錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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VSアサシンです。

ここまでは原作とあまり展開は変わりません。


森の暗殺者

【士郎視点】

 

「何もいないな……」

 

「そうね」

 

「一体どういう事ですの? 敵はいないしカードもない……もぬけの殻というやつですわね」

 

俺達は今、森の中を歩いていた。今日もカードの回収にやってきた俺達は、鏡面界へと接界(ジャンプ)した。するとそこは、鬱蒼とした森の中だった。そして前回よりも空間も狭く、天井も低かった。

 

「場所を間違えたとか?」

 

「まさか。それは無いわ。元々、鏡界面は単なる世界の境界……空間的には存在しない物なの。それがこうして存在している以上、必ずどこかに原因(カード)はある筈だわ。全員、油断はしないで」

 

イリヤの問いに、遠坂はそう答えて全員に注意を促す。鏡面界についての講釈は、魔術の素人の俺とイリヤには全く理解不能だが、ルヴィアが頷き、ルビー達が何も言わないのでそうなんだろう。

 

「なあ、何か前より空間が狭くなってないか?」

 

「それは当然よ。歪みの原因であるカードを回収しているんだもの。カードを集めるほど、空間の歪み自体が減っていくの。私達は、その為にカードを全て回収しなければならないのよ」

 

「この歪みを放っておくと、この冬木の街が危険な状態になるのです」

 

「成程な。今までは漠然としか理解してなかったけど、大事な事なんだな」

 

空間の狭さについて聞いてみると、そんな答えが返ってきた。つまり、カードを回収しないと関係ないセラやリズも危ないって事か。それを聞いた俺は、俄然やる気を出す。頑張らないとな。

 

「因みに、最初は数キロ四方あったそうよ」

 

「そうよって……遠坂とルヴィアは最初からやってたんじゃないのか?」

 

「わたくし達の前に、前任者がいたのです」

 

「へえ」

 

その前任者とやらは、どうして途中で止めたのだろうか。それを聞いてみたが、組織的な事情としか答えてくれなかった。まあ、俺のような部外者に話せる事には限りがあるという事だろう。

 

「歩いて探すしかないかな」

 

『んーむ、何とも地味な……』

 

そんな事を話していると、真面目にカードを探すイリヤが探索方法を考え始めた。それに対して、不満の声を出すルビー。その声に反応して、俺も周囲を見回してみる。確かにこの森ではな。

 

『私としましてはもっとこう、魔法少女らしく……例えば、ド派手な魔力砲をぶっ放しまくって、ここら一面を焦土に変えるくらいのリリカルでマジカルな探索法をですね……』

 

「……それは探索じゃなくて破壊だよ」

 

そう思っていると、ルビーが的外れで物騒な事を言い出した。このステッキにまともな思考を期待した俺が馬鹿だった。イリヤと一緒に、ルビーにジト目を向ける。魔法少女らしくないだろ。

 

遠坂達は最初からルビーを相手にする気はないらしく、呆れ顔で歩き出していた。俺達もその後に続こうと足を踏み出したその時、首の後ろにチリチリとした違和感を感じて俺は振り返った。

 

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

「……いや……」

 

もう一度周囲を見回してみるが、何もない。気のせいだったのか? こう森が深くては、良く分からない。アーチャーのカードのお陰か、夜の暗さは問題ないのだが、障害物が多すぎるんだ。

 

「何でもないみたいだ。遠坂達を追い掛けよう」

 

「そうだね……」

 

警戒を解いて、そうイリヤに呼び掛けた時だった。イリヤが答えるのと同時に、何かが空気を切り裂くような短い音が聞こえた。俺の視界を横切る黒い影。それが、イリヤの首に飛んできた。

 

「イリヤ! ぐっ……」

 

「えっ……?」

 

知覚するのと同時に、俺はその影とイリヤの首の間に右手を差し込んでいた。その直後、右手に走る鋭い痛み。見てみるとそれは、闇に溶け込むような不気味な短剣だった。それが刺さっている。

 

「お兄ちゃん!」

 

「なっ、どうしたのよ衛宮君!」

 

イリヤの悲鳴に、少し前にいた遠坂達が気付いて駆け寄ってきた。俺は黒い短剣を右手から抜いて放り捨てながら、三人に警告する。静かな怒りを心に宿しながら。イリヤを狙ってきたな……

 

「敵の攻撃だ。近くにいるぞ、気をつけろ」

 

