錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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今回は箸休め的なエピソードです。

それではどうぞ。


メイドパニック

【士郎視点】

 

「……」

 

「……」

 

気まずい。非常に気まずい。俺は、ジト目で睨み付けてくる家政婦さんの顔から顔を逸らし、掛布団に口元を隠していた。さっきからずっとこれだ。原因は分かっている。昨日の夜の怪我だった。

 

「……その怪我は何なんですか?」

 

「……喧嘩、かなぁ?」

 

「ほう。何と喧嘩したんですか? 熊か何かですか?」

 

「……そんなようなものです……」

 

「……信じると思っているんですか!」

 

「ごめんなさい!」

 

つまりはこういう事だ。昨日の夜、敵のセイバーにやられた傷。遠坂達が治療してくれたが、その治療は完全ではなく(治癒魔術は得意じゃないと言ってたし)、そこそこの酷い怪我って感じだ。

 

「貴方にはこの家の長男という自覚がなさすぎます! その話を信じるとして、私に、学校に何と連絡しろと言うのですか! 真夜中に街中を無断で徘徊し、熊と喧嘩して大怪我を負ったと?」

 

「……」

 

うん、そうだね。セラの言いたい事は良く分かるよ。遠坂達に、せめて今日一日は絶対安静と言われた俺は、学校を休むしかなかった訳だが、その学校への対応はセラがする事になるんだから。

 

「おまけに、イリヤさんも熱があって学校を休むというのですから、私がどれだけ頭を痛めているかお分かりでしょう! そもそも小学生のイリヤさんを真夜中に連れ出すなど……(くどくど)」

 

「……すみません」

 

こうなると長いんだよなぁ、セラは。イリヤに対しては怒るに怒れず、優しい対応をしてた(隣の部屋のやり取りが聞こえてきた)だけに、俺に対する説教に力が入る。八つ当たりに近いよな。

 

夜中の出来事(クラスカード関係)の詳しい事情を話せないので、全部俺が主導した事にするしかないし。つまりセラは、イリヤの夜中外出も俺が連れ出したと思っている訳だ。怒りも分かる。

 

「……イリヤは大丈夫そうか?」

 

「……風邪を引いた訳でもなさそうなので、寝ていれば熱も治まるでしょう」

 

「そうか……」

 

希望的観測だし、セラは魔術の事なんて知る筈もないだろうから、楽観視はできないけど、その言葉を聞いて少しだけ安心した。ルビーも言ってたし、まあ大丈夫だろう。少し不安だけどな……

 

「……あくまで、本当の事は話せない、という事ですか」

 

「……それは……」

 

「……まあいいでしょう。シロウの事を信じて、今は何も聞かない事にします」

 

「……」

 

やっぱり嘘だってバレてるよな。まあ、あの言い訳で納得されても困るんだけど。この街に熊が徘徊してるという事になっちまうし。セラは非常に複雑そうな顔をしながら、部屋から出て行く。

 

「絶対安静です。今日の家事も全て私がやりますからね」

 

「分かったよ」

 

「絶対ですからね! そもそも、長男のシロウが家事をやろうとする事が間違っているんです! そういうのは、メイドである私の仕事なんですから。当番制も廃止にすべきだと私は……」

 

「あー、眠い。眠いなー。セラがいると眠れないなー。これ以上言われたら、もう今日は眠れずに過ごしてしまいそうだなー。セラはそうしろって言うんだな? よし、なら掃除でもするかな」

 

「くっ! この話はまた今度です!」

 

やれやれ。セラの何百回も聞いた文句に、俺は辟易してしまった。我が家の家政婦さんは、非常にプライドが高いのだ。もう何年もこれでやっているんだから、いい加減に諦めて欲しいものだ。

 

「……お昼ご飯は何が食べたいですか?」

 

「セラが作ってくれる物なら、何でも美味しいから何でもいいよ」

 

「なっ! また貴方はそういう事をサラッと……もういいです!」

 

本心を言っただけなのだが、何故かセラは顔を真っ赤にして怒ってしまった。なんでさ。セラはそう言い残して、まだ開けていた扉を閉めた。足音が遠ざかっていき、俺は全身の力を抜いた。

 

「……休む、か……」

 

ここ数日の激動を思い返し、俺は大きく息を吐いた。確かに、そろそろ肉体も気力も限界に近かった。この休息は丁度いいタイミングだったのかもな。疲れもあったのだろう。すぐに眠くなった。

