錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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プリヤ士郎vs黒化ライダーです。

そして最後に波乱が……


衛宮士郎の戦い

【イリヤ視点】

 

「も、もう駄目だ!」

 

聞いてない。私、こんなの聞いてないよ。私は、心の中で凛さんに文句を言った。凛さんの話では、カードを回収するというだけだった筈なのに、突然現れた奇妙な黒い人影と戦わされる事になった。

 

しかも、この場にお兄ちゃんが付いてきてしまった。これは、私のミスだけど。だって、まさかお兄ちゃんが付いてきてるなんて思わなかったんだもん。魔法少女に変身してる場面を見られてしまった。

 

このままじゃ、お兄ちゃんまで巻き込んでしまう。それだけは嫌だった。だから私は必死に戦ったけど、私の散弾は威力が足りなくて、敵を倒せなかった。凛さんの攻撃も、この敵には通用しなかった。

 

私はあっさりとお兄ちゃん達の前まで吹き飛ばされて、敵に攻撃の隙を与えてしまった。そしたら、あの敵が何かヤバそうな事をやろうとしていた。凛さんも焦ってる。ルビーだけは呑気な声を出したけど。

 

敵が魔法陣を描いていく。直感で分かる。あれはきっと、必殺技を出そうとしてる。私にはルビーがいるけど、お兄ちゃんと凛さんは完全に無防備だ。つまり、私が二人の盾になるしかないという事だ。

 

そう判断した私は、ルビーにそれを伝えようとした。でも、それはできなかった。私の後ろにいたお兄ちゃんの叫び声が聞こえてきたから。その叫び声に、私は後ろを振り返った。そこには、お兄ちゃんがいた。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「なっ、衛宮くん、貴方……」

 

『……これは……』

 

でも、そこにいたのは、私の知ってるお兄ちゃんじゃなかった。お兄ちゃんの姿に、私も凛さんも、そしてルビーでさえ唖然とした声を出した。お兄ちゃんは、いつの間にか赤い服を着ていた。

 

そして、白いマントを羽織っている。その頭には赤いバンダナが巻かれていて、顔に光の筋みたいな物が浮かんでる。体つきも逞しくなってるような。表情は、いつも浮かんでる笑顔が消えて、鋭くなってる。

 

その表情に、ちょっとドキッとしてしまったのは秘密。一体、何が起きたの? 私は呆然とお兄ちゃんの顔を見つめる事しかできなかった。今が凄くピンチだっていう事も忘れて、私達は呆けてしまった。

 

「り、凛さん、何が起きてるの!?」

 

「わ、分かんないわよ、私にも!」

 

『大変興味深いですね、これは』

 

凛さんに聞いてみるけど、凛さんにも分からないらしくて、混乱してる。専門家の凛さんにも分からないんじゃ、どうしようもない。全員が敵に集中してたから、後ろにいたお兄ちゃんを見てなかったんだ。

 

「って、今はそれを考えてる場合じゃないのよ! 逃げるわよイリヤ! あの黒化英霊、『宝具』を使おうとしてる! あれをまともに受けたらただじゃ済まないわ!」

 

「ほ、宝具って何!?」

 

「説明はあと! とにかく逃げ……」

 

「駄目、間に合わない!」

 

「まずい!」

 

凛さんが、今の状況を思い出して、私に逃げるように言ってきた。でも、もう間に合わない。敵の魔法陣は完成してしまった。逃げられない。凛さんの言葉から、きっとルビーの防御でも助からないんだろう。

 

「あ……」

 

死んじゃうの? そう思った時……

 

「大丈夫だ。イリヤは俺が守るから」

 

とても優しい、私の大好きなお兄ちゃんの声が聞こえた。その声に、私は後ろを振り向く。そこには、いつものように優しく微笑むお兄ちゃんがいた。その顔を見て私は思った。ああ、いつものお兄ちゃんだ。

 

『【騎英の手綱(ベルレフォーン)】!』

 

「【偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)】!」

 

敵が、黒いペガサスを召喚して、黒い光になって突っ込んできた。それをお兄ちゃんは、おかしな矢で迎え撃った。捻れたドリルみたいな矢が、光の光線になって敵の黒い奔流と正面から激突する。

 

「嘘でしょ!? 宝具と正面からやりあってる!? まさか衛宮くん、貴方……」

 

