それでは、どうぞ。
【イリヤ視点】
「こ、こんな事って……」
『驚きましたね。あの盾英霊、とことん防御を追及してるようです』
私が知る限りで、最強の攻撃。【
なのに、敵の防御の宝具によってその攻撃は防ぎ切られ、一部が私達に跳ね返ってきた。私と美遊はルビーとサファイアのお陰で何とか無事だったけど、凛さん達は衝撃波に吹き飛ばされた。
私達の周りはその衝撃波で更地になっている。けど、敵は全くの無傷。後ろに聳え立つ白いお城も傷一つ付いていなかった。あのお城だけは何があっても守り抜く。そんな信念が見えるようだ。
「あっ、凛さん達は!?」
『気を失っているだけみたいですね。あの人達は頑丈ですから、まあ大丈夫でしょう』
「酷いね、ルビー……」
少しは心配してあげようよ。確かに、私もちょっとそう思ったけど。そんな事を考えていると、凛さん達の様子を見ていた美遊とサファイアが私の近くにやってきた。その表情は、少し硬い。
「ルヴィアさん達は大丈夫。大した怪我はなさそうだった。でも……」
『まさか、あんな宝具まで持っているとは。まさに、鉄壁の盾ですね』
美遊の言葉にホッとするけど、美遊もサファイアも声は暗い。気持ちは分かる。本当に、どうやって倒せばいいんだろう。また私が力を使うしかないのかな。でも、どうすればいいのか……
『イリヤさん、こうなったら、またあの最強モードを使ってくださいよ』
「簡単に言わないでよ。どうやれば使えるか、私にも分からないんだから」
ルビーの言葉に、私はこう答えるしかない。使えるなら、私も使いたい。でも、私の意思で簡単に使える力じゃないんだ。私達がそんなやり取りをしていると、美遊が真剣な顔で私を見てきた。
「……イリヤ……」
「どうしたの、美遊?」
「……これからやる事は、ルヴィアさん達には話さないようにして。ルビーとサファイアも」
「え?」
『どういう事ですか?』
『美遊様?』
凄く真剣な顔と口調でそう言われて、私達は全員で首を傾げた。美遊は何を言っているの? もしかして、美遊には何か奥の手があるんだろうか。美遊は、【セイバー】のカードを見つめる。
『美遊様、このカードはしばらく使えませんよ。使えたとしても、また防がれて……』
「もうこれしか手がないから。だから……」
サファイアの言葉を無視して、美遊はセイバーのカードを地面に押し当てた。そして……
「―――告げる」
美遊は、静かにそう唱え始めた―――
…………………………………………………
【美遊視点】
「―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
「み、美遊……?」
『美遊様、これは……』
もうこれしか打つ手はない。できれば使いたくなかったけど、一番見られたらまずいルヴィアさん達が気絶してくれた事で決心がついた。正しいカードの使い方と、その手順を見せる決心が。
私の詠唱と共に、私の足元に魔方陣が浮かび上がる。士郎さんもイリヤもこの手順を踏まずに使用していたけど、これが本当の使用法。カードを使って英霊の座に働きかけ、疑似的に召喚する。
この身を、英霊に置換する事で!