攻撃の瞬間でさえ、何の気配も殺気も感じなかった。だけど今は、それらを感じ取る事ができた。どうやら、攻撃の後は気配を消せないらしいな。全員の目が、一斉にその存在に向けられる。

 

「美遊!」

 

「【砲射(シュート)】!」

 

木の陰に隠れているそいつに、ルヴィアの指示を受けた美遊の魔力砲が飛ぶ。直線上の木々を薙ぎ払いながら突き進む魔力砲。それは正確にその存在を撃ち抜いたように見えた。しかし……

 

「……いない」

 

美遊の呟きの通り、そいつはいなかった。どうやら、命中の瞬間に再び気配を消して回避していたらしい。これは厄介な敵だ。攻撃の威力は大した事はないようだが、気配がまったくない。

 

「お兄ちゃん、血が……」

 

「大丈夫だ。大した事はない。ほら」

 

顔面を蒼白にして心配してくるイリヤに、俺は右手を振って大丈夫だとアピールする。痛みはあるが、問題なく動かせる。イリヤは少しだけホッとした顔になるけど、やはり心配そうだった。

 

「お兄ちゃん、私を庇って……」

 

「イリヤが無事なら、俺にとっては良いんだ」

 

本心だった。こんな傷、全然大した事はない。涙目になっているイリヤの頭を撫でてやりながら、笑みを浮かべる。とはいえ、現状は予断を許さない状態だ。敵の正体も、位置も分からない。

 

「方陣を組むわ! 全方位を警戒!」

 

遠坂の指示が飛ぶ。その声に従い、俺達は全員で背中合わせになる。これなら、どの方向から攻撃が来ても対処する事ができる。いつものように白と黒の双剣を作り出して、奇襲に備える。

 

「不意打ちとは、舐めた真似をしてくれますわね!」

 

「攻撃されるまでまったく気配を感じなかったわ! その上、完全に急所狙い。気を抜かないで! 下手すれば即死よ! この攻撃手段からして、敵のクラスは間違いなくアサシンね。厄介な」

 

「即死……?」

 

遠坂は、あっさりとそう言った。その言葉に、震えた声を出すイリヤ。いきなり突きつけられた現実に、恐怖を感じてしまったらしい。俺は隣のイリヤの手を優しく握って恐怖を和らげてやる。

 

敵の奇襲を警戒して、方陣を組んだ俺達。遠坂の指示は的確で、最適なものだった。だが、それは無意味だった。こちらの陣形を見て奇襲は無理だと判断した敵が、次の手を打ってきたからだ。

 

「なっ!?」

 

消えていた気配が現れる。だけどそれは、一つではなかったのだ。俺達の周囲に、一斉に現れる、敵、敵、敵。木の陰から、枝の上から、そして草むらから。その全員が、同じ格好をしている。

 

黒ずくめの服を着て、顔には髑髏の形をした仮面。その総数は、ざっと50人以上。周囲を完全に囲まれてしまっている。幾らなんでも、これは多勢に無勢だ。こんなのってありなのか!?

 

「まさか、軍勢だなんて……」

 

「なんてインチキ……」

 

遠坂とルヴィアも、愕然とした声を出した。それはそうだろう。今までの敵は、全て単体だった。キャスターとセイバーは時間差で襲ってきたが、それでもカード一枚で一体の存在だった。

 

ところが、こいつらは違う。格好が似てはいるが、全員が違う存在だった。身体つきが、一人一人違うんだ。小柄な奴、大柄な奴、筋肉質な奴、痩せている奴。それでも、こいつらは同じだ。

 

一枚のカードから、一つのクラスとして現れている。それが分かる。何故なら、どいつもこいつも雰囲気が同じだからだ。全員が気配を消していた。つまりこいつらは、全員で一つの敵なんだ。

 

「まずいぞ遠坂!」

 

「分かってる!」

 

50以上の敵が、複数の短剣を持っている。それら全てが、俺達に向けられている状態だ。これを一度に投擲されたら、避ける術はない。俺の【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】は前方しか防げないし。

 

「一時撤退よ! 火力を一点に集中させて、一気に包囲を抜けるわ!」

 

「止まっては的にされてしまいます! 全員、走ってくださいまし!」

 

遠坂とルヴィアの決断は早かった。宝石を握り締めて、先頭を走り出す。その後に美遊とイリヤが続き、最後に俺が殿を務めるように続こうとした。だけど、急に脱力感に襲われて足を止める。

 

「あ……れ? 何だこれ……」

 

立っている事もできなくなり、俺は膝をついてしまった。吐き気が込み上げてきて、視界が霞む。全身から嫌な汗が噴き出して、思考も薄れていく。右手の痛みが増してる。これはまさか……

 

「お兄ちゃん!?」

 

イリヤの悲鳴が、夜の森に響いた―――

 

…………………………………………………

【イリヤ視点】

 

凛さん達の後に続こうとした私は、後ろからの音に振り返った。そこには、苦しそうな顔をしたお兄ちゃんが膝をついていた。私は足を止めて、お兄ちゃんの所に走った。何が起きてるの?