『イリヤさんのお兄さん、英霊の力を使っているみたいです。どんな理屈かはさっぱり分かりませんけど、恐らく、アーチャーのカードを使って英霊の力を直接顕現しているのでは? 宝具ですよ、あれ』

 

「どういう事よ! 何で衛宮くんにそんな事ができるのよ! イリヤといい衛宮くんといい、魔術と何の関わりもない筈の子達がどうして……っていうか、アーチャーのカードは、イリヤに渡した筈でしょう! 何で衛宮くんが持って……」

 

『あ~、実はですねぇ、今朝、イリヤさんが机の上に置いておいたカードを、士郎さんが持っていっちゃったんですよ』

 

「な、何ですって! ルビーあんた、それを黙って見てたわけ!?」

 

『仕方ないじゃないですか。士郎さんに私の姿を見られる訳にはいかないですし』

 

「そ、それはそうだけど……」

 

『それに、その方が面白いと思いまして』

 

「この馬鹿ステッキ!」

 

凛さんとルビーが言い争ってるけど、私はそんな事に意識を向ける余裕はなかった。私はただ、お兄ちゃんを見ていた。私の大好きなお兄ちゃん。子供の頃から、いつも私を守ってくれた優しいお兄ちゃん。

 

「押し負け始めた! 宝具のランクが、敵の方が高いのよ! 衛宮くん!」

 

「大丈夫だ」

 

「何が大丈夫なのよ!」

 

「大丈夫」

 

『言ってる側から負けましたよ。まあ、敵の宝具の威力も大分削れましたけど』

 

「十分だ。【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】!」

 

お兄ちゃんは、まったく戸惑っていない。敵に攻撃を破られたのに、まったく焦る様子はなかった。そんなお兄ちゃんは、手を翳して光の花を作り出した。とても綺麗な花が咲いて、敵の前に立ち塞がる。

 

黒い奔流を、綺麗な七枚の花弁が受け止めた。敵の攻撃は、私達には届かず、綺麗な花に阻まれてしまった。凄い。お兄ちゃんが、私達を守ってくれてる。私は正直、今のお兄ちゃんが少しだけ怖かった。

 

私の知ってるお兄ちゃんじゃないみたいな気がして。でも、やっぱりお兄ちゃんは、お兄ちゃんだった。私の大好きなお兄ちゃん。例えどんな力を使っていても、それだけは絶対に変わらないんだ。

 

「イリヤ」

 

「何? お兄ちゃん」

 

「下がっていろ。大丈夫、イリヤの事は、絶対に俺が守ってやるから」

 

「うん!」

 

だから、私はお兄ちゃんの言葉に頷いた。そんな私に、お兄ちゃんは優しい笑顔を浮かべて私の頭を撫でてくれる。昔から、こうされる事が好きだった。くすぐったい気持ちになりながら、私は後ろに下がった。

 

お兄ちゃんの花に弾かれた敵が、また体勢を立て直して着地する。そして、改めてお兄ちゃんに向き合った。どうなるのか分からないけど、私はお兄ちゃんを信じて見守るだけ。負けないで、お兄ちゃん。

 

「衛宮くんがアーチャー……そして、敵はあの宝具からしてライダー。どっちも接近戦は得意じゃない筈だけど……」

 

『常識的に考えれば、確かに』

 

「って、嘘でしょ!?」

 

『おやおや』

 

私とは違って、色々と知ってる凛さんとルビーが解説してるけど、その常識は破られたらしい。お兄ちゃんはいつの間にか弓を消していて、両手に白と黒の双剣を持っていた。明らかに接近戦をするつもりだ。

 

そんな私達の予想通りに、お兄ちゃんは鎖のついた杭みたいな短剣を持っている敵に向かって突っ込んでいった。そしてそこからは、とても接近戦が得意じゃないとは言えないような戦いが始まった。

 

お兄ちゃんと敵は、とんでもなく速い攻撃の応酬をしていた。お兄ちゃんの双剣が、休む事なく敵を攻め立てる。敵はその攻撃を全て受け止めているように見える。どっちも、一歩も引かずに打ち合っている。

 

「あれで、接近戦が得意じゃないの?」

 

「そ、その筈なんだけど……やっぱり英霊はとんでもないわね……ちっ、私もルビーが使えたら負けない自信があるのに」

 

『でも、やっぱり驚くのは士郎さんの方ですよ。自分を英霊にしてる上に、弓の英霊の筈なのに双剣を使ってます。しかもその剣技は、常人を遥かに超えています』

 

