錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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長くなりましたが、バーサーカー戦、終了です。

それではどうぞ。


妹達の想い 戦いの終焉

【士郎視点】

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」

 

『す、凄い……凄いですよ士郎様! バーサーカーを……』

 

剣から迸った光が収まり、全身全霊を尽くした俺は膝をついて呼吸を荒げる。空間を侵食していた心象風景は、維持できなくなって消えている。そして俺の目の前には、バーサーカーが……

 

「倒した……か?」

 

足だけが残され、上の部分は完全に消し飛んでいた。それを見上げながら、俺は呆然と呟く。黄金の聖剣の力は、今までの攻撃の比ではなかった。もしかしたら、あの聖剣にすら届くかも……

 

これで倒せていなかったら、もう本当に打つ手がない。あらゆる意味で限界で、もう一度あの空間を発動させる事はできそうもないし、これ以上剣を投影する事もできそうもなかった。なのに。

 

「……嘘だろ?」

 

『そ、そんな……』

 

俺とサファイアの、絶望するような声が響く。何故なら、残されたバーサーカーの足が煙を上げながら動いたからだ。おいおい、まさか。そんな俺の心の声に応えるように、事態は動く。

 

「くっ、こいつ、まだ……」

 

まだ死なないのか。足の先の肉が、盛り上がって蠢いている。それが段々と大きく膨れ上がって、人型の形になっていく。間違いない。こいつは、まだ蘇生する! あれでも駄目なのか……?

 

絶望しそうになる心を奮い立たせ、左手にある黄金の聖剣を握りしめる。諦めない。

 

「絶対に、諦められない! イリヤの為に、こいつは俺が倒すんだ!」

 

不死身の狂戦士が、再び俺に牙を剥こうとしている。俺はそれでも剣を構えて立ち上がった。絶対に諦めない事を改めて誓いながら。イリヤを守る。今度こそ、イリヤは俺が守るんだ!

 

…………………………………………………

―――時は少し遡り、士郎が出て行ってから10分―――

【イリヤ視点】

 

「……はあ」

 

『元気を出せというのが無理だとは分かりますが、良かったじゃないですか』

 

「……なにが?」

 

私は、お兄ちゃんがクラスカード回収に行ったのに付いて行けず、お風呂に入っていた。私、何をやってるんだろう。一緒にやろうという美遊との約束も守れず、お兄ちゃんも行かせて……

 

『士郎さん、大丈夫そうだったじゃないですか。それに、イリヤさんの事を怖がってもいませんでしたよ。怒っている様子もなかったですし。イリヤさん、それが怖かったんでしょう?』

 

「……そうだけど」

 

確かに、ルビーの言う通りだった。私は、お兄ちゃんに嫌われたり、怖がられているんじゃないかとずっと怖かった。だから、お兄ちゃんと話す事ができなかった。でも、お兄ちゃんは……

 

「変わらなかった。私が大好きなお兄ちゃんのままだった。それは嬉しかったけど……」

 

でも、私は今も逃げている。お兄ちゃんや美遊は任せてって言ってたけど、それで私が行かないという言い訳にはならない。私は、二人を助けたい気持ちよりも、自分への怖さが上なんだ。

 

「……自己嫌悪……」

 

『やれやれ。まあ、仕方ありませんけどね。イリヤさんはただの小学生なんですし』

 

「……ルビーはこんな私でも離れていかないんだね……」

 

普通呆れちゃうと思うんだけど。少し嬉しかったりする。その相手が、例え人格が破綻した、人をおちょくる事が趣味の性悪ステッキでも。そんな事を考えていると、足音が聞こえてきた。

 

「……セラ? それともリズ?」

 

こんな時間に、お風呂場に響く程の足音を立てるかな? しかも、なんだかこの足音は、玄関の方からこっちに近付いてくるような……なんだか微妙に嫌な予感がするんだけど。まさか……

 

「やっほ~、イリヤちゃん! お・ひ・さ♪」

 

「マッ……ママ!?」

 

お風呂場の扉を壊す勢いで開け放って現れたのは、私のママ、アイリスフィール・フォン・アインツベルンその人だった。しかも、完全に全裸。タオルすら巻いてない。完全に入る気だ!