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
最後の呪文を唱えた瞬間、私の全身が光に包まれる。そして、私の体と魂がセイバーの英霊であるアーサー王に置換されていく。青い服を纏い、右手には最強の名を冠する聖剣が握られた。
「み、美遊ーっ!?」
『……今日は色々と驚かされますね』
『み、美遊様!? こ、これは一体……』
「驚いた。その状態でも喋れるんだね、サファイア」
全員が、様々な意味で驚いていた。イリヤとルビーは私が英霊に変身した事に。サファイアは自分が聖剣エクスカリバーに変わった事に。そして私は、剣になったサファイアが喋った事に。
「何に驚いてるの美遊!?」
「あ、ごめんなさい」
『こんな時にまでツッコむイリヤさんは、心底ツッコみ属性なんですね』
『そして美遊様も、素で返さないでください……』
なんだか、いつものやり取りだ。この力を使う事を怖がっていた私が、馬鹿みたいだった。そんなやり取りがおかしくて、私はクスクスと笑ってしまった。イリヤは変わらないんだね。
「ルヴィアさん達には内緒にしておいてね。このカードを兵器として使われたくないから。時計塔の魔術師達には知られたくないの。だからイリヤも、この使い方は絶対にしないでね?」
「う、うん。でも、どうして美遊は使い方を知ってるの?」
「それは……うん、内緒って事で」
「ええーっ!?」
士郎さんとイリヤは正しい使い方をしなかったから、まだこのカードを誰でも使えるような状態にはならなかったけど、私は正しい使い方を見せてしまった。あれなら誰でも使えてしまう。
それがどれだけ危険な事か、イリヤには分からないだろうけど。私は、ルビーとサファイアに言うつもりで釘を刺しておく。二人はそれが分かっているようで、何も聞こうとはしなかった。
「それじゃあ、行ってくるね。ルヴィアさん達をお願い」
イリヤにそう告げて、私はずっと城門に佇んでいる敵に向かって走った。その速度はさすがというスピードで、すぐさま敵の目の前に行く事ができた。けれど、敵の方もさすがは一流の英霊。
大盾を構えて、迎撃の準備を整えていた。私は、セイバーの剣技で聖剣を振るう。敵のセイバーがやっていたように、魔力をジェット噴射のように放出させて、攻撃の威力を倍増させながら。
敵はその斬撃を、同じく魔力をバリアのようにしながら、大盾で防ぐ。激突の瞬間、凄まじい音と衝撃波が発生し、私の腕に硬質な物体を叩いた感触が走る。やっぱり、この守りは凄まじい。
「サファイアの物理保護すら簡単に斬り裂いた斬撃を、こんなに簡単に防ぐなんて」
『まさしく最強の盾。対してこちらは、最強の矛と呼べる攻撃力。矛盾の対決ですね』
そうかもしれない。私は、なんとかこの英霊を城門の前から引き離そうと斬撃を繰り出す。それは敵のあの宝具が、使い手の信念と精神力で強度を増すと考えたからだ。そう考えた根拠は……
「この城門の前にいる時、こいつの威圧感が数十倍になっているから」
『成程。決して折れない信念が、あの鉄壁の守りを可能にしていると考えた訳ですか』
そう。あの宝具は概念だった。実際にあの城門が現れて、聖剣の光を跳ね返した訳ではなかった。実際に存在する城や城門が、連動して輝いていたのがその証拠だ。それこそ信念の具現化。
後ろの守護対象を心に描く事で、あの概念の城門は全てを弾き返す無敵の盾となりえる。一度だけの宝具展開で、それを見抜くのは十分だった。シンプルであるが故に強固で、強力な守り。
守りたい物を、絶対に守り抜ける最強の盾と言える。あの盾を崩すには、この敵の強固な信念を折るしかない。その為には、この城門の前から退かすしか手はない。私は、そう結論付けた。
「でも、やっぱり口で言うより簡単じゃないね」
『そのようですね。この敵は、何が何でも城門から離れようとしません』
さっきから、どれだけ剣を打ち込んでも、敵は揺るがない。一歩も引かないし、アーサー王の強力な斬撃を悉く弾き返してしまう。矛盾の対決通り、このままではいつまでも勝負がつかない。
早くしないと、またあの時間軸ずらしを使えるようになってしまうかもしれない。あれを使われたら、宝具を破れたとしてもエクスカリバーの一撃を躱されてしまう。それでは倒せない。
敵は、無理をして攻撃してきたりせず、私の攻撃を防御する事に専念している。ここら辺も、今までの黒化英霊とは違う。防御に特化した英霊だからか、攻撃で無駄に隙を作らないんだ。