 

「お兄ちゃん、どうしたの!?」

 

「イリ……戻ってくるな……」

 

『魔力循環に淀みがあります! これはもしかして……』

 

「ちょっと、どうしたのよ! 止まっちゃ駄目だって……衛宮君!?」

 

前にいた凛さん達も異常を察してくれたらしい。私は、お兄ちゃんの右手が黒く染まっている事に気付いた。これってもしかして、毒!? さっきの短剣に、毒が塗られていたらしい。

 

「くっ……」

 

『いけません、士郎さんの英霊化が解けました! 魔力循環が乱れたせいです!』

 

「そんな!?」

 

事態は、私の理解を超えて展開していく。お兄ちゃんの体が元に戻ってしまった。体からカードが出てきて、地面に落ちた。つまり今のお兄ちゃんは、普通の人間。今攻撃されちゃったら……

 

「逃げてイリヤ、士郎さん!」

 

「あっ……」

 

美遊の声が聞こえた時、もう手遅れだった。私達に向かって、一斉に投擲される短剣。全てがゆっくり動いて見えた。お兄ちゃんが、私に覆い被さろうとしてる。私を守ろうとしてるんだ……

 

でも、そうなったらお兄ちゃんはどうなるの? 英霊にもなっていないのに、そんな事したら……死んじゃう。お兄ちゃんが死んじゃう。その時、また私の中で、何かが外れる音が聞こえた。

 

…………………………………………………

 

どうする? どうすればいい? まとまらない思考で、私は必死に考える。この状況を打開する方法を。この攻撃を全て弾ければ。例えば、そう。あの黒騎士が私達の攻撃を弾いたみたいに。

 

あれは、どうやってやってたんだっけ? ああ、そうだ。凄い魔力を放出してたんだ。あれ、そういえば、そんな事をさっきルビーが言ってなかったっけ? 確か、魔力砲がどうとかって……

 

『ド派手な魔力砲をぶっ放しまくって、ここら一面を焦土に……』

 

ああ、そっか―――――それなら簡単だ―――――

 

―――――今度は、何が起きたのかを覚えていた―――――

 

…………………………………………………

【美遊視点】

 

「……あ……ああ……」

 

目の前の光景に、私は呆然と立ち尽くすしかなかった。サファイアで魔力防壁を張りながら。それはあまりにも突然の出来事で、私は、遠坂凛さんとルヴィアさんを守るので精一杯だった。

 

目の前には、呆然とした表情を浮かべるイリヤ。10メートルくらいの巨大なクレーターの中心に彼女はいた。けれどそこには、さっきまでいた人がいなくなっていた。イリヤの側にいた人が。

 

「……お、兄ちゃん……?」

 

イリヤの視線が、私達の後ろに向けられている。その視線の意味を、私は分かっていた。見ていたからだ。全方位から飛んでくる短剣。その中心にいるイリヤ。イリヤの体が光り輝いて……

 

そして、魔力が爆発した。その爆発は飛んできた短剣を全て弾き飛ばし、周囲にいた敵もまとめて消し飛ばした。敵のアサシンはすでに消滅して、カードになっている。途轍もない威力だった。

 

そんな魔力の爆発を至近距離で受けた人がいた。士郎さんだ。イリヤの最後の理性が働いたのか、ルビーの防壁で守られてはいたけど、無傷で済む筈がなかった。彼は私達の上を飛んで行った。

 

恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこには、血塗れの士郎さんが倒れていた。先日の傷口も開いてしまったようで、かなり危ない状態になっている事は容易に想像できた。まさか、死……

 

「士郎さ……!」

 

「衛宮君!」

 

「しっかりしなさい、死んでいませんわよね!?」

 

「……大丈夫。まだ死んではいないわ。でも、かなりヤバい……」

 

「トオサカリン、ありったけの宝石を出しなさい! 今すぐ治癒魔術を使いますわよ!」

 