 

「お、奥様! せめて、服は脱衣所で脱いでください!」

 

ママの後ろから、ママの脱ぎ散らかしただろう服を抱えてセラが現れる。ママ、お風呂場の前の廊下で服を脱ぎながら来たんだ……しかも、絶対玄関から。そういえば、こんな人だっけ……

 

直前までの沈んだ気分すら吹き飛ばされて、私はため息をついてママをジト目で見る。

 

「久しぶりに、一緒に入りましょ♪」

 

「……はあ」

 

こうなったら、誰もママを止められない。それが分かってる私は、諦めのため息をついた。セラもそれは同じみたいで、次からは脱衣所で脱いでくださいねとだけ言って、外へ出て行った。

 

それからは、ママに後ろから抱きしめられるような格好で一緒に入りながら最近の事を話す。私の事、お兄ちゃんの事、そして、友達の美遊の事。できるだけ明るい話題にして話した。

 

「ふ~ん、そんな事があったのね」

 

「うん。美遊って、本当に凄いんだよ。何でもできるし、頼りになって……」

 

そこまで話して、私はまた沈んだ気分になる。そう、美遊は、何でもできる。一人でできて、凄く頼りになって。きっと今も、頑張ってるんだろう。お兄ちゃんの事も、美遊が助けてくれる。

 

「それにシロウも。頑張ってイリヤちゃんの事を守ってくれてるのね」

 

「うん……」

 

「ふふっ、あの時、シロウに決めて正解だったわね」

 

「……」

 

お兄ちゃんが初めて家に来た時の事は、私もよく覚えている。どんな人が来るのかって、楽しみで不安だった。そして実際にやってきたお兄ちゃんは、最初の頃は少しだけ暗い性格だった。

 

でも、戸惑いながらも優しくしてくれて、私はすぐにお兄ちゃんの事が大好きになった。私が泣いてる時は、いつも傍にいてくれた。優しく頭を撫でてくれた。いつだって私の一番の味方で。

 

「セラに聞いたわよ。今も、イリヤちゃんを怖がらせてる悪い奴をやっつけに行ってるって」

 

「……うん」

 

「昔を思い出すわねえ。シロウったら、イリヤちゃんをいじめてたいじめっ子を、殴りに行った事があったわよね。セラもそれを思い出してたらしくて、そう言ったんですって。そしたらね……」

 

「?」

 

「あの子ったら、それと変わらないんだって言ったらしいわよ? ふふ……」

 

「!?」

 

あれと変わらない。あのセイバーみたいな怪物が相手かもしれないのに? お兄ちゃん……私の為にそこまで? さっきの言葉を、私は思い出す。妹を助けるのが当たり前だって言ってた。

 

「でも……イリヤちゃんは、本当にそれでいいの?」

 

「……え?」

 

「シロウに守られてるだけで、本当にいいの?」

 

「……ママ?」

 

ママの声が、急に真剣になった。私は、ママの方を振り向こうとする。でも、ママは私の頭を抱きしめて、それをさせてくれない。私は、静かなママの声を黙って聞く事しかできなくなった。

 

「セラに少しだけ聞いたの。シロウは、最近傷だらけだって。今回の相手も、同じくらい危ないかもしれないんでしょう? 悪い奴って、どんな相手か私には良く分からないけど……」

 

「……」

 

「そんな相手と喧嘩しに行ったんでしょ? 心配じゃないの?」

 

「で、でも……私は……」

 

「……鍵が二回ほど開いてるわね。10年間溜め込んでた魔力も半分くらい消費されてる。随分と派手に使っちゃったみたいね。それでイリヤちゃんは、自分の力が怖いの?」

 

「!?」

 

ママは、何を言ってるの? もしかして、ママは色々知ってるの? 魔術の事も、クラスカードの事も、そして私のあの力の事も。私は居ても立ってもいられず、ママの手を振り解く。