私の攻撃に合わせて防御を行うから、結果として的確な防御になってしまう。いずれ私が力尽きて攻撃の手が止まるまで、無理に攻撃してくる事はないだろう。本当に、厄介な相手だった。
「このままじゃ……」
「【
『ッ!?』
どうすればいいか悩んでた私の耳に、イリヤの声が聞こえた。そして、今まで全くと言っていい程乱れがなかった敵の動きが少しだけ乱れた。横から、イリヤが放った魔力砲が飛んできたから。
盾を横に動かし、その魔力砲を弾き返す。けれど、それはイリヤに跳ね返る事はなく、斜め上空に飛んで行った。さすがに、私の攻撃を防ぎながらでは完璧な防御はできないという事らしい。
「イリヤ!」
「美遊、私も一緒に戦う! だから、焦らないで!」
「イリヤ……」
そうか。私は、一人で戦っている訳じゃない。いつかのキャスターとの戦いを思い出す。あの時もそうだった。イリヤは、私一人では勝てなかった状況を切り開く鍵になった。だから今回も。
『いけますよ、美遊様。どうやら、あの魔力防御も完璧ではないようです。イリヤ様の攻撃を防御したという事は、素の状態では、あの攻撃でもダメージを受けるという事になります』
「そうみたいだね。しかも、間髪入れずに攻撃すれば隙ができる。これなら……」
敵の鉄壁の防御を崩す方法を見つけた。しかも、攻撃範囲外にいるイリヤをどうにかしようと思ったら、この城門前から離れるしかない。魔力砲を正確に跳ね返されたら無理だったけど……
「イリヤ。そのまま、遠くから援護して!」
「任せて!」
さあ、反撃開始だ。この鉄壁の防御を打ち崩して、城門前から引き離す。それさえできれば、後はエクスカリバーで止めを刺せる。私は、再び嵐のような猛攻を仕掛ける。イリヤを信じて。
…………………………………………………
【イリヤ視点】
「そこっ、【砲射】!」
美遊の攻撃が再開した。私は、その攻撃の合間に魔力砲を撃ち込んで敵の体勢を崩す。美遊はその瞬間を狙って強力な斬撃を放つ。少しずつ、敵が押され始めた。今までは揺るがなかったのに。
『いけますよイリヤさん! やはり魔法少女はこうでなくては。友情パワーで勝利を掴む!』
「その恥ずかしい表現はやめて欲しいけど、確かにその通りだね」
ルビーの言葉に、私はそう返す。美遊と一緒に戦えばきっと勝てる。一人では勝てない相手にも。体勢を少しずつ崩され始めた敵は、美遊の斬撃でよろめくようになってきた。よし、ここだ!
「【砲射】!」
今度は、完全に体勢が崩れた。美遊がその隙に盾を上に弾き上げて、返す斬撃で敵の体を斬り裂く事に成功した。やった。もう決まったと、そう思った。後はあの城門の前から敵を離せば……
『―――ッ!』
「くっ」
「なっ」
私と美遊の声が重なった。敵は、斬られてもなお引かなかった。そして、美遊を盾の体当たりで、後ろに下がらせた。なんていう凄まじい信念なんだろう。或いは、執念と言い換えてもいい。
「……そんなに、あの門とお城を守りたいんだ……」
『そうみたいですね。あれはどうやら、あの騎士の信念そのもののようです。その想いがあの宝具と重なって、【固有結界】にも似た概念として具現化しているようです。凄いですねえ』
「あの英霊、誰なんだろう……なんていう名前なのかなあ?」
魔術的な話は分からないけど、そこまでして守りたい物の為に戦えるあの相手の名前を、私は知りたいと思った。それはとても純粋で、強い気持ちなんだって分かったから。凄い人なんだろうな。
『宝具の名前からして、恐らく円卓の騎士の誰かだと思いますが……そう考えると、中々因縁深い戦いですよね。アーサー王と円卓の騎士との戦いだなんて。まさしく夢の対決ってやつですか』
「円卓の騎士?」
『イリヤさんは知りませんか。まあ、この戦いが終わったら教えてあげますよ』
良く分からないけど、美遊が使っているセイバーと関係が深い英霊なんだろう。歴史とかに詳しくない私だけど、正体が分かっているカードの英霊については色々と教えてもらっている。
『おっと、呑気に話している場合ではないようですね。あの英霊、死に物狂いですよ』
「ほ、本当だ。美遊、大丈夫!?」
「大丈夫。むしろさっきよりやり易い。攻撃してきてくれるようになったから」
『しかし、耐久力が高いですね。これほどの傷を浴びせても退かないとは』
さっきまで私達の攻撃を防御し続けていた敵が、盾を振り回して美遊に激しく攻撃していた。美遊はその攻撃を剣で逸らしながら、反撃している。それでも、敵は頑なに動こうとしない。
