした程度の旅路であった。

 

 かくして、夜と朝を機内で過ごしつつ、三津橋からの一報を受けた翌日の午前には、秋雅達は南シナ海の国――マレーシアへと辿りついた。より正確に言えばボルネオ島の北岸、コタキナバルという名の都市だ。例の島近辺で最大の都市であるそこを、三津橋は秋雅の戦いの橋頭堡とし、諸々の手配をしていたのであった。

 

『――ようこそ、稲穂様。といっても、私も着いたばかりですけれど』

『なに、先んじて入られていたならば迎えの言葉をかける権利はあるだろう』

 

 などという会話を、先入りし、再合流したアリスと交わしながら、秋雅は更に移動を続けた。かくして、現地の魔術師達が用意した足、つまりはクルーザーを使っての、迷い島への航海と相成ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、状況は?」

 

 笑みに笑みを返しながら、ウルが秋雅に尋ねる。先ほどまで船内に居たので、外の状況を知りたいのだろう。その過程で自分のぼやきにバッティングしたのだなと察しつつ、秋雅は頷いて口を開く。

 

「今は何も、だな。上も、下も」

「下?」

 

 不思議そうに、ウルが首を傾げる。そんな彼女の動きに何となく笑みを深めながら、秋雅はついと視線を海へと向ける。

 

「ああ、『兵どもはここに在り』で呼んだ兵士を海底で走らせているんだ。例の神獣もいるだろうからな、船の動きに合わせて周囲警戒をさせている」

「あら、そんなことをしていたの? 全く気付かなかったわ」

 

 感心したような声を漏らしながら、ウルが船縁から海を見下ろす。しかし、流石に兵士たちの姿は確認できないのであろう。特に何かを見つけたような素振りを見せることなく、その状態のまま話を続ける。

 

「良く海の中を追いつけるわね。工夫でもしているの?」

「出元の同じ馬に乗せているが、それだけだな。それでも権能、水中の抵抗にも負けず、上手くやってくれているよ」

「あちらに気付かれる可能性は?」

「気付くならこっちが先だろうな。何せ土人形にはほとんど気配がない。今は動いているから万全でもないが、止まっていたら早々気づかれんということは実証済みだ」

 

 そのデータを取らされたのは、何を隠そう、あの草薙護堂達である。彼らは終ぞ知らぬままであったが、例の事件の際、秋雅は護堂達の監視としてこの土人形達を使っていたのである。土に潜り待機することも、秋雅が彼らの視界を共有できることもあり、定点観測にはとても有用であったからだ。若き神殺しや大騎士、当代でも有数の媛巫女ですら気付けなかった以上、そう易々と見破られるものでもないと見ていい代物だと言えた。

 

「まったく便利なものね……と」

 

 ふと、ウルが視線を秋雅の背後へと向ける。連動するように秋雅が振り向くと、そこには難しい顔をしながら歩いてくる五月雨とアリスの姿があった。

 

「五月雨室長、アリス殿、何か問題があったのかね?」

「実は、船のクルー達がこれ以上先に進むのを渋っておりまして……」

「あの島に近づきたくない、ということか」

「ええ、まあ……」

 

 申し訳なさそうに告げた五月雨に、秋雅は視線を船の針路上へと向ける。数キロほど先に見える、正面に入り江、中央に小高い山を携えた島。例の迷い島であると伝えられたその島をじっと見た後、秋雅はまた視線を戻して言う。

 

「クルーは地元の人間達だったな」

「はい。自分達の目で突如として現れた様も、そこで何人もが迷った姿も見ていますから、どうしても気が乗らないとのことでして」

「とはいえ、彼らの言い分も理解できることです。そこで稲穂様にご相談を、と」

「相談も何も、行きたくないと言う相手に鞭を打っても仕方があるまい。もう視界には入っているのだ、ここからは自力で――」

 

 と、秋雅が眉を曲げながら言いかけた、その時であった。突如として、海の底から大揺れが船を襲ってきたのである。

 

「――なにっ!?」

 

 ギョッと、その場にいた全員が驚愕を顔に浮かべながら、咄嗟に近くの何かしらを掴んで堪える。そんな中でいの一番に動いたのは、意外にも五月雨であった。

 

「要石が如くたれ!」

 

 懐から一枚の、魔法陣らしきものが書かれた紙を勢い良く床に叩きつけながら、五月雨が叫ぶ。その効果、すなわち彼女がかけた魔術の結果は劇的であった。満足に動きも取れないほど揺れていたクルーザーが、彼女の命の後はピタリとその動きを止めたのである。

 

「――船を固定しました! ですが、そう長くはもたないかと!!」

「十分だ!」

 

 短く答えて、秋雅はトンと床を蹴ってクルーザーの天井に飛び乗る。そのまま見渡すまでも無く、何が原因であるのかは分かった。船のすぐ傍、秋雅達とは逆側の海面に、あの大蛇が浮かんでいたのである。予兆も何もかも分からなかったところから見ると、おそらくは転移なりをしてきたのだろう。

 

「チッ、奇襲か!」

 

 能力的に、大蛇が能動的に転移してきたということはあるまい。火の女神に気付かれ、彼女の術によって送り込まれてきたと考えるのが自然。こちらがあちらを見つけるよりも早く、彼女の目は秋雅達を捉えていたのだ。

 

「だが、備えていないわけではないぞ! 立て、弁慶!」

 

 ガクンと、大蛇の姿が海中に落ちる。驚く大蛇がもがく中、ぬっと海中から巨躯が現れる。大蛇の胴体を握っていた手を離しながら、巨躯――弁慶は大太刀を構える。

 

「撃退せよ!」

 

 秋雅の命を受け、弁慶が大太刀を振るう。風切り音と共に振るわれた大太刀を、大蛇は咆哮を上げながら避ける。奇襲をした側でありながら思わぬ迎撃を受けたからか、その動きはいくらか鈍い。弁慶に任せてもどうにかなるだろうか、と秋雅が思う中、

 

「稲穂様!」

 

 眼下から、アリスの焦りに満ちた声が届く。何事か、と見下ろせば、彼女はその指を先にある例の島へと向けている。

 

「あちらの海岸に神の気配があります! 弓と()を携える、流浪の英雄です!」

 

 その焦燥の満ちた声に、秋雅は船首に飛び降り、その先をじっと見える。無論、そのままでは数キロも先の何某かなど見通すことは出来ない。

 

「食されしものよ、我に千里先を見通す眼を与えん――!」

 

 バチリ、と秋雅の目元を紫電が走る。『実り、育み、食し、そして力となれ』と、そして通常の魔術を同時に使用することで、秋雅はようやくとその姿を見つけた。

 

「――あれか!」

 

 島の正面にある入り江のさらに奥。そこに見えたのは、ぼんやりとした輪郭を持つ人影であった。距離からではなく、事実としてそれは形をはっきりとさせていない。おそらくは五メートルほどであろうかというその人影の手の中には、その体長と等しい長さの弓と、それにつがえられた二メートルほどの鉄箭らしきものがある。

 

 既に引き絞られたその箭が行く先。眼を凝らすまでも無く、秋雅にはそれが自身を真っ直ぐに狙っていると察せられた。

 

「させるか!」

 

 叫び、秋雅はその手から雷を放つ。轟音と共にそれが放たれたと同時、人影もまた箭を放った。

 

 轟雷と鉄箭が、海上にて激突する。そして、一瞬の膠着の後、

 

「――ちいっ!!」

 

 秋雅の舌打ちと共に、箭が雷を食い破った。

 

 

 






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。