 

…………………………………………………

【視点なし】

 

「……で、実際どうだったの? イリヤとシロウは」

 

「……イリヤさんの方は、間違いなく鍵が外れていました。あの熱は、長年溜め込んできた魔力が解放された反動でしょう。なので、しばらく休めば問題なく回復すると思われます。しかし……」

 

「シロウの方は分からない?」

 

「……はい。いえ、どういう状態なのかは分かります。しかし、何故そうなってしまっているのかがまったく分かりません。まず、あの傷は間違いなく刀剣類で斬られたものです。そして……」

 

「魔術回路が開いてる、でしょ?」

 

「はい。しかもその魔術回路が、かなり異端です。神経が直接魔術回路になっています。一体何をどうやったら、あんな状態になるというのでしょうか。魔術の事は何も知らない筈なのに」

 

「で、セラは心配している、と」

 

「べ、別にシロウの事だけを心配している訳ではありません! イリヤさんの封印が解かれた事も心配していますし! あの封印は、命の危険にさらされない限り、解かれる事はない筈ですし」

 

「シロウの事だけ心配してる、なんて私言ってないよ?(ニヤニヤ)」

 

「なっ、リーゼリット!」

 

「セラは本当に面白いね。心配しすぎだし。もしかしたら、本当に熊に襲われて、命が危ないーってなっただけかもしれないよ? 最近は熊が人里に下りてくるっていう話を聞いた事あるし」

 

「それはそれで大問題でしょう! それに、その場合、シロウの魔術回路の説明がつきませんし。もしかしたら二人は、魔術の世界に関わってしまっているのかもしれません。どうしたら……」

 

「まあ、何とかなるんじゃない?」

 

「本当に貴女という人は危機感のない。ああ、奥様に何と言えばいいのですか……」

 

…………………………………………………

【士郎視点】

 

「……暇だ」

 

何もする事がなく、ただ寝ているだけという状態に、俺は完全に飽きてしまった。午前中は眠る事ができたので良かったのだが、セラに起こされ、昼ご飯を食べてからは暇で死にそうだった。

 

さすがにもう眠くない。ただベッドに横になっているしかない状態だ。そうなってくると、家事をしたくなってしまうのが衛宮士郎という人間だった。この部屋の掃除はセラに任せてないし。

 

セラは掃除をしたがったのだが、俺が全力で抵抗して何とか阻止した。俺も高校生だ。家族とはいえ、女性に自分の部屋を掃除されたくはない。いや、別にやましい物がある訳ではないが……

 

「……ふう」

 

そんな風に暇を持て余していた時だった。隣のイリヤの部屋から、なにやらイリヤの叫び声が聞こえてきた。酷く興奮しているらしく、何を言っているのか良く分からない。メイドがどうとか?

 

「……メイド? セラの事か? まあ、取り敢えず元気にはなったようだが……」

 

しばらくして、イリヤの声の他に知った声が聞こえてきた。これは、美遊、か? それと、ルビーとサファイアの声だな。お前ら、セラに聞かれたらどうするんだよ。呆れながらその声を聞く。

 

『お兄ちゃんにも見せよう、美遊!』

 

『ええっ!? そ、それはちょっと……』

 

『お兄ちゃんの様子も気になってるでしょ?』

 

『……それは……でも、この格好を見られるのは……せめて着替えを……!』

 

『いいから!』

 

『ま、待ってイリヤ。怖いよ』

 

「……何をやってるんだ、本当に?」

 

隣の部屋から聞こえてくる会話に、俺はどうしていいか分からなくなる。お互いの呼び方が呼び捨てになっている事から、仲良くなれたのは間違いないとは思うが、恰好だの着替えだの……

 

「お兄ちゃん、怪我はもう大丈夫!?」

 

「イリヤ! だから待って!」

 

「……は?」

 

そんな事を考えていると、部屋の扉を破壊する勢いで妹達が突撃してきた。そこまでは漏れ聞こえた会話から予想できたのだが、入ってきた美遊の恰好は俺の理解の範疇を超えていた。何だそれ?