 

「どういう事!? ママは、私のあの力の事を知ってるの!? あれは何なの!」

 

半分錯乱した私は、ママにそう問い掛ける。自分が信じてきた常識が、今壊されようとしている。そんな気がした。私は、一体何なのか。その答えが分かる。そう思ったのだけど……

 

「さあ?」

 

「なっ!?」

 

ママは、あからさまにすっとぼけてくれた。私は、思わずずっこけた。さっきまでの緊張感が、嘘のように吹き飛んでしまう。両手を横に上げて肩を竦めるママに、私は一気に詰め寄った。

 

「ちょ、そこまで言ってすっとぼけるって何なの!? 誤魔化される訳ないでしょーっ!」

 

「え~? イリヤちゃん、こわーい」

 

「子供か! じゃなくて、ちゃんと答えてよママ!」

 

「ほら、これはあれよ。自分で気付かないと意味がないのだとか、そんなアレ?」

 

「嘘をつくなーっ!」

 

「ああもう、誤魔化してるんだから、口答え禁止っ!」

 

「DVっ!?」

 

駄目だ。この人、ほんと駄目だ。はっきりと、誤魔化してるとか言ってるし! ママのチョップを脳天に食らった私は、両手で頭を押さえて湯船に沈んだ。シリアスは完全に死んでしまった。

 

「私から言える事は、力そのものに善悪はないって事。それを決めるのは、その力を使うその人自身だという事よ。だからね、イリヤちゃん。自分の力を怖がる必要はないのよ?」

 

「……ママ」

 

「イリヤちゃんがその力をどう使うのか。どう使いたいのか。大事なのはそれよ」

 

「……どう使いたいのか」

 

「イリヤちゃんは、何をしたいの?」

 

「わ、私は……」

 

何をしたいのか。そんな事、考えるまでもない。私は、お兄ちゃんを助けたい。いつも守ってくれるお兄ちゃんを、私も守りたい。でも、私は怖かった。また傷つけてしまうかもしれない事が。

 

あの時も、お兄ちゃんを死なせたくなかった。でも、私は短絡的な思考で力を解放して、お兄ちゃんを傷つけてしまった。またあんな事になったらと思うと、怖くてたまらなかった。でも……

 

「……お兄ちゃんを守りたい」

 

でも、これが私の本心だった。どう取り繕っても、誤魔化しようがない。もしも、こう思う事が許されるなら。私は、ママを真っ直ぐに見つめてそう言った。ママは、それを聞いて微笑んだ。

 

「だったら、迷う必要はないし、怖がる必要もないわ。イリヤちゃんは、優しい娘だもの」

 

「で、でも、そんな簡単に……」

 

「簡単よ。あなたが願えば、出来ない事なんてない。強く願ってさえいれば、絶対に」

 

どういう意味なんだろう。分からなかったけど、ママは確信したように告げる。ママの事だから、もしかしたら意味なんてないのかもしれない。でも、私の心はそれを信じようとしていた。

 

「さあ、イリヤちゃん。あなたは今夜、何を願うの?」

 

柔らかく微笑みながら告げられた言葉に、私は願った。湯船に浮かぶルビーを手にして。

 

「お兄ちゃん……美遊!」

 

…………………………………………………

【美遊視点】

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

私は、深夜の道路を走っていた。目指す場所は一つ。初めて私を友達と呼んでくれた女の子のいる場所だ。イリヤにはもう戦わせたくなかったけど、士郎さんを助けるにはルビーが必要だ。

 

時間的に、もう間に合わない。そう分かっていても、私は走るのをやめられない。衛宮士郎さん。私のお兄ちゃんと同じ存在。私の事も守ると言ってくれた人。何度も違うと言い聞かせた。

 

あの人は私のお兄ちゃんではないと。この世界では、イリヤのお兄さん。私とは何の関係もない。何度もそう言い聞かせたし、思おうとした。でも、その度に脳裏に浮かぶ自分の兄の姿。

 

見た目が、声が同じだけでは、ここまで心を締め付けられなかっただろう。でも、あの人は私の事を、私のお兄ちゃんと同じ気持ちで見る。その目には、お兄ちゃんと同じ優しさがあった。

 

後ろに突き飛ばされた直後も、そんな目で私を見た。必ず守ると、幸せになって欲しいと、あの人は心の底からそう思っている表情を浮かべる。ああ、どうして。どうしてそんな目で見るの?