「……確かにね。衛宮くん、貴方、本当に何者なのよ? 興味深いわ……」

 

凛さんの言葉を聞きながら、私は、ただお兄ちゃんの勝利を願う。お願い、勝って。

 

…………………………………………………

【士郎視点】

 

俺は昔、正義の味方になりたかった。俺の本当の家族が事故で死んでしまった時に、ただ一人生き残った俺は、他の誰かを助ける義務があると思ったから。父さんも母さんも、俺を庇って死んでしまった。

 

だからこそ、救われた俺はこの命を誰かの為に使おうと思った。だけど、俺には何の力もなかった。誰かを助けるどころか、子供の俺は誰かに助けられてばかりだった。そんな自分の価値を、俺は疑った。

 

そんな時だ。施設にいた俺を、引き取りたいと言ってきた人がいた。どこまでも明るく、純粋に笑う女の人と、そんな妻に振り回されて苦笑している男の人。それが、切嗣とアイリさんとの出会いだった。

 

『今日から、私達が貴方の家族よ。私の事は、お母さんって呼んでね♪』

 

『……どうして……』

 

『えっ?』

 

『……どうして俺なんかを? 俺なんか、何もできない、何の価値もないのに……』

 

この時の俺には、本気で分からなかった。どうして俺なんかが生き残ったのか。どうして父さんも母さんも、俺なんかを庇って死んでしまったのか。この人達は、どうして何の価値もない俺を引き取るのか。

 

俺の問い掛けに、アイリさんはにっこりと笑って答えた。予想外の答えを。

 

『それはね。貴方に、私の娘のお兄ちゃんになって欲しいからよ』

 

『……え?』

 

『イリヤっていうの。貴方の6つ下よ』

 

アイリさんはそう言って、イリヤの写真を見せてきた。親馬鹿全開の笑顔で。ほら、可愛いでしょう? 今日から貴方の妹よ。なんて言ってきた。俺の妹。俺は予想外の事態に戸惑ってしまった。

 

あまりにも普通。俺が望んでいた正義の味方じゃない。それなのに、何故だろう? 俺は嬉しくて泣いていた。突然泣き出した俺に、アイリさんが慌てる。すると、切嗣が俺の頭を撫でてきた。苦笑しながら。

 

『寂しかったんだな』

 

『あ……』

 

その言葉で、俺は分かった。そうだ。俺は寂しかったんだ。誰かに必要とされたかったんだ。だから、正義の味方になりたかった。誰もが憧れ、必要としてくれる存在。それが、正義の味方だったんだと。

 

それを自覚した俺は、声を上げて泣いた。そんな俺を、切嗣とアイリさんは優しく微笑みながら抱き締めてくれた。まだ俺を必要としてくれる人達がいる。それが分かって、俺は涙が止まらなかった。

 

切嗣達に連れられて、新しい家に着いた俺を出迎えてくれたのがイリヤだった。輝く笑顔で出迎えてくれたイリヤ。今日から、俺を必要としてくれる存在。この瞬間に、俺はイリヤのお兄ちゃんになった。

 

正義の味方ではなく、イリヤのお兄ちゃんになったんだ。それからも、俺の大切な存在は増え続けた。切嗣とアイリさん、イリヤは勿論、セラとリズも、俺の大切な家族だ。だから俺は新たな目標を立てた。

 

これからは正義の味方ではなく、家族の味方になろうと。例えどんな敵が相手でも、例え俺に力がなくても。力がなければ鍛えればいい。剣道や弓道を習ったのは、俺なりに強くなりたいと思ったからだ。

 

せめて家族を守れる力が欲しかったから。だけど、そんな力じゃ守れない敵が現れてしまった。だから俺は、願った。俺の全てを差し出してでも、イリヤを守れる力が欲しくて。そんな俺の声に、小さな声で応える存在がいた。その結果が、これだ。

 

俺の意識が、現在に戻る。頭の中に戦い方が入ってくる。考える前に体が動く。俺は敵の攻撃を双剣で受け流して、カウンターの一撃を打ち込む。敵の攻撃は、単調だ。攻撃の術理が組み立てられていない。

 

まるで暴走しているみたいだ。本来なら、もっと強敵なんだろう。イリヤは押されていたけど、それはイリヤも素人だったからだ。だが、今の俺は違うらしい。頭の中にどう攻撃を組み立てればいいのかが浮かんでくる。次へ攻撃を生かすんだ。

 