 

「可愛いでしょ、お兄ちゃん!」

 

「……」

 

「……え~と、美遊、その恰好は何だ?」

 

「メイド服だよ?」

 

「いや、それは分かるけどさ」

 

そう、美遊は、フリフリのフリルが付いたメイド服を着ていたのだ。顔を赤くして興奮気味に美遊を紹介するイリヤと、恥ずかしそうに俯いて涙目になっている美遊。その顔は、当然真っ赤だ。

 

「……ルヴィアさんのお屋敷で、メイドとして働いているんです。住み込みで」

 

「……あ~、成程な」

 

この格好の意味は分かった。小学生にメイド服を着せて働かせているルヴィアについては、思う所がないではないが、それについて言及するのはやめておこう。多分、良い話っぽいしな。うん。

 

「どう、お兄ちゃん?」

 

「……うん、可愛いんじゃないか? 似合ってる」

 

「っ!? あ、ありがとう……ございます……」

 

まずい。何だこの雰囲気。良く分からないけど、非常に気まずい。顔を真っ赤にして、嬉しくもあり恥ずかしくもあるというような顔で俯く美遊。その反応に、何だか俺まで照れてしまうが……

 

「……シロウ?」

 

「……先輩?」

 

「セっ、セラ!? それに桜も!」

 

部屋の入り口から、非常に低い声が二つ聞こえてきた。その声の方を見てみるとそこには、絶対零度の視線を向けてくるセラと、瞳の光彩を消した虚ろな顔をする弓道部の後輩、間桐桜がいた。

 

「……そうですか。シロウは、メイドが好きだったんですか。そしてロリ……」

 

「違うんだセラ! 落ち着いて俺の話を聞いてくれ! そしてその先は絶対言うなよ!」

 

「……私も、メイドさんの格好をしてきた方が良かったですか?」

 

「桜も落ち着いてくれ! これは違うんだあああああああああ!」

 

完全に誤解してる二人に、俺は必死になって弁明した。二人が納得してくれたかどうかは分からなかったが。俺の心の平穏の為に、納得してくれたと思いたい。セラの視線は冷たいままだったが。

 

「……先輩、怪我は大丈夫なんですか?」

 

「ああ、大した事はない。こんな包帯、大袈裟なんだよ。もう治り掛けてるし。今日は、念の為に休んだだけなんだ。だから、明日にはまた学校に行けるようになると思う。多分……」

 

俺のベッドの横に座る桜と、そんなやり取りを交わす。そんな桜の横には、妹達が少し不満そうな顔で座っている。二人は、何故か桜をジト目で見ている。なんでさ。二人の反応に首を傾げる。

 

セラはこの部屋にはいない。俺の弁明を聞き終えた後、何故か美遊を見て自分の部屋の方に向かった。何だか、嫌な予感がするんだが。その予感を何とか頭の中から追い出して、話を続ける。

 

「あの、それで先輩。これ、今日のプリントとノートです」

 

「ん? ああ、ありがとう。でもどうして桜が? 一成か慎二に頼まれたのか?」

 

「……いえ、森山先輩から預かりました」

 

「森山から? 明日礼を言わないといけないな」

 

後輩の桜が俺のプリントとノートを届けてくれた事実に驚くと、意外な答えが返ってきた。でも、森山は優しいし、そんなにおかしくないかと思い直す。それよりも、俺が気になってるのは……

 

どうして桜は、森山の名前を口にする時に、微妙な顔をしたのかという事だった。それに、桜だけじゃなかった。イリヤと美遊も、桜が口にした名前に微妙な表情で反応した。いや、なんでさ?

 

「……イリヤ?」

 

「……多分、お兄ちゃんのクラスメートの女の人。そして……」

 

「その先は言わなくても分かる……」

 

この二人は何を言っているんだろうか。意味不明なやり取りをする妹達に首を傾げていると、桜が俺の体に巻かれている包帯を見てきた。その視線に、俺も自分の体を見下ろしてみた。すると……

 

「血が滲んでますね。消毒をして、包帯を取り換えた方がいいのでは?」

 

「そうかな」

 

桜の言葉に、イリヤと美遊がピクリと反応した。俺の体に手を伸ばそうとした桜の手を押し退け、凄まじい勢いで迫ってきた。その勢いに、俺も桜も押されてしまう。お、おい、落ち着け!