 

「あんな目をされたら、重ねずにはいられないじゃないっ……」

 

私のお兄ちゃんとは違うと、今でも思っている。だって、私との思い出はないんだもの。あの人の一番は、この世界の妹であるイリヤ。でも、それでも私は、面影を重ねずにはいられない。

 

あの人を守りたいと、助けたいと思わずにはいられない。だから私は、間に合わないと分かっていても走らずにはいられないんだ。息を切らせながら、全速力で走る。早く、早く、早く!

 

「美遊!」

 

「……え? ……イリヤ?」

 

そんな時、必死に走る私の頭上から、今まさに一番聞きたい声が聞こえてきた。まさかと思いながらも、私は上空を見上げた。するとそこには、転身して空を飛んでいるイリヤの姿があった。

 

「……どうして?」

 

「凛さんから聞いたの。ルビーの力で。それよりも美遊!」

 

「イリヤ! 実はお願いが……」

 

「「お兄ちゃんを(士郎さんを)助けるのに、力を貸して! ……え?」」

 

私達の口が、まったく同時に同じ言葉を発した。キョトンとした顔になる私達。でも、すぐにお互い笑みを浮かべた。色々言いたい事がお互いにあった筈なのに、最初の言葉はこれか。

 

「……他に言うべき事があるって分かってる。でもね、今はこれを言わせて。美遊、私はお兄ちゃんを助けたい。今の言葉で、美遊も同じ気持ちだって分かった。だから、行こう」

 

「うん」

 

他の言いたい事は、取り敢えず後回し。この件が終わってからという事にした。今は、一刻を争う事態だから。今大事なのは、士郎さんを助ける事。私もイリヤも、その意見は同じだった。

 

イリヤが差し出す手を握り締めて、私達は想いを一つにした。転身したイリヤの力で、私達は目的地に向かって空を飛んでいく。これなら間に合うかもしれない。士郎さん、今行きます!

 

…………………………………………………

 

「遅い!」

 

「ごめんなさい!」

 

「ルビー、早く鏡面界に接界(ジャンプ)しなさい!」

 

『はいはい、分かりましたよ。それじゃあ行きますよ~』

 

遠坂凛さんの怒声が響く。もう準備は完了しているらしい。イリヤに何かを渡した遠坂凛さんは、すぐさま鏡面界への突入を決行する。ルビーがそれに応え、いつもの呪文を口にしていく。

 

『限定次元反射路形成、鏡界回廊、一部反転!』

 

「いい? これから作戦を説明するわ。目的はあの馬鹿、衛宮士郎の救出。バーサーカーを倒す事ではないから、それは最悪無視していいわ。まず、イリヤがバーサーカーを引き付けて……」

 

足元に魔方陣が形成されるのと同時に、遠坂凛さんの作戦の説明が始まる。私達はそれに頷き、自分達の役目を確認する。私はまず、奪われたサファイアを取り戻す事だけ考えろと言われた。

 

「作戦は以上よ。さあ、行くわよ!」

 

「「はい!」」

 

『準備はよろしいですね? 【接界】!』

 

私達の返事の後にルビーが最後の確認をしてくる。そして、私達が頷くと同時に鏡面界へと飛ぶ。視界が白に染まり、私達の体を別の空間へと運んでいく。士郎さん、どうか御無事で……

 

…………………………………………………

【士郎視点】

 

『士郎様、お願いですから逃げてください!』

 

「それはできない! ぐっ……」

 

