果たして八枚目のカードの英霊とは?
【士郎視点】
「……なあ遠坂、どうしても駄目か?」
「アンタ、自分の状態を見て考えなさいよ。無理よ。そして駄目よ」
「またあんな無茶をされては困りますもの」
やっぱり駄目か。バーサーカーは倒した。だけど、その代償は大きかった。俺の体は、次の戦いに参加できる状態ではなくなっていた。右腕骨折、裂傷多数、そしてここ数日の無茶が重なり……
遠坂とルヴィアから戦力外通告、というより、戦闘禁止通告をされてしまった。さらに、涙目のイリヤと美遊も加わってしまい、俺はさすがに自重せざるを得なかった。今はベッドで寝ている。
「家政婦さんにも念を押したから、観念なさい」
「物理的な損傷だけでなく、魔術回路も休ませなければならないんですからね?」
「お兄ちゃん、最後の敵は私と美遊で倒すから、本当に大人しくしててね」
「絶対安静です」
「わ、分かった分かった! 全員で言わなくてももう分かったから、もう勘弁してくれ」
遠坂とルヴィアの治療は当然行われたが、それだけではもう完治はできず、病院でちゃんとした治療を受けたのが午前中の事。骨は魔術でくっついたが、一応ギプスで固定もされている。
動きたくても動けない。アーチャーのカードも取り上げられ、ベッドに拘束具で固定された。ここまでする事ないだろと俺は思ったが、セラも含む全員に睨まれ、反論は完全に封殺された。
最後の敵がどんな奴か分からず、不安ではあるが……まあ、あのバーサーカーより強い奴はいないだろうという事で話はまとまった。魔術専門家組の言によれば、あれはかなり破格らしいから。
「相当有名な英霊の筈よ。あんなのと戦うハメになったのは、運がなかったとしか言えないわね」
「あれほどの霊格を持つ英霊は、それこそ数えるほどしかいませんわ。ですから……」
「あんなのと戦う事はもうないって事か」
「多分ね。完全に保証はできないけど。もし勝てないようなのが現れたら即撤退するわよ」
そうか。それなら安心だな。遠坂とルヴィアも付いてるんだし。イリヤと美遊も、昨日の一件の後の話し合いでかなり仲良くなったみたいだし。二人が力を合わせれば、きっと大丈夫だろう。
「それじゃ、私達はもう行くわね。今夜の戦いの準備もしないといけないし」
「ですわね。それでは
『美遊様、私は少しだけ士郎様と二人で話したいので、ここに残りますね』
「サファイア? ……分かった」
遠坂達が出ていき、最後に出ようとした美遊。その美遊に、サファイアがそんな事を告げた。美遊は少し訝しがったが、特に追求する事なくそのまま出て行った。部屋には俺達だけが残る。
「……話って何だよ、サファイア」
『ええ、少しだけ疑問がありまして。その心当たりを、士郎様に聞いておこうかと』
「疑問?」
『まず、士郎様が使うアーチャーの英霊は何者なのでしょうか?』
「……それは俺が知りたいよ」
あいつが何者なのか。そんな事、俺に分かる筈がない。俺とあいつは、最低限の繋がりしかない。昨日は少し近くに行けたけど、それは向こうが近付いてきてくれただけだ。逆はできない。
『【固有結界】などという大魔術を使い、無数の剣の宝具を持つ。そんな英霊は誰なのか』
「……」
『昨日士郎様は、【
「どうして断言できる?」
『もしも彼がジークフリートだったなら、固有結界という大魔術を使える事の説明がつきません。そしてなによりも、英雄ジークフリートの最大の特徴である不死身性がありませんから』
「竜の血を浴びた事による、ってやつか。確か、背中が唯一の弱点なんだっけ?」
『はい。つまりあの宝具は、本物ではないという事になります。今までの戦いを考えると、投影による複製品という事になりますね。つまり、あの無数の剣の宝具は全て贋作なんです』
「……贋作」
サファイアの意見は、その通りなのだろう。深く理解はできないが、俺もあれは本物を模倣した贋作という事は分かった。だからこそあの聖剣は作れなかった訳だし。ならば、あいつは……
『彼の真名は何なのか非常に気になります。あの能力は、ある意味破格です。贋作とはいえ、宝具の真名解放まで再現できるのですから。あのバーサーカーを何度も殺す事に成功してますし』
「聞きたい事はそれだけか?」
『いいえ。ある意味では、こちらが本題です。あのアーチャーの英霊が特異な存在なのは言うまでもない事ですが、私には士郎様こそ特異な存在に見えます。ずっと気になっていました』
サファイアは、何を言っているんだろうか。あのカードで変身した事だろうか。でもあれは……
「あの英霊化は、多分あいつが力を貸してくれてるからだと……」
『違います。いえ、それも気になるのですが……一番奇妙だと思う事は、魔力についてです』
「魔力について?」
『はい。士郎様は、何度も戦ってきました。相当な量の魔力を、連日消費し続けています。それなのに、士郎様の魔力は未だに尽きません。まるで、私達カレイドステッキのように……』
そんな事を言われても、魔術の素人である俺には何の事か分からない。そんなに奇妙な事なのか?
『奇妙です。まるで本当に、どこからか魔力を無限に供給されているような気がします』
サファイアの真剣な声だけが、俺の脳裏に入ってきた。確かに、少し不気味かもしれないな……
…………………………………………………
【イリヤ視点】
「ここに最後の敵が?」
「ええ。間違いないわ」
もう何度目になるだろう。私達は、真夜中に集まった。ここはお兄ちゃんの友達の一人、柳洞一成さんの家である柳洞寺の門。時間が時間だから、家の人に見つかる事はないと思うけど……
「どんな相手かは分からないんだよね?」
「詳細不明だもの。ただ、他のサーヴァントとは少し違う感じがするって聞いてるわ」
「へえ」
それは少し怖いかも。でも、美遊もいるし大丈夫な筈だ。バーサーカーとの戦いの後、私と美遊は本当の友達になれた。美遊と一緒なら、どんな敵にも負けないっていう安心感があった。
『むむむ、この鏡面界、今までとは何か違いますよ?』
「この中にあるカードの影響かもしれませんわね。サファイア、解析を」
『了解しました。空間解析に入ります。しばらくお待ちください……これは?』
「どうしたの、サファイア?」
そう思っていると、ルビー達がそんな事を話し始めた。どうやら今回の鏡面界は、今までの戦いとは何かが違うらしい。それを解析していたサファイアが、訝しむような声を上げた。
『……良く分かりません。何やら、この空間が奇妙な安定をしているようです。別の何かに変わっているような感じがします。まるで、大きな結界……いえ、城塞とでも言った方がいいかと』
「何それ?」
『中に何かを閉じ込めて守っているような感じといいますか……もしかすると、入ったら出られないかもしれません。恐らく、中の英霊を倒せば通常の鏡面界に戻ると思いますが……』
「入る事はできそうですの?」
『それは大丈夫かと。この城塞は、外からの侵入を拒むものではないようですし』
「奇妙な話ね。普通、外からの侵入を拒むのが城塞でしょうに」
確かに。凛さんのいう事は良く分かる。どうして、そんな感じになっているんだろう。考えても分からないので、取り敢えず鏡面界に飛んでみようという事になった。出られないらしいけど。
『『限定次元反射路形成、鏡界回廊、一部反転! 【
…………………………………………………
「……なに、これ……?」
鏡面界に飛んだ私達は、呆然と立ち尽くした。そこは、今までの鏡面界とは明らかに違っていた。今までの鏡面界は、元の空間と同じ景色が広がっていた。けど、ここはもう完全に別物だ。
「……お城?」
「あり得ない……何なのよこれ……」
私達の前には、大きな白いお城があった。あり得ないくらい広い。そして大きい。柳洞寺の山門は消え失せて、大きな城門に変わっている。そして門の先にあったお寺が、お城になっている。
『どうしてこんな事になってるのかですが、恐らくあいつの宝具による影響でしょう』
ルビーの言葉に、私達はそれを見た。門の前に立っている人影。鎧を纏い、その手には大きな盾。十字架の形をした大きな盾を携えて、その英霊はそこにいた。その姿はまさしく、門番。
「黒化英霊。間違いない、あいつが敵ね」
「盾ですって? 今までと違う感じという理由が分かりましたわ。攻撃ではなく、守護の力」
『さしずめ、【
腰に剣を差してるけど、目を引くのはやはり巨大な盾。サファイアによる命名は、まさにといった感じだった。でも、今までの黒化英霊とは何か違う。だって、こっちに襲い掛かってこない。
「動かないね」
「多分、あの門を守ってるんだと思う。門を越えようとすると攻撃してくるんじゃないかな」
「成る程ね……さっきの話の理由が分かったわ。外からの侵入を拒む役目は、空間じゃなくてあいつが担ってるって事よ。中に入った者を出さないのは、同じ外敵が二度と入ってこないように」
『そういう事ですか。空間は、あの城を作り出す為の触媒という事ですね』
『そんなに大事なんですかね、あの城が』
この空間全てを使って、あのお城を作り出している。そして、自分が全ての盾になって守っているという事だろうか。確かに、そこまでしてあのお城を作ったという事実がそれを表している。
ルビーの言う通りなんだろう。そのひたむきさは、私の心を強く打った。つまりあのお城は、理性をなくしてなお守りたい物だという事だろう。それはまるで、私にとってのお兄ちゃんのよう。
「どっちにしても、あいつを倒さないとここから出られないんだから、やるしかないわ!」
「やりますわよ!」
私達は、全員で突撃する。その気配を察したのか、敵が大きな盾を構えて迎撃態勢になる。敵は、やっぱり門の前から動かない。私達は一斉に、動かない敵に向かって全力攻撃をした。
「【
「【
「【轟風弾五連】!」
「【爆炎弾七連】!」
敵に殺到する魔力弾。掛け値なしの全力攻撃に、敵は盾を掲げてそれを受け止めた。着弾の瞬間、大爆発が起こり、煙が立ち込めた。え、これで終わり? 私はそう思った。でも……
「なっ、嘘でしょ!? これで無傷!?」
「Aランク相当の攻撃だった筈ですわ……」
『これは凄い。伊達に大きな盾を持っていませんね』
『解析完了。どうやらあの敵は、あのセイバーと同じ事をやっています。しかし、その防御力は、セイバーの魔力放出よりも遥かに上です。セイバーは魔力の大半を攻撃に使っていましたが、彼はその全てを防御に使っているようです。魔力のバリアフィールドといったところでしょうか』
つまり、とんでもなく硬いという事か。そんなの、どうやって倒せばいいの? 私がそう思っていると、敵がこっちに向かって突っ込んできた。どうやら、攻撃の範囲に入ったらしい。
「わあっ!?」
「イリヤ!」
どうやって攻撃してくるのかと思ったら、大きな盾で殴ってきた。ルビーで受け止めるけど、向こうの方が力は上だった。弾き飛ばされて、私は後ろに吹き飛ばされる。い、痛い。地味に痛い。
『絶妙な力ですね。物理保護を丁度貫通するくらいの攻撃力です。ああ、イリヤさん。頭に大きなタンコブが。ぷくくく……涙目になっちゃって。なんて面白おかしいんでしょうか』
「ルビーは黙ってて! って、こっち来たあ!」
「させない」
ルビーは相変わらずだ。私達がいつものように漫才じみたやり取りをしていると、敵が再び大きな盾を振りかざして襲い掛かってきた。それを、横から現れた美遊が、魔力砲で妨害する。
でも、そんな横からの不意打ちも、上手に盾を動かして弾き返してくる。美遊が撃った魔力砲が、美遊に向かって跳ね返る。美遊はそれを何とか躱すけど、こっちは攻撃を封じられてしまう。
「くっ、こいつ、思ったより厄介ね。魔力のバリアで攻撃を跳ね返すなんて」
「こうなったら、美遊! 宝具ですわ。【ランサー】のカードなら防げないでしょう」
「了解です」
ルヴィアさんの指示に、美遊が頷いてランサーのカードを取り出した。そこへすかさず、凛さんの指示が飛ぶ。私達で美遊の攻撃の隙を作る。その指示に頷いて、私は敵に接近する。
「中くらいの……【散弾】!」
私は、散弾を放出し続ける。これなら、跳ね返されても大丈夫な筈。敵は再び盾を掲げて散弾を防ぐけど、足を止める事は成功した。美遊はその隙に、呪いの槍を構えて背後から接近する。
「【
決まった。私は、そう確信した。きっと凛さんも、ルヴィアさんもそう思っただろう。でも……
「え……?」
美遊の呆然とした声が、私の耳に届いた。
…………………………………………………
【美遊視点】
何だろう、この手応えは。私は、ゲイ・ボルクを放った格好で止まった。前回のキャスターの時とは、手応えが違うんだ。この槍ではあり得ない、空振りしたような感覚。一体これは……?
『美遊様!』
「え……きゃあっ!」
サファイアの叫び。それに反応しようとしたその瞬間、私の頭は敵の大盾に殴り飛ばされていた。何が起きたのか理解できない。文字通り必殺の筈のゲイ・ボルクで、倒せなかった……?
「くっ……」
頭がクラクラする。視界が歪む。どうやら、脳震盪を起こしたらしい。額から血が流れているのが分かる。サファイアの物理保護を貫通されたようだ。ゲイ・ボルクの為に魔力を使ったから。
「美遊、大丈夫!?」
「……大丈夫。それよりもサファイア、今のはどういう事?」
『……恐らく、時間軸をずらす事でゲイ・ボルクを回避したのかと。つまり、攻撃の瞬間、あの敵はあそこには存在しなかったのです。さしものゲイ・ボルクも、対象がいなければ無効です』
そんな能力を持っていたのか。逆転させる因果を、存在を消して無効にする。つまり、心臓に槍が刺さるという結果そのものがなくされたんだ。
「何なのよそれ! 反則じゃない!」
「このままでは、永遠に決着がつかないかもしれませんわね……」
『いえ、それほどの能力、連続では使用できないでしょう。つまり、今なら……』
「もう一度ゲイ・ボルクを使えば倒せるって事?」
「それは無理だよイリヤ。【
「ええっ、そうなの!?」
『知らなかったんですかイリヤさん。どうも、アク禁になるらしくて……』
そういう事。つまり、ランサーのカードはしばらく使えない。【
「ランサーのカードは使えない。かといって、他の攻撃ではあの防御力を貫けるかどうか……」
「はい。ですから、【セイバー】のカードを使います。あの聖剣なら、きっと……」
「その手がありましたわね」
そう、あの聖剣なら、あの防御も貫ける筈。でも、私は何故か勝利を確信できない。もう一度、敵を見る。敵はあの城門がやはり大切らしく、またその前に陣取るようにして立っている。
「今なら、簡単に攻撃できそうじゃない?」
「ですわね」
「……そうなのでしょうか?」
ルヴィアさん達の言葉に、やはり私は不安を吐露する。本当にそうだろうか。あの敵は、今までの敵とは明らかに異質。普通なら攻撃を一番にするのに、あの敵は徹底して守護の力を使う。
うまく言えないけど、信念の様な物を感じる。その信念と威圧感は、あの城門の前に立ち塞がっている状態だと数倍、いや、数十倍は大きい気がする。何があっても守るんだという意思が。
『しかし美遊様、時間を掛けていると、またあの時間軸ずらしを使用可能になるかもしれません』
「……そう、だね」
考えている暇はないという事か。私は決意を固めて、セイバーのカードを取り出した。夢幻召喚を使えない以上、他に選択肢はないんだ。あの敵を倒さないとこの空間からも出られないし。
「離れていてください。クラスカード・セイバー、【
イリヤ達を下がらせて、セイバーのカードをサファイアに当てる。空間に光が満ちて、周囲を照らす。最強の名を冠する聖剣が私の手に握られた瞬間、何故か敵が動揺したような気がした。
それに首を傾げながらも、私は敵を正面から睨みつける。すると敵は、大盾を天に掲げる。
「無駄よ、この聖剣の攻撃を防げる訳ないでしょ!」
「……いきます! 【
遠坂凛さんの言葉に追従するように、私は聖剣の力を解き放った。敵は、その光が迫ってくるのに逃げようともせずに立っている。まるで何かを祈っているようだ。そして、大盾を振り下ろす。
『私は災厄の席に立つ……其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ――!』
黒化英霊が、初めてはっきりとした言葉を発した。まさか、これは……
『【
宝具!? 敵がその宝具を展開した瞬間、白亜の城が光り輝いた。そして、敵の前に巨大な光の城門が聳え立つ。その荘厳な城門は、全ての災厄を跳ね除ける概念の集合体のようだった。
聖剣の光がその城門に激突した瞬間、凄まじい爆音と衝撃波が周囲に吹き荒れていった……
はい、という訳で、最後のカードはシールダー、ギャラハッド卿でした。
マシュさんではないですよ? 正真正銘、円卓のあの人です。
ゲイ・ボルクが効かないのは、FGOのあのスキルです。
私なりの解釈ですので、ご了承ください。
ゲームでもゲイ・ボルク防げますし、こういう理屈なんじゃないかと。
必殺の槍(笑)とかはやめてあげてくださいね。
そして、士郎の秘密の複線を一つ張りました。何故彼の魔力は尽きないのか?
美遊兄とは違う理由です。ツヴァイまでお待ちください。
それでは、感想を待っています。
あ、あと、最後に一つ。凛の携帯について。原作プリヤでも、大師父と電話してます。
魔術で使えるようにしてるんじゃないですかね?