 

「私がやってあげるよお兄ちゃん!」

 

「いえ、私が! イリヤは病み上がりでしょ!」

 

「もう熱は下がったもん!」

 

「ふ、二人とも落ち着け。な?」

 

仲良くなったんじゃなかったのか? ぎゃいぎゃいと騒ぐ俺達。いや、俺は騒ぐつもりは全然ないんだけどな。二人を必死に宥めていた時、彼女は現れた。この騒ぎに、額に青筋を浮かべて。

 

「静かにしなさい!」

 

「うわぁ!? すまんセ……ラ?」

 

「セラが懐かしい格好してる!」

 

「これは……」

 

そう、そこには、我が家の家政婦さんがいた。イリヤの言う通り、懐かしい格好をして。その恰好はセラ曰くアインツベルン家のメイドの正装らしいのだが、一見するとメイド服には見えない。

 

「……なあセラ、何でそれまた着てるんだ? 懐かしすぎて微妙な気分になるんだが……」

 

「何でも何も、これがアインツベルン家のメイドの正装です。私がこれを着ている事こそが正しい姿であり、今までが普通ではなかったんです。ふとした事で、それを思い出しただけです」

 

「私、その服あんまり好きじゃないんだけど……」

 

「なっ、イリヤさんまでそんな事を!」

 

アインツベルン家のメイド服を着たセラの登場で、物凄く微妙な空気になる俺達。まあ、美遊のメイド服を見て対抗心が湧いたという感じなんだろうけどさ。セラは心外だと言いたげだった。

 

「さっきから何騒いでんの? ……セラ、何その変な服」

 

「変とは何ですか変とは! 貴女もこの服が正装なんですよ! 貴女はどうやら、自分が何だったのかを忘れているようですね。いいですかリーゼリット。そもそも私達は……(くどくど)」

 

ああ、またセラの説教が始まった。リズはセラの説教が始まると同時に聞く事を放棄して、やる気なさげにそうだったそうだったと呟いている。そういえば、リズもメイドだったっけ。

 

俺もそれを思い出した。いや、だってさ。リズが家事をした事なんて数える程しかないし。セラは真面目に聞くつもりがないリズを見て諦めたのか、深いため息をついた。色々大変だな、セラ。

 

「他人事のように言わないでください。私の気疲れの原因は、シロウにもあるんですよ?」

 

「うわ、矛先がこっちを向いた!」

 

「お、お兄ちゃん、しっかり休んでね?」

 

「お邪魔しました、士郎さん……」

 

「明日学校で……」

 

「あっ、皆、逃げるなんてずるいぞ!」

 

セラの剣幕に恐れをなしたらしいイリヤ達が、こぞって逃げ出した。ある意味助かったけど、俺だけは逃げられないんだぞ? ベッドから動けない俺は、セラから逃げる事はできなかった。

 

…………………………………………………

 

「……まったく。貴方達は本当に。まあ、もういいでしょう」

 

「……助かった……」

 

あれから30分。ようやくセラの説教が終わり、俺も解放された。服装のおかげで気合が入ったのか、セラの説教はいつもより長かった。俺も、いつもとは違って逃げられなかったしな……

 

「……それではシロウ、服を脱いでください」

 

「……え?」

 

「ほ、包帯を取り換えるだけです! 妙な想像をしないでください!」

 

「は、はい!」

 

ここで逆らったら、また説教が始まる。そう確信した俺は、急いで服を脱いだ。セラはムスッとした顔をしながらも、丁寧に包帯を取り、消毒をして新しい包帯を巻いてくれた。さすがの手際だ。

 

「……えっとさ、セラ……」

 

「……何ですか?」

 

「今日はその、ありがとな」

 

「……礼を言われる事ではありません」

 

「いや、お礼を言わないといけないよ」

 

だって、セラは分かっていた筈だ。俺が言った言い訳が嘘だという事を。それでもセラは、俺の事を信じて何も聞かないでいてくれている。それが、どれだけ有り難い事か。俺はセラを見る。

 

「本当に、ありがとう」

 

「……」

 

「あ、それと、その服なんだけどさ」

 

「っ!? これは別に、シロウがメイド服が好きと言ったから着替えた訳ではありませんから!」

 

「へ?」

 

「あっ……~~~っ! 眠りなさい、そして忘れなさい!」

 

「なんでさっ!」

 

傷口が開かないように配慮してか、腹ではなく首筋に手刀を打たれて気絶する。そんな事は一言も聞いていないんだが……俺はただ、似合っていると言おうとしただけだった……のに……がくっ。




今回の主役はセラさんで間違いない。セラさんはプリヤ士郎のヒロインと言われてますし。

さて、改めて原作を読んで、プロット的な物を考えました。大まかな流れは決めてましたが。
無限の剣製についてなど、私なりに解釈してますので、見てからのお楽しみです。

それでは、感想を待っています。

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