サファイアの悲鳴のような懇願に、俺は拒否の意を示した。それはできないんだよ、サファイア。バーサーカーの猛攻を必死に逸らしながら、俺は意地でも引けない理由を思い浮かべる。

 

ここで引いたら、絶対にイリヤが呼ばれる。イリヤは、普通の小学生なんだ。美遊だって同じだ。そんな二人に、もうこんな怪物の相手はさせたくない。実際に戦って、強さはよく分かった。

 

一つ間違えば、確実に殺される。この重い一撃をあの二人に届かせる訳にはいかないんだ。体はもうボロボロ。限界を超えている。誰が見たってもう無理だろう。それでも、引く事はできない。

 

「こいつは、俺が倒さなくちゃいけないんだ!」

 

バーサーカーの斧剣が、再び振り被られる。もう何度目だろう。数える事もできなかった。黄金の聖剣の持ち主の少女の剣技を投影して、左手だけでなんとかバーサーカーの攻撃を逸らす。

 

一秒ごとに追い詰められていく。なんとか反撃の剣を打ち込んでも、耐性が付いた肉体の宝具で弾かれてしまう。魔術回路が悲鳴を上げて、攻防の最中の新たな投影は不可能という状況。

 

どうすればいい。どうすれば。バーサーカーは、もう限界が近いという俺の状況を分かっているのだろう。さっきから、俺に休ませてくれない。全身を駆使した体術で、嵐のように攻撃する。

 

無茶、無謀。どうやったって、俺にもう勝ち目はない。そんな言葉が、さっきから俺の頭を支配している。完全に余裕がない状況だからか、もうアーチャーの声も聞こえてこなかった。

 

『駄目なのか……俺にはもう、何もできないのか? イリヤを守れないのか……』

 

「くっそおおおおおお!」

 

自棄になって、そう叫ぶ事しかできない。ここまでしても、まだ駄目なのか。その時、全身から力が抜けた。両足の膝が折れて、地面に膝をついてしまう。あ……れ? 左手から剣がこぼれる。

 

「……限……界?」

 

『士郎様!』

 

とうとう、本当に限界が来たのか。どうやら、血を流しすぎたらしい。我に返ってみると、我ながら酷い状態だった。最近の出来事で付いた傷口が開き、全身から大量の血が流れていた。

 

バーサーカーの攻撃の反動で、そして剣圧で、無数に傷もできている。生きてるのが不思議なくらいの状態だ。英霊化していなかったら、とっくに死んでいただろう。こんなになってたのか。

 

『―――――ッ!』

 

『ああっ!』

 

「……ちくしょう……ごめんな、イリヤ……」

 

動けない俺に、バーサーカーが止めを刺そうと斧剣を振り上げる。ここまでか。俺は最後にイリヤに謝りながら、それが振り下ろされるのを見ていた。全てを諦めてしまいそうになった時……

 

「お兄ちゃん!」

 

妹の声が聞こえた。上から降ってきたその声に、俺は呆然と上を見上げた。ルビーを手にした妹が上空から降ってきて、バーサーカーを斬り裂いた。目の前で起きた事が信じられず、動けない。

 

「イリ……」

 

「凛さん、ルヴィアさん!」

 

「任せなさい、Anfang(セット)!」

 

Zeichen(サイン)!」

 

「「【獣縛の六枷(グレイプニル)】!」」

 

事態は急展開する。イリヤの叫びに応えた遠坂とルヴィアが、バーサーカーの動きを止める魔術を展開する。それは何重もの光の帯となって、バーサーカーの全身に巻きついて拘束する。

 

瞬間契約(テンカウント)レベルの拘束魔術です。さすがに効きましたわね」

 

「アハハハハハ、大赤字だわよ!」

 

どうやら、凄い魔術らしい。そして、遠坂が自棄になった笑い声を上げる。この二人の魔術は宝石を消費するらしいから、今ので相当な散財になったのだろう。動けない俺をイリヤが抱える。

 

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

 

「イリヤ……どうして」

 

「お兄ちゃんを助けたいから。だから来たの」

 

「イリヤ……」

 