右の剣を打ち込んだあと、すぐさま左の剣を反対に打ち込む。敵は常識外れな反射でそれを受け止めるけど、腹ががら空きだ。俺は鳩尾に膝を叩き込む。敵の体がくの字になるほどの、強烈な膝をな。

 

『ーーーッ!!!』

 

敵が、声にならない叫び声を上げる。何かをするつもりか。距離を取らせてはいけないと直感した俺は、両手の双剣を敵に投げ付けた。そして俺自身も突撃する。敵は、俺が投げた双剣を短剣で弾く。

 

「ーーー【投影、開始(トレース・オン)】」

 

俺がそう呟くと、俺の両手に再びさっきの双剣が現れる。そして俺は一気に敵との距離を詰めた。敵はそれを嫌ったのか、後ろに跳んで距離を取ろうとする。だが、そうはさせない。俺は再び呟く。

 

「ーーー【投影、開始(トレース・オン)】」

 

敵の背後に何本もの剣が現れて、敵の退路を断った。当然、俺がやった。今の俺は、剣であれば幾らでも出せる。俺の力が続く限りだけどな。退路を断たれた敵の動きが止まった隙を見逃さず、俺は斬った。

 

『ッ!』

 

「まだだ」

 

まだ手を緩めない。俺は容赦なく、敵を切り刻もうとした。だけど、それは敵の鎖つきの短剣に阻まれた。敵が俺を睨み付け、至近距離で鍔迫り合いをする。敵の両目には眼帯が巻かれていて、その両目を見る事はできないが、俺は背筋が凍った。

 

この目はやばい。俺は何となく、そう直感した。そして、そんな俺を見て敵が笑ったように見えた。敵は片手で、両目の眼帯を外そうとしていた。そして俺は動けない。それを止める方法はなかった。

 

『【石化の魔眼(キュベレイ)】!』

 

「ぐっ!」

 

これは、石化の魔眼か! 俺の体が動かなくなり、足元から石になっていく。こんな奥の手があったとはな。敵は勝利を確信したような雰囲気で笑っている。確かに、もう勝負はついているな。俺は、石になっていく体で敵を静かに眺めていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「衛宮くん!」

 

「……引き合え、【干将・莫耶(かんしょう・ばくや)】」

 

そう、勝負はもうついている。イリヤ達の悲鳴が聞こえるが、心配するな。俺は、石化の魔眼を食らう前に投擲しておいた双剣と、その前に敵に弾かれた双剣に呼びかける。すると宙を舞っていた双剣四本が、敵を中心にして引き寄せあった。

 

『ーーーッ!?』

 

「俺の勝ちだ」

 

俺は静かに、そう呟いた。敵の体に、四本の双剣が突き刺さる。やはり、お前は攻撃の術理がない。確かに石化の魔眼には驚かされたが、その奥の手を生かしきれていなかった。それがお前の敗因だ。

 

『…………あ』

 

「……じゃあな」

 

俺が静かに見つめる先で、敵の体は光の粒子になって消えていく。俺に掛けられた石化の呪いも解けたようで、俺は動けるようになっていた。完全に消滅した敵の体が、一枚のカードになって地面に落ちた。

 

俺の最初の戦いは、こうして終わった。だが今日の事件は、まだ終わってはいなかったのだった。俺はそれを間もなく知る。

 

「……貴方、は……」

 

「……?」

 

地面に落ちたカードを拾った俺に、呆然とした声が掛けられた。その声に顔を上げると、そこには変身したイリヤと同じような格好をした黒髪の女の子がいた。年齢も、イリヤと同じくらいだった。

 

「……君は……」

 

「ッ!!!」

 

「……え?」

 

「なあっ!?」

 

どこかで見たような気がする女の子。俺はその正体に気づいた。今朝の夢と、不思議なビジョンに出てきた、寝かされていた女の子だ。声を掛けようとしたその時、その子が泣きながら抱き付いてきた。

 

突然の事で、俺は訳が分からない。遠くでイリヤが声を上げるのが聞こえた。どうするべきか悩んでいると、その女の子は特大の爆弾を投下してくれました。

 

「ーーーっ! お兄ちゃん!」

 

「……は?」

 

「ハアアアアアアアッ!?」

 

また遠くから、イリヤの雄叫びが響き渡ったのだった……どうなるんだ、これ?

 

謎の少女と俺達の物語は、こうして始まった。あまりにも波乱の幕開けだった。

 

そして、少し落ち着け、イリヤ……




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