「分かってるっての!」

 

ルヴィアさん達の言葉に、私は心の底からホッとする。そして、イリヤを見つめる。さっきの出来事で確信した。これがイリヤの力。先日の【夢幻召喚(インストール)】の時の膨大な魔力も、イリヤ自身の力。

 

イリヤは、現実を受け入れる事ができないという様子だ。無理もない。大好きな兄を、もう少しで殺してしまうかもしれなかったんだ。もし私だったら、きっと同じようになっていただろう。

 

「……違う……私、お兄ちゃんを助けようとして……こんなつもりじゃ……」

 

「……イリヤ……」

 

私は、イリヤに掛けるべき言葉が見つからなかった……

 

…………………………………………………

【イリヤ視点】

 

こんな筈じゃなかった。攻撃を弾くだけのつもりだったのに。威力の加減が分からずに、私はただ魔力を放出してしまった。私の視線の先には、お兄ちゃんに必死に治療をする凛さん達がいた。

 

凛さん達もボロボロだ。美遊がサファイアで守ってくれたみたいだけど、それでも、完全には防ぎ切れていなかった。これも全部、私がやった。どうして。どうして私にこんな事ができるの?

 

「……あ……」

 

その時、頭に浮かんでくる光景があった。そうだ。この前も確か、こんな事があった。私は、セイバーを倒した時の事を思い出した。美遊のカードを使って、お兄ちゃんみたいに変身して……

 

そして、無茶苦茶な攻撃で止めを刺した。あれも、たまたま美遊達に被害が及ばなかっただけだ。あの時の私は、とにかく敵を倒さなくちゃって思っていただけ。もし近くに美遊達がいたら?

 

お兄ちゃんがいたら? 私は、あの攻撃を止められただろうか? ……きっと無理だ。それでも私は、セイバーを倒す為にあの攻撃していただろう。目の前の光景が、それを証明している。

 

「私……私……」

 

嫌だ。もう嫌だ。元々私は、こんな戦いに巻き込まれたくはなかった。私は、こんな戦いとは無縁の一般人。たまたまルビーに気に入られてしまって、魔法少女になってしまっただけだ。

 

半分遊び気分で、わくわくしちゃってた。でも、その結果がこれだ。皆を傷つけて。お兄ちゃんを傷つけて。無茶苦茶やって。このまま戦って、本当に取り返しのつかない事をしてしまったら。

 

「いや……」

 

「イリヤ……」

 

「もう……もう嫌あああああああああ!」

 

「イリヤ!」

 

怖かった。ただ怖かった。この状況が。本当に死んでしまうかもしれない事実が。友達を傷つけてしまうかもしれない事が。お兄ちゃんを傷つけてしまうかもしれない事が。何より、私自身が!

 

ずっと張り詰めていた何かが、プツンと切れた音がした。一刻も早く逃げ出したかった。ただそれだけを考えて、私は周りも見ずに逃げ出した。ふと気が付くと、周りは元の空間に戻っていた。

 

『イリヤさん、イリヤさん落ち着いてください!』

 

「うるさい! うるさいうるさいうるさい!」

 

早く帰らなくちゃ。私の家に帰らなくちゃ。ルビーの声に耳を塞いで、私は駆け出した。でも、これじゃ遅い。このまま走ってるだけじゃ、時間が掛かりすぎる。もっと早く。一刻も早く帰る!

 

『こ、これは……まさか空間転移!?』

 

「あった……私の家! 帰らなくちゃ……」

 

いつの間にか空にいた。でも、そんな事はどうでもいい。早く帰らなくちゃ。視線の下に、私の家が見えた。そう思った瞬間、目の前には玄関があった。私は無我夢中で、扉を開けて飛び込む。

 

「イリヤさん!? どうしたんですか、そんなに急いで……」

 

「……セラ……」

 

「あ、イリヤさん」

 

目の前にいるセラの胸に、私は飛び込んだ。嫌な事は全部忘れて、眠ってしまいたい。そんな事を考えながら、私の意識は深い闇に飲み込まれていった。今日の出来事は全部夢だと願って……




今回の解説。

どうしてルビーの防壁で防がなかったのか。それは、ルビーの防壁では毒まで防げない可能性があったからです。小聖杯の意識が、そう判断をしたのでやらなかった。

実際、それでは毒は防げず、士郎もイリヤも死んでいましたしね。

それでは、感想待ってます。
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