「サファイア!」

 

『美遊様!』

 

イリヤは俺を抱えて美遊とサファイアの隣に移動する。そして隣では、美遊と再会できたサファイアが歓喜の声を上げ、美遊を魔法少女に転身させる。イリヤと美遊に挟まれて、困惑する。

 

「呑気に話してる暇はないわよ! バーサーカーが拘束を解く!」

 

遠坂の緊迫した声が聞こえて、俺達は一斉にバーサーカーを見る。するとそこには確かに、遠坂達の拘束魔術で捕らわれていたバーサーカーが、その拘束を引き千切って咆哮を上げていた。

 

『美遊様、あの敵は化け物です。生半可な攻撃では倒せません』

 

「分かってる。だからこれを……」

 

美遊が取り出したのは、セイバーのカード。あの聖剣を使う気か。そう思った時、バーサーカーが途轍もないスピードで突っ込んできた。動けない俺を抱えるイリヤが、慌てて横に跳ぶ。

 

「あっ、カードが……」

 

美遊も反対側に跳んで躱したが、セイバーのカードを落としてしまった。危ない! バーサーカーはそのまま、美遊を追撃していく。まずい、セイバーのカードを、美遊に渡さなくては。

 

そう思った俺は、必死に体を動かした。イリヤの叫び声が聞こえたが、そんな余裕はない。必死に伸ばした手が、セイバーのカードを掴む。その瞬間、カードが脈打った。な、何だ!?

 

『……これを使えば、いけるか?』

 

『アーチャー?』

 

『そのカードを使え。行くぞ!』

 

アーチャーの声が頭に響く。美遊は、バーサーカーに吹き飛ばされていた。まずい。考える余裕もなく、アーチャーの声に従って、セイバーのカードを握りしめる。こいつ、何をする気だ?

 

『お前が倒せと言った筈だ。意識を合わせろ』

 

『わ、分かった』

 

再びアーチャーの意識とシンクロする。そして、頭で考えるよりも先に動いていた。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

「……【投影限定展開(トレース・インクルード)】」

 

アーチャーがやろうとしていた事が、やっと俺にも分かった。セイバーのカードを核にして、あの聖剣を投影する! 普通ならできないが、英霊の力の元であるこのカードを用いれば!

 

そう唱えた瞬間、この空間に太陽が現れたような輝きが広がった。そして俺の手には、最強の名を冠する聖剣が握られていた。この場の誰もが、その輝きに目を奪われる。バーサーカーでさえ。

 

「こ、こんな事って……」

 

「イリヤ、手を貸してくれ」

 

「う、うん!」

 

今の俺の体では、この聖剣を正確に振るう事ができない。イリヤと一緒に聖剣を握り締めて、俺はバーサーカーを睨み付ける。さあ、今度こそお前の最後だ。バーサーカーが向かってくる。

 

「行くぞイリヤ」

 

「うん」

 

「「【永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)】!」」

 

イリヤと一緒にそう叫びながら、左手の聖剣をバーサーカーに向けて解き放った。その輝きは暗闇と絶望を吹き飛ばし、バーサーカーを飲み込んだ。こうして、俺達の長い夜は終わった……




はい、こんな感じでどうでしょうか。イリヤと美遊は、妹同士同じ想いで繋がりました。
原作とは少し違う二人の友情の始まりです。百合展開は薄くし、純粋な友情にするつもりです。
そういうのが見たい方は、それこそ原作をご覧ください。

さて、今回私が考えたオリジナル技、投影限定展開はいかかでしたか?
本来なら、神造兵装であるエクスカリバーは投影できませんね。しかし、セイバーの力が宿るクラスカードを使う事でそれを可能にするという裏技です。威力は少し落ちますけどね。
アーチャーの投影技術があればこその裏技ですけど。士郎だけでは使えません。

それでは以上です。感想待ってます。

あ、最後に、美遊兄士郎はよくヘラクレス夢幻召喚した奴を倒せましたよね。
その辺の詳細が、私、気になります!

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