サファイアの言う通り、凄い耐久力だ。不死身ではないかと錯覚するほどに。このままでも勝てるのではないかという予想を覆してしまいそうな様子だった。美遊も、険しい顔のままだ。
「このままじゃ、埒が明かない。やっぱり、エクスカリバーを使うしかないと思う」
『そうですね。このままでは、こちらが先に力尽きてしまいそうです』
確かに。これだけの隙を作り、ダメージを与えても倒せない。その鋼の信念と精神力で、いかなる攻撃にも耐えてしまう気がする。こっちが疲れてきた。やっぱり奥の手しかないみたいだ。
「イリヤ、この敵を門から引き離す。援護して」
「うん」
そこからの攻撃は、全て敵を門の前から退かす為の攻撃になった。体勢を崩させ、渾身の斬撃を打ち込む。何度も吹き飛ばそうと攻撃した。その攻撃で、さすがに敵も少しずつ門から離れていく。
殻に閉じ籠るように身を固くして防御しようとしてくるけど、それでも少しずつ後ずさる。敵はそれを嫌がって声にならない叫び声を上げるけど、セイバーの力を使っている美遊は手を止めない。
『受けたダメージで踏ん張りがきかなくなってきているようです。もう少しです』
「そこまでして守りたいという想いは、痛いほど分かった。でも……」
「これで、終わりだよ!」
最後に、美遊と二人で同時に敵の盾を叩いた。ルビーの力で、全ての魔力を筋力に変換して。この辺の力の応用は、凛さんに叩き込まれた。防御とかに割り振ってる魔力も攻撃に変換した。
私達の同時攻撃で、ついに敵は城門前から吹き飛んだ。あっちには凛さん達も倒れてない。今だ。敵が戻ってこないように、私は散弾を撃ち込んで足止めする。美遊が、聖剣を天に掲げる。
「やっぱり間違いない。あの敵の信念と威圧感が弱まってる。これなら、きっと……」
美遊の言葉通り、さっきよりも迫力がない。ただ必死に、城門前に戻ってこようとしてるだけだ。美遊の聖剣が光り輝いて、その力を解放しようとしている。敵もそれを見て盾を掲げるけど……
「今度は防げない筈。いくよ」
守りたい物を命懸けで守っていた守護者。その姿に、私達はいつしか敬意を抱いていた。美遊は、一度だけ深く目を瞑り、何かを祈るような顔をした。そして、その聖剣の真名を解き放った。
「【
『【
再び激突する、最強の盾と最強の矛。聖剣の煌めきは、全ての闇と絶望を吹き飛ばすように輝き、白亜の城は全ての厄災を弾き返そうと輝く。両者がぶつかった瞬間、世界から音が消えた。
そして響き渡る轟音と、視界を焼く光。でも、さっきとは違った結果になっていた。白亜の城の城門にヒビが入って、敵の体が後ろに下がっていく。それに対して美遊は、聖剣の光を強める。
「美遊、私の力も使って」
「イリヤ……」
昨日のお兄ちゃんの時と同じように、私は美遊と一緒に聖剣を握る。私の魔力を美遊に送って、聖剣の力を高めようとする。必死に盾を構える敵を見つめて、私は静かに呟く。さよなら、と。
聖剣の光が強まり、ついに敵の盾が崩壊していく。そしてお城を守っていた騎士は、その光に飲み込まれて消えていった。後には、一枚のカードだけが残された。そして、空間の景色が変わる。
「お城が消えていくね」
『はい。やはり、あの城、というかこの空間は固有結界の一種だったんでしょう』
そこは柳洞寺のお寺と山門だった。元の景色だ。あのお城は、あの騎士の想いが形になった物だったんだね。ルビーによれば、それをあの宝具で具現化していたんだそうだ。やっと終わった。
「これで、クラスカード回収はおしまい?」
「だね」
『お疲れ様でした、イリヤさん』
『美遊様も、お疲れ様でした』
長かった戦いが、やっと終わった。盾の英霊のカードを回収してみると、敵のクラスはサファイアの命名した名前と同じだった。【シールダー】。大きな盾を構えた兵士の絵柄が描かれてる。
「綺麗だね」
「うん」
「はっ!? 敵はどうなったの!?」
「くっ、ここは……」
カードに見惚れていると、凛さん達が起きたらしい。その声にため息をついて、私達は二人の所へ向かって走った。戦いの終わりと、クラスカード回収の終わりを告げる為に。疲れたぁ……
いまは遥か理想の城は、固有結界もしくは、それに似た宝具らしいですね。
なので、こんな結末にしました。最初からイリヤと二人で撃て? それは言わないお約束です。
まあ、二人で撃ったとしても、城門の前にいられたら貫けませんけどね。
精神をいかに崩せるかが鍵の勝負でした。
さて、次回はやっと無印編のエピローグです。
そして、物語はツヴァイへと。やっとクロが出せます。
それでは、感